急現定理
「…は?」
今言われた言葉が、俺には理解できなかった
そんな俺を察して、目の前の人物はその言葉をもう一度言い直した
「つまり、キミにはこれから…急死してもらいま〜す!…ってコト」
数時間前ーー
いつもと変わらない朝
いつも通り、粗大ゴミを捨てに行く。いつも通り、晩飯の残りのシチューを食べる。いつも通り、部屋に消臭剤をばら撒く。いつも通り、鍵をしっかり閉める…
「行ってきます」
それが日常だ
5月の風に当たる羽根の耳飾りが、ゆらりと揺れる。それも日常なんだ
学校にてーー
「おはよー、時雨」
「…おお、おはよ」
新しく転入したこの高校でも、友達はできた…二人だけ。
「いやー、中間テスト面倒くさいなー」
「…おう」
「…ん?なんかお前…生臭くね?」
「え」
こいつは七瀬 守月。一番最初にできた友達だ。デリカシーが無いがムードメーカーであり、よく俺に話しかけてくる…多分いい奴?
「ははは!冗談冗談!お前のそんな顔初めて見た!」
「…はあぁ」
「ため息出すなよ〜幸せが逃げるぞ〜?」
誰のせいだと思ってるんだよ
心の中でツッコミを入れた
「んじゃ、またお昼に〜」
しかしクラスは違うので、よく教室前の廊下で別れを告げる。同性の友達は七瀬しかいないため、少し心細い…気もする
さて、授業の準備でもするか
授業中ーー
国語は出来るのに、数学はからっきしダメだ。公式覚えるだけなのに
そんなことをぼーっと考えるのも、いつものことだ。
(((…で)))
…?今、声が…
(((…んで)))
…なんだ?
(((死んで)))
ッッ…!!!?
「うッ、ぐ…!」
「…ん?おいどうした!時雨!」
先生の声が教室に響く。なんだ、これ…心臓が、痛くて…く、苦し、い…!
「い、痛い…」
「大丈夫か!?保健室に行こう、立てるか?」
「う…は、はい」
震える脚でなんとか立ち上がり、息を切らしながら歩いた
…あの声は、一体…
「…あ〜あ、失敗かぁ〜」
放課後ーー
何時間寝てたのだろうか、目が覚めたときは既に放課後で、校内は静まり返っていた。ちなみにべッドで寝ると回復し、何もなかったかのように元気になった…が、一つ俺に異変が起こった
背中に、謎の紋章があったのだ
何故か背中に痛みを感じ、養護教諭に診てもらった結果がこれだ。何であれ、怖い
「まさか君が入れ墨とはねぇ…」
「いやいやいや違いますから、証拠ありませんから」
この先生はいつもからかうように笑う。何故こんな状況で笑っていられるのだろうか
槍沢 朽散…イケメン養護教諭なのだが…保健室常連の俺からすれば、なかなかの曲者だ。まあ、この人がいてこそ、俺の日常は守られているようなものだ
不意に槍沢は窓の外を見ながら話す
「うそうそ。ま、想像通りになって良かったよ。ばっちりターゲッティングできて良かったねー…"死神ちゃん"」
「…え」
死神…?こんなときでもからかっているのか、この男は
「さて、種明かしだ」
槍沢はくるりとこちらを見ると、パチンと指を鳴らす
すると急に保健室の窓が割れた
パリンッッ
「うわっ!!?」
思わず目を瞑る。こわばる体を抑えつつ、恐る恐る目を開けた
そこには
「じゃ〜ん。はじめまして、時雨 楠里くん」
いかにも怪しげな女の子が立って…いや浮いていた
「…え?え?」
突然のことに、俺は理解が追いつかなかった。非科学的なこと過ぎて、何が起こったのかわからない
「そのバズーカ食らったケルベロスみたいな顔、ものすごくウケる〜」
いや…なにそれ
「そんな君に、残念なお知らせがあるんだ」
槍沢がそう言うと、女の子はニヤリと笑ってこう言った
「キミはこれから、不整脈で死んでもらうことになってるんだ〜」
…
「…は?」
これは、とある男子高校生と、悲しい"死神ちゃん"の物語ーー
リメイクするかもですがよろしくお願いします