その女子高生 異世界の方々に遭遇する ②
恭平がすばらしいご褒美をもらってから三十分後。
その男は怒っていた。
荷台でお茶会を開いている者たちのひとりを指さし……。
「おい、春香。あんな危険なものを仲間に対して使うとはどういうことだ。感電死していてもおかしくなかったのだぞ。本当に死にそうだったのだからな」
そう。
鞭から流れる強力な電流に彼は泡を吹いて気を失い、ほんの少し前にようやく意識を取り戻したのだ。
だが、怒りに満ちた男の言葉は不敵な笑みを浮かべながら頭を振った少女にあっさりと否定される。
続いて、ついさっきまで地面に転がっていた彼を遥か高みから蔑むように見下していたその少女の口が開き、誰もが予想したその言葉が吐き出される。
「そもそも貴様は仲間ではないだろう」
「なんだと」
そこから始まる口論、続いて一方的な暴力の嵐となるのはいつもどおりの流れであり、当然結果もそれに見合ったものになる。
五分後。
予定通り勝利した勝者が再び口を開く。
「ついでに言っておけば、おまえは死にそうになったのではなく実際死んだのだ」
「……どういうことだ」
悪い予感が……。
いや、悪い予感しかしないまま男が恐る恐る尋ねると彼の天敵である美少年風少女は嬉しそうにこう答えた。
「簡単なことだ。貴様は感電死したが、生き返ったのだ」
「い、意味がわからん」
「まあ、理解力が欠如している恭平君ならそう言うでしょうね。では、それについては私が」
当然といえば当然であるが、彼女の言葉を理解できず納得もしていない彼の大いなる疑問に答える役を買って出たのはメガネ少女だった。
「まず結果を言えば、ハルピの言うとおり死んだ恭平君が生き返ったのです。まあ、正確には生き返ったのとは少し違いますが」
「きちんと説明しろ」
自分の立場をわきまえずどこまでも高飛車な物言いである恭平の言葉。
もしこれが美少年風少女に対するものだったら、すぐにお仕置きが始まるところである。
だが、幸いにも相手はメガネ少女。
何事もなくその言葉は流される。
「つまり、この世界に来た恭平君はなんと不死の力を手に入れたということです」
「生き返ったのではなく、死んでいないということか?」
「その辺は微妙ですね。一度死んで復活したのか、そもそも死んでいないのかといえば、前者だと思いますので」
そう言ったメガネ少女は薄い笑いを浮かべさらに言葉を続ける。
「とにかく、恭平君はこの世界にいるかぎりどのような事態になっても死ぬことはないということです。よかったですね」
……たしかに。これで安心して死ねる。
……いやいやいや。そもそも死ぬような目に遭うほうがおかしいのだ。
……それに、ここでヒロリンの言葉を肯定などしたら、春香が何をしでかすかわからない。
一旦はメガネ少女の言葉に同意しかけた彼だったが、すぐさま鳴り響く危機感知センサーに従い、微妙に話題をずらして話を進める。
「だが、俺はそんな自覚はなかったぞ。それなのになぜおまえにそれがわかるのだ?」
「それはもちろんこの世界の神様がそう話かけてきたからです。その男はどのような状態になっても絶対に死なないと」
たしかに彼が死ななくなったというのは本当のことである。
だが、残りの部分についてはすべて嘘。
真実はそうなるように魔法かけられていたのである。
目の前にいるこのメガネ少女に。
……どう考えても胡散臭い。
しかめっ面の彼をおもしろそうに眺めていた美少年風少女の口が再び開く。
「まあ、よくわからんがそういうことらしい。そして、ヒロリンからその話を聞いた私が本当かどうか試してみたわけだ。最大パワーの電撃で。結果は本当。つまり、貴様はどんなに激しいお仕置きを受けても死なないらしい。しかも、死なないだけでそれに相応しい痛みは感じることができる。厳しいお仕置きされ痛めつけられることを最高の喜びと感じる変態の貴様にとって今の身体は最高のものといえるだろう」
「チョット待て」
そこまで話が進んだところでその声を上げたのはもちろん不死の身になった元男子高校生である。
「今の話では、さっきのあれは、俺が本当に死なないのかを確認するためだけにやったように聞こえるが」
「まあ、簡単に言えばそうなるな」
「……それで、もし生き返らなかったらどうするつもりだったのだ?」
「そのときはそのときだ。まあ、そうなれば荷物持ちはいなくなるが、口は動くが体は動かない目障りで役立たずのゴミ虫がいなくなってせいせいするという利点もある。そして、その収支を考えたらあきらかなプラスだったのだが、残念ながらゴキブリ並みのしぶとさを手に入れた貴様はいまだ動いている。実に忌々しいことだな」
「ふ、ふざけるな」
「ところで……」
三人の会話に割って入ってきたのは、このグループの中で一番長身であるかわいいというよりは綺麗と言ったほうがその美しさを表現するには正しいように思える少女だった。
「死なないというのはさっきの実験でわかったが、たとえば恭平が魔獣に食われた場合にはどうなるのだ?」
……つまり、まりんが尋ねているのは肉体が消えても復活できるのかということか。
長身の少女の言葉をすべて理解した美少年風少女が口を開く。
「……たしかに。それに炎系魔法でこいつの身体が消し炭になり風に吹かれて燃えカスが飛散した場合もどうなるのだ?」
「もちろん大丈夫です」
……よかった。
ふたりの少女から復活できない可能性がある事例をふたつも挙げられ、不安に駆られる元男子高校生は心の中で安堵する。
そう。
実をいえば、自らが口にする数々の男らしさ満載の言葉とは裏腹に彼は特上の小心者だった。
その彼を安心させたメガネ少女はさらに言葉を重ねる。
「その場合でも恭平君が死んだ瞬間に復活します」
長身少女が面倒くさそうに長い黒髪を掻き上げながら問いの言葉を口にする。
「肉体がなくなっても?魔獣の胃袋の中で復活してもいいことはなさそうだが」
「そのような場合は新しい肉体で復活します。そして、その場所は下僕見習い候補の恭平君の主人であるまりんさんの足元となります。ただし……」
「ただし?」
「身に着けていたものは失われてしまいますので、復活したとき恭平君は全裸となります」
「よかったではないか。橘。堂々と人前で全裸になれて」
もちろんそれは美少年風少女からのものである。
だが、彼が本当にそれを望んでいるのかといえば、そんなはずはない。
彼の名誉のために言っておけば、意気地なし、根性なし、いいとこなしという負の三拍子が揃った彼だが、露出狂というわけではない。
当然人様の、しかも、憧れのまみたんこと松本まみの前で全裸を晒す屈辱はどうしても避けたい彼は慌てて口を開く。
「いいわけがないだろう。おい、ヒロリン。そこは魔法でなんとかしろ」
「なんともなりません。隠したいところがあるのなら復活した瞬間自分で隠してください」
「露出狂のこいつに隠すところなどないだろう」
「ふざけるな。パンツを見せることが趣味の春香と違い○%×$☆♭♯▲!※……俺は年頃の……」
「露出狂か?」
「ち、違う。と、とにかくヒロリン。なんとかしろ」
「無理です」
「まあ、目の保養ができる先生や春香はいいかもしれないが、少なくても私は恭平の裸などという汚らしいものは見せられたくない。すぐに一度死にたくなかったら私の足もとで復活した時にはすぐに隠せ」
「お、おう」
「まあ、とりあえず話はついた。では、さっそく練習を兼ねて試してみるか。橘。復活したら貴様の汚らしいものはすぐに隠すのだぞ。それから最初に言っておくが、今後のこともある。できるようになるまで何度でもやり直しをするからな。ヒロリン。炎魔法でこいつを焼き尽くせ」
「了解です。では、恭平君。黒焦げになる準備はいいですか?」
「ふざけるな。俺はそんなものはやらないぞ。絶対○%×$☆♭♯▲!※」