830.魔女の弟子と乱戦極まる侵攻戦
マクスウェル・ヘレルベンサハル。彼の持つ覚醒『三天一読』は他者の覚醒を奪う覚醒である。それ単体では意味をなさず、されど覚醒を奪えば以降それはマクスウェルのものとして作用する。
彼はこれにより魔力覚醒を二万と四千七百八十四持っている。更にスコルズ・ブライドル達に渡したものも加えればその総数は三万強。本来一人一つのはずの覚醒を三万以上扱う彼の強さははっきり言って常軌を逸していると言える。
マレウス王国軍の兵士が『まるで無数の覚醒を扱うようだ』と称したのは、本人はその手数の多さを褒めたつもりだろうがその実、的を射ていた。マクスウェルは本当に無数の覚醒を持っている。
その複数の覚醒から繰り出される攻撃力、単純な火力はホドやケテルを上回る。更に利点として彼は自分の覚醒の内容がバレたとしても一切デメリットが存在しない。なんせ、三万以上もあるもののうちの一つがバレただけ、誤差の範囲。
弱点があるとするなら……そもそも覚醒者自体の少なさとその奪う方法の面倒さ。だがここに目を瞑れば覚醒はいくらでも増やせる。覚醒者を安定して手に入れる方法を確立しさえすれば問題はなう。一度にストックできる覚醒に上限もなく、一度に使える覚醒に上限もない。
同時並列的に数万の覚醒を起動できる。故に彼は無敵であり、最強であり、唯一絶対の結果をもたらす存在としてこう呼ばれる……『勝利』のネツァクと。
「ふむ……」
「チッ……!」
ぶつかり合うデティフローアとマクスウェルの対決は、マクスウェルの有利に動いていた。これは即ち無限の魔術と無限の覚醒の対決とも言える。古式魔術ならまだしも、現代魔術では覚醒には勝てない。
デティフローアはそれを何百何千と重ね合わせ、ようやく覚醒以上の火力を出していた。しかしマクスウェルはその覚醒を何千何万と重ねられる。火力に根本的な差がある。
「見れば見るだに面白い覚醒ですね、ぜひ欲しい」
「あげないよ!」
「貰うので大丈夫です」
瞬間的にマクスウェルの背後に浮かぶ光が八角形へ変わり、超速となりデティフローアを蹴り飛ばし同時に足先から放たれた無数の光弾が足の形に変わり、更に吹き飛ばしたデティフローアを幾度となく蹴り据える。
脚力強化に加え、攻撃に物理的影響力を持つ残像を飛ばす覚醒、ついでに触れた箇所を爆発させる覚醒を加えた蹴り。その一撃は他人にとっては切り札になり得る効果が複数乗ったものとなる。当然デティフローアは城壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。
「ぐっ……クソ!」
(即座に再生した、あれは覚醒の力ではなくデティフローア自身の魔力が治癒魔術に対して魔力波同化現象を起こしているのか。覚醒している間はオートで回復ですか、厄介極まる)
眼鏡を掛け直し、軽く肩を振って関節を整えるマクスウェルは砦の方に目を向ける。
(さて、時間的にはそろそろカーヴル平原の方も戦闘が始まり、戦線全体で攻勢が始まっている頃ですね。本来は指揮を行う私がここで戦闘している時点で他の戦線には指揮が届かず、マレフィカルム軍は機能不全に陥っているだろう)
カチリと音を立てて掛け直した眼鏡が白く輝く。その口元には笑みが溢れ、ラグナ・アルクカースを嘲笑う。
(──と思っているのでしょう。だからデティフローアは私に対して時間稼ぎをしようとしている。だが無意味、寧ろ時間稼ぎはしてくれた方がありがたい)
ニタリと笑ったマクスウェルには一計があった。それはアド・アストラ軍がこちら向かっていると知り、即座に全拠点に向けて通達した命令に由来する。
まず戦場になる事が予測される前線砦達には徹底した籠城を命令しておいた。全ての要塞には大規模魔力防壁機構を展開するように言った。
何者も侵入を許さない対攻城用魔道具だ。覚醒者であっても突破は出来ない大防壁、それで城を囲むことで侵入を徹底して防ぐ。フリードリスのような超巨大な要塞では出来ない最新鋭の守り方だ。
徹底的な籠城、その間に後方で控えさせた別動隊を動かし横に間延びしたアド・アストラ軍をそれぞれ寸断する。自分が攻めていると勘違いしていたアド・アストラ軍は気がつけば軍の連携を崩され孤立することとなる。
問題は兵站ラインがあるかないかと言う点がだが、ラグナ・アルクカースは必ず兵站ラインを作っている。ここは間違いない。
何故なら敵はつい最近、転移魔力機構にのみ依存した結果。それを破壊されフリードリスが孤立すると言う失敗をしたからだ。同じ轍を二度踏むバカが相手ならそもそも苦労はない、故にラグナ・アルクカースは必ず原始的な方法で群そのものを連携させる仕組みを作っている。
そこを叩く。そうすればあとは持久戦、前線にあるだろう転移機構を優先的に破壊すれば敵の前線部隊は壊滅的な打撃を受けることとなる。
(籠城の目的は時間稼ぎ、即ち時間が欲しいのは私達も同じなのですよ。やや目算が甘かったですね、ラグナ・アルクカース)
「ッまだまだやれるよ!」
だと言うのに、未だに頑張って私をここに繋ぎ止めようとするデティフローアの努力は涙ぐましい。ならば良い、ここで彼女を粉砕する。デティフローアが消えれば敵に与えた損害はそう簡単には修復出来なくなる。
「いいでしょう、上位互換の力を見せてあげます」
軽く手招きをしてデティフローアの挑戦に乗る。別動隊が敵の連携を崩すまで、多く見積もってあと数十分、それまで遊んであげるとしましょうか。
………………………………………………………………
戦場には、セフィラが多く来ている。それを聞いた時、僕は思ったんだ、もしかしたら……奴も来ているかもしれないと。
「ッどこだ、どこにいる……!」
メルクさんとデティさんを先に行かせるため、獣人戦士達を前に分身で乱戦を繰り広げながら僕は周囲を探す。獣人戦士達は強い、硬い、しぶとい、こんな優秀な戦士を今まで使ってこなかった理由はなにか?僕は色々考えた。
恐らくだが指揮系統の変化。今まではゴルゴネイオンが指揮を取っていたが今はセフィラが指揮を取ってる。だからセフィラが出せる戦力を出してきたんだ。それがこの獣人兵……こいつら、どこかで見たことがないか?ある、あるさ僕たちはこれを見ている。
これは……メサイア・アルカンシエルの作った魔獣因子を混ぜた半獣半人の戦士だ。メサイア・アルカンシエル亡き今、何故こいつらがここに現れた、決まってる。決まっているんだそんなもの!!!
「ヒャハハハハハハハハ!!」
「ッ!」
瞬間、空から降り注いだ鋭い刃の一撃をクルリと体を回転させ、アクロバットに回避する。着地と同時に敵味方入り乱れる戦場の只中に立つアイツを見る。
「確か、シャクンタラ……でしたっけ」
「随分な覚醒をお持ちで、これはこれは……マクスウェル様へのいい手土産になりそうだ」
灰色の髪に赤いローブ、さっき城壁の上で僕達を出迎えた奴だ。けどこいつは多分セフィラじゃない、だってそんなに強くないから。
「あなた、サトゥルナリア・ルシエンテスですね?閃光の魔女プロキオンの弟子」
「だったら、なんだ!」
「いえいえ、ここで一人。魔女の弟子を潰しておいた方が良さそうかなと思い……ましてね!!」
瞬間、赤い宝石が埋め込まれた刃が幾度となく振るわれる、槍と杖を組み合わせたような仕組みの武器が次々と迫るが、それを体を捻り、回し、次々と避ける。このくらいなら、なんてことはない。
「むぅ!ならこれはどうだーーッ!秘技『乱魔斬閃』!!」
更に動きが早まる、宝石から幾度となく衝撃が放たれ、加速と方向転換が続け様に行われ、僕を更に追い詰める。追い詰める?追い詰められてはいない。
防壁を展開し刃を弾き、驚くシャクンタラを前に僕はペンを取り出す。
「一つ、聞きたい。この獣人達の出所を知っているか……!」
「え?まぁ、なんせ彼らをこのように改造したのは他でもない私ですので!」
「……じゃあお前は、マレウス魔術理学院の人間だな」
シャクンタラは驚いたように眉を上げ、距離を取る。何を驚いているんだ、魔獣因子の抜き出しは理学院の技術のはずだ、それくらい僕だって知っている。そんなこと今はどうでもいい、それよりこいつが理学院の人間だってことの方が問題だ……。
「理学院の人間ってことは、お前は……ファウスト・アルマゲストの部下だな!」
「よもやそこまで知っているとは。誤魔化しようがないですね、ええそうです。それが何か?」
「教えろ、ファウストはここに来ているか……」
「さぁて、そこに関してはどうでしょう」
ギリっと歯を噛み締め、懐からばら撒くのは……魔術陣を書き込んだカード。そして僕は虚空にペンを走らせ。
「ッそれは!?魔術箋!?イシュキミリの技を何故お前が!?」
「いいから、教えろッッ!!僕は今とても怒っているんだから……魔術箋『久那土赫焉』」
膨れ上がる業火、無数のカードから放たれた魔術の数々が僕の魔術陣を通じて一つとなり、炸裂しシャクンタラを吹き飛ばし、城壁に叩きつける。
「ガァ…ガッ、バカな、私が……この私が」
「おい、お前、もう一度聞く」
「ヒッ!」
全身黒焦げになったシャクンタラに近づき、その顔を掴み上げ、ペンの穂先を向ける。今僕は凄く怒ってるんだ、求めている、焦がれていると言ってもいい。だから早く教えて欲しい。
「お前のボス、ファウスト・アルマゲストは……ここにいるか」
「な、なんでファウスト様をそんな……」
「いいから教えろ、イシュキミリさんの道を踏み外させて、狂わせて、あんな結末に追い込んだ……『知恵』のビナーはどこにいるッッ!!」
魔術理学院現院長ファウスト・アルマゲスト、またの名をセフィラ『知恵』のビナー。奴はかつてメサイア・アルカンシエルの会長だった過去があり、イシュキミリさんの師匠だった。奴がイシュキミリさんの道を踏み外させ、部下を使って取り返しのつかない虐殺を行わせ、狂わせた。
イシュキミリさんは本当は優しくて、本当は敵の僕にもいろいろな事を教えてくれるくらい……いい人だった。あんな優しい人を利用して、使う捨てた『知恵』のビナーを許さない。
ここにセフィラがいて、獣人兵というアルカンシエルの発明がある以上、『知恵』のビナーも来ているんだろう。なら教えろ、そう僕が詰め寄ると……。
「ふ、ファウスト様は、来ていない。私が代理としてここに来たんだ……だから、いない」
「嘘じゃありませんね」
「嘘じゃない!嘘じゃない!」
多分嘘じゃないな、こいつが僕を騙せるほどの演技力を持ってるとは思えない。ということは本当に来ていないのか……どうして来てないんだ、来ていたら。
「もういいです、はい」
「え?今おでこになに書いて……」
「雷撃陣です、寝ててください」
「は!?ちょっ──ぐぎゃぁああ!?!?」
シャクンタラの額に電撃陣を書き込み、寝かしつける。ビナーはここに来てないようだ、残念だ。けど仕方ない、来てないものは仕方ないんだ。
けど、いつか必ず見つけ出して、イシュキミリさんの仇を取る。悪辣には代価を、悪徳には鉄槌を、それが世の摂理ならば。ビナー……お前に逃げ場はない。
…………………………………………………………
そして所は変わり……カーヴル平原。アド・アストラ軍とマレウス・マレフィカルム連合軍がぶつかり合う激戦の一つ。
そこは混沌と化し、アド・アストラ側は苦戦を強いられていた。
マクスウェルが覚醒と力を与えたスコルズ・ブライドル一万人。それは戦力としては絶大極まるもので、第三段階三人を要するアド・アストラ側も簡単には突破しきれずにいた。
「チィッ!こいつら上手ェなァッ!!」
クルリと体を回し、俺は覚醒者の攻撃が飛び交う地下施設の広場にて、舌を打つ。今俺は二人の覚醒者と戦っている……それは。
「流石はラグナの兄貴と姉貴、ってか?」
槍を構える黒衣の女戦士ホリン、細剣を二本構える黒衣の美麗剣士ラクレス。即ちラグナの姉と兄、アルクカースの王族コンビだ。本来は覚醒者じゃないはずの二人が、何故か覚醒を使い、更にそれを巧みに操り俺を追い詰めるのだ。
いやこいつらだけじゃねぇ、カロケリの戦士達からも大量の覚醒者が出ている。どうなってんだか知らねーが、タネを探っても仕方ない。今は今を凌ぐことだけを考える。
「極・魔力覚醒!『鬼門呪殺の悪路王』!」
腕を振るうと共に発動させるのは極・魔力覚醒、髪は白く染まり背後に伸び、大地がうねりを上げ歪み始める。あんまり使いたくはなかったが、こいつら強えんだよ!
「『羅門黒熊盤肘』」
「うッ!?」
気がつくと、ホリンに懐に潜り込まれていた。腕を丸めた状態で飛び込んできたその姿に気がついた次の瞬間、まるで暴れ狂う熊のように怒涛の肘打ちが叩き込まれる。
突き刺すような、それでいて膨れ上がるように打撃の雨に表情を歪め、防壁でホリンを弾き返す。
痛い、今の攻撃……凄まじく痛い。だというのに体に残る感触はあまりにソフト、叩きつけられたというより触られただけで痛みが走った。ホリンの攻撃は全てがそう。
(恐らく、奴の覚醒は……力の削減か)
──ホリン・アルクカースの覚醒『二郎絶招四兩撥千斤』は必要とする力の削減。一行動に対して必要とする力を五分の一に抑えるというもの。
踏み込み、加速する。それを本来の五分の一の力で再現が出来る。殴りつけ、血を吐かせる。それを本来の五分の一の力で再現出来る。必要とする力が本来の五分の一で済む。
それは単純にパワーが五倍になるのに加え、スタミナの削減の効果もあり。
なにより、武術において必要とされる脱力と滅法相性がいい。脱力しても威力が下がらず、本来の威力を何十倍に増幅出来る。それはまさしくホリンの特徴にあまりに合致した覚醒と言える────。
(ホリンだけならいい、けど。マジで厄介なのはあっち……ラクレスの覚醒。あんな覚醒がこの世にあったのか)
チラリと見る先にいるのはラクレス。奴の覚醒『止戈為武』は完全なデバフ型、恐らく効果は魔力を振動させる事で魔力に由来する行動を妨害するもの。魔力を展開するとそれがグラグラと揺れて万全の力を発揮できないんだ。
純粋な自己強化であるホリンと純粋な他者弱化であるラクレス、そしてそもそも戦闘センス抜群の二人の攻勢は完全に俺を押さえ込んでいた。
ラクレスがいなけれな無条件に呪術が成立するこの力でホリンの体を縛ることも出来るが、それが出来ない程にこっちの魔力が不安定になってやがる。
(早えところ片付けて先に進みてぇーんだが)
「『激手烏龍盤打』ッ!」
「うざってぇんだよッッ!!」
脱力された腕から繰り出される鋭い打撃、それを拳で受け止め、大地が割れる。鋼鉄製の床がひしゃげ、風船のように破裂しながらも俺は空へと飛び上がり呪術にて呪う。
俺の極・魔力覚醒は間合いの中にいる存在を無条件で呪う、生物非生物問わず呪うそれは割れた鋼鉄製の床さえも変質させ、漆黒の怪物を無数に作り出しホリンを襲わせる。
しかし、ホリンはそれさえも片付ける。槍を振るい次々と迫る鋼鉄の顎門を叩き砕き、冷静に対応して見せるのだ。あまりにも鮮やかな手口、だが……。
「甘ぇよ」
握る、虚空を。大地に着地した俺は呪術にてホリンの内臓を掴んだのだ、空間内にいる存在は全て呪えるんだ、そりゃあホリンも変わらねー。ラグナには悪いがここは一つ二つ、内臓を潰させてもら──。
「チッ!邪魔くさい……!」
ホリンの内臓を捉えた手を、咄嗟に引っ込める。ラクレスだ、ラクレスの視線がこちらに向いた瞬間呪術で繋いでリンクがブチ切られた。やはりラクレスから先に倒すべきか……!
だが魔力に由来しないホリンはラクレスのジャミングの中でも平然と動ける。面倒臭い事極まりない……!
思ったよりも時間がかかっている、奴らと戦い始めてもう直ぐ十分。こっちの体力的な消耗はないが時間を無駄にしている感が否めない。
「アマルトーーー!!!」
「お?」
この戦いにやり辛さを感じていると、ふと俺を呼ぶ声がする。なんだいなんだいと視線を向ければ、壁を粉砕して現れたのは……カーヴル平原を攻めるアド・アストラ軍、その本隊だ。
そう、俺達は遊撃手、であるならば当然その背後には数万のアド・アストラ軍がいる。そしてそれを率いるのは三人の将、うち一人がこちらに向けて飛んできて。
「なに情けない戦いしてんの!!」
「タリアテッレ!」
瞬きの間に飛んできた斬撃がホリンを弾き返し、俺の背に影が立つ。俺と同じ明るい茶髪、銀の剣を構える銀鎧の剣士、否……世界最強の剣豪。コルスコルピ王国軍の総大将タレアテッレ・ポセイドニオスだ。
彼女は肩越しに俺を睨み。
「私ちゃんを超えるんじゃなかったの、アマルトくん」
「うっせぇ、俺ぁ第三段階だぞ、超えてんだよもう!」
「じゃあこのザマはなに、第二段階が二匹。格下に絡まれて手こずるなよ」
ウルセェなこいつ、だが……言う通りだ。格下だ、第二段階が二人だけ、いくら相手がアルクカースの王族とはいえ、少なくともラセツならこんなザマにはならなかった。つまり俺が無自覚で遠慮をしてるって事だ。
「友達のお兄ちゃん、お姉ちゃんとは戦えない?」
「………」
「お前、そんな甘い奴だったっけ?」
「…………そうだ、根はいい子なんだよ」
「じゃあ、手を抜くのは違うだろ」
黒剣を構える、タリアテッレは銀剣を片手で構えホリンを睨む。こうしている間にもアド・アストラ軍が雪崩れ込み、一気に場は乱戦の様相と化す。
そんなな乱戦の中でも目を引くホリンとラクレスは俺達だけを狙う。
「奥にこの件の黒幕がいる、あんたがやりなよ、アマルト」
「じゃあここだけ手伝ってけよ、タリアテッレ」
「無論……!」
背中合わせで剣を構える。俺達はホリンとラクレスのように兄妹じゃない、従姉弟である。仲も良くもないし昔は恨んですらいた、だが。
その実力の高さは、よくよく理解してるんだ。連携って点じゃあ負ける気がしねぇな!
「行くぜ!タリア!!」
「おうよ!魔力覚醒『ピルフェット・セコンド・ピアット』!!」
刹那、タリアテッレの剣が光に包まれ、巨大な両刃剣へと変化。万象を断ち切る光子剣となり、向かうのはホリン。対する俺はラクレスへと向かう、どうやらラクレスの魔力妨害は一度に一人しか対象に取れないようで俺にしか妨害が飛んでこない。
タリアテッレの言う通り、遠慮していた。やり辛いと感じる事そのものが、戦いを長引かせる愚かな行為だった。真に友を思うなら友の親族を傷つけまいと振る舞うのではなく、たとえ傷つけてでも……操られたラクレス達を止めるべきだった!!
「『光斬───!」
「『呪拳───!」
一瞬だ、ホリンの技量を上回る技量を見せたタリアテッレの光子剣が相手の槍を八つ裂きにし、その眼光が無防備なホリンの姿を捉えたのは。
瞬きだ、俺の剣がラクレスの斬撃を、あまりにもか細い抵抗を砕き、同時に握った拳がドス黒い魔力を宿したのは。
一撃で砕く、アルクカースの連携を。一撃で潰す、俺達二人の連携が。
「──ブリュノワーズ』ッッ!!」
「──アプラティール』ッッ!!」
乱れ飛ぶ光の斬撃、それがホリンの体を切り裂き、両手足の腱を叩き切る。光芒を残す拳の一撃がラクレスの顔面を捉え、殴り抜き、地面へと叩きつける。それは今までの苦戦が嘘のように、秒速で終わるものだった。
全く、嫌なもんだよ。手前の未熟さを指摘されるってのはさ!
「アマルト!あんたは先に進め!例のデモンズに制裁を叩きつけろ!!」
「指示すんな!……けど、分かったよ。コルスコルピ最高戦力アマルトさんに任せとけよ!!」
あとは、デモンズをやるだけだ。
………………………………………………
「進め!アルクカース!同胞の無念を!武勇によって晴らせ!!」
カーヴル平原に派遣されたアド・アストラ軍、その指揮官は四人。アルクカース軍を指揮するベオセルク、オライオン軍を指揮するネレイド、コルスコルピ軍を指揮するタリアテッレ……そして、もう一人。
「援軍が来ました!ネレイド様!このまま突破しますか!それとも、継戦し味方の援護をしますか!
「………」
ネレイド様は珍しく悩む。戦場全体の戦況を見るならばここで足を止めずデモンズ討伐に動くべき、しかし、この場の戦況を見るならば自分達は抜けるべきではない。そう判断しているのだ。
敵の魔力覚醒者は一万、対するこちらは十人にも満たない数、兵の人数は勝っていても覚醒者の数で大幅に負けている。この状況を覆せるのは自分達だけ。
事実私とネレイド様は今数十人の覚醒者を倒し、他の兵卒を守っている形になる。これが抜ければ味方に甚大な被害が出る。
しかし、そこで……。
「ッッ!」
迫る、目の前の黒衣兵が剣を構え私に迫ってくるのです。ネレイド様もフォローに入ろうとするが、遅い。完全に私のミスだ、この状況で気を抜いた。
が……しかし。
「メグ」
「あ!」
弾く、突如空から降り注いだ巨大な鉄剣が私の前に突き刺さり、向かってくる黒衣兵の攻撃を防ぐ盾となったのだ。
その鉄板のような大剣、これは……間違いない。カーヴル平原攻略戦を任された四人の将、その纏め役を任された、帝国将軍──。
「ゴッドローブ将軍!」
「気を抜きすぎだ、お前が傷つくとルードヴィヒに小言を言われる」
漆黒の肌、後ろに流した金のオールバック。そして黒い鎧の上から白いコートを着た姿。間違いない、ゴッドローブ将軍だ。彼は私の前に立ち大剣を地面から引き抜くと同時に、それを肩で背負い。
「神将ネレイド、判断を迷ったか」
「……はい」
「なら私が統括役として指示を出す。メグ、お前が奥へ進め、覚醒者の群れは私とネレイドで請け負う」
「ゴッドローブ将軍、いいのですか」
「構うことはない、行け!」
そう叫ぶと同時に、ゴッドローブ将軍は大剣を構え気勢よく魔力を放つ。既に齢を五十を超え六十に近く、ルードヴィヒ将軍と共に時代を牽引してきた彼は老兵の域に差し掛かりつつある。
彼の人生は影の人生だったと言える、万世の天才ルードヴィヒと同期で軍人になったお陰で彼自身に注目が当たることは少なかった。確かにタイマンで戦えばルードヴィヒ将軍には敵わない、恐らくだが未だ現役のゴッドローブ将軍より片腕のルードヴィヒ将軍の方がまだ強いかもしれない。
だが、私は知っている。
「極・魔力覚醒」
『対軍戦』に於いて、多対一の状況に於いては、ゴッドローブ将軍の方が遥かに強いと。
「『大空匣鎖獄界盤』」
一瞬だった、ゴッドローブ将軍の五体から放たれた光がこの地下施設を包み込み、そして支配したのは。発動と同時に空間に浮かび上がるのは……薄い線、それが乱立している。
ゴッドローブ将軍、彼は空間ごと切り裂く大魔術『ディメンションゴッドセキュア』の使用を皇帝から許された者であり、空間魔術の使用に関しては帝国随一と呼べるものである。
そんな彼の極・魔力覚醒『大空匣鎖獄界盤』もまた世界編纂型、空間を司るものである。
発動と同時に200m圏内を掌握。内部の空間を1m四方の箱型で区切るように薄い線が走る。線そのものに物理的影響力はなく、ただ升目で空間を区切るのみ。ただその真髄は……。
「『乱現』」
「ッッ!?!?」
その一言で、景色が変わる。目の前にいた黒衣兵達が消え別の黒衣兵が現れ、また消える。それを高速で繰り返す。そう、これが彼の覚醒の力。
即ち、升目で区切った空間同士を入れ替える事……即ち目の前の升目と遥かに離れた升目の空間を置換する事が可能。空間ごと転移させている為抗う手段はない。
また、置換されるのは升目の中にあるもの限定である為、体の一部が升目の外に、或いは別の升目にはみ出ていた場合は、容赦なく裁断されはみ出た部分だけが切り取られ別の升目に残される。
入れ替える数に限度はなく、入れ替えるスピードにも制限がない。これを高速で入れ替え続ける事で相手に何もさせない事が可能、接近することも許さず、完封が出来る。
事実黒衣兵達は皆ゴッドローブ将軍に接近しようと駆け寄るが、空間ごと別の場所に入れ替えられあっという間に引き離される。それを繰り返しているのだ。
「『ブーストホーン』!!」
瞬間、高速で入れ替えられる空間の中で、一人の黒衣兵が頭から生やした巨大な角を砲弾のように放つ。
確かに、接近出来ないのなら遠距離攻撃を行えばいいかもしれない……な、わけはない。寧ろそれは握手だ。
「『転換』」
ゴッドローブが軽く指を動かすと目の前の空間、区切られた升目がぐるりと回転する。放たれたツノごと空間が反転し逆に黒衣兵に向けて飛び。
「ァガッ!?」
「爆発するツノか、面白い覚醒だ」
逆に自爆を誘い、ツノが黒衣兵に着弾し爆発した瞬間、それを黒衣兵の群れの中に転移させ周囲の黒衣兵も巻き込み攻撃する。
そう、升目の空間は場所だけでなく方角も自由に決定できる。空間を反転させればそのまま攻撃を弾き返す事が出来る。
場所が高速で入れ替わり、同時に方角も切り替わる。さっきまで上だった場所が下になり、右が左になり、予兆もなく、前兆もなく、前触れも変化し続ける。黒衣兵達は何も出来ない。空間が切り替わり引き離され、空間が回転し地面に向けて落ち、攻撃を仕掛けたら味方の側に攻撃が飛ぶ。
これがルードヴィヒ将軍をして『対多人数戦に於いて最も相手にしたくない相手』とまで言わしめた、ゴッドローブ将軍の力。ぶっちゃけ私は思うのです、何故ラグナ様はゴッドローブ将軍ではなくアーデルトラウト将軍を一番最初の援軍に選んだのか……こう言う多人数戦が各地で巻き起こる戦争においてゴッドローブ将軍以上の適任はいないでしょうに。
「さぁメグ、行け。神将ネレイド、援護を頼む」
「は、はい!」
「分かった、けどどう援護したらいいのか分からない」
瞬間、私はゴッドローブ将軍により黒衣兵の向こう側にある空間と入れ替えられ、一瞬で包囲から抜け出す。流石です、ゴッドローブ将軍!
「オラァッ!!」
「あらアマルト様」
「メグ!無事か!」
と同時に黒衣兵の群れを吹き飛ばし、地面を変形させながら走ってくるアマルト様と合流する。どうやらアマルト様も敵の包囲を突破出来たようだ。
「悪い、時間かかっちまった」
「構いません、それより皆様が戦っているうちに!」
「おうよ!!」
恐らく敵はこの広場に全戦力を傾けている。であるならばこの奥にはデモンズしかいないはず、私とアマルト様は二人で奥の扉を開け、廊下を駆け抜ける。デモンズを捕らえる、まずはそこからだ。
洗脳を確実に解除する明確な方法は未だ確立されていない、しかし……捕まえることさえ出来ればなんとでも出来る!
「許せねぇよな、メグ」
「はい?」
「味方をさ、友達の国の人間をさ、あんな捨て駒同然に使って、俺達と無理矢理戦わせるなんてさ、許せねぇよ」
隣を走るアマルト様はなにやら怖い顔をしている。この方は基本ドライだ、しかしその実結構情に熱い。この国がラグナ様の国だと強く意識しているからこそ、そのラグナ様の心を慮って……怒りを抱いているのだろう。
「アマルト様、顔怖いですよ」
「うるせーな、俺は元々怖い顔だよ」
「そんな事はありません、アマルト様はとっても優しい───む」
瞬間、私は感じる。違和感を、廊下の外側から不穏な魔力……これは!
「アマルト様!向こうに!!」
「え?ぶわぁっ!?」
私はアマルト様の顔を掴んで投げ飛ばし、同時に壁を粉砕して飛んできた鉄槌の一撃を両手で防ぐ……敵だ!
「壊すよ!全部壊すよ!壊す!」
「何者ですか、貴方は!」
「『第七壊神』シャカリキ!ぶっ壊す!!」
黄緑の髪をした少年が鉄壁を粉砕し、巨大な鉄槌を私に向けて振り回す。それを次元渡りで回避しつつ、私はアマルト様に視線を送る。こいつは私が倒しますので、貴方は先へ。
そう声にするまでもなく彼は頷き、走り去る。さて……倒しますか。
「喰らえぇぃっ!『御釈迦打ち』!!」
「冥土奉仕術・外典!『鐘鳴拳』!」
拳と鉄槌が打ち合う。私の拳には大量の魔力、アーデルトラウト様のラグナロク・スコルハティを真似た一撃が見舞われるも、シャカリキの手から放たれた鉄槌の一撃は私と同等。或いはそれ以上の威力を発揮する。
嘘でしょう、私一応極・魔力覚醒を発動してるんですけど……この人も第三段階?そうは見えないが。
「ふヒヒ、オレ!壊すよぉ〜〜」
「貴方、第二段階ですよね」
「勿論!オレはぁ〜〜!」
振り上げる、槌を振り上げる、そして全身から放たれる魔力がシャカリキの体内で花火のように無数に弾ける。あの魔力の動き……既に覚醒を発動させてる、いや待て!それだけじゃない!
「『過重覚醒』!!」
(複数の覚醒持ち!?まさかこいつ……ラクレス様達のように何者かによって覚醒を与えられてると!?)
「『エストレミズモ・ディクタドール』!!」
モリモリと巨大化し、筋肉の塊、化け物となるシャカリキに……私は静かに武器を取り出す。
体の中で十以上の魔力が暴れ狂っている。こいつ、力を与えられたと言うより、無理矢理注ぎ込まれた?ラクレス様達のように覚醒を持たない人間だけでなく、そもそも覚醒を持つ人間にも覚醒を与えられる?……しかも、二個や三個ではなく、十以上の覚醒を?
そんな破格の力がこの世に存在するのか。いや、それ以前に。そんなあり得ない事が起こった人間はどうなってしまうんだ。
「ぶひゃひゃひゃ!!壊すよーー!!!」
「フッ!」
振り下ろされた槌は、シャカリキの腕力に耐えきれず中頃で折れ、結局拳だけが地面に叩きつけられ、廊下が粉砕。崩れる瓦礫、天井、その中に次元渡りで転移しシャカリキの背後を取る。
服が破れ、膨張した胴の筋肉により首が埋まり、胴体から直接頭部が生えるような不気味な筋肉の塊となったシャカリキ、その丸太のような腕を振り回しこの狭い地下施設の廊下を掘削していく。
あれをこのままにしたら、この地下施設そのものが埋まりかねない。ここは……。
「冥土奉仕術『量子霊斬』」
手元に構えた刀がブレる、量子の力により曖昧になった刃は存在しながら存在しない状態へと移行し、そこから放たれる斬撃はシャカリキの体を傷つけず、臓器のみを切り裂く。如何に強固な筋肉の鎧で守ろうとも、それを貫通すれば意味はなく────。
「そこかァッ!メイドぉ〜!!」
「なっ!?」
しかし、シャカリキは口から血を吐きながらも振り向き、鋭い打撃を放ってきた。その一撃は私の防壁すら貫通、避ける暇も与えず私を吹き飛ばし壁に叩きつけ、粉砕する。
バカな、臓器を確かに切り裂いた筈なのに何故動く。まさか筋肉の圧迫で傷口からの出血を防いだとでも言うのか?それとも治癒能力を持って……?
(まずい、覚醒十個持ち。これは相当キツイでございます)
口元から垂れる血、暴れるシャカリキ。それを前に私は刀を構え……考える。
これをどうにかする手を。
「ゔわぁああああああ!!見てますか!見てますかぁイノケンティウス様ぁ!オレ!オレ全部壊してるよぉおお!!」
「チッ……!」
次々と振るわれる拳を次元渡りで回避し続け、私は舌を打つ。速い上に一撃一撃が重い……。どうする、あれを倒すには相当な大火力が必要だ、いつもの暗殺術を応用した無力化攻撃は通用しないぞ。
(やはり、私はまだこの極・魔力覚醒を使いこなせていない……)
攻撃の雨を回避しながら、私は思う。アルクカースに援軍に来るまでの二日間で、私はコーディリアからヘベルの大穴での一件を聞いた。
未来の私は極・魔力覚醒を使い、焉魔四眷のアーリウムを倒したらしい。その時の力はまさしく圧倒的、なにもさせず完封したとのこと。
その時の記憶はないものの、なんとなく分かる。未来の私は量子の力を完全に理解して、その性質を髄まで使いこなしていた。
量子のブレによる認識されるまで確立しない事象、確率変動による無限の動き。それらを行えれば私は無敵だ、だが……聞くのとやるのは話が違う。どうすればそこまで徹底して極・魔力覚醒を制御出来るのか私には想像も出来ない。
なら、私はどうしたら……。
「イノケンティウス様こそ!世の支配者に相応しいぃいいい!」
「………」
今私が持っている最高火力は次元砲。それに量子の力を合わせ、確実に全てを相手にぶつけると言うものがある。しかしそれでも倒せる気がしない……。
相変わらずだ、手数が増えても課題である火力面が解決されていない!やはり私は器用貧乏で終わるのでしょうか……。
『いいか、メグよ』
(ハッ!イマジネーション陛下!)
ふと、私は見る。目の前に薄らぼんやりと浮かぶ陛下の幻影を。陛下!私に新たな力を授けてくださいませ!
『メグ、我はいつも語っているだろう。時空魔術は直接的相手にダメージを与えるものは少ない、火力不足に悩まされるのも無理はない』
(違います!これは私のせいです!)
『そうだお前のせいだ』
(厳しい)
『メグ、どんな力もただ振るうだけでは意味がない。知恵だ、知恵を絞って使うから強いのだ。足らぬなら足るまで考えよ、今のお前に想像できる事は全て今のお前に可能な事なのだから』
(陛下……)
『賢いお前なら、出来るはずだ』
はずだ、はずだ、はずだぁ……と反響して消える陛下の影を前に、私は頷く。確かに、知恵を絞らねば勝てるものも勝てない。未来の私もまた知恵を絞って戦い方を模索したのだろう。そんな私の真似をしてたとしても、それはただ無思考に模倣したものに過ぎず、真の力とは呼べない。
であるならば、考えろ。考えるのだ……今の私にはなにが出来る。デイデイトと戦った時のように相手を原子レベルで分解するか?それとも粒子を回転させてぶつけるか?……いや。
(原子、粒子、量子……そして、次元)
パチリ、パチリと一つ一つのピースが重なる。時界門、次元砲、そして極・魔力覚醒、それらが一つに重なる感覚を覚える。そうか、そうなのか。
つまりはエリス様の流星旅装。あれと同じ考え方をすればいいんだ。……ならば、これだ。
「なるほど、これならいけそうです」
「なにがだぁああ!!」
「つまりは、よっと」
振るわれた腕をクルリと回転し次元渡りでその場から消え回避、同時にシャカリキの目の前に立ち……近くの小さな石ころを手に取る。
「これから、これでお前を倒します」
「石ころ……バカにしてぇええ!オレは!オレはぁあ!イノケンティウス様のために化け物になったのに!お前はオレをバカにしてぇえ!!」
振り上げられる拳を前に私が構えるのは小さな石ころを、人差し指と親指でつまみ上げるような小さな石ころ。今からこれでシャカリキを倒す。つまりはこれでいいんだ。そう考えた私は……石を掴んでいないもう片方の手で指を鳴らす。
「『時界門』」
「ぬぅぁ!?」
シャカリキの足元に大穴が開き、落ちていく。そちらに私も飛び込み……向かうのはカーヴル平原上空。即ちこの地下施設の外、遥か先に地面が見えるような高さに飛び出し、足場を失ったシャカリキがジタバタと暴れる。
さて、始めよう。真の意味で私は今から目覚めることとなる。
「お覚悟を、などと。言うまでもありませんね、魔女大国に喧嘩を売ったその時から、それは決まっていて然るべきものですので」
「うぅっ!?」
両目が妖しく輝き、私は指で小石を弾き……次元渡りで小石を別次元へと飛ばす。私は今、空間と時空と量子、万象の全てを操る事ができる。そこをフルで使う!
「参ります、……『次元門』」
指を一つ一つ折りたたむように、拳を握り、狙いを済ませるのは足場を失ったシャカリキ。そして開くのは……別次元に通じる門。即ち次元砲と同じように別次元に飛ばしたものを引き戻す穴を空間に開けるのだ。
なら戻すのは何か?さっきの小石?いいえ、そんなもんじゃありません、引き戻すのは。
爆発力でございま〜す。
「冥土奉仕術・奥義……『業火灼閃』」
振りかぶった拳を思い切り振り抜くと、同時に。次元門から解き放たれたのは……眩い光でした。
私が今出来る事、それは時界門による指向性のある転移、次元操作による別次元からの移動、そして量子操作による万象へと分子単位への干渉。これらを一つに重ね合わせる。
まず小石、あれに干渉を行う。量子操作により分子規模で干渉を行うのです、帝国の研究によると物質は原子という細かいツブツブで構成されているらしいのです。そしてそのツブツブを外側から抑える極めて強い力が存在する。
私はそれを取り払った、原子を抑える力を消し去れば、原子はやがて崩壊し、反発し、四方に光と熱となって飛び散るらしい。それを行いました。
小石を構成する原子を崩壊させ、発生させたのは……『原子爆発』、核爆発とも言いますね。その威力は凄まじく、某ソニア氏が作った件の爆弾並みの破壊力があるようです。
それを次元門を通すことにより指向性を持たせる。別次元から移動する際、光速度にまで加速した原子爆発を一気に解き放つ。それは逃れられない速度でシャカリキに向かい───そして。
「ヒッ!ぎゃ─────」
一瞬、彼の体を衝撃が襲い。光線は遥か彼方まで飛翔する。やがてそれは奥地の山に衝突、貫通し更に向こうまで飛び、消える。
同時に腕を振るい、量子を操る力で原子爆発が引き起こす見えない毒を中和し自然の汚染を阻止……と同時に。
「参りましたね、これは。新たな悩みが生まれてしまいました」
地面に着地し、目の前を見る。そこには私の一撃により抉れた大地、穴の空いた山、どこまでも続く破壊の跡が見える。ううむ……困ったな、火力不足という問題は解決したが、これは。
「『火力がありすぎる』。おいそれと使えませんよこれ」
指を鳴らし、時界門を開けば落ちてくるのは傷だらけになったシャカリキ。当然殺していない、直撃する寸前で時界門で救出した……が、余波だけで全身ズタズタだ。直撃させていたら死んでいた。
こんなもん、おいそれと使えば世界がめちゃくちゃになってしまう、下手すれば自爆や仲間を巻き込む恐れもある。そもそも制御も難しいし……ああ、なるほど。
「これが魔女様が感じている『苦悩』ですか」
今この時私は本当の意味で目覚めた、人間を遥かに凌駕し、単一で世界を崩し得る力を持つ者。先んじてネレイド様やエリス様が到達した段階。
つまり、魔女と同じ視座を持つ段階に。私はこれからどうやって戦うか、ではなく、どうやって周囲の被害を抑えながら戦うか、にシフトしていかなくてはいけない。
これが、魔女様が簡単に戦場には出ない理由か。フフフ……。
「ここまで来たのに、まだ陛下の背中が遠い」
傷だらけになったシャカリキを引きずって、とりあえず私は下に戻ることにした。




