761.伐戦第一・『峻厳』のゲブラー
守りたい奴を守れた時こそ、真に強い存在になれたと言える。ステュクスがいつか言ってた言葉だ。元を正せばヴェルトさんの言葉だが…俺はこの言葉をとても強く理解できる。
力ってのは、他人を殴る為にあるわけじゃない。気に食わない奴をぶっ潰す為にあるんじゃない、殴って潰さなきゃ守れない奴がいるから、殴って潰す…その為の力なんだ。
そう言う視点で見れば…俺達ぁまだまだ弱いらしい。
クユーサー・ジャハンナム…今目の前に立つ男は、強い。手前の任務を守り抜いて…見事俺達の邪魔をした。
対する俺達は…失った、守りたかった物を失った。
(マヤ……)
チラリと俺は視線を向ける。横たわるネレイドを守るように膝に乗せ座るマヤの背中、最期まで娘を想い、守る為に事切れたマヤの姿を。
マヤは死んだ、ネレイドを守る為に。マヤを助ける為にここに来たのに俺達はマヤを助けられずマヤを死なせ、マヤに守られた。この時点で俺達は敗北だ……。
だが、それでも…まだ戦いは終わってない。
「マヤは死んだか、で?お前らは引くか?引かねぇだろ?お互いよぉ…死ぬまでやるしかねぇんだからさぁ」
「クユーサー、テメェ……」
クユーサーはまだ俺達を狙ってる。メグは帰ってこない、ネレイドも動けない…俺しか残ってない。今俺に出来るのはマヤの死を悼む事ではなく、ここからどうやってネレイドとメグを助け出し無事に帰るか…そして、クユーサーをぶっ飛ばすか…それだけだ。
「もうお仲間は全滅、あとはお前だけだ」
「分かってる…」
「後がねぇな、なんか出し惜しみしてるなら…今のうちに出せよ」
「後がない?馬鹿野郎……後がねぇんじゃねぇよ。もうとっくに…際の際は超えてんだ…!」
完全な判断ミスだ、クユーサー相手に速攻を仕掛け、即座にマヤの救出に移るべきだった、或いは完全にマヤを見捨てる判断をして手を出さずにいるべきだった。どっちつかずの逸った判断が仲間を窮地に追いやり、剰え決断も遅かった。
全ては俺の責任だ、仲間がピンチなのもマヤが死んだのも、だから…俺はここで責任を取らなきゃいけない。それが曲がりなりにも魔女の弟子という一団のリーダーを任されている人間の…務めだからだ。
「ッ魔力覚醒……!」
途切れた魔力覚醒をもう一度使う…強化形態『蒼乱之雲鶴』。それを放てば体から青色の魔力が滲み出す…更に。
「鬼に会うては鬼を穿つ、仏に会うては仏を割る…我が手には山を割る剛力を 我が足には海を割る怪力を、我が五体に神を宿し…我今より修羅と成る『紅鏡日華・三千大千天拳道』」
「お……大したもんだな、肉体付与か」
更に、肉体に付与魔術を使う、俺が使える最大限。赤色の魔力もまた俺に付与され、青の魔力と反発し合い赤と青が入り乱れる…。
「魔力覚醒に肉体付与、この二つを重ね合わせるなんざよくやるぜ…だがそれじゃあまだ俺様には…」
「まだだっ……!」
更に、乗せる。親指を立て自身の体に突き刺し…開く、気穴を…経絡術。師範から授かった十大奥義のその十!
「最終奥義『悠久神駆』…!」
ドクン…と音を立てて心臓が急速に動き出す。師範から授かった最終奥義『悠久神駆』…青と赤の間に更に黄金の光が重なり、三つの力が合一となる。
魔力覚醒、魔術、武術…この三つを掛け合わせた俺にとっての最強形態。ラセツとの戦いじゃ五分も持たせられなかった力。これをここまで鍛えてきた、これが俺にとっての底の底、これ以上はねぇよ…。
「お前…それただごとじゃねぇだろ、乱用したら死ぬ奴だぜ?」
「言ってんだろ、際の際は超えてんだ。もう…方法選んでる余裕が俺にあるわけねぇだろッッ!!」
「グッッ!?」
殴り飛ばす、ぶっ飛ばす。俺の渾身の力、後十分しか持たない俺の奥の手…ここで注いで、怒りを込めて…こいつを殺す!!
「クユーサァーッ!!!!」
「ケッ!今更本気か?バカな奴だぜ…なにしようが、俺様に敵うわけねぇだろうがよッッ!!」
クユーサーも殴り飛ばされても即座に受け身を取り直し、地面に着地し舌なめずりする。そして噴き出すのは俺の十倍近い魔力…格上なのは分かってる!だが今更引けるか!!
「ぅぅぅううううがぁああああああああ!!!」
「フンッッ!!」
地面を蹴れば格子状に石床が砕け飛び、その間を飛ぶ。シルエットが直線になるほどの高速の突撃はやがて鋭さを得て、飛び蹴りとしてクユーサーに放たれる。しかし両手を前に出し防壁を集中させたクユーサーにより衝撃は四方に散り壁と地面、そして天井が破砕する。
「まだだっ!」
「お!?」
しかし、俺は反動を生かしてそのまま防壁を踏んで飛び上がり、クユーサーの裏に回りその背に叩き込むのは…。
「『熱焃一掌』ッッッ!!」
「ァガッッッ!?!?」
筋肉収縮と魔力波肥大のタイミングを合わせることで擬似的な極・魔力覚醒を作る一撃。それを背中に叩きつければクユーサーの体は炎の弾丸となって地下室の壁を越え向こうの廊下へと飛んでいく。
クリーンヒット、だがあれじゃ終わらない。まだまだ畳み掛ける!
「がぁっ!クソッ!相変わらずアイツの攻撃は治りが遅え!」
クユーサーは崩れた壁の瓦礫を弾き飛ばし立ち上がると共に、飛んでくる俺を、音速に近い俺の突撃を横目で見切り。
「調子乗るんじゃねぇッッ!!」
「ぅグッっっ!?!?」
落雷の如き拳骨。振り下ろされた一撃に俺の体は地面に沈み込み、廊下の床がまるで捲れ上がるように向こう側まで弾け飛ぶ。俺の口からは血飛沫が飛び、全身の骨が軋む…ただのパンチでこの威力かよ。
「俺様を誰だと思ってる!裏社会の王!『業魔』クユーサー様だぞ!!」
「ッッ!!」
そして続け様に飛んでくる踏みつけを、咄嗟に地面を掴み自分を投げる事で回避し、靴裏で地面を捉えれば摩擦熱で湯気が出る程の速度で大地を滑り着地する。
「知らねぇよォッ!テメェが誰かなんて関係ねぇっ!!」
反動を生かし、バネのように体を縮め再びクユーサーに突っ込む…しかしやはりクユーサーは俺のスピードを完全に捉えている。…だったら!
「ッッこの!」
「は!?」
空気を蹴り強引に軌道を変える、一度や二度じゃない、何度も何度も空気を蹴ってクユーサーの周りで乱反射を始める。
「おまっ!空気を蹴ってるのか!?人間技じゃねぇぞ!!」
「死なないのも同じだよっっ!」
「ぉげっ!?」
そして背後から飛びかかり、叩きつけるのは踵落とし。それがクユーサーの肩に当たり、砕けた地面にクユーサーの足が埋まる程の衝撃をもたらす。もう一度だ、今度は頭に…そう狙いを定め足を振りかぶり。
「『熱焃一蹴』ッ!」
炎の如き残影を虚空に描き、鋭い横払蹴りを繰り出しクユーサーの頭を狙う…しかし今までそこにいたはずのクユーサーは突如として俺の目の前から消え……。
「なっ!?」
「言ってくるぜ、おい…!」
大地が吹き飛び、下からクユーサーが現れ…俺の背後に立つ。まるで木が地面を突き破り成長するような挙動で床から現れたクユーサーは俺の頭を大きな手で掴むと。
「だがな!それでも足りてねェッ!!!」
「ヴッ…!」
まるで貝でも叩き割るように俺の頭を膝に叩きつけ、衝撃が大地を銅鑼のように鳴らし、俺の脳を貫通する振動が迸る。
「ァガッ……!!」
「高々二十年そこら生きただけの小童に、負けてやれる程俺様は薄っぺらじゃねぇんでな!!」
そして、俺を廊下の奥に投げ飛ばしたクユーサーは、大きく開いた手に光を集め…大きく振りかぶり…。
「『獄炎』!!」
放つのは付与魔術。昔聞いたことがある伝説の魔術…空間そのものに属性を付与する界領付与、それにより世界その物に着火し相手を焼き尽くす世界の燎炎。それが熱線のように赤々とした光を放ちながら迫る。
防壁での防御は不可能。世界を燃やすが故に空間として地繋がりならどこまでも炎は伸びる…故に俺は両手を前に出し。
「『付与魔術・重力付与』!!」
「ああ!?」
空間に付与された魔術に更に付与魔術をかけ軌道を変える、火炎を下方向に向ける。俺の下を潜り消える火炎を見てクユーサーは顔を歪め。
「付与魔術に付与したのか!なんじゃそら!」
「馬鹿野郎はテメェだボケ!!こっちは本家本元!アルクトゥルス仕込みの付与魔術使ってんだよ!テメェとは格が違うんだよこの分野じゃ!」
「あんだと、この野郎がッッ!!」
瞬間、クユーサーは両拳を打ち合わせると同時に発動させるのは付与魔術の獄炎。両手が炎上して…ってアイツ、自分の体にも付与できるのか。
いや出来るよな、体に負荷がかかり過ぎるから出来ないと言われる肉体付与。それを出来ないわけがない、不死身のアイツに。
上等だ、どっちの付与が上から決めようぜ!!
「十大奥義ッ!」
「『獄死炎縄処』ッッ!」
踏み込む、全力で踏み込み大地が全て後ろ側に捲れ上がり炸裂する勢いで吹き飛びながら駆け抜けクユーサーに向け突っ込む。同時にクユーサーは燃え盛る拳を一瞬にしてバラバラの縄、黒い木の蔦に変えるとそれをめちゃくちゃに振り回し熱糸により地面も壁も天井も何もかもを焼き切る炎の地獄を作り出す。
「その一・改ッ…!」
「なァっ!?」
それを、駆け抜ける、潜り抜ける、空気を蹴って幾度となく進行方向を変え炎の縄を潜って避けて一気にクユーサーの目の前に肉薄し──解き放つ、右手で握った拳骨を左手で包み、魔力を集中させた…その一撃を。
「『焃怒烈天』ッッ!!」
「ぐぶぉっっっ!?!?」
発生するのは紅蓮の竜巻。赤よりもなお赤く輝く拳がクユーサーの胴に炸裂し、螺旋状に飛ぶ衝撃波が奴の体を貫通し弾き飛ばす。
放つのは十大奥義・その一…風天・終壊烈神拳。炸裂する拳の風圧で遠方を敵を消し飛ばす大技。それを集約し、俺の魔力を乗せて改造した…謂わば俺だけの十大奥義。
魔力爆発と流れを操る力にて一点に集中させたその一撃は、炎の竜巻の如く赤く輝き敵を貫く。
「ぐぅっ!がぁ…!ぅグッ…!!」
それを受け、土手っ腹に風穴を開けたクユーサーは、口からボタボタと血を流し苦しんで、一歩…二歩と引き下がる。
そして忌々しげに自分に空いた穴を見て…牙を噛み締める。
「グッ…ギィッ!クソがァッ!再生しろ!再生しろよオラァッ!!なんでこいつの攻撃は治りが遅えんだよ!!」
いつもなら直ぐに再生する体、それが今はいつもより少しゆっくりだ…グニョグニョと新芽が生えて、それがゆっくりと成長して奴に空いた穴を埋めていく。
……俺の与えた傷はいつもより治りが遅い。だが結局治りが遅いだけで治りはするし…体に穴を開けても生きているから殺せはしない。
(厄介だな、あの再生)
どれだけ再生が遅くても、奴はどうやっても倒れない、これじゃどうやっても倒せない。こっちは消耗戦するだけの余力はないぜ…十分だ、俺が動いていられる時間は。
この十分が過ぎれば、俺は動けなくなる。体力は尽きて根性だけで立ってられなくなる…そうなったら終わり。だがこのままちまちまやってても意味がねぇ……!
「ッックソがぁぁああ……!許さねぇ…許さねぇぞ魔女の弟子ィ!この俺様の手をここまで煩わせやがってェ…!!」
そしてクユーサーは怒りに任せ更に魔力が増加する。まだまだやれるって感じだ…信じられねぇ強さだ、こいつの果てはどこにあるんだ!
「だぁああクソッ!全力を出すにゃ狭過ぎる!!」
その瞬間クユーサーは拳に魔力を集め、赤黒い魔力を伴う拳を…地面に叩きつける。
「『無間獄』ッッ!!」
「なッ…!」
そして拡散する赤い炎が、この狭い廊下を押し広げていく。空間そのものが広がっていく!?これはメグの時空魔術…いや、空間そのものに広さを付与したんだ。
メグもこいつも同じ空間に作用する魔術使い。場を広くすることも出来るか!
「ふぅ〜…これでちっとはやりやすくなったぜ」
「嘘だろ……」
天を見上げる、さっきまであった天井が見えない、周りを見る、さっきまであった壁が見えない。代わりに地獄のような瓦礫の山と、そして宙に浮かび上がる山のように大きな岩の数々が出現し…この場がクユーサーの為の場所になる。
さっきまではやり難い環境でやってたのかよ…!
「行くぜ小童、叩き砕いてあの世に送ってやるぜ!!」
「ッ…!?」
一瞬だ、俺が空間に気を取られた瞬間クユーサーの魔力が…まるでエリスの冥王乱舞のように噴き出し、背後に衝撃波を伴いながらすっ飛んできた。そこから繰り出される膝蹴りは俺を吹き飛ばし、空に浮かび上がる岩山を三つ貫通させるだけの威力を発揮する。
「グッ…!」
「この空間なら!崩落の心配もねぇっ!全力で暴れられるぜぇええええ!!!」
そして吹き飛びされた俺に一足で追いついたクユーサーは、そのまま俺の頭を掴み。肘から噴射した魔力で下方向に加速。隕石のような速度で地面に叩きつけ…あまりの衝撃に大地が融解し瓦礫は全て上方向に消し飛び、どデカい大穴が開く。
「ガッ…ぅグッ…!」
「ギャハハハハ!どーだい俺様のフルパワー。今まで手加減してもらって勘違いでもしてたか?ちょっとでも俺様に追いつけると」
頭を抑え、傷を抑えのたうち回る。全力で魔力遍在を高め、防壁を何重にも張って耐える姿勢を取ったのに、衝撃が貫通してきた。頭が割れる…!全身が砕ける、痛い…!
「塔の真下じゃなきゃ、もっと早く全力出せてたんだ。悪いな勿体ぶって…!お詫びにここから全力でお前をぶっ壊してやるよ!!」
「グッッ!?」
そして飛んでくるのは岩盤後ごと抉るような軌道の蹴り上げ。地面が爆発し俺ごと穴の外に蹴り飛ばし、クレーターの外壁を貫通し俺は空へと飛ばされる。
地面を転がり、血を吐く。アイツあんな性格してるくせに周りを気遣って力を抑えるなんてこと出来るのかよ。
「無駄だぜ、俺様には追いつけねぇ。そもそも間違えてんだよお前ら、俺様は不死身になったから強くなったんじゃねぇ、不死身じゃなくても強い俺様が不死身になっただけだ。元々不死身じゃなくてもテメェら殺すくらいわけねーんだよ」
そして跳躍し俺の目の前に降ってくるクユーサーは黒い角に白い牙をを輝かせ、倒れる俺を見下ろす。そりゃないよな、こっちは時間制限ありの強化をやってるのに、軽く全力を出しただけで上回られるとか。
まぁ…まだ諦めねぇんだけどな、俺もさ。
「ッ……ハァ…ハァ……」
「おうおうまだやるかい、いい加減にしとけよ。俺様がガチになった時点で勝ち目はねぇんだぜ」
「あるさ、まだ折れてねぇから…」
「はぁ?」
「……あんた、アルクカース人だったろ?」
口元から垂れる血を拭いながらクユーサーを見上げる。こいつは俺の祖父を知ってると言っていた、アルクカースが故郷だと。百年前の話だから知らなかったが…どうやらこいつはアルクカース人らしい、だったら。
「勝負ってのは…勝ち負けがあるから、熱いもんだろ。勝ちがあるから、立てるんだろ…負けがあるから、折れずに立ち続けられるんだろ。そんなもんアルクカース人なら教えられるまでもなく理解してる常識だ…」
「だから?」
「……何が強え俺様が不死身になっただ。テメェは捨てたのさ、自分から…負けの危険性を、負ける可能性を排除した腑抜けが、俺に勝てると思うなよ」
「はぁ……大口叩くねぇ」
負けるかもしれない、負けたらやばい、そう言う可能性があるから…是が非でも男は立てるもんだろ。その負けを消し去れば…そいつはそこまでで終わる。こいつはただ負けるのが嫌だった臆病者だ。そんな奴相手に折れてやれるかよと睨みつければクユーサーは大きくため息を吐き。
「くだらねぇ口先だけの理屈。こいつを力で捩じ伏せてこそ力には意味がある…こいつもまたアルクカース人なら、ガキでも知ってる事だろうがッッ!!」
「ッ…!」
振り下ろされる、黒腕の一撃。それを見上げ歯を食いしばる。逃げても避けても意味がない、奴に次の手を与えるくらいなら…ここで迎え撃つ!
「十大奥義!!」
「んぉっ!?」
振り下ろされる拳に体を合わせ、這うような軌道で体を回転させながら受け流す…そして相手の拳の勢いを活かし、回転させた延伸力を足先に集中させながら開き──。
「その七・改!!『五霊金輪釼』ッ!!」
相手の攻撃をそのままひっくり返し数倍の威力で返す『十大奥義その七・鳳凰之霞羽』…それを俺なりに組み替えて作り上げたカウンター技。相手の一撃を受け流した反動で体を回転させ。その勢いのまま相手の胴体を撃ち抜く必殺の一撃。
足先から離れる紅蓮の竜巻は衝撃波としてクユーサーの背中を突き抜け……。
「もう二度とお前の攻撃は受けねぇよ…」
「なッ!?」
違う、クユーサーの体に穴を開けたんじゃない、開いたんだ。アイツは自分で自分の腹を裂いて穴を開ける事で受け流した。俺の攻撃で再生は遅くなる…だが自分で裂けば、再生はいつも通り行われ───。
「『獄死奈落迦ッ!!」
「ぐぶっ!?」
そして叩き落とされる、拳の中に大量の付与魔術、炎、雷、風、熱、数多の属性を込めた一撃が振り下ろされ俺の体を叩きつけ大地が再び割れる。
「誰が一発で終わるって言ったよ!往生しろやぁぁああああああッッ!!!」
一撃では終わらない、防ぎきれなかった今の一撃が今度は雨霰のように降り注ぐ。連打、乱打、激打、そこに合理は存在しない…無限に続くと思われる暴力の地獄が、ただひたすらに俺を追い詰める。
直感というにはあまりに明確な気配、死が目の前にある。クユーサーにはスタミナという概念が存在しない、俺が死ぬまでこれは続くだろう…なんとかしないと、なんとか方法を探さないと。
(どうすれば……)
薄れていく意識の中で考える、何か手はあるか?だがもう魔術も武術も覚醒も使い切った…底を見せた、師範が言っていたように武術家は底を見せちゃいけない。底を見せて上回られた時が最後になっちまうからだ。
「ぶっ潰れろぉおおおおおおお!!!!」
そして俺は今底を見せて、上回ってきた…クユーサーは。俺にはもう底はないのに…いや、あるのか?まだある。
争心解放…これをまだ使ってない、今の俺にこいつを追加すれば、まだ……。
(いやダメだ!これはラセツに通じなかった!ラセツより強いクユーサーにやっても意味がねぇ!!)
ラセツはこれを更に上回ってきた、ならそれを上回るクユーサーに通じるとは思えない。ラセツの時よりは強くなってるがそれでも…流石にこれをひっくり返せる程とは思えない。
激情に任せた拳には、結局限界が……いや。
(激情ではなく…無情ならば)
あった、まだもう一つ使ってない奥の手が…ガウリイルとの戦いで会得した師範の究極奥義、無我にして没我の領域『無我の究天』…完全に無我の領域に入り自分の最大スペックを引き出す技。
これを追加…付与に覚醒に奥義に加えて無我の究天も加えれば四つ。これだけやれば…いやもっとだ、もっと。
エリスはどうやって強くなった。雑多に技を散らばらせるな、全てを一つに…合一させろ!
「ッッ………!!」
痛みを堪え、精神を集中させる。師範でさえ…少なくとも八千年前は戦闘中に究天に入ることはできなかったと言われている、戦いの最中に瞑想して没我に入るのは至難の業ーだがやるしかない……たとえ半端でも、今は少しでも力が欲しいッッ!!
「ガァァァッッ!!!」
「なッ!?」
精神を水面の如く鎮め、荒れ狂う数多の力を最大まで引き出し…そして同時に、一本に合わせる。青の光、赤の光、黄金の光…それそれが別々に噴き出していたそれらが一つに重なり、白い光を生み出す。
そして、白い光を放つ俺の手が…クユーサーの黒い拳を受け止め離さない。
「な、なんだお前…今度は何をした!」
「ッッ……!」
ゆっくりと立ち上がりながら、噴き出した魔力により地面が弾け飛ぶ。今、この状態に名前はない、魔力覚醒でも付与魔術でも悠久神駆でも無我の究天でもない。俺が今出せる全てを注ぎ込んで作り上げた最強の戦闘形態。
底を突き抜けた先にある底無しの力……これが!!
「ッッだぁっっ!!!」
「グッッ!?」
拳を弾き返し、同時に握る。白色の拳骨、それをクユーサーの顔面に向け、一気に放つ。拳を握ればただそれだけでプラズマが迸る、掻き回された大気が熱により燃え上がり、俺の背中で渦を巻く。
拳を放てば、後から遅れて音が来る、大気が追いかけてくる。無空にして無上の一閃は未だかつて俺が放った如何なる拳と一線を画し、更なる領域へと押し上げる…全てを。
俺の武は、今武の領域を超え…ようやく『理』の領域へと至り────。
「ッッ─────!!!」
まるで爆発だ、拳の一撃で射線上にある全てが白の光に飲まれ消し飛んでいく。一直線、クユーサーの胴に放ったそれは奴の上半身を飲み込み悲鳴すら上げさせず跡形もなく吹き飛び……消える。
「ッゼェ…ゼェ…!」
一発振り抜いただけで途方もない疲労感が降りかかる。と同時に後から遅れて事象は巻き起こる。崩れるような轟音と共にクユーサーの背後にある地面が…まるでスコップで掘られたように遥か彼方まで抉れ、舞い上がった土埃がトンネルを作る。
俺が殴ったのはクユーサーじゃない、もっと別の何かだと感じる程に…遥か彼方、延々と衝撃波が続く……そしてクユーサーは。
「……………」
下半身だけになり、上半身は跡形もなく吹き飛び…呆然と立ち尽くしていた。それを見て俺は一息つき────。
「ガッ!?」
瞬間、腕が爆発する。続いて肩が爆発して脇腹、足、ありとあらゆる部分で爆発が起こる…魔力の爆発、暴発と言ってもいい。あちこちで限界に達して魔力が爆裂し始めたんだ。
たった一発、ぶん殴っただけで限界が来た。そりゃそうだ…体が追いついていない以前に今のは即興の技。
四つの力を無理矢理繋いだに等しい、四つの川を強引に一箇所に流せば当然氾濫が起こる。今俺の体は溢れかえった力で爆発しつつあるのだ…。
「うっ…くぅぅ……」
まぁ、分かりきった話ではある。思いつきの即興で勝てるなら…努力も修行も必要ない。これらを操る為、より安定させるために修行をするんだから…パッと思いついた技で勝てたら、そりゃ苦労は───。
「いてぇな…マジで」
「え!?」
ハッと前を見る…するとそこには、再生を始めているクユーサーの姿があった。いや再生するのは分かる、それを込み合いで考えていた。今までの再生速度から元の姿に戻り切るのに相当な時間がかかるはずだから…それまでに離脱を考えていた。
だがどうだ。おかしい、再生速度が早すぎる…みるみるうちにクユーサーの体が修復されていく、黒い木が赤く染まり…血のような光を放ち、ほんの数秒で元の姿に戻った。
いや元にじゃない、毛先が、瞳が、皮膚が赤く染まり…口からは蒸気を放ち、どう見ても普通じゃない状態に成り果てている…。
「『超再生』…俺様の奥の手さ。こいつを使うと血のストックが馬鹿みたいに減りやがる、正直再生速度と血の消費…釣り合いが取れてねぇから、使いたくなかったんだが…お前の強さに免じて、切ってやるよ…切り札」
「………マジか」
今の俺の一撃が底無しなのだとすれば、こいつには果てがない。…そう痛感させられる。
エリス曰く、こいつら不死身の存在は他者の血を吸う事で渇きを癒しているという。恐らくその吸った血を…大量に消費する事で再生速度を通常の何倍にも引き上げられる。エリスがかつて戦ったヴィーラントには出来なかった芸当……だが。
何故考えなかった…!同じ不死身の存在であるヴィーラントとクユーサー…ここに再生能力にも差が出ていると。次元違いの強さを持つクユーサーの方が遥かに再生を巧みに使えるという事態を…何故考えなかった。
「フゥ〜〜…今の一撃は第三段階級…その中でも最上位に匹敵するレベルの一撃だった。それを第二段階のまま出すとは…恐れ入ったよ。だが」
「ぐっ!?」
クユーサーは俺の首を掴みあげる。奴の手が異常に熱い、ただ掴まれただけで火傷しそうだ…!
「だが俺様に挑むのが早すぎたな。もうちょい経験を積んで、強くなってから挑まれたら…俺様もやばかったぜ、これはお世辞でも挑発でもねぇ…紛れもない事実だ」
「ッッ……」
「そしてこいつは、俺様の持論にはなるが。伸びる奴は放っておいたら直ぐに強くなる、たった二、三日放置しただけで手がつけられなくなる…そうなってから潰すより、弱いうちに潰す方が遥かに楽だ」
「っぐ…がぁっっ……!」
メリメリと音を立てて俺の首を圧迫するクユーサー。その万力のような締め上げから逃げようとするが、ダメだ…身体強化が全て切れた。もう抵抗する力も残ってねぇ……。
「俺様は最強さ、だが始めから最強だったわけじゃねぇ。俺様より強い奴はいくらでもいた、俺様より若くて才能がある奴なんかいくらでもいた。それらを全員殺して…俺様は頂点に立った。強い奴は後ろから刺し、才能ある奴は芽が出る前に刈り取り、玉座を守り抜いてきた!今回も同じだ!!」
「うっ……!」
「ガオケレナがどれだけ強くともいつか俺様が上回る、コルロが俺様より強くなろうが、後ろから刺してアイツの成果を全て奪う。お前がどれだけ才能があろうとも潰す…そしていつか、再び俺様が裏社会の頂点に立つ!!今度こそ、終わらぬ闇夜が訪れる!!」
「ッ………させねぇ…!」
「いいや、する。俺様は生まれついての我儘坊主なんだ。やりたい事は駄々こねても暴れても殴っても殺してもいいからやり遂げる…!」
時間は幸い、どれだけでもあると言いながら顔を近づけるクユーサーに、ただ顔を歪める事しか出来ない。
クソが、こいつはエリスを傷つけた奴だぞ。メグを傷つけネレイドを傷つけマヤが死ぬ一助となり、多くのものを傷つけた張本人…それを相手に手が届かねぇなんて……最悪の気分だ。
「さぁ死ね…!ラグナ・アルクカース…俺様ぁお前みたいな若くて有望な奴が大っ嫌いなんだよッ……!」
「ぐっ…くぅぅうう……!」
終わる、死ぬ、そんな思考が頭を駆け巡り…俺は今、その視界を暗闇に閉ざす……その、間際だった。
「やめて……もう、やめて……」
「あ?」
視界の端に見えたのは……。ネレイドだ…ネレイドが、この果てしない空間の中、何処からか現れこちらに歩み寄ってきていたのだ。
「あ?お前さっきの…まだ動けたのか?ってかどうやってこの空間に入ってきた。ここは無限に広がる空間、歩いて現れるなんてあり得るわけが……」
「もう……やめてって──」
瞬間、ネレイドの目が映る。俺の瞳に映る、明確な…そして、悲しい怒りを帯びた瞳が…瞬きの間に線となり、風となり、力を放ち…。
「言ったいるだろッッッ!!」
「グッッ!?!?」
殴り飛ばす…先程まで瀕死だったはずのネレイドが、猛烈な魔力と力を放ちながら俺を助け出した。
動けず、意識を失う寸前の俺は…多分幻覚を見たんだろう。俺を抱き止め、クユーサーを睨むネレイドの背後に。
(マヤ……?)
ネレイドを抱きしめる、マヤの幻影が見えたんだ。
……………………………………………
───時間は少し遡り、ラグナとクユーサーが戦い始めた…その頃。
(マヤ……)
私は一人、マヤの膝の上で倒れていた。
この日私は、天涯孤独となった。父はとっくに死んでいるらしい、母は今目の前で死んだ。私が弱いから守れなかった。
(お母さん……)
マヤは最後まで母親だった、母親として私を守るため…命を捨てて助けてくれた。魂を手放し拘束を振り解いて、命が尽きているというのにクユーサーを追い払い…私に最後の言葉を残してくれた。
なのに私は…彼女を助けられなかった。何もしてあげられなかった………そう、思っていた。
(産まれてきてくれた、ただそれだけで…私は彼女の救いになれていた)
笑みを浮かべたまま逝ったマヤの頬を撫でる。彼女の生涯は聞いている、その力により家族から捨てられ、友を失い、孤独に生きてきた。そんな彼女の孤独を救ったのが…産まれて間もない私だった。
だから彼女は私を助けようとした、お母さんは私を助けてくれた。命をかけて…私を助けた。
なら……私がすべき事はなんだ…なんだ。
「うっっ……!」
胸が痛む、ズキリと痛む、まるで刃に刺されたように…私はたまらず苦しみながら、マヤに抱きつき…涙を流す。母の亡骸に抱きついて、涙を流す。
「お願い…マヤ」
悲しい、悲しい、悲しい、辛い、辛い、辛い、でもそれ以上に…あるんだよね。私にもするべきことが。
マヤは私を生かした、母として私を守ってくれた。なら私にもある…するべき事が。それは何か、決まっている…幸せになって、めいいっぱい生きる事!生き続ける事!
だからその為の力を頂戴、今の私じゃ力不足なんだ…私は一人じゃ幸せになれない、一人じゃ戦えない。私の人生には…友達が必要なんだ。
今ラグナが私を守るために戦ってくれている、私を守るためにメグが傷ついた、私は二人を助けたい…助けたいんだ…だからその為の力を。
「マヤ…力を貸して───」
────その時起こった出来事は。或いは理論で片付けられる現象か、或いは神が引き起こした奇跡か……。
「っぐ…ゔぅぅうううううううう!!!」
涙を流しながらのたうち周りそうな痛みを堪え、未だ少しだけ残る母の温もりに縋り続けるネレイドの体内で今、変化が起こっていた。
……その現象に名前はない、敢えて呼ぶとすれば『進化』。ネレイドの超人の因子が込められた細胞に変化が起こっていた。
「がぁぁあああああああ!!!」
ネレイドの体はシリウスの助言によりリミッターが外された、そこまでは良かった。だがネレイドの体に眠る無際限の才能は、ただリミッターが外れただけでは扱い切れなかった。
超人としてより適切に進化したネレイドだったが、ネレイドの体は答えを見出せずにいた。どのよううに進化すれば強くなれるのか、ネレイドの体は知らなかった。
答えのわからない答案用紙に、めちゃくちゃな文字を書き込んだ状態が…今のネレイドだった。そんな彼女に訪れた変化…それはマヤが最後に流した、涙に起因する。
「ぅぐぅぅぅうううううううう!!!」
その涙に、観測出来ないほど僅かな血…そしてマヤの細胞が紛れていた。それがネレイドの体に落ちて、ネレイドの体は『マヤ』と言うか前例を得た。
マヤもまた同じく最強の超人だった。そこにコルロと言う天才が正しい形でのトレーニングを与えることにより、正しく成長出来た非常に稀有な例。つまりマヤの中には超人として正解があった。
その正解を得て、ネレイドの中にあった超人の因子…マヤの代償による強制的に受け継がれた最強の超人因子と、ネレイドが元より持ち合わせていた超人の因子、それが一つの細胞の中で巻き起こり、肉体全てを変革させた。
「う…ぐっ………マヤ、ううん…お母さん…!」
骨、筋肉、内臓、破綻した設計をしていたその全てが…合理的に整えられ、マヤの力を受け継ぎ、超人として更に進化し…史上二例目となる、超人ホトオリに続く二人目の『完成された超人』へと昇華された肉体。
それを持ち上げたネレイドは…立ち上がる。傷が癒えたわけじゃない、だが体力の上限値が大幅に改善されたことにより、今のダメージがネレイドにとって擦り傷程度のものに変わっただけ。
そう、今ここに立つ超人は……死した『現世界最強の超人』マヤから、その名を襲名せし新たなる『世界最強の超人』。
「待っててね、私……精一杯、生きるから!」
現人神を超えた荒神…ネレイド・イストミア。超人として再誕した彼女は立ち上がり…走った。
ラグナに向けて走った、仲間の元へ向けて走った。
その速度は…ネレイド自身も驚く程のものだった。
(体が軽い、さっきまで鉛みたいに重かったのに、まるで私がいないみたいに軽い…!)
破綻していた設計により、過剰に重くなっていた体。そもそも人類設計の範疇を超えた身長、筋肉量、骨密度を持っていたネレイドにとって、先程までは動くのもままならない程に体が重かった。
しかし今は違う、肉体の重さが物理的変わった。圧倒的な重量はそのままにネレイドの肉体で支えられる限界点にまで軽減され…スピードは異様な程向上した。
「ここか…!」
そこからネレイドは壁を粉砕し…クユーサーが作り出した無限の空間に入った。空間付与により肥大化した廊下。しかしクユーサーは無限とは言うが実は無限ではない…無限と思われるほどに大きくなっているだけ。故に……。
「待ってて、ラグナ!」
踏破した…して見せた。ネレイドは無限にも思われる空間を物の数分で走り抜け、そしてクユーサーの前に、ラグナの前に現れ…そして。
「ぐぅうう………!」
「ラグナ、大丈夫?」
「あ…ああ……」
クユーサーを殴り飛ばし、私はラグナを救い出す。遅れてしまった、全て遅かった。マヤを助けられないくらい遅く、ラグナがこんなになるまで遅れてしまった。
けど間に合った、友の命が失われる前に……だから。
「後は私がやる」
「調子…戻ったか?」
「うん……」
「なら、頼む……」
私はラグナを地面に下ろし…クユーサーの前に立つ。何が起きたかは分からないけど、今の私は…力に満ち溢れている。まるで…マヤが本当に私に力を貸してくれたみたいに。
「な…なんだぁテメェ…!!」
「なんだも何もない、お前に対し…返しにきた。マヤが受けた苦しみ、友が受けた傷、その全ての」
「あんだと……!」
強く睨みつける、こいつには返さなきゃいけないものが山ほどある、だから返す…マヤの分も、一人ではなくみんなと生きるためにッ……!!
「上等だ…俺様相手に偉そうなこと言ったツケを払わせてやるッッ!!」
瞬間、クユーサーは驚くようなスピードで私に殴りかかってきた。そう…驚いたんだ、びっくりして口を開けてしまった…だって。
(え?……遅すぎる…)
まるで、スローモーションに見えた…殴りかかってきた瞬間、クユーサーが止まったようにノロノロとカタツムリみたいに動き出したから。
まさか…そうか。
───動体視力、かつてのネレイドは過剰に発達しすぎた動体視力に苦しめられていた、がしかし今は違う。動体視力が相手の敵意に呼応しオートで発動するよう肉体が再変化し、相手の攻撃の初動から…非常に緩慢に見えるようになった。
故に……。
「フンッ!!」
「ガバァッ!?」
私の拳がクユーサーの真横をすり抜けぶち当たり、クユーサーの歯がボロボロと取れ、口元から血が溢れる。
「は…?なんだ今のスピード…なんだよそれ…!」
「お前には関係ない事だ」
「ッ……ざけやがってッッ!!」
怒りに満ちた表情でクユーサーは振るう、無数の木の枝を拳から速い剣の付与を作り私に向けて伸ばし───。
「お前は、好き勝手やりすぎた」
「ぐげぇっっ!?」
しかし、剣の隙間…そこを通って一瞬で肉薄し、クユーサーの顔をまたも殴りつければクユーサーの体が大きく揺れ…。
「他者を傷つけることを躊躇せず、力を振るうことに抵抗を感じず…好き勝手に振る舞いすぎた!」
「がはっ!?」
そしてその首を掴み地面に叩きつける。ただそれだけで大地が粉砕し大きく陥没する…今までじゃ考えられないパワーだ…まるでこれは。
「『炎拳』…!」
「は?」
まるで直感に突き動かされるように、私は拳に力を込め高速で震わせると、火がつく。まるでベンちゃんみたいに…体から吹き出したアルコールに引火し、拳に炎が灯り……。
「ミリアム・カリアナッサ・スレッジハンマーッッ!!」
「がぁぁああああ!?!?」
一撃、地面にめり込んだクユーサーに拳を叩き込み…さながら噴火の如く炎が舞い上がり、クユーサーの悲鳴が木霊する。今まで出来なかったことが出来るようになってる。
やはりだ…マヤが、マヤが力を貸してくれている…!
(なんじゃそりゃ…!?嘘だよな…これ)
クユーサーは炎に巻かれ、混乱していた。さっきまで雑魚だと思っていたネレイドが…自分より強くなっていることに。
いや、ただ強くなっただけならいい。だがこれはどう言うことか…これは間違いなく。
(マヤの力を継承してやがる……ッ!!)
死んだはずのマヤがネレイドに乗り移ったように、その技、力、何もかもがネレイドにそっくりそのまま足されている。ただでさえセフィラと同格だった女が…そっくりそのままネレイドの力として追加されてしまった。
つまり、マレフィカルムが誇る三本指、タヴやラセツを上回る最強の超人マヤが…ネレイドの肉体の中で力に変わったのだ。絶望どころの騒ぎじゃない、今のネレイドは間違いなく世界最強の超人になった。こいつより強い超人は世界の果てまで探してもいない。
そんな奴が敵になった…そんな敵を育ててしまった。その事実に震える。
(俺を超える才能を持つ、若い奴は山ほどいた…そいつらの芽が出る前にいくつも摘んできた。けど……恐れていた事態が、起こったってのか…芽が出て、大木にまで成長したってのか!!!)
「起きろ、クユーサー…まだ終わらないぞ」
「ぐっ……ぅ…!?」
起こす、クユーサーの体を引っ掴んで引き起こし、全身に力を込める。
───今のネレイドは、マヤの細胞情報を取り込み…最強の超人となった。マヤが数十年かけて得てきた技術すら継承した。それは血液の中に刻まれた魂の残滓がそうさせるのだ。血液とは親から子に継承される魂の受け渡し。
マヤの血を継ぐネレイドだからこそ、その身に眠っていたマヤの技を受け継ぐことができた。最後の涙が…その血に眠る魂を起こし、マヤが最後に持つ全ての『記憶』を継承させた。
コルロが悶える程に欲しかった全てを…ネレイドは得たのだ────。
「ふぅーー……!」
「な、何する気だ……!」
そして、私は体を震わせ…行う。今までやり方も分からない物だったのに、今は手に取るようにやり方が分かる。まるでマヤが横からやり方を教えてくれるみたいに…そうだ、この技の名前は。
「『顕神荒御魂』……!」
「なっ!?」
それはマヤが持つ戦闘形態。過剰に体を震わせ水分を蒸発させることで飢餓状態を作り出し、意図的に火事場の馬鹿力を引き出す。またアドレナリン、ドーパミンの過剰抽出やエピジェネティクスによる肉体の最適化を行い………マヤが、使っていた技。
それを見たクユーサーは歯の抜けた顔で怯え出し。
「な、なんだよ…なんだよ!マヤは死んだんじゃねぇのかよ!!」
「ああそうだ、死んだ…マヤは、私のお母さんはお前達のせいで死んだ!!だけど……!」
クユーサーを投げ飛ばし、拳を握り…力を込める。吹き出した蒸気が、赤熱した拳が焔を宿し、クユーサーを睨みつける。
マヤは死んだ、死んだよ、どうしようもない事実だ…それは。だけど、それでも……残っている!!
「マヤの祈りは…私の中で生き続けているんだッッ!!」
「グブゥッッ……!!」
一閃、叩きつける炎の拳によりクユーサーは血を吐き出し吹き飛んでいく。…生きてるいるから、強くなれた。マヤの祈りが…生きて欲しいと言う祈りが、私に力を与え…背中を押して走らせてくれた。
だから…私は戦える、友達の為に!自分の為に!!母の祈りの為に!!
「ぐがぁああああああ!!!」
燃え盛るクユーサーは悲鳴を上げながら地面を転がり吹き飛んでいく。拳を叩きつけられた体はボロボロになり、必死に転がり…火を消している。そんな中…クユーサーは。
(……あれ?)
気がつく、地面に転がりながら…自分の顔を触ったり、胸を触ったりして…ようやく気がつく。
(最初に殴られた時…折れた歯、さっき殴られた時についた傷……全部再生してない?)
私につけられた傷、そのどれもが再生していないことに。みるみるうちに青ざめるクユーサーは慌てて立ち上がり…全身に力を込める。
「ぐっ!『超再生』!『超再生』!…な、なんでだ…なんで再生しない!まだ血のストックはある!再生は出来る!バカな…なんでだよ!!」
「当たり前だよ、クユーサー」
「は……?」
再生の対策くらい、している。まるでマヤが私の耳元で囁いて教えてくれたように…私には一つのアイデアが浮かび、そしてそれを実践しただけ。クユーサーはもう再生出来ない…何故なら。
「お前の体は…お前の傷を認識していないからだ」
「なに…を……」
……即ち『古式幻惑術』。私がお母さん(リゲル様)から授かった力。これは現代幻惑と異なり人の神経に直接作用する。痛覚を刺激しないはずの傷に痛みを与えることが出来るのが古式幻惑術…なら、『あるはずの傷を知覚させない』事もできる。
今、クユーサーの意識は痛みと傷を認識してるが、体は認識していない。クユーサーがどれだけ再生しようとしても体は『傷一つ受けていない』と思っているんだ。そりゃあ再生だって出来ない。
つまり、私は今…クユーサーを、不死身の存在を唯一殺せる存在になったのだ。
「リゲル様とマヤ…二人のお母さんがくれた力が!私に戦う道を!守る道を与えてくれた!!クユーサー!誰もいないお前とは違う…!!」
「ッッなんだと、テメェええええ!!!」
突っ込んでくる、クユーサーが突っ込んでくる…拳を握り猛烈な勢いで突っ込むが…遅い、遅すぎる。
「『獄死──」
「ミリアムアガウエ・スマッシュエルボッッ!!」
「ガッッ!?」
振り下ろす、肘を。それによりクユーサーの握られた拳、それを超え腕に叩きつけられ…クユーサーの左腕が切断され吹き飛んでいく。そして再生もしない……これが。
これが、二人のお母さんから授かった力だ…!二人の娘である私だけが使える、超人の力と古式幻惑だ!!
「ッッふざけんなよ!なんだよこれ!再生しねぇ!ありえねぇくらい速い!こんなのありかよおおお!!!!」
「これが!お前が今まで奪ってきた全て!その清算だッッッ!!!」
瞬間、私は飛び上がり、クユーサーの体を吹き飛ばす。音速を超える勢いで飛んでいくクユーサーの体…そこに一足で追いつき、吹き飛ぶ体を掴み…。
「ミリアム・ポセイドンドライバーッ!!」
叩きつける、全身の血液を一気に下方向に移動させる事で、その反動により急降下し、クユーサーの体を地面に叩きつける。大地に触れる寸前に下に向け投げ飛ばす事により、まるで落雷でも落ちたように床が消し飛ぶ…。
「ぁがぁああああああ!!」
「まだだ!まだッ!終わらない、終わらせない!!」
「や、やめろッ!やめろぉおお!」
逃さない、こんなもんじゃ終わらない、私達を引き裂いたお前を私は許さない!
クユーサーの体を掴み、背負うように地面に叩きつけ、蹴り飛ばし、殴り飛ばし。破壊していく、再生出来ないクユーサーはみるみるうちにズタボロになり、怯えるように騒ぐ……その瞬間。
「ッッやめろッッ!!」
「ッ…!」
クユーサーの体から無数の槍が飛び出す。当然当たらない、軽く捌いて距離を取る。クユーサーは無くなった腕の代わりに木の根を伸ばし剣のように変え、あちこち生まれた傷を木の根で継ぎ接ぎ、ボタボタ溢れる血を噛み締めながら私を見る。
「調子に乗るんじゃねぇよ!!!俺様を誰だと思ってる!!『業魔』だぞ!『業魔』クユーサー・ジャハンナム…!それがテメェみたいな若造に!いきなり強くなったお前に!いいようにされてたまるかよッ!!」
「……調子になんか、乗ってない」
「嘘吐くんじゃねぇ……俺は、俺様は最強だ…こんなところで終わる男じゃ断じてない!!だから!」
溢れる、未だ潰えない意志と魔力が荒れ狂い……。
「テメェはここで死ね!極・魔力覚醒!!」
溢れる魔力が形になり、空を、大地を、全てを覆う黒となり、まるでクユーサーから滲み出す何かが世界を穢すように広がっていく…。
「『死生円環沙羅双樹』ッ…!ぶっ殺す!!」
「………ッ!」
展開されるのは黒の空間、それが私をも飲み込み展開される…これが奴の、全身全霊…。
───── 分類不能型覚醒『死生円環沙羅双樹』。それは無限を象徴するクユーサーの極・魔力覚醒。展開される黒の空間は半径50メートル…この範囲内にある限り、クユーサーから生じる全ての現象は無限となる。
魔力攻撃の威力は無限大に強化され、殴り飛ばした物体は無限に飛翔し、彼によって引き起こされる全てには終わりがなくなる。
それは対象の意思を無視して終わりを見失う、クユーサーの在り方によって作り出された無限の覚醒。
「いいよなぁ!!テメェみたいに!強くなれる奴は!!俺様にはない!何もない!親も!友人も!立場も何もかもない!何もないところから始まった!!」
「ッ……!」
振るわれる拳から放たれる無数の衝撃波が光線のように飛び、体から伸びる木の根が槍のように飛びどこまでも貫通する。それを直感と動体視力で見切り回避していく。
「「何もないところから始まり、全てを得て、全てを守ってきた!俺様は力で覇王になった…!力こそが全てだ!だから羨ましいよ、そんな風に強くなれるお前がッッ!!」
「ぐっ……!?」
一発、貫通する。クユーサーの木の槍を捌ききれず無限に加速し続ける攻撃に私は対応が遅れ、脇腹を貫通し血が溢れる……けど。
「羨ましい…?」
「あ?」
「これのどこが…!羨ましいッッ!!」
「ぬぉっ!?」
引っ張る、怒りに任せて槍を引っ張りクユーサーを引き寄せる。羨ましいだと?言うに事欠いてこの力が羨ましいだと!!
「母を守れず!失って手に入れたこの力のどこが!羨ましいんだッッ!!」
「げぶふぅっ!!」
「力は守るためにあるんだ!守れない力に価値はない!守ることが出来ない強さに意味はない!!そんな事もわからないからお前はッッ!!」
殴り抜く、木の枝を掴んで何度も何度も殴り抜き、そして、足を振り上げ───。
「そんなにも残酷になれるんだッッ!!」
「がばぁぁあ!?」
蹴り飛ばす…怒りに任せて、蹴り飛ばす。マヤを失って手に入れたこの力を、誇る気はない。マヤと引き換えにこんな力を得るなら…こんな力を要らなかった!力が全てなら…私は全てなんていらない。
ただ、お母さんと一緒に生きたかった!それが出来ないなら…せめて。
「お前の言う、全ての力で…お前を滅ぼす!!」
拳を握り、魔力を渦巻かせる。これより行うのは…神の裁定。地獄に落ちる事も許されない罪人への慈悲…!
それは、私がお母さんを守りきれなかった罪の象徴、それを一生抱えて生きる…覚悟の力!
「極・魔力覚醒!!」
「な…はぁ!?」
砕けていく、クユーサーが作った黒の結界が、まるでガラスのように割れて破壊される。そうして砕けた世界の向こうに現れるのは───。
「『荒神顕現・神罰執行』ッッ!!」
「これは……!」
言うなれば、神の国。テシュタル教に於いて死した人間が向かうとされる…死後の楽園。花が咲き誇り、雲は輝き、神殿が顕現する神の国を作り上げる。
「バカな!景色ごと変わるなんて…臨界魔力覚醒じゃあるまいに…!」
いや、あるいはこれは臨界魔力覚醒にも似ているだろう。なんせ…この範囲内は私が作り上げた領域なのだから。
───────世界編纂型魔力覚醒『荒神顕現・神罰執行』。それはネレイドの神の力を生み出す点が強化され…進化した信仰の頂点。
半径は200メートル。その範囲内は幻惑魔術の発露により景色がテシュタル教絵画に描かれる『神の国』へと変貌する。この覚醒の力は一つ、この範囲内に於いて…ある一つの絶対不問のルールが適用される。
それは……。
「ッ……なんだテメェ、そりゃあ」
ネレイドの背後に光輪が宿る。今のネレイドは星神王テシュタルと同等の力を持つと言う事になる。しかしそれだけなら彼女の魔力覚醒と同じだ。ただ一つ違うのは……。
この空間内に於いて、『ネレイドは神であり、その他は人である』と言うルールが適用される事。
「来い!」
「グッッ!?!?」
ただネレイドがそう言うだけで。相手の体は引き寄せられ…。
「『神罰』ッッ!!」
「げぶふぅっっ!?」
叩きつけられる拳は…相手の罪深さによって威力が増加する。相手が罪深ければ罪深いほどに威力が増す。
そう、幻惑により世界を騙す事で神の力を得ていたネレイドは、幻惑を真とする力を手に入れた。今の彼女は…善良な人々の祈りを受けて、悪に堕ちた人を裁く世の裁定者となった。
今ここに、最も新しき神話が生まれたのだ。
「ぐがぁぁああ!!」
ネレイドの一撃はクユーサーの体を裁き、その全身から光が溢れてひび割れていく。爆裂と共に吹き飛ばされ、花畑の上を転がっていく。
「ぅ…ぐぅ…ふざけんな…ふざけんなよぉ…」
「クユーサー、お前は罪を重ねすぎた…私が裁く、お前を……ここで!」
神と人、そのルールが適用される限り、この空間ではネレイドの力は絶対となる。幻惑ですらない、力の象徴としての進化を前に…クユーサーはただのたうち回ることしかできない。
「ッ……神様気取りかよ…ふざけんなよ、神が一度だって俺を救ってくれたか……一度だって」
「神は人を救わない、お前を救えるのはお前自身だけだ…だから人は祈り、前を向き生きるんだよ…」
「っざけんじゃねぇ!!俺は…俺様は!」
全身から木の根を生やし、燃え上がる魔力を滾らせ、それでも狙う…私の首を。その様に救いようのなさを感じた私は…ただ一人、思う。
彼にもまた、母がいたのだろう。想う人もいたのだろう。だがその全てが彼を見放した…彼には全てがなかった、だからその空白を力で埋めただけなんだ。でも…それでも。
「死ねぇえええええええええ!!」
「哀れだね、クユーサー」
「なッ!?」
私が終わらせる、彼の不幸の連鎖を。振るわれた拳が空を切る、幻惑魔術にて魅せられた幻は黄金の粒子に変わり…クユーサーの拳は私を捕えず。
「クユーサー、貴方不死身なんだよね……」
「あ!?」
掴む、背後から…クユーサーの腹に手を回し、両足で大地を捉える。その瞬間クユーサーはしまったと顔を歪めるが…もう、もう遅い!!
「ッッッ!!!」
「や、やめ!!」
飛び上がる、空高く飛び上がる、空高く飛び上がればやがて私の領域はあやふやになり…その力の全てが私の中に収納され、やがてこの空間…クユーサーが広げた空間の終わり、天井に辿りつく、だけど…。
「はぁああああああああああ!!!」
「どこまでいく気だ…!」
天井を粉砕し、岩盤を破砕し、地上に出る。コヘレトの塔一回の床を砕き二階を壊し三階へ…次々と床を貫通し高く高く空へと飛び上がり───────。
「ッッッぁあああああああああああ!!!」
「は…はぁ!?」
コヘレトの塔の最上階を超え、更に高く飛び上がり、ヘベルの大穴から出て、更に上へ。上へ上へ、神がいる場所…空の上、雲の上へと飛び上がる。
これが、私の最強の技…マヤ、貴方がくれた力で終わらせるよ。
「超々々々々高度……落下式」
「なッ!?ここから!?やめろ!おい!やめろぉおおおおお!!!」
クユーサーも必死に暴れて逃げようとするが、私はそれを許さず、木の根で串刺しにされようが顔を殴られようが止まらず、一気に放つ。足先から全魔力を噴射し…下に向けて落ちていく。
それは神が振り下ろす救うの鉄槌。悪を滅ぼし、善を助け、人の世を守る天来の奥義!!
「『マーテル……!」
「や、やめろ!分かった!降参だ降参!負けを認める!!もうやめる!戦わない!!」
落ちる、ヘベルの大穴を潜り、コヘレトの塔に開けた穴を通り、落ちていく。
「『ドロローサ……ッ!!」
「刑務所でも牢屋にでも入るからッッ!!反省するから!!だからァッッ!!」
そして、再び地下に戻り、クユーサーが自分で広げた空間を落ちて、最高速を超えた限界速度、それを更に超えて…私の体は…光の向こうを見る。
これが、私の───────!!
「『エクス…ッ!!」
「や、やめ…やめぇ────────」
─────最後の、親孝行だよ…マヤ。
「『……ドライバァーッッッッッッ!!!!!!」
一瞬だ、大地に激突した私はクユーサーを頭から地面に叩きつけ、無限に広がる空間を粉砕し、天に向けて伸びる土埃を放ち、全てを崩落させる一撃を放つ。
それは再生を封じられたクユーサーにとっては、何より致命的な痛手となり…奴の体は一瞬にして粉々に砕け散り……そして。
「……終わったよ、マヤ……」
気がつくと、広がった空間は元の廊下に戻り、目の前には岩盤も何もかも砕く程の大穴が地の底にまで広がっていた。
クユーサーは粉々に吹き飛んだ…それでもまだ生きているだろうが、再生も出来ない、彼は一生この暗い地下の中で…死ぬ事も出来ず、呼吸も許されず、生き続ける事になる。
さながら、それは…地獄だろう。
「………………」
「終わったか……ネレイド」
「うん」
近くの壁で座り込むラグナが言う。私は無敵の力を手に入れた…その代償はあまりにも大きく、辛いものだ……けど。
「ありがとう、ラグナ」
「え?」
「私の為に戦ってくれて、生きてくれて…、友達になってくれて、ありがとう」
「………ああ」
けど、私は生きて…友達といる。これがマヤの祈りの通りなら…生きていこうと想う。それが彼女の命に報いいる…唯一の方法だから。
「じゃあ、帰ろうか…その前にメグを……おっ!?」
「マジか」
大地が揺れる、地震が起こる、ガラガラと天井が落ちてくる…まさか、まさか!
「やりすぎちゃった!」
「クソッ!上が崩落を始めてる!やりすぎたなネレイド!早くメグを回収して脱出だ!」
崩れ始めた塔、落ちてくる天井…やりすぎた、ごめん!!!
私は慌ててラグナを抱えメグを探す。……マヤ、私は友達と生きていくよ。
だから、見ててね。
本当にあと少しのところですが四日ほど書き溜め期間に入ります!次回投稿は次週の月曜日となります!




