第10話 推理議論終盤~最後の追及~
「この事件だけは、死神が直接手を下した……」
アリス様がこめかみに手を当てて考えている。
思い返せば当たり前だ。死神に繋がる証拠がない理由。
それは死神自体は他者を操って、実行犯になっていないからだ。
でもこの事件だけは、死神が直接手を下した。
ツカサの反応を見れば、分かることだ。
「しかし何故です? このトリックなら誰も行えます」
「ああ。俺ら人界人は他種族ほど、大した特徴がねえからな」
確かに人族は、魔物の様に個々の力も。
エルフの様な魔力と羽根も。ドワーフの様な力と器用さもない。
「それとも、お前には分かるというのですか? その理由が」
「……」
僕は父の事を何も知らない。でも、魔王様達は良く知っている。
彼らは口をそろえて言う。僕の父は『優秀だった』と。
そんな優秀な彼が、バックドラフトに引っかかった理由。
そこに答えがあるんじゃないだろうか?
もしそうなら。これは父の事を知れる第一歩になれるかもしれない。
考えるんだ。あの時父が何を思い、何故殺されたのかを……。
「アリス様。今は分かりませんが……。考えるだけ、やらせてください」
「まあ、私の許可はいりませんが。お前を邪魔する者が居たら、この剣で排除しましょう」
頼もしい限りだ。これが最後の追及。
ツカサがこの事件で、自ら手を下さなければならない理由を考えるんだ!
「ツカサは言った。自分では手を下さないと……」
今回の事件。巨大スポンジや、取っ手を細工。
更にバックドラフトは、事前に準備が必要なはずだ。
塔の構造も知っていおく必要もあるし、道具も居る。
計画的犯行なのは間違いない。だから突発的に殺したなんてあり得ない。
その理由を考えるためには。死神と言う殺し屋の特徴を思い出してみよう。
人界の殺し屋である彼には、絶対的な特徴があったはずだ。
「絶対に証拠を残さない事……」
人界最高位の騎士達が、一切尻尾を掴めていない。
確かにツカサは狡猾だが、証拠を残さないなんて可能なのか?
アスハさんの事件と、今回の事件。彼の暗躍から考えると。
「死神は本人にすら悟られず、殺しを誘導させる……」
死神の正体は、他者に殺しをやらせる心理術だ。
事件後に自分が現場に細工することで。事件を複雑にさせている。
例え証拠が見つかっても、それは実行犯の証拠だ。
直接死神に繋がらない。待てよ?
死神は実行犯にも悟られず、操る事が出来る。
つまり彼の正体を、暴けるものは存在しないことになる。
つまり死神にとって最大のタブーは、身バレのはずだ。
例え操った者にすら、その正体を悟られてはいけない。
ここに死神自らが手を下す、理由があるはずだ。
「父さんたちは……。死神の正体に繋がる証拠を持っていたのかも……」
入手経路までは分からないけど。
父さん達は死神がツカサであるという、証拠を持っていたんじゃないか?
その口封じに殺すなら。絶対に他者にやらせる訳にはいかない!
「万が一持ち物を見られたら、自分の弱みになる……」
死神は身バレを絶対に防がないと、いけなかった。
この時だけは証拠を自分の手で消すため。
自らの手を汚すしかなかったんだ。でも……。
現場から父さん達の持ち物が消えたなんて、聞いていないぞ?
それに決定的証拠があるなら。何故父さんたちは公表しなかったんだ?
……。人間には他の種族にない、特徴があったな。
「科学力だ……!」
ドワーフのようにな器用さはないけど。彼らは発想力がある。
他の国より進んだ科学力で、人界は平和を保ってきた。
つまり死神にとって。人界で証拠を調べられることが不都合だった。
考えろ、ユウキ! 父さんが聞いた通りの魔物なら。
真実を隠すことはしない。ならその証拠は。
人界に渡るまで、絶対安全な場所に保管しているはずだ!
「魔王様と一緒に捜査していたなら……。異空間の魔法が使えるはず……!」
繋がった! これが今回の動機に繋がるんだ!
ツカサは十年前、二人殺してまで証拠をもみ消そうとした。
でもそれは出来なかったんだ。何故なら?
「ツカサを示す証拠は、魔王様の作る、異空間の中にある」
ツカサは異空間に閉じ込める事で、永遠に証拠を消そうとした。
何故十年後の今更と言う答えも、シンプルに説明できる!
「ほう。ユウキ。その笑みは何か、分かった笑みですね?」
「はい、アリス様。死神の正体を暴く、鍵を見つけました」
僕は魔王様が乗せられた、エルフ族の馬車を見た。
その途端、ツカサは分かり易く、取り乱した。
冷徹な彼が、珍しく拳を握っている。
「ツカサ。どうやら貴方はここにきて。最大のミスを犯したようですね!」
「あ、アレ~。何のことかなぁ? 僕は死神じゃ……」
「最大の証拠品を処分することが出来なかった。魔王様の異空間に保存された証拠をね!」
「ぐぅ……!」
ツカサは眼鏡を握りつぶした。
額に汗をびっしょりと流しながら、それでもニヤリを笑う。
「十年前。貴方に繋がる証拠を、父さん達は見つけた」
「っ……!? ぐぐぐ……!」
「でも父さんたちは、その証拠の真価を発揮出来なかった。人界の科学力が必要だったからです!」
父さんは証拠品に、人族の力が必要なのが分かっていたはずだ。
だから父さんは、最も信頼できる存在に証拠を保管してもらった。
「なるほど。人界と魔界はこないだまで争っていましたから。おいそれと手は出せませんね」
「魔王が俺ら人間に証拠を渡す事は出来ない。そう踏んでいたわけか」
「ですが今日。絶対に起きてはいけない事態に発展した。人界と魔界の和平ですよ」
今日の昼。人界と魔界は和平宣言をした。
長きに渡る争いに終止符を打ったのだ。
それは死神にとって、不都合な事だ。
「人界の聖騎士団に、証拠が渡ってはいけない。だから貴方は……」
僕はツカサに向けて、強く指を向けた。
「マホさんを利用して、魔王様を殺害しようとしたんだ!」
「うっ!」
「でもその作戦は、ホソさんによって失敗した」
だから現場に来た時、ホソさんが死んでいるの見て。
ツカサは動揺していたんだ。そこで死んでいるのは魔王様の予定だったから。
「それでは。魔王様が意識を戻しましたら。証拠品を、人界の騎士長にお渡ししましょうか」
「ああ。徹底的に調べてやるからな! 覚悟しろよ!」
「うぎゃあああああ!」
ルナティックさんの剣幕にやられて、ツカサは発狂した。
「そしてマホさん! これなら現代で、何が起きたのか正直に話していただけますね?」
「うん……。私が殺そうとしたのは……。死神。このツカサだったんだヨ……」
「貴方は煙突から、ツカサを突き落とした。はずだったんですよね?」
ホソさんや魔王様ほど大柄じゃないし。
ツカサを突き飛ばすくらい、エルフでも可能なはずだ。
「でも実際、ツカサは突き飛ばされたんじゃなく、わざと飛び降りたんだ!」
「そっか。煙突から落ちたら気絶していると思って。トドメとして……」
凶器を落として、ツカサを潰そうとしたのか……。
でもそれはツカサの仕組んだ、罠だったんだ。
「ぼ、僕には魔王を気絶させることはできない! だって、魔力がないから!」
「ふ。それは通りませんよ、ツカサ。人界には外傷を残さず、意識を奪う技術などいくらでもあります」
アリス様がツカサに人差し指を向けた。
「例えば、睡眠薬とかね。エルフの国では無理でも、人界の技術なら痕跡を確認できます」
「んぎゃああああ! アリス如きにぃ!」
「さっきから、お前。私を何だと思っているのです?」
あのツカサが取り乱している。これでトドメだ!
「もうお終いだよ、ツカサ! 最後に! 事件をまとめて、お前の悪事を全て明かす!」




