表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/84

第1話 可愛い後輩が教室で俺に迫ってくるASMR

『ごめんなさい、センパイっ……部活の前に時間を作ってもらって』

 俺は後輩のみすずに呼び出されて、

 カワイイ後輩は、消えそうな声でささやいた。

 夕焼けが美しく教室を照らしている。


『やっぱり、こうして改まって二人きりになると……なんだか、緊張しちゃいますね。センパイはどうですか? やっぱり、緊張しちゃいますよね。よかった、一緒だ』


 みすずは、長く美しい黒髪を揺らす。


『センパイと一緒にいると、とても幸せな気分になるんです。でも、一緒にドキドキしちゃって……聞いてみますか、私の心音?』


 彼女にうながされるまま、俺は左耳を彼女の胸元に押し付けた。

 トクン、トクンと一定のリズムで彼女の優しい音が聞こえてくる。そして、制服ごしに感じる女性特有の柔らかい肌の感触が伝わってくることで、感情が爆発して溶けてしまいそうになる。


『ふふ、こうしているとセンパイが赤ちゃんみたいですね。センパイはいつも頑張っているから、今日くらいは私に甘えてもいいんですよ?』


『私はいつも優しくしてくれるセンパイが《《大好き》》なんですよ』

 それが彼女の失言だったようだ。恥ずかしがって顔を真っ赤にした。


『その、違うんですよ。好きっていうのはその……人として尊敬するっていうか。リスペクトというか……』


『そんな悲しそうな顔をしないでくださいよ。尊敬しているんだから、いいじゃないですか?』


『えっ、異性として見られていないのが悲しいんですか? もう……私の気持ちになんて、わかってるくせに……』


『言葉にしないと伝わらない? んっ、それはいくらなんでも恥ずかしいですよぉ。わかった、言いますよ。言いますから、泣かないでくださいっ。でも、一回だけですからね。ホントにですよ』


『私、有栖川みすずは、センパイのことが大好きです。よかったら、私と付き合ってくださいっ』

 

『もうっ。私が一生懸命、頑張ったんだから、ちゃんと答えてくれないと嫌ですよ』


『ありがとうございます。これからもずっと一緒ですね』


『ねぇ、センパイっ?』


『私達、付き合っているんですよね?』

 頭を少しだけ傾けて、彼女は笑った。


『一つだけお願いがあるんですよ、キスしてくれませんか? ううん、違いますね。キス、してみよ、私達?』


 彼女のくちびるが俺に迫る。温かくやわらかなくちびるが、重なる。優しいリップ音が教室に響いた。


『お互いに、ファーストキスですよね?』

 彼女はゆっくりと俺とハグをする。そして、少し背伸びをして俺の左耳に口を近づけた。彼女の甘い呼吸が、聴覚を刺激し続ける。


『センパイ、だいすきっ』

 言葉が俺の脳を溶かしてしまう。吐息が耳元をくすぐり、感情が崩壊する。


『大サービスですよ』

 みすずは、俺の耳にキスをした。なめるようなリップ音が俺を支配した。


 ※


「うわああああぁぁぁぁぁああああああ」


 部屋に絶叫がとどろく。俺は、衣笠一樹きぬがたいつき。高校2年生だ。部屋と言ってもここは教室ではなく、自分の部屋だ。


 さっきまでのセリフはすべてイヤホン越しで聞いていたVチューバーのASMR配信だ。


『やっぱり、ASMRは楽しいけど恥ずかしいね。今日はね、台本も自分で頑張ったんだよ!!』


 画面の中のVチューバー有栖川みすずは、顔を赤く染めていた。


 長い黒髪。

 着崩すことなくしっかりと着用しているブレザー。

 キラキラで美しく大きな眼。


 清楚系後輩Vチューバー有栖川みすず。

 大手Vチューバー事務所クリエイト・クリスタル所属の大人気Vチューバーだ。


『名前もないただの太郎さん。今日もマスチャありがとう! 名前がないはずなのに太郎って矛盾してない?』


「おっ、俺のマスチャ読んでもらえた!!」


 マスチャとは、マスターチャットの略称で簡単に言えば投げ銭だ。おひねりのように、自分が応援したい配信者に直接お金を配信中に投げ銭するんだ。俺は学生なので、アルバイトで稼いだ小遣いの中から、推し活している。Vチューバートップ層は年間数億円のマスチャを稼いでいると言われている。俺は、学生だから数百円くらいしか投げることができないが、石油王のようなリスナーは1万円以上の赤マスを毎回投げている。


 みすずは、とても記憶力が良いらしく、リスナーの名前を憶えてくれるんだ。俺みたいな目立たないリスナーのことも記憶してくれている。


『いつも少額でごめんなさい? 全然だよっ!! 私もバイトしていたことあるからわかるもん。1時間アルバイトするのがどんなに大変か!! だから、みんなも無理しないでね』


 こんな感じで性格も良い。


『じゃあ、今日はこれくらいで。みんな、明日はゲーム配信するよ。ではでは、乙すがわ~』


 恒例の挨拶で配信はエンディング画面に切り……変わらなかった。


 アニメ調だった画面は、なぜか女の子の部屋を映していた。

 それは絶対に映ってはいけない配信者のリアルな部屋。


 これって、まさか……放送事故!? それとも演出??


読んでいただきありがとうございます。

おもしろかったらブックマークや感想、評価などいただけると嬉しいです!


完結率&更新頻度には自信があるので、楽しんでもらえたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ