第67話 なぜか応援されるASMR
「はい、皆さん。もうすぐ、クリスマスですね。実は、私もイベントに向けて、結構忙しくなっていて、軽く死にそうです。なので、今日は元気になれるASMRを考えてきました」
コメント:疲れているみすずちゃんが、俺たちを励ましてくれてて草
コメント:はよ、休んでくれ
コメント:杞憂民湧き始めちゃうよ
「みんな、大丈夫だよ。さすがに、イベント前の1週間は少し配信ペースを落とすね。その分は、収録した公式放送に出演予定だから、楽しみにしていてね。皆に楽しんでもらえるイベントになるように、私も頑張るよ!」
みすずの心からの笑顔に皆、笑顔になっているのが、画面越しでもわかった。
「だから、今日は皆を特別に甘やかしてあげるね!」
そして、ASMRが始まった。複雑な気持ちで見ていた俺だが、いつの間にか配信に少しずつ飲まれていく。
※
「どうしたの、今日は元気ないね、センパイ? 嫌なことでもあったの?」
舞台は放課後の部室。夕日だけが差し込むほの暗い場所で、俺たちは向かい合っている。
「そっか。難しいよね、生きるのって。どんなに頑張っても、なかなか一番にはなれないもんね。頑張れば、頑張るほど、壁は大きくなって、それを登ることが大変になっていく。ごめんね、後輩のくせに生意気なことを言っているかもね」
部室のベンチに俺たちは座っている。みすずは、横の俺の顔を見て、にこりと笑う。
「でもね、センパイ。私は、ずっとあなたが頑張るところを見てきたんだよ? だから、大丈夫だよ。誰が、どんなにひどいことを言ってもね、私はあなたがすごいってことをわかっているんだ。私はずっとあなたの味方なんだよ。だから、甘えたい時は、甘えてよ。頼りたい時は、頼ってよ。大好きなんだからさ。甘えたり頼ったりしてもらった方が嬉しいんだよ?」
そして、いつものように耳元でみすずはつぶやいた。
「ずっと前から、私にとっての一番はセンパイなんだよ」




