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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
二十一章 魔女を継ぐ者エリスと怪物王女クレプシドラ
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789.魔女の弟子エリスとクロノスタシス潜入戦


時刻は夕暮れ、鏡の世界内ではあまり景色が変わらない為分からないが…もう直ぐ夜になるだろうそんな時間、虧月城の地下にて…無人の空間に音が響く。


「よいしょ」


「ちょっ、エリス…そんな無警戒に…」


「大丈夫、上に誰もいないのは分かってましたから」


床が外れ、真っ暗な空間にぬるりと這い出るのは…エリスだ。オリフィスさんの地下拠点からここまで一人で掘り進んで虧月城地下までやってきたのだ。どうやらこの世界の地盤は見かけだけらしく、クッキーみたいに簡単に掘れたのでここまでやってくるのに苦労はなかった。


ミロワちゃんを救出する為、蟲兵の鎧を着たエリスはゆっくりと周囲を確認する。ここは城の地下にある空間…近辺に敵がいないのは把握済みだ。シンの電磁波、便利極まる。


「にしても、ここは?」


部屋には灯りがついていない、その上めちゃくちゃに広くて全容が見えない…そう思い暗視に切り替えた瞬間、エリスの開けた穴から這い出てきたオリフィスさんが…。


「ここは…神鏡の間だ」


暗視で確認して理解する。四方八方、部屋の壁に取り付けられた超巨大な無数の鏡の存在を見て…ここが所謂城の裏口であることを。


「クロノスタシス軍はここの鏡を用いて現実世界に向かうんだ…。一応これも永久鏡でね、デイデイトの許可なく外に出れる唯一の場所さ」


「なるほど…なら脱出するならここからでもアリですね」


エリスは手近な鏡に近づいてみるが、そこで初めて分かったのは…この鏡、何も映していない。鏡の奥は白く燻んでおり光を反射していないように見える…鏡の中の鏡の中…なんてのはないらしい。或いは現実世界が見えたりするのかと思ったがそうでもないのか?

なら彼らはどうやって現実世界の情報を得てるんだろう。


「それよりエリス、動くんだろ。やるなら迅速だ…」


「ええ、はい。じゃあ最初の作戦通り…二手に別れましょう」


早速作戦を開始する。勿論四人一組で固まって歩いてたらいくら変装しているとは言え怪しい。だからエリスとサブリエさん…オリフィスさんとシャーロウさんと二人で組んでミロワちゃんを探すんだ。


組み分けはい比較的状況判断が巧みなオリフィスさんとシャーロウさんを組ませる事でもしもの事態を防ぐ意味合いがある。エリスはまぁエリス一人でも最悪なんとかなるので。道案内にサブリエさんがいればいい。それとシャーロウさんとサブリエさんがそれぞれ遠距離念話魔術を使えるようなのでここを分ける必要があったと言うのもある。


と…言うわけで。


「じゃあミロワちゃんを見つけたら一旦連絡してください」


「分かった、なら行こうか」


そうしてエリス達は互いに別れて動き出す。まずはこの部屋から出ないと…と思いつつ、近くの石階段を登り、エリス達は虧月城一階へと出る。


(内装は変わってるけど、構造はゴールドラッシュ城と同じだな…これなら道に迷うことはなさそうだ)


廊下に出ると、ゴールドラッシュ城と同じ広い廊下に出る。あっちは全部金だったけど、こっちは一面黒曜石のように黒い…この変化が何による物なのかは分からないが、ともかく構造は同じだ。


だから取り敢えず一回から探していこう。エルドラド会談での記憶を頼りにエリスは城中を歩く。


(シン、ミロワちゃんの気配は感じますか?)


『私の電磁探知をデティフローアの魔力探知と一緒くたにするな。私のはただ電磁波の反射を活かしてそこに誰かいるかを探っているだけ、個人の識別など出来ない』


(ならどの辺にいると思います?)


『知らん!』


(とか言いつつ、エリスの記憶の本からエルドラドの構造とか調べてくれてるんでしょ?)


『……一応な。だが同じ家でも家主が異なればそれぞれの部屋の用い方も異なる。例えば今お前が出てきた地下室…あれはゴールドラッシュにはなかっただろう?』


(そうですね、本来あそこにはダンスホールがあったはずです)


エリスはチラリと過ぎ去っていく地下階段への入り口を見遣る。あそこには本来ダンスホールがあった、エリスとラグナが楽しくダンスを踊ったあの部屋です。ですがここではダンスホールはなく、代わりに床をぶち抜いて地下に鏡の部屋を作っていた。


つまり、それぞれの部屋がまるっきり一緒ってわけではないようだ。まぁ外交をする必要がないからダンスホールは不要、ってだけかもしれないが。


「……なんか久々に戻ってきた気がする」


そんな中、サブリエさんがポツリと呟く。彼女からすればここは職場であり、懐かしい場所なんだろう。


「複雑ですか?」


「いや、そう言うわけじゃないんだけどね…やっぱりあーし達からすればこの城は慣れ親しんだ場所ではあるから、そこに潜入するってのは…不思議な気分だなぁって」


「……ねぇサブリエさん、一つ聞きたいんですけど…」


「ん?なに?」


彼女はエリスの方を流し目で見ながらそう言うんだが、一つ確認しておかねばならないことがある。


「今はミロワちゃん救出のために動いていますが、それが終わればエリスはクレプシドラをなんとかする為戦うつもりです」


「あ、そうなの?」


「ええ、だってクレプシドラがいる限りいつまでもミロワちゃんの危機は無くならない…流石にミロワちゃんを未来永劫守り続けるのも、彼女が自分でなんとかするのも無理ですからね。エリスはクレプシドラを…いえ、クロノスタシスという組織を完膚なきまでに叩き潰すつもりです」


「……流石にクレプシドラを倒すのは難しいとは思うけど、確かにね。分かるよ、そうすべきだと思う」


「いいんですか、どのみちこの国は平穏無事とはいきませんよ…」


オリフィスさん達はこの国を守りたいんですよね、なら…エリス達はある意味ではオリフィスさん達の敵になり得る。例えるならクレプシドラという火事を消す為にエリス達という巨大な台風を呼んでいるに等しい。どっちに転んでも被害は出るぞ。


そう聞いてみるが…サブリエさんは。


「坊ちゃんからさ、街の思い出のことは聞いた?」


「え?ええ、昔はよく街で遊んだって」


「あれね、あーしにもあるんだよ。街の人達はみんな優しくてさ、あーしこの国も街も大好き。槍の雨が降るならこの体を傘にしてもいいと思うくらいにはね?」


「なら……」


「でもね…」


サブリエさんは窓の外に目を向ける。そこから見えるのは黒い城下町が見える。オリフィスさんの思い出の街だ…。


「なーんか、やっぱ変なんだよね…街の人達」


「変?」


「鏡の世界での生活は不便だよね、なのにみんな文句も言わず生活してる…と思う?」


「え?そりゃ文句くらい言うんじゃないんですか?」


「言わない、少なくとも王政府には言わない。…自分達が苦しいのは魔女のせいだって思ってるから」


「ああ……」


なんとなく分かった、この国もまた反魔女感情が凄いんだ。いや凄くないわけないか、国まとめて魔女排斥組織なんだからそりゃ凄いか。

反魔女国家と言うのはエリスも何度か行った事があるが、本当に魔女憎しが凄い。小石に蹴躓いても魔女のせいになるんだもん。でもそう言う人達も魔女が関係ないと優しかったりするから分からない。

それこそ、マレウスの北部とかもそうですが…この国もまたそう言う感じなんですね。


「この国は守りたいけど、必要だと思う…教訓が。誰かに悪感情を向けて目の前の問題を誤魔化すと、後々とんでもない事になるってさ。でなきゃクレプシドラをなんとかしてもまたクレプシドラみたいに過激なのが出てくるかもでしょ?」


「まぁ…そこに関してエリスは否定も肯定も出来ませんが」


「だから大丈夫、遠慮なくやっちゃってよ…。大丈夫、クレプシドラをなんとかした後は私達がクロノスタシスを前に進ませるから」


ねっ!と笑みを浮かべガッツポーズをしてくれる、まぁ兜で顔は見えないが…聞くだけ野暮だったか。半ば成り行きでエリスはクロノスタシスと戦うことになったが、もしかしたらオリフィスさん達は随分昔からクレプシドラと直接対決する事を考えていたんだろう。


まぁ、力量差的に諦めたんだろうけど。


「それよりエリスちゃん、ちょいこっち」

「はい?」


そう言うなりサブリエさんはエリスの手を引き壁際に立たせる、一体なんなのかとキョトンとしていると…目の前の廊下、その曲がり角からガシャガシャと鎧の音が響き。


「あれは…!」


曲がり角から現れたのは凄い数の鎧武者達。象の兜エレファヌスが五人、猫の兜フェリヌスが十人、そして数えきれないムリヌス……それらを率いる龍の仮面、ヴァントゥーア騎士団が二人だ。


「いやぁ、にしてもヤベェっすよねぇ。あのオリフィス殿下が…」


「ああ、魔女の弟子と手を組んでいるとはな…誠実な方だと思っていたが、軽蔑する」


一人は金の長髪を揺らし、軽薄そうな喋り方で話す女騎士。そして見上げるような巨躯を持つ大きな頭の騎士…どっちも強そうだ。八大同盟の幹部達となんら変わりがないぞあれ。


(金髪の女の方は『八』の騎士アハト、でっかい方は『九』の騎士ノイン…どっちもヴァントゥーア騎士団だよ)


コソコソとサブリエさんは教えてくれる、アハトとノイン。どっちも外界での戦いには参加していない連中だ。


ついでにサブリエさんが教えてくれた話だが…ヴァントゥーア騎士団は二つ名でくっついている数字によって強さが分かるらしい。がそれは数字が大きければ…とか小さければ…とかではなく。


ヴァントゥーア騎士団は時計に対応しているらしい。そして時計において上に配置されている数字ほど強くなるらしい。つまり……。


(エリスが戦ったのは十一のエルフとかですよね、ならエルフはヴァントゥーア騎士団で二番目の強さですか)


(そう、一のアインズと並ぶ実力者だよ)


と言う説明を受けちょっとびっくりした、確かに二のフュンフは数字の小ささの割に強かった。けど時計の法則で考えると二時はかなり上位だ。つまり…。


今目の前にいる八と九はどちらかと言うと下位か。下位であれか…一番弱い六時の存在もあんまり雑魚っぽくなさそうだな。


『アルカナとは違うんだな、アルカナのNo.1とか誰だったか思い出せんくらいの雑魚なのに』


とか元アルカナの人のボヤキは一旦無視してやり過ごそうとしていると、ヴァントゥーア騎士団…金髪の女騎士アハトがエリス達に気がついてこっちに…ってバレたか?


「ちょっとちょっと、あんたら。どこ警備してんの」


「へ?」


「そんな変なところ警備しないでよみっともない」


「えっと」


そう思いエリスは隣を見ると…そこには、気がついてなかったけど…トイレがあった。


「あ、すみません。緊張しちゃって…」


「なに新入り?まぁ蟲兵なら仕方ないか…取り敢えずそこの警備はいいから、修練場行って来なよ」


「へ?修練場?」


「は?なに?修練場も分かんない?新兵研修で行ったでしょ、っていうかすぐそこだし。勘弁してよアタシ達これから仕事があるのに…そんな事教えてられないよ」


「というか、そんなことも知らん新兵などいるものか?」


やば、変な事言っちゃった…!と思った瞬間サブリエさんがエリスの手を引き。


「す、すんまへんでゲス。おいどん達緊張しっぱなしでゲス。さぁ行くでゲスよ相棒!」


なんて物凄くドスの利かせた声で叫びながらエリスの手を率いて曲がり角の奥へと走って行ってくれた。


「すみません…助かりました」


「いいのいいの、こっちもフォロー遅れた」


そうして曲がり角でエリス達は一息つく。危なかった…けど。アイツら…あんな軍勢連れてどこにいく気なんだろう。


「サブリエさん、アイツらがどこにいくか分かりますか?」


「え?分からない。ヴァントゥーアがエレファヌスやらなんやらを率いて歩くなんて中々ないよ」


ってことは結構な異常事態か。これから仕事があるって言ってたな…。チラリとエリスはヴァントゥーアの装備を見る。遠出するようには見えない、外界に行く仕事じゃない…となると。


(もしかしたらミロワちゃんのところに行く気か?)


多分だがミロワちゃんに関する警備が何かだと思う。アイツらについていけばミロワちゃんの居場所が分かるかも。


「サブリエさん、アイツらについていけばミロワちゃんの居場所…分かるんじゃないですか?」


「え?そうかもだけど、蟲兵は基本警備だからヴァントゥーアについて行ったら変だと思われるよ」


確かにアイツらが連れているのは最低でも鼠兵のムリヌス。蟲兵イノセヌスのエリス達ではちょっと階級が足りないな……。


「それより早くここを離れようよ。この先にはアハトの言ってた修練場があるんだよ。そこにはクロノスタシス軍が山ほどいる…流石にそこに行ったらバレちゃうよ」


そう言ってサブリエさんは曲がり角の奥を指差す。なるほど、修練場の近くだからサブリエさんは咄嗟に曲がり角から誰かが来るのを警戒していたのか……ふーん、つまりこの近くには兵士が山ほど…。


「おい、お前達!そこでなにをしてる?蟲兵か?修練をサボってこんなところに…!」


「あ、…言ってるそばから…やばぁ」


と思ったら…修練場からやって来たのは、猫兵フェリヌス。それが二名…お誂え。

慌てるサブリエさんを今度はエリスが押さえ…、


「す、すみません。実はそこで倒れてる兵士さんがいて!私達どうしたらいいか分からなくて!」


「なに!?どういう事だ!?」


「こっちです!」


「ちょっ……」


サブリエさんがなにか言いかけたが無視。そのままエリスはフェリヌス二人を連れて…先程のトイレへ向かう、そしてフェリヌス二人をトイレの中に引き込み…。


「こっちで倒れてる人が」


「なに?どこにもいないじゃないカッ────」


「ほら、いるでしょ」


そのままトイレの中でフェリヌスの首をホールド、ゴキリと音を鳴らし意識を奪い地面に倒す。それを見たもう片方のフェリヌスはギョッと体を動かし。


「え!?ちょっ!?は!?なにやってお前───ビッ!?」


「寝ててください」


騒がれる前に首元にチョップを一撃。フェリヌスは真横に三回転し地面に頭を打ちつけ気絶し…言った通り、トイレで倒れてる兵士が二人出来上がる。……よし!


「というわけで着替え確保しました。サブリエさん、これ着てアイツらに着いていきましょう」


「大胆不敵過ぎない…!?」


気絶した兵士二人の身包みを剥がし個室のトイレに押し込む。ついでにサブリエさんが気絶した二人に更に催眠魔術をかけてくれたおかげでしばらくは起きない。内側からトイレに鍵をかけて…よし。


「いきましょう!」


フェリヌスの格好に着替えスピード出世したエリス達は走ってアハトとノイン、そしてそいつらが連れいている兵士達の後を追いかける。彼女達は急いでいると言った割にまったり歩いていてくれたおかげで直ぐに追いつけた。


「すみません、ちょっと遅れました」


「え?あ…フェリヌス様、前の方に行きますか?」


「いえ、後ろで大丈夫です」


一団は階級が高い奴らが前を歩く。後方から追いつけば必然鼠兵ムリヌスの後ろにつくことになる…。ムリヌス達もエリス達を若干変に思いつつ階級が上なので変に詮索することはない。

逆にフェリヌス達の中に紛れたら流石に怪しまれるので、ここはムリヌス達より後ろを歩くことにする。


(うぅ…これ潜入だよね…なんであーしら兵士達の群れの中にいるの)


(ほらサブリエさん、堂々としてください)


(怖いよ〜!エリスがガンガン行くよ〜!坊ちゃん〜!あーしこっち嫌だよ〜!)


この手の潜入ってのはコソコソしてる方が逆に怪しまれる。看破されない仕掛けを施したなら、寧ろ堂々としてる方が逆に効率がいいのだ。エリスも旅の中でたくさん潜入したからこそ言える持論ってやつです。


『面白くなって来たな。しかしこれでミロワ行きじゃなかったらどうする』


(関係ありません、そのまま一段を離れてもっと奥地を探します)


『そうか。まぁだがその心配はないだろうな、こいつらの装備を見るにどちらかというと警備寄りだ…まぁ一日経ってからこれだけの兵力を一気に警備に割く理由は分からんがな。やるなら昨日のうちに警備を固めるだろ』


(確かに、なんででしょう)


確かに言われてみると違和感があるな。ミロワちゃんが誘拐されたのは昨日だ…なら今更警備を固める意味はない。昨日か…或いは今日、なにかあったのかな。


「ん?」


ふと、何かの気配を感じて後ろを見る。なんか…視線を感じた気がする。けど後ろを見ても誰もいない…なんだろう、気のせいか?


「どうされました?フェリヌス様」


「いえ、なんでもありません」


ムリヌスに問われエリスは首を振りつつ、一団についていく。すると一団は階段を登り、廊下を進み、曲がり角で踵を転換し…エリスは脳内マッピングで現在地を確認する。この先にある部屋は確か……。


(確か、来賓用の部屋…)


メグさんと一緒にゴールドラッシュ城を巡った時に行った事のある部屋。エルドラド会談の時は離れの塔で滞在したから使わなかったけど、確かお客様をもてなし、宿泊してもらうための部屋があったはず。


そしてオリフィスさん曰くミロワちゃんはそれなりの待遇を受けているとのこと…なら、やはりこの一団が向かってるのは。


「にしても今更ミロワ・カレイドスコープ周りの警備を固めろなんて、ツヴェルフ団長はなに考えてんだろうねぇ「?


「言うな、今朝方…正規の手段ではない方法で鏡の世界に入った痕跡が見られたのだ。もしかしたらオリフィス達が取り返しに来た可能性がある。警備を固めるのは当然至極」


「ッか〜」


見えて来たのは来賓室…あそこにミロワちゃんがいるのか。いくつかの候補を挙げていたが、来賓室もその中にあった。他にはこの城の本来の持ち主ロレンツォさんの自室、屋上の部屋、それと宝物庫…全部回ってたら時間がかかったが。


これは結構ショートカット出来たんじゃないか?……しかし、正規の手段以外でのクロノスタシスへの入国?エリス達のことか?一応エリス達も正規の手段で入ったんだが……。


まぁいい、居場所がわかった。なら後はオリフィスさん達に連絡して…一旦機を伺って。


「おーい、ミロワ嬢〜。お元気でやってますか〜?なんか欲しいものがあったらアタシ達に言ってくださいね〜。あ、でもトイレの時間は限られてるんでそこら辺は考慮に」


と言いながらアハトがミロワちゃんの部屋の扉を開ける…とそこには────。


「は?いないんだけど……」


「なに!?」


「え!?」


アハトとノインが慌てて部屋に入っていく。いない?どういうことだ…!?そう思いエリスは周りの兵士を押し退けミロワちゃんの部屋を覗き込むと……いない。


「ちょっとノイン!ミロワ・カレイドスコープのいる部屋ってここだよね!?」


「ああそのはずだ!外出は認められていない!というか……」


「うん、アタシ達の前任の見張りがいないんだけど…!?どうなってんの!?」


二人は慌てて無人の部屋を探っている。ベッドの下、戸棚の中、窓には鍵…どこにもいない。エリスもシンに頼んで探してもらったが部屋の中にはいない…なら、脱出した?一人で?バカな…そんな無茶をする子か?うーん…するかも、エリスならするし。


けど前任の見張りまでいないのは不可解だ。まさかオリフィスさん達が何かしたのか?オリフィスさんなら多少の兵士くらいならボコボコに出来る。けど見つけたら一旦連絡する話だったし……。


「ねぇ、まさかだけど…既に内側に敵が忍び込んでるとかないよね」


アハトが呟く、そりゃそうだ、それは真っ先に疑う話だ…ノインがエリス達を見る。


「この一団に紛れている可能性は少ないかもしれないが…それでも既に敵が城内にいる可能性が高い。厳戒態勢を敷け!ミロワ・カレイドスコープを探し出すんだ!!」


「これがクレプシドラ様に知られたらあんた!軍部の人間の何割が処刑されるかな!わっかんねーなー!さぁ急げ急げ!」


「ハッ!」


バタバタと動き出す兵士達…ただエリスは一人立って考える。想定外の事態、エリス達とは別の勢力がミロワちゃんを確保し逃げている?影の内閣のような存在がいて…それが誰も知らないところで先にミロワちゃんを。


どうする、どう動く。静観でいいのか…兵士達に紛れて一緒に探すか、どう動く…どう動けばいい。


完全な不測の事態にエリスは停止する…。その数秒の間に城内が騒がしくなり始める。


……よし。


(一旦引こう)


撤退を考える、ミロワちゃんの身が心配だ…今ミロワちゃんを確保している奴がミロワちゃんの命を保証するなんて確信はどこにもない、一刻も早く探さなきゃいけない。だが状況が悪い。エリスの独断でオリフィスさん達を危険には晒せない。


(サブリエさん、一旦神鏡の間に撤退します。オリフィスさん達に連絡を…)


そうサブリエさんに連絡を頼もうとした瞬間……。


「どうかしましたか」


踵を返した来賓室から新たな声がする。先程まではいなかった三人目の声…それは。


「ああ!デイデイトさん!相変わらず反応が早いっすね!」


(デイデイト!?)


空間を引き裂いて室内に現れたのは例の執事デイデイトだ。いや早すぎる…反応がいくらなんでも早すぎる。アイツ…使う魔術も含めてマジでメグさんみたいだな…!


「いえ、早いと言うより…心配事があって来たのです」


「え?なんすか?」


「先程…匿名でタレコミがありました。…城内に孤独の魔女の弟子エリスが入り込んでいると」


(は?)


「もしエリスが来ているなら狙いはミロワ一人のみ。…だから来てみたのですが…遅かったようですね」


ちょっと待て、なんでエリスがここに来てることがバレてる。まだエリス達が鏡の国に来たと言う確証は敵にはないはず。ないからこそ、今の状況が成り立っている。なのに…タレコミ?誰から?裏切り?あり得ない、今エリスがここに来ていることを知っている人間でエリスを裏切る人間なんて……。


「ん?」


瞬間、デイデイトがこちらを見て…。


「貴方、フェリヌスですか…?」


「ッ……!?」


「え?どうしたんすかデイデイトさん、アイツはアタシ達が連れて来たフェリヌスですよ?」


「………どうなんですか?貴方はフェリヌスですか?」


デイデイトの眼光がギラリと迫る、まずい…エリスの声はデイデイトに聞かれてる。ここで声を上げるわけにはいかない…そう思いコクコクと頷くが。


「おかしいですね、今クロノスタシス軍にいる女性のフェリヌスは総勢二十六名…うち八名は城外駐屯地勤務、うち三名は陛下の側におり、十名は別件の作戦に参加中、そして残りの五名は…今ムリヌス達の修練に付き合っている」


「え?フェリヌスの数って二十六名だっけ?」


「……把握していない…」


「ムリヌスやイノセヌスはまだしもフェリヌスやエレファヌスの所在は全員分確認しています…で、貴方は何隊所属の誰ですか?」


想定外に想定外が重なり陥った窮地。踏み込み過ぎた?いや…侮り過ぎた、敵方にメグさん並みに万能に近い存在がいる事実を考えなかった。

いや…そもそも今の状況自体が不測の事態過ぎる。誰かがミロワちゃんを連れ出し、誰かがエリスの事をバラした。


……こりゃひっくり返せないかも。


「………その、私は」


その瞬間、エリスは後ろ手でサブリエさんに合図する。…指を二本立てて…作戦を変更する事を伝える。どうせ最後までバレずにやるのは無理だと考えていた。

だから、こう言う事態に陥った時の為の…第二の作戦に切り替える。


それを受け取ったサブリエさんはゆっくりとその場から立ち去りつつ…エリスは、大きく息を吐き。


「エリスはエリスです、孤独の魔女の弟子エリスです」


そう呟いた瞬間エリスは兜を脱ぎ去り、同時にデイデイトに投げつける。


「むっ…!」


「ッテメェ!!」


「魔女の弟子エリスだと!?いつの間に我々に紛れて!!」


しかしデイデイトは兜を打ち払う、その隙にエリスは剣を抜くアハトとノインに飛びかかり…。


「どっこいしょ!!」


「グッッ!?!?」


顔面を掴み壁に叩きつけつつ、二人を持ち上げ窓の外に投げ飛ばす…その様をゆっくり眺めていたデイデイトは、どこからかナイフを取り出し、ずらりと無数のナイフを扇のように構え。


「……こちらデイデイト、例のタレコミは事実でした。現在ミロワ・カレイドスコープは行方不明…魔女の弟子エリスと接敵中。城内の兵士は戦闘態勢を取るように」


もう片方の手で取り出した手鏡に向けそう話しかける…。さて、ここから作戦は第二フェーズ、本当はミロワちゃんを確保してからやるつもりだった作戦。それは……。


エリスが一人で暴れて、気を引いて、オリフィスさん達の撤退の時間を稼ぐと言うもの。当初これを提案したら『また囲まれて殺されるぞ』と言われたが…別に今回は状況が違う。


前回は撤退出来ない理由があったからああなっただけだ、撤退しようと思えばいつでも出来る。正面切って戦うのではなく逃げながら戦うくらいならいくらでもやりようはある…。


というか…それ以上に。


(暴れたい)


『お前…本質が暴走機関車だよな』


(ミロワちゃんを傷つけた報いを受けさせないと)


気になるのはミロワちゃんが今どこにいるか、だ。……バレてしまったからには仕方ない、暴れながら探すとしよう!!


「さて、魔女の弟子エリス…ミロワをどこへやったか、教えてもらえますか?」


「さぁ、エリスも知りません」


「飽くまで隠すと」


「まぁ何言っても信じませんよね」


エリスは鎧を脱ぎ捨てながらデイデイトと対峙する。さて…ここでこいつを倒したい気持ちはあるが……。


「なら死んでもらいましょうか…!」


「いやでーす」


瞬間、デイデイトが手元のナイフを投げつけた瞬間。エリスは足元の絨毯を引っ張りデイデイトのナイフを打ち払いながら同時に先程ヴァントゥーアを投げ飛ばした窓から飛び出し外へと飛び出し逃げる。


さて、これで奴らの目はエリスに釘付けになった。オリフィスさん達以上にエリスを探すはずだ…その間にオリフィスさん達がミロワちゃんを見つけてくれればそれでいいが。


「よっと…」


そうしてエリスは地面に着地する。場所は中庭…それじゃあ。どう立ち回るかなぁ…リューズとかが出て来たらマジでヤバいからそれを避けるようにすれば……ん?


「あれ?」


エリスの足元を見れば、先程投げ飛ばしたアハトとノインが血を吐いて気絶していた…なんで?いやミロワちゃをの部屋はかなりの上層だ、結構な高さから落としたんだからそりゃそうだろって感じはするが。

このレベルの強者がただ落ちただけでこうなるか?…寧ろ、なんか殴られて気絶しているような……。


「あ!本当に来た!!」


「え!?」


その瞬間、中庭に向けて…誰かが走ってくる。城の方からエリスを見つけて小さな影がエリスに向かって走り……って。


「ミロワちゃん!?」


「師匠〜〜!!」


「えぇ!?マジでどういう事!?!?」


走って来たのはミロワちゃんだ、彼女はエリスを見つけるなりタカタカと走り、ピョンとエリスに抱きついてくる。な、なんなんだ…なんでここにミロワちゃんが?何が起きてるんだ?さっぱり分からない。


「な、なんでここにミロワちゃんが!?」


「それは……」


何故か連れ出されているミロワちゃん、何故か看破されているエリスの存在、そして窓から飛び出した先に現れたミロワちゃん……明らかにエリスの知らない誰かの意思の介在を感じミロワちゃんに聞いてみたところ、彼女は後ろを向く。


そこには、ミロワちゃんの後ろからついて来た…もう一つの影が。


「やはり、こう動いたか。予想通り…そう、計算通りだな」


「お、お前は……レナトゥス!?」


現れたのは緑の宰相服を着て、黄金の杖をついて現れた紫髪の女。…久しく会う、最後に会ったのはコルスコルピの豊穣祭以来か。マレウスの旅でも都度都度名前を聞きつつも、ついぞ出会わなかった存在。


……宰相、レナトゥス・メテオロリティスがエリスの前に現れたのだ。


「こいつ…!」


咄嗟にエリスは構えを取りつつミロワちゃんを庇う、レナトゥスの正体は既にわかっている。こいつはセフィラだ!マレフィカルムの一員だ…!なら敵────。


「待て、私は敵じゃない。寧ろ…今だけは味方だと考えろ」


「え?」


「事実として、私はミロワ・カレイドスコープを保護していたんだからな」


エリスは咄嗟に構えを解く、そしてミロワちゃんを見ると…彼女はコクコクと頷いている。レナトゥスが…助けてくれた、のか?


「本当ですか?でもなんで…」


「お前の反応を見るに…私の正体はもうバレているようだな」


「ええ、マレフィカルムの中枢組織…大いなるセフィロトの一人、基礎のイェソドでしょう?」


「フッ、そこまでバレているか…一体誰が教えたのやら。まぁ構わない、今はな…。私はマレフィカルムの一員としてとある話をクレプシドラにしに来た…」


「なんの話です?」


「そこまでは教えてやれん、だが…クレプシドラの目的が我々にとってあまりに不都合でな。どうやら奴は鏡の世界も現実世界も纏めて消滅させようって気でいるらしい」


「ッ……なるほど」


「驚かないか、ある程度は予測がついていたと。なら分かるだろう?私とて現実世界に生きる身。マレフィカルムも世界の滅亡を願っているわけではない…今世界に滅びられるのは困る、故に……」


「ミロワちゃんを助けたと……」


「敵の敵は味方というやつさ、魔女の弟子」


複雑だ、こいつは敵も敵…最悪の敵の一人だ。でもクレプシドラはそんなセフィラから見ても脅威となる存在ってことか。全ての滅びを望んでいるならもうクレプシドラとは一緒にやっていけないと…そういう事だろう。


「おかしな奴だと思っていたが、まさかクレプシドラがあれほど意味不明な思想を持っているとは…これ以上は私としても不都合だ。アイツの目的は頓挫させる」


「一緒に戦ってくれるんですか?」


「バカ言え、表立ってクレプシドラと敵対するなんて恐ろしいこと出来るわけないだろう。だからお前を巻き込んだんだ」


「え?」


「事前にお前が来るであろう事はミロワから聞いていた、だから匿名でタレコミをしてお前を炙り出した。こちらから探すのも面倒だからな…で、ミロワの部屋にたどり着いたのなら、ここに降りてくると思った」


「え?じゃあこの状況になったのは全部…」


「言ったろう、計画通りと」


こ、こいつのせいか!エリスはまんまとレナトゥスの手で踊らされていたと…そういうことか〜!くぅ〜!腹立つ〜!腹立つけど…そこまで考えて人を動かせる辺り、やはり侮れない存在だな。


「まぁその前に、余計なのが降りて来たから軽く捻っておいたが…」


チラリとレナトゥスは地面で寝ているアハトとノインを見つめ、軽く鼻で笑うと。


「とは言え私もクレプシドラの相手までは出来ない、故にエリス…ミロワを連れて現実世界に戻れ。その手助けくらいはしてやる…!」


「……一時的な共闘、ですか?」


「ああ、オリフィス達と行動しているんだろう?だがアイツらでは戦力的に不足だろう…」


「…………」


この場をなんとか切り抜けるにはエリスだけでは厳しい。対するレナトゥスはエリスが部屋から飛び降りるまでの一瞬でアハトとノインを片付けられる程の実力者…なら、不足はないか。


『いいんじゃないか?どうせ私とも組んでるんだ』


(シンとレナトゥスは別です!けど………)


そうこうしている間にダカダカと音が聞こえる。中庭に向けて兵士達が駆けつけてくる。その中にはエレファヌスやヴァントゥーアまで混じっている…。


「いたぞ!ミロワとエリスだ!」


「確保しろ!クレプシドラ様の公務が終わる前に片付けなければ大変なことになる!」


そうしてエリス達は囲まれ……仕方ない。


「分かりました、レナトゥス!今だけです!今だけ!お前の力を借ります!」


「フッ、偉そうに。お前には他に選択肢がないだろう…まぁ、選択肢を潰したのも私ではあるが?」


クツクツと笑うレナトゥスは杖を地面から離し、パシリと手で受け止め…周囲の兵士達を見遣る。エリスはミロワちゃんを庇いながらレナトゥスに近づき…今、エリスは作り上げる。


魔女の弟子とセフィラの共同戦線を。


「エリス、与えられた時間は少ない。クレプシドラが公務を終えるのはあと十数分…それが終われば出てくるぞ」


「それまでの間に…神鏡の間に移動します」


「ああ、なら…邪魔な小石を蹴って退かすか。そう!無双だな!」


「ええ…!」


背中合わせでエリスとレナトゥスは構えを取る。そうこうしている間に敵兵は数百人に至り、中庭を覆い尽くすほどの数に膨れ上がる。…けど問題ない!


「行きます!!」


全身の魔力を解放し臨戦態勢を取っ────。


「はぁあああああ!!!」


「え!?」


しかし、次の瞬間レナトゥスもまた臨戦態勢を取る。そこから吹き出した大量の魔力の波に思わず驚いて二度見する。こ、こいつ…なんて魔力を持ってるんだ。エリスの数十倍近い魔力量だぞ!?


「さぁ!我が手でクロノスタシス崩壊の狼煙を上げてやる!そう!盛大にかますとしよう!!」


そして、レナトゥスは手元の杖に魔力を集め…振るう。そこから発せられた凄まじい量の白色の魔力波は爆発となり目の前にいた兵士達を一気に纏めて吹き飛ばすのだ。

あまりにも強引なパワープレイ、これがレナトゥスのスタイルか!


「貴様レナトゥス!裏切ったか!」


「ああ裏切るとも!一緒にはやれんさ!そう!方向性の違いだな!貴様らに先んじて世界を滅ぼされては困るんだよッ!!」


「ならば俺が!お前を叩き潰す!」


レナトゥスに襲いかかるのはヴァントゥーア騎士団『四』の騎士フィーア。その手に握った巨大なハンマーが特徴の青年だ…現実世界でエリス達を襲った奴の一人、凄まじいパワーが特徴のアイツがレナトゥスに向けて殴りかかるが。


レナトゥスは凄まじい厚さの防壁でそれを受け止め…軽く笑う。クソ、アイツってば敵なのに…めちゃくちゃ頼もしいな。


「まさか…また貴様が現れるとは」


「…ん?」


そして、エリスの前に現れるのは…もう一人のヴァントゥーア騎士団。


「エルフ…でしたね」


「何度も立ち塞がって…まぁいい、先日の屈辱!ここで晴らしてやる!!」


副団長…『十一』のエルフが弓を片手に兵士達を率いてエリスの前に立ち塞がる。またこいつが相手か…だがいい。今回は出し惜しみなし、ミロワちゃんを守らなきゃいけないのは一緒だが…今回はレナトゥスという味方がいる。


このまま突破して…現実世界に戻る!!

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エリスの脳筋潜入術! ・怪しまれたら強行突破 ・狙えそうなら武器は略奪 エリス最近シンのこと便利アイテムだと思ってない?電磁波といい、検索といい…… レナトゥスは今回のみ味方?ですね。どっかで裏切りそ…
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