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魔界探偵2~四種族と死神の復讐~  作者: クレキュリオ
プロローグ 悪魔と死神と探偵と
2/62

第1話 捜査開始 ~暗殺未遂現場~

 僕達は現場の捜査を始めた。調べるべきはステージだろう。

 現場保存のために、矢が突き刺さったままだ。

 騎士団の話によれば、現場は一切触れられていないらしい。


 周囲で捜査を続ける騎士団もいるけど。

 魔王様の計らいで僕が、調べても良いようになっている。


 それにしても。人界代表殺害未遂とあって。

 人界側とエルフの騎士団は、総力を挙げているな。

 これ、エルフの衛兵長の方に、手が回っているのか?


「この矢。随分と深く、ステージに突き刺さっていますね」


 矢が半分ほど、ステージを貫通している。

 それだけ強い力で放たれたという事になるのだろう。


「それに角度から見て。傍聴側から放たれた事になるけど……」


 事件が起きてから、直ぐに持ち物検査が行われた。

 矢を放つ道具を、即座に捨てられるわけがない。

 でも傍聴人の中に、道具を持った者は存在しなかった。


 逆に言えば。ステージを警備していた騎士は。

 持ち物検査が遅れていただろうから。

 証拠を隠滅する時間がわずかにあったってことだよな。


「矢に妙な穴が開いている事も気になる」


 矢の中には細いもの程度なら、入りそうな穴が開いている。

 と言うより、空洞が出来ているような形だ。

 こんな矢は見たことがない。きっとこれが、仕掛けの一部だろう。


 他に気になる部分は。ステージ上に、やけに残留魔力が多い事だろう。

 演出とかあるらしいので。その影響もあるんだけど。

 事件に魔法が使われても、誤魔化せるって事だよな。


「使われたのは、炎と水、それと風魔法か……」

「水魔法は風船噴射に、使われたんだろうね」

「風船噴射ですか。そんなイベントありましたね」


 意図は全く不明だが。風船が空高く飛び上がる演出があった。

 風船は真っすぐ、風の影響を受けずに飛び立った。


「アレはメイ液を、水魔法で作り出したかららしいよ」

「メイ液?」

「うん! 無味無臭、無色で。常温に触れたら一気に気化する液体だよ!」


 気化か。液体から気体に代わると、物体は膨張する。

 その時発生する、圧力で風船を飛ばしたんだな。


「私にもメイ液は作られないけど。魔力の高いエルフ族なら、お手のものらしいよ」


 エルフ族は魔力が高い種族だ。その上羽根を生やして空も飛べる。

 体が軽い為、風の影響を受けやすく。

 自由自在に空を飛べるって程でもないらしいが。


「じゃあさ。メイ液さえ作れれば。矢を飛ばせるわけですね」

「え? 可能だけど……。メイ液の圧力は凄いから。気化したら直ぐに飛んじゃうよ」


 風船が真っすぐ飛ぶほどの勢いだ。

 気化した瞬間、一気に膨れ上がるのだろう。


「矢を飛ばすにしても、しっかり狙って魔法を放つ必要があるし……」


 ルシェ様は傍聴席側を見た。

 そちらには一切、魔法が使われた形跡がない。


「残留魔力がないから、生成もされていないみたいだよ」

「傍聴席側ではね……」

「え? どういう事?」


 傍聴席側でメイ液を作るのは不可能でも。

 ステージ側なら、こっそり作ることも可能だろう。

 この事件。矢がどこから飛んできたのか。争点になりそうだな。


 それに矢が下向きに刺さっているのも、不自然だ。

 ステージは傍聴席よりも、高めの位置にある。


「やっぱりステージ上で、矢は放たれたんだ」

「うん。その可能性は高いけど……。でもだったら、なんでこんなに大きく狙いを外したんだろう?」


 矢は魔王様にも人界代表にも当たらなかった。

 ステージに立っていた者が犯人なら。

 至近距離で大きく狙いを外した事になる。


「犯人の狙いは、暗殺じゃなかったのかもしれませんね」

「暗殺じゃない? だったら狙いはなんだろう?」

「例えばですけど。こっちに捜査の人員を割かせるとか」


 実際の所。暗殺未遂騒ぎのせいで。

 死んだエルフの衛兵長が、殺されたのか事故か、自殺かも。

 まだハッキリとした情報がないみたいだ。


「どうやらもう片方の事件も、しっかり調べた方が良さそうですね」

「うん。でもその前に。一度お父様から話を聞いてみない?」


 魔王様からか……。確かにステージに立っていた彼なら。

 目撃している可能性があるんだよなぁ。

 それにこれだけの騎士団が揃っていながら。僕を呼び出した理由も気になる。


 人界、魔界、エルフのエリートが揃った場所だ。

 只の探偵に過ぎない僕に、一体何の用だろうか?


「そうですね。一度、情報整理も兼ねて、魔王様の話を聞いてみましょう」


 僕は魔王様に報告も兼ねて、話を聞きに向かった。

 魔王様は強さ自信があるのか。僅かな護衛だけを連れている。

 ステージ脇で待機しながら、僕の捜査を見つめていた。


 灰色の肌。漆黒の鎧を着こみ、赤い瞳。

 逆方向の角が生えており、身長分くらいの赤い羽根が生えている。

 とてつもなく大きく。それでいて威圧感のある風貌だ。


 畏怖を抱きかねないお姿だが。中身は温厚な魔物だ。

 少なくとも、血と殺戮を嫌うような存在である。

 だから僕も、気兼ねなく話を聞くことができた。


「やあ。捜査は順調かね?」

「まあ、ぼちぼちです」


 あの矢からいくつか、気になる事が発覚した。

 魔王様にそれを聞いてみよう。


「少しお話聞かせていただいても、宜しいでしょうか?」

「構わないけど。私が知っている情報は、僅かだよ」

「矢が飛んできたとき。ステージではどんな反応でしたか?」


 僕は敢えて曖昧な聞き方をした。

 魔王様は少し考えてから、僕に目線を向ける。


「当然パニック状態だったね。急に傍聴席から矢が飛んできたのだから」


 まあそうだろうな。パニックだったのは、僕も知っている。

 でも魔王様は今、あからさまな嘘を吐いた。

 僕を試しているのだろう。だったら、彼の真意を全て当ててみせよう。


「魔王様、わざわざ僕を指名したのは、何故です?」

「君には実績があったからね。それとも何か不満かね?」

「この現場、エルフや人族に比べて。やけに魔物の兵士が少ないですよね?」


 魔王様が狙われたかもしれないのに、魔物達は捜査に消極的だ。

 和平には当然、大勢の護衛を連れ来た。

 現場に居る人数と、数が合わなすぎるのだ。


「それに貴方は"傍聴席から矢が飛んできた"と証言しました」

「それがどうしたのかね?」

「実際に矢は、ステージ上から放たれたのですよ」


 矢の空洞に、メイ液を入れて気化させれば。

 道具を使わずに矢を、飛ばすことができる。

 中身が空洞なので、当然矢は普通より軽いはずだ。


「でもステージ上に居た者達が。誰もそれに気づかないのは、変ですよね?」

「ふむ。確かに変だね。でも本当に、ステージ上から放たれたのか?」

「間違いないです。"下向き"に、"深く"刺さっていましたし」


 つまり矢は、上方向至近距離から、ステージに刺さったという事になる。


「ステージの上からじゃないと。下向きに矢は刺せませんよ」

「なるほど。確かに私は、ステージ上から放たれたのに気付いたよ」


 魔王様は口角を半分だけ上げた。


「しかしそれが何かね? どこからだろうが、我々が狙われたのは事実だ」

「作戦だったんですね?」


 僕の問いかけに魔王様は、目線を逸らした。

 右上方向へ赤い瞳を向けている。これは嘘をつく前兆だ。

 知的生命体は嘘をつく時、右上を見る癖があるからね。


「この矢は明らかに、貴方達に向けられたものじゃない」


 もし魔王様や人界代表が狙われたのなら。

 下方向じゃなく、真っすぐ放っているはずだから。

 犯人は最初から、矢を外すつもりで放ったんだ。


「全ては暗殺未遂の騒ぎを、大きくするためですか?」

「見事だ。僅かな証拠から、我々の作戦まで、気が付くとは」

「ええっと……。ユウ、どういう事?」


 まだ気づいていないルシェ様。

 狙いを外したわざとらしい、矢の一撃。

 暗殺未遂と同時に、溺死していたエルフの謎。


 魔物の騎士団が、暗殺未遂現場に少ない理由。

 僕がここに名だしで呼ばれた訳。

 全ては魔王様が考えた、作戦の一部だったんだ。


「これは暗殺未遂事件じゃなく。殺エルフ事件だったんだよ」

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