第27話 センパイって
私は教室に入ると、自分の机に座り込み、ため息をついた。どうして、最後の最後でいつも弱気になってしまうんだろう。情けない。
日直の佐藤君が、黒板を掃除していた。もちろん、日直というのは照れ隠しの言い訳。あと少しで陥落しそうな先輩の理性は、あと一歩のところで届かない。
焼肉屋デートの時。あのまま店員さんが来なければ、どうなっていただろう。私たちは、一生の思い出に残る恥ずかしい体験を共有したはずなのに……
あの時の記憶がフラッシュバックして、センパイの顔を直視できなくなってしまった。だから、あんな悪ふざけのふりをしてごまかしてしまった。
「あっ、しずか!! おはよー」
仲の良いクラスメイトのまりかさんが、話しかけてきた。
「うん、おはよ」
「どうだった、週末のデート?」
彼女にはお仕事の話はしていないが、恋愛相談は結構している。デートプランも一緒に考えてくれた。
※
「へー、二人で見た思い出の映画の聖地巡礼? いいじゃん、いいじゃん。私も見たことあるけど、あの映画の風景とてもすてきだもんね」
「やっぱり、お買い物は鉄板で。あとは、食事の後に思い切ってこっちからアプローチかけちゃいなよ。オシャレな夜景が見えるところでとかさ。大丈夫、しずかメチャクチャカワイイんだから、絶対に先輩もクラっと来ちゃうよ」
※
こんな感じで、気分を盛り上げてくれた。そして、あのキス未遂事件に至る。
「えっ!? キス寸前まで行っちゃったの??」
あまりに大きな声で叫ぶせいで、皆がこっちに注目する。
「やめて、恥ずかしいよ」
「ごめん……びっくりしちゃって……しずか、たまに大胆になるよね」
「誘惑しろって言ったの、そっちじゃないぃ」
「いや、まさかキスをねだるなんて思わないし。そもそも、センパイだってまんざらじゃなかったんでしょ。じゃあ、両想い確定じゃん。何をそんなに悩むのよ? もうこっちから告っちゃっても大丈夫じゃん」
「そうなんだけどね。幼馴染ってそんなに簡単じゃないんだよ」
「うわ、なんだかめんどくさそうな話をしようとしている」
「だってさ、恋人になったら最後、もう今までの親友みたいな関係には戻れないんだよ? それに……」
「でもさ、私にも小さいころから仲が良い友達いるからわかるけど……異性の幼馴染同士って、関係維持できるだけですごいんじゃない? だってさ、周囲からはよくからかわれるし、なんか意識しちゃうし。でもさ、ふたりともそれを乗り越えて、一緒にいたいと思って努力してきたんでしょ? それってある意味、恋人同士の絆よりもてぇてぇ気がするけど?」
私は本質を突かれて、恥ずかしくなってしまい、顔を真っ赤にして何も言うことができなくなった。




