急罪定理
「…契約?」
俺が聞くと、目の前の死神…タイハはお茶を啜りながら頷く。
「そう、キミはボクと契約したんだよ。背中の紋章が何よりもの証。」
「いや契約も何も、俺合意してないんですけど…」
するとタイハは一枚の紙を取り出し、ちゃぶ台の上に置いた。
見るとそこには、
"死神式断罪宣告書"
と書かれている。
「これは…」
「キミらの世界で言う、逮捕状みたいなもんね。ひとまず読んで。」
そう言われたのでとりあえず読むことにした。
…序盤の内容を要約するならば、「貴方は死に値する罪を犯したので死んでください」的なことが書かれていた。なんとも言えぬこの気持ちは何なのだろうか。
後半は、死の直前の契約について書かれていた。内容的に、どうやら人間の合意無しで契約ができるらしい。
「抵抗されちゃ面倒だからね。死神は面倒事が嫌いだから。」
「…じゃあなんで俺にはバラしたんだ?」
タイハは笑って答える
「ボク、コソコソすんの苦手だし。」
…よくそれで続けられたな、と一瞬言いかけたが止めた。
「そもそも、俺はなんの罪を犯したんだ?死に値するって、相当なことやんないと無理じゃ…」
「…やっぱり思い出せない?」
タイハはこちらをジッと見つめてくる。
「いやだから、思い出すも何もやってないし…」
「そこのゴミ袋の中身、見たことある?」
そう言って彼女が指を指した先には、大量に積まれたゴミ袋が置いてあった。
「…あれか?いや、なんか生臭いし虫湧いてそうだから開けてないけど…」
「…開けてみなよ。」
「ええ…?嫌だけど…」
「いいから」と、半ば強引に袋を掴まされた。
「うぅ…どうなっても知らねーぞ…」
震える手で、俺はゴミ袋の開け口を解いた。
「ゔえッ!?」
鼻をつんざく刺激臭、飛び回るハエ、
そして何より、
大きな人の腕や脚、肉塊や血が詰め込まれている光景が、あまりにもショッキングだった。
「あ…あ…うっ、オエッ…」
思わず嗚咽が漏れ出る。
「どう?キミの罪、これで思い出した?」
「ハァ…ハァ…お…思い、出せるわけ…ウッ…オエェ…」
嘔吐しそうになる感覚に体が痺れ、涙が出てくる。
「うーん…これでも思い出せないかぁ…」
「はぁ…はぁ…なんで家にこんな…」
頭が混乱してきた。まさかこのゴミ全部…死体?訳が分からない。確かに腐敗臭がキツかったが、こんなものが入ってるとは思わなかった。明日中になんとかしよう。
そう考えていると、タイハは考え込むような体勢になる。
「ここまでして思い出せないのなら仕方がない。
…キミに免罪符をあげるよ。」
「…え」
混乱する頭をなんとか抑え込み、意識をそっちに向けた。
「免罪符…?」
タイハはコクリと頷く。
「ある条件を飲んでくれたら、キミの死は考え直してあげよう。」
「…なんですか」
俺は息を飲んだ。
「ボクらの、死刑執行人になってくれ。」