第9話 推理議論追及~十年前の真相~
「さて。十年前の真相を暴くと出たけど」
ツカサは告発されたというのに、余裕の表情だ。
眼鏡の縁に手を当てながら、ニヤニヤしている。
「どうやって暴くつもりだい? そんな昔の事件の事をさ?」
「やはりそう来たな。ツカサ。だから俺は持ってきていたのさ」
ルナティックさんもツカサを疑っていたんだろう。
だから鍵をつけてまで、カバンを持ってきたんだ。
「十年前に見つかった証拠品。残留魔力のデータ。全てをね」
「でもさあ。それで十年前は犯人が見つかっていないんだよね?」
見つかった証拠のデータは、僕の手元にある。
分かっているのは残留魔力の種類と。
大きいスポンジが見つかったという事実だけだ。
死神はロクに証拠を残さないと、言われている。
これ以上の証拠は出てこなかったんだろう。
ルナティックさんが血ナマコになっても。
今までの経験から、ツカサは自分で手を下すことはしない。
彼は言った。『自分で手を下したりしない』と。
この事件も誰かにやらせた可能性がある。
「当時の事は話しつくされた。今更、明らかになることなんて、ないと思うけど?」
「まだあるよ。二人の殺害方法が不明だ」
僕は議題を提案した。分かっているのは二人の死因までだ。
どうやって殺害されたか、分かっていない。
糸口を掴むには、一つずつ事実を明らかにするんだ。
「まあ、君らが満足するまで、話し合えば良いんじゃない?」
ツカサは分かるはずがないと、高を括るような発言をした。
殺害方法を隠すか。なんだか違和感があるなぁ。
「じゃあ、僕抜きで話し合ってもらうおうか? 十年前の関係者だけでね」
「んじゃあ。まずはアスハの父親の殺害方法から考えていこうか?」
ルナティックさんは不敵な笑みを、ツカサに向けた。
何か考えでもあるんだろうか?
ツカサも珍しく警戒心を剥き出しにしている。
「被害者の死因は、資料によれば。圧死でしたね」
「そうだな。目立った外傷はなかったが。解剖により、内臓が……」
「騎士長……。出来ればその続きは聞きたくありません……」
アリス様、意外とこの手の話に弱いんだな。
僕も朝食が取れなくなりそうだ。
「どうい訳か、暖炉の中に死体があったね~」
そう言えばマホさんは衛兵だった訳だから。
当時の捜査に参加している可能性は、十分あるんだよな。
「部屋が爆発で吹き飛んじまったのに。被害者に、焦げ跡はなかったな」
「それはきっと、暖炉の扉が閉まっていたからですよ」
「アリスも見つけたか。そうだ。内側の取っ手が抜かれた状態でな」
アリス様どや顔しているけど。扉を見つけたの僕なんだよなぁ……。
今はそんなこと気にしている場合じゃないな。
ルナティックさんは、かなり重要な証言をした。
「内側の取っ手が抜かれた。と言う事は。被害者は暖炉に閉じ込められていたという事ですね?」
「ああ。だから分かんねえんだ。暖炉に閉じ込められた被害者が。圧死しているのか」
「死後、暖炉に入れられたのかもしれないね~」
……。外傷がない圧死。これってつまり。
何かに踏みつぶされた訳じゃないってことだよな?
「一つ確認があります。塔の付近で見つかったスポンジの形について」
「ん? あれなら円形だったが?」
「この塔の煙突も、円形ですよね?」
煙突とスポンジは、形が一致したという事だ。
「煙突の扉は。空気を漏らさない造形になっていました」
「まさか煙突をスポンジで塞いだとか言うのか? 被害者は窒息死じゃないぞ」
「煙突は密閉状態なんですよ? その状態で上からスポンジを押し付けると?」
昔やったことがある。シリンダーに二つのスポンジを入れて。
片方スポンジを押すと。ある部分で、もう片方のスポンジがポンっと飛ぶ実験を。
「密閉状態なら、空気に逃げ道はない。発生しますよね? 空気圧が」
「いやいや! 押し込むって、どうやって?」
犯人が直接煙突に入るわけにもいかない。
そうなったら、自分も脱出できなくなるからね。
「スポンジなので。シンプルに水を吸わせれば、重くなりますよ?」
「た、確かにそうだな……。上から水をぶっかければ、良いだけか……」
「犯人は、この塔の構造を使って、アスハさんの父を殺害したんです!」
「それは違うよ」
ツカサが口を挟んできた。平静を装っているが。
焦っている証拠だ。でもどうして? 殺害方法を明らかにしただけだぞ?
殺害方法がバレる事自体が不都合なのか? だとしたら……。
「屋上から三階までの高さで、エルフを殺せるほどの空気圧が溜まる訳が……」
「現場には空気を操る魔法が、使われていました。密度を操るくらい可能でしょう?」
「……!」
ツカサが眼鏡を抑えて、目線を逸らした。
「でもよう。どうやってスポンジを、煙突から取り出したんだ?」
「水分が抜ければ、スポンジは軽くなりますよ」
「そうだけど。被害者は濡れてなかったぞ」
ルナティックさん、確実に犯人を追い詰めるため。
敢えて僕の推理の穴を、指摘してくれているみたいだ。
逃げ道は残さないってことか。僕もそれに乗っかろう!
「絞る必要はないですよ。乾けば良いんですから」
「そんな短時間で乾くものか?」
「燃やせば良んですよ。現場そのものを」
現場には炎の魔法が使われた形跡があった。
これが何のために使われてのか、不明だったけど。
今なら正体が分かるはずだ。
「犯人は現場を一時的に火事にして。短時間でスポンジを乾かしてんです!」
「アハハ! 君の推理にしては、珍しく穴だらけじゃないか!」
ツカサが高笑いしながら、再び口を挟んできた。
傍観者を気取ったわりに、発言が多いな。
それだけ追い詰められているってことだ。
「炎の魔法が使われたのは一度だけだよ? 爆発に使われたに決まって居るだろ?」
「ずっと疑問に思っていたんです。犯人が死神なら、人族のはず」
もう一度人族の特徴を説明すると。彼らは魔物やエルフ程魔力がない。
部屋を吹き飛ばすどころか、軽い爆発すら人族は起こせない。
だったら炎の魔法は、爆発に使われたわけじゃない。
「犯人が死神じゃなかっただけじゃないかな?」
「それはさておき。炎の魔法で爆発が起きた訳じゃないなら。何故部屋は吹き飛んだんでしょうね?」
「ユウキも受け流しになれてきましたね」
一々ツカサの言動に構っていられないからな。
さっさと推理を進めてしまおう。
「双子塔は古くて、扉から空気の通りが悪い。だから窓を塞げば……」
「なるほど。部屋が密封されますね」
「そこで部屋が火事になったら? 一気に酸素が減りますよね」
物を燃やすには酸素が必要だ。
部屋が密封されていたなら、酸素の供給も薄いはず。
消費に対して供給が間に合わないと、火は勢いを減らす。
「酸素がなくなれば、一時的に炎は消えますが。熱のエネルギーは残ったままです」
火が来たとしても、その力は消えた訳じゃない。
炎として見えなくなっただけだ。
「そんな状況で、一気に酸素が入り込むと。部屋の炎が一気に放出されます」
「"バックドラフト"か! 犯人はスポンジを取り除くと同時に、別のトリックを仕込んでいたのか!」
「うっ……。ぐっ……!」
ツカサは歯を食いしばりながら、冷汗をたらしている。
ズレた眼鏡を直そうとするが。手が震えて、位置が定まらない。
「おや? 随分と動揺していますね? ツカサ」
アリス様が不敵な笑みで、ツカサを挑発する。
「ぼ、僕は別に……。だって僕は事件に関係ないからね……」
「ならその動揺の意味を、僕が叩きつけてやる!」
僕は人差し指を、ツカサに突き出した。
「この事件だけは、お前が直接手を下したからだ!」




