第18話 Vチューバ―のご飯と言えば、ウーバーと焼肉
俺たちは駅前の焼き肉屋さんに入った。ドキリとするくらいの高級感が広がっている。俺の知っている焼肉店じゃない。家族連れが食べ放題を楽しむようなアットホームな場所ではなく、むしろ落ち着いている割烹や料亭みたいなイメージ。絶対SNS映えする。港区系女子が好きそうな夜景がきれいな高級レストラン感が満載だ。
「古賀様ですね。ご予約ありがとうございます。こちらです」
俺たちはそのまま個室へと案内される。
「身バレ防止のため、こういう場所ではなるべく個室を使うようにって言われているんだよね。個室なら業界トークとかもしやすいですし……私もオフコラボや収録終わりによく使うんです」
「おうふ」
いや、たしかにVチューバーの打ち上げは個室と言うのが定跡だと聞く。そのほうが身バレ防止対策をしやすいからな。あと、業界は独特な天才肌の人が多いせいもあって、偏食も多い。焼肉は基本的に皆、食べられるので、選ばれることが多い。
クリスタル・クリエイトの配信者でも肉もサラダも苦手だから、ご飯とキムチ、ナムルをひたすら食べる強者もいる。
「どうしたの!?」
「いや、こんな高級店を日常使いしていることに、強烈な疎外感を感じちゃった」
さっきまで少し近づいたと思ったんだけどな。
「何を言ってるんの? 私はほとんど参加できないんですよ。ここに来たのも2回目くらいで……予約は常連のセンパイにお願いしたんです」
「そうなんだ……」
「未成年はすぐに返されちゃうんだ。コンプライアンスとかなんとかで……」
「ああ、大事だよね。コンプライアンス……」
少し安心した情けない自分がいた。
「とりあえず、コースを頼んでみたんですけど、食べたいものがあったら何でも頼んでくださいね」
「さすがは人気Vチューバーだな……」
さっそく豪華なメニューが運ばれてきた。肉の厚みや脂身の多さが段違いだ。
「下世話な話だけどさ、しずかってマスチャとかで稼いだお金ってどうしているの}
「ああ、基本的に貯金ですね。将来の学費を貯めようと思って、この業界に入ったんですよ。はやく、自立したかったし……配信の準備にはできる限りお金をかけちゃうんですけどね。せっかく、皆が私のために使ってくれたんだから、できる限りみんなのために使いたいんですよ。配信の質を上げたり、自分が成長できることに使うようにしているんです」
彼女はそう言って笑う。それがまぶしすぎた。
「すごいよな、しずかは……」
「ううん、すごいのはセンパイだよ。私はあなたがいてくれたからここまで来れた。センパイは大恩人だし……とてもすごい人、だよ? おぼえているかな。私たちが小学校の時の話だけど……」