第38話 公園でイチャイチャ
なんかいろんなことがあった1週間だった(推し活的な意味で)。
結局、あのキス未遂のせいで、結構、ちぐはぐになっているんだよなぁ。
たぶん、眠れないひとつの要因もそこにあるはず。
とりあえず、予定もない休みの日だから、気分転換に散歩して、体を疲れさせることで安眠をむさぼろうと、俺は長めのウォーキングに来ていた。1時間くらい歩いて、途中のコンビニで飲み物を買って、いつもの公園で休憩だ。
この前の夜の散歩ぶりだな。どうしても、家の近い幼馴染同士だと、近所は思い出の場所になってしまい、変にドキドキする。いや、気にしすぎているのはわかっているんだけどさ。
「ふぅ、お茶がうまい」
なんかじじいくさいセリフを言ってしまった。
この前、しずかと一緒に座ったブランコは、2人の兄妹が楽しそうに遊んでいた。
「私たちもあんなかんじでしたねぇ」
「ああ、ってしずか?」
「ふふ、センパイがリストラされたサラリーマンみたいに、公園のベンチでお茶を飲んで遠い目をしていたので、声かけちゃいました。いま、収録から帰って来たんですよ。センパイは、お散歩?」
しずかは、笑っていた。収録で疲れていたはずなのに、そんな感じは全然しない。
「ああ、最近、ちょっと寝不足だから、運動して夜ぐっすり寝ようと思ってさ」
「ですよね。推し活に熱心になると、なかなか眠れなくなっちゃうってみんな言いますもんね。座ってもいいですか?」
「ああ、座れよ」
「じゃあ、遠慮なく」
そして、しずかはいたずらな笑みを浮かべて、俺の膝の上に座る。
「お、おいっ!!」
膝の上には、なんだかとてつもなく柔らかいものが……
「座っていいって言ったじゃないですかぁ。どうして、そんなにオドオドしているの?」
「まさか、膝の上に座るなんて誰も思わないだろ。ベンチに座れ、ベンチに」
「いいじゃないですか。この前、ラブコメマンガで見たから、一度はやってみたかったんですよね。センパイの膝しっかりしていて、体も大きいから座り心地いいですね。最高の人間椅子!」
「そんな乱歩的世界観じゃねぇよ」
「でも、いつものASMRと違って、全身で私を感じられるでしょ?」
たしかに、しずかの髪からシャンプー由来の良い香り。柔らかい体の質感。そして、皆を魅了している甘い声質。
五感すべてを刺激されて、普通の配信よりも満足感が強い。
「今日はもう少し甘えちゃおうかな?」
俺のカワイイ後輩幼馴染は、魔女のように笑った。




