第7話 はじめてのでーと
「デートって、何するんだ……?」
帰宅し、扉を閉めた瞬間。俺は我に帰った。
前世は女兄弟のいる環境で育った都合、ショッピングに付き合わされるとかで引っ張り回されるのは散々経験している。
転生してからも、クシナと買い物に行くのはその延長だし、なんならこの前のヒナタちゃん(withルイ)とのお出かけもそれだ。
デートとなると聞き齧ったメジャーどころしか分からん。
「映画館とかか?」
いや、しかし今回の目的がヒナタちゃんの変化を確かめることにあるとなると、そういう鑑賞系は向いていないような……。
「一旦、次のデートで確かめたいことをまとめるか」
自分の解釈とのズレに関しては置いておいて、
「なんか男に優しくなってない?」というのは結構、問題である。
「イブキ」の時だけじゃなくて「〈乖離〉」の時にも優しく、というか手心を加えてくれるようになってる気がするんだよね。
実際、この前とか寝技極められて挽回不可能なところから逃げ出せたし……。
まあ、俺の場合は助かってるのでいいのだが。
これで他の男にも手心を加えるようになってしまうと困る。
少なくとも上半期の新人で2位の実績にまではなってくれないと原作通り行かなくなる可能性が出てきてしまうし……。
「そう考えると、反応を確かめるために男がたくさんいるところ……? ──最悪だな。ナシ」
そもそもデートっつってんのに、そんなとこ連れていくワケないだろうが。アホか、俺は。
ヒナタちゃんが楽しくないと、そもそもデートの意味ないだろ。
俺の目的は二の次!
となると、ヒナタちゃんが好きなものだな。
「あ」
♢♢♢♢♢
これはねー、我ながらファインプレーだったと思うんだよね。
「絶対に楽しんでくれるに間違いないからね」
本日は現地集合。
ということで、一時間前に目的地に着いた俺は自画自賛しながら壁に寄りかかってヒナタちゃんを待っていた。
ここは桜邑にいくつかある繁華街の中で端の方に位置している。
ショッピングモールや俺たちが百年祭で訪れた通りとは少し離れた場所だ。
どちらかと言うと図書館とかに近いかな。
人混み!って感じではないものの、それなりに人出はある。
広告を出したら一定の効果があるとは思われているらしく、今も『世界で活躍する新進気鋭の歌姫、来日!』と書かれた広告宣伝車が目の前を通り過ぎていった。
あれ、この前ルイと話した時に最近ちょくちょく聴いてるみたいに言ってたアーティストだ。俺も次会うまでに聴いておこうっと。
「──デートの前に他の女の子のこと考えてませんか?」
「!?」
突如、真横から声をかけられて心臓が飛び出すほど仰天する俺。
「ひひひひひなたちゃんっ」
「はい、ヒナタです」
後ろ手を組んで、じとっと俺を見上げてくる天使がいた。
ば、馬鹿な!? この俺が、ヒナタちゃんが半径500m以内に入るまで気づかないだと!?
「ちがうんだ、ヒ──え、待ってめちゃくちゃ可愛い」
「ふぇっ!?」
しまった。思わず口に出た。
俺は口元を押さえながら、今日のヒナタちゃんを目に焼き付ける。
白いブラウスに、黒のロングスカートを合わせている!
ふわりと広がる長い裾が大人っぽくも、ヒナタちゃんの元気な雰囲気を隠し切らない絶妙な塩梅!
そしてブラウスの胸元には黒いリボンが結ばれており、両袖にも同じものがあしらわれている。
ちょっとゴシックっぽいシンプルなモノトーンコーデ。
ワインレッドのローファーが素晴らしすぎる……。
「ヒナタちゃん、なんでも似合うね……今日も可愛いよ……」
「そ、そんなこと言っても」
と、頬を膨らませかけたヒナタちゃんだったが、俺がかなり真剣に言っていると分かったのか、眉尻を下げた。
「……うれしいので、今日は許してあげます。お待たせしました」
「ありがとう。俺もいま来たところだから大丈夫だよ」
「くす、嘘ばっかり。……それにしても」
と、すっかり機嫌を直してくれたヒナタちゃんが、待ち合わせの建物を見る。
「まさかお兄さんからここを提案されるとは思いませんでした」
その桃色の瞳に宿る光は、懐かしさを湛えていた。
「白天秤ミュージアム、数年ぶりです」
白天秤ミュージアムは【循守の白天秤】のこれまでの歴史とか、普段の活動とか、そう言ったことが知れるミュージアムである。グッズとかもある。
……もうちょっと下手すると変な宗教団体みたいになりそうな名前はスルーが安定です。
概要だけ聞くとあまり面白くなさそうな場所だが、意外にも人気である。
それは天翼の守護者が実質この世界にとってのヒーローみたいなものだからだ。
前世の頃からアメコミのヒーローのミュージアムとかは凄い人気だったから、それに照らし合わせるとなんとなく分かるかもしれない。
俺も好きです。そして、
「昔はよくきていたんですけどね。養成学校を出てからすっかり自分のお仕事で精一杯で……」
ヒナタちゃんは多分、俺以上に。
その証拠に、入口を臨む彼女の両手はバッグの持ち手をしきりににぎにぎと動かしている。
久しぶりのお気に入りの場所に待ちきれない、と言った様子の可愛い推しにバレないように苦笑。
「じゃあ、早速入っちゃおうか」
「──はい!」
元気に頷く推しに癒されながら、俺はヒナタちゃんとミュージアムの入り口に向かう。
……そう、これならヒナタちゃんも楽しめる。
そして、俺も彼女の核心に触れることができる、はず。
分からないけど──とりあえず、今は楽しもうと思う。




