829.魔女の弟子をと大戦のレコンキスタ
サイラスにとってそれはあまり難しい計算ではなかった。
まず、一番最初。マレフィカルムがアルクカースに攻め込んできたあの日のこと。サイラスは敵の戦力とその勢いを見て『ああこれは守り切れないな』と悟った。
こちら側の準備は不足しており、先んじて反撃の手を潰され、徹底してこちらをころしにかかつてきている。
これは勝てない、前線で指揮をとっていたサイラスは直ぐに悟り、同時にこうも考えた。『勝てないが、恐らくまだ負けることはない』と、というのもチグハグだったからだ。
初手で街を囲み、ベオセルク隊長を倒し、転移機構を壊しフリードリスを孤立させる。ここまではあまりに的確だったのに、そこからはまさかの武力一辺倒の突撃を繰り出してきた。
恐らく敵はフリードリスそのものの防御力の高さを侮っていたのだろう。普通なら孤立させれば後は数で押せば要塞一つ簡単に陥せると考えるのは分かる。だがあそこは世界最強の大要塞フリードリス、ただ数で押すだけなら直ぐには落とされない。
数日、第三段階が多数いる軍勢相手でも少なくとも数日は持つと考えたサイラスは……部下を退却させながら自分は雲隠れする事を決断。
今ここで自分がフリードリスに残ってもあまり価値のある仕事は出来ない。だがフリードリスが持ち堪えたなら、必ず逆転の芽が生まれる。その芽を守る為の一手を打つなら自分は要塞から離れる方が良いのだ。
そこからはもう闇雲だった。馬を走らせ敵軍に見つからないように、時には敵軍に紛れ、ひたすら敵軍の動きを観察し続けた。
それからしばらく、ようやく時がやってきた。アルクカース軍が反撃を行い瞬く間に街を解放していったのだ。そして同時にマレフィカルム側が新たな指揮官を立てた。
サイラスはこれを『決戦の予兆』と見てとった。今、マレフィカルム側とアルクカース側にそれぞれ指手が揃った。お互いが睨み合い、最初の一手を打とうとしている。
もしここで、番外から一手差し込まれたら……どうなるか。
確信する。自分が出るべきはここ、そして……ここからひっくり返すのだ。その為の材料は揃っている。
……………………………………………………………………………
「やはり、来ましたか」
鉄軍街ヴィルヘルム、そこはかつてアルクカースの大貴族ヴィルヘルム家の領地だった街。当主であるグリザス・ヴィルヘルムはマレフィカルムの大軍勢を相手に自らが鍛えた鉄軍兵と共に戦い、結果的に敗北。
グリザスは街を放棄し逃げ出し、この街はマレフィカルムの物となった。ヴィルヘルムの軍事要塞が如き大屋敷もまたこちら側の所有物となったのだ。
その屋敷の最奥、執務室にて……私は顎に指を当てる。
「ネツァク様、敵は既に最前線に大軍勢を構えています。このままでは攻め込まれてしまいます、先んじて攻撃を仕掛けましょう!」
執務室には、多数の豪傑が座っている。全員マレフィカルム所属の組織を束ねるリーダー達だ、八大同盟には及ばないまでも、或いは時代によってはその座に就くこともあったろう実力者達。故に私は側近として彼らを侍らせたのだが。
「あんまりバカなことを言わないでください。少し考えればそんな意味不明な行為をしても何にもならないことくらい分かるでしょう」
「う……」
攻め込むのは勇敢で、守りに入るのは愚か?馬鹿馬鹿しい、今どきそんな理屈アルクカース人でさえ言わない。敵軍は数で勝っている、そんなところにこちらから赴けばどうなるか?説明する価値が見当たらない。
と言うか作戦自体は先日伝えているのに、忘れているのか。
「敵はどの道我々のいる拠点を素通り出来ないのですから、ここに来ます。そこで迎え撃った方が余程良いと考えますが?どうでしょうか」
「そ、それはその通りですが」
「はぁ〜……」
これは総帥のミスだろうか、組織達の自主性を重んじて出来る限り接触は控えてきたが、自主性を育んだ結果生まれたのがこんなバカ達なら、最初から首輪をつけて調教しておくべきだった。或いは、元老院が潰えたのも原因か。あそこが消えてからマレフィカルムに入ってくる組織はゴロツキ崩ればかりになった。
まぁいい、それでも彼等の実力は相応だ。全員が覚醒している、全員が覚醒しているなら『リサイクル』も出来る。ならそれでいい。
(既に下準備は終えている、あとは敵軍が動くのを待って後手を取り続けるだけで勝てる)
情報戦を制する者は戦いを制する、敵方の指揮官であるラグナ・アルクカースはその辺を理解している。彼が先日行った攻勢、あれはただ街を奪還する為のものではなく、こちらの情報系統を全て麻痺させ瓦解させる為の行動だと言うことはすぐに分かった。
だからこそ、こちらも行わせてもらう。既にアルクカース軍にはこちらのスパイを潜り込ませている。ハーシェル並みの変装能力を持つ奴はこちらには数千人規模でいるのだ、アルクカースのように均一化された組織構成ではないからこその強み。あらゆる分野に精通した人間がいることこそがこちらの勝機である。
『ターゲットが動き始めました』
目の前においた水晶型の魔道具から、スパイの報告が入る。やはり動き始めた、予想した時刻と同じ。このタイミングでの突撃、読み通り。
私は即座に水晶に備え付けられているスイッチをパチリと切り替え、自軍に通達する為こちら側から声を伝える。
「今すぐ撤退し要塞の中に入りなさい、要塞の中に入ったら魔道具による防壁を張り籠城の構えを取るように」
それを伝え、私は目の前にいる側近達に顎で合図をし動かす。ラグナ・アルクカースは大した腕前を持つ指揮官だが、戦場の理屈という物がこの世にはある。
アルクカースは南部に向けて戦線を押し上げたいという狙いがある。故に各地に散らばる要所を一気に攻撃するようだ。
だが、それはつまり軍をアルクカースを横断するように横に広げなければならない。どれだけの大群でも横に伸ばせばその分、軍の層が薄くなる。ましてやフリードリスそのものに兵站のラインを伸ばしたままとなれば、隊列が複雑化する。
『敵方には転移魔力機構があるのですから、兵站ラインは存在しないのでは?』と吐かすバカがいたが、必ずラグナ・アルクカースは兵站ラインを作る。絶対に作る。
何故ならその転移魔力機構に頼り切った結果、フリードリスは転移魔力機構を破壊されただけで孤立無援の状態に陥ったからだ。同じ轍を二度踏むバカが相手ならどの道苦労せず倒せる。
転魔力機構は使う、だがその上で兵站ラインも作る。必ずそう動く、これだけの大軍を動かすのに物資補給のルートが一つしかない、なんて怖くてたまらないだろうからな。
故にそこを叩く。こちら側の精鋭と遊撃によってまずは敵に右翼陣を瓦解させる。そこに対応が傾いた瞬間、左翼陣に控えさせた十天魔神で切り崩す。軍がここまで崩壊したら、あとは兵站を崩壊させる。
そうなれば後は楽勝だ、相手の転移魔力機構がある場所をチマチマと探し当てて狙えばそれでいい、兵站が瓦解すれば敵は転移に頼らざるを得なくなる、頼らざるを得ない以上場所の特定は非常に容易でもある。
まぁそれまでの間、要所にある砦で籠城している諸君には囮として耐えてもらうとしよう。
「こちらの兵が一人死ぬまでの間に、どれだけ相手を死なせられるか」
目の前に地図を広げ、深く腰を落ち着けて考える。敵が最初に狙うだろう地点は……恐らく。
『報告、カーヴル平原地下にある拠点が敵軍勢より攻勢を受けています』
「やはり」
やはり狙うか、カーヴル平原。捕虜が大量に囚われており、デモンズがスコルズ・ブライドルを製造している地点。先日デモンズが敵にその場所を教えてしまったと聞いていたからこの攻撃は予測出来た。
だからこそ、予め策は打ってある。……やはり、やはり。
(やはり、甘い)
私は深く考え込むように口元に手を当て、上がる口角を押さえる。捕虜の居場所がバレるリスクなど計算しているに決まっているだろう、あの場でデモンズを使った以上そこからカーヴル平原の場所が割れるのは想定内。
寧ろ、バレる為に私は先日彼を動かして攻撃を仕掛けさせたのだ。全てはこの大攻勢において敵の攻撃の起点を予測しやすくする為。予測したのだから、当然そこの防御は固めるに決まっている。
ラグナ・アルクカースはミスを犯した。ここは断腸の思いでカーヴル平原を無視して他の地点を狙い攻撃を仕掛けるべきだった。だが、捕虜を取り戻したい一心でここまで冷徹だった彼の判断が初めて生ぬるいものになった。
そんな甘い考えなど、私が打ち砕いてくれる……。
『報告───』
「ん?」
しかし、同時に響く報告。それは私の想定していた物に対して付け加えるような形でもたらされ……。
『敵軍勢、その大部分がヴィルヘルム要塞に向けて進軍中!十数分後には到着する見込み!』
「ここに……?」
一瞬目が丸くなる、この攻撃の理由はどう考えても私を狙った物。だが何故私がここにいることがバレた。
まずい、私が攻撃を受けたら全体の指揮に影響が出る、守りを固めたカーヴル平原以外の地点の防御が疎かになり最悪戦線そのものが更にもう一段押し上げられ、ゴルゴネイオンの本拠地である黒鉄城にまで攻勢の手が伸びる。
全てひっくり返される!まずい、何故バレた、何故敵が私と居場所を知って────。
「待て……」
私は廻る頭を自身で制止して緩める。慌てるな、まぁ待て。落ち着け、……この可能性は考えていただろう。
こちらがスパイを入れている以上、敵が入れている可能性は勿論考慮していたし、何かの偶然でこちらに突撃を仕掛けてくることも想定内。
まだ弱い、まだ全てをひっくり返すには弱い。慌てる必要性は全くない、だが……。
「妙な心地がする、これはどういうことか」
それでも、何故敵が私の位置を特定出来たかを考えておくべきかもしれないな。まぁ良い、寧ろ面白い。
神算鬼謀と称えられるラグナ・アルクカース。受けて立とう、マレウスの将軍が世界一の武装国家にも打ち勝てることを私が証明する。
……………………………………………………
『大まかに分けて、二つの大戦力を用いてこの戦いを制する。一つ目はカーヴル平原でデモンズを叩きスコルズ・ブライドルをこれ以上作らせない!』
ラグナは戦いの前にそう語った。
『二つ目はヴィルヘルムで指揮官を叩き、敵軍全体を麻痺させる!この二面で戦いを繰り広げ、同時に全戦線で突撃を行い、戦場全体を押し込む!』
これはかつて無い大規模な作戦となる。アルクカースの国土をさながら絨毯でも捲るように取り戻す戦い。動員される兵士の数は百万二百万どころでは無い。故に当然、魔女の弟子も総動員だ。
『魔女の弟子も二手に分ける。カーヴル平原を攻めるメンバーだが……』
そう言って、割り振られたメンバーは四人されど実質動けるのは三人、即ち。
「よっと、まさかマジで地下施設があるとはな」
「アルクカース中にこのような地下施設があるようでございますね」
「思ったよりハイテク、アルクカースは戦争することに関しては本気だね」
俺……ことアマルト・アリスタルコス。そしてメグと天下のネレイド大将軍だ。割り振られているのは全員第三段階、ラグナの本気度合いが窺えるメンバーだよ。
で、俺達は今カーヴル平原の地下施設にやってきた。地下施設ってんだから暗い洞窟にジメジメした嫌な空気が流れる場所を想像してたが。
こりゃあアレだな、地下要塞だな。鉄の壁に鉄の床、それがアリの巣のように広がってる。エリス曰く昔こういう地下施設でジャガーノートなんて言う馬鹿でかい兵器が作り出されてたって言う話だから、そもそもここは黒の工廠のように兵器製造を行えるレベルの技術が使われた場所なんだろうよ。
そんな鉄の床を踏みながら、三人で走る。目的はデモンズって野郎の撃破、ついでにスコルズ・ブライドルの捕縛。ラグナは捕虜の確保も頼むって言ってたが……ここに関してはあんまり期待しない方がいいと俺は思ってる。
いやだってエリスがデモンズの口からこの場所聞き出したんだろ?でそのデモンズは健在。身を挺して仲間を逃すような奴だ、自分のミスでも構うことなく報告する。
なら、敵はここを攻められることを想定してる。俺なら敵が攻めてくるなら一人でも戦力が欲しいと思うし、そうなったら捕虜全員洗脳するだろ。
つまりここに捕虜はいない。いるのはスコルズ・ブライドルの大軍勢だけだ。まぁ元を正せばアルクカース人だ、多少ボコボコにしても死なねーだろ。
「しかしよぉネレイド、俺達だけこんな突出して良かったのか?」
一応だが、ここは軍勢で攻めてる。つまり背後には多数の兵士達がいる、しかし俺達はそいつらと行動を共にせず三人だけでの行動が推奨された。なんで仲間はずれにするの?泣いちゃうよ?とネレイドに言うと。
「魔女の弟子はこの戦争において、遊撃隊の立ち位置を与えられている。つまり他の部隊とは個別、確立した存在として行動出来る。だからこれでいい」
「まぁ、我々が本気で暴れたら普通の兵士にも影響が出ますしね、これで良いかと」
「納得!っと……おいでなすったぜ、敵兵さん達」
俺達は疾走を止め、廊下の只中で立ち止まる。向かう先にいるのは黒衣兵の群れ、つまり洗脳されたアルクカース軍団だ。怖えね、俺より身長デカい大男ばかりだ……。
「ったくよ、俺達の仲間を洗脳して使うとか、許せねーよな」
「あら、アマルト様も昔やったと聞いてますが」
「やったのはカリスト!まぁ、俺の命令だったかもだが!いい加減学園時代のイジりやめてくれねーかな!何年前だよ!」
「まぁまぁ、それより…構えよう」
ネレイドに言われ、俺は黒呪剣を、メグは風の刀を構えスコルズ・ブライドルと向き合う。さて、悪く思うなよ。……やりたくないのはこっちも同じだ。
「後詰の兵士が進めるように道作るぜ!メグ!ネレイド!」
「畏まりました!」
瞬間、踏み込むと同時に黒衣兵達が動き出す。白い仮面と黒いローブ、そして手に握られた白刃、そのどれもが……緩慢だ。
「『呪斬──」
瞬きの間に、俺は向かってくる黒衣兵を背に膝で地面を滑っていた。背を向けたわけじゃ無い……もう、斬ったのだ。
「──ラピッドペイザンヌ』」
「がィッ!?」
奴らが反応出来ない速度で通り抜けつつ一閃を加え、同時に吹き飛ぶ黒衣兵達。即座に地面に手をつき飛び上がり、目の前からすっ飛んで来た黒衣兵の槌を躱す。その一撃で地面が凹み大地にヒビが入る。すげー怪力、しかもどんどん来やがる。
もっと大技の方がいいか、そう考えた瞬間。
「冥土奉仕術・超番外」
廊下の奥で、メグがヴィーヤヴァヤストラを大きく構え……。
「『捻れ咆哮』ッ」
次の瞬間、メグが刀を振り下ろすと同時に鋭い風の斬撃が飛び次々と黒衣兵を切り裂き、弾き飛ばす。アイツ、第三段階に入ってからめちゃ強くなってやがるな。エリスに隠れてイマイチ注目されやしないが、アイツも十分化け物の領域だよ。
それこそ、今なら将軍にだって手が届きそう……いや、それこそこの旅が終わる頃には超えてそうだ。
「流石だね、メグ」
「悔しいですが、まだ貴方には及びませんよ」
そう言って悠然と歩くネレイド。アイツはもう別格の域にいる、ただ歩き、向かってきた黒衣兵の剣を指でへし折り、襟を掴んで壁に叩きつける。それを幾度となく繰り返すことでまるで雑草を引き抜くように強靭なアルクカース兵を蹴散らしているんだ。
技も魔術も魔力も使わない純粋な剛力と壮絶なる技術の成せる技。めちゃくちゃだよ、流石はラグナが現魔女大国最強の四人のうちの一人に選ぶだけはある。悔しい話だがな。
「私は今凄く嬉しい。みんなとこうして戦えることを」
「まぁ、そうでございますね」
「………」
そこにはちょっと同意しかねるが、俺はそのまま廊下の奥に視線を向ける。黒衣兵による第一波は凌いだが捕虜の人数からしてこんなもんじゃ無いはずだ、もっと奥に大量にいると見ていい。
「おいお前ら、ドンドン進むぜ。こりゃ両面作戦なんだろ、向こう側と足並みを揃えたほうがいい」
「そうだね、行こう」
目標はまずデモンズだ、野郎をぶった斬ってここでの戦いを終わらせる。どうせ卑怯な奴だ、奥の奥に隠れてんだろ。そう考え俺は足を早め他の二人よりも少しだけスピードを上げて走る。
すると……。
「おっと」
出る、広い空間に。天からは光が注ぎ込まれる縦長の広大な空間、恐らく巨大な兵器を建造するための空間だろうな、そこに黒衣兵がゾロゾロいやがる、そしてその手には帝国製の魔力砲台。本来は地面に置い使うそれを片手で抱えて構えてやがる。
ちょっと出過ぎた。そう感じた次の瞬間には魔力砲弾が雨のように降り注ぐ。
「アマルト急ぎ過ぎ、足並みを揃えて」
「悪い!」
瞬間追いついて来たネレイドと共に魔力砲弾の雨を弾く、剣に防壁を纏わせ向かってくる砲弾を爆発させないように圧迫しながら射線を逸らす。そうする事で砲弾は俺ではなく背後の壁に向かって飛んで行き、爆裂する。
「しかしアルクカース人が帝国の武器片手に襲ってくるって、なにと戦ってんのか分からねーな!」
「うん……メグ!」
「勿論でございます!『時界門』!」
そして目の前に割り込んで来たメグが展開した時界門が砲弾を次々と吸い込み、同時に黒衣兵の頭の上に開いた時界門から飲み込まれた砲弾が次々と降り注ぎ、逆に全滅させる。
「流石だぜメグ!」
「まだまだ来ます!」
どうやらここで敵は俺達を倒したいらしく、大砲を抱えていた黒衣兵を倒しても壁やらなにやらを崩してどんどん黒衣兵が現れる、その数は千やら二千じゃ効かない数が出て来やがる。
それらは俺達を見るなり次々と飛び掛かり、その重厚な斧や剣を叩きつけてくる。
「チィッ!数が多い!」
瞬間、俺は背後に向けて飛びながら逆手に剣を持ち、目の前に迫る剣や槍の壁に向け意識を集中させ。
「流るる血は傷にあらず、空を舞う赤は痛みにあらず、剣を裂き槍を折り万象を壊する無象の矛である『黒呪絶衝』!!」
一閃、逆手に構えた剣から繰り出される斬撃が漆黒に染まり、迫る黒衣兵を切り裂き、麻痺させる。呪術による斬撃、それは空を飛び空間に線を引き敵の身を戦闘不能にする。これで結構な数を倒したが、まだ全然残ってやがるな……っと!
「来たな!」
瞬間、頭上から降り注ぐのは鋭い一撃。黒い槍を持った黒衣の女戦士。流れる赤髪を見れば分かる、ラグナの姉貴!ホリン・アルクカースか!
「危ねぇ!」
「………!」
咄嗟に体を回転させ前方に逃げる、が同時にホリンにより俺はネレイドとメグから引き離される、まずい。分断された……!
「そこを退いてくれや!って言っても無駄だよな」
「…………」
一閃、俺の斬撃を槍で弾き返すホリンに俺は舌を打つ。上手い、こいつめちゃくちゃ武器の扱いが上手い。流石はラグナの姉貴だ……そりゃただものじゃねぇよな。
「はぁ、面倒だけど……ちょっとガチにならなきゃダメか、おかわりも来たみたいだし」
そして、ホリンと鍔迫り合いを繰り広げる俺の背後に現れるのは……同じく赤髪、両手に細剣を持った流麗なる仮面の剣士。あっちはラグナの兄貴のラクレスか、二対一。だが問題じゃねぇ。
「あんま、友人の姉貴兄貴を叩きのめしたくないんだが……仕方ないか」
こういう事言ったらあれかもしれんが、所詮第一段階級。軽く蹴散らして……。
「魔力覚醒……」
「は?」
がしかし、俺の予想とは裏腹に……ホリンは、ラクレスは、その身の魔力を渦巻かせ、逆巻き、展開する……魔力覚醒を。
「『二郎絶招四兩撥千斤』」
「『止戈為武』」
話が違う、それが率直な反応だ。こいつらは覚醒の段階に至っていないはずだ、そういう話だったはずだ。だが今目の前で行われているのは紛れもない魔力覚醒。
ホリンは魔力覚醒『二郎絶招四兩撥千斤』を発動させ、その身から黄金の闘気を放ち、佇む。
対するラクレスが発動させたのは魔力覚醒『止戈為武』。その両手の細剣に蒼光を纏わせ、ゆらりと立つ。
どうなってるラグナ、話が全然違うぞ。それともあれか、操られた結果潜在能力が爆発して覚醒を会得したとか?あり得るかよそんなの、覚醒には精神の成熟も必要なんだ。茫然自失状態で得られてたまるか。
なにがどうなってやがる!!!
「ネレイド様、これは……」
「……ちょっと想定外」
一方、二人で固まって黒衣兵の猛攻を弾いていた私とネレイド様も、困難に直面していた。それは。
「魔力覚醒!」
「魔力覚醒!!」
「覚醒!!」「覚醒!!!」「覚醒!」
「どんどん黒衣兵が覚醒していく……!?」
黒衣兵達が覚醒していく、全員がではないが黒衣兵の中でも一際強力な体格を持つ者は軒並み覚醒していく。その数はメグ式カウント法で数えた結果、軽く千人以上が覚醒している計算になる。
なんなんですかねこれ、アルクカースの皆さんは標準で覚醒出来るとかそういうアレ?そんなわけありませんよ、覚醒がこんな大安売りしれてたまりますか!少し前まで私のメインウェポンだったんですよ!!
「ネレイド様、これも洗脳の影響でしょうか」
「それは考えにくい、これが出来るなら前回の襲撃の時使わない理由がない。つまり前回の襲撃の後、なにか別の要因が加わったんだと思う」
「別の要因とは」
「分からない、けど敵の指揮官がこの防衛策に関わってるなら、恐らくだけど敵の指揮官の能力が強制的に他者を覚醒させるもの……とかかな」
そんな出鱈目な力があってたまるか。と言いたいが実際目の前で起きている、敵には間違いなく他者を覚醒させる力を持った奴がいる。
こんな事例を見たのは初めてであり、敵は今までその手段を使っておらず、また一部の人間しか覚醒していないあたり、なにかしらの法則性がありそうなあたり、現実味がある。これはちょっとまずいですね。
「流石に、覚醒者千人規模の構成は抑えきれませんよ!」
「それに加えて万人規模の黒衣兵。これはちょっと想定外……けど、頑張るしかないよ」
「そのようですね……こちらも使いますか、極・魔力覚醒をッ!」
瞬間、私とネレイド様も解禁する。本当は敵の主力が出て来てから、あるいはセフィラが現れた場合に取っておきたかったが、こうなっては仕方ない!
「『天界のトリシェーラ・クンバヨーニ』!!」
「『荒神顕現・神罰執行』……」
同時に自身の間合いを明確化し、空間を掌握する。同時に私は量子を手繰り周囲を湾曲させ同時にネレイド様はなんか、あれです、凄い雰囲気を出してます。なんなんですかね、これ。
まぁいい、今はそれよりも……!
「極・冥土奉仕術!」
踏み込む、私の覚醒は量子の世界に踏み込む。この力に目覚めて分かった事だが私はどうやら世界の仕組みそのものに干渉するタイプの人間のようだ。時空を操り、次元を操り、そして量子を操る。
自身の武器を極める方向ではなく出来る事を増やすタイプの覚醒。故に……この覚醒は私の練度が問われるものとなる。
「ガァア!!」
「ギィイイ!!」
「はいっと」
獣の姿に変化した黒衣兵、筋肉が膨張した黒衣兵、覚醒しそのスペックを向上させた者達が振るう武器を分子レベルに分解し、その只中に突っ込むと同時にその手に握る刀に力を込める。
私の覚は量子を操る、即ち……こんな事も出来る。
「『五臓断絶』」
「ガッ……!?」
一瞬、刀を振い……放つのは粒子の斬撃、それは細胞を通過し対象の臓器のみを破壊する不可視の斬撃。物理的影響を受けず任意の地点に攻撃を発生させられるが故に、重要臓器を避け、肉体の内部にのみダメージを与える事で、無傷での無力化が可能。
バタバタと倒れる魔力覚醒者達、その中でかっこよく佇む私。髪をファサァ、余裕の顔。序でに刀を払って……言ってみようかな、言っちゃおう。
「私の前に立つには、少々実力が不足しているようで」
はい、カッコいい。私、憧れていたのです。散々見せつけられてきた第三段階の使い手達の実力、そいつらが第二段階の覚醒者をボコボコにする様、まぁボコボコにされたのは私達なのですが……ずっと悔しい思いをしてきました。
だから今日、それをやり返す。私は強い、強いのです。強いってことはつまりカッコいいってことはなのですから。メグはカッコいい、はい復唱!はい!メグはカッコいいーー!!
「私かっこいい!」
「『ブーストホーン』ッッ!!」
「ちょっ!」
瞬間、飛んで来たのは炎を噴射し高速で飛翔する巨大なツノ。咄嗟にそれを飛んで避けるとそれは爆発し……。
「『アルテマ・ルーラー』!」
「ゲッ!」
目の前には数百の覚醒者、それらが放つ炎や氷、衝撃に魔力、それを一人の覚醒者が操作する。恐らく進行方向を操作するラグナ様のような覚醒を持った奴、それにより全ての攻撃が私に殺到する。
ええっと!どうするんでしたっけ!量子で避けるの!いや攻撃を分解すれば?ああ分かんない!出来る事多すぎて分かりませんでございますー!!
「『次元渡り』!」
咄嗟に私は別次元に避難し、瞬間的に別の場所に跳躍する。慌ててたから使ったけど、極・魔力覚醒中でも魔力覚醒の力は使えるのでございますね。新発見……とは言いつつも。
「ネレイド様!流石に数が多すぎます!」
「流石に魔力覚醒者千人分の戦力は凄まじいね……」
ネレイド様も一撃で覚醒者を吹き飛ばすが、焼石に水って感じだ。これは流石にどうしようもないです。いややりようはある、更に大火力な技は持っていますがそれはこの空間では使えない。地下空間で使えば最悪崩落の危険性もある。
極論言えば、ここには味方しかいない。そんな場所で大崩落を起こしたら、それこそ敵の思う壺だ。
これは、思ったよりも難しい戦いになりそうです。
………………………………………………………
「ヴィルヘルムの街、そこに敵の指揮官がいるんだな!」
「そう聞いてます!」
「実際、感じるよ。向こうの方から凄い魔力を、こりゃセフィラだねやっぱり」
駆け抜ける馬が砂塵を舞い上げる、アルクカースの荒涼とした大地を駆け抜ける馬の群れ、その上で声を上げるのは、ヴィルヘルム攻囲戦を任された魔女の弟子達、即ち。
『ヴィルヘルムで敵指揮官を狙うメンバーはメルクさん!デティ!そしてナリア!頼むぜ?みんな』
……こちらの方面を任されたのは私とデティとナリア、そしてもう一人。ただ最後の一人に関してはヴィルヘルム攻囲戦には参加できない、故に私達は三人で戦わなければならない。
いや、三人だけじゃなかったか……今回は。
「無駄口は控えろ!そろそろヴィルヘルムが見える!」
「荒野の城の如き威容、あれがヴィルヘルム要塞ですか」
「アルクカースらしい下品な佇まいです事!」
我々の前を走る馬に乗っているのは、今回の戦いの指揮を任された三人、即ちアーデルトラウト将軍、マリアニール団長、クレア団長の三人だ。背後には数万の軍勢が控えている。アルクカース、アジメク軍、エトワール軍、帝国軍、そしてデルセクト軍の混合編成。
一応、私はデルセクト軍の指揮官ということになっている。本来ならグロリアーナ総司令が担う役目だが、今はその座を私が引き継いでいるからな。
それより、ヴィルヘルム要塞だ。
「あれが……」
私はナリア君を抱きかかえるような姿勢で手綱を握り、体を風に変えて疾走するデティと頷き合い、地平の向こうから見えてくるヴィルヘルム要塞を見る。
大した要塞だ、石作りの壁がズラリと並び、中央には野太い塔が立っている。あれが地方貴族の所有物だというのだから、アルクカースという国の異質さがよく分かる。
そして、あそこに敵指揮官がいる。デティ曰くかなりの魔力を感じると言う事から、恐らくセフィラがその役を担っているようだ。
この時点で、敵指揮官がダアトである可能性は消えた。ダアトなら魔力は感じないからな、なら候補はあとは二人。レナトゥス宰相かマクスウェル将軍、どちらもトラヴィス卿の話からセフィラであることが確定しており、大規模な指揮に慣れている者達だ。
そのどちらかだと思うが……。
「デティ、巨大な魔力の数は」
「四つ」
多いな……マクスウェルとレナトゥスがあそこにいるとしたら、残りは────。
「ッ……!」
見識の瞳が捉える。砦の中から燻る赤紫の魔力……いや存在感。いる、あそこに、少なくとも。
「ホドか!」
「え!?分かるの!?」
「なんとなくだが気配を感じる……」
奴を強く意識しすぎたからか、私の目にはホドの気配が色濃く見えるようになったようだ。奴もあそこにいるか。こうもすぐに相見えることになるとはな。
ただ、そんな中。
「セフィラ……」
「ん?どうした?ナリア君」
ふと、私の腕の中でナリア君が呟く。その声音の異常さに若干危うさを感じ、私が声をかけると。
「いえ、なんでもありません。強敵がたくさんいるようで緊張しちゃって」
「ふむ、そうか。なに、緊張する必要はない……我々は遊撃手、やれることをやれるだけやればいい」
ナリア君も不安に思っているようだ。まぁ彼からすればまだかなりレベルが上の相手だ。それが四人、不安にも思うか。だが大丈夫、彼には無茶をさせない。させない為に私達がいるわけだしな。
「そろそろヴィルヘルム要塞が魔術射程内に入る。総員迅速に軍を展開し雷鳴が如き勢いで取り囲め!主力陣は私に続け!城門を粉砕する!」
馬を走らせ叫ぶアーデルトラウト将軍。歩兵は後から続き横に横に羽を広げるように軍が展開され、あっという間にヴィルヘルム要塞は飲み込まれるように軍勢に囲まれる形になる。
狙うは城門、そこ目掛け私達は馬を走らせ……。
『ようこそ!アド・アストラ軍団の皆様!!』
すると、城壁の上に立つ誰かが叫ぶ。あれは……いや誰だ、見知らぬ男だ。灰色の髪に真っ赤なローブを着込んだ痩せ男。槍のように刃のついた杖を手元で回す男が我が軍目掛け叫び。
『私はこの砦の守りを仰せつかったシャクンタラと申す者。皆様にはこれから、地獄を見ていただきましょう!それ行け!人獣軍団!!』
そう言うなり、城壁を飛び越えて飛んで来たのは……人の二倍の体躯はあろう巨大な怪物。毛深く、長い爪と牙を輝かせ、人のように手足を使い分ける獣人だ、あれ……どこかで見たことがある気がする。いや今はいい!
「退けェッ!!!」
「邪魔くさい!!」
瞬間、飛んで来た獣人達を蹴散らし道を作るアーデルトラウト将軍とクレア団長、流石の腕前だが二人が道を作ったところで獣人達はそれでも数が多い。次々と這い出てくる人ならざる怪物は我が軍の包囲をものともせず、あっという間に周辺が乱戦となる。
まずいな、まさかいきなり打って出てくるとは……だが!
「マリアニール!!」
瞬間、アーデルトラウト将軍の叫びが響く。獣人軍団を槍の一振りで吹き飛ばしながら吠える。動く、その声に動かされる、剣を構えたマリアニール団長が馬から飛び上がり。
「魔陣剣、起動……」
そして魔術陣が無数に書き込まれた剣を抜き放ち絶大な魔力を流すと同時に、全身から光を放ち迫るのは巨大な鉄の門。硬くと閉ざされた門に向けて……。
「『削壊のグラッタージュ』ッッ!!」
一閃、振り下ろされた剣は剛力と神業により光を放つ。まるで空間そのものを抉り取るような勢いで打ち出される無数の魔力粒子が鉄の門を一撃で粉砕、爆発四散させる。それどころか一緒に壁すら吹き飛ばし要塞を囲う防御に大穴を開くのだ。
凄まじい威力、流石はグロリアーナ総司令と肩を並べたと言われるエトワール最強の騎士。戦いの様を見るのはこれが初めてだが、あんなに強かったのか。
魔女大国最高戦力は、凡そ八大同盟の盟主と同じレベルだと言われているが、なるほど。これは確かにオウマにも迫る強さと言える。
「門を開きました!道はこちらです!全軍!勝利を目指し軍靴を奏でよ!!」
クルリと手元で剣を回し、高らかに叫ぶ姿はまさしく勝利の戦乙女。これは我が軍もやる気満々になるぞ、だが……そう簡単には済まなさそうだ、なんせ。
「敵が多いな」
私は馬から飛び降り、駆け出しながら城壁の向こうを見る。既にマリアニール団長やクレア団長は奥に向かい、そして砦の庭先で激しい戦闘を繰り広げている。
獣人兵が山ほどいる。それに加え巨大な鎧を着込んだ兵士達もゾロゾロと出て来て……あれは小型のジャガーノートか!なんだあれは、フリードリス攻城戦時に出て来た戦力より余程強力な軍勢じゃないか!
敵はまだ底力を隠し持っていたと言う事か。それを攻撃に使わなかった意味はわからないがな。
「このまま突っ切る、敵指揮官は砦の中だ。行くぞデティ!」
「オーライ!」
私はポケットから小型の拳銃を取り出し、駆け抜ける。その隣を覚醒したデティが追随し、共に獣人の群れに向けて飛び込む。私達の仕事は敵指揮官の打倒、それが無理でも敵軍全体を麻痺させる事。
その為にはまず砦の中に入らなければ意味がない!であるならば!!
「蜷局を巻く巨巌、畝りをあげる朽野、その牙は創世の大地、その鱗は断空の岩肌。地にして意、岩にして心『錬成・蛇壊之坩堝』 ッッ!!」
「雷電魔術過剰発露、『百八重雷撃』ッ!!」
拳銃から放たれた錬金弾が虚空で膨れ上がり、巨大な岩の蛇となって暴れ回る。デティの雷撃が辺り一面を吹き飛ばす。これで道が出来た!がしかし私達の一撃を食らっても獣人兵はそれでも起き上がってくる、痛覚がないのか?
「チッ、厄介だぞあれは」
「足止めて相手にしようか?」
足を止め、ここで戦うか。獣人兵を粉砕して道を作らねば先に進めない、クレア団長やアーデルトラウト将軍も戦っているが、獣人は完全に肉の壁になるように戦っている。狙いは乱戦に巻き込む事、足を止めればあの人達のように乱戦に巻き込まれ思うように戦えなくなる……だが。
「いいえ!道は僕が作りますッ!!」
飛び出すのはナリア君だ、彼は私達の前に飛び出すと同時に覚醒し、眩い輝きと共に無数の分身を繰り出すと。
「劇目『テルモピュライの剣戟』!!」
「むっ!道が……」
生み出された分身が獣人兵を抑え、道を作る。敵の数がいくら多くとも突如出現する一千人の分身体には対応出来ず、隊列をこじ開けられたのだ。相変わらず凄まじい覚醒だ!
「ナリア君!」
「いいからッ!!先に行ってくださいッッ!!」
ナリア君も一緒に、そう言いかけたが。口が閉じる、異様だ、異様な顔つきをしている。その表情は怒り?と言うより、もっとドス黒い何かだ。燃え上がるような激情を隠すこともなく彼は魔力を高め獣人達の群れへと突っ込んでいってしまう。
彼は……あんなに怒っていたのか?今回の戦いにそれほどの怒りを?そうは見えなかったが、一体どうしたと言うのだ。
「メルクさん、ナリア君に任せて進むよ」
「あ、ああ!」
しかしデティはその辺はドライだ、と言うより彼が道を作ってくれているから先に進めるわけだし、ここはデティの言う通りにしようと私はこじ開けられた道を強引に進み、砦の扉を前にする。
この中にいるであろう敵の指揮官、そして主力達。それらを相手にし打倒すれば──。
「ッデティ!」
「え?なに?ちょおぁっ!?」
見えた、門を前に立つ私は見識の力で未来が見えてしまった。それは門を食い破り溢れる虫の群れ、それが我々を包む様が。故にデティの襟元を掴み咄嗟に横に飛ぶと……見えた通り虫の波が一気に噴き出し、私達の後ろにいた獣人兵に群がり、一瞬で食い尽くしてしまう。
……これは。
「あらら、外しましたか」
「ホドッ!」
「エリスさんと言い貴方と言い、私の前に現れすぎですよ。私狙われすぎでしょ、ダアトより戦ってますよ私」
砦から出て来たのはホド……そして。
「ふむ、乱戦だな。こうなっては致し方ないか……そう、鏖殺やむなし」
「敵の主力が集まっている時点で、この状況は想定出来ました。そしてここで彼女達を皆殺しにするのもまた」
歩いてくる、砦の奥から、隠れるまでもなく現れる。紫の髪に緑の軍服を着た女。灰色の髪に緑の貴族服を着た眼鏡の男。どちらも見たことがある……やはりか!
「先日ぶりだな、魔女の弟子」
「……レナトゥス・メテオロリティス。こんなところにいていいのか?」
レナトゥスとマクスウェル。またの名を『基礎』のイェソドと『勝利』のネツァク、セフィラでありながらマレウス国政を牛耳るコンビ。それが我々の前に姿を現す……やはりこいつらも来ていたか。
レナトゥスとは先日のクロノスタシスの一件以来。マクスウェルはエルドラド会談で顔を合わせて以来か。特にレナトゥスは前回は味方だったが、今回は普通に敵のようだな。
「ホド、ここは私が相手をしようか」
「いいえイェソド。私がやります、メルクリウスには先日の借りがあるので」
「だったら私はデティフローアを───」
レナトゥスがこちらに視線を向けた瞬間、迸る雷電が空間を切り裂く。それは瞬く間にレナトゥス達の目の前に迫り……。
「『不雷不電のブロンテ』ッ!」
「レナトゥス様、お下がりを……ッ!」
デティだ、一も二もなく突っ込みレナトゥスとマクスウェルに雷撃の拳を叩き込んだのだ。しかしマクスウェルの防壁を前に軽々と防がれ方々に雷が散り、背後の砦が粉砕されていく……。
「答えなさい、どっちがこの軍の指揮官!」
「私だ」
デティとマクスウェルの視線が衝突する。デティ、まさかマクスウェルとやるつもりか!いかん!彼女はまだ第二段階!セフィラの相手は荷が重い!ここは私が……って!
「チッ!」
「アハハッ!」
腕を振るい背後から飛んできた拳を弾き返す。攻撃して来たのは……言うまでもない、ホドだ。奴は拳を甲殻で包んで私に向け幾度となく腕を振り下ろし、幾度となく殴りつけてくる。
私をマクスウェルに近づけさせないつもりか……いや、普通に私を殺したいだけか!
「邪魔をするな!ホドッ!!」
「そんなこと言ってぇ、私の事意識してたんでしょう〜?なら遊んであげますよ、同盟首長!」
「貴様は、どこまでも私の神経を逆撫でる!!」
「神経も逆撫でるし!口からも魚出るーー!!」
無数の魚を口から放ち、それらを爆発させながら攻め立てるホドを前に私は銃を抜く。クソ、私の仕事が確定してしまった。済まん、デティ!!
「ホド……マクスウェル、お前達、勝手に戦う相手を決めて。私は誰と戦えばいいのだ」
ポカーンと目の前で繰り広げられる戦いを見て口を開けるレナトゥス。マクスウェルはデティと、ホドはメルクリウスと戦い始めてしまった。別に二人の助けをしてもいいんだが、マクスウェルはあまり私に手伝われるのが好きじゃないし、ホドはなんか変だから近づきたくないし。
はてさてどうするか、格好良く登場したが、一旦部屋に戻ろうか。
「ねぇ、あんた暇?」
「ん?」
ふと、獣人兵を切り裂いて現れる女が一人。橙色の髪に黒い剣、そして花の刻印がされた鎧……なるほど。彼女は──。
「クレア・ウィスクムだな」
「そう言うあんたは下等な非魔女国家のお山の大将さんですよね、魔女大国に”弓引こう”だなんて片腹痛いんで普通に切り裂いて倒しますけど、いいですよね」
聞いた話では、魔女の弟子エリスと古くから交友があり、彼女の姉貴分のような存在だと言うクレアが我が前に立つ。面白い、私は彼女を殺すとしようか……。
………………………………………………
私はマクスウェルと戦う、第二段階の私がセフィラと戦うなんて無茶に思えるかもしれないし、事実メルクさんはそう思っていた。けど違う、この戦いでマクスウェルそのものを打倒する必要はない。
マクスウェルが一人でいるなら、複数人と連携して倒せばよかった。けど他にもセフィラがいて、あと一人めちゃ強い奴がいる以上。ここでの撃破は不可能と私は見た。
故にここでマクスウェルを足止めする。奴がこうして戦っている間、敵軍は指揮官が不在になる。そして私の耐久力は実質無限、明後日の晩まで相手できるよ。
「はぁああ!!」
「ふん……」
一撃、マクスウェルに蹴りを加えるも奴は軽く片腕を立てるだけでそれを防ぎ。魔力の鼓動のみで弾き返す。やはり強いなぁ、こいつ。
マクスウェル・ヘレルベンサハル。マレウス王国軍の将軍であり国内最強のエクスヴォート、争神将オケアノス、最強の冒険者ストゥルティと並び称されるマレウスに於ける四天王のような存在と言われる実力者。
その実力は『第二段階であるにも関わらず』エクスヴォートと互角と言われている……それが私が持つ彼の情報だ。ああ、付け足すなら裏の顔は『勝利』のネツァクとか言うテロリストってことだけかな。まぁそれはいい、それより気になるのは。
「あんた、やっぱり第三段階なんだね」
「ええ、そうですが。それが何か」
「世間じゃあマクスウェル将軍は第二段階、なんて言われてるからさ」
「ああ……」
私はマクスウェルから距離を取り、構えを取る。対するマクスウェルは眼鏡を掛け直し、首を鳴らしてる。さっきから何回も眼鏡掛け直してるけど、サイズ合ってないんじゃないか。
「ええ、まぁそうですね。世間ではそう言われています、事実ではありませんが」
「第二段階だって嘘ついてたの?」
「いいえ、そもそもその話は副将軍のロムルスが流布したものです。意図はよく分かりませんが、大方私の実力を見誤っていたのでしょう」
あのクズが発信源か、じゃあそもそも情報の出所からして疑わしいな。
「第一、私はあまり極・魔力覚醒を明け透けに使うのは好きではなくてですね。人前ではあまり使わないと言うのも祟ったのでしょう」
「それは余裕?」
「さて、どうでしょうか。ここまで貴方の話に真摯に答えたのですから……こちらも良いですか?魔術導皇殿」
言う程真摯だったか?まぁいいが、雑談を長引かせてくれるのはこちらとしてもありがたいしな。
「貴方の覚醒、分類と獲得する魔力現象の詳細を教えてください」
「いや教えるわけないでしょ!?そんなの!」
「貴方の覚醒は非常に興味深い。私も多くの覚醒を見て来たが、様々な属性に変化する覚醒は見たことがない……とても、興味深い」
マクスウェルは一歩前に踏み出す、異質な空気を醸し出し、重くなる空気を感じる思わず私の足が後ろに下がりそうになった瞬間。
「体を魔力に変えている、ならこうしたらどうなりますか?」
「むがっ!?」
一瞬だった、奴が私の目の前に移動し、私の顔をグッと掴み上げたのは。そのまま無理矢理口をこじ開け、その中に自分の指を突っ込み────。
「『ファイアバースト』」
「ぐっ!?!がぁぁあああああ!?!!?!?」
膨れ上がる熱、噴き出す炎、私の口に突っ込まれた指から灼熱の炎が吹き出し口を焼き喉を焼き内臓を焼く。吹き出す黒煙、荒れ狂う痛みの旋風、激しい苦しみに意識が明滅し……拳を握る。
「なにすんの!!」
「ぐぶっ!?」
一撃、拳を振るいマクスウェルの腹に一発見舞う、と同時に覚醒の力でオートの治癒を発動させ即座に焼かれた箇所全てを治す。私の体は魔力だからね、治癒魔術そのものに変換することもできる、だから傷はいくらでも治る……んだけど、痛いもんは痛いからね!
「一瞬で治った、やはり体を魔力に変換する属性同一型。だがここまで純度の高い魔力に変化する覚醒は見たことがない、強力無比……面白い」
するとマクスウェルはくすりと軽く微笑み、背筋を伸ばし右手を前に出す不思議な構えを取る。いやなにをするかは分かる、もう止められないから受け入れる、あれは……覚醒だ。
「では、礼儀としてこちらも使います。貴方の言っていた魔力覚醒、極・魔力覚醒は使いませんのでご安心を……」
指を立てる、一本。それと共に彼の体から渦巻くように魔力が放たれ。
「魔力覚醒『三天一読』」
浮かび上がる、マクスウェルの背後に丸い光の図形が輝くのだ。探ってみるが、あの光の円は魔力じゃない、マクスウェルの力がなんらかの形で作用して生まれたもの。
対するマクスウェル自身に変化はない、魔力量の増大は一般的なレベル、姿に変化もない、ただ背後に光の円が浮かぶだけの覚醒。
なわけがない、恐らく彼の覚醒はエリスちゃんと同じ『分類不能型』。即ち魔術界の常識にすら囚われない形を持つ。
(ここは何かをさせる前に、動こう)
なにを考えているか知らない、ナメ腐って魔力覚醒で挑んできているんだ。ここでダメージを与える。そう考えて私は拳に魔力を集中させ、一気に炎に変換し……。
「『不灼不炎ワルプルギス』』ッ!!」
瞬間、両手が業火となり視界全体を覆いつくす。無数の炎熱魔術を組み合わせた過剰な灼熱、本来はあり得ない数百の火炎魔術の合体。それは魔力覚醒による攻撃の限界火力を大幅に上回るものであり……。
「なるほど、魔力となるからこそ、無数の魔術を組み合わせられるのか」
「ッ……!」
聞いていない、防壁を張ったというよりそもそも炎自体が効いていないのか。業火の中を悠然と歩くマクスウェルは炎を肩で切りながらこちらに向けて歩いてくるのだ。これがアイツの覚醒?
……妙だな、アイツの背中にある円の形が変わっている。
(形が変わった、確実に背中の円に何かギミックがある。こちらの攻撃に反応するもの?マクスウェルの行動に応じて変わるもの?……だったら)
「色々考えているようなので、答えを教えますよ」
「なッ!」
瞬間、マクスウェルが再び目の前に肉薄してくる。眼鏡が光を反射し白く輝き、今度は低く腰を落とし拳を構える。同時に奴の手から無数の光が……ってやはり背中の図形の形が変わってる!今度は五角形!?
「覚醒五連」
「え!?」
「『ペンタゴン・ホワイトアウト』ッ!!」
叩き込まれる拳、それは壮絶な威力を持ち私の魔力体を吹き飛ばす。だがそれ以上に感じる、奴の手から……魔力覚醒の波を。
私の魔力探知が告げている、あり得ない答えを。こいつは……。
(複数の覚醒を持ってる!?)
吹き飛ばされ、空中で受け身を取りながら、歯噛みする。奴は今腕部を強化する覚醒を五つ使っていた。そう言えば……聞いたことがあったな。
マクスウェル将軍は、まるで複数の覚醒を持つようだと。それはイシュキミリのように形を変える覚醒を一つ持っているのではなく……本当に。
「私の魔力覚醒、『三天一読』……分類は分類不能型、そしてその効果は」
まるで私への当てつけのように語るマクスウェル、己の覚醒の内容という命綱に等しい情報をベラベラと喋る。或いは、知られて問題ないからか。彼は……こういうのだ。
「他者の魔力覚醒を奪い、そして与えるものです」
「ッ……!」
他者の覚醒を奪うだと、それを別の人間に与えられるだと。そりゃああんまりにも道理に合ってない、覚醒とは魂の発露。それを他人が使うことなど出来やしない。ましてやそれを使ったり、また別の人間に与えたりなんて……でも。
事実として奴は今、複数の覚醒を使っている。
「お誂えな戦いですね、現代魔術を無数に重ね合わせられる貴方と」
そしてマクスウェルの背後の図形が変わる。一つ使っている時は円……いや点、二つ使えば線、そして五つ使えば五角形。ある程度法則は読める、あの光は謂わば影だ。
マクスウェルが使っている覚醒数に合わせて形が変わるのだ。角数が多いほど、彼がその時使っている学生の数は多くなる。
なら、どうだ?今彼の背中に浮いている覚醒の形……あれは。
「合計、二万と四千七百八十四の覚醒を持つ私、どちらが強いのでしょうか」
「……持ちすぎでしょ」
マクスウェルの背中に浮いている光の形は完全なる円。即ち角が見えない。
二万もの覚醒?そんなもんどっから奪って来たんだ、どれだけの人間の覚醒を奪ったんだ。
これ、ちょっと想定外すぎるよ。




