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推しの敵になったので【四章完結!】  作者: 土岐丘しゅろ
第一章 墜翼のシンビオーシス
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序幕 天使/オモテ

初投稿になります。温かい目で見守っていただけると幸いですm(_ _ )m


 景色が背後へと吸い込まれていく。

 そう錯覚するほどの速さで駆ける。


『ポイントFに出没した【救世の契り(ネガ・メサイア)】構成員、特定! コードネーム〈乖離(カイリ)〉ですッ!』


 イヤーカフ型通信機から気勢ある声が響いた。

 地を蹴る足が一層速まる。

 歩道から上がる人々の歓声さえ置き去りにして。

 走行する車体の間を縫うように追い越していく。


『対象に動きはありません! ですが現場への急行をお願いします!』


 通信司令室の声は逼迫(ひっぱく)していた。

 敵の出現地が哨戒ルートから最も外れた場所だからだろう。


『それが難しい場合は他支部から増援を──』

「その必要はありません」


 イヤーカフに手を当て、司令部の通信に割り込む。


『…………!』


 いつしか目の前に近づくスクランブル交差点。

 信号機の色は、赤。

 しかし、速度は落とさない。

 停止線の直前でアスファルトを蹴り、


「──既に、向かっています!」


 車両が行き交う交差点の上で、宙を舞う。


傍陽(そえひ)隊員っ!』


 その最中。

 周囲の景色が、ゆっくりと流れ。


 ───見えた。


 遥か前方。

 道の真ん中で待ち構えるあの姿を見紛(みまご)うはずもない。


「対象発見。接敵まで──およそ十秒!」


 着地と同時に再び駆け出す。


『っ! はや──っ』

「通信、一旦切れます」

『っ、了解。ご武運を!』


 みるみるうちに近づく敵影。

 常人の目には追えないほどのスピードを以って、


「はああっ!!」


 鉄籠手(ガントレット)に包まれた拳を突き出す。

 挨拶代わりと言わんばかりのその一撃は、


「──来たね」


 音もなく、相手の掌に受け止められる。

 けれど、そんなことは分かりきっていた。


 彼岸花の意匠が施された黒いローブをまとう眼前の敵の名は、〈乖離(カイリ)〉。

 悪の組織【救世の契り(ネガ・メサイア)】の構成員にして、因縁深き相手でもある。


 対するは、治安維持組織【循守の白天秤(プリム・リーブラ)】の若きエース──傍陽(そえひ)ヒナタ。

 彼女はぐいっと顔を寄せ、宿敵の瞳を真っ向から睨みつけた。


「今日こそあなたを、捕まえてみせます」


 善なる少女と悪の青年の戦いが、幾度目かの幕を開けた。




 大通りを(さら)うように吹き抜ける風が、白の隊服と黒のローブを揺らす。

 静寂が辺りを覆い、向かい合う両者ともに相手から視線を切らさない。

 緊張の糸がきりきりと音を立てる中、悪の組織構成員〈乖離〉は──、


 ───くうっ、今日も推しがかっこいいいっ! そしてかわいいいっ!!


 今日も今日とて、推し活に勤しんでいた。

〈乖離〉改め──本名、指宿(いぶすき)イブキはオタクである。

 そして目の前の少女、傍陽ヒナタこそが彼の“推し”であった。


 彼の認識に則って言うならば、この世界は『私の()た夢』という漫画作品──通称『わたゆめ』──を元としている世界だ。


『わたゆめ』は、正義をもって悪を討ち果たす天翼の守護者(エクスシア)という存在に憧れ、英雄に手を伸ばさんと欲する少女・傍陽ヒナタの物語である。

 …………である、はずだったのに、


 ──カッコイイだけでも神なのに、カワイイまで付いてくるとか正気ですか? ヒナタちゃんマジ二相女神っ!


 なにをとち狂ったのか、この世界の管理者──そんなものが存在するのかは不明だが──はこの悲しきモンスター(ガチオタク)を自らの箱庭へと呼び込んでしまったらしい。


 この世界にあって自分は異物でしかない。

 悲しきモンスターとはいえ、彼はそれを正しく認識している。

 けれど、今の彼に“推し活”を自重する気は一切ない。


 むしろこの世界の人間として生まれ変わったならば、よりいっそう近くで推しを堪能しなければ失礼に当たると言っても過言ではないのだ(過言)。


 ──ともかく。


 推しの敵になったので、最前列で推しを眺めていたい!


 この物語は、たった一つの願いから始まった。




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