第7話 推理議論序章~解かれる真実~
推理対決は続く。僕は人界側に、殺害は不可能だと主張した。
容疑者は魔界側の塔に居た者になる。僕を含めて。
自分が不利になるのは承知だ。でもこれが真実なんだ。
「アリス様は事件前後。ルナティックさんへの報告でしか、塔を出入りしていません」
「五階でも目撃されていない以上。私に犯行は不可能です。ですが……」
アリス様、疑いが晴れたけど、浮かない顔をしている。
気持ちは分かる。何せ犯行直前まで、ヒラさんが五階を見張っていたのだ。
その間誰も見ていないと証言されている。これってつまり……。
「犯行に隠し通路は使用されていない。そうなりますね」
「ならこれって。"不可能犯罪"になるんじゃないかな?」
魔界側から人界側の塔に行くにしても。絶対に五階は通る。
そこを誰も通っていないなら、隠し通路は使われていない。
しかも。それぞれの塔を行き来した人物は一人だけ。
ルナティックさんになるけど、彼にはアリバイがあるうえ。
人界側から魔界側に来ている。犯人とは逆方向だ。
「確かに隠し通路は使われていないみたいだけど。まだアリスの疑いは晴れて居ないよ?」
「お前はどれだけ、私に罪を着せたいのですか?」
「だって、これが真実なんだから。それに。塔から出る分には、出入口を通らなくても良いだろう?」
ツカサ、まだ続けるつもりなのか? だったら付き合ってやるさ。
今度こそ、お前の罠を突破してやる。
「塔を出るだけだったら。窓からロープをぶら下げれば、出られるよね?」
「下りる分には可能ですが。それでは登れませんよ?」
「だから使ったんでしょ? 気球をさ」
気球か。そう言えば塔の周辺で見つかったんだっけ?
「魔界側の塔には、炎の魔法が使われた形跡があった」
「ああ。そうみてだな。俺達に残留魔力とやらは見えないけど」
ルナティックさんが知っているなら。
エルフの騎士が、証言したんだろう。
「アリスは人界でも術の腕までは結構ある。だから気球を使って……」
「残念だけど、それはありえない」
僕はツカサの意見に反論を重ねた。
「残留魔力は、使用された場所に残る。でも熱魔法の残留魔力は。魔王様の部屋の窓付近に残っていたよ?」
気球を飛ばすには、塔の下で魔法を使わないといけない。
でも実際魔力が残っているのは三階。
「気球を使って、塔を上るのは不可能ってことだよ!」
「ふぅん。それは知らなかった。じゃ、アリスに犯行は不可能だね!」
「なに、ニヤニヤしながら言っているのですか!? 切り裂きますよ!」
アリス様が剣を鞘から引き抜こうとした。
それをルナティックさんが、慌てて止める。
ツカサの方は愉快そうに、その茶番を眺めていた。
「アハハ! やっちゃったね! ユウキ君!」
「どういう事ですか?」
「アリスに犯行は不可能。君は同時に、人界側には殺害は不可能って、証明しちゃったんだよ!」
なるほど。これが今回の罠か。
でも僕は最初から主張していた。魔界側の塔に、犯人が居たと。
「従って僕の無実も証明され。魔王への疑いが再発することになるよ!」
「まあ、そうでしょうね……。で?」
「はあ? "で?"って……。この状況で、良く涼しい顔をしていられるね?」
前回の事件で、随分と引っ掻き回してくれたからね。
今回はそのお返しと行こうか。彼の証言を利用してやるさ。
「気球が使われていないなら。なんで塔の周りに気球があったんでしょうね?」
「それは犯人の偽装工作だろうね」
「僕もそう思いますよ。でもだったら……」
気球は偽装工作なのは、間違いない。
でも問題は、誰がその工作を行ったかだ。
「なんで塔の下に炎魔法が使われなかったのでしょうか?」
「確かに妙ですね。気球を使われた様にするなら、炎の魔法をその場で空撃ちするはずです」
「残留魔力の定義は。エルフや魔物なら、誰でも知っている基本知識です」
だから気球だけ用意して、魔法を使わないなんてありえない。
この事実が意味することは、二つ。
「考えるべきは、偽装工作の意味です」
「意味……? あ!」
アリス様は今の一言で、気づいたようだ。
「人界側に犯行は不可能。そう印象付けるため。そうだよね? ツカサ!」
ツカサは気球を使った事をわざと、否定させることで。
人界側に犯行が不可能な事を、強調しようとした。
そのためにアリス様に疑いをかけて。僕達に反論させたんだ。
以前の事件と同じやり方だ。全く芸がなくて、笑えて来るよ。
でも今回は逃がさない。これで終わりのはずがないんだ。
「アハハ! またまた大正解! でも僕が人界側に疑いを……」
「貴方の目的はどうでも良いです。問題はそこじゃない」
ツカサはあっさり流し、誤魔化そうとしたが。
気球の偽装工作の意味を考えれば……。
「では、犯人は何故魔王様の部屋。しかも窓付近で炎の魔法を使ったんでしょうか?」
「確かに。気球を使ったと思わせるには、不自然な位置ですね……」
「し、シンプルに考えれば……。何かを燃やしたんじゃないかな……?」
自信なさげなユキを元気づける様に、僕は頷いた。
「僕もそう思うよ。じゃあ何を燃やしたんだろうね?」
「証拠品でしょう。残しちゃまずいものですね」
「面白い事に。隠し通路の真ん中の窓に。焦げ跡のあるロープが絡んでいたんですよね」
そう。これが犯人が目撃されずに、二つの塔を行き来した経路。
隠し通路でも出入口でもない。第三のルートなんだ!
「炎魔法は、このロープを燃やすために使われたんでしょうね」
「ん? じゃ、じゃあ……。ロープは隠し通路から、三階の窓に垂れるほどの長さがあったんだね……」
「そうだよ、ユキ。隠し通路には魔法がかかっていて。外から見えないようになっている」
使用前にロープを隠し通路の中に入れておけば。
ロープを完全に見寝なくする事が可能だ。
「ですが。そんな長いロープを用意して、燃やして。何をしたかったのでしょうか?」
「振り子ですよ。アリス様」
「振り子って。行ったり来たりする、あれですよね?」
随分と大雑把な説明だが、左右に揺れる物の事だ。
重力の力を利用して、反対側にぶら下げた重りを持ち上げる。
「犯人は振り子自分に括り付けて、反対側の塔に移動したんですよ」
「現場と魔王の部屋は、丁度向かい合わせにあるわ。不可能ではないでしょう」
振り子は同じ高さまで、上昇する。
三階から動かせば、当然三階の窓まで上昇するだろう。
「ですが、ロープで移動するなら。重量制限があるはずですよ」
僕はざっくりとしか見ていないけど。あのロープ、とても頑丈そうには見えない。
重たいものは吊るせないはずだ。ロープが千切れるだろうからね。
「必然的に、振り子で移動したのは軽いエルフ族ってことになりますね」
「そうでしょうか? 貴方の推理には穴がありますよ」
「え?」
アリス様が僕に反論をしてきた。
「確かに振り子を使えば、エルフ族は移動可能です。ですが、被害者は魔物です」
ホソさんの体型から考えて、ロープで吊るすのは不可能だろうな。
魔王様だって結構思い。現場に連れて行くのは不可能だ。
「犯人の移動が可能でも、被害者を運べないなら。状況に無理がありますよ?」
「でも実際、ロープは焼かれていたんだ。無理に見えるかもしれないけど、見落としがあるだけだよ」
「ならば、その見落としとやらを教えてくださいよ」
見落としか。考えてみれば、死体発見現場の状況は不自然だった。
血痕が飛び散っていたし。何かを引きずった跡もなかった。
被害者を振り子で渡すのが不可能なら。魔王様の部屋の引きずった跡の正体は……。
「アリス様。僕らはとんでもない思い違いをしていたんだよ」
「思い違いですか?」
「うん。現場はやっぱり現場だったんだ」
「は?」
僕の言葉に、アリス様は呆れた目線を向けた。
最初からどこか不自然だと思っていた。
屋上。事実上の六階から三階に落とされた程度で。人の頭が潰れるほど、衝撃があるのかと。
「犯行は死体があった部屋で行われたんだ。つまり偽装工作があったのは、魔王様の部屋の方だ!」
「な、な、な……。何ですってぇ!?」




