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第2話 人気Vチューバーの正体・・・

『おい、これリアル放送事故じゃんっ!!』

『うわ、かわいい部屋だな、おい』

『おじさんリスナー歓喜っ!』

『マネちゃん気づいてぇ』

『バ美肉おじさんじゃなかったのか……』

『やっぱりこれドッキリじゃないよな。やべぇじゃん』


 リスナーたちは悲喜こもごものコメントを流し続ける。だが、彼女は気づかない。これはやばいとみんなが思い始めている。実際、こういう放送事故はよくある。例えば、イケボVチューバーが機材トラブルで素顔をさらしてしまい、実はオジサンだったことがばれて炎上して引退に追い込まれたり……


 中の人が普通に美形だったとしても、素顔バレや個人情報流出のせいで過激派リスナーがストーカーとなり追い詰められて引退はたまにある。Vチューバーの個人情報はそれほど大事なものだ。個人情報の流出は、配信者にとっては生死を分けるほど重要な問題だ。


 つまり、どっちに転んでも推しがピンチなんだ。良心的なリスナーは、コメントをしたり、つぶやきったーへのリプでなんとか知らせようとしていた。だが、配信中はスマホの通知音を切っているのかもしれない。彼女は、いまだに放送事故に気づいていない。


『ふぅ、やっぱり配信って楽しいなあ。今日の台本、リスナーさん喜んでくれたかな?』

 みすずは、リラックスした口調だった。ちらりと、ピンクのもこもこの服が画面を横切った。大丈夫だ。まだ、顔は見えていないし、彼女は画面の端に消えていった。


『どうしよう、全然気づかないぞ』

『こうなったら事務所のセンパイや同期の配信に鳩を飛ばすしか……』

『鳩はダメだ。迷惑になっちまう』

『じゃあ、どうするんだよ』

『いけないと分かりつつも、みすずたんの顔を見たい。こころがふたつあるぅ』

『ダメだ、今日はみんなオフコラボ終わりで、誰も配信してねぇよ』


 俺たち古参リスナーは推しを社会的にどう守るのか必死に考えていた。そして、俺も同じだった。これは、火事場の馬鹿力かもしれない。俺はずっと彼女の部屋に違和感を感じていた。


 この部屋、どこかで見たことがある。見覚えのあるカワイイピンクのカーテン。誰かとよく話すお気に入りのマンガの全巻セット。書きやすくカワイイと愛用しているペン。去年の家族旅行で行った旅行先で、幼馴染の後輩のために買ってきた長野県のご当地キャラクターのグッズ。そして、俺の記憶の中にこの部屋と丸っきり同じ家具の配置の部屋がひとつだけある。


 家の隣に住む後輩幼馴染のしずかの部屋だっ!!

 嘘だろ。たしかに、最近忙しそうにしていた。なんでも新しいバイトを初めたから大変らしい。でも、まさか……


 いや、だが……


 普通に考えれば、「しずか」が「みすず」なのか。ここまで部屋が一致するのはおかしい。どう考えてもふたりが同一人物なのは間違いない。


 俺は考えるよりも先に動いていた。慌てて家の外に出ると、俺は小石を拾う。

 俺としずかが昔決めた合図をここで有効活用させてもらった。「頼む、気づいてくれ」と祈りながら小石を2階のしずかの部屋の外壁に優しく3回ぶつける。3回ぶつけた時は……


『大事な話がある。すぐに外に来てくれ』の合図だ。スマホへの直接通話もありだが、通話中にしずかが致命的な個人情報を話してしまうリスクもある。ここはできる限り速やかに彼女を部屋から連れ出すのが一番だ。幸いさっきの放送でも、みすずが歩いている時は顔が映らなかった。これが一番リスクが低い。


 彼女が急いで階段を下ってくる音が聞こえた。スマホで放送を見ているが、よかった、やっぱり顔は映らない。


 そして、しずかは玄関を開ける。ピンクのモコモコした服の上に黒のカーディガンを着ていた。服まで一緒だ。間違いない。


「どうしたの、センパイ? こんな夜に? 用事ならラインしてくれたらよかったのに……」


「いいか、落ち着いて聞けよ、しずか……」


「えっ……嘘。もしかして……ダメだよ、こんなムードもない時にそんな大事なことっ。私もちゃんとオシャレしたいし……」

 何か勘違いしているようだが、俺は無視して続けた。


「いいか、今、放送事故が起きてる。すぐに配信を切るんだ!」


「私もセンパイのことずっと……えっ!?」


 彼女は一瞬青ざめて、俺のスマホに自分の部屋が映し出されていることですべてを察したようだ。無言で部屋にダッシュしていく。すぐに部屋に突入した彼女は、顔が見えないように器用に動きながらPCのカメラをオフにして配信画面に切り替えた。


『ごめんなさい、機材トラブルで見えちゃいけないところが見えてました。とりあえず、アーカイブは非公開にして、後日、ASMRの部分だけ動画にするので許してくださいぃ』


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