第5話 捜査終盤~核心へ~
「あ! マホさん」
僕達は本当の現場から出ると、マホさんと出くわした。
さっき、人界側の塔にいたはずだけど……。
なんでこんなところに?
「やあやあ! 犯人見つかったかな?」
「いいえ。でも事件で何が起きたのかは、掴めてきました」
「そう! それは良かったのね~。でも……。ユウ君にはあまりいい状況じゃないかも……」
時間がないってことか……。騎士団は魔王様を疑っている。
早く真実を明らかにしないと、連行される。
今は人界との和平が結ばれたばかりなんだ。
それにルナティックさんが言っていた言葉も気になる。
魔王様が犯人にされたら、魔界も闇に飲み込まれる。
『闇』ってなんだ? 魔界もって事は。他に国は既に?
「ユウ君。私の部屋を見ていくと良いね。現場と同じ造りだから」
マホさんは穏やかな笑みを消して。真顔で僕に言った。
「マホさんは、魔王様を疑っていないんですか?」
「この事件の犯人は明らかだよ。"死神"なんだよ。間違いないね」
「え?」
『死神』って、人界で暗躍する殺し屋のことだよな?
それと十年前の事件の、犯人と呼ばれている人物だ。
なんでエルフの国の政治家である彼女が、死神の事を知っているんだ?
それに死神って……。人界の騎士が勝手に読んでいるだけだよな?
僕はアリス様の表情を伺う。明らかに怪訝そうな顔をしている。
「なんで貴方が"死神"を知っているんですか?」
「それはね……。私が死神に命を狙われていたからなの」
マホさんは懐から、紙を取り出した。
そこには真っ赤に染まった字で。今日の日付が書いてある。
これはマホさんへの殺害予告だ。その宛名には、『死神』と書かれている。
「十年前。ここで事件が起きた時、私は思ったね。普通の捜査じゃ、敵は倒せないと」
「マホさん……。貴方は一体?」
「だから私は権力を持つことにしたのね。十二年前の事件を、もみ消さないために」
十二年前の事件……? 僕の父が捜査していた事件だ。
確か『コン家没落事件』だったな。
「私、十二年前はただの衛兵だったのね。コン家のね」
「え!?」
「旦那様は犯罪なんてしないエルフね。だから私、ユウガさん達を応援していたのね!」
ユウガ、僕の父親の名前だ。彼女もまた、事件の関係者だったという事か。
「でもユウガさん達ですら、大きな力に破れた。だから私は、政治家になったのね」
自分が権力を持つことで、大きな力に対抗しようとしたのか。
それにしても、雇い主とはいえ。
そこまでするのだろうか? 僕が疑問に思っていると、マホさんは再び微笑んだ。
「君の疑問は理解するね。でもね。旦那様は捨て子の私を、衛兵にしてくれた恩人ね!」
捨て子が衛兵にか。と言う事は、生きるための訓練を補助してくれたんだな。
コン家の当主は、それだけ立派なエルフだったんだろう。
「自分も偉くなって分かったね。上に立つと敵が増えるってことが」
この殺害予告の事か。誰が何のために、彼女を殺害しようとしたんだ?
「正直周りは誰も信用できなかったけど……。君達なら信用できるね!」
「なんでそう思われたんですか?」
「分かるよ。君は真実を見つめる目をしているからね!」
マホさんは鍵を渡してくれた。彼女の部屋のカギだろう。
誰も入れないように、施錠したんだ。
「じゃあ、後は頼んだのね! 死神、絶対捕まえるのね!」
マホさんはそう言いながら、再びエルフの騎士団の下へ。
僕は鍵を握りしめながら、廊下を歩きだした。
「お前、随分と大きなものを背負っているのですね?」
着いてきたアリス様が、そんな一言を口にする。
「望んで背負ったわけではないけどね……」
「ええ。気持ちは分かります」
なんだろう? アリス様、経験があるような言い方だ。
「さあ、真実まであと一歩です。最後の捜査を始めましょう」
彼女達の事は少し気になるけど。今は事件に集中だ。
僕も真実を見つけないと!
僕は改めて、事件の捜査資料を見つめた。
殺害されたのはアスハさんの父と、僕の父さん。
アスハさんの父が先に殺された。原因は圧死。
被害者は暖炉の中で発見されたらしい。
魔王様の証言が残っている。現場には、空気の魔法が使われた形跡があると。
他には炎の魔法が使われた痕跡があるな。
なんだか使用魔法が今回の事件と、類似しているような……。
「彼の死後、数分後に僕の父が部屋を訪れた」
父が部屋のドアを開いた瞬間。爆発が発生したらしい。
炎の残留魔力から、魔法による爆発だと考えられていた。
でも魔法を使った本人は、現場に居なかった。
「そもそも部屋が吹き飛んだなら、中に居ちゃ危ないだろうし」
それに死神は人界で暗躍する殺し屋だ。
中身も人間だろう。部屋を吹き飛ばす爆発なんて。
魔法で引き起こせるわけがないんだ。
「それに塔の付近で、妙にデカいスポンジが発見されたらしいな」
気球と言い、時間後に変なものが発見されるな。
これも偶然なのだろうか?
「現場につきましたよ。最後に確認しておくことはありますか?」
「取り合えず、怪しいところは徹底的に調べよう」
僕はアリス様と共に、最後の捜査を始めた。
ドアを開くと少しだけ違和感が。妙に立て付けが悪いな……。
「ここは古い塔の様ですからね。建て方が悪いのでしょう」
「建て方?」
「ええ。このドア、空気を逃しにくいため、気圧でドアが塞がれてしまいます」
そう言えば、魔王城も古い部屋はそうなっていたな。
古い建物は空気逃げ道がないから。
外と中で気圧差が生じるって。じゃあこのドア部屋は、空気の機密性が高いのか。
次に僕は暖炉に近づいた。今回も十年前も、鍵となるのは暖炉だ。
アスハさんの父は何故暖炉なんかで、亡くなっていたんだ?
「ん? 暖炉の隙間に何かあるな……」
僕は隙間にあるものを取ろうと、指を入れた。
次の瞬間。スライド式のドアが一気に落ちた。
僕の指はドアと床に挟まれる。
「痛ぁ!」
「お前、バカなのですか?」
アリス様に呆れられた。幸い重さはそんなにないので、痛みは直ぐに引く。
僕は取っ手を持って、ドアを再び上に動かした。
「このドアが下がっていると、暖炉ないが密閉されますね」
「そのようですね。それに取っ手はネジで軽く止めただけのようです」
「と言う事は、ドライバーか何かあれば外せるのか……」
「ええ。取っ手を取れば、暖炉の中に閉じ込める事も可能そうですね」
暖炉の中に閉じ込めるか……。そう言えば、部屋が爆発したんだよな?
でも被害者の身元は特定されている。死因すらだ。
これって、部屋が爆発した時。被害者は爆発の影響を受けなかったってことじゃないか?
「ああ! こんなところに居たぁ!」
背後から元気のいい声が聞こえた。
ルシェ様が勢いよくドアを開けて、僕を指している。
「ユウ! 探したよ!」
「どうかしたんですか?」
「お父様が……。お父様が連行されそうなの!」
どうやらエルフの騎士団は、魔王様を犯人にするつもりだ。
魔王様の部屋にあった血痕。現場と向かい合いだった。
疑われるのも無理はない状況だ。連行はやり過ぎな気がするが。
「どうやら時間切れのようですね」
魔王様の連行を阻止するには、今ここで推理するしかない。
エルフの騎士団を納得させるような真実を!
「真犯人は、誰か分かっているのですか?」
「いや。今回だけは、本当に分からない……」
今回の事件は謎が多すぎる。複雑に絡み合っても居る。
殺されたのは魔物で。人界側の塔で、エルフの国の中の出来事で。
容疑者があまりに多すぎるんだ。
「答えは、推理を進めていけば分かるかもしれません」
「はい。連行前に、騎士団の前で話し合いましょう!」
僕達はルシェ様に案内されて、騎士団の下へ向かう。
馬車に魔王様が乗せられている。これから連行するところなのだろう。
他には、時間稼ぎをしてくれただろう。マホさんとルナティックさん。
ヒラと言う謎の騎士とユキ。そしてあのツカサが、揃っていた。
またお前なのか? 僕は警戒しながら、駆け寄った。
「おや。探偵さんのお出ましのようだね」
ツカサは僕に気付くなり、意味深な笑みを浮かべた。
「坊主。真相は分かったか?」
ルナティックさんに問われたけど、正直分かっていない事も多い。
でも犯行時、何が行われたのかまでは証明出来る。
今持っている情報だけでも、犯人の移動方法が分かるはずだ。
「ええ。掴めてきました」
こんなに心臓に悪い、推理の披露は初めてだな……。
僕の推理しだいで、魔界の運命すら変わってしまうなんて……。
僕は深呼吸をして、事件の概要を振り返った。
・死体発見場所は人界側の塔
・殺害場所はも魔王の部屋
・塔の間には見えない各通路があった
・隠し通路の窓は一カ所だけ使われた形跡があった
・使われた窓には、焼かれたロープが残っていた
・現場の近くには、気球が残されていた
・使われた魔法は、炎と重力操作、空気を操る魔法。
・マホは死神に命を狙われていた
これで事件の真相を掴んで見せる!




