第2話 捜査開始~現場の捜査~
「ホソさん……」
遺体を調べるのは辛いけど。僕はホソさんに近寄った。
エルフ族から捜査の許可が下りるとは限らない。
今のうちに調べられることは調べないと!
顔が識別できないほど、殴打されている。
間違いなく死因は、これだろう。手には何故か、剣が握られている。
撲殺である以上、剣は関係ないんだけど。気になる。
「お前、何を勝手に調べているのです?」
ホソさんと僕の間に、アリスさんが立つ。
「お前達に権限はありませんよ。現場保存は素人でも知っているでしょ?」
「分かっているよ! でも知り合いが殺されたんだ! 僕だって、黙っていられない!」
ホソさん。付き合いは短いけど。僕を信じて良く、情報を教えてくれた。
一緒に捜査した事件も、少なくない。
だからこそ。彼を殺した犯人を純粋に見つけたい。
どうして彼が殺される必要があったのか?
探偵としてだけじゃなく、友として知りたいんだ。
「はぁ……。言っても聞きそうにない顔ですね……。分かりました。見なかった事にしましょう」
「アリスさん……!」
「ただし。お前だけが限界です。他のものは、近づかないように」
どうやら聖騎士団にも、魔物の情は分かるらしい。
元々ユキやルシェ様に、近くで見せたくない。
僕は頷いて、アリスさんの提案を受け入れた。
「それと。万が一お前が犯人でも、問題がないよう。私が見張りましょう」
「見て見ぬ振りを、するんじゃなかったんですか?」
「それはそれ。これはこれ」
まあ当然か。アリスさんからすれば、僕は騎士ですらない。
良く分からない使用人なのだから。
「それから。お前のことは何と呼べば?」
「ユウキで良いです。この際なんでも」
「では私の事も気さくに。"アリス様"とでも呼んで構いません」
良いだろう。心の中でもアリス様って呼んでやる!
「それはそうと、ユウキ。気づきましたか?」
「え? ああ。勿論。これだけ、派手に頭をやられているのに……」
「凶器らしきものは、見つかりませんね」
そうなんだ。現場には血が流れているが。
撲殺に使用したと思われる、凶器が存在しない。
ホソさんの頭を潰すほどのものだ。相当重たくて、大きいはずなんだけど……。
「誰かが持ち去った。とは考えられないよね?」
「ならば。犯行場所は別にあり。そこに気づかれない形で、置かれてある。と考えるべきでは」
「…………」
僕は言葉を失った。アリスさんの推理に関心したわけじゃない。
先ほどのボケた言動の人と、思えない観察力だ。
おっちょこちょいで、ドジなだけか……。確かにそうだな。
「どのみちアリス様には見えないと思うけど。現場には残留魔力はないね」
「つまり。この部屋で、魔法が使われていない。なら小さくして、持ち運ぶのは不可能ですね」
「でも、犯行現場が別なら。この血の量は一体……」
ホソさんには他に、傷らしきものはない。
でも現場には、飛び散ったような血痕がある。
「寝ている王様の血でも使ったのでは?」
「魔王様にも傷はないし。あの血は上から塗ったものだよ」
もしここが現場でないとしたら。誰の血なんだ?
本当に被害者のものなのか? 検証する必要があるな。
「人界には血液から、個人を特定する技術があります。検視にでも回しましょう」
「へえ。死亡時刻を割り出せたり。人界って凄いんだね……」
「その分事件の数も多いですが」
アリス様、分かり易く険しい表情になった。
人界の騎士って、多忙なんだな……。
「痕跡が少な過ぎる。アリス様の言う通り。本来の殺害場所は違うね」
「なら証拠は期待できませんね。では情報と言う観点で、見てみましょうか」
確かに物的証拠はなくても。この部屋の情報は、重要だ。
例えばだけど。この部屋の窓は丁度、"反対側の塔が見える"んだ。
「魔王様が外に出た所を、エルフは目撃していないはずだよ」
「あんな大きい存在を見逃さないし。隠れて運ぶのも不可能ですね……」
「あ! ちなみにあの翼は飾りらしいから。空は飛べないみたい」
魔王様が空を飛んだという線は、なさそうだろう。
エルフならこの高さなら飛べそうだが。彼らは非力だ。
魔王様を持ちながら飛ぶなんて、出来ない。
「まあ、エルフの騎士が偽証している、可能性も否定できないけど」
「まあ私の前で嘘などついたら。この剣で斬りますけど」
「死体が増えない事を祈るよ」
魔王様やホソさんがどうやって、この塔に来たのか。
このことも調べておいた方が良いな。
「それにしても、犯人は何がしたかったのでしょうか?」
「僕も気になるよ。魔王様に罪を着せたいにしては、犯行が雑過ぎる」
部屋の中で気絶させて。雑に血を塗っただけ。
こんなの罪を着せようとしたと、疑えと言わんばかりだ。
でも逆に言えば……。"魔王様を容疑者から外せる"んだよな。
「この部屋、本来は誰が使っていたんですか? 三階ですから一人部屋ですよね?」
「騎士長です。彼が頼み込んで、この部屋を指定したそうですよ」
この部屋に拘りがあるのだろうか?
騎士長が指名したこの部屋で、死体が見つかったのは偶然なのか?
「お前。まさか騎士長を疑っている訳では、ないですよね?」
「彼に犯行は不可能だよ。ルナティックさんは、ずっと魔界側の塔に居たからね」
能天気な歌声が聞こえてきたのを、覚えている。
わざとらしいと言えば、そうなんだけど。
あくまで僕とルナティックさんが遭遇したのは、偶然だ。
「そう言えば、ルナティックさん……」
僕はポケットに仕舞った、鍵を取り出した。
自分の部屋に十年前の捜査資料を置いたと言っていた。
こんな時だけど、正直気になる。僕は部屋を探して、彼のカバンを探す。
すると魔王様の倒れている直ぐ傍に、鍵のかかったカバンがあった。
ご丁寧にチェーンで、ベッドに括られている。
なるほど。盗難対策はばっちりだな。
「騎士長のカバンがどうかしたのですか?」
「直接は事件と関係ないかもだけど……。なんか僕の直感がね……」
このカバンを放置すると、良くない事が起きそうな気がするんだ。
だから僕は、迷いなくカバンのカギを開けた。
カバンの中には衣服などが入っていたが。そこに一つだけ、ファイルが入っている。
ファイルには、"双子塔事件"と書かれている。
……。え? 双子塔!?
「ユウキ。人界の聖騎士長の私物を物色するとは、良い度胸でね」
「アリス様! そんな場合じゃないんだよ! このファイル名を見て!」
「……。え!? 双子塔って……」
騎士長がこの部屋に拘った理由。双子塔事件と言う名前。
僕はファイルを開き、事件の概要を見た。
殺害されたのは、僕の父とアスハさんの父親だ。
アスハさんの父親は圧死。僕の父は爆発に巻き込まれて死亡している。
犯人は人界の殺し屋、死神と言う所まで特定できている。
そして……。その現場となった場所は……。
「まさに今! 我々が居る場所ではありませんか!」
なんだよこれ……。死因も被害者も、状況も全然違うけど……。
なんで十年前と全く同じ場所で、事件が起きているんだよ!
僕は嫌な気配を感じて、咄嗟に隠す様にファイルを懐に仕舞った。
「坊主。アリス。残念ながら、許可は下りなかった」
背後の扉が開き、ルナティックさんが苦い表情をしている。
僕らが二人そろって、固まっている事に。彼は察しがついたようだ。
「この場所は、直ぐにエルフの騎士団が封鎖する」
「致し方ありません。ここは彼らの国なのですから」
そうだな。ここで調べられることは調べた。
十年前の事件の事は気になるけど……。
今は現在の事件に集中しないと! 絶対に本当の現場を見つけ出してやる!




