逆・人外転生(スピア)
リバース・ファンタジー
現代に生まれた木倉 捜は、中学校へ入学した時、3年生の金山王我に絡まれる。
「お前も異世界人か?」
宇宙の彼方から魔王が追いつく時、地球は粉砕される───それを止めるため、捜たちは魔法を享受する。
気がつけば、私は人間だった。
道具を使う人間、心と知恵を持つ人間。
それは、使われる武具であり、情を持たず、喋るだけで思索をしない《私》にとって、衝撃だった。私の手は木材を動かし、私の声は抑揚を持った。
私は足を動かし、自ら移動することができた。
私は、飲食しなければ空腹を感じた。
それが、どれだけの衝撃だったのか、きっと、この両親は知らないだろう。
少なくとも、私が人間に対して無知で、人として成長する上で、他の赤子との違いは、大して無かっただろうから。
やがて、私は学校へ通った。
数学、国語、社会……それらは、文字や記号、内容はともかく、既知の概念だったが、実際に考えたことは一度もなかった。
今までの思索といえば、持ち主が遭難して、無理やりに問われた時ぐらいか。あの時の私は、《南西の地域は暑いと聞いたから、そちらへ行けば良いのでは?》などと滅茶苦茶な答えだった。目が見えないとはいえ、吹雪の中だから曇っていることぐらいはわかっただろうに。
そうだ、衝撃といえば、この目もだ。
慣れとは恐ろしいものだ。最初はあんなにも衝撃だったのに、今では空が見えることが普通だ。
今、あの時に戻ってしまえば、どうなるのか……いや、あれも短距離しか見えないとはいえ、背後も上下も全方位がわかるのだから、それにまた衝撃を受けて、どっちもどっちだろうか。
前、で思い出しだが、魔術も、この世界ではずいぶん遅れている。
凄腕の魔術師なら30、あの勇者でさえ2つの魔術を使えたというのに、この世界では1つも使えれば優秀、2つで天才、3つは達人、4つともなれば英雄らしい。
もっとも、この世界の魔物はそれで倒せるほど弱く、また魔王に相当する存在もすでに封印されているというのだから、1時間もあれば何度か魔物と出くわす世界で、何年も実際に戦い続けた世界と比較するものではないだろう。
この世界では、1ヶ月に一度会うかで、会っても衛兵……警察に通報して逃げる、というのが常識らしい。あるいは、持ち主の国だからこそ、なのか。
私も以前の《私》にかけられていた思索魔術、武具だった《私》がどのように使われたいか意思を持つ程度の魔術を使ってみた時、何の効果もなかったのに大騒ぎさせてしまった。
この世界では、元と違い、小さな魔法も大きな比率で意味を持つ。
ただ、それでも、やはり私には人間らしい深読みの思索に乏しいようで、その裏に潜む、真の意味に気付いたのは、中学に上がった時だった。