第51話 ファーストキス
私は、まばたきもできずに、センパイの顔を見つめることしかできなかった。
しちゃった。
ファーストキス。初めてのキス。それも、ずっと思い続けていたセンパイと……お互いに初めてのキスを……
イチゴの味とかマンガでは読むけど、そんなことを感じている余裕もなかった。ただ、頭が真っ白になってしまい、自分がどんな顔をしているのかもわからない。
「大丈夫か、しずか?」
私がぼう然自失状態だから、彼はとても心配した顔になっている。今にも泣きだしそうだ。
「不意打ちずるい」
自分がけしかけたと理解している。でも、まさかされるとは思わなかった。でも、気持ちは嬉しくて、複雑な気分。あまりにも、気分が動転していて、同じ言葉を続けてしまう。恥ずかしさをごまかすために、ちょっとだけ不満をぶつけてみた。
「ごめん」
むしろ、私の方がセンパイをけしかけたのに、謝まらせてしまった。そこに、罪悪感を感じる。
「ファーストキス、だよっ?」
そこには、ちょっとだけ意地悪を込めた。幸せ過ぎて、天にまで昇りそうな自分を必死に抑え込んで、悟られないように頑張る。センパイが、頑張ってくれたから、今度は私が頑張らないといけない。
「ごめん」
「だから、ちょっとだけ、お仕置き。おでこ出して。デコピンで許してあげる」
私がそう言うと、センパイは苦笑いして、私が怒っていないことに安心したみたい。
「ああ、それで許してくれるなら、助かるよ」
ここは、彼の癖を利用する。デコピンされそうになったら目を閉じる。昔からゲームの罰ゲームだったから、よく知っている。
少しだけ、勇気をもらう。いつもの罰ゲームを待っている彼に向かって。
「お返しだよ、お兄ちゃん?」
私は、指ではなく、唇を近づける。
セカンドキスは、こちらから。それは、せめてもの、私なりの愛情表現なのだから……
私がキスをした瞬間、センパイは驚いて、目を見開いた。




