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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
二十章 天を裂く魔王、死を穿つ星魔剣
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764.星魔剣とステュクス


「ぬわはははははは!ワシ復活ワシ復活!ワシ復活じゃああああああ!!」


「ケッ、喧しいんだよ泥肉女が」


目の前でヘドロのように泡立ちながら再生を続ける白い塊。それが女の顔を作り出し…剰えその頭は己をシリウスと名乗るのだ。皮肉なことにコルロの目的はコルロが死ぬ事で成就したようだ。


原初の魔女シリウス…それが復活しようとしているらしい。コルロを消したってのに…またこれか。


「ようようお前!バシレウス!バシレウスと言ったな!しかもネビュラマキュラ!懐かしい名じゃのう…セバストスの子孫か!」


「ああ?」


「お前のことはウルキから聞いておるぞ?ワシの器候補の一つとして育てられておったようじゃなぁ…もう目元なんかワシそっくり!」


「吐かせ、似てねぇだろ」


「まぁそうじゃのう。それはそれとしてバシレウスよ、ちょいとそこの魔術機構のスイッチを押してはくれんか?」


「は?」


シリウスは近くの魔道具のスイッチを指差す。何だって俺がこいつの言うこと聞かなきゃならねぇんだ。


「なんでンな事しなきゃいけないんだ」


「いやぁのう、コルロちゃんは結構上手くやってくれたようじゃが…ちょいと出力不足というか。エネルギーが結構足りんのじゃ、じゃがコルロが作ったダフニア・プーレックスシリーズ。彼奴のコピーを一匹でも取り込めば事足りる、故にそこの機械を動かしてコピーを解放しておくれ」


「………」


どうやらすぐそこの機械を動かすと例のコピーが解放されるようだ。壁際にはずらりと並んだ培養槽にコルロのコピーが浮いている。髪は白くなり目は赤くなり、シリウスにそっくりになっているが…なるほど、あれを取り込むとシリウスは復活出来るのか。


「人に物を頼む態度じゃないな」


「お前、マレフィカルムの人間じゃろ?ガオケレナの弟子、あれはウルキの舎弟みたいなもんでウルキはワシの弟子の一人じゃ。つまりお前にとってワシは復活させるべき存在、マレフィカルムの悲願はワシの復活じゃ、故に助けてくれ」


「まぁ確かにマレフィカルムの人間だな俺は、ガオケレナもウルキもテメェを復活させたいって言ったな」


「じゃろ?頼むよ〜なぁ〜?ワシが復活すればマレフィカルム五百年の歴史も報われるという物。その最後の一押しをお前が行う、名誉じゃのう〜〜!」


「はぁ」


俺は銀色に変わった髪をガシャガシャと掻きながらシリウスに言われた通り、近くの魔道具の前に立ち、コピーを解放するスイッチを前に俺は手を掲げ……振るう。


「お?」


その瞬間、ガラスが割れる音が響き、水音が響き、瓦解する。培養槽が俺の断絶防壁により真っ二つにされ…中にいたコルロのコピー達も真っ二つに引き裂かれ、爆発する。腕の一振りでその全てを破壊し、俺はシリウスに向け中指を立てる。


「やっぱり人に物を頼む態度じゃねぇ、ステュクスなら怒ってたぞ」


「はぁ?ステュクス?誰じゃそりゃあ。というかお前今何をやったか理解しとるんか…?」


「薄汚ねぇ肉塊風情が話しかけんじゃねぇ、俺は指図されるのが大嫌いなんだよ」


ザマァ見ろと舌を出す。シリウスの頭はギロリと視線を向け…だがそれでも口角を上げ余裕を崩さない。


「ぬはは、指図が嫌いか、ワシもじゃ…気が合うのう。じゃが…お前、やっちまったぞ。ワシの復活を阻むということはマレフィカルムの悲願を阻んだという事。お前マレフィカルムにもう居場所がないぞ」


「くだらねぇ、俺はマレフィカルムに居てやってるだけだ。居場所がないなら新しく作る。それにな、テメェがここで復活するってことはコルロの目的が達成されるって事だろ?俺はアイツが嫌いでその目的も何もかも全部ぶっ潰すつもりでここにいるんだよ。復活したいならまたの機会にしろ」


「ほぉ〜〜そういう事か。なんじゃあ案外理屈が通っておるのう」


ここでシリウスが復活するってことはコルロの目的が達成される。それはつまりコルロの勝ちだ、俺はコルロに負けたくない。この勝負はアイツがあの世に行っても変わらねぇ、復活したいなら好きにすればいいが今はダメだ。


「じゃが、ワシにもワシの理屈がある。お前の理屈を通すということはお前に道を譲るということになる、ワシは誰かに道を譲るのがとことん嫌いでな」


「魔女相手に道譲った敗北者が偉そうになに言ってんだ?」


「ぬははっ!トコトン腹が立つ奴じゃ…!結局はネビュラマキュラか!飼い慣らそうとも所詮裏切り者のセバストスの血は八千年経っても希釈できておらんと見えるわ!!」


「ッ……」


最上階の部屋を覆い尽くす程のサイズの肉塊が、頭部だけの白い肉の塊が、泡立ちながら動き俺に向け敵意を向け始める。飛んでくるのは凄まじい威圧、ただ凄んだだけで大地が揺れ塔がグラグラと揺れるが…俺はそんな威圧の嵐の中で腕を組み。


「だったらどうする」


「ほう!ワシの威圧にも怯まんか!さては貴様もう第三段階ではないな?」


「は?」


「しかしこの状態ではロクに動けんし、困った困った…じゃが」


「ん?」


チラリと下を見る、大地が揺れてるのはこいつの威圧だけじゃない。何かが来ている、とう察して俺は視線を下に向ると……。


「なッ…!」


透視で見る。塔の地下から大量のコルロが駆け上がって来ているのが…さっき俺が潰したはずのコルロのコピーが波のように階段を飲み込み、すごい勢いで…ここを目指しているのか!


「ぬはは!どうやら時限式で目覚めるようになっていたようじゃ!そして!コピー達にはここを目指すよう誘導した…奴等がここに到達すればワシは今度こそ復活じゃ!」


「チッ、クソが…!」!


まずい、コルロの奴コピーを最上階だけじゃなくて地下にも用意してたのか。しかも数的に地下の奴らの方が数が多い、あっちが本命か。そしてそれらが今シリウス目掛けて走って来ている、あれがここに到着すれば、シリウスと融合して…シリウスが今度こそ復活する。


そうなりゃコルロの勝ちじゃねぇか!絶対させてたまるか!


「一匹だってここにゃ通さねぇ!!」


「無駄じゃと思うがなぁ!数が多い上に一体一体が不死身じゃ。まぁ止めはせん、頑張れば良い!」


「言われなくても!」


俺は地面を砕いて一気に下層へ向かう。床を掘り進んでコルロのコピーがいる塔の下層へと到達すると…既にその廊下はコルロのコピーで埋め尽くされており、まるで濁流のようにコピー同士が押し合いながら凄まじい勢いで駆け抜けていた。


「ゔぁぁあああああああああ!!!」


「ぁあああああああああ!!」


「ゔぅぅうううううううう!!」


「全員揃って自我なしか!まぁテメェの小難しい話聞かずに済むならそれでいいか!」


シリウスによって自我を奪われているのか、元々ないのか。分からないが今のコルロのコピー達には自我がない、全員白目を剥いて一心不乱にシリウスを目指している。だが…通さない、ここで一匹残らずすりつぶして終わりにする!


「『魔王の断刃』ッ!」


「げぅっ!?」


蹴り抜く、一撃でコルロの体が爆散し跡形もなく吹き飛ぶ。どうやら以前みたいに防壁を張ったりすることもないようだ…これなら簡単に倒せ──。


「ぐぎゃぁおう!!」


「ぐっ!?」


しかし、次の瞬間には別のコルロが手を尖らせ、槍のように伸ばして俺の脇腹を抉り血が噴き出る。クソッ…忘れてた、数が多いんだった!


「ふぅー…やってくれたな」


大きく息を整え、魔力を循環させる。集中することで魔力遍在が活性化し肉体の再生能力を急上昇させ、抉られた体の傷が再生する。治癒魔術程じゃないが…魔力を消費すればある程度回復出来る。

コルロとの戦いで、意味分からん声を聞いた時から、この髪が銀に変わった時から出来るようになった新技だ。不死身ってわけじゃないがこれならある程度の傷は無視出来る!


「洒落臭いわッ!『ブラッドダインディグニタス』!!」


噴き出た血を手で触り、一気に薙ぎ払うように腕を振り抜けば放たれるのは無数の魔力弾。散弾のように飛ぶそれは次々とコルロを撃ち抜くが…倒した側から出てきやがる!


「『ブラッドダインマジェスティ』!!」


続いて放つのは強烈な魔力衝撃。紅の光の奔流が廊下を満たし一気に目の前のコルロ達を焼き払うが…来る、止まらない…行進が。


「ゔぁああああああ!!」


「キリがねぇ…どうなってんだ!」


次々迫るコルロを手で払い、打ち抜き、投げ飛ばす。壁に叩きつけ、地面にで挟むように蹴り抜き、それだけやっても廊下の奥からやってくるコルロの量が減ってない…倒せてない?というより単純に数が多いのか!


「ぁあああああああ!」


「グッ!?」


一瞬、気を抜いた瞬間…コルロの拳を受けてしまい、俺は大きくのけ反る。イテェ…防御力はないが攻撃力は凄まじいな、だがこの程度じゃ……。


「おッ…え?」


体勢を整えようとした瞬間、ガクンと膝が曲がり危うく倒れそうになる。慌てて壁に手をついてバランスを保つが…見れば足がめちゃくちゃ震えている。体に力が入らない…やべっ!忘れてた…俺コルロと殺し合いしたばかりだった!


(魔力遍在で治せるのは傷だけか、ダメージが消えてなくなるわけじゃないのか…!やばい、魔力が……!)


体から力が抜ける、銀色に輝いていた髪が白く戻る、なんだこれ?どういう原理で髪色変わってるんだ…っていうか、一気に体が重くなって……。


「ぐぎやぁぉうぁっ!!!」


「ごぶふっっ!!」


蹴り飛ばされる、次々とやってくるコルロの軍勢に蹴り飛ばされ俺は壁に叩きつけられる…クソッ、せめてもう少し魔力があれば……。いやそれどころじゃない、やばい…目の前にもうコルロが。


「ぎゃぁぉおおおおお!!」


「チッ……!」


力が抜ける、流石に無理しすぎたか…だがやるしかないと拳を握った。その時だった。


「バシレウス!!」


「うぉっ!?」


突然上から飛んできた手が俺を引っ張りコルロの波から救い出す。そのまま俺はその手の主に担がれ、廊下の脇道に逸れて一緒に逃がされることになり…って。


「アナスタシア…!」


「あんたこれどういうこと!?コルロと戦ってたんでしょ!?なんで増えてんのアイツ!」


アナスタシアだ、俺を肩に乗せて小麦の麻袋でも担ぐようにして走る。当然コルロは追いかけてくる…ってかこっちの道は恐らく上に通じる道があるんだ。それで騒ぎを聞きつけてアナスタシアがこっちから走ってきたと……なるほどな。


「助かった、アナスタシア」


「え?あんたが礼って……」


「それより状況が悪くなった」


俺はアナスタシアに説明する。コルロは倒したがコルロの中にいたシリウスが復活しようとしていること。今追いかけてきているのはコルロのコピーみたいなもん、それが一匹でもシリウスに接触するとシリウスは復活を果たすと。


「俺はそれを阻止したい。復活したらコルロの逆転大勝利だ、それは絶対に嫌だ」


「私も嫌だよ、シリウスってのが復活したらこの世が終わるんでしょ!最悪だよ本当にもう…でも、あれを通さなきゃいいんでしょう!」


「ああ、そうだ」


「だったら……!」


アナスタシアの脚力は流石だ。第三段階上位クラスの実力を持つコルロ軍団を相手にドンドン差をつけるスピードで走り抜け、目の前の瓦礫の山を一足で飛び越え、壁を蹴り、天井の穴を潜って…向かう先は広間、大広間だ。


そこにいるのは……スキエンティスのみんな。ラセツやタヴ、カルウェナンにムスクルス…全員が突然飛び出してきた俺達を見て口を開け、そんな中アナスタシアは高らかに叫ぶ。


「総員戦闘準備!!これからやってくる軍勢をこれ以上進ませるなッッ!!」


号令だ、簡潔に、それでいてやるべきことを明瞭に叫んだアナスタシア。その一瞬後に地面が破裂し下層からアナスタシアの軍勢が這い出てくる。


「ぎゃあああああ!アナスタシア軍団!なんやこれ!」


「これがカルさんの言っていた!」


「自己増殖の結果か…!これを進ませなければいいのだな!」


「そうだよ!それとバシレウス!」


早速臨戦体制に入るラセツ達、その背後に俺を投げ飛ばし、アナスタシアは反転しコルロ軍団に視線を向ける。


「ここは私達が請け負う!あんたは上に行って諸悪の根源叩いてきて!」


「なんだと…俺が?」


「なんでそこで遠慮がちになるの!あんた仮にもこの軍団の大将でしょ!大将なら大将らしく最後まで決めてきて!」


「ッ……」


確かにあの軍勢だ、コルロ軍団は地面に開いた穴から次々と現れている、今はその出現数も穴により絞られているが…その総数は計り知れない、千体かそこらかと思ったがどうにも総数は更にいるらしい。


これを全部倒すのは現実的じゃない、ならシリウスの方を叩くべきか…そりゃそうだ。


「分かった、ここは任せる。死んだら殺すからな!」


「任せな!!ほらあんた達も!大将の戦いをサポートするんだ!後もう一踏ん張りだよ!」


「お、おおおお!」


そして他の配下達もアナスタシアに続いて壁を形成しコルロ達の侵入を防ぐよう立ち回る。それでも正直いつまで持たせられるか分からない、真っ当に対抗出来そうなのはラセツとタヴとカルウェナンだけだからな。だから早いうちにシリウスを消し去ってしまおう。


「よいしょ」


俺は壁に張り付き、自分で開けた穴をよじ登ってシリウスのいる最上階に戻る。全速力だ、落ちるよりも早く最上階へ向け飛び出すと…。


「シリウス!!」


「戻ってきおった!じゃが無理じゃったろう?そりゃそうじゃ、ワシが増やしておるからなぁ!」


「はぁ!?」


最上階にへばりつく巨大な肉塊は地面に根を張りドクドクと緑の魔力を下に向けて送り込んでいる。こいつがコルロを増やしてやがるのか…いや、だったら余計話が早い!


「じゃあテメェを殺せばいいだけじゃねぇか!!」


「やれるかのう」


瞬間、俺は地面を踏みつけ一気に肉塊に向け飛び込み拳を叩きつけ───。


「おぉっ!?」


がしかし、変幻自在の肉塊はぐにゃりと形を変え穴を開け、突っ込んできた俺をスルリと受け流し、向こう側に突っ込むことになる。こいつ…避けやがった!


「動けるのかよ!」


「この場からは動けん、じゃが今のワシは肉体と言える肉体を持っておらんからな…自由自在に形を変えられるってわけじゃ!」


「だったら…!」


俺はそのまま親指を自分の手の甲に突き刺し、血を吹き出せる…魔力は切れたが、血は残ってる!血を使えばいくらでも魔力を回復出来るんだよ!!


「『ブラッドダインマジェスティ』ッッ!!」


放つのは極大の紅光。何もかもを焼き尽くす光の奔流がシリウスに向かい───。


「ぬぅわっはぁあ!!効かん効かん!」


「なッ…!」


当たる、当たるには当たったが、消し飛ばした箇所から再生していく。クソが!!こいつも死なないのかよ!どいつもこいつも面倒な!!


「だったら跡形もなく消し飛ばして……!」


更に、魔術の出力を増幅させる。噴き出す魔力と血の量を増やす、その都度にシリウスが消し飛ぶ範囲が増していくが……ダメだ。


(こいつ!再生速度が早すぎる…!)


コルロの比じゃない…こっちが勢いをつければその分だけ再生が加速していく。クソッ…こいつ、不死身じゃなくて……。


「言うたじゃろう、ワシは不滅じゃ…!」


不老や不死の上位、不滅。法則を超えた再生速度…無からエネルギーが生まれ、それを媒体に再生する。理不尽の権化のような再生力。これは……真っ向からじゃ──。


「グッ……」


「どうやら血も打ち止めのようじゃな」


魔力が消える、体が揺れる。まずい…血を使いすぎた。視界が揺れる、力が抜ける、魔力も血もなくなっちまった。


「お前の弱点じゃな。血を消費して魔力を増幅させる魔術…それは使用時間が長期に及べば及ぶ程力が弱まる事を意味する。謂わば自身の体力を削って魔力をに回しているに過ぎん」


「ッ…うるせぇ」


「お前もまた無限に再生する体を持っていたならば、或いはその弱点も克服出来るじゃろうが…残念極まりないのう!」


そして、シリウスはギロリと大きな目をこちらに向けると。


「では敗北を噛み締めておれ。復活した暁にはたっぷりお返ししてやるからのう!」


「ッ!!」


そして、放たれるのは緑の魔力。それを一点に集中して放たれる光線。それが俺の体を包むように空中を走り…爆裂する。


「ぐぅうう……!」


防壁も遍在も行う余地がない。俺の体は爆発に押し飛ばされ、最上階の壁をぶち抜き…そのまま外へと飛んでいく、落ちていく。


「がはっ!」


そして、大地へと落とされ、苦悶の声をあげ………動けない、くそ…やらかした。血を使いすぎた、いやそれ以上に…どうすんだよあれ。不滅?倒す方法がないってのか?じゃあどうすればいい。


(どうにもならねぇな)


フッと力が抜ける、諦めたわけじゃない、ただ答えが出ただけ。コピーを増やすシリウスをなんとかする方法はない、シリウスがいる限りコルロは増え続ける、ラセツ達は持ち堪えているが……時間の問題だ。


シリウスが蘇ったらコルロの勝ちだ、それは嫌だ。嫌だが……こう言う時、どうしたらいい、どうしたらいいんだ……なぁ、どうしたらいいと思う。


「お前はどう思う」


地面に大の字になって倒れながら俺はチラリと視線を森の方に向ける。答えを求めて…そうだ、答えを求めてだ。俺の頭じゃ解決策は思いつかない、だが…こいつならきっと答えを出せる。


そう、それは……。


「ステュクス」


「バシレウスーーー!!大丈夫かお前!!」


走ってくる、森の方角から血塗れのステュクスが走ってくるのが見える。それが見えて、俺は思わず笑みを溢してしまい。そのまま起き上がり、座り込む。情け無い姿は見せられない…。


「大丈夫だ、擦り傷だ。それよりオフィーリアは」


「え?ああ…ああ!倒した!」


あっけらかんと言うステュクスに、俺は思わず腹を抱えて笑いそうになる。そうか…そうかよ、こいつが倒したか。世界最強の使い手集団と言われたセフィラの一角を、こいつが落としたか。笑っちまうぜ…本当に。


でも驚きはしないさ、こいつならやると思っていたからな。


「フンッ、だと思ったぜ、生きて帰ってくるってな」


「もうマジでギリギリだったんだぞ、何回も死ぬと思った……けど、死ねないからさ。生きて倒した。それより…大丈夫か?」


するとステュクスは、俺に向け手を差し伸べる。俺を気遣うように、なんでもないって言ってるのに心配して、立てるか?と小首を傾げて俺を見下ろすんだ…、その視線を受けていると。立てるはずもないのに、体に力が湧いてくる。


「ステュクス、お前…この世で一番強いのは誰だと思う?」


「は?いやなんだよこんな時に。この世で一番?やっぱ魔女か?でも魔女の戦いは見てないし……やっぱ、この目で見たものってなると。お前じゃないか?バシレウス」


「……だよな」


こいつとって、俺は最強だ。最強の俺が情けなく座り込んで諦めてられるかよ。さぁ立てよ、立てなくても立て。でなきゃ生きてる甲斐もないってもんだ…!


俺はステュクスの手を掴み、起き上がり…息を整える。絞りに絞れば…まだちょっといけるか、いやちょっとじゃない!全然いける!いけるぞ!うん!


「それよりバシレウス、なにがあったんだ」


ステュクスは天を見上げる。コヘレトの塔最上階に激る緑の魔力が天を覆う。コルロの極・魔力覚醒まで取り込んでいたのか、血の雨は降らずとも血のように赤い雲がコヘレトの塔に蓋をする。


その様を見てステュクスは目を尖らせ…。


「もしかしてシリウスか?」


「分かるのか…!」


「まぁ、なんとなくな」


そんな事まで分かるとは、だったら話が早い…ならば聞こう。


「ステュクス、今大量のコルロのコピーがシリウスを目指している、このままじゃシリウスが復活する」


「ああ」


「シリウスをなんとかしようにも、アイツは不死身だ。倒す方法がない」


「そうか」


「コルロのコピーはシリウスが増やしてる、全滅は不可能、シリウスも倒せない。復活は時間の問題……それが今の状況だ」


「……うん」


「なんとかする方法、あると思うか?」


俺はどうやっても思いつかなかった。方法なんてどこにもないと思える、状況は絶望的。だが…ステュクスは静かに視線を落とし、決意したように俺を見て…。


「ある、一つだけ」


「………フッ」


答えなんか、聞くまでもなかったか。お前なら…そう言うって思っていたぜ、流石ステュクスだ。


「よっし!なら行くぜ…ステュクス。このバカみたいな騒動、全部終わらせてやろうぜ!」


「ああ、生きて帰って、世界を救おう…!」


「そうだな…!」


俺は拳を握り、ステュクスに向けながら歩く。ステュクスも俺の隣を歩きながら拳を合わせるようにぶつける。さぁ…幕引きだ。


………………………………………………


「チィッ!こいつらマジでキリがないで!」


「戦線を後退させろ!ともかく時間を稼げ!!」


「ゔぁぁあああああああああ!!」


波のように迫るコルロのコピー達を次々と打ち払い、消し去るもその勢いは止まらず、エクス・ルナ・スキエンティスの面々は後退を余儀なくされる。少なからずその勢いを挫いて入るもののまるで止まる気配がない白の波濤は、狂気の雄叫びを上げひたすらに上階を目指す。


狙う先は最上階なのだろう。故に皆で歪んだ階段で迎え撃っているが…上がっている、確実に上に。


「『啞邪羅華』ァッ……ぐぅ…もうスタミナ持たんで」


「ムスクルスに傷は治してもらったが…スタミナと魔力はどうにもならんか」


最前線に立ち、並び立ちながら必死に迫る波を切り払うラセツとタヴは疲労困憊。傷はムスクルスに治癒してもらった物の、それでも焉魔四眷を相手にした消耗はどうにもならない。


「ちょっと!カルウェナン…!セーフとアナフェマは!?アイツらいるのといないのじゃ全然違うんだけど」


「アイツらはアイツらなりにしなければならない事をしに行った…ここにはいない。そう言うコーディリアは」


「コーディリアは負傷して待機中!ここには来ないよ…!」


ラセツとタヴが撃ち漏らしたそれをカルウェナンとアナスタシアの二人が弾き返し…。


「押し返せー!!」


「倒せなくてもちょっとは邪魔な障害物になるんだ!」


「負傷した者は後ろへ!命を賭すより長く生き残り長く戦え!」


そして、その他の人員はコルロ達の軍勢と押し合うように必死に体当たりを繰り返す。一人が稼げる時間など瞬きほどもない、だがそれを何十人、何百人が繰り返し、吹き飛ばされても縋り付いて時間を稼ぐ。


全ては、バシレウスがシリウスを倒すまでの間、持ち堪えるために。


「フンッ!はぁ…はぁ、だぁー!クソッ!なんでこないなことになってん…」


「文句を言うな、ラセツ。それとももう打ち止めか?」


「アホ吐かせ、最初言うたやろ。いつまで自分のが強いつもりでおんねん、オレはとっくにお前の事超えてんねん!」


「ならそれを見せてみろ」


「言われんでも……」


そして、ラセツはタヴに促されるがままに拳に魔術をかけ、大きく振りかぶると共に、放つ踏み込み、撃ち抜く拳。それは白の閃光をキラリと瞬かせ。


「『牡丹灯篭』ッ!!」


「ぐきゃぁあ!?」


推進力により粒子を高速回転させ、生み出す純粋な熱エネルギーの解放。それは腕程の太さの光線となって飛び、射線上のコルロ達を焼き尽くし、触れていない者達も余波で焼き払う。一瞬ラセツ達の前に熱のトンネルが出来る程の威力…しかし。


「ぐぎぎ」


「チッ、再生しよる…面倒やのう!クソボケ!」


「苛立つな、それに……」


再生を始めるコルロ達、それに歯噛みするラセツの真横を抜けていくのは幾多の光達。鋭い光条が無数に空を駆け抜け、先程のラセツの光線並みの熱量を発揮し、再生するコルロ達を焼き消していく。跡形もなく消し去られたコルロ達は再生することも出来ず消滅するのだ。


咄嗟にラセツが背後を見ると、そこには手をかざしているタヴがいて、ニヤリと笑うと共に…。


「今くらいの攻撃なら、俺もいくつか出せるが…他にはないのか?俺を超えた攻撃は」


「……タヴやんのそう言うところ嫌い」


「ははは、革命しろ」



「遊んでる場合か!」


「それよりかなりまずいぞ、もう最上階だ」


いくら倒しても終わらない進撃により、軍勢の背後には既に最上階に繋がる鉄扉が見え始める。それをカルウェナンが危惧したその瞬間のことだった。


「ぐぎゃあお!!」


「しまった!」


コルロのコピー、その一匹が雄叫びを上げ軍勢を飛び越え鉄扉に向け体当たりし、最上階に通じる道が開かれてしまったのだ。このままではまずいと咄嗟にアナスタシアが動く…よりも前に。


「『スターライト・ライン』!」


「あぎゃっ!?」


光の速度で飛んだタヴが軍勢の真後ろに抜けたコピーを叩き潰すように上から蹴りを放ち、跡形もなく潰す。それによりなんとか抜けられる事態は脱したが…同時に。


「しまったな……」


タヴの言葉が漏れる。足元の潰れたコピーの上にタヴの冷や汗が滴る。これは明確な悪手だったと…彼自身悟っているからだ。そう、事実として次の瞬間には。


「タヴやん!お前がそっち行ったら────」


「うわぁああああ!突破された!!!」


ラセツの焦った声が響く、配下達の悲鳴が響き…最上階の部屋にコピー達が傾れ込む。ラセツとタヴの二人で持っていた均衡から、タヴが抜けたことによりラセツ一人で対応が効かなくなり、そこからカルウェナンとアナスタシアの戦線にも過剰にコピーが突っ込み、となればもう配下達にも対応が出来ず、完全に突破されてしまったのだ。


「ぬわはははははは!ようやく来たか!さぁ来い肉体の種達よ!ワシを復活させよ!!」


「ッ……あれがシリウス」


タヴが見るのは最上階のドーム状の部屋。その中心に根ざす巨大な頭型の肉塊。白いそれは蠢きながら雄叫びを上げコピーを招来している。


「させん、『スターライト・ミーティア』ッ!!」


両手を払い、作り出すのは流星群の如き光のシャワー。細かい光弾が乱れ飛び肉塊に向けて走るコピー達を次々と焼き払い、吹き飛ばし、一瞬の時間を作り……。


「あの肉塊に近づけさせるな!!総員で時間稼ぎにかかれェッ!!!」


「バシレウスはどこやねん!ここにおるんとちゃうんか!!」


「だぁあ!もうヤケクソだ!」


「肉塊を囲むように立て!陣形はもう気にするな!!」


走る、この一瞬の隙を活かし全員がバラバラにコピー達に向け飛びかかり、一秒でも稼ぐように、部屋のあちこちで乱闘を繰り広げる。


「クソッ!どんどん来るで…これッ!」


ラセツが動く。駆け抜けながら拳で頭を叩き砕き、蹴りで胴体を吹き飛ばし、推進力を生み出す『マルムラビトゥス』でコピー達を吹き飛ばしながら、呟く。


「『迅影』ッ!…クソッ!タフだよこれ…」


アナスタシアも覚醒を行い、ひたすらに走り回る。その衝撃波でコピーを吹き飛ばす、倒せなくとも吹き飛ばす。それだけで時間が稼げるから…だが。


「修羅場か…激るが、些か行き過ぎか」


カルウェナンも拳を握り、ただ一人で複数体のコルロを殴り飛ばし、休む暇もなく怒涛の勢いで連撃を叩き込むことで肉塊へと変える。だが…分かっている。


これは、本当に時間稼ぎにしかなり得ないと。


「ぬはははは!いつまで持つか!人間達よ!誰かは知らんけど!奮戦見事じゃ!精々足掻け!」


シリウスが叫ぶように、こんなのいつまでも持たせられない。奇跡的な拮抗でなんとかシリウスに一体も近づけさせていないだけで、どこかで何かの帳尻が合わなくなれば一瞬で瓦解する際の際。本当にただの悪あがきだ…。


「ぬはははは!ほれほぉれ!頑張らんか!さもなくば終わるぞ!終わらせるぞ!この世界を───」


「黙っていろ!!!」


そんな中、叫ぶ…タヴは叫ぶ。星の光でコピーを焼き払いながら、叫ぶ。ただ一人でコピーの軍勢を叩き砕きながら、シリウスに視線を向け……。


「今、革命の最中だ。大人しくしていろ」


「革命?革命と来たか?んー…どう言う意味じゃ」


「すぐに分かる」


これは時間稼ぎだ、悪足掻きだ、そして革命だ。革命とは諦めない者がいる限り続く。そして今ここで戦う全てを率いる、纏める、前に立つ者がまだ諦めていない…そう。


それは……。


「ぐぎゃああああああ!」


「む…これは」


吹き飛ぶ、鉄扉から入ってきていたコルロのコピー達が、紙吹雪のように吹き飛び…その奥からやってくる二人の影を露わにする。


そう、この中で誰よりも諦めない者がいる。彼らが諦めないからこそ、ここにいる誰も諦めない。諦めないからこそ繋いだ革命の種が、今実り…史上最強の厄災を打ち砕くべく、現れる。


「ステュクス…バシレウスッ!」


踏み込む、二人の影が…バシレウスとステュクスが、戻ってきたのだ。二人は共に並び立ち、軍勢入り乱れ、肉塊が笑う地獄の中で…揃い踏む。


さぁ、革命の始まり…いや、戦いの終わりも近いか。


…………………………………………………………


バシレウスを助ける為、オフィーリアを倒して戻っていた俺に…シリウスの復活を伝えたのは他でもないシリウス本人だった。


どうやら、コルロは倒されたようだが向こうのシリウスは執念深く蘇ろうとしているらしい。このままではシリウスが復活する、しかし……。


『あれをなんとかする方法は、事実上存在せん』


星魔剣はそう言った、シリウスの復活を止める手立てはないと。それじゃあ困る、世界は終わってもらっては困るんだ。そう俺が言うと…同時にシリウスは、こうも答えた。


『事実上と言ったはず。一つだけ…事実上では考えられない方法がある、それは───』


そして、シリウスは…この事態を解決する唯一の方法を明示した、それは。


『ワシが、奴の中に入り、内側から瓦解させる事じゃ』


「え……!」


俺は、走る足を止めて…思わずそう言った。いや、内側から瓦解って…それ。


「入るって、出来るのかよそんな事」


「自分の中に帰るだけじゃ、なんとでもなる」


「いや、それでも…瓦解って、そんなことしてお前は…無事なのか?」


『ぬはは!無事で済むわけなかろう。かっこよく言ったが謂わば自殺するだけじゃからのう!助からん!』


「お前……!」


咄嗟に俺は星魔剣を前に持っていき、睨みつける。それはつまりお前を犠牲にシリウスをなんとかするってことか?そんな事俺が許容すると思うか?あり得ない、その方法はない。


「ダメだ、他の方法は」


『ない』


「ふざけんな、俺に…俺に死人を出せろってのか!俺がもう誰も失いたくないから、命かけてたのはお前が誰よりも知ってるよな!一番近くにいてくれた…お前が!」


『甘えるな!!』


「ッ……」


しかし、シリウスに怒鳴られ、思わず怯む。それだけの気迫がこいつにはあったから……。


『ステュクスよ、よく考えよ。シリウス・アレーティアという人間はもう死んでいる、死んだ人間は現世に干渉すべきではないのだ』


「だけど……」


『今回の一件は、ある意味死者が巻き起こした事件じゃ。シリウスという死者に魅入られたコルロと、師匠という死者に突き動かされたお前、兄弟という死者に囚われていたバシレウス…死者が、この騒動を大きくした』


「…………」


『ならば、ケジメは死者がつける。そうして生者の世を守る事こそ、死者の役目じゃ』


「……………でも、でも…」


『安心せえ、完全にワシが消えて無くなるわけではない。ただ…前のように戻るだけじゃ。ワシとお前、声が通じ合う前から、共におったじゃろう」


「……………」


『故に進め、ステュクス。お前は生者だ、今の世を変えるのはお前じゃ』


そう言われ、何も答えられなかった。シリウスはシリウスを止める…ただ一つの手札。だから俺は、俺は─────。





「行くぜ、ステュクス」


「ああ、バシレウス」


俺は今、バシレウスと並び立ち…コルロのコピーがひしめく空間に踏み込む。目指す先にいるのはシリウスの頭部が解けたような肉塊、巨大な肉塊。あれに…星魔剣を刺し込めば……。


…迷うな!迷うな迷うな!進め、進み続けろ!決めただろ!この世界を…守って、未来へ進むと!!


「今更雑魚がいくら来ようとも変わらんわぁぁっっ!!」


「ッこれで終わらせるぜ!お前ら!道作れ!」


「おう!!」


走る、駆け抜ける。その瞬間バシレウスの配下達がコルロのコピーに組み付き、十人、二十人がかりでしがみつき一瞬動きを止める事で道を作る。その道を…俺とバシレウスは二人で進む。


しかし、それでも漏れたコルロのコピーが道を阻む、だけど…。


「ぐぎゃああああ!!」


「邪魔!!」


「すんな!」


吹き飛ばす、俺とバシレウスの拳がコピーを吹き飛ばし、道を作る。足を止めず走る、走る。


「ええぃ、何を企んでいるか…止めよ!そいつらを!」


「止められるかよ、今更!」


コピー達が俺達を標的にする。次々と迫り来る、それを…二人で切り開く。バシレウスが拳を放ち、その頭に俺が手をつき回転しながら切り払い、地面に着地した俺を踏み越えてバシレウスが蹴りを放ち、その次の瞬間には俺が飛び込みながら斬撃を放ち…進む。


「ぐぬぬ!えぇい!情けない奴らめ!ならばッ!」


瞬間、シリウスの頭部が煌めき…放つのは魔力による光線、それが俺とバシレウスに向け放たれ…。


「させへんで!」


「革命の邪魔をするな!」


「タヴ!」


「ラセツさん!ありがとう!」


二人が防壁を使い光線を弾く、その隙に…俺は一気に歩みを進める。全てを終わらせる、この手で…相棒の意思を叶える為に。


「来たぞ…ここまで!」


「なんじゃお前は!エリスそっくりな奴…またその顔がワシを阻むか!」


「うぉっ!?」


しかし、シリウスの前まで来た瞬間。奴はその肉塊を変形させ無数の刃を作り出し、俺に向けて振るう。その嵐の如き攻撃に俺は足を止め、剣で弾くことしかできない。苛烈すぎる攻撃…こいつ分かってるんだ、俺がなんとかする方法を持ってるって。


「ぐっ……」


『負けるでないステュクス!本当にこの世が終わるぞ!』


「終わらせてやる!終わらせてやるから何処かへ行けぇ!!」


同じ声が星魔剣と目の前から聞こえる。同じ声、同じ人物、だが言ってることが真逆。本当に別人なんだ…目の前にいるシリウスは、本当に厄災そのものなんだ。


こいつが復活したら、マジで終わる。だってこいつは人間のことを何も考えていない。ただ自分の願いを叶える為だけに星をぶっ壊して、星海の彼方に手を伸ばそうとしたいだけなんだ。


こんな奴、復活させられない…復活させらないのに……!


「ぐぅうううううう!!」


「ステュクス」


しかし、必死に堪える俺の背後で…バシレウスが静かに声を上げ、俺の肩を叩き。


「道は作る、お前は進め」


「え」


「任せるって言ってるんだ、お前なら…やれるだろ」


笑う、あのバシレウスが俺に任せると…言ってくれる。そうか…そうだな、ああ。バシレウスならきっと…必ず道を作る!!


「分かった!!!任せるッッ!!」


瞬間、俺は防御をやめ、星魔剣を抜き放ち…走る。シリウス目掛け走る。刃の嵐を前にしても、怯まない、怖くない…だって今、俺の背中を押してくれているのは。


「……あとは任せるッッ!!『魔王の───」


押してくれているのは、世界最強の……いや。


「『鉄槌』ッッ!!」


───天を裂く魔王だからだ。


「ぬぎゃっ!?なんじゃあ!?」


一撃だ、一瞬銀の光を体に宿したバシレウスから放たれた一撃は、螺旋となってシリウスの体を貫通し、背後の壁を粉砕し、天の彼方まで飛んでいき、赤黒雲すら晴らし、天を…神を引き裂く。


ありがとう、バシレウス。やっぱりお前は…最強だ。


「行くぜッッ!!シリウス!!」


『おう!行け!!』


「来るでないわぁぁああ!!」


星魔剣ディオスクロア…その出会いは、偶然だったのか運命だったのか。奇しくも俺の人生を一変させ、大いなる冒険へと導いた…俺の相棒。


その中にいたお前のおかげで、俺は多くを失い、多くを得て、多くと別れ、多くと出会い。


感謝してもしきれない。ありがとう…ありがとうな、ロア。


『ワシもお前に感謝しておる。故に止まるなよ』


一閃、俺の剣が……肉塊に突き刺さり、光を放つ…さぁ、お別れだ、俺の友よ!!


「『喰らえ』!!!ロアァアアアアアァッッ!!!!」


「ぐぎゃぁああああああああああああああ!!!」


突き刺す、突き刺す、深々と…思い切り突き刺し…送り込む。シリウスの意思をシリウスの中に。それと共にシリウスの肉塊は崩壊を始め。


『ぬはははははは!久しいのう……ワシよ』


「ぐっっ!?貴様が何故ここに…!!」


光の中に見えるのは、白い光を放つシリウスの姿と…シリウスのようなシルエットを持つ、黒い影。影は苦しみ、忌々しげにシリウスを睨み……。


『まぁワシも何故戻ってこれたかは分からんが、……止めに来た』


「今更か!今更止めに来たか!バカなことを…!であるならばお前はワシを生み出すべきではなかった!!」


『ああそうじゃ、ワシは浅ましくもお前を産んでしまった。だから…これはあの時できなかった、ワシのやり残した最後の仕事!弟子達に押し付けてしまった最後の仕事じゃ!!!』


「ぬぐぅうううううう!おのれおのれおのれ!!ステュクス!ステュクス!!貴様のことは忘れぬ!絶対に!必ずこの世から抹消して……」


『無理じゃ……』


シリウスが振り向く、俺を見て…静かに頷き…。


『死者に出来るのは、生者の背中を押すことだけよ。ワシはもう死んだのじゃ』


「シリウス……いや、ロア…ロア!俺はッッ!!」


手を伸ばす、ロア…俺の相棒、俺は…俺は!!


「戻ってこいよ!必ず!俺は待ってるから!!」


『……フッ』


待っている、いつまでだって待っている、シリウスは死んだかもしれないが…ロアは違うだろう、だから…。


「ぐぎゃぁああああああああああ!口惜しいわぁああああああぁぁぁ………」


そんな言葉を残す前に……シリウスの肉塊は塵となって消えていく。暗い空が晴れていく、コルロのコピーが、シリウスという意味を失い、バタバタと倒れ…戦いが終わっていく。


「ロア……」


目の前には、大穴が広がっている。壁に開いた穴が見える。シリウスはもういない、ロアはもういない…ただ、目の前には、戦いの跡と、戦いの熱が残り…この手の中の星魔剣は、また以前までのような…何も言わない剣になった。


ただ魔力を吸う力を持った、俺にとって特別な意味を持った…剣に。


「ッ………」


涙が溢れる、…泣くな、泣いたら失ったことになる。失わないと誓った、俺がどれだけそれを誓ったか…ロアは知ってる。必ず戻ってくる…戻ってくるから、絶対に……。


「ステュクス」


「ッ……」


涙を堪えていると、背後から声がして………。


「バシレウス……」


そこには、バシレウスが立っていた。アイツは俺の気持ちを知ってか知らずか…何も言わず。ただ腕を組んで……。


「終わったな」


そう言うんだ、終わったと…世界の危機は、いや…俺達の戦いは、冒険は…。


「……ああ、終わらせたんだ。俺達の……」


「勝ちだな」


勝利…と言う形で幕を閉じた。俺は独りにはならない、俺には仲間がいるし、友がいるし、孤独にはならない。戦いが終わった後に…共に立てる奴がいる。


俺は守ったんだ、未来を…みんなと生きられる未来を。守ってくれたんだ、ロアが。


……だからロア、俺はお前を待つよ。けど足は止めない。


進み続ける、お前と守った…この時を。


「行こう、バシレウス」


「おう」


全てを終わらせた俺たちは、晴れ渡る青い空を背に……進み続ける。死者達に背中を押されて…。


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― 新着の感想 ―
こうしてみると長いようで短い付き合いだった相棒、最早星魔剣を手にした時から意思疎通が出来てたような幻覚が見える… 魔女達もシリウスが豹変した時はこれ以上の喪失感を味わったんだろうなと思うと胸が痛い、唯…
厄災シリウス討伐‼︎ここまで支えてくれたロアとの別れにはグッとくるものがありますね。ロアの言葉から考えるに厄災シリウスはなんらかの原因で真シリウスが自らの意思で生み出した? 真シリウスは、厄災シリウス…
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