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3話

「闘技場とその地下を経営していた奴らは、全て処分しておきました。」




そんな報告が入ったのは事件から一週間ほど経ったティータイム時であった。


わたしはお気に入りの紅茶を飲みながらネスのさらっさらな髪を結っていた。ネスは此処にきてから一応立場上逆らえないようで、私の玩具と化している。


わたしとお揃いの髪型にしたいとネスの短い髪をいじろうとしたら本気で嫌がったが、


最終的には折れていた。あんなに強いのに、どうしてこうも彼は、誰かの言いなりになってしまうんだろう。本当に馬鹿で可愛い。




「〜っっ後で覚えておけよ!絶対に下克上してやる!!」とよく分からないことを言い


真っ赤になった顔で怒りの言葉をわたしに飛ばす。




「ネス、その髪型で何を言われても可愛いだけだわ。そうだ!ドレスも買いに行きましょう!ネスはわたしと同い年みたいだけど、その割には声変わりもまだみたいだし、顔も綺麗だからきっと似合うわ!!」




「やーーーめーーーろーーーー!!!!!」


そう言いながらもネスは必ず最終的に私に振り回されてしまう。一週間経った頃にはもう私はネスで遊ぶことが楽しくて仕方なくなっていた。




ネスの部屋は、私の寝室の隣に用意したが、


あまりにネスが可愛い私は、夜中に枕を持っていってネスと一緒に寝ようとする。


しかしネルは「それだけはぜってぇやだ!!」といつも拒否するのだった。




「ねぇ、ネス。あんただけだわ。この家で私に敬語じゃないの。」


「は?なんかわるいのかよ。俺らタメだろうが。」


「ふふ、そうね。別にいいけど、私に馬鹿って言ったら3回回ってわんしてもらうからね?」


「はいはい、んなこと言われてだれが言うかよ。」




どうやらあの時のことが流石にトラウマになっているようだ。とても可愛いかったのに。




「お嬢様、彼はお嬢様に向かっては犬…基本的に忠実ですが、騎士団の中では手を焼いていますよ。こう見えて、闘技場の中でも一番でしたし、騎士団の中でもかなり強いですからね…年上に対してもかなり反抗的です。」




サヴァルが苦笑いしながらそう言う。




「ふぅーん?こんなに可愛いのに?」


と言いながら、私はネスの短い髪で結ったツインテールを摘みながら上下にふわふわさせた。


「ッだからやめろ!!」


ネスは顔を真っ赤にして怒り、私の手を振り払った。




「おい、ネス、あまりお嬢様に乱暴な口調だとお仕置きだぞ。」


サヴァルは未だにネスには少し厳しい。


彼の頭に手を置いてそう叱るとネスは一瞬でしゅんっと静かになった。




「ところでネス。あなた体力の方は良いとして勉強は出来るの?騎士になるには、部下を統制するための頭が必要なのではなくて?」




「俺は、物心つく前からずっと個人で戦ってきたから、そういうのは…。」




「それなら勉強しましょう。私は、剣術も得意なの。そのために必要な知識を貴方に教えるくらい簡単だわ。」




そうしてネスと私は、ネスの騎士としての訓練が終わった後、2人で勉強することになった。




夜、ネスの部屋をコンコンと叩く。


許可が出る前にネスの部屋のドアを開けるとネスが呆れた表情をしていた。




「あのなぁ、俺がいいっつーまで入るなよ。」




「あら、いいじゃない。それとも何?私に見せたくないものでもあるのかしら?」


私はにっこりと笑顔を浮かべネスの隣に腰掛ける。




「さぁ、ノートを開いて。貴方はもう14歳。こんな初歩的なことをやっていて、余裕かましてる場合じゃないわ。」




そうしてそれから、3時間ほど2人で勉強した。




「ふぁぁ〜…眠いわ。」


「おわっ…もうこんな時間かよ、明日も朝早いってのに…。おい、今日はもう止めようぜ。さっさと自分の部屋帰れよ。」


…全く教えを乞いといてどれだけ上から目線なのかしら。




ネスのあまりの態度の大きさに私は少し呆れるが、ネスの燃えるような赤い瞳を見る度にまぁいいかと許してしまうのだった。




「そうね、今日はもう眠りたいわ。ベッド、借りるわね。」


眠気が限界だった私は隣の自分の部屋に戻る気力がなく、ネスのベットにいそいそと移動する。


「お、おい!それは俺のベッドだ!自分の部屋で寝ろ!!」


怒っているネスは今日も憎めないほど可愛いなぁと思いながら布団にくるまって瞼を閉じる。




遠のく意識の中で「チッ」と舌打ちをしたネスが私の膝裏と腰を抱え、お姫さま抱っこで


私の部屋まで運んでいた。その手つきは乱暴な口調とは裏腹にひどく優しく、まるで壊れ物を扱うようだった。







目覚めると私は、自分のベッドのそばにいた。ネスが運んでくれたのかとぼーっと考えていたが、コンコンとドアをノックする声が聞こえた。どうぞと言えばサヴァルが入ってきた。




「お嬢様、お客様がお見えです。」


「あら、どちら様?」


「ギゼル様になります。」


「げ。私はいないって言って。」


「すみません。もうお通してしまいました。」


「本当にあなたって無能なのね、サヴァル?」




「ギゼル様」というのは私の許嫁で王太子のギゼル・ベルサイユのことだ。




ギゼルは、とても俺様な性格で、同じくプライドが高い私とまったく反りが合わない。態度が大きいが顔を真っ赤にして表情がくるくる変わるネスとは似ても似つかない男だ。




将来はあいつと結婚なんて冗談じゃないけど、政略結婚が当たり前のこのご時世、それを断ったりするような権力は私にはない。




とは言え、あいつにプライベートな時間まで奪われるつもりはないのですけども。




「ねぇ、サヴァル。それより、ネスは?今何処にいるの?」


「ネスは、その、今、ギゼル様と客間にいます。その大変打ち解けたようで、会話が楽しそうです。」


「はぁ?!ギゼル…!あいつ…!」




バタバタと淑女とは思えない足取りで廊下を歩き、客間の扉を開ける。




「なー?!あいつマジで信じられないよな?


本当に女かよ!乱暴過ぎて最近ゴリラかと思った!」


「お、おお、すっげぇわかる…!!」


そこにはもう抹殺してやろうかと思うくらい腹立たしい話をしているギゼルと眼をキラキラさせながらギゼルの話に頷くネスがいた。




「分かってくれるか?!お前とは、相棒になれそうだ…!今度からそう呼ばせてくれ!俺の周りの人間はあいつのこと今まで見たどんな人間より綺麗で女神様とか言ってて頭おかしいんじゃねぇかと思ってたから…!!」


そう言ってネスの手をガシッと掴む。




「ねぇ、ギゼル!私のネスに触らないで!」


大声を上げた私がギゼルの手を振り落としネスを自分の胸にギュムッと引き寄せる。




その途端、ギゼルは


「うわあニナリー!いつから見てたんだお前!」と驚いた。




ネスはネスで


「おい!離せ!抱きつくな!」となにやら慌てている。やはり、思春期の男の子は同年代の男の子とばかり仲良くする傾向にあるらしい。それが悔しくて、「なんで?!ネスは私のものなのに!」と言うと、「違う!!」と


真っ赤になって否定されてしまった。







正直、今すぐ帰って欲しかったが、ギゼルに紅茶とお茶菓子を振る舞い不機嫌を露わにして話しかけた。しかも、どうして、向かいにギゼルだけじゃなくネスも座っているのだろう。ネスは私の隣にいるべきなのに。




「それで何しにきたわけ?くだらない用事だったら言わなくて良いからすぐ帰って。」




「あのさぁ、お前、許嫁相手にその態度もうちっとどうにかできねーわけ?なぁ、相棒?」


とギゼルはネスに話しかける。




「て言うか、お前誰?なんでここにいるの?」ネスはキョトンとしながら私たち2人を交互に見つめた。分かってなかったのに仲良くなるなんて本当に馬鹿で可愛い。




「ネス、こいつはギゼル・ベルサイユよ。


一応私の許嫁。まぁ今のは忘れていいから、て言うか忘れなさい。こんな男。」




「ひでーなぁ、許嫁様の体調が心配できたって言うのに。もう何日も学校に来てねーからこの俺様が見舞いに来てやったんだ。」




「私が学校を休むのは、どの授業も私のレベルに見合ってなくてつまらないからよ。なぜ何年もまえに習ったものを今更習わないといけないのよ。テストは出席して学年一位になってやるから安心なさい?」




何やら2人のバチバチした空気を感じ取ったようでネスは居づらそうにしていた。




「はいはい、好きにしろよ、ったくせっかく来てやったのに変わんねーなお前。これで他の奴らには猫被ってるから勘違いされんだろうな、本当はこんな暴力女なのに。」




「あんたに言われたくないわ。ネス、ほんとにこいつのことは忘れていいからね。」




「…なぁ、ガッコウってなんだ?」




ふと、ネスがつぶやく。そうか、ネスは学校なんてもの行ったことなかったんだろう。




こんな、ギゼルなんかと仲良くするくらい男の子の友達も珍しかったんだろう。あの闘技場では確かにみんな中年以上の奴隷ばかりだった。




「ネス。…学校っていうのは、私たちと同年代の子が沢山いる学び舎のことよ。私とギゼルは魔法学を学んでいるの。」




「…魔法?」




すると、ネスの目が大きく開かれた。そう、私やギゼルは生まれつき魔法が使えるわけではないが、学校で魔法学を学んでいる。


というのも、この世界には魔法使いでなくても勉強して極めれば、使える魔法が2種類だけあるからだ。ただ、理論上可能というだけでこの2種類の魔法を使えることのできた前例はない。主に体に大きな負担がかかり、使った人間は死に至るからだ。




「なんだよ、相棒。学校に行ってみたいのか?」


ギゼルが笑いながら、ネスの肩に手を回す。




「ああ、行ってみたい。」




ネスは迷いもなく、はっきりとそう言った。

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