第45話 勝負
「おい、さすがにこれはまずいだろ」
いくらなんでもセンシティブすぎる状態だ。外から見れば、完全に不純異性交遊中のバカップル。監視カメラを見ていたら、すぐに店の人が乱入して注意するだろう。
「だから、少しだけ……」
それでも、しずかの攻めは止まらない。俺の体をなめまわすかのように、柔らかな手を背中に回して、力をこめる。それとともに、五感がすべてしずかに奪われた。優しい石鹸のような甘い香り。俺たちの服が擦れる音。体全体に伝わる体温と柔らかい感触。
「ねぇ、センパイ? 勝負しよ」
「勝負?」
「うん。カラオケ勝負。点数が低い人が負けで、勝者の言うことをなんでもひとつ聞くってことでどうですか?」
正直言えば、俺に不利な勝負だ。実際、事務所の方針でしずかは、ボイトレとかに行きプロに教わっている。俺は歌はあくまでも、ただの高校生。だが、逃げたらこの状態は絶対に終わらない。
「わかった。それでいこう」
「やった。なんでもですよ」
「ああ」
しずかは、ゆっくりと体を離した。
まずは、俺が歌う。流行りの歌だ。よくVチューバ―も歌っているから、おぼえているし、付き合いで行ったカラオケでもまぁそれなりに褒められる。
得点:85点
シロウトなら褒められる点数だ。だが、その点数を見て、俺はやばいと思った。
「じゃあ、私はこの曲です」
20年前に流行ったアニソンだ。オープニングやエンディングではなく、劇中歌。文化祭のライブで流行ったあの曲だ。俺は、リアルタイムでは見たことがないが、配信などではよくネタになるから知っている。
神のような力を持った少女が歌う自分の理解者となってくれる男の子へのラブソングだ。
しずかの声質は優しいから、曲調とは少しだけはずれるが、とても感情がよくこもっていて聞きほれてしまう。
天使のように羽根を持っているかのように、彼女は楽しそうに歌詞を紡いでいた。
得点:94点
「完敗だな」
点数以上に負けを思い知った。あんなすごい曲をライブで聞けるのだから、
「素直でよろしい」
「すげぇ、うまかった。やっぱり、みすずの歌は、人を笑顔にできる。すごい才能だよ」
「そこまで言われちゃうと、照れちゃいますね」
さっきまで攻めてきていたのに、急にしおらしくなる。ギャップがすごい。
「で、罰ゲームは?」
俺は恐る恐る聞く。しずかは、にっこり笑った。
「明日、学校から家までずっと、手を繋いで帰ってくださいね」
ある意味で、ご褒美かつ死刑宣告をくらった。




