その女子高生 異世界の方々に遭遇する ①
「……くそ。重い。少しは痩せたらどうだ」
その集団の先頭を歩く黒い甲冑から何十度目かになる恨みたらしい男の声が聞こえる。
まあ、彼が置かれた状況を考えればそれは当然といえば当然のことではある。
武器であるはずの大剣を杖代わりにどうにか前に進んでいるその男の腰から延びる太いロープの先には馬車。
いや。
それを引いているのは馬ではなく人間なのだから、ここは荷車と呼ぶのが適当なのかもしれない。
とにかく、彼が引いているそれの上には五人の女性と大量の荷物。
つまり、その男、ほんの数日前まで男子高校生だった橘恭平は彼を除く仲間全員が乗る荷車らしきものを引いていた。
もちろん強制的に。
言うまでもないことだが、顔が普通よりいいのが唯一の取柄である自己評価と他人の評価が天と地ほどの差がある自称男らしさ満載のこの元男子高校生が女性とはいえ五人が乗る荷車を引けるはずはなく、メガネ少女の魔法によって重量は大幅に軽減され、彼が引いているのは実際の十分の一ほどの重さのものである。
だが、それでもまだ罰ゲームには十分過ぎる重さはある。
さらに、彼が身に着けている甲冑。
身動きひとつできなかった当初のものに比べれば段違いに軽くはなっているが、それでも重い。
実際のところ、これを身につけて歩くだけでも彼にとっては相当な負担ではあった。
「お、おい。そろそろ休憩の時間だろう」
「馬鹿か。貴様は」
疲労困憊の彼の懇願。
というのには随分と上からの物言いである彼の言葉に即座に反応したのはセーラー服姿の四人の少女の中で特別スカートの短い少女だった。
「まだ三時間も経っていない。というか、さっきから百メートルも進んでいないではないか。この根性なし。言っておくが五キロ進むまで意気地なしの貴様には休みはやってこない」
「春香。おまえは鬼だろう」
「こんなかわいくて優しい私を鬼とは言うではないか。橘。そういうことなら……いや。この件に関しては私が悪かった」
言動すべてがガキ大将そのものでありセーラー服を身に着けていなければ美少年と言われても誰もが納得しそうなその少女は言いかけた自らの言葉をあっさりと取り消すと、黒い笑みを浮かべ直し、隣に置かれていたある道具を手にする。
「つまり、まずご褒美が欲しいということだな。それなら、最初からそう言えばいいだろう。そして、貴様のお望みのご褒美とはこれのことだろう」
そう言って彼女がこれ見よがしに彼の前に差し出したもの。
多数の突起のある鞭。
しかも、強力な電気ショックを与えることができる特別製。
もちろんそのようなものはこの世界には本来存在しない。
つまり、これはこの美少年風少女がグループ唯一の男子にお仕置きをするための道具としてリクエストし、メガネ少女の魔法によって生みだされたものである。
「本来なら貴様がやるべきことをやった褒美として与えるところだが、今回は特別に前渡ししてやる。心優しい私に感謝してありがたく受け取り、それを糧にしっかり働け」
「や、やめろ。俺はそんなものは欲しくはない……○%×$☆♭♯▲!※」