プロローグ
燃えるような赤い瞳に安堵か不安か焦燥か
よく分からない色を乗せて揺らぐ。
私が世界で一番気に入っている色は、
世界で一番大切な人が持つ眼の色だ。
でも、今だけはそんな彼が許せない。
「ッどうしてこの石を使ったの…!
…ッ何でなのよ!!馬鹿!!!…ほんとに馬鹿!!!私が何のためにここまでしたと思ってるの…?あなたの野望だったのでしょう…!?どうして!!!」
彼はその美しい赤い目から少し涙を浮かべて
ひどく優しい手つきで私を抱き寄せた。
「ニナリー。ごめん。せっかく頑張ってくれたのにごめん。でも後悔はしてない。もういいんだ。だってーーー。」
--------俺が一番失いたくないのは君だ。
君を失えば、自分が生き続ける理由を探す意味すら無くなり、永遠の絶望に囚われてしまうのだから------------
溢れ出した私の涙を指で掬い、額にキスを落とす。
ああ。あの時彼を買わなかったらよかった。
私が彼の野望を邪魔した。
いつか手に入れるはずの彼の野望を。
全ては私と彼が出会ってしまったからだ。
「出会わなければよかった…」
そう呟けば。
「いいや、出会えてよかった。出会わなければならなかった。何度人生をやり直してもきっと君と出会う人生を選ぶ。絶対に離さない。君は俺のものだ。俺と結婚して、生涯俺の隣にいる。君がそばにいない人生などあり得ない。」
そうやって何度も愛を囁いてくれる。
ありがとう。
ずっと、そばにいてくれてありがとう。
すごく、すごく楽しかった。
私の人生はあなたと出会うまですごく単調でつまらなかったの。つまらない人間だったの。だからこそ-------
嫌だ。私は、彼と出会えなくても彼の野望を叶える人生が良い。そう強く思いながら色を失った石にもう一度力を込めた。
眩い光が私を包み、同時に彼が眼を大きく見開いた。
「ニナリー!!!!!!」
愛しくてしょうがない彼の声を聴きながら
遠のく意識から想いを馳せる。
これは、私、ニナリー・アーストンが、
野望を叶え、つまらない人生に終わるを告げるまでの物語だ。