第52話 キスの後で
セカンドキスは、奇襲された。いや、最初のキスは、こちらの不意打ちに近い形だったから人のことは言えないんだけどさ。
「……」
「……」
お互いに気まずそうに、でも、どこか幸せそうな表情でうつむいている。本当だったら時間をかけて、幼馴染から恋人になろうとしていた俺たちは、少しバランスを崩しただけで、一気に階段を登ってしまった。まだ、明確な告白もしていないのに。ちょっと、ふしだら関係になってしまったことを後悔する。
「あ、あのさ……」
「センパイ、ちょっと待ってください。もう少しだけ余韻にひたりたいんだけど」
物憂げな表情が正直に言うと、かなりグッとくる。いつもは、ちょっと過激なASMRの配信をしているのに、なんでこういう時だけしおらしくなるんだよ。
「想像よりもずっと、すごかった」
小声でそう言った彼女の声は震えていた。
その眼は、夢見る少女のようで、とても尊いものを感じる。
「ふふ、いろいろと考えすぎていたのかもしれませんね、私達」
「そうかもな」
そして、やっとリラックスしたように笑う。
「どうします。ここまで来ちゃったら、押し倒されちゃってもいいですよ?」
「ずいぶんと斬新な提案だな、そりゃあ」
「これは、絶対に冗談です」
「わかってるよ、さすがにさ」
「ならいいんだけど」
やっぱり、正式に告白した方がいいんだろうな。俺は、悩みながら結論に達した。うやむやの関係でも、恋人にはなれる。だが、やっぱりこの大事な関係は、しっかり言葉にしておきたい。
「あのさ、しずか……」
俺の言葉を察してか、しずかは急に真面目な顔になって、俺の口に手を伸ばした。これ以上は、言わせないという強い意志を感じる。
「ダメです、それ以上は、まだ言っちゃダメ」
「なんでだよ」
「まだ、私はその言葉を聞く資格がないからだよ。私はまだ、センパイに何も返せていない」
「……」
むしろ、もらってばかりだ。今までずっとそうだった。
「だから、クリスマスまで、その言葉は待ってください。センパイにすごいものを見せて、義務感からじゃなくて、心の底からその言葉をつぶやかせてみせます」
「そっか」
「楽しみにしていてくださいね」
俺の最愛の後輩は、そう言って笑った。




