表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/34

15.頼れない

祭りが終わってから、リズのダニエラに対する態度はますます陰険さを増していった。


ノアや男たちが「仕事」でいない夜、ダニエラが残した食事に入っている虫に仰天したマーサが、代わりの食事を持ってきてくれた。


「リズがやったのかもしれないね。ダニエラ先生、びっくりしたろう。大丈夫かい?」

「ええ。マーサさん、本当にありがとうございます」

「いいんだよ。また何かあったら、私に言いな」

「ありがとうございます」


それでも、ダニエラは気づかれない限り黙って耐えた。


(リズさんはここの古参。彼女と仲違いするようなことになれば、私はここを追い出されるかもしれない。ここを離れたくない。家に戻りたくない)


ある朝、ダニエラが指から血を流しながら外で洗濯しているのを、ノアが見つけた。


「おい!ケガしてんじゃねぇか」

「洗濯物に針が混ざってしまっていたようで。でも大丈夫です」

「大丈夫じゃねぇよ。お前、最近ずっと様子おかしい。飯もあんまり食ってねえし。何かあったか?」


ダニエラは黙って首を振る。


「頼む、助けを求めてくれ。頼ってくれ」


その言葉に、ダニエラの肩がかすかに震える。


「できません…」

「どうして」

「助けを求めて、助けてもらえたことがないから…」


ぽつりと落ちる言葉に、ノアは息をのんだ。そういえば牢でも彼女はそう言っていた。


ノアはためらいながら、血を流す彼女の指先をそっと包もうとする。観覧車で彼女がそうしてくれたように。だがダニエラは手を引っ込めた。


(人に与えるだけ与えて…与えられることには慣れてないのか)


「俺は違う。お前に助けを求められたら助ける」


ダニエラはノアの赤い目を見た。射すくめるような目ではなく、優しい目だった。


(そうかもしれない。でも…話して信じてもらえなかったら?ノアさんがリズさんの味方をしたら?だって古くからいるここのみんなは、家族みたいなものだもの。リズさんもノアさんの妹みたいなもの…)


ダニエラはそっと首を振って、慣れた手つきで自分の指を止血した。指に小さな布を巻き、テキパキと洗濯物を干し始める。ノアは彼女のほとんどの指に布が巻かれていることに気づいた。


「ダニエラ…!」

「本当に大丈夫ですから。ここにおいてくださるだけで、本当にありがたく思っています」


「大丈夫です」と繰り返すダニエラに、ノアは「ちっ」と舌打ちして立ち去った。マーサがノアに駆け寄り、「リズだよ」と告げる。


「ダニエラ先生に嫌がらせをしているのは、たぶんリズだよ」

「なんだって?」

「あの子はあんたに惚れてる…それにちょっと…性格があれだろ」

「そういうことか」

「私からもダニエラ先生に”何かあったら言って”とは言ったんだけど…遠慮がちでねぇ。リズにもそれとなく注意したんだけど、聞きゃあしないし」


「ノアからリズに何とか言っとくれ。ダニエラ先生がいなくなったら、子どもたちが大泣きしちまう」とマーサは頼んだ。


ノアは険しい表情で、リズのテントに声をかける。


「リズ、いるか?」


テントの入り口がぱっと開いた。


「ノア!どしたの?」

「話がある。入っていいか?」

「もちろん、いいよ」


リズは嬉しそうにノアを招き入れた。まだ洗濯物をしているダニエラを、勝ち誇ったように見ながら。


「リズ、ダニエラと喧嘩してるのか?」


リズの顔が曇った。


「してないよ」

「じゃあ、ダニエラに嫌がらせしてるのか?」


リズの顔はますます曇る


「…してないよっ」

「じゃあ、ダニエラと仲良くしてやってくれ」

「どうして?」

「ここにはダニエラと同い年くらいの女がリズしかいないだろ。マーサに頼んではいるが、ダニエラも急にここへ来て戸惑うことが多いと思うから…仲良くしてやってくれ」


リズは歯噛みする。


「嫌だって言ったら?」

「それならそれで構わない。ただダニエラにちょっかいかけるようなことはするな」


ノアは立ち上がった。


「リズ、警告だぞ。最初にも言ったろ。ダニエラに手を出す奴は許さないと。お前は妹みたいな存在だが、ダニエラを傷つけるなら容赦しない」


リズはぎゅっとこぶしを握り締めて「わかったよ」と答えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ