第40話 ちょっと遠くに行きたいふたり
いつもの土曜日。最近は、しずかと一緒に帰ることも慣れてきた。ちょっと、周りの目が痛いけど、それも徐々に慣れてきている。すでに、クラスでは「かわいい後輩幼馴染とついにゴールインしたリア充。末永く爆発しろ」と言われまくっている。
まぁ、付き合えてないんだけどな。
幼馴染と付き合うのはハードルが高い。それは、前にも言ったわけだが、もうひとつ高いハードルがある。しずかは、Vチューバ―だ。ファンも多いし、仮に今の状況が流出でもすれば、大炎上する可能性が高い。そんな状況になってしまったら……
俺は、しずかを守り切ることができるのだろうか?
結局、俺はただの高校生だ。大人気Vチューバ―になっているしずかとは、釣り合いが取れていない。
「はぁ……考えるだけでも、憂鬱になっちゃうわ。気分転換に行くか」
とはいっても、俺は高校生。しずかの護衛で、クリスタル・クリエイトからアルバイト料をもらっているが、それは小遣いレベルで豪遊できるほどじゃない。しずかと遊びに行ったり、推し活で使ったり……
いや、よく考えたら、クリスタル・クリエイトに還元してるだけじゃね?
まあ、推しの幸せは俺の幸せ。
当てもなく自転車でどこかに行くか。
俺は玄関を開けると、かわいい女の子が「きゃ」と叫んでいた。
「あ、あれ? センパイ?? どこかお出かけ?」
手鏡を使って、前髪を整えていたのだろうか。左手に持っていたそれを慌ててカバンの中に隠した。どうやら、うちに遊びに来て、入る前に身だしなみを確認していたみたいだな。
「ああ、暇だから、自転車であてもなくどこかに行こうかと」
「なにそれ? 自分探しの旅?」
「まぁ、そんなところ」
「え~、ずいぶん、ちっちゃい自分探しの旅だね」
そう言ってケタケタと笑うしずかを見ながら、なんだかさっきの悩みがバカらしくなる。そうだよな、こいつを勝手に遠くにいると思っているのは、いつも俺なんだ。
「どうだ、お前も来るか?」
「えっ!?」
「ちゃっちい自分探しの旅も、ふたりなら楽しいかもしれないだろ?」
「……やっと、センパイが私をデートに誘ってくれたね?」
「何とでも言え。そう言われるとちょっと恥ずかしくなる」
「かわいいなぁ。じゃあ、休日、誰とでも遊べないかわいそうな先輩に付き合ってあげますよ。嬉しいでしょ?」
そうからかっている後輩が、一番幸せそうな顔をしているのにはあえて触れないようにする。
「じゃあ、行こうか」
「はい、自分探しの旅に!」
楽しい休日が始まった。




