755.星魔剣とコヘレトの決戦
「見えてきたぜ、コヘレトの塔が」
走る、空にかけられた岩の橋、その上を走る無数の駆動車が見るのは霧の中佇む巨大な塔。今から俺達が攻め込む塔…コヘレトの塔。それを眺めるように腕を組み、車の上に立つバシレウスは固い顔を見せる。
「ラセツ、このまま突っ込め。出来るよな」
「そら問題ないわ、あんくらいの壁やったらぶち抜いたる!」
「よし、始まったら…各々好きにやれよ」
近づいてくるコヘレトの塔、徐々に高まる戦いの気運。そんな中……俺は思い出す。
『ステュクス、お前はオフィーリアに集中しろ』
バシレウスに言われた言葉を。今からみんなはヴァニタートゥムと戦う、そんな中俺だけ別の目的で動くことになる……けど。
(バシレウスの組織『エクス・ルナ・スキエンティス』の信条は各々がやりたい事をやる…だったな、だったら俺もやりたい事をやるべきか)
今は真夜中、もうすぐ六日目に突入する。姉貴の命が持つのは七日まで…つまりこれがラストチャンス、もうオフィーリアを探したり策を弄したりする暇はない。ここで決めないといけない…そしてオフィーリアは必ずここにいる。
(決めるんだ、ここで)
剣を握り、目を見開く…壁が目の前に迫る、全員が席から立つように腰を浮かせ、そして。
「よっしゃあ!よー掴まっとりや!!!」
「ッッ……!」
砕く、壁を乗り込む…コヘレトの塔へ。そしてそれが…ヴァニタス・ヴァニタートゥムとの最後の戦いの幕開けとなる。
…………………………………………………………
コルロ・ウタレフソン…俺はアイツを潰す。何故ならサイディリアル俺に恥をかかせたから、コヘレトの塔で俺を見逃すなんて不敬を働いたから、ここに至るまで幾度となく俺を殺そうとしたから。
借りは山とある、それを返す為に俺は今…コヘレトの塔にやってきたんだ。
「さて……」
ガラガラと崩れる壁、雪崩れ込むように壁に突っ込み粉砕し、俺のかけた橋を渡って来た車から次々とラダマンテスの…いや、俺の組織の配下達が塔に乗り込んでくる。
その中心に、最前線に立ち…俺は腕を組みながら想う。
一度目にここに来た時、俺は一人だった。一人で戦い、そして負けた。今まで一人で戦って…一人だから負けた事がなかった俺は一人だから負けた事を認められず、のたうち回った。それがどうだい、たった数日経て…もう一度ここに来た頃には。
『エクス・ルナ・スキエンティスのご登場だ!手前らのボスの首差し出せや!』
『ヒャハハハ!旗揚げだ!』
『引き摺り下ろしてやるヴァニタートゥム!』
俺の背後には無数の影が続く。
「さぁて、一丁かましたりますかぁ」
「どうやら向こうも準備は出来ているようだ」
「開戦か、腕が鳴る」
幹部が続き、総勢数万人の配下と九の幹部を従える大軍を率いている。変れば変わるもんだ、変わる事を許容し、変わらない物を選び…そして今ここまで来れた。なら後は押し通すだけだ。
「さて…?」
俺は後ろに軍勢を控えさせ、前を見る。いつか見たような石の壁に石の床…だだっ広い空間、そこを占領するように目の前にワラワラと集まるのは。
「なんだぁテメェら、ここがどこか分かって来てんのか!八大同盟『死蠅の群れ』ヴァニタス・ヴァニタートゥムの本拠地だぞ!」
全員が白い制服で揃えた…まるで研究者のコスプレをしたようなチンピラ達。悪人面が知識人の真似事をする滑稽な連中が俺達を出迎える…恐らくはヴァニタートゥムの構成員達だろう。
……全く、俺が来てやってんのに幹部一人も出迎えに来ねーか。
「分かって来てんだよ…ヴァニタートゥム。テメェらこそ分からねぇか?ぶっ潰しに来てんだよ、俺達は…お前らの組織を」
「ッ!お前!バシレウス・ネビュラマキュラ!?なんだこの軍勢…お前は組織を持っていなかったはず」
「さっきまではな、分かるだろう。今のままで好き勝手やって来たツケが回って来たんだよ…おい、コルロ出せ。雑魚に用はねぇ…今すぐここにコルロを連れてこい、さもなきゃ……」
俺が言い終わる前に、ヴァニタートゥムの構成員は武器を構える。なるほどそう言う事か、雑魚が牙見せて、なにになるってんだか。
「そうかい、なら……おいテメェら!!ナメられてるぜオイ!示してこいッ!手前らの肩に乗ってる名前が何かを!邪魔クソなヴァニタートゥムを今日ここで叩き潰して!また一つ世界をスッキリさせようぜ!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!!』
「ええいかかれ!コルロ様の邪魔をさせるなァッ!!!」
動く、こちらの軍勢とあちらの軍勢が動く、即ち戦争が起こる。組織と組織の抗争が巻き起こりぶつかり合う。俺はそれに参加しない、雑魚に混じって戦う気はない。故に戦いは全員に任せ…後ろに下がると。
「ほな、どないするよ頭領」
ラセツ達が俺を出迎える、俺はそれを一瞥し…少し顎に手を当てて考え。
「俺はコルロと戦いたい、お前らはその露払いをしろ。焉魔四眷が邪魔だ、お前らが相手するんだ」
「この場は?」
「もうアイツらに任せてる…いや、ムスクルス。お前がここを責任持って維持しろ、ここが戦闘の中心地になる、構成員が次々飛んでくる、あの白い人間も来るだろう…だからお前が治癒を使ってとにかく持ち堪えさせろ」
ムスクルス、こいつをここに残す。正直戦闘能力では他に大きく劣るがそれは幹部陣の中で見ればという話。この手の木端の雑魚を相手にするには十分すぎる戦力、それに加えて卓越した治癒の腕は継戦能力に優れる。
「御意に…この筋肉法師ムスクルス。全力を尽くしましょう!!」
するとムスクルスは自分の体を親指で突き、経絡を刺激し筋肉を膨張させるとともに敵陣に向かっていく。まぁアイツなら大丈夫だろう…なら後は。
「コルロは上だな、さて…行くか」
焉魔四眷は幹部に任せる、雑魚は他の連中に任せる、後は俺がコルロに借りを返せば……いや、待て。
「その前に…来るか!」
「ッッ…!バシレウス!これ!」
地面がグニャグニャと粘土のように動き出す。壁が揺れ、変形していく。この異様な現象、異質な光景…一度見た事がある。
エクレシア・ステスだ。あの時のように建物そのものを変形させるつもりか!
「どうするバシレウス!このままじゃ分断されて……」
「いや、乗るぞ。元よりこの場に来た時点で敵が有利なことに変わりはねぇ!コルロのやり方をぶち抜いた上で勝つ!そうでなきゃ面白くねぇだろ!!」
このまま行けばまた分断される、このまま行けばまた戦力が分散する。だが問題ない、敵が動くならそれに乗る!その上で勝つ!向こうが場を用意してくれるんだ…手っ取り早いだろ、その方がよっ!!
「ハッ、それもそうやな!」
「ふむ、さてどうなるか見ものだな」
「小生達の前に幹部が現れてくれれば良いが…」
「チッ、めちゃくちゃなやつ」
「まぁ面白いしいいじゃんか」
粘土の濁流、形を失い崩れる床、それが視界を覆い体が流される…だが誰も同時ない。全員生半可な修羅場は潜ってない…後はなるようになればいい。
さぁて…始めるか!!
…………………………………………………………
玄武岩にて構成された岩の塔であるこのコヘレトは今、形を失いまるで粘土のようにこねくり回され…新たな形を得た。さながら螺旋のように捻れ上へ上へと伸びる不気味な形へと変貌した塔は内部にいる人間達を分断する。
それを命じたのは私だ。この塔の持ち主にして全てを決める神を超えし者コルロ・ウタレフソンだ。
バシレウス達が攻め込んできた事は分かっている。そして何より恐ろしいのは奴らが一丸となって戦い暴れる事。第三段階の上位者達が揃っているバシレウス達が一度に同じ場所で暴れればいくら頑丈に作ってあるコヘレトの塔も崩れてしまう。そうなっては最上階に立つ私も身が危ない。
故に、分断した。
「ペトロクロスの力を使えば、分断は容易」
焉魔四眷最強の男・ペトロクロス。彼の力は無機物に対し何よりも強い影響力を発揮する、エクレシア・ステス然りコヘレトの塔然り、石で形成された建造物は彼の力にかかればどんな形にも変形させられる。
故に、私が行ったのは敵の分断。特に恐ろしい実力を持つ者達と焉魔四眷をぶつけ合わせ…敵の各個撃破を狙う。焉魔四眷の力は既に奴らを上回っている、倒すことは容易なはずだ。
「後は私が究極の肉体と魂を手に入れさえすれば…消化試合だ」
バシレウス達が焉魔四眷に手こずっている間に…私がマヤの魂を抜き取り、究極の肉体を完成させさえすれば、最早地上に敵はいない。
「さぁ始めようバシレウス。愚かしいネビュラマキュラが作り上げだ傑作にして神の生み出した失敗作よ。私が勝つか君が勝つか……勝負といこう」
私はただ一人、コヘレトの塔最上階にて待つ。敵を…成就の時を、それまでの時間を上手く稼げ、焉魔四眷達よ。
…………………………………………………………………
「おっとと!吐き出されたなぁ…」
泥のように流動する壁から吐き出されたオレは、その瞬間全てを察する。バシレウスの言ったように敵はこちらを分断しようとしてる、でオレが移されたのがだだっ広いなんもない部屋…周りには誰もおらん。
タヴやんもカルウェナンのおっさんもステュクスもバシレウスも。だーれもおらん、つまりオレ一人や。
「各個撃破でも狙ろうてるんかね…ナメられとるなぁ、オレもさ」
髪をかきながら前へ歩み出る。バシレウスがコルロとケリつける前に、先に焉魔四眷纏めて蹴散らしてこの戦いの趨勢を決める、もうオフィーリアはステュクスに任せたんや。せやったらオレはもう目の前の敵をぶっ潰すことだけに集中してもええやろ。
「で、オレの相手は誰や?」
「私だ……『悪鬼』ラセツ」
ぬるりと壁を這い出て現れるのは…なんやっけ名前、赤い鎧の…ああ。
「『混沌』のペトロクロス…やっけか?」
「然り……」
現れたのは巨大な赤鎧、オレよりもなお大きなその体は全身真紅に染め上げられており、頭部には嘆くような紋様が刻まれた兜が被せられ、そして両側には三本三本、合わせて六本の腕が揺らめいている。
「お前が相手かいな」
ポッケに手ぇ突っ込んでヘラヘラ笑う。ペトロクロスの噂は聞いとる、なんでも焉魔四眷最強らしいやんか、よかったわ。これで小物とか出てこられても困るし…何よりこいつはタロスでタヴやんと引き分けとる。
ええやんええやん、相手に不足はないわ……。
「コルロから言われてんのやろ、オレら殺せって」
「……お前達の中で恐ろしいのはタヴ、カルウェナン、バシレウス…そしてお前だけ。この四人さえ我々で仕留めて仕舞えば後は烏合の衆と小物だけ、故にここでお前を殺すか、或いは足止めを行いコルロ様の目的が成就するまでの時間を稼ぐ」
「時間を稼ぐ、ちなみにどれくらいの時間なん?」
「一時間だ」
「全部答えるやん」
なんやこいつ、守秘義務とか知らん感じ?にしても一時間か…まぁ時間があるように思えるし、ないとも言える。言うてもオレにはもう関係ないことやがな。
コルロはバシレウスがやる言うたんや、止めるのに失敗したらそれはもうバシレウスの責任、オレのやあらへん。オレの責任が生じるのは…こいつをここで潰すかどうかや。
「そか、せやったらオレも早いところお前倒した方が良さそやな。それでもどうする?世間話でもして時間稼ぐぅ?」
「必要ない、お前を殺せば喋る必要もない」
「あっそう……上等やん、ほな戦ろか?オレ実はこう見えて喧嘩強いねん、殴り合いやったら自信あるわぁ」
「そうか、なら────」
「ッ……!」
咄嗟に上半身を引き、反り返るように動く。ペトロクロスの姿が消えた…そう認識するよりも早く動いたオレの体は突如として目の前に引かれた紅の光芒を回避する。
一撃だ、ペトロクロスの拳が目の前を掠めたのだ…。
「殴り合いで、お前の自信を叩き砕く」
「ハッ、アホ吐かせや。そないなヘロヘロパンチでよう言うわ」
速い、想定より数段速い。こりゃあ退屈はしなさそうだな…と口に含むように笑いを浮かべ、同時に足を踏ん張り拳を握る。殴り合いに応じてくれんならやりやすいわ、とっととペシャンコにしたるか!!
「ホンモンのパンチはこう言うモンやろ!!」
「ッ!」
一撃、全力で拳を振いペトロクロスに叩き込む。全力全開や…今回は出し惜しみ無し、最初からフルスロットルでぶちかますが…止められる、ペトロクロスの片腕に。
「なるほど、これくらいでいいのか…本物というのは」
「止めるんかいな!やるやん!」
瞬間、同時に動き出す。ゼロ距離で拳を動かし相手の体を徹底的に崩壊させる為オレもペトロクロスも互いに示しを合わせたように同じタイミングで、同じように動き…幾度となく拳を衝突させる。
「この体についてくるとは、流石は『悪鬼』ラセツ…お前を選んでよかった」
「へぇ!お前からのご指名かいな!嬉しいなぁ!タヴやんと戦うの自信なかったかぁ?」
「いや違う。お前はタヴよりも若い…伸び代という危険性はお前の方が高い、故に選んだ…お前があの一段で最も恐ろしいと認識したから」
「ほーか、そらもっと嬉しいわァッッ!!」
激突するオレとペトロクロスの拳…それがビリビリと大地にヒビを入れ、大気が震える。力では互角か…オモロいわ、ホンマに!
「やったら魅せたるわ、コルロに作られたお前と…セラヴィに作られたオレ、どっちのが格上か…目ん玉かっ開いてよお見ときや…!」
「無理だ」
両手を広げオレの前に立つ塞がるペトロクロスを前に構えを取る。さぁ祭りや、精々楽しませてもらうとするで…バシレウス。
………………………………………………………………
「さて」
コツリと靴先から着地をすれば、まるで無理矢理部屋を歪めたように湾曲した形の、半球体型の部屋が視界に入る。そのど真ん中に落とされ…俺は髪を掻き上げる。敵の狙いは分かっている、なら後は…敵の出方のみ。
そして、出方がどうであれ変わらないものが一つ、それは……。
「革命を示そう」
俺は革命を成すため生きる革命者だ、それはどこであれ誰であれ変わらない。バシレウスが魔王として振る舞う覚悟を決め、一時なれども奴が抗う為に立ち上がったのなら俺もまたその道に追従する。
何故なら閉塞に立ち向かい、自由を求めるその道程はまさしく革命だ。革命がそこにあるのなら、革命者として手を貸すのは当然のこと。
「そういうわけだ。焉魔四眷…今日こそ決着をつけろとバシレウスに言われてしまったんでな、俺は君達を倒そうと思う」
「左様ですか、『宇宙』のタヴよ」
俺はいつの間にやら目の前に立っていたメイドに目を向ける。紺の長髪、黒と白のメイド服…何より目を引くのは額から伸びた鋭い一角。それを誇るわけでもなくただ慎ましやかに腹部に手を添え立つ女は、伏せ目のまま俺に意識を向ける。
「私もコルロ様から貴方を倒すよう仰せつかっています」
「そうか。お前…新顔だな、俺はお前を知らん、名を聞いても?」
サンライト、ペトロクロス、アーリウムは知っているがこいつは知らない。ヴァニタートゥムの面々はある程度把握しているつもりだったが、俺が知らないということは俺がヴァニタートゥムと交流を絶ってから加入した人間だろう。
「私は『窮奇』のルルド、焉魔四眷の一角を務めさせていただいております、コルロ様の助手です…貴方を殺せと命令されました、死んでください」
「殺せと命令されたか、死ねと言うか、なら答えよう…断る」
断るとは俺が最も好きな言葉だ、為政者にNOを突きつけ、判断を迫る者に拒絶を与える。コルロの命令通りにはならないし、こいつの言った通りにもならない。それが革命だ。
「貴方の意思は聞いていません……処理を開始します」
しかし、ルルドは構うことなく大きく足を開き、腰を落とし、拳を握り…伏せた目を薄らと開けて俺を睨む。やる気のようだ…ならばと俺もまた組んだ腕を解き、手招きする。
「やってみろ」
挑発、それが静かな空間に木霊して……数秒、まるで隙を窺うような時間を挟んだ後、ルルドは気がつく。隙など窺っても無駄であると、そんな物はないと、故に…。
「コルロ様の為、死んでください」
突っ込んでくる、ただの踏み込みで大地が砕け、吹き飛ぶ石塊よりも速く、弾丸のような速度で迫り拳を握り、一閃。叩きつけるようた乱暴な挙動の拳が俺に迫る。
だが。
「だから断ると言っている」
「ッッ……!?」
まるで銅鑼が鳴るように空気が震える。受け止める、蹴りで。ルルドの全身を乗せた拳を蹴りで食い止め…浅く笑う。
なるほど、今の一撃で大体分かった。こいつ相当『重い』な、恐らく血液が鉛のように重くなり、そして肉体も異常に頑強になっている。それが施された改造か……案外チャチな物だ。
「私の拳を受け止めるなど…腐ってもアルカナ最強の男は伊達ではありませんか」
「アルカナはもうない、どこにもな。故に俺を呼ぶなら…こう呼べ」
「くっ……!」
大きく息を吐き、全身に魔力を滾らせる。やがて拳が淡い光を放ち、黄金の煌めきを放出し、慌てて距離を取ろうとしたルルドに逃げることも許さず一足にて肉薄し。
「革命者と」
「ぐぶふぅっ!?」
一閃、穿つような軌道の拳が、光となった拳が、ルルドの腹を打ち吹き飛ばす。まるで鉛の塊のように重い奴の体が浮かび上がり壁に叩きつけられ轟音を上げる。
革命者とは、圧政を破壊し、閉塞を打開し、今の支配に対し自由を示す者。我が目に新たなる自由が映る限り、俺は誰にも負けんぞ…ルルド。
………………………………………………………………
「お前が小生の相手か、サンライト」
「ガカカカカ!お前とはケリをつけたかったんだ、カルウェナン」
真四角の部屋、出入り口はどこにもない。ただ隔離されるような部屋の中…小生は大きく息を吐き、目の前に立つサメ男を目にする。
この男の名は『傲狠』のサンライト。かつては荒々しくも正当な実力者であったはずの男も今や人の姿を捨て、異形へと成り果て…今、小生を殺す為目の前に立っている。
これがコルロが望んだカードかとため息が出る。小生達を各個撃破する為焉魔四眷とぶつけられる事は理解していたが…よりもよってサンライトか。
「なんだ、残念そうだなぁ」
「お前の技はタロスで見ている、出来るならばペトロクロスと当たりたかった。あの男は昔から強かった…」
「つまり、なんだ…俺じゃ不服か?オイ」
ギラリと牙を剥きながらカルウェナンの顔に無数の青筋が浮かぶ。不服かと言われれば今の状況そのものが不服だ。小生は武人、始末屋でも殺し屋でもない、出来るならば真っ当な立ち会いによって敵と白黒をつけたいと考えている。
だがそれは所詮小生だけの考え、状況がそれを許さないことは理解しているし…何より一時なれども忠誠を誓った仮の主、バシレウスが焉魔四眷を倒せと言ったのなら…やる。それが小生の道だからだ。
「いや、今はお前との立ち合いに集中しよう。来い、サンライト…」
「何が来いだ、お前マジで理解してねぇのかよ…お前は第二段階、俺は第三段階!俺のが格上なんだよ!お前のその上から目線が気に食わねぇんだよ昔から!」
「そうか、それは謝罪しよう」
瞬間、サンライトは筋骨隆々の肉体を躍動させ突っ込んでくる。さながら鉄槌のような拳を振り回し、一撃ごとに大気を爆発させ、大振りの一撃に乗った衝撃が背後の壁すらも爆破させる中…小生はそれを片手で受け流し。
「だがな、サンライト」
「グッ…!?」
一撃、拳をサンライトの鼻面に叩き込み…怯ませる。
「強さとは、それを磨く過程でそれを扱う精神性、技量、価値観も共に精錬されるものだ。誰かから与えられた強さにはそれが伴わない…幾度となく言おう、小細工や小手先は小生には通じない」
「ッ……テメェ…!このサンライト様が、テメェ如き第二段階に劣るわけがねぇだろうが!!」
「お前のその精神性もまた第二段階の物。驕って昂った手で掴める物などない…!」
牙をむき出しにし突っ込んでくるサンライトを受け止め投げ飛ばし、同時に全身に魔力を滾らせる。いくら言おうともサンライトは強い、真っ当な出力ならば大きく水を開けられているだろう。正面から戦えば小生とは言え勝ち目はない…だからこそ。
燃える…!バシレウスには感謝を述べねばならないようだ。戦場に恵まれず、ただ孤高に技を磨くことしか出来なかった小生に、このような戦場を与えてくれたのだから!
「九字切魔纏『闘』ッッ!!」
「げべぁっ!?」
投げ飛ばし壁に叩きつけたサンライトに、更に食い込ませるように打ち込む魔拳。それが壁を粉砕し鑿岩し拳と壁の間にいるサンライトを押し潰し口から大量の血を吐かせる。
この男は小生が倒す、故に若人達よ…コルロを倒し己が信念を突き通せ、オフィーリアを倒し師の仇を討て!!
………………………………………………………
「うおぉっ!?相変わらず慣れねーなこれ」
そして、俺はウネウネと蠢く壁から吐き出され…ドーム状の巨大な部屋へと吐き出される。エクレシア・ステスの時と同じだ。奴等はどうやってかは知らないが建物を自由自在に操れるようだ、それでまたも俺は分断された……。
「チッ、クソが…コルロは何処だ」
周囲を見回す。俺はコルロと戦いたいんだ、奴は何処だ?ここら辺にいるのか?いや居そうにないな……ん?
「おい!バシレウス!」
「なになに?あんたもこっち来たの?」
「コーディリア、アナスタシア…なんだ俺一人じゃねぇのか」
「でも他はいないよ」
駆け寄ってくるのはコーディリアとアナスタシアだ。どうやら分断されたと言っても俺一人じゃないようだ。俺も合わせて三人か…さて?じゃあ敵は何処だ?それともこの部屋に俺を閉じ込めて問題解決したつもりか?
アホらしい、こんな部屋ぶっ壊して別の部屋になんかいつでも行けるぞ。
「チッ、コルロを探す」
『コルロ様はお前の前には現れないよ』
「む……」
響く声、つい最近聞いたばかりの憎たらしい声が天から降り注ぎ、上を見れば…そいつがいる。天井からぬるりと這い出るように落ちてきたのは…アーリウムだ。
「だって君はここで死ぬからね、バシレウス」
「アーリウム、またお前か」
「フフフ、ラダマンテスでの決着がまただろ?だから再戦の場を用意してやった。ありがたく思いなよ」
「あ?再戦?なんだお前勝ったつもりかよ、あれで」
「勝ったつもりだけど?」
チッ、こいつ俺のことを挑発してやがるな?ってことはコルロの目的は時間稼ぎか。材料は揃えてもまだ時間は足りないと見える。別にアイツの目的が達成されようがどうしようが知ったこっちゃないが…アイツがこの人生の中で嬉しいと思う瞬間を一つ潰せるなら、少し急いだ方がいいか。
「ケッ、興味ねぇよ。テメェみたいな雑魚、コルロ出せよコルロを」
「断る、どうしても行きたければ僕を倒してからに……あ?」
アーリウムが襲い掛かろうとした瞬間。俺の前に…アーリウムの前に、影が立ち塞がる。それは…。
「待てよ、なに私たちを無視しようとしている」
「あんたが大将出さないなら、こっちも出さない。ウチの大将と勝負したきゃ私達を倒してからにしなよ」
コーディリアとアナスタシアだ。二人はアーリウムを前に構えを取り…肩越しに俺を見遣る。こいつらまさか、アーリウムと戦うつもりか?無理だろ、流石に。
「お前ら死ぬ気か?」
「別にそんな気はないよ、けどあんたが焉魔四眷は私たちで倒せって言ったんでしょ…ならそうするってだけ」
「コルロを倒すんだろ、なら寄り道せずとっとと終わらせてこい」
「………そうかい」
俺は拳を収め、二人の言葉に従う。これを選んだのは俺であり、それに従うことを選んだのは二人だ。俺は強制はしない、ただ選ぶことを迫るだけ。故にここでこいつらに任せないという選択肢はない…何故なら先に選んだのがこいつらだからだ。早い物勝ちだ。
「ならこいつは任せる、始末しとけ」
「フンッ、頭領ぶって…だがいい、ジズより余程」
「団長には及ばないけど、久しいね…この感じ。任せときなよ」
「………はぁ、マジで言ってる?バシレウス、こんな雑魚に僕が倒せるわけないでしょ」
アーリウムは第三段階だ、アナスタシアは第二、コーディリアに至っては第一。天地がひっくり返っても勝ち目はないかもしれない…だがそれでも、俺は任せる。
それが選ぶと言うことだからだ。
「……じゃあな、いい報告待ってるぜ、二人とも」
「あいよ、早めにコルロぶっ殺してこいよ!」
二人は選んだ、戦うことを。俺は選んだ、任せることを。いや…全員が選んだのだ、ヴァニタートゥムと戦うことを。
そしてその戦う道を選ばせたのもまた俺だ、今ここで起こっている戦い、戦っている人間、その全てを背負う必要が俺にはある。負けられないのではない、負けてはいけないのだ。故に進む…俺は飛び上がり天井を砕きコルロのいる場所を目指す。
どうせ屋上にいるだろ、なら取り敢えず上に向かえば奴に会える。折角だ、早めに終わらせてやるか。
「チッ、行っちゃったよ…」
アーリウムはバシレウスのいなくなった部屋を見回し、ため息を吐く…その身から沸る魔力はとても人間のものとは思えないくらい多い。とてもじゃないが…ここにいる二人を合わせても、あれには遠く及ばない。
「さて、偉そうなこと言ったんだ…お前、何か勝算は?」
「あるわけないでしょ…分からない?私達貧乏くじ引いたんだよ」
身を寄せ合うように構えを取り、静かに囁き合うコーディリアとアナスタシア。バシレウスを行かせるのは総意だった、だがそれはそれとして状況はまずい。
「第三段階相手に喧嘩をする日が来るとは…」
「ともかくあれでしょ、とにかく死なないように立ち回るしかないでしょ」
「お前、それでいいのか?」
「は?何が……」
「あんだけかっこよく啖呵切っておいてやることがせせこましい時間稼ぎか?傭兵はこれだから」
「あんたねぇ……」
だがそれでも、状況はまずく、戦況がどれだけやばくても。啖呵を切ったのは自分達であり…そして何より。
「今私達は『エクス・ルナ・スキエンティス』の幹部だろ…お前の元いた組織では、組織の名前を背負った戦いで、逃げ回るような戦闘をするのか?」
「はぁ……全く、あんたと一緒にあの世に行くのはごめんだよ。やるなら…きっちりやるよ」
「ああ」
自分達もまた、幹部を経験したことがある身として組織の名前を背負い、ボスに任せろと言う言葉の重さを理解している。故に覚悟する。ここで死力を尽くし、たとえ不可能と言われようとも…勝ちを収める事を。
「ハッ、お前らなんか一瞬で殺してバシレウスを追いかけさせてもらうよ…!」
「やってみろ…!」
「先には行かせないよ…!」
…………………………………………………………………
「な、なんだなんだ!塔が動いたぞ今!」
「ヴァニタートゥムはこんな事も出来るのか…!?」
「おい!出口がなくなったぞ!!」
バシレウス達は分断された。変形した塔によって幹部達は別々の場所に追いやられた…それは配下の三万人もまた同じだった。突如としてだだっ広い空間に押しやられ混乱の極致にある。しかもそんな中でも。
「おお!これはペトロクロス様の魔力神経!」
「塔を変形させて幹部を分断したんだ!流石はペトロクロス様!」
「地の利は俺たちにある!一気に片付けろ!」
ヴァニタートゥム側は勢いづく、共にこの場に追いやられた構成員達は武器を手にこの暗く密閉された空間でスキエンティス側をすり潰す為にどんどん攻めてくる。
「うぅ!どうなってんだ!バシレウス様は!」
「攻めろ攻めろ!コルロ様の目的を果たさせるんだ!」
完全に戦場の趨勢はヴァニタートゥム側に回った、このままではスキエンティス側が敗れるのも時間の問題か…これはまずい、この場を預かった者として看過は出来ん!!
「狼狽えるな!!」
「ッッ!ムスクルス様…!」
吠える、老骨に鞭打ち、筋骨に力を滾らせ、筋肉の鎧に満ちた体を晒しながら私は兵を掻き分け全然に出る。これでもかつては八大同盟の幹部を務め、レッドグローブと共に多くの組織との抗争を経験した身、故にこそ…。
「この戦い!無我となれぃ!お前達はバシレウス様の忠実なる僕にして第三の腕!あのお方のご意志を成すためだけ!恐れも野心も捨てて埋没するのだ!!」
「うぉっ!?」
そして前線にいる味方の背中を親指で突いて回る、押したのは『戦意無尽穴』…アドレナリンが過剰に分泌され戦闘意欲が向上する経絡。これを受けた者は……。
「うぅぅううおおおおおおおおお!!!俺が!俺がスキエンティスの未来の大幹部だぁああああ!!ここで手柄立ててやるぅーー!!!」
「ぶっ殺してやるぅううううう!!テメェらがラダマンテスめちゃくちゃにしたせいで俺の店が潰れただろうがぁああああああ!!!」
「殺せ!殺せ!殺す!殺す!!」
「な、なんだこいつら急に……ぅぎゃっ!?」
我を忘れ戦いに埋没する。恐れも何もなくなれば戦いの趨勢など関係なく、そして軍団とは糸だ、先端を引けば後ろもまたついていく…前面が勢いづけば経絡をつかれていない後方もまた勢いが増す。
「押せ押せ!!」
「では私も出よう…!ホァチャァッ!!」
「ギッ!?」
そして私が軍勢を牽引する、前に前に進んでいきながら次々と敵の経絡を突く。拳を分身させるが如き勢いで殴り飛ばし、蹴り飛ばし、蹴散らす。このような有象無象にやられるムスクルスではないわ!!
「くぅ!強え!あのジジイめちゃくちゃ強えぞ!なんだあれ…!おい!イモータル・ムートゥスを連れてこい!」
「む……」
しかし、敵も押されれば奥の手を出す。突如壁が開き、その奥から現れたのは…。
「うぅぅううう……」
「あ、あれはラダマンテスを襲った!」
「やばい…不死身の兵士だ!アイツら倒せないんだよ!」
不死身の兵士、いくら傷つけても止まらない、痛みも何も感じない無敵の軍団…イモータル・ムートゥスが現れるのだ。しかもかなりの数…百や二百どころではないか。まずい、こちら側はあれに徹底的にやられたトラウマがある…折角ついた勢いが…潰させるわけには行かん!
「ぐぎゃあああああああ!!」
「きぇえええええ!!私が相手をしよう!!」
飛び込んでくる白い兵士、牙を向きながら理性も何もない顔つきで凄まじい速さで私に向け襲いくる。あれはどうあっても倒せない、どんな技を使っても倒せない、だが。
「ィィヤァッチャァッ!!」
「イピッ…!?」
ピキーンと音を立てて突き刺さるのは我が指、それがイモータル・ムートゥスの首筋に食い込み、その体に電流が走ったように痙攣する…と同時に、イモータル・ムートゥスはぐらりと揺れて…。
「ぅ…ガガガ……」
「う、嘘だろ!?不死身だろこいつ!なんでやられてんだよ!?」
倒れ伏し動かなくなる。別にやられたわけではない、私が突いたのは『安眠気穴』…つけば数時間は眠ったままとなる経絡。不死身の肉体を持つイモータル・ムートゥスもまた同じ人間、人間であるなら不死だろうが不滅だろうが体の作りは同じ。
ならばこそ、私の技で無力化できる…!
「あれの相手は私が受け持とう!他は兵士を!」
「あ、ああ!やってやる!!」
次々迫るイモータル・ムートゥスを前に構えを取る。しかし、それにしても数が多い…こちらの体力が持つか、いや…持たせる。
「私はもう二度と、王を守れず泣く事はしたくはない!私の全身全霊を込めて!貴様らを撃ち倒そう!!!」
「ぐぎゃああああああ!!」
「むぉおおおおおお!!!」
迫る、迫る、牙に爪、殺意に害意。白い波を前に一歩も引かず拳を振るう。一人倒しても二人来る、二人倒しても四人来る。
「ふぁあああああ!!アチャチャチャチャチャ!!私を抜けると思うなッッ!!」
拳を振るい殴り飛ばすと共に経絡を撃ち抜く、右側面から飛んできたそれを殴り飛ばしたその瞬間…。
「ぐぎゃぁあ!」
「ぅぐぅっ!!」
掠める、左側から来たイモータル・ムートゥスの爪が脇腹を。ただそれだけで我が筋肉は断裂し血が溢れ、余波で肋が砕ける…これほどの怪力か!
「フンッ!!」
「ぶぎゃ!?」
「まだ、まだまだァ!!!」
口元から血が垂れる、一撃掠めるだけで致命傷…だが引かない、引けない。例えこの身が打ち砕かれても…私は!!
「隙ありッッ!」
「むッ!」
しかし、その瞬間イモータル・ムートゥスに気を取られた私の後ろからヴァニタートゥムの構成員が剣を構えて突っ込んでくるのが見える。まずい…油断したか!!
いや、例え臓物を切り裂かれようとも私は負けんわ!!!
「死ねやクソジジ───」
「ダメッ!!」
「げぅっっ!?」
が、しかし…横から飛んできた影が刺客を蹴り飛ばし私を救う。まさかスキエンティス側に私を救う余裕が……いや、彼は。
「大丈夫かムスクルス!」
「ステュクス殿!?何故ここに!」
「わ、分かんない!俺もその他大勢扱いされたのかな!?」
ステュクス殿だ、いやしかし何故彼がここに…他の幹部は分断されているのに。まさか奴らはステュクス殿を過小評価しているのか?ここに放り込んでおけば死ぬと思っているのか?なんてバカな事を、彼は私よりも遥かに強いのだぞ…。
いや、それより……。
「ここは私に任されよ!ステュクス殿はオフィーリアを!…む!ホァチャァッ!」
「分かってるよ…ッと!」
突如背後から迫ったイモータル・ムートゥスを殴り飛ばし、ステュクス殿も迫るヴァニタートゥムを蹴り払い、共に背中合わせで構えを取る…。
「……なんと言う数奇な運命か。君と背中合わせで戦う日が来るとは」
「あれから色々あったもんな…俺にとって、あんたは最初の敵だったよ」
思えば、チクシュルーブで彼と会ってから色々あった。当初は敵同士として出会い、争いもした。だが思えば彼はあのレッドグローブが買った男…流石はレッドグローブだと今なら痛感する。
これほどの男が居るとは、彼ともう少し早く出会っていれば…私も何か違っただろうと確信させられる。
「ステュクス殿、あそこの壁…あそこに敵を当てた時、反響音が聞こえたぞ」
「つまりあそこだけ壁が薄い?だがイモータル・ムートゥスが目の前に大量に居るぞ」
「無論、私が道を作る!君は討て!師匠の仇を!!」
さぁ我が筋肉!数十年と鍛え続けた我が五体よ!今こそ生涯一度歩かないかの正念場ぞ!老いなど言い訳にするな!衰えなど跳ね除けろ!!例え我が肉体弾け飛ぼうとも構うな!!
「わがせなかについて我が背中についてこい!!ホァアアアアアアアア!!」
「ああ!」
振るう、嵐の如く拳を振るい雑草の如くイモータル・ムートゥスを蹴散らし薄い壁に向けて進み、進み、進んでいけば……。
「ぐぎゃあああああ!!!」
「む……!」
立ち塞がるのは、かつて巨漢のクラリオと呼ばれた白い筋肉の塊が道を塞ぐ。私並みの巨体にかつては組織のボスを張った男…並大抵ではないか、だが……だが!!
「そこを、退けぇッッ!!!」
止まらない、止めるわけには行かない、この流れを。私が救えなかった我が王ウェヌス、ただの人攫いから私を救ってくれたデティフローア殿、そして私に再びチャンスをくれたバシレウス殿!それが作り上げたこの場、この時、この流れ…我が力不足で止めるわけには行かん!
全力だ、今度こそ全力で…王の責務を全うさせるのだ!!
「奥義!!『百烈気血掌』!!アァーーータタタタタタタ!!」
「ギィッッッ!?」
殴り抜く、知り得る限りの気血をひたすらに打ち抜き、拳で巨漢を吹き飛ばし、百の拳撃によってクラリオを殴り飛ばし…そのまま薄い壁に叩きつけ、道を作る。あの先にオフィーリアがいるかは分からない。……だが!
「進め!!ステュクス殿!!」
「ああ!ありがとう!ムスクルス!死ぬなよ!!」
「無論!!!!!」
進ませる、老兵に出来る最大限がこれだ。道を作り、その先に若者を進ませる事。その為にこの命をかける…いいものだ。
「君は、ここで終わる人間じゃあない…進め、そして成せ。私のように堕ちるなよ…ステュクス」
開いた穴の奥へと進むステュクスを見送り、そして同時に踵を返す。イモータル・ムートゥスはまだまだいる。戦いは始まったばかりだ。
これほどの戦いを経験するのはいつ以来か分からないが…フッ、どうやら私もまだまだやれるらしい。
「さぁッ!来い!元悪魔の見えざる手幹部!『筋肉法師』ムスクルスが相手をしようッッ!我が魔王の進む道は誰にも幅ません!!」
「ぐがぁあああああ!!」
「ホァアアアアアアアア!!」
故に…立ち止まってくれるなよ、我が魔王とその盟友よ。君達の道もまた…まだまだ終わらないのだから。
明日!8月29日!遂に!書籍版『孤独の魔女と独りの少女』が発売されます!懐かしいエリスとレグルスの物語、Web版から加筆修正行いより派手な形に変わった第一章を是非是非!よろしくお願いいたします!




