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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
二十章 天を裂く魔王、死を穿つ星魔剣
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753.星魔剣と世界を滅ぼす魔王


「ゔわぁぁあああああ!!!」


「退けや!『啞邪羅華』ァァッッ!!!!」


一閃、ラダマンテスの地下に紅の閃光が走り、螺旋を描き、白の群れを切り裂き吹き飛ばす。それを見てオレは一息つく…暇もあらへんか。


「なんじゃこれ、どないなってんねん!」


「さぁな、ヴァニタートゥムだと思うが……」


「ふむ、これは小生達はバラけて戦った方が良いかもしれんな」


突如としてラダマンテスを襲った大襲撃、白い人型達が雪崩のように入り込み次々と人を襲い出した。こんなのがその辺にポッと湧くほど北部は魔境やあらへん、間違いなくコルロが作り差し向けた刺客。

それを前にオレ、タヴやん、カルウェナンのおっさんは三人で通りに出て立ち回る。今朝方戦ったばっかりやってのに、忙しいったらないわホンマにもう。


「バシレウスの奴はもう別のやつと戦ってるみたいやな。まぁアイツはアイツで勝手に上手いことやるやろうが……問題は」


「ああ、人が死にすぎる」


周囲には大量の白い人型が溢れている、一応ラダマンテスの人間は全員戦闘員、戦えるには戦えるがそれにしては白い人型が強すぎる、このままやったら全員殺されてまうわ。


「だったら、助けるのか?私達が?」


オレの後ろでコーディリアが腕を組みながら鼻を鳴らして笑う。助ける…まぁ助けたいわな。そうオレが顔を歪めるとコーディリアは首を振り。


「私達は正義の味方じゃないだろ。マレフィカルムは弱肉強食の組織。弱いコイツらが強いヴァニタートゥムに淘汰されている、それだけなのに何故気にするんだ」


「あのな、お前もっと多角的にモノ見ろや」


「多角的?ならどう見れば気にする必要がある」


「気分の問題や、目の前で敵に好きなようにやられて人がドンドン死ぬ。流石に気ィ悪いで」


「気分の問題なら一人でやればいい、私は手を出さない。そもそも私達全員人を殺したことがあるだろ、今更善人ぶるな」


「なんやお前こんな時に、オレが善人やなかったらなんやねん。それとも悪人らしく気に食わんヤツ叩いて潰したろか?お?」


「落ち着けラセツ、コーディリアも輪を乱すようなことを言うな」


「……輪を乱す?いつから輪になった。私はあくまでステュクスを守るのが目的でお前達の仲間になったつもりはない、何より……」


コーディリアは目を背け、視線を落とし……。


「今更人助けなど出来ないくらい。私達は堕ちているはずだ…今誰かの命を助けられるなら、どこかで引き返していた……」


「なんやねん、それこそ気分の問題やんけ。一人でセンチになっとれ」


「そうさせてもらうと言っている」


なんやコイツ…こんな時に跳ね返って何がしたいねん、今までこんな事言わんかったのに……いや、ちゃうな。今までってそれはつまり。


「……脆いな」


カルウェナンのおっさんが腰に手を当てオレ達を見遣る。脆い、そう言うんや、今のオレ達を。


「思えば小生達は元々別の組織、別の勢力にいた者で皆思惑は別にある。そんな小生達が共に歩んでこれたのは…全て、それらを繋げる者があってこそ。それを失ってはこうも容易く瓦解するとは」


そうや、オレ達は全員別の目的を持っとる。タヴはコルロを止めたい、カルウェナンはビナーを捕まえたい、コーディリアはステュクスを守りたいし、オレはエリスを助けたい。びっくりするくらいバラバラや。


それが一致団結してたんわステュクスという緩衝材とバシレウスという柱があってこそ。それがなくなった途端にこれか。その二つがなくなった瞬間意見の対立が生まれるか。


「俺達だけじゃない」


タヴやんが周囲を見回す、今この街はバラバラや。イノケンティウスという柱を失い瓦解しとる……この場に、この場所に、纏める存在がおらん。組織ってのは纏め役がおらな話にならん…。


「だからこそ、必要なのは戦力ではなく……」


タヴは上を見遣る、バシレウスが戦う上層に目を向け、静かに頷く。そうだ、社会から見放され、無法の中でしか生きられない出来損ない達、それもまた人であり、人であるならば必要とされるのは一つ。


闇を生きる者達の王、……魔王だ。


…………………………………………………


「ハハハッー!『デッドリーケイブ』!!」


「おぉっ!?」


振るわれる拳、そこから放たれた魔力は螺旋を描き空気を引き裂き、回避した先にあった壁に大穴を開ける。危ねぇ…今の防壁破壊に特化した魔術だったな。下手に無効化しようとしてたら逆にやられてたか。


「アハハハッ!どうしたどうしたバシレウス、僕は雑魚じゃなかったのかい!?」


「……雑魚だよ、テメェは!」


目の前に迫るのは大人の姿に変わったアーリウム、他人の魂を喰らい己の力に変える…他者の魂を受け入れる形に改造された人外野郎が俺に向け足を振るい、拳を振るい、さながら切り払うような勢いで連撃を放ちながら攻め立てる。それを目で見て、体を傾け回避する。


アーリウムは強い、第三段階相当の強さに偽りはない。油断すりゃ俺でも持っていかれるかもしれない、だが。


『うわぁああああああ!!助けてくれぇえええええ!!』


(チッ…耳障りな)


すぐ近くでラダマンテスの住人の一人が不死の人間イモータルムートゥスに襲われているのが目に入る、というか入れられる。けたたましい悲鳴あげられたら嫌でも目に入る。あのままじゃアイツは死ぬ、だが弱者必滅…仕方ない事だ、仕方ない……ああくそ!


「オラッ!」


「いて!」


アーリウムの攻撃の隙間を縫って俺は顔面にビンタを喰らわ怯ませる。と同時に俺は大きく足を振り上げ…。


「失せろボケクソッ!!」


「ぎゃん!」


足元の小さな石ころを全力で蹴り飛ばし、イモータルムートゥスのこめかみを撃ち抜く弾丸として射出する。いくら不死の兵隊とは言え頭を撃ち抜かれれば吹き飛ばされる、奴はゴロゴロと地面を転がりのたうち回る…アイツ、頭撃ち抜いても死なないのか。


「あ、ありがとうございます!」


「うるせぇ!!戦いの邪魔だ!どっか行ってろ!」


「は、はい…!」


そしてラダマンテスの住人は俺に礼を言って走って逃げる。クソが、イモータルムートゥスそのものは雑魚だからなんとでもなる…ってのは俺だけの話、他の連中はみんなそうじゃない。

四方八方でイモータルムートゥスに襲われている奴が出てる。まるで地獄だ、地下の地獄…蠱毒の儀そのものだ。


「『大拳発破たいけんはっぱ』っっ!!」


「グッッ!?」


「余所見とは余裕だねぇバシレウス!!」


その瞬間、俺の隙を突くように側面から巨大な拳が飛んで来る。完全に意識外の方から飛んできたせいで防御もままならず俺は軽々と吹き飛ばされ、ラダマンテスの岩壁に叩きつけられる。


「グフッ…ぜぇぜぇ…」


「アハハハハハハッ!どうだい?この体…」


チラリと岩壁に埋もれた体を引き抜けば、またアーリウムの姿が変わっていた。さっきまでは普通に大人になったって感じだったが…今度は違う。筋骨隆々、見上げるほどの大男に変化していた。また姿が変わりやがった。


「この体は元八大同盟の盟主、剛腕で知られた巨神スローンの魂を模倣した物。君が生まれる前の八大同盟って奴さ」


「ハッ、何が八大同盟だ…今更そんなもんで俺が倒せるかよ」


「分かってないね、魂はあくまで外付けの情報、出力は僕の肉体に準拠される。つまり…八大同盟の技を第三段階として扱えるのさ…!格別だろっ!?」


「知るか!」


突っ込んで来る巨体を体を回転させ受け流すと共に、俺は大きく足を振りかぶりアーリウムの側面を狙い───。


『だ、誰か!』


(ッ……またか!)


響く、また近くで悲鳴が。それがまた…蠱毒の壺での悲鳴と重なり体が止まる。


「隙ありッ!!」


「ガフッ!?」


そして止まれば当然、アーリウムは攻めてくる。俺の足を掴み、地面へ叩きつけ大地が砕け吹き飛ぶ。注意が他所に行ったところを突かれたわけだ。


クソ…煩わしい!


「僕を前に他所ごとを考えるなんて余裕だねぇ、いや…思えば君は常に他所ごとに囚われて生きているねぇ」


「あんだと…!」


「コヘレトに攻め込んできた時も、僕達に囲まれた時も、今も。君は常に何かしらのしがらみに囚われている……もったいないよねぇそんなに強いのにさ!」


地面に叩きつけられた俺の顔を踏みつけるアーリウムはケラケラと笑う、俺が……囚われている?何に?…いや、囚われているか。コヘレトに攻め込んだ時はユリウスの血に、囲まれた時はステュクスに、今は…ここのクズ共に。


最後になんにも考えず戦ったのって、いつだったか。分からねぇ、覚えてねぇ…。


「力ってのはね、水と同じさ!澄んでいればいる程に良く、何かが混ざり濁る都度に落ちていく!君はあまりにも多くのものに汚され落ちている!その点なにも考えず、なにも気にせず、ただ指示だけを聞いていれば良い僕達の振るう力をこそ、純度100%!混じり気無しの澄んだ力ってわけさ!」


「……アホらしい」


「だけど。強いだろ?」


ギリギリと足に力を込めて俺を踏み潰そうとするアーリウム。対する俺が見るのは……。


(囚われてる、か……)


周りだ、今もラダマンテスの連中が襲われてる、それを気にする事自体…俺が囚われている証拠なのかもしれない。だがなぜ囚われるのか、どうして俺が気になるのかを分解して考えていた。


どの道、こんな集中できねー状態じゃ勝てるわけもない。なら多少ボコられても気になる部分を処理した方がいいしな。


(つっても、分かってる。地下、悲鳴、蹂躙、それが蠱毒の儀に重なるからだ。どれだけ言っても俺はユリウスの意志を継いでいるし、ユリウスを殺したことに後悔を感じている)


アイツは最期まで俺の家族だった、それをこの手で奪った事を俺は後悔している。だから俺は最強にならなくてはならない。ユリウスが死んだ意味を作るために。

ただその為だけに生きていたつもりだったが…違うのか。


(もしユリウスなら、ラダマンテスにいる人間を助ける為に迷わず王を名乗ったのかな……)


だがそれはアイツが人の王だから。人じゃない俺に人の王は務まらない。務まらないことはやりたくない……。


「まだ、僕を見ないか!」


「うっ…いてぇな」


更に力を込め踏み潰そうとするアーリウムが牙を剥く、苛立ちを露わにし拳を握りながらも俺がなにを見ているかを察し。


「まだ、まだ周りが気になるか!今更こんな奴らのことを気にしてなにになる!表の社会で生きていけなかった落伍者!敗者!愚者!その集まりを!この世の掃き溜めの中に反吐同然のゴミ屑を!」


「ッ…なに分かりきった事言ってんだ、そりゃお前もだろ、お前も俺も、マレフィカルムに生きる人間は全員!真っ当に生きれない人のなり損ない……人の、なり損ない」


反芻する、その言葉を口にした瞬間。パチリと当て嵌まるような気がしたんだ、イノケンティウスが言った言葉が。人の王は人にしかなれない…奴はそう言った。


それは裏を返せば、イノケンティウスの言う『溢れ者達』の王は…人でなしの王は人にはなれないと言うこと。奴はそれを今まで演じてきた、だが…それを俺に託したと言うことは。


(こいつらもまた……)


目を閉じる、得心入った訳ではなく、ただ理解をしただけ。ならばこそ、俺はどうする。なにをする……。


「そんなに気になるなら排除してあげよう、おいイモータルムートゥス!!皆殺しにしろ!!一人残らず殺し尽くせ!!」


アーリウムが吠える。その言葉に呼応して白人間達の筋肉が隆起し……。


「ぐぎゃあああああああ!!」


「ぐっっ!!!こいつら強くなったぞ!!」


「もうだめだ…クソ、なんでこんなことに!」


悲鳴が増える、血が増える、恐怖が増してラダマンテスが血の鍋になるのは時間の問題。そんな情景を見て俺は黙り、アーリウムは笑う。


「僕もまた人のなり損ない、それはそうかもね。だが僕はコルロ様と共に新人類となる選ばれた人間、ここにいる連中やお前とは違う」


……もうアーリウムの言葉は耳に入っていなかった。ただ、思い浮かべるのはステュクスの姿、アイツはこう言う状況にこそ強い、それはこう言う状況でこそアイツは判断を間違えないから。


今この場にアイツはいない、だがもしアイツがこの場にいたら…なにをするか、なにをしたか。


アイツなら……なんて言ったか。なんでかな、分かるんだよな、なにをするか。それは。


「おい、アーリウム」


「あ?なにを……」


「くれてやる!!」


「はっ!?」


懐から引き抜くのは…ユリウスの血液で作られたペンダント、それを俺は俺を踏みつけるアーリウムに向けて投げつける。するとアーリウムはギョッとしながらもキャッチし…俺をジロリと見る。


「どう言うつもりかな」


「お前言ったろ、大詰めだって。ならこんなところで遊んでる暇ないだろ、とっとと立ち去れ、あの白色の人間引き連れてな」


「……ハッ、失望したよバシレウス。君は本当に濁った」


かもな、俺もまた多くを知ってリューズのように濁ったのかもな。けどステュクスなら迷うことなくこうしたし、事実俺達を助ける為にアイツはこれをやった。

実際アーリウムは俺から足を退けて、一歩…また一歩引き下がり。


「そうだね、これがあればもうここに用はない。…じゃ、おさらばさせてもらうよ。どうやら君ももう敵じゃなさそうだしね」


「…………」


「おいイモータルムートゥス!退却だ!」


アーリウムは去っていく、俺はペンダントを奪われアイツは無事。なんだ、惨敗じゃねぇか形で見たら。今から後ろから襲い掛かろうかな……。


「あ、あの、えっと」


すると、先程までイモータルムートゥスに襲われていた連中が俺に向けて歩み寄り始める。助かった、なんとかなった、その安堵が顔から伝わる。それを見て…俺は。


「あ、あの…ありがとうございま……」


「話しかけるんじゃねぇよ!!」


「ヒッ!」


「クソが、おい!タヴ!来い!!」


俺は立ち上がり叫ぶ。連中は退却し戦いは終わった、ならここに来れるだろうと俺が叫べば…遥か彼方から星の光にも似た黄金の光芒が走り───現れる、タヴが、俺の背後に。


「渡したか、ペンダントを」


「……ああ」


「奴らの狙いはお前の血かペンダントだ、場があれ被害者が出始めていた以上判断は正しかった。見事な決断だった」


「うるせぇ」


「だが、よかったのか?」


「……………」


俺が黙っていればタヴはそれを察したのか。フッと笑みを浮かべ…動き出す。


「分かった、ムスクルスを連れてくる」


「……なぁ、タヴ」


「なんだ?」


「王ってなんだよ、王になる資格ってなんだよ、正しいってなんだよ」


俺は、今の判断を正しいと感じている。感じてしまっている、あれだけ必死に取り返したものをあっさり手放してよかったのか。昨日までの戦いがまるっきり無意味になっちまった。行動してる時はこれしかないと思ってたけど…ステュクスみたいになんか交渉とかして上手いこと出来たんじゃないかと思ってしまう。


王ってなんだ、周りの人間のために何かを手放すのが王か。王になる資格とは手放す事なのか、それが正しいとされるなら…この世の大部分の人間は間違っていることにならないか。


分からない、俺は……なんだ。王になりたいのか、なりたくないのか、自分で自分が分からない。


「さぁな」


「は?」


「俺には分からん、だが……これが答えだろ」


チラリとタヴが見遣るのはラダマンテスの惨状。ボロボロの街、傷ついた者達、それがなんとか助かったと安堵の息を吐いている。


「助かった…のか」


「あの人が、なんかを差し出したんだ。俺達の為に…」


「イノケンティウス様が後継に指名した新たな王だよな……」


「やはり、あの人は……」



「……ケッ」


皆、俺に視線を向け何か言っている。けどそれを受け入れる気にはなれない、受けれいたら…本格的に俺は王になっちまう。人のなり損ない達の王に………。


「…………」


(この一件はバシレウスに王としての姿を求めた…か)


タヴは目を伏せ、ポケットに手を突っ込み。そして踵を返し。


(だが、バシレウス一人では道を誤る。今こそ…お前が必要だ、ステュクス)


思う、今ここにいない…ただ一人の男を。


…………………………………………………………


「おはようステュクス、昨日はよく眠れたか?」


そして、五日目がやってきた。俺はラグナさん達の馬車で一日ぐっすり休んだ。良くも悪くもここ数日俺は気の休まらない日々を送ってきたからな、上手いもんたらふく食ってふかふかのベッドでなんも気にせず眠るってのは久々で、もうすごい勢いで寝ちまった…だからこそ。


「万全です」


俺は腰には二本の剣。腕には籠手、革製の胸鎧を身につけ大きく息を吐き…馬車の中で戦闘態勢を整えた。メグさんから帝国製のポーションを受け取り、ラグナさんからはアルクカース製の籠手をもらった、姉貴がつけてる物程豪勢な代物ではないが、姉貴の籠手を作った人と同じ人が作った籠手らしい。


それを受け、俺は大きくラグナさん達に頭を下げる。


「ありがとうございました、助かりました」


「礼は、全部終わってからでいい。何もかもを終えてエリスを助け…それからまた話をしよう、ステュクス」


「はい、絶対」


ラグナさんもまた戦闘の為の準備を進めている。ラグナさん達はこれからコヘレトに向かいマヤさんを救出する。ネレイドさんのお母さんを助けるんだ。

そして俺もまたこれからバシレウス達と合流しオフィーリアと戦う、コヘレトに乗り込んでアイツと戦う。俺の挑発を受けたアイツの動きは……なんとなく分かるからな。


「ステュクス様、もしもの為にこちらを」


「これは?」


「私の転移魔術のアンカーでありビーコンとなるコインでございます。これがあれば私は貴方をいつでも転移させられます」


「なるほど、ありがとうございます」


メグさんから渡された金のコインを胸ポケットに入れ、俺は大きく息を吐く。さぁて…もう五日、これ以上追いかけっこだのなんだのに興じる余裕はない。ここで決めなきゃ後が無い。今もデティさんは姉貴の延命を続けてくれている…早いうちに決めないとな。


「じゃあ、俺…出ます」


ゆっくりと歩き、ラグナさん、メグさん、ネレイドさんに見送られながら俺は馬車の出入り口に向け歩みを進め……。


「ネレイドさん」


肩越しにネレイドさんを見る。彼女は俺の視線に驚いたのか目を開き、視線を返す。


「なに?」


「……マヤさんを、お母さんを…その」


「うん、助けるよ」


母親ってのは、大切にするものだ。俺は目の前で死んでいく母親になにもしてやれなかった。その無力感、諦念、悔しさ…それらをぶつける為に師匠に弟子入りしたんだ。力を得るのが遅すぎた、だから俺は母を失った。


けどネレイドさんは違う、強い…この人はとても。だから絶対にマヤさんを助けて欲しい。母を失う悲しみを知る人君なんてのは…この世に一人だって少ない方がいいんだから。


「それだけです!それでは!!また会いましょう!!」


「ああ、また後で!」


俺はそれだけ言い残し馬車から飛び出し、平原を駆け出し…向かうのはラダマンテス。地図は何度も見返した、どこにあるかは分かってる。だから……。


「ロア!」


『うむ、任せえ』


ロアを空中に放り投げ、その上に乗りながら魔力を噴射させ空を飛ぶ。姉貴の旋風圏跳も合わせて空を飛ぶ。みるみるうちに大地は遠ざかり、木々よりも高く、鳥と並ぶほどに高く、早く、俺は飛ぶ。


『決戦じゃのう』


「ああ、負けらねー…絶対に!」


『ぬははは!面白くなってきたわい!」


「……バシレウス達は無事ラダマンテスに着いてるかな」


と言うか俺、バシレウス達がラダマンテスにいるって前提で話を進めてたけど実際どうなんだ?まさか俺を無視してそのままコヘレトに行ってないよな、或いは俺を探して……いや、いる。ラダマンテスにいる。


信じよう、みんなを……。


(待たせてちまってるんだ、少しでも早く戻らないと!)


クユーサーにぶっ飛ばされて川に流れて丸一日、ラグナさん達とまさかの合流を果たし久々の安寧を楽しんだ…と言うにはいろいろあったけど、でも俺は今生きてここにいる。ならまだ進める、姉貴を助ける、みんなと勝つ。コルロに勝つ、オフィーリアを倒す!!


「よっしゃ待ってろオフィーリア!!次こそ俺が勝ーーーつ!!」


『おまッ!阿呆!暴れるで無いわ!飛んどるのはわしじゃぞ!落ちるぞお前!』


「そ、そうでした」


なんて言いながら高速で飛んでるうちにラダマンテスが見えてくる。遠目にだが確かにみんなの車も確認できる!よし!やっぱみんなここにいるんだな!


「よしよし!!いやーみんなに心配かけちまったかな〜ってか合言葉、あれなんだっけ」


俺はラダマンテスに着地し銅の街を駆け抜ける。合言葉…なんだっけ、こう言う時姉貴の記憶力が羨ましいよ。まぁいいか、最悪思い出せなくても入り口付近で騒いでたらラセツさんあたりが気がついてくれるだろ!


「まずはみんなに謝って、バシレウスに心配かけたこと言って…そうだ。折角ラダマンテスにいるならデスペラード達にも協力してもらえないか頼んで……」


そして、地下の入り口があった民家の前まで行って…俺は、足を止める。


「な、なんだこれ……」


そこには、破壊された扉、壁、踏み荒らされた大地が見えた。明らかに何かあった、それも…恐らくは襲撃。嘘だろ、ここって襲われないんじゃなかったのかよ……っていうか!


「おい!バシレウスは無事か!!!」


コルロが俺達のところに突っ込んできたってことは、なりふり構わずバシレウス達に襲撃を仕掛けて然るべきだ。ならこっちにもかなりの戦力が割かれたに違いない。

俺は慌てて穴を潜りラダマンテスの地下街に入ると…そこはもうか酷い有様だ。怪我人だらけ、屋台は壊れそこら中が破壊されてる。


「なんだこれ……」


『ううむ、やられたのう。どうやら時間がないのは向こうも同じようじゃ、余裕のなくなった人間とはかくも恐ろしいものか、ぬはは』


(笑ってる場合かよ!クソ!バシレウスは……!)


俺は螺旋状に下に降る道を走りバシレウスを探す。なにが起きてるのか、とりあえずみんなと合流しなきゃ分からない。バタバタと足を大振りにして走っていると…丁度、俺とラセツさん達がデスペラードに絡まれた酒場の前に、人集りが出来ていた。


「なんだこの人集り……」


ラダマンテスの荒くれ者達がなにやら不安そうな顔でゴニョゴニョと囁き合ってる。やれ『王がどうのこうの』『俺達はこれからどうなるんだどうのこうの』と…大の髭面男が女々しったらありゃしない…と考えていると。


「あれ!?もしかしてステュクスですか!?」


「ん?ああ!セーフ!」


「やっぱり生きて帰ってきてくれると思ってましたよ〜!!」


「うぅ〜!本当に心配しましたですよ〜!嬉しくてく…く、狂う〜〜!」


人集りから出てきたのはセーフとアナフェマだ。二人は俺の顔を見るなりワッ!と声を上げて俺の方に駆け寄り手を取って無事を喜んでくれる。やっぱり心配かけちまってたか……。


「ごめん二人とも、戻ってくるのが遅れた!」


「いえいえいいんですよぅ、そ…それより丁度ステュクスさんの力が欲しかったんです」


「俺の力?俺なんかの力でよけりゃいくらでも!」


そう言うなりセーフは俺の手を握り人集りをガンガン跳ね飛ばして道を作る。そう言えばセーフもめちゃくちゃ強いんだったな…と思っていると、酒場の奥には困った顔のラセツさん、涼しい顔のタヴさん、黙っているカルウェナンさんが椅子に座っている。


「皆さん!ステュクスが戻ってきました!」


「ん?え?おお!!マジか!よう生きとったなステュクス!」


「フッ、川の流れに革命を起こしたか」


「流石だ、それにタイミングも最高だ」


「へへへ、心配おかけしまして」


みんな椅子から立ち上がり俺の肩を叩いたり頭を撫でたりしてくれる。いやぁみんな俺のことこんなに大切にしてくれてたなんて…心配かけさせて申し訳ねぇや。


「お前な!」


「どこ行ってたのさ!肝冷やしたよ!」


「あ、ごめん」


なんて笑ってたらコーディリアとアナスタシアが後ろから俺を叩いてきた。この二人からすれば笑い話ではすまんか……っていうか。


「あの、バシレウスは?」


バシレウスがいない、てっきり一緒かと思ったが。まさか……どっかで鼠取りでもしてるのか?あんなもん食って腹壊さないアイツの頑丈さは正直羨ましい…。


「ん、それがな……色々あったんや」


「色々?…まさか入り口がぶっ壊されてた件と何か関係が?」


「ああ、順を追って説明すると……」


それから俺は色々と説明を受けた。まずイノケンティウス…この街の支配者がここからいなくなった事。そしてこの街の所有権とイノケンティウスが抱えていた数十万人の参加をバシレウスを与えた事。バシレウスがそれに反発している事。その後襲撃があり…バシレウスはここを守るためにペンダントをコルロ達に手渡した事。


……俺がいない間に、そんなにあったの?え?俺丸一日いなかっただけだよ?そんな数年ぶりに再会したぐらいの事が…。


「……バシレウスはここの王になったと?」


「正確に言えばマレフィカルムの組織、その大部分や。八大同盟が殆どおらんくなっとるからな、そこらの傘下も含めて全部バシレウスの下に降ったことになる」


「でもそれ、押し付けられた形ですよね。ここの人達はそれでいいんですか?」


俺は外で屯してる連中に目を向ける。アイツらもバシレウスの部下になったってこと?それでいいの?そんな急に上司が変わりますとか言われても。


「いい悪いの話やあらへん。アイツらには先導者が必要や…枠組みを作る者、王がおらへんとアイツらは方々に散ってまうからな」


「ふーん…なるほど、でバシレウスは」


「王になるのが嫌で、今そこに引きこもっとる。近づくと威嚇しよる」


そう言って酒場の奥の扉、多分お酒とか食べ物を保存する倉庫の入り口かな?その扉を指差すんだ。引きこもってるって……うーん、なるほどな。


「どーにも手出しが出来ん。そこでやステュクス!実は頼み事が……」


「待ってください、ラセツさん」


俺は手を前に出しラセツさんの言葉を遮る。この人の言葉はあんまり遮りたくない、この人はいい人だし俺はこの人のことが好きだ…だから。


「すみません、俺ラセツさんに頼まれたら『うん』って言っちゃいそうなので…今はなにも頼み事はしないでください」


「えぇ、オレはただバシレウスに……」


「すんません、お願いします」


「……分かった、信用するで、ステュクス」


俺はなにも頼まれず、なにも背負わず、ラセツさんに小さく頭を下げて…倉庫の扉に、バシレウスのいる場所に近づく、すると足音を聞きつけたのか。


中から…まるで『近づくな』とばかりに魔力による威圧が飛んでくる。


「………」


バシレウスの威嚇か、けど…大丈夫、大丈夫だと言い聞かせて俺はゆっくりと近づき、ドアノブを捻って扉を開ける。


すると中には……。


「バシレウス」


「……ステュクスか」


バシレウスがいた。腕を組んで地面に座り、背中を見せているバシレウスが。ザ・頑固者って感じの座り方だな、そして俺を見ても視線を向けない。相当悩んでるみたいだ…。


俺はゆっくり扉を閉めて、バシレウスと二人きりの空間を作る。


「……ステュクス、お前今までどこでなにしてたんだよ、遅いぞ」


「たはは、すまん。ちょっと川に流された先で休んでから来た」


「はぁ、こっちはお前の事心配して、その上に面倒なことにもなってたってのによ。お前がいりゃ…もっと……」


俺は一歩、バシレウスに近づく。するとバシレウスはピクリと体を揺らし……。


「聞いたか、例の件」


「ラセツさんから聞いた、王だのなんだのって」


「……説得しろとでも頼まれたか?」


「いや、頼まれそうだったからなにも聞かずにここに来た。お前を説得しようなんて気はないし、お前を言い含めてなんかさせようって気もない。ただ話に来た」


「そっか」


するとバシレウスはようやくクルリと方向転換し俺の方を見る。どうやら俺がラセツさんに『王になるよう説得してくれ』と頼まれたと思っていたんだろう。だがそこは俺も察したから…なにも聞かずに来た。


バシレウスは今、王に祭り上げられそうになっている。マレウスの玉座を拒否し、型に嵌められるのを嫌うバシレウスは王にはなりなくないだろう。ましてや人の王など…人にしかなれない。それはレギナが証明した。


だからこそ、こいつは今全てを拒絶している。何かを受け入れたら…そこから自分が王にされてしまうのではないかと、そう感じているんだ。


「ステュクス。俺…お前と一緒に取り返したペンダント、渡しちまった」


「そっか…そりゃまずいな」


「ああ……」


俺はバシレウスの前に座り、向き合う。胡座をかいて一緒に膝を突き合わせ、同じ視座で語る。するとバシレウスは…チラチラと俺の顔を見て。


「ステュクス、俺はイノケンティウスから王の座を押し付けられた。ここにいる連中の…人のなり損ない達の王に、人のなり損ないの俺が座らされそうになってる」


「聞いた、とんでもないことになったな」


「ああ、……お前はそれを、どう思う?」


「どうって?」


「王になった方が、いいと思うか?」


なんだ随分潮らしいことを言うじゃないか。王になった方がいいか?うーん…まぁ確かに表の連中は王を欲してるし、いた方がいいってんならなった方がいいんだろう。けどバシレウスはなりたくないし、やりたくないし、拒否してる。


けどバシレウスも何かを感じてる、普段のこいつなら明確に拒絶という態度を取らずハナから話も聞き入れない。拒絶しているのは…迷っている証拠。


「……………」


だからこそ、俺が言えるのは一つだけ。俺がバシレウスに与えてやれる言葉は…これだけ。


それは……。


「お前はどうしたいんだ?」


「は?」


「王になるか、ならないか。教えてくれよ、俺…お前が言った方の味方するから」


「……………」


それは結局、お前が決めろの一言に尽きる。だって…それを俺が決めたら、ダメだろ。


「俺は……型に嵌められたくない。何者かの意思によって肩書きを決められ、生き方を決められるのはもう嫌だ」


「そうだな」


「俺は人じゃない、立派な王にもなれやしない」


「それはどうだろうな」


「俺は俺のままでいたい」


「分かってる。だからこそお前が決めるんだ、例え俺が王になる選択をしても、ならない選択をしても、お前は俺の決めた型に嵌る事になる。それはお前が最も嫌う結果だろ」


「それは……確かにそうだが」


「今が一番、無責任でいいんだ。お前は今何者でもないわけだ、王でも王にならなかった者でもない。だから思うがままに決めたらいい」


「…………」


バシレウスは悩んでいる。これだけ拒絶の言葉が出るってことはつまり拒絶の理由をそれだけ探したって事。本能で動くこいつが拒絶の理由を探すんだ、つまるところ頭のどこかでは肯定する言葉もあるってことだろ。


ならば悩め、この答えを出せるのはお前しかいない。


「……俺はユリウスの意志を継いで、地上にいる」


「そうだな」


「アイツなら、王になると思う」


「かもな」


「けど俺は…ユリウスの意志に囚われているのかもしれない」


「そうかもな」


「……俺はどうしたらいいか、分からん。…濁っているのか?他者に毒されて俺は純粋じゃなくなってるのか!?俺は…弱くなってるのか!…それが、気になる」


バシレウスは頭を掻きむしってる。確かにこいつは多くを知った、最初出会った時より色んなことを気にするようになった。それが濁りというならそれはそうだ……ならさ。


「バシレウス、なら…一旦全部忘れてみたらどうだ?」


「は?」


「ユリウスの事、外にいる連中のこと、何もかも全部一旦頭から外してさ…お前が本当にやりたい事を探してみればいい」


「俺が…本当に」


「そうだ、この旅で俺たち散々コルロに好き勝手やられたよな」


「やられた」


「アイツら大軍勢のくせして俺たち二人を追い回したよな」


「した」


「でなんか計画を進めてる、今んところアイツの好きに事態は動いてる…これでいいのか?」


「いいわけない…!」


「だったらさ、お前はどう仕返しをする!しがらみも他者の意思も何もかもを忘れ、バシレウス・ネビュラマキュラの意思の、ありのままを聞かせてくれ…お前ならどうする!」


「俺は……」


バシレウスは己の手を見つめる…そして、その手から沸々と魔力が溢れ出し、メラメラと燃え上がり。


「……アイツらぶっ潰す」


ギラリと牙を見せ、潮らしいバシレウスが消え…獰猛で、凶暴で、傍若無人な顔が戻ってくる。


「元はと言えばアイツが好き勝手やって、その借りを返すために俺はここにいるんだ。それなのにいろんなもん背負わされて忘れるところだったが…俺はアイツに仕返しがしたいんだ!」


「だよな!最強の証明…だろ!だったらどう証明するか!」


「徹底的に叩き潰す!踏み潰す!その為なら…なんでもする!」


「それがお前の在り方だ、なんでも使おうぜバシレウス。型に嵌るのが嫌なら型をぶっ壊せ!王が嫌なら王以外になれ!お前はなににだってなれる!そしてそれを…お前自身が選んで決めろ!」


「ッ……!」


バシレウスはその瞬間立ち上がり、拳を握る。どうやらいつもの調子が戻ってきたようだ!そう来なくちゃ!俺が惚れたお前はもっと強く!我儘だったぜ!バシレウス!


「……決めた、ステュクス」


「ああ、どうする」


「俺は王にはならねぇ」


拳を握るバシレウスはそう語る。俺はそれに頷きながら共に立ち上がる。王にならない、だがそれはつまり。


「ああそうだ、そもそも王になる云々はイノケンティウスが寄越した選択肢だ。王になってもならなくても俺はイノケンティウスが寄越した枠の中を出ない。だから…俺はその上を行く……作る、俺の組織を」


「組織か?」


「そうだ、守り面倒を見る王にはならない、俺の手となり足となり動き、俺の我儘を叶えるための組織を作る。俺が好きにやる為の大組織を作るのさ!」


「いいねぇ、お前らしいぜ」


組織か、確かにそりゃ王になったら作れないな。王は面倒見て守る物だ、だが組織は違う、組員を顎で使って好きにやる為の物だ。本質が違う。


「ガオケレナにも言われてた、けどその言葉の意味とイノケンティウスの語る王を混同してた。俺は組織の王にはならない、傍若無人に好き勝手に、自由にやる…魔王になるぜ、ステュクス!!」


「ああ分かったよ、そうしよう!ここにいる人間全員お前の組織の人間にしてやれ!」


「勿論だ!そしてお前は組織の大参謀!」


「そうだなそうだな、俺も参謀にして……は?」


「そこだけは決めてた、組織を作るならお前が参謀だってな。よし!決まった!俺は王じゃない!魔王になる!ついてこいステュクス大参謀!」


「待て!俺はそこまで許容してない!」


「は?俺が決めろって言ったろ。だから俺が今決めた、お前は参謀」


ふざけんな!と言いたかったがバシレウスは俺の肩に手を回し、肩を組んでくると共に…笑う。


「ハッ、お前…俺に言われて断れんのかよ」


「う……」


言われてしまった、見抜かれていた、俺が…ここにいる誰よりも先に、バシレウスという王に惹かれていた事を。確かに今のこいつに言われたら断るってのは無理だな…はぁ。


「ああ分かったよ、だけど今回だけだ。コルロの戦いが終わるまでの限定幹部って事で、俺はレギナの騎士だから」


「そう言ってられるのも今だけだ。そのうちレギナからお前を奪う。よしそうと決まれば行くぞ!」


そういうなりバシレウスは前に歩み出る。王として皆を守るのではなく、魔王として君臨する事を宣言するために…なんか俺が参謀って事にされてしまったが、仕方ない、受けたからには参謀らしい事をしよう。


「待てよバシレウス、これつけろ」


「あ?なにこれ?」


「暗幕、魔王って言ったらやっぱマントでしょ」


俺は倉庫の中から暗幕を取り出し埃を払い。それをバシレウスの肩にかける。うーん似合ってる、凶悪そうな顔も相待ってマジで魔王って感じ。やっぱ演出も大切よな…ろし。


「派手に決めてこい!この王無き暗闇の中に…誰が君臨するかを、教えてこい」


「任せとけ」


そういうなりバシレウスは倉庫の扉を蹴破り外に出る。外にはラセツさん達、コーディリア達、セーフ達…そして、ラダマンテスの野次馬達が目を丸くして、驚いていた。


「ば、バシレウス!お前……」


「決めたか?バシレウス」


「王になるのか、ならぬのか…お前の答えを聞かせろ、バシレウス」


そしてラセツさん達の言葉がバシレウスに降り注ぐ。しかしバシレウスはギラリと光らせる牙と共に笑みを浮かべ。その言葉に答える事なく飛び上がる。俺は慌てて近くの空の酒樽を持ってきて、バシレウスがその上に着地する。


「お前ら!!よく聞けェッッ!!!」


そして両手を広げる。さぁ…かませよバシレウス、お前なら出来る。


「お、王よ……」


「イノケンティウス様の後継者たるお方……」


「俺たちの王に、なってくれるのか!?」


周囲の民が恐れと畏れの混じった声を上げる、しかしバシレウスは大きく首を振るい。


「うるせぇ!テメェらの都合のいい型を俺に押し付けるんじゃねぇよッ!俺は手前らの王にもならねぇしイノケンティウスの後も継がねぇ!俺は俺だ!バシレウス・ネビュラマキュラだ!!」


「え、えぇ……」


「俺は決めた、王にはならない。そもそも手前らなに甘えたこと言ってんだボケクソ共が!!」


「あ、甘え!?俺達は別に……」


「甘えだ!!手前ら社会で生きていけないゴミクズだろ!真っ当な世界で生きていけないからここに来たんだろ!それは!お前らの意思だろ!!!」


バシレウスは叫ぶように語る。暴論、横暴、怒声、聞くに堪えないようにも聞こえるその言葉は人を惹きつける、聞いてしまう…奴の言葉を。それはラダマンテスの住人達の心を揺らす。


「意思……」


「そうだ!意思だ!!社会で生きてけない?違う!手前らが中指立てたんだ!真っ当な世界に唾を吐きありふれた生活に泥をかけ!それでも戦って生きると決めたのはお前らだろ!今更ひよって王様なんか欲しがるんじゃねぇよ!!!」


「それは……」


「そうだろう?なら変えるな、世界が押し付けるやり方に従うな、王など欲するな!神など欲するな!お前はお前だ!世界のルールや社会の通念に従うな!元より俺達ぁ人のなり損ないだ!人のやり方の真似事はやめて…自由にやろう!!」


「自由……!」


火が燃える、バシレウスの中に揺らめく炎が渦を描き燃え盛る。業火となり何もかもを燃やし尽くす大炎となって意志が攪拌する。


「俺は王じゃねぇ!王のあり方にも縛られねぇ!だから誰も縛らねぇ!お前達のことも縛らねぇ!……どうだ、お前らやりたいことがあるんだろ?意地貫きたいだろ?だったら俺と貫こうぜ…!俺は王にはならん、魔王となる!規律を壊し世界を壊し自由を作る組織を作る!だから……」


「そうだ、俺達魔女大国のやり方が気に入らないから…」


「俺たちのやり方があったから…戦っていた!」


「自由が欲しいから!魔女に囚われない世界が欲しいから!」


バシレウスが拳を握る、意思の燎炎の只中に立つアイツの姿は……まさしく。


「ついてこい!俺が背中を見せる!俺は誰よりもやりたいようにやる!俺と一緒にやりたいようにやりたい奴はついてこい!!!!魔王の背に!!」


『ぉおおおおおおおお!!!!』


「型を壊すぜ!!!俺達で!!」


『世界を壊す魔王』だった。数多の意思を従えたバシレウスは纏める、守る為ではなく壊す為に、今ここに一つの意思を束ねた…史上最大規模の組織が生まれる。


「さぁ……やるぜ!おいッッ!ステュクス!!」


「ああ、やってやろう…敵は全部、ぶっ潰そうぜ」


「そうだ、敵は滅ぼす……魔王についてくる奴は、覚悟決めろや。もう二度と…人には戻れねぇぜ!!」


『おぉおお!!俺達の魔王!魔王よ!!』


魔性のカリスマ、魔王たる素質、人を惹きつけ闇へ堕とす最悪の存在。俺はもしかしたら今、とんでもないやつを作っちまったのかもしれ無いな……。

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― 新着の感想 ―
やっぱステュクスしか勝たん。 今までロアを使った空の飛び方って、ガ◯ダムのスラスター的な方法だと勘違いしてたけどサーフボード形式だったのか…… バシレウスは大概ステュクスに依存してるなぁって思ってたけ…
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