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25.私も同じ

(この人は私を幸せにしてくれる)


そう信じていた。ノアの優しさは春の陽光のようで、暴力も、命令も、独占もない。けれど時が経つにつれ、ダニエラの心には小さな影が落ちるようになっていた。


ノアは優しい。立ち居振る舞いは盗賊時代の癖が抜けなくて貴族らしくはなくても、穏やかでおおらかで、ダニエラに怒鳴ることも、彼女を束縛することもない。


(なのに、どうして不安になってしまうの?)


彼は、フィリクスのようにはダニエラを求めなかった。


一緒に夜を過ごせば甘い言葉を囁いて、薔薇の香りの中で激しく彼女を求める。しかしフィリクスが始終ダニエラにべったりだったのに比べて、一緒にいない時間も長い。


新しく公爵になったノアには、癒しの力を使う公務や領地視察の仕事があり、自分なりに自分に課せられた仕事を全うしようと努めていたからだ。


頭では理解していても、不安は募る。そしてノアがメイドや貴婦人と話している姿を目にすると、ダニエラの胸の奥は焼けるように痛んだ。


(私のこと、愛していないのですか?)


(他の女性と話さないで!視界にすら入れないで)


心の中で何度も叫ぶ。だがそのたびに唇を噛んで我慢して、ノアには伝えることができなかった。


「監視したい」「囲い込みたい」「ノアのすべてを自分のものにしたい」


そう自分が確かにいた。血が引くような戦慄の中で、ダニエラは自分を否定する。


(こんな気持ち…だめよ。フィリクス様と同じじゃないの。だめ、絶対にだめ。このままでは私は誰かを殺めてしまうかも…)


それでもノアが求めてこない日や領地の視察で外泊する日は、嫉妬に狂い、不安で不安で眠れない。


ノアは公爵邸に戻ってダニエラの顔を見るたびに「眠れてないのか?」「食べてないのか?」と心配して声をかけたが、ダニエラはまた無理した笑顔で「なんともない」と答えるだけだった。


そして遠慮がちにそっとノアに手を差し出す。「握って」「この世につなぎとめて」というように。


その手がどんどん細く冷たくなっていくことが、ノアは心配でたまらなかった。


「病気なのか?隠していることがあるなら言ってくれ」

「何も隠していませんよ。使用人や医者に聞けばわかります」


ダニエラの体調を心配して、ノアがダニエラを求めることも減っていき、ますますダニエラは憔悴した。


そしてある日の真夜中、ベッドで寝ていたはずのダニエラは、屋敷の階段にいた。冷たい大理石の踊り場に薄い寝間着ひとつで座り込み、ガタガタと震えている。


夜の見回りをしていた使用人が「ひっ、幽霊」と声をあげる。ダニエラはゆっくりと声のした方を向いた。


「おっ…奥様!?ここで一体何を…?」

「わかりません…気づいたらここに…」

「すっ…すぐお部屋に戻りましょう。とにかく暖かくして…医者を呼びます。誰か!誰か来てくれ!」


騒がしくなった屋敷に、ノアも起きてきた。


「ダニエラ!?どうした!?」

「わかりません。ガタガタ震えながら階段で座っておられて…」

「医者は?」

「今呼びに行かせています」


ノアの心配そうな顔と、抱きかかえて与えてくれる体温に、ダニエラは心底安堵する。


(心配してくれている…愛されている…私だけを見てる…)


叩き起こされて慌ててやってきた医師は「夢遊病です。大きなストレスや不安を感じておられます」と告げた。


「しばらくは負担の大きい社交はお控えになり、療養なさってください。今の状態が続くともっと重篤な心の病になってしまいます」


医者は慎重に言葉を選んだが、恐ろしい気づきがダニエラを襲い、彼女は膝を抱え込んで泣き崩れた。


(まるでお母様だ…私はお母様みたいな病気になってしまうんだ…このままじゃいつかみじめに捨てられる…お母様がお父様に捨てられたみたいに…)


ノアが「大丈夫だ。休めば治る」と言っても、まるで耳に入らないように。抱きしめても、抱きしめ返すこともなく、泣き続ける。


「ダニエラ…俺がお前を苦しめてるのか?俺はどうしたらいい?」


泣いて泣いて、泣き疲れてようやく眠ったダニエラに、ノアはそう囁いたが、答えが返ってくることはなかった。

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