急逃定理
何度聞いても、理解できなかった。いや、理解したくなかった。
「だから〜、キミはこれから死んでもらうんだって。これ今ので21回くらい言ったよ?」
「…なんで…」
思わず呆然と立ち尽くす俺に、目の前の女の子は冷たい視線を向ける…いや目は影って見えなかったけど、そんな気がした。そして、槍沢が不敵な笑みを浮かべ言う。
「なんでって、キミが悪いことをしたからに決まってるじゃないか。それ以外に何があるんだ?」
…え、悪いこと?俺何かした?
「えー…と…具体的に何を…」
「ん?」
「その…申し訳ないんだけど、心当たりがなくて」
と言った瞬間、二人は目の前で顔を合わせ、「え?」とでも言いたげな顔をする。そんな反応されても…
「だから…何したのか聞きたいんだけど」
「…ホントに分かってない?マジ?」
「え、ああうん。マジ…だけど」
女の子は槍沢の方を見て、「嘘ついてる?」と聞く。信用0か。
「いや、嘘はついていないようだな…一体…」
と槍沢は考え込むように顎に手を当てる。…色々大丈夫かこの人達。とにかくここから早く逃げたい。
すると、俺のスマホの着信音が鳴った。
ポポ〜ポポポポ♪(呼び○み君)
「あ、すみません」
画面を見ると七瀬からだった。
[起きた?大丈夫?今日は早く部活終わったし一緒に帰らん?]
ナイスタイミングッッッ
「あーヤバい今日は友達と帰る日だったー急がないとー失礼しますッッッッ」
そう言って俺は自分の荷物を抱え、勢いよくドアを潜り走った。幸い廊下には誰もいなかったので注意はされなかった。
「あ、行っちゃった」
「…まあ、どっちみちまた会うことになるし、いいんじゃない?」
「それもそっか。…にしても、あの子はホントに何も知らないのかな」
「さあね。でも、僕から見た彼は…そう簡単に嘘をつくような子じゃないよ」
「"師匠"と違って、ね?」
「はは、そうだね…"僕"と違って。」
「はぁっ、はぁっ…」
息が乱れるほど走ったのなんていつぶりだろうか。気がつけば俺は校門の前にいた。七瀬は自転車を傍らに置いて、校門の前で俺を待っていた。
「お、時雨…って大丈夫かお前」
「ゼェ…だ、だいじょ、ハァ…うぶ」
「絶対大丈夫じゃないだろ。病み上がりで運動でもしたのかよ」
間違ってはない
「しょーがねーな…肩貸すから、送ってやるよ。」
「え…でも…」
「別に家は遠いわけじゃないし、お前を放っておくわけにもいかないしな。」
「…かたじけない…それと…ありがとな」
「?おう、いいってことよ」
さっきまでのことは夢だと思いたいが、やはりトラウマなものはトラウマだ。
…これからは、保健室に行かないようにしよう。
俺はなんとか家の前に着いた。肩をおろし、玄関に向かう。
「ありがとう、助かった」
「おう、気をつけろよなー。んじゃ、お大事に」
そう言って七瀬は手を振り、帰っていった。さて、俺も家に入ろう。
その瞬間、背中が痛んだ。…忘れていた、この紋章…どうしよう。
「うーん…とりあえず家に入るか」
そう結論づけ、鍵を開けた。
ガチャリ
「…ただいま」
返ってくるはずもないのに、つい言ってしまう。まあ、それでもいい。
そう思ったその時
「おかえり〜!」
…返事が返ってきた。
それと同時にふわりと現れたその姿は、何度見てもさっきの女の子だった
「まだ自己紹介してなかったよね?ボクは死神のタイハ!これからよろしくね、楠里くん!」
…何が、どうして、
こうなった………………