第8話 推理議論中盤~犯人指摘~
「どういう事なの! 説明しなさい! ユウキ!」
「アリス様。もっとシンプルに考えましょう。魔王様と被害者は、塔の出入りを目撃されていなかった」
隠し通路も通常の出入り口も使えなかった。
何故ならどちらにも、見張りの騎士がいたから。
目撃されずに現場に向かう事は、容易ではない。
「ならどうやって、二人は現場に入ったのか? その答えは一つしかありません」
「煙突……! ですが! 煙突は埃が溜まっていました!」
「争わず、丁寧に煙突に入れば。埃は吹き飛びませんね」
「そんなこと出来るかぁ! エルフには被害者達を持ち上げられないでしょうが!」
アリス様、相当動揺しているな。随分と口調が荒くなっている。
彼女の気持ちも分かる。僕も想像していなかった事だ。
でも全ての矛盾を解決する方法は、もう一つしかない。
その方法が、ホソさんが死んだ理由を明らかにするんだ。
この事件で起きた本当の事を、明らかにしていこう!
「被害者は……。ホソさんは自分の意思で、煙突から現場に入ったんです!」
「バカも休み休みに言いなさい! 何故被害者がこそこそする必要があるのですか!」
「魔王様を守るため。だと思うよ」
思い出せ。これまでの証言を。僕達は大きな勘違いをしている。
ルシェ様もルナティックさんも。僕自身も。
一度も魔界側の塔で、魔王様を目撃していないんだ。
問題は『いつ』魔王様が、人界の塔に向かったか?
どうやって、目撃されずに向かえるのかなんだ。
「この事件の首謀者が本当に殺したかったのは。魔王様だからね」
「え? ああああああ!?」
「恐らく魔王様も、目的があって現場に"自分の意思"で向かったはずなんだ」
その目的は多分。十年前の事件が関係しているのだろう。
十年前の事件と今回の事件。全く同じ現場なのだから。
「魔王様は隠し通路に気が付いていた。多分十年前の捜査中に、見つけたんでしょう」
「ですが隠し通路を通っても! ヒラ騎士の目は誤魔化せませんよ!」
「まあ、魔王が人界側の塔を歩いていたら。警戒されますし。煙突から入ったんでしょうね」
魔王様の腕力なら、煙突を登ることくらい容易だろう。
煙突から出入りすれば、人界の騎士に気づかれることなく。
塔の中を調べる事が出来る。
「現場に入った魔王様ですが。そこに何者かが存在した」
「その人物に……。気絶させれれたとでも言うのですか?」
「はい。その人物は頭部を煙突に繋がる暖炉に置いたはずです」
この事実は、事件を根本から覆すことになる。
でも現場にあった残留魔力の意味を考えると。
たった一つの真実が見えて来るんだ!
「重力魔法。重力を強化する魔法が、人異界側の屋上で使われていましたね?」
「そうか! 持ち運べるものでも、物体にかかる重力を上げてしまえば……!」
「はい。犯人は煙突から物を落として、被害者を殺害したんです」
これが被害者の頭部が、潰されていた理由。
犯人は確実に殺害を行いたかった。
だから重力を限界までかけて、物を落としたのだろう。
「重力の勢いが収まれば。現場から回収も可能ですしね」
「なるほど。ではお前には既に分かっているのですね? 犯人の正体が」
「……。はい」
僕はアリス様の問いかけに、頷いた。
振り子で移動出来て。重力操作魔法を扱えて。
これらのトリックを行う必要性がある存在は、一人しかいない。
「では答えてみなさい! 魔王を殺そうした不届きものの正体を!」
「分かりました。この事件の犯人は……」
僕は真犯人に向けて、人差し指を向けた。
「貴方しか居ない。エルフ族の政治家。マホさん」
「正気ですか? 私には狂った推理にしか思えません」
「アリス様。良く考えてください。振り子での移動は、エルフ族でなければ行えません」
魔物は勿論、人族でロープが千切れるだろう。
でも軽いエルフ族なら、振り子で移動することは可能なんだ。
「それにこのトリックを使うには。隠し通路の窓に、ロープを事前に仕込まなければなりません」
今日双子塔に着いたばかりの、僕らには不可能な事だ。
つまり犯人は事前に、双子塔に出入りできる存在。
エルフの国にある塔を自由に動けるのは。エルフ族だけだ。
「炎の残留魔力は、魔王様の部屋付近にありました。ロープを焼いたのは、魔界側の塔です」
恐らく現場で凶器を回収した後に、魔界側の塔に戻ったんだろう。
死体発見現場付近に居たら、怪しまれるからね。
「魔界側の塔で、やたら目撃されて。三階に居たのは誰でしょうか?」
「マホさんです……。私も何度か目撃していますから……」
ルシェ様は塔をうろうろしていたらしい。
その際マホさんもルシェ様を、目撃している。
「多分、アリバイ工作のために、三階でわざと目撃されたんだ」
「ですが。魔王の部屋を本当の現場に偽装しました。それは矛盾していますよ?」
そうなんだ。そこだけが致命的に矛盾しているんだ。
この部分だけ、魔界側の魔物を疑えと言わんばかりの偽装だ。
「それにマホさんには、動機がありません! それに捜査に協力してくれたでしょう!」
「違うんだ、アリス様。動機ならあるんだ……。そしてそれが捜査協力に繋がるという証明が!」
僕は気づいてしまった……! マホさんの語った言葉の意味が。
彼女は犯人が『死神』であると強調していた。
更にマホさんは死神に命を狙われていた。二つの点が、とんでもない真実に繋がるんだ。
その真実が、魔王様とホソさんが現場に自ら行った理由。
ホソさんが死んでいた訳。アイツが現場で見せた動揺の原因に説明がつくんだ!
「マホさん。死神に殺害予告をされましたよね……?」
「あ~。これの事だね? それが何かな~?」
マホさんは告発されいるのに、おっとりとして表情だ。
罪から逃れようなんて、考えていないのだろう。
なのに彼女が自白しない訳。答えはここにある。
「貴方はこう考えたんじゃないですか? 自分を殺しに来る死神を、返り討ちにしようと……」
「あ~。そうかもね。そう考える事も出来るヨ」
「でもその手紙自体が、罠だとしたら?」
今考えてみれば、殺し屋が殺害予告なんておかしい。
何の証拠も残さない死神が、手紙と言う証拠を残しているのだから。
暗殺の難易度を上げれば、証拠を残す可能性も高くなる。
「死神は……。貴方が自分を殺そうとすると読んで。その行動を利用したんです」
「……。アハハ……。なるほど……」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 死神は、人界の殺し屋なのですよ!」
人界で主に活動していることを考えると。
死神の正体は人族じゃなきゃおかしい。
でも実際狙われたのは魔王様で、殺されたのはホソさん。
「被害者が死神って訳ではないでしょ?」
「はい。だから死神は……。犯人を操って、魔王様を殺させよとしたんです!」
これがこの事件をややこしくさせていた、理由なんだ。
犯人とは別の悪意が、この事件の裏で動いていた。
「マホさん……。全てを認めて、証言をお願いします……。真実を明らかにするために」
「それは、出来ない相談ね。私は認めたくないヨ」
マホさんは鋭い眼光で、ツカサを見つめた。
「こんな悪魔のために、捕まりたくないから」
「やっぱり。そうなんだ……」
今回の事件も、ツカサが裏で操っていたんだ。
証拠を提示すれば、マホさんの罪は立証できるけど……。
それじゃあ、昼間の事件と同じだ。今度こそ、逃がしはしない。
「マホさん。僕が死神の正体と、十年前の真相を暴きます」
「うん。君なら出来るだろうね~。ここまで真実を暴いた君なら……」
「もし、僕が彼の罪を立証出来たら……。認めてくれますか?」
僕の問いかけに、マホさんは同意しなかった。
代わりに今までと変わらない、優しい笑顔を見せた。
「おいおい。脱線だよ。今は彼女の罪を追及しようじゃないか!」
「黙りなさい、ツカサ。この剣でミンチにされたくなければ」
アリス様が剣に手を掛けて、ツカサを黙らせる。
そうだ。もうお前の都合よく動かせやしない。
「十年前。この双子塔で、二人の人物が殺害されました」
「人界の殺し屋、死神の手によってですね?」
「はい。そして死神は、この中にいます」
ここまで来たら、死神の正体はみんな分かっている。
もうお前しかいないんだ。
「そうだよね? 死神、ツカサ・オレット」
「ふぅん。そう来るんだ? 目の前の殺人犯より、復讐を優先するんだね。君も」
ツカサは眼鏡に手を掛けて、ニヤリと笑った。
「だったら知恵比べと行こうか? ユウガの息子さん」




