第33話 パチパチアメ
俺たちは近くの公園で、休憩した。小さいころからよく来ていた思い出の公園。特に、かわり映えしないいつもの光景が逆に安心感を与えてくれる。俺たちは、子供のころによく遊んだブランコに腰かけて、コンビニで買ってきたアイスを食べ始める。
「アイスじゃなくて、そろそろ肉まんとかおでんの時期だな」
「じゃあ、次に誘ってもらった時は、そっちを奢ってもらいます」
「お前の方が稼いでいるのに……」
「ふふ、何言ってるの、センパイ? センパイに奢ってもらったっていう事実が大事なんだよ。それだけで、100円アイスがとっても美味しくなるんだ」
そう言って嬉々として、しずかはアイスを開封する。
アイスの上にはトッピングで、小さくカラフルなキャンディーがトッピングされていた。
「美味しい。冬のアイスもまた美味しいですよね」
「まぁ、一つの真理だよな」
俺は普通のバニラアイスを食べた。ミルクの旨味がしみる。
「あっ、このキャンディー弾けるやつだ」
そう言ってしずかは笑った。パチパチと可愛い音が、しずかから聞こえる。
「あれ、おもしろいなよ。弾けるやつは、すげぇ弾けてさ。口の中が痛くなるくらいで」
「たしか、炭酸ガスを圧縮して作るんですよね。なんでも作るのには特殊な機械が必要らしくて……だから、作れるメーカーが限られているんですよ」
なぜ、そんなに詳しいんだ? ちょっとガチ勢みたいになっている。
俺が不思議に思っていると……
「あっ、実はですね。この弾けるキャンディーを配信で使おうと思っていろいろと調べたんですよ。これって、ガスをアメのように固いもので覆っているから、口の中で溶けないとパチパチしないんです。だから、詳しいんだっ!」
みすずのASMR配信は、実は結構ガチガチの理論で作られている。どういう順序で、どういうアイテムを使い、どういうシナリオ構成にすれば、皆が盛り上がるかをよく研究している。
安眠系ASMRなら、どのタイミングで視聴者をリラックスできるか。かなり精密にシナリオや台本を作っている。ファンの俺がそう言うんだから間違いない。おそらく、あのキャンディーもおそらくかなり研究されているとみていいだろう。
「ねぇ、センパイ?」
そう言って、しずかは俺の耳元に近づいた。これは……
「こうやって耳元で、キャンディーがはじける音を聞くのって、気持ち良いよね。みんな、大好き、だよ」
俺の脳は、キャンディーよりも甘い何かによって支配されていく。




