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第41話 自転車

「えっ、センパイ!! 歩き!?」

 私は、センパイが歩いて駅に向かおうとするのを必死で止める。まさか、自分探しの旅が、自転車でもなく徒歩なんて思わなかった。


「だって、しずかは自転車持ってきてないだろ?」

 そも当たり前のようにセンパイはけろりとしている。いやいや、私をあそこまで期待させておきながら、なんでそうなるの!?


 さっきの話の流れなら、あのまま高校生の憧れ。自転車の二人乗りで、イチャイチャを楽しむのが定跡のはず。


「まぁ、そうですけど」


「ふたりならゆっくり歩きながら、どこか遊びに行こうぜ」


「そうだけど……そうじゃないですよ」


「はぁ?」

 もちろん、自転車の二人乗りは道路交通法違反とか家の近所を幼馴染のバカップルがイチャイチャしているとか噂を流されるリスクは、よくわかっていますけども……それを上回って余りある夢を叶えることができるんじゃないですか。どうして、こういう大事なところで、鈍いのよぉ。私は心の中で絶叫する。


 そもそも、私は配信者。たしかに、迷惑系とかにはなりたくないけど……

 これくらいのロマンを求めても、罰は当たらないはず。


「せっかく、高校生の夢である自転車の二人乗りができるチャンス、ですよ?」

 ここは、少しだけASMRのテクニックを使用してみる。甘えるかのように、語尾は弱めて、庇護欲を刺激する。首はわずかに傾ければ……センパイと私の身長差によって、最高のシチュエーションが成立する!!


「うっ……」

 効果は抜群!! センパイの顔は真っ赤に染まる。


「だめですか?」

 あと一押しで陥落する。私も顔を真っ赤にしているけど、肉を切らせて骨を断つの精神で……


「わかったよ。でも、危ないからしっかりつかまれよ」


「はい!!」

 私は先輩の腰に捕まり、自転車の荷台に乗った。スカートが巻き込まれないように、慎重にゆっくりと。自転車は動き出す。最初はゆっくりと。重くないかな。先輩の体、ごつごつしていてとても男らしい。少しだけ、男の人の匂いがする。もう感情が高まってしまい何が何だかわからなくなる。


 少しくらい、大胆になってもいいよね?

 この前の公園でもかなり勇気を振り絞ったけど、今回はもっとそれが必要だ。

 私は、少しだけオドオドしながら、センパイの背中に体を預けた。


「そんなにくっつくなよ」


「しっかりつかまっておけって言ったのは、センパイだもん。いいじゃないですか」

 私は必死に言い訳をしながら、全身を彼の体にあずけていった。

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