その女子高生 異世界の方々に遭遇する ⑤
もちろんそれは彼にとっては唐突かつ意味不明なものだった。
「なぜ?」
当然のようにその言葉を口にする元男子高校生。
だが、命令した方にとっては彼のその言葉こそ「なぜ」となるらしい。
まずは馬鹿を相手にするときに見せるようなその表情とともにわざとらしいリアクションをたっぷりと見せつける。
それからゆっくりと彼の問いに答えるために口を開く。
「決まっているだろう。異世界の魔物が目の前に現れたのだ。そうなれば、貴様が魔物に食われるところを見たいのは……ではなかった、甲冑を着込んだ貴様が戦いまみたんを守るところを見たいのは当然ではないか」
美少年風少女は漏れ出したその言葉をわざとらしく訂正した。
もちろんそれは相手がエサに食いつくようにするためだ。
そして、当然のようにことは彼女にとって予定通りに進む。
エサに食いついた男が顔を真っ赤にしながら口を開く。
「春香。今、俺が魔物に食われるところが見たいと言っただろう」
「言っていない」
「いや。言った。俺は間違いなく聞いた」
もちろん彼の言葉は正しい。
だが、それだけのことであり、それによって彼の立場と、これから起こる目の前に迫った未来が変わるわけではない。
そして、それはすぐに証明される。
「まあ、貴様がそこまで言うのならそういうことにしてやってもよい」
一度言葉を切った美少年風少女はニヤリと笑う。
「だから、どうした?」
「どうしたも何も俺はあんな奴と戦いたくない。勝てるわけもないし」
「つまり、まみたんを置き去りにして貴様は逃げるというのか?」
「そういうわけではないが、無理なものは無理なわけで……」
「貴様はヒロリンの話を聞いていなかったのか?」
「ヒロリンの話?」
「そうだ。ヒロリンは何と言ったのかよく思い出せ」
そう言われた元男子高校生が彼にはまったく不似合いな難しい顔をして少し前にメガネ少女が口にした言葉を思い返す。
そして、ほどなく彼はある言葉に辿り着く。
「……防御魔法」
「そうだ。それがどういう意味か貴様はわかるか」
「もしかして……」
「そういうことだ。こちらは完璧な防御が施されている。そのうえでの戦い。つまり、今回の貴様は負けのない保険付き。それでも、貴様は戦わずに逃げるというのか。まみたんの前から」
……たしかに筋は通っている。
もちろん相手はあの春香だ。
どこかに落とし穴があるのではないかと彼は疑った。
だが、いくら探してもそれはない。
……つまり、問題はないということか。
「いや。もちろん戦う。だが、おまえにしては珍しいな。俺にまともなアドバイスするというのは」
「まあな。だが、たまにはいいだろう」
「では、ここは素直に感謝することにするか。だが、戦うことに関してひとつだけ問題がある」
「なんだ?」
「鎧が重いのだ」
これまた彼のいうとおり。
彼が身に着けている黒い甲冑は防御力は高いものの、その分重量があり、彼にとってはいわば枷。
これでは俊敏な動きなどできない。
だが、美少年風少女は彼の言葉を一笑に付す。
「愚かな。それなら脱げばいいだろう。どちらにしても、今のおまえは無敵状態。そもそも鎧などいらないだろうが」
「そ、そうだったな。確かにそうだ」
彼女の言葉を何も疑わず鎧を脱ぎ捨てる元男子高校生。
甲冑と同じく黒い光でつくり上げたような剣も重いが、これなら振り回すことはできる。
……これならいける。
……そして、まみの前での活躍。
……それがようやく実現する
……そして、やってくる。俺とまみの明るい未来。
「では、いくぞ」
「おう。健闘を祈る。橘」
だが……。
それから、すぐ。
元の男子高校生の口から呻き声とともに声が漏れる。
「これはどういうことだ……」