第4話 はじめてのてれびしゅつえん!
拝啓、幼馴染殿。
テレビに出ることになりました。
天翼の守護者関連の番組で……と言われて断れませんでした。
最近できた頼れる友人は呆れ返るという言葉も生やさしいほどに呆れていました。
ちなみに彼は断固拒否して帰っていきました。俺一人です。
でも後悔はしていません。
だって、天使関連だもの。
推し活だもの。
命だもの。
滅。
というわけで今日と、闘技大会が開催される一週間は帰りが遅くなります。
無事すぎるほど無事なので探さないでください。
早速、見学会ぶりに天使兼お天気お姉さんに会うことができました。
幸先しかよくありません。
……ただ、なんというかその……。
「元気そうで何よりですぅ♡」
──あっれ〜? でも俺、こんなに好意的に接してもらえるほど、マヤノさんとやりとりしてたっけか……???
さっきから、やたらと明るく色々と話しかけてくれるマヤノさん。
天使には違いないが……ハッ!?
神様、俺は気付いてしまった。
そうか、そりゃ子供に大人気のお天気お姉さんのことだ。
当然見抜かれてしまうよな──俺が緊張しているということに!
それを察した上で、俺の緊張をほぐすために話しかけてくれているのだ。
なんという天使具合。さすがだね。
実際、さっきまで美人さんたちに囲まれていて……正直居心地が悪かったので。
せっかく話かけてきてくれた親切なお兄さんも軽く挨拶しただけですぐに離れていってしまったし……。
マヤノさんが来てからは他の出演者の方たちは遠巻きにこちらを見ているばかりで、積極的に声をかけてこようとはしない。
精神衛生上、大変ありがたい。なんかこの世界の女の人怖いんだよね……よくわかんないけどギラついてる感じが……。
それをマヤノさんからは感じないのだ。
包み込んでくれそうな優しさを感じる。これが、少年少女に大人気のお姉さんが持つ母性というやつなのだろうか。
俺は人を見る目があるので、分かるのである!
というわけで、緊張は無事にほぐれ、番組がはじまった。
お昼の情報番組バラエティということで、なんと生放送である。
最初の挨拶が済むと、お馴染みのメンバーらしき出演者たちの挨拶が進んでいく。
全然知らない……テレビ見ないから……。
俺がちょっとしょげていると、司会のマヤノさんがこちらへと水を向けた。
「そしてぇ──指宿イブキさんですぅ」
「…………っ」
隣の人たちの真似をして、カメラに軽く頭を下げるように挨拶する。
「二ヶ月前の第十支部見学会の映像で見たことがある方も多いのではないでしょうかぁ?」
あの第十支部見学会ではテレビの取材も受け入れていた。
俺が見学会に参加する時の契約書みたいなやつにも「テレビに映ってもいい」みたいな項目があった記憶がある。
その取材承諾はきっと色々な事情があってのことなのだろうが、結果として半分は成功、半分は失敗くらいに終わったんじゃないかと思う。
成功の方は、子供達の憧れである天使たちの喧伝。
あそこでお披露目された戦闘能力や技術力も、支部の威信を高めたことだろう。
失敗の方は勿論、〈誘宵〉の第十支部襲撃事件によるものだ。
事件の直接的な映像は放映されなかったようだが、子供達の見学会が狙われたのもそうだし、そこまで侵入を許した件についての不信感もそうだ。
けれど、結果的に被害はゼロ。
そして〈誘宵〉もVIPの連れてきた護衛の一人だったとかで、防ぎきれなかったことに対してある程度の大衆理解があった。
無論、それでも騒ぐ輩はいたが、それは少数派だ。
そうなれば当然、あの見学会のあとにメインで人々の噂になるのは見学会そのものの方。
襲撃事件の方がお蔵入りになったのもあって、こちらの方がメディアの露出が多かったのも要因の一つだ。
……そして、大変遺憾なことにその見学会には目立つ存在が一人……いやいや、二、三人くらいいた。
そのうちの一人が、大変遺憾なことに! 俺だったわけだ。ウン。
そりゃそうだよね……幼女の中にそこそこの身長の成人男性が混じってるんだもんね……。
放送初期は「どこかの事務所の若手芸能人だ」とか思われていたらしいが、その後、しばらくしてマジモンの素人だとバレると途端に存在が広まったそうだ。
なんでやねん、普通逆だろ。
と思いつつ、それを教えてくれたヒナタちゃんには「へー、コウエイダネー」と答えた記憶がある。
そんなこんなの些事がありつつ、まあ、有り体に言って俺は多少知られた素人になっていた……らしい。
そんな中、たまったま火中(というには多少鎮火していたが)の俺とレオン先輩があのディレクターのお眼鏡に叶ってしまったということなのだそうだ。
ま、先輩は断ってたんだけどね。
ま、俺は断れなかったよね。
ま、天使だしね、仕方ないね。
「というわけで、今回の闘技大会特番では天翼の守護者のファンだという指宿さんにもお話を伺いながら進んでいきますぅ〜」
………………さすがに全国放送で喋れるような人材だろうか、と思わないでもないが仕方ない。
なんかこの世界では男性芸能人ってめちゃくちゃ少ないらしいし、いても希少価値が高すぎて天狗になってる人しかいないとかで、マジで碌な人いないらしいんだよなぁ。
さっきわざわざ挨拶しにきてくれたイケメンとかはめちゃくちゃいい人だったんだと思う。多分。
だって、芸能人なのに自分から挨拶とかきてくれたし……!
きっと顔も性格もいい絶滅危惧種なんだと思う。
顔はともかく、ああいう人となりの人と仲良くなりたいよなぁ……。
なんてダラダラ考えながら番組進行に身を任せていると。
「それでは本日のメイントピック、一週間後に迫った闘技大会の注目選手についてですぅ!」
──キタァッ!!!
出張・天使論功の時間だッ!!
説明しよう!
天使論功とはその週で活躍が目まぐるしかった天翼の守護者を褒め称え、人類みな目に焼き付けてもらおうという素晴らしいコーナーなのである!!
同じ内容をラジオでもやるから、弾丸の軌道を追えるほど目が良くて視力を落としたくない全国の視聴者にもオススメ!!!
人類、聴こう!!!!
そして 出張・天使論功とは、普段週刊で行っているそのコーナーを特別なイベントに際して臨時で行う特別編なのである!!
元々三年目までの天使しか紹介しない新星紹介コーナーの延長であり、闘技大会参加資格の「勤続三年以内」という条件にぴったり!!!
人類、聴こう!!!!
「注目選手はぁ、こちら!」
そのセリフに合わせて、画面には何人かの選手がピックアップされている……っぽい。俺は画面見れないけど。
闘技大会の予選はバトル・ロワイアル形式で、14ブロックから一名ずつ選出される。
いま映っている(っぽい)のは、それぞれのブロックの注目選手だった。
〈沖縄の昇龍〉〈高貴なる翡翠〉〈鋼鉄嬢〉〈伊賀の影〉〈新人狩り〉……。
流石に『わたゆめ』に登場していた子はよく覚えている。
もちろん、そうでない子もいたが、全国津々浦々のラジオを永遠に聴いている俺は彼女たちの名前までは把握していた。
見た目とかは分からないけど……実物は今度スタジアムで見るからいいし。
別に残念なんかじゃ……八割くらいしか残念なんかじゃないし……!!
そして──、
「そして今回の開催地であり、この国の副都心でもあるココ桜邑からは成績トップの二人が出場しますぅ。その発表はぁ──本日この後ですぅ!」
毎年主要都市の持ち回りで行われるこの行事は開催地の負担が中々大きい。
だからこそ労りを持って、その都市が二枠のシードを獲得するしきたりになっている。
一見、開催地に有利なように思われるこの制度だが、シード枠に入れるのはその地区の成績トップ二人のみ。
実力者を多く抱える支部ほど二つしかない枠を巡っての争いは激化する。
それでいて実力不足の天使が多い支部が大したことのない二人を出そうものなら、それはそれで天翼の守護者の威信を損ねかねない。
故に各支部は最低、全国レベルの天使を二人は確保するよう努めている。
それが国民からの天使全体への信頼にも関わっている。
という、実はシード枠を持つ側に不利なシステムであった。
……まあ実際、強い天使のいない地域からすれば有難いんだろうけど、そんな地区ないし。
「いないよなぁ!?」というお上からの各支部への圧力でもあるわけだ。
そんな堅苦しい話はどうでもいいんだ!
今回のメインはそのシードを誰が獲るかという話。
無論、俺はこの結果を『わたゆめ』で知っている。
ヒナタちゃんとルイだ。
……俺はどうしてもこのセットを組まなきゃいけない理由があって、闘技大会までは原作改編をしないようにと粉骨砕身してきたのだ。
途中、崩れそうになる時もあったがなんとか……持ち堪えたように思う。
………………………………最近のヒナタちゃんを加味しても……持ち堪えたと……思う。
成績的には影響してないはずだし……多分……。
「…………っ」
強く瞑目し、邪念を振り払う。
本編の流れ通りにいけば、ここではルイが成績一位を取る。
ぐいぐいと実力で追い縋っているヒナタちゃんだが、今回までは成績で後塵を拝した形だ。
養成学校卒業からの差は流石に数ヶ月では埋まらない。
だからこそ! と直接対決では親友を超えるための、友情を超えた激闘を見せ……と、ここでネタバレをするのは流石に無粋というものである。
原作改編に対する一抹の不安は、確かにある。
しかしそれ以上の確信を持って、一位と二位はルイとヒナタちゃんであると断言できる。
俺はほぼ確信を持って腕を組み──。
「今期成績二位は雨剣ルイ、一位は傍陽ヒナタですぅ〜〜!!」
「………………は?」
俺は思わず画面を見た。
目が潰れた。




