第9話 推理議論クライマックス~事件の全貌~
「これが事件の真実だ!」
僕はみんなに納得してもらうため、もう一度事件を振り返った、
最初から犯人と共犯者の目的を明らかにする。
「まずアスハさんは、昨夜の内に被害者をさせて攫った」
被害者は昨夜から、行方不明になっている。
油断した被害者を、電気魔法で気絶させて。
トリックを仕込むまで、どこかに監禁していたのだろう。
「気絶したチイさんを、空洞のある丸太の中に押し込むと」
空洞のある丸太なんて、事前に用意していたものに違いない。
ドワーフならともかく。手先が器用でないエルフに、短時間で仕上げられない。
「丸太を密閉して、崖下の道脇に置いたんだ」
最初からその場に丸太があったように見せかけるために。
彼女は自然に見えるよう、注意を払ったはずだ。
「その後、彼女は偶然を装って、丸太を橋にするために……」
丸太を橋にしないと、酸素が無くなるまで、時間がかかり過ぎる。
だけど丸太を川に流している所を、見られるわけにはいかない。
だから自然と丸太が川に接触するよう、注意する必要がある。
「事前強く電子を帯電させた橋。その上空にプラス帯電したペットボトルロケットを発射した」
会場で見たメイ液を使った風船は。見えなくなるほど空高く飛んでいた。
風船ほどではないにしろ。ペットボトルも相当上空へ向かったはずだ。
橋が燃えるには相当な電力が必要だから。プラス帯電も、魔法で操ったはず。
「橋から発射されたロケットに向かって。雷は下から上に発生した」
上から下だと、雷の軌道をコントロールできない。
確実に落雷で橋が燃えたと錯覚させるには。
橋側から電気が発生する必要がある。
「僕達が落雷を錯覚している頃。アスハさんは、もう一度、逆向きにペットボトルロケットを使ったんだ」
メイ液はエルフなら簡単に調達可能だし。
ペットボトルなんて、その辺に売っている飲み物で手に入る。
「ロケットと重力の勢いでロープを引き、滑車を使って崖上まで登ったんだ」
メイ液の気化噴射は、一瞬で上空まで行くほどの勢いなうえ。
エルフ族は大人でも、人間の赤ん坊ほどしか重さがない。
空を飛ぶために、進化した一族だからね。
「何故この時、僕達が滑車に気付けなかったかだけど。橋が燃えていたからだ」
雷が落ちて燃え上がる橋に、僕らは注意が向かった。
崖の脇道なんて、気にしている余裕はなかったんだ。
恐らくそこまで計算して、滑車を使ったのだろう。
「こうして一分で、崖上に登ったアスハさんだけど。問題が二つあった」
ロープとペットボトル。この二つの処分についてだ。
魔法を使うと痕跡が残る。でもエルフは魔法に特化した種族だ。
燃やせる道具なんて、国にない。
「ロープは近くの茂みにでも隠したんだと思う」
橋が焦げたせいで、魔界側は調べられていないけど。
探せばすぐに分かるはずだ。
それにロープだけ見つかっても、証拠としては薄いから。
「でもペットボトルを処分する時間はなかった。直ぐ傍まで僕らが居たからね」
ロープと一緒にペットボトルが捨てられたら。
トリックに気付かれるという心理が働いたはずだ。
だからアスハさんは。別々の場所に捨てようと考えた。
「彼女は何気ない顔で僕らと合流。案内と称して、僕らを誘導したんだ」
僕らは初めてエルフの国を訪れる。
そのため案内人が必要だった。
「丸太が置いてある道にね。川を渡るために、丸太でも使えば良いと提案し……」
この時僕と暗黒騎士が、二人で丸太を運んだ。
中に被害者が居たから、今より丸太は重かったし。
慎重に運べと言われたから、一人で運ぶ気になれなかったんだ。
「僕らを誘導して、他人の手で被害者を溺れさえた」
この時僕らは全員が渡れるように、丸太が転がらないよう注意した。
丸太は円柱なので、転がり易かったんだ。
「この時。アスハさんには、予期せぬ協力者が現れたんだ」
多分アスハさんのトリックは、もっと単純だったはず。
そいつのせいで、この事件はややこしくなったんだ。
「暗黒騎士に化けた、ツカサさんがね。彼は絶妙な位置に、丸太を置いた」
丸太を川で流すには、位置関係も必要になる。
アスハさんはもっと雑な方法で、丸太の位置をずらす予定だったはずだ。
「僕らが橋で渡り切るのを確認すると、アスハさんは最後に丸太を渡った」
丸太はエルフが入れるくらいしか、太さがないので。
僕らは渡るのに神経を使った。
そのせいで割り切った後に、疲れていたんだ。
「誰にも気づかれないよう、後ろ足で丸太を蹴り、位置をズラしたんだ」
僕らが去った後、ゆっくり転がった丸太が川に入る様に。
しかも協力者のおかげで、丸太は絶妙な位置にあった。
「被害者は意識を取り戻しても。酸素が薄いから、声を出すことすらできなかったはずだよ」
意識を取り戻した頃にも、朦朧としていただろうし。
丸太に押し込められたら、手足を動かせない。
音を出して助けを求める事すら、出来なかったんだ。
「丸太は川まで流され。被害者は窒息した」
その死亡時刻が、もう一つの事件と同時刻だった。
これはアスハさんも予測していなかった事だ。
「被害者が死んだとき。中の空気薄いから。丸太は浮力を失っていた」
何度も言うが、エルフは軽いけど脂肪がないのだ。
だから水に入ると、体重の割に沈む。
「この時丸太に浸水した影響で。丸太の蓋が開いたんだ」
被害者は湖に投げ出されて、水中に沈んだ。
あたかも溺死したかのように、見せかけられて。
「アスハさんの計画はそれで終わりだったけど。彼女に有利になる、想定外が起きたんだ」
元々は被害者の死亡時、自分は会場に居た程度のアリバイだったんだろう。
「人界代表暗殺未遂事件。一本の矢が、人界代表の剣士に向かったんだ」
これが事件をややこしくしていた。
「この事件は、ツカサさん本人が引き起こしたものだったんだ」
どういう訳か、アスハさんに協力しているツカサさんは。
彼女のアリバイを、強固とする必要があった。
「演出の風船を飛ばす様の、メイ液を盗み。空洞のある矢に仕込んだ」
そのまま氷点下状態を維持したまま、矢を自分の脇にもっていく。
「メイ液を常温にさらして、噴射で矢を飛ばした。自分の脇を逸らすように」
この時僕達は二重の罠に引っかかっていた。
一つは人界代表が、何者かに狙われていたと錯覚させられ。
二つ目は殺エルフ事件と、関係があるように錯覚させられた。
「でもこの二つの事件は。全くの別人が、別の意図で起こしたものなんだ」
アスハさんはツカサさんの協力を、知らなかったはずだ。
彼は犯人すらも気づかないうちに、共犯者として暗躍した。
「これが真実ですよ。エルフ族の騎士。アスハさん」
僕は最後に、力強く人差し指を向けた。
「ぐ……。ぐぐぐ……」
アスハさんは剣を、噛み始めた。
「ぐおおおおおお! おおおおおおお! おおおおおお!」
彼女は剣を歯でかみ砕く。一本の立派な剣が砕かれて。
只の鉄くずになっていく。
「おおおおおおお! ……。ごめん……」
「え?」
彼女は最後に。誰かに謝罪しながら。
その場に倒れ込んだ。




