第25話 寝不足の朝は後輩とイチャイチャ
「センパイ、おはようございます。って、すごいクマですね。寝てないの?」
「ああ、なんか眠れなくてさ」
「もしかして……私とのデートに興奮しちゃった?」
ちょっと小悪魔的な笑顔でしずかは、笑う。清純なはずの制服姿と、配信で見せるドキリとする言い方のギャップに、俺は思わず息を飲んだ。
「おまえ、そんなことばかりしていると、いつか後悔するぞ。世の中は、俺みたいな紳士少ないんだからな」
「大丈夫ですよ。こんな恥ずかしいセリフ、現実ではセンパイにしか言わないもん~」
「そういうとこだぞ」
「あれ、センパイはこういう小悪魔的な後輩、嫌い?」
いえ、大好物です。本当にありがとうございました。などどとはいえず、俺はただ沈黙を守ることしかできない。
「好きなんだぁ」
「……」
答えは沈黙。
「もう、そんなに意地張らなくていいのに。センパイは頑固だなぁ」
もう完全に手玉に取られている。
※
「でも、そんなところが大好き」
※
小さい声でそう聞こえたような気がした。いや、寝不足で幻聴が聞こえただけだろう。しずかは、さきほどと変わらない笑顔で涼しい顔をしている。
そうだよな、きっと気のせいだよな。少しだけ聞こえたため息も、しずかが少しだけ早歩きになったのも……きのせいだ。
「センパイ、今日、日直だったことを思い出したので、先に行きますね。いいですか、決して恥ずかしくなったとかじゃないんですからね」
そう言って、そそくさと消えてしまう。いや、この時間に日直の仕事は、遅すぎじゃね?
そう思いつつ、あえて指摘するのは避ける。あとが怖いからな。
「おい、一樹!! また、かわいい後輩幼馴染とイチャイチャ登校中か? しずかちゃん、先に行っちゃったけど、もしかして、喧嘩した?」
後ろを振り返ると、クラスメイトの親友がいた。
日吉史和。成績優秀ながら、ひょうきんでクラスのムードメーカー。教師によく叱られているが、なぜかテストの成績が良いせいで、扱いに困っているような節がある。趣味はうわさ話だ。
特に、恋バナ大好き。こういう状況で会うのには、かなり厄介な相手。
「いや、日直の仕事があるからって、先に行っただけだぞ」
「へ~、この時間に日直ねぇ。これは何かあった匂いだ。俺の刑事としての勘がそう言っている。つまり、ラブコメの波動を感じるんだよね」
「なんだよ、ラブコメの波動って……」
「というか、なんでお前たち付き合わないの? 普通に考えて、付き合わないのが不思議なレベルで仲いいじゃん」
「複雑なんだよ、幼馴染ってものはさ」
だが、俺は噂好きなクラスメイトの術中にはまって、少しずつ情報を抜き取られていく。




