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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!3月30日二巻発売!】  作者: 徒然ナルモ
二十二章 アド・アストラVSマレウス・マレフィカルム
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826.魔女の弟子と夜の戦い


二週間でこの国を取り戻す。そう軍全体に話をした時の反応は様々だった。


『この規模の軍を二週間で!?不可能です!』


『やってやろうぜ!俺達なら一週間でいける!』


『二週間、かなり急ピッチな仕事になりそうです』


『うーん、歴史的に見てめかなり異例ではありますが、現在の技術と兵力なら或いは可能かもしれません』


そんな話が方々から漏れ聞こえてくる。実際二週間でこの戦いを決めるのはかなり無茶に思える。しかし現状の戦力、そして帝国の抱える技術力があれば可能であると見る意見もある。

つまりはバラバラ、ここはラグナがどう自軍の意見を纏められるかにかかっているが……そこに関しては信用してる。彼なら上手く纏めてくれるだろう。


まぁともあれそう言うこともあり、フリードリス大要塞は防衛拠点から本格的に軍事拠点として動き始めることになる。故に民間人は全員ステラ・ウルブスへと避難することになる。

最初は自分達も戦いたい!と言っていたが、ラグナが頼み込むとそれを受け入れてくれた。


そして、今から彼らのお見送りが始まる。民達は皆これから避難だ!という事で一斉にワッ!と町に出て行って自分の家から必要な物を持って帰って来た。当然その辺を歩いているはぐれマレフィカルム兵と出会った民もいたが、当然ボコボコにした。


中にはマレフィカルム兵に首輪をつけて『ポチを連れて行きたい!』『この子はもううちの子よ!』と、連れて行きたがる人もいた。当然ダメです、中にはまぁこう言う生活も悪くないかと高々数時間で自分の人生を諦めたマレフィカルム兵もいたが、彼らは正当に捕虜として扱います。


とは言え捕虜もこのままここに置いておくわけではない。総勢数十万、食わせるだけでも重労働だ。なので社会復帰を望む者は帝国で監視の下で仕事をしてもらい、そうではない者は適当な島に閉じ込めるらしい。


まぁこれを行うのは戦争が終わってから、今は一旦ステラ・ウルブスに送りアルクカース人の避難の手伝いをしてもらう。彼らもアストラ兵が目を光らせているところでは好き勝手も出来まい。


と言うわけで……。


「王妃様、どうかご無事で」


「王妃様!オレ!大きくなったら必ず王妃様を守る戦士になるから!」


「王妃様!俺たちに加護を!」


「あ、はは……はい、お気をつけて」


エリスに加護を与える力はないよ、と思いながらエリスは転移魔力機構を使いアジメクへ送られる民達のお見送りをしている。一列に並ぶ民達の横に椅子を置き、一人一人と握手をしながら言葉をかける。


これはメグさんの発案だ。いくらアルクカース人とは言え見知らぬ地に避難するは心細い、だからそこをエリスが励まして見送ってやる。すると彼らは自分達は王妃に見送られたのだからやっていけると、頑張る理由が生まれる。


ただそれだけで皆の心の支えになれるのなら、エリスはしっかり役目に徹しますよ。


(けど座って握手だけしてるって疲れますね、どれだけ戦っても疲れないのに握手だけで疲れます。王妃の仕事って大変です)


『なら私と遊ぶか?しりとりくらいなら付き合うぞ』


(一応これって公務なんですかね、公務中に頭の中で遊ぶのはちょっと)


そう脳内でシンと語らいながら次々と移るアルクカース国民達と握手をしていると、ズイとエリスの前に立つ影が……それは。


「握手してもらいたいところだが、生憎腕の持ち合わせがなくてね。失礼するよ、王妃様」


「ミーニャさん!」


避難の列に並んでいたのはミーニャさんだ、そうか。彼女もこのタイミングで避難するんだな……。

彼女はアド・アストラに移り次第義腕の製作に取り掛かるらしい、既にその辺はメグさんに説明して下準備を整えてもらっている、彼女が書き上げた設計図に基けばすぐにでも作れるはず。だから……失われた腕は新たな形を得る。


「……ありがとな、エリス。正直閉じ込められてる時は腕も無くなって意識も朦朧として、もうこの世の終わりって感じだったけど、エリスが来てくれたおかげで光明が見えたんだ」


「エリスがですか?」


「ああ、お前の声を聞いて……お前が今まで諦めずに戦ってきたって話を思い出してさ、勇気づけられた。アタシも負けてられねーってさ、だからこっちもこっちで頑張るよ」


「ミーニャさん……はい、エリスも早くこの国を取り戻してみせますから。待っていてください」


「ん、頼むよ王妃様」


そう言いつつ、ミーニャさんは転移機構へと足を進めていく、足取りは若干重い。希望に満ちていると言う感じではなく、迷いや恐れのようたものが感じられる。彼女も無理をしてるんだろう、国がこんなことになって、獣王の牙が襲撃されて、自身も傷つけられて。

想い悩むことばかりだ、エリスに出来るのはその悩みの種の一つを排除することくらいだろう。


つまり、マレフィカルムをこの国から消し去るのだ。


…………………………………………………………………………


それから数時間かけて国民のお見送りを終え、エリスは王妃としての仕事をやり遂げることが出来たんだ。全員を見送り終えて、椅子を立った頃には既に外は暗く、夜になっていた。

晩御飯も食べていないし、お腹も空いた。これからどうしようかと思いつつエリスは作戦会議をしていたラグナと合流したんだけど……。


「え!?エリスは出撃しちゃダメ!?」


「ああ、少なくとも二日はここにいてもらう」


そう言われたのだ、会議室の前でいきなり『二日間の出撃禁止命令』を言い渡されエリスは目をクルクル回す。いきなりそんな事言われれば誰だって混乱しますよ、けどラグナは静かに首を振るばかり。

せめて理由を聞かせてほしい、エリスはまだまだ戦える。まだまだ戦わせてほしい。


「どうしてですか!」


「理由はいくつかあるが、まずは休養目的。同じ理由でネレイドとアーデルトラウトにも出撃禁止を言い渡してる、申し訳ないがデティには医療行為だけやってもらうつもりではいるが」


「エリス疲れてません!」


「そしてもう一つが、脅威の提示だ。今敵はエリス達最高戦力を警戒している、つまりエリス達への対策がメインになってるんだ」


「だから、エリス達を出さずに、別の方面から攻めると?」


「それもある、だがそれだけじゃない。エリス達以外にも脅威がある、対策しなきゃいけないことがある、それをこの二日で示す。より多く、よりたくさんの脅威があり、対策しなければならない事を増やす。そうすれば必然、敵のタクスは増えることになる」


ラグナが言うに、脅威が増えれば敵はその対策を立てなければならない。それが多ければ多いほど対策の数も増える。数多くの対策を守る為に軍はより規律を守らねばならず、規則正しい動きを意識しなければならない。


それは烏合の衆であるマレフィカルムには難しいだろう。タスクや対策が増えていけばいつか内側から瓦解する。で、そうなれば必然的にエリス達への対策も疎かになる。そこでようやくエリス達の出番。


エリス達と言うカードを最大効率最高火力で相手に叩きつけるには、下準備が必要なのだと言うのだ。よく分からないけど、ラグナがそう言うなら。


「わ、分かりました。そう言うことならエリス……お留守番します」


「よしよし、納得してくれたな。ここから二日は出来れば主力級戦力を使わず戦線を南方に押しやるつもりだ」


「主力級?」


「具体的には第二段階クラスの使い手だ」


「それは流石に無茶では?相手はたくさん第二段階クラスの戦力を抱えてますし……」


それこそ第二段階にまでハードルを落とせば山ほどいるだろう。十天魔神は全員覚醒者、魔神以外にも覚醒者は多数いる、それを相手に覚醒者なしで戦うなんて……。


「これは戦闘じゃなくて戦争さ、まぁ見てろって。アルクカースの戦い方ってのを見せてやるから」


そのアルクカースの戦い方でここまで追い込まれてるんじゃないのか?と思っているんだが、違うのかな。まぁいい、一度ラグナを信じると決めたんだ、とことん信じよう。


「ってわけだ、俺は今日出撃してくる、明日には一旦転移機構で帰ってくるから、エリスは休んでてくれ。別にフリードリスにいてもいいし、ステラ・ウルブスに帰っててもいい。でもマレウスにはちょっと行かないでくれよな」


「え!?今からですか!?今はもう夜ですよ!?」


「そうだな、多分敵も同じこと考えてる。だから行く」


「行くって……」


「夜に攻めちゃいけないルールはないんだぜ、エリス」


そう言うなりラグナは戦士隊を率いて早速出撃してしまう。ゾロゾロと戦士達を引き連れてフリードリスを去っていくラグナの背中を見送り、エリスはガックリ肩を落とす。

行ってしまった……大丈夫なんだろうか。


『残念だったな、エリス』


(何がですか……)


『褥を共にしたかったんじゃないのか?』


(なぁッ!?)


『お前ずっとラグナにときめいてたろ、正直ムラムラしてるんじゃないのか?』


(もう一回ぶっ殺しますよ貴方!!)


『だははっ!安心しろ!もしおっ始めたら盛大に茶々を入れてやるから!』


(頭の中から出ていけ〜!!)


頭を抱えて疼くまる、くそぅ……悪霊め。変なことを言うなぁ!!エリスはそんなこと考えてません!ラグナと約束したんですから!そう言うのはマレウスでの旅が終わってから!マレフィカルムをぶっ潰してからだって!だから、我慢するのです!!


「ふんっ!」


エリスは腕を組みながら立ち上がり、鼻息荒く屹立する。気がつけば既にラグナはいない、本当に真夜中に出撃してしまったようだ……さて。


「なにしよう」


エリスは呆然と立ち尽くす、二日間の出撃禁止命令を受けてしまった。理由は納得のいくものだったが、だとしてもだ。この状況下で果たして何をするべきか……。


エリスはただただ考える、うーーーーん、修行でもしようかな。


『修行なら相手になってもいいぞ』


(そうですね、お願いしようかな……)


『うむ、それなら……いや待て、エリス。外を見てみろ』


(え?)


ふと、シンに促されエリスは作戦本部の部屋に入り、その窓を開いて外を見てみると。


「うお、なんかやってる」


フリードリスから少し離れた地点にある岩山がキラキラと赤い光を放ち、ドカンドカンと爆発してるんだ。誰かが暴れてる、けど多分敵じゃない。

そう思いエリスは窓から飛び出し、風を纏って近づく。


するとどうだ、地面は抉れ、岩山は崩れ、そこら中から発せられる爆薬の匂い……黒煙沸る大地に降り立ち、その奥にいる影に呼びかける。


「何やってるんですか?メルクさん」


「ん?エリスか?」


この魔力はメルクさんだ、一体何をしているんだろうか。そう思い声をかけると彼女は黒煙を切り裂いてその奥から現れ……。


「す、すまん。うるさかったか?」


「いえそんな事は──ゔぇっ!?なんですかその格好!」


ガションガションと音を立てて現れたのはメルクさんではなく、銀色の甲冑……いや機械の鎧を身に纏ったメルクさんの姿だった。

手足は野太く、胴体なんか寸胴鍋みたいだ、そして頭に被ったヘルメットには緑色のガラスが嵌め込まれており、奥からメルクさんの顔が見える。なんとも鈍重そうな格好じゃないか。


「あ?ああ、この格好か。どうだ?かっこいいだろ」


「え?いや……まぁ、無骨で無精で……不細工です」


「なっ!?そ、そうか。いやぁな、今日ホドと戦って思ったんだ」


そう言うなりメルクさんはヘルメットを脱いで、その辺に捨てる。すると相当な重量だったのか地面が凹み、ヘルメットは転がらない。それを無視してメルクさんは髪をかきあげ汗を拭う。


「あいつは強かった、きっと次戦ったら今日よりも凄まじい攻撃を仕掛けてくると思う」


「そうですね、あいつはまだまだ底が知れません」


「それで思ったんだ、今のままじゃ負ける。だから、私も作ろうと思ったのさ……私なりの流星旅装を」


「メルクさんの、流星旅装?」


「ああ、エリスの流星旅装を見た時愕然としたよ。今持てる全ての力を身に纏う事でそもそもの基礎戦闘力を劇的に向上させる。これを思いつきと直感でやってのけるなんて、お前は凄まじい天才だと」


「いやぁ……でも、それじゃあその鎧がメルクさんの流星旅装ですか?」


「そのつもりだ、だが。ダメだな、これは」


メルクさんが軽く動くと、関節からプシュッ!と音が飛び出し、そのまま鎧はガラガラと崩れて床に落ちる。メルクさんもメルクさんなりの流星旅装を完成させようとしていたのか。

確かにこの鎧は防御力と攻撃力に優れるかも知れないが、代わりに機敏な動きや反射はないに等しい。


「理想は、黒衣姫だ」


「黒衣姫って、レーヴァテインさんが作ったあれですか?」


「ああ、彼女はあれを科学技術における第四段階、臨界魔力覚醒に等しいと呼んでいた。着込む事で着用者を強化すると言う点は流星旅装にも似ている、ならばデルセクトの技術の根幹にあるピスケスの技術を取り入れて、作ってみようと思ったんだ」


確かにあれを自前で用意出来たら凄まじい強さになるだろう。なんせフルスペックの黒衣姫は羅睺十悪星を複数人相手にしても余裕と言われているんだから、単純なパワーなら魔女様さえ超える。


だがそれを作るのがどれだけ難しいか、メルクさんだって分かっているはずだ。黒衣姫を作ったのは科学技術に於けるシリウスとまで呼ばれた超天才の『碩学姫』レーヴァテインだ。完成させようと思うにしても、一体どれほどの研鑽と研究が必要になるやら。


「一割でいいんだ、あの出力の一割でも再現出来れば……」


「難しそうですね」


「難しいさ、さっきから色々試しているが答えが出る気配がしない。とは言え、諦めるつもりもないがな……そうだ、丁度いい。エリス、付き合ってくれないか?」


なるほど、シンが外を見ろと言ったのは別の修行相手がいるからか。それにエリス一人で修行するよりメルクさんと一緒に修行した方が全体の戦力としては都合がいい。なんせエリスと一緒にメルクさんも強くなるんだから。


「分かりました、と言ってもエリスは機械とかよく分かりませんよ?」


「構わない、流星旅装のコンセプトを教えてくれれば」


「コンセプトですか」


「ああ、出来ればレーヴァテイン姫からも話を聞きたいが、そうも行かないからな」


そう言えば彼女も一応魔女大国にいるんだよな、今はコルスコルピの小学園に通って現代の文明をお勉強中のはずだ、もしかしたら連れて来れるかも知れないが……ぶっちゃけ大いなる厄災の心的外傷後ストレス障害に悩まされる彼女をまた戦場に駆り出すのは可哀想だ。


「いいですよ、と言ってもエリスのコンセプトは簡単です。エリスにとっての最強を求めた結果です」


「曖昧だな、具体的に頼む」


「エリスに出来ること、可能なこと、全てを掛け合わせ、今出せる最高出力を求め、それを最高率で運用し、それを続ける。それがエリスにとっての最強だと思ったからあの形になったんです。まぁつまり言ってしまえば自分に出来ることを突き詰めて、出来ない事は諦めたつて感じです」


「なるほど、出来ることを突き詰めたら、か」


「エリスは技や形態が多かったので、それを一つの体系に纏めた感じですね。メルクさんにも色々技があるみたいですが、これを一まとめにしてみるのはどうでしょうか」


これは今は亡きトラヴィスさんのアドバイスから出来た発想。弱いカードをいくつも持っていても意味がない、それらを束ねて何にも勝る最強のカード……即ち切り札を一枚持つ方が強いと言う話だ。


この発想から生まれた冥王乱舞は、かなり長期間エリスの主戦技になりましたからね。


「私に出来ることと言えば、ニグレド・アルベドによる創造と破壊、概念錬成、概念再錬成による肉体の神格化、そして機巧錬金、か」


多いなぁ……エリス並みに芸達者な上どれも強力だ。


「これらを極・魔力覚醒で統合する、ってのはどうです?と言うかエリスそもそもメルクさんの極・魔力覚醒がどんなのか知らないんですが」


「む、そうか。なら軽く組み手をしてみるか?疲れていなければだが」


「問題ありません、やりましょう」


ラグナからは休養を言い渡されていたが、怠けるのと休養は違う、休むのと鈍るのは違う。ある程度体を動かさなきゃ休養にならない。故に、組み手に応じる。


「極・魔力覚醒でやりましょう」


「構わん、……行くぞ!極・魔力覚醒ッ!!」


そうメルクさんが腕を払うと、眩い光が当たりを包み込み……。


「『オプス・ト・アンドロピー・アガトン』ッ!!」


半径200mが彼女の領域だ、無機物が機械となり、メルクさんの背後に大量の砲門が現れる。聞けば、彼女の覚醒は作り上げた無機物を自在に支配すると言う覚醒らしい。

それがどれほどの力か、試させてもらう。


「さぁ見せてみろ!クレプシドラを倒し!ホドを撃退せしめた力を!!」


「はい!『流星旅装』ッ!!」


エリスもまた腕を払い背後に背負うのは星光のコート、それを全力で点火し一気にメルクさんに突っ込む。悪いけど、メルクさんには分かってもらう。エリスがめちゃくちゃ強いって!!


「やはり突っ込んでくるな!だが!」


「なぁ!?」


しかし、メルクさんが腕を振り上げると目の前に巨大な壁が展開される。違う、城砦だ!エリスの星の魔力でも壊せないって事は、錬金術で作り上げた実体のある壁か!


「お前相手なら、私も本気を出せる……悪いが、容赦はせん!」


その上で城砦が動き、次々と機器が組み上がり一気に武装要塞が組み上げられる。なるほどこれがメルクさんの覚醒か!!


ただ作った物を自由に動かすだけなら、古式錬金術でも出来る。だが彼女はその更に上、『支配する』と言う領域にまで踏み込んでいる。

形を自由に変え、機能を追加し、改造する事が出来る。それを自分が設定した範囲内で作る……そうだ。


彼女の覚醒は国を作る覚醒なのだ。


「ってェーッ!」


「むっ!」


そして城砦の上に立ったメルクさんの号令に伴い城砦から次々と砲撃が飛んでくる。砲弾はそれぞれエリスを狙い追尾しながら飛んでくる。が遅い、エリスのスピードについて来れていない。


「こんなもんじゃエリスは止められませんよッッ!!」


「なッ!?」


そのまま空中を蹴って反転、城砦目掛け突っ込む。さっきはいきなり現れた壁に思わず立ち止まったが、あると分かっているなら、最初からそれを前提として飛び込むなら。こんなもん呆気なく貫通して破壊することができる。


事実、エリスの飛び蹴りを食らった城砦は大穴を開け、瓦解していく。


「なんて破壊力とスピード。双方共に損なわれる事なく極限まで高められている……か!」


「ホドはエリスと同じスピードで飛び、エリスと同じ破壊力で攻撃してきます、この程度で驚いていたら!倒せませんよ!!」


二度、三度。エリスは城砦に突っ込み蜂の巣のように粉々に砕いて、無防備になったメルクさんに向けて突っ込み……拳を叩き込む、否。その寸前で拳を止め。


「ぐぅっ!?」


風圧だけで吹き飛ばす。メルクさんは地面に叩きつけられ、転がり……。


「くそ!これじゃダメだ!もっと……もっと研ぎ澄ませ!」


再び地面を叩いて城砦を組み上げる、だが。


「くどい!!」


エリスは両手を開き、ばら撒くように火雷招を乱射し、雨霰のように降り注ぐ雷が城砦を跡形もなく吹き飛ばす。


「ぐっ!火力が違いすぎる……これがクレプシドラを倒した力か!まだ私には届かないのか」


「メルクさん!自分の限界を定めたら!それ以上成長出来ません!あなたの限界はこんなもんじゃないはずです!!」


「言ってくれる!ああその通りだ……!」


メルクさんはエリスの言葉を受け、雷の嵐の中を走り、進む。さぁここからだ、ここからどうする。極限の事態の中で、己の力を鑑みて、何が出来るかを徹底的に考える。そうして出来ることを積み重ねて作り上げる力の集合体、それが新たな領域の鍵となる。


「私の極・魔力覚醒はなんだ……」


自問自答、今手元にある力を見直し。


「私の戦い方とはなんだ」


自らのルーツすらも洗い直し。


「私の行く先は、どこだ」


そして、自身の未来をも考え直し、そして生まれる答えこそが───。



「いや分からん!!!」


分かんないのかい!!頭を抱えるメルクさんに呆気を取られる、ちょっと難しく考えすぎてるんじゃないかな。それともエリスの言い方が悪かったかな……。


「分からんから!」


「む!」


だが、メルクさんはそれで終わる女ではない、頭を抱えても立ち止まらず、そのまま拳で地面を叩き。


「こうする!!!」


瞬間、再び城砦が組み上げられる。だがまた同じ、それはあまりにも芸がない!そうエリスは怒りを覚え、再びメルクさんに向けて、城砦に向けて突っ込み──。


「同じことです!メルクさん!!」


「いいや、同じじゃないさ!!」


包む、城砦に、蹴りを入れた。はずなのに!割れてない!バカな……さっきと硬度が段違いだぞ!?


「砕かれるなら!砕かれないようにする!!」


「なっ!」


そして再び現れた砲台。咄嗟に飛び退き回避の姿勢を取るが、今度は砲弾ではなく熱線が飛んできたのだ、しかも拡散するようにエリスの逃げ場を奪う。流石に砲弾と光線じゃ速度が違いすぎる!


「避けられるなら!避けられないようにする!!」


メルクさんは黄金の杖を片手に城砦の屋根で腕を振るう。その様はまさしく、黄金の国の支配者だ。


「必要に迫られれば、それを補うように新たな発明を行う。必要は発明の母というように、それは万象生命問わずの真理!世界は、あらゆる生命体は常に進化を続けている!そしてそれは人も変わらない!」


「ッ!それは……!」


「だが人は、他の生命のように姿を変えない。羽もエラも獲得することはなかったが、それでも!空は!海は!人のものとなった!何故か!!それは!!」


城砦が拡大する。メルクさんの背後から飛行船が現れ、大地を引き裂き戦艦が現れる、これは……覚醒そのものが進化していっている。


「技術だ!技術が人の世界を押し広げた!デルセクトは技術の国だ!発明の国だ!出来ないのなら出来る物を作り!必要ならば必要な物を得る!作り扱う人の本質に最も近い国こそが!我が祖国デルセクトの栄光だ!!」


メルクさんの覚醒は国を作る覚醒だ、そして国は常に流動的に動く。破壊されれば破壊されるほど、それを学習しそこを元手に進化していく。

より相手に適した形へと進化する、無限に強くなり続ける技術進化の覚醒。それがメルクさんの覚醒の真髄なんだ!!


「さぁエリス!かかってこい!そして私は必ず……この覚醒を完成させてみせる!!」


「メルクさん!!同じです!!」


「何がだ!!」


「この覚醒がです!」


そして、この覚醒の真髄は……。


「ホドの覚醒と同じです!!」


「は!?」


生命体の進化を体現するホドの覚醒、そして技術の進化を体現するメルクさんの覚醒。似て非なる、されど本質は同じ場所にある対極の覚醒。彼女はその真髄に自分で辿り着いたんだ。


「凄いです!エリスってホドの覚醒の内容言いましたっけ!言ってないですよね!言った覚えはありません!」


「あ、ああ言ってない」


「それなのに奴の同じ理論に辿り着くなんて、これなら互角にだって戦えるかも知れません!」


「…………」


少なくとも、奴の無限に進化する覚醒に対抗できる覚醒だ。寧ろこの二人が戦ったらどうなってしまうのかエリスにも分からない。

しかし、メルクさんはあんまり嬉しそうではなく……寧ろ。


「あ、あんな奴と同じ答えに至ってしまうなんて……な、納得出来ん!!」


「えぇ……」


「エリス!頼む!このままじゃなんだか気持ち悪い!更にこの覚醒をブラッシュアップする!奴のそれより、もっと上の領域を目指す!」


「も、もうこれで良くないですか……」


「よくない!!」


もうこれでもいい気がするけど、でも確かにメルクさんの極・魔力覚醒はここからもっと進化しそうだし、どこまでいくのか興味があるし。


ここは修行に付き合おう…にしても。


(必要に迫られ、進化するか。エリスももっと流星旅装を扱えるように進化しないとな)


丁度相手がいるんだ。ここは、エリス自身の成長にも繋げていこう。


………………………………………………………


食事を終え、必要最低限の清身を終え、一日が終わる。真っ暗な夜の中、マレフィカルム兵達は休む。ここはフリードリスから少し離れたところにある準前線ともいうべき町の一角。

前線では味方が壊滅したと聞く、もしかしたら次は自分達が行かなきゃいけないかも知れない。

やってやるぞ、来るんじゃなかった、ようやく戦える、帰りたい。悲喜交々の感情の中、生活した街町を拠点合計三千人近いマレフィカルム兵が道端や空家で眠りについていた……そんな時だった。



「夜襲だーーー!!!」


凄まじい怒号と共に、各地で爆音が巻き起こった。慌ててマレフィカルム兵が起きて周囲を確認すると、そこは地獄だった。


「も、燃えてる、町が燃えてる。なんで……」


「まさかアイツら、自分達の町に火をつけたのかよ!?躊躇とかないのか!?」


見れば町の北側から火が上がる、燃え盛る町に迫る黒煙、明らかな異常事態に兵士達は慌てて逃げ出す。北から火が上がってるんだ、火から逃げるように兵士達は慌てて南へ南へと退却し、町の外に出た瞬間。


「逃げろ!火に巻かれたら戦うどころじゃ……ギャッ!?」


「な、何が起きて──ぐぇっ!?」


町の外に出て、アルクカースの荒野へと飛び出した瞬間。次々とマレフィカルム兵達が闇の中へ倒れていく。一体何が起きているのか、理解出来ずにいると、ぬるりと闇夜に紛れて現れたのは……。


「やっぱりこっちに来やがったな」


「火から逃げる臆病者が相手かぁ、気乗りしねぇなァ」


「あ、アルクカース兵!?」


現れたのは、自分達よりも二回り程巨大な体躯を持つアルクカース兵、それが百人二百人、ウヨウヨと現れ町から出てきたマレフィカルム兵を襲っていく。

そう、伏兵だ。闇夜の中、ロクに指揮系統も機能していない中、視界も悪い。そこで襲ってくる伏兵。対処のしようなどなかった。


「まぁいいやぁ!戦ろうぜ!」


「眠気覚ましにゃ丁度いいだろ?ギャハハハハハ!」


「ひぃいい!助けて!助けてぇええ!」


「おーおー逃げたぞ逃げたぞ、追いかけろ!!ヒャハハハ!」


最早それは戦闘にもなっていなかった。蹂躙、それだけがマレフィカルムの脳裏に過ぎったのだった……。




「呆気ないな、これっぽっちか」


「流石はラグナ様、見事に策が機能しましたね」


と、一連の流れを俺は丘の上で確認する。隣にはこの部隊の隊長ライリーが立つ。彼女は俺の策が上手くハマったというが、そうではない。めちゃくちゃ上手くハマったのだ。


今回の作戦はこうだ、夜の町に火を放ち、アルクカース兵にこう叫ばせる『夜襲だーーー!!!』ってな。敢えて夜襲が起きたことを知らせ、火を嫌って逃げ出した連中を纏めて狩る作戦。火を放った側とは反対側に部隊を配置すればそれも可能だからね。


市街地戦は大変だから、平場に来てくれた方がやりやすい。勿論火を放った側には兵士はいない、勇猛果敢に火に向かっていたやつ程助かるって話さ。


「しかし、火を放った側には兵を配置しなくてもよろしかったので?火を恐れず冷静に立ち回れる奴ほど脅威になるのでは」


「構わない、寧ろ今回の戦いで敵を全滅させたら意味がない。俺達はこうやって狡猾にお前達の首を狙ってるぞ、って宣伝する役目が必要だしさ」


全滅ではなく敢えて残す、それもそれなりに強い奴を。それなりに強い奴は戦場を俯瞰して見れる、俯瞰して見た結果より詳細な情報が敵に向かう。

曖昧な情報よりも詳細な情報の方が恐怖を煽る。今度は自分達のところにも夜襲が来るかも知れないという恐怖、もし夜襲が来ても火の方に行けば大丈夫という誤った安心感。


この二つを相手に与えるのが目的なんだから、無事ここから逃げる奴がいればいるだけいい。


「とりあえず、今夜だけで少なくとも十の町を解放する。他の部隊はどうだ?」


俺は今日三千人の兵士を連れてきた。でここにいるのは三百人、つまり同時並行で別の町をいくつも攻めているんだ。

一応他のところには他の作戦を伝えているが、ライリーは手元の連絡用魔力機構を確認すると。


「他七つの町は恙無く奪還完了の模様、ここも合わせると八つ解放できました」


「残り二つは?」


「新兵が先走って策がバレ、結果乱戦になり今も戦闘継続中とのこと」


「はぁ、やっぱ指揮官が足りねぇな」


頭をガシガシと掻く。部隊を細かく分け過ぎた、ここは俺の落ち度だな。それに俺が戦争を禁止したせいで本物の戦場を知る兵士が少なくなり、新兵に至っては今回が初陣って場合が多くなった。これによりキチンと統率ができる指揮官の割合が若干減った。


まぁ今回のケースはイレギュラーだから、そこまで表面的な問題ではない。寧ろ今回の戦いを教訓に新兵達も成長するからいいにはいい。だがやはり全体を統率する存在が必要だ……。


「つまり……サイラス、お前が必要だ」


俺は腕を組みながら座り込む。サイラス、俺の軍師、今こそお前が必要だ。一体お前はどこに行っちまったんだ、お前ほどの男が簡単に死ぬわけがない。

今もどこかで生きるんだろ、だったらどこに……。


「ッ!報告します!」


「うわっ!いきなり大きな声出すなよ」


「それが、ここから南西に向かった町にて……ラクレス様の剣が見つかったとのことです」


「ラクレス兄様の剣が?」


戦いの中で行方不明になった兄様の剣が、南西の町に。だが妙だな、兄様はもっと南に行ったところにあるゲルトの町で行方不明になってるはず。なのになんでアルクカースの中心地に近い辺りで剣が見つかる?

まさか兄様は一人で脱出し、今もどこかに隠れているんじゃ……。


(いや、そういうガキ臭い考えはやめよう。兄様は多分捕まってる、南西の町にあった理由は……恐らく)


捕虜だ、敵に襲われたカロケリ族もどこかに消えていたそうだし、恐らく捕虜としてどこかに移動させているんだ。

そして兄様もそこにいる……この近辺なのか。ということはサイラスもそこにいる可能性が高いと。


「……よし、ライリー。まずはその落とせてない町二つに援軍を送ろう、町の解放が終わった部隊に順次その町に向かうように言う」


「なるほど、それでそのあとは」


「終わったら、一旦要塞に戻ろう」


まずは夜襲を終えること、これが重要。そして終わったら第二陣、朝になったらそのまま要塞から新たな兵を連れて来させる。

転移機構ってのは便利だよな。本拠地で兵士を寝かせ、出番が来たら前線投入。夜襲を終えた兵士達には城のベッドで寝てもらい、また夜になったら出撃して前線へ。これが出来るんだから。


で、それはそれとして。捕虜が捕まっているかも知れない場所、ここに当たりをつけていこう。


もしラクレス兄様、ホリン姉様、サイラスを取り戻せたら、指揮官の問題も解決しそうだし……なにより、久しぶりなんだ、みんなに会いたいぜ。


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― 新着の感想 ―
追加 「エリスに出来ること、可能なこと、全てを掛け合わせ、今出せる最高出力を求め、それを最高率で運用し、それを続ける。それがエリスにとっての最強だと思ったからあの形になったんです。まぁつまり言ってしま…
「やっぱりこっちに来やがったな。 またまた」がない。この台詞も終わりは何処なんだ…?
メルクさん対ホドは進化対決になりそうだな。でも機械のほうが進化の可能性はありそう。 あとラグナって普通に指揮の才能めちゃくちゃ高いよね。流石は戦王。そういえばこのまま行くと戦王vs神王vs魔王(仮)…
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