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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
二十章 天を裂く魔王、死を穿つ星魔剣
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734.星魔剣と世界最強の領域


「答えなさい、リューズはどこですか」


「うっ…お前……!」


現れたのは紅の髪に紅のドレス、そして黄金の瞳を持った女…そいつが凄まじい勢いで俺の首を締め上げながら体を持ち上げる。抵抗しようにもまるで振り解けず…圧倒的な魔力をメラメラ燃やしながら俺を睨む。


皆はこいつをこう呼んだ、クレプシドラ…マレフィカルム二番手の使い手にして『怪物王女』クレプシドラ・クロノスタシスと。


つまりリューズの従姉妹、散々やばいやばいって言われてる女にしてあのマヤさんさえ上回る怪物だ。そんなのがいきなり鏡の中から現れて俺の首を絞めるんだ。


どういう状況だよ!


「待てやクレプシドラ!そいつは無関係や!」


「ラセツ…ならお前に代わりに聞きましょうか?リューズはどこですか」


「ここにはおらん!見て分からんか!」


「ふむ、ですがお前は嘘吐きです。もしかしたら隠しているやもしれませんね」


「ホンマにオレお前嫌いやわ、会話にならん!」


今まで、マレフィカルムにいる面々は比較的仲が良さそうで、みんな社交的な性格をしていると俺は思っていた。がしかしクレプシドラは全く違う、ラセツさんからは敵意が溢れているし、クレプシドラはラセツさんを疑っている。


まるで話になっていない、俺を解放してくれる気配がない。


「ッ……や、やめてくれ」


「やめません、こいつを殺されたくなけれなリューズを今すぐここに連れてきなさい」


「やめや!ホンマに!」


「ひぃい…ステュクスさぁん!」


ラセツさんが焦り、セーフさんが情けない声を出し、タヴさんやカルウェナンさんがクレプシドラの隙を伺うが…クレプシドラは圧倒的は暴威で寄せ付けない。

会話、対話による会話は不可能。実力行使でなんとかするしかない、だが既に俺が人質に取られている以上迂闊に動けない…どうすりゃいいんだこれ!


「むしゃむしゃ…ゴクッ。ふぅ……さて」


その瞬間、フライドチキンの骨を食い終わったバシレウスが徐に椅子から立ち上がり……。


「そいつを返せよ、クレプシドラ!!」


「貴様…!」


いきなりだ、いきなり拳を握りクレプシドラに叩きつけた。しかも魔力を宿した本気の一撃、しかしそれはクレプシドラの纏う防壁に阻まれ阻害される……が。


(ッ…注意が俺からバシレウスに向いた)


今まで俺に注がれていた視線がバシレウスに向いた。その瞬間だった。


(こいつ、手が震えてる…)


チラリと俺の首を掴むクレプシドラの手を見ると、なにやら震えている。力を込めているとか、恐怖で震えているというよりこれは……、何かこいつの体に異常が起きてる?いや、それより…バシレウスに注意が向いたなら!


「えい!」


「む!」


バシレウスを相手に展開する防壁、それはバシレウスの攻撃すら弾く無敵の防壁。しかしそれは逆に言えば掴まれている俺は防壁の中にいる、俺の動きは阻害されない。故に俺は思い切り体を振り回す。

それによりバシレウスに意識を向けていたクレプシドラは虚を突かれバランスを崩す。けど抜け出せない、抜け出せないけど……。


これだけの隙を用意すれば!バシレウスならなんとかする!!


「『魔王の大鉄槌』ッッ!!」


両拳を重ね、一気にクレプシドラの防壁を打つバシレウス。それでも壊れないクレプシドラの防壁、しかしその衝撃でクレプシドラは完全にバランスを崩し俺を手放す。これにより俺は解放され───。


「ステュクス!」


「バシレウス!助かった!」


「貴様ら!」


俺は防壁の外に弾き出され、バシレウスにキャッチされ事なきを得る。しかしそれでもクレプシドラを倒したわけじゃない、既にクレプシドラはこっちを見て動き始めている。さぁバシレウス!こっからどうするんだ!倒すのか!?逃げるのか!


「よし、なんとかしろ!ステュクス!」


「俺かい!!!」


まさかのここからは無計画!なんとかってどうしろってんだよ!ってそうこうしてる間にクレプシドラがこっちに突っ込んできて……いや待て!確か!!


「食らえェッ!!!」


咄嗟に俺は指先に魔力を集め姉貴からもらった指輪を全力で光らせクレプシドラに向ける。そこから発せられた眩い光はクレプシドラの防壁でも防げない。完全に油断していたクレプシドラはその光を受け立ち止まり…。


「くっ!小賢しい!」


「よし逃げるぞバシレウス!!」


「よくやった!!」


光で目を眩まし、立ち止まった隙に俺はバシレウスと共に走り出す。それに伴い周りの人間も動き。


「でかした!よっしゃ!あんなの相手すんのやめよや!みんな退散や!オレの車に行こや!」


「ああそうだな…!」


「ひーん!逃げろ逃げろーー!!」


ラセツさんが机を吹き飛ばし一気に全員で酒場の出口の方に走り出す。しかし…それを前に無抵抗を貫くクレプシドラではない。


「逃しません…『サモン・ゲニウス』」


「ッ…なんか来る!」


「精霊魔術!?アイツガチやん!」


「手段を選ばんか…!」


瞬間、クレプシドラの背後に二本の剣を持った巨大な鎧の影が現れる。魔術?いやそれよりあれなんかやばい空気が────。


「チッ!行くよ!」


同時に走り出したのはアナスタシアだ、全力で足を動かし全員の服を掴むと同時に…一気に駆け出した。当然俺もまたアナスタシアに引かれ凄まじい重力が全身を襲う。アナスタシアの最高速度による離脱。


俺達が酒場から飛び出すと同時に、先程まで俺達のいた酒場が消える。内側で刃が爆裂するような勢いで振るわれ跡形もなく切り刻まれたのだ。


「チッ、クレプシドラの奴…完全に頭に血が昇っているな、こちらを見かけるなり攻撃を仕掛けてきたぞ」


「戦っても損しかあらへん!そらそら早う乗れ乗れ!」


その隙に俺達は全員で車に転がり込むように乗り込む。座る順もめちゃくちゃ、後部座席ではみんながもみくちゃになる中俺はラセツさんと共に最前列に座る。


「狭いですぅ〜!」


「カルウェナン!テメェ鎧脱げ!!」


「ちょっとラセツ!クレプシドラが追いかけてきてる!早く車出して!」


「分かっとる!舌噛むなや!」


ギャーギャー騒ぐみんなの言葉の中で、アナスタシアさんが叫ぶ。クレプシドラが追いかけてきていると。それを受けラセツさんは一気に車を起動させ爆発的に加速した鉄の籠がグングン速度を得て、瞬く間に風のように大地を駆け抜ける。


「ふぅ、なんとかなりましたね……」


俺は胸を撫で下ろし座椅子に体重を預ける。あの化け物とは言えこの速度には追いつけない。そりゃ瞬間的には追いつけるかもしれないがこの車は継続して凄まじい速さで走り続ける。チェイスになれば必ず振り切れる……と思っていたが。


「いやまだや、クレプシドラはこの程度では諦めん」


「え?」


ラセツさんがそう呟く、何を言うんだと慄いた瞬間…背後で鳴り響く轟音に俺は慌てて窓を開け後方を確認する、するとそこには……。


「逃しませんよ……!リューズを寄越しなさい!」


「ゲッ…なんだあれ」


高速で走る車、その後ろに追従するように追いかけてきていたのは、このデカい車よりなお巨大な馬車だ。


左右には棘のついた超巨大な車輪、そしてその中心には豪奢な玉座がついており、その上に座るクレプシドラがこちらを睨んでいる。馬車と言ったがこれ馬車じゃないわ。だってクレプシドラの乗ってるの…馬がいない、あの馬車そのものが勝手に動いて俺たちを追いかけてきているんだ!しかもめちゃくちゃ速い!


「ラセツさんあれなんですか!!」


「さっきも見たやろ、精霊…クレプシドラの使う精霊魔術で呼び出されたんや!」


「精霊魔術……?」


精霊魔術ってなんだ、精霊?精霊ってなんだよ。そんな風に疑問を感じていると…。


『ほう、精霊魔術とな?』


(ロア!)


ロアだ、星魔剣が囁くように俺に向けて色々教えてくれる。


『精霊魔術とはな、本来古式魔術を改造する事で生まれる現代魔術にあって、その雛形を古式魔術に頼らぬ複合魔術の一つじゃ。複数の現代魔術を掛け合わせ生まれた、さながら現代魔術の真髄とも言うべき魔術よ』


(そう言う説明されてもわからん!あれなんだ!)


『言うたじゃろう、精霊じゃ。精霊魔術は魔力で形成された自律思考を行う魔力行動体を生み出し使役する技、精霊を呼び出したと言っていたが、どちらかというとあれはクレプシドラによって生み出された存在というべきかのう』


ロアは言う、あの馬車はクレプシドラの魔力で作られた存在だと。魔力防壁を人型にして操る魔力形成術…その更に数段上に存在する技術であり、実体を持ち術者の意識とは別の意識で戦う自律行動体なのだと言う。


『古式魔術にも、魔力体の馬を作り出す術はある…がどうやら奴のあれはその魔力体を生み出す魔術を更に発展させた物の様子。まぁ問題は精霊魔術の方ではない、問題はその精霊を涼しい顔で使役し操っておると言う事…彼奴相当強いぞ!』


「マジかよ……ラセツさん!あの精霊を攻撃してぶっ壊せませんかね!」


「無理や!精霊の防御力は術者の防壁の硬度に由来するからな!見たやろアイツの防壁の硬さ!言うとくとアイツの防壁の硬さはマレフィカルム最強や!セフィラの中にもアイツより硬い防壁出せる奴はおらん!多分…人類で一番硬いんやないか?」


それこそ比較対象は魔女とかそれくらいや!と叫ぶラセツさんの鬼気迫る表情を見て、俺は絶句する。


バシレウス全力攻撃でも傷一つつかない防壁を持ち、その上で勝手に行動し攻撃する精霊を生み出し操れる。


これかよ、これがマレフィカルム最強格の存在か!出鱈目過ぎる!!


「アカン、速度は大体同じやが燃費で負けとる。そのうち追いつかれるで!」


「みんなで戦えませんか…?こっちの方が数は多いですし」


「それが出来たらやっとる。クレプシドラはあの精霊を合計十体同時に作れる…クレプシドラも合わせたら向こうは十一人分や、人数的には負けとる。何より…悔しい話やが同じ五本指でもクレプシドラは別格や」


曰く、クレプシドラは五本指二番手…とされているが、その実三番手のマヤさんを相手に大きく差をつけているらしく、三番、四番、五番が同時にかかっても勝てるかどうか怪しいレベルだと言う。


つまり、五本指と一括りにされてはいるが…実際は一番のイノケンティウスと二番のクレプシドラ、この二強状態なのだと言う。


「オレが終生かけて越えようと思うとる相手や…簡単には倒せん。と思うんやけどタヴやん!どうや!革命スイッチ入ったか!」


「ああ、これは革命だ。俺が出る、時間を稼ぐからお前達はなるべく離れろ」


その瞬間タヴさんは扉を開け、そう言い残した後飛び出し、空を駆け抜けクレプシドラの方へ向かう。いくらなんでもタヴさんでも単独であの怪物の相手はキツイんじゃないか…?けどタヴさんに匹敵する五番手のラセツさんは唯一の運転手、タヴさんが出るしかない。


「ラセツ!この車!魔力で動いていると言ったな!小生の魔力で加速を手伝う!」


「我々も手伝いますよ〜!」


「頼むわホンマ!」


カルウェナンさん達が車に魔力を通して更に加速する…俺はそんな中、窓から身を乗り出しタヴさんを確認する。すると。




「くッ…!流石だな…クレプシドラ!」


「タヴ、邪魔をしないで頂きましょうか」


(なんだよあれ…めちゃくちゃだ)


そこで繰り広げられていたのは、超常の戦い。


クレプシドラは玉座の上で立ち上がり、視認出来る程に濃厚な防壁を張りながら周囲に合計九体の精霊を生み出し空を駆け巡るタヴさんと戦っている。


タヴさんも必死に戦っている。だがクレプシドラは合計十体の精霊を同時に操れる。つまり精霊であるあの馬車を入れてもまだ九体も余裕がある。自律で行動する馬車はまるで止まる事なく進み続け、他の精霊はタヴさんを寄せ付けないように戦っている。


「だが!革命!!」


「ならば私は圧政にて圧倒し、支配しましょう…革命者」


クレプシドラが手を動かす、それにより三体の剣を持った鎧の精霊が動く。いや動いた、目で追いきれない速度で空中を駆け回り、周囲の木々が、森が、一斉に細切れになり肘を舞う。タヴさんは身を捩りなんとか斬撃を回避するが。


「『一時のザフィン』」


動き出すのは、木々よりもなお巨大な鉄の像。無数の腕を左右から生やし、慈愛の笑みを浮かべる女神像。ワラワラと動く腕達が光芒を残す速度で振るわれ…周囲の地形が一瞬で変わる。


大地はめちゃくちゃに耕され、細切れになった木々は吹き飛び、砲音のような衝撃が轟く。圧倒的な質量を持ちながら音速を超えて動く拳撃、それを前にタヴさんは受け切ることができず吹き飛ばされていく。


「がはァッ!!」


「革命なさい、革命者、暴君はここにいますよ」


「ッ…言われずとも!」


見ているだけで身震いする。クレプシドラと戦っていたのが俺だったら、恐らく俺は三秒も持たなかった。あそこで殺されずにある程度互角に戦えているタヴさんが異常なんだ。


それ以上におかしいのはクレプシドラ。精霊一体一体の強さが尋常じゃない、その上であの物量攻撃。強すぎる…捕まったら殺される。


「あかんな…タヴやんだけや持たへん、相性的にめちゃくちゃええはずなんやけど、それでもひっくり返されへんか。オレが出れたら多少はマシになるけど…」


ラセツさんは悔しそうに口を開く。タヴさんとラセツさんのコンビならクレプシドラを押し留めることができると言う。だが彼はこの車を動かせる唯一の人員…抜けられない、なら。


俺が行くか?いや俺が行ってどうなる!聞いた話じゃサイディリアルに現れたオフィーリアをクレプシドラは一方的ボコボコにしたらしいじゃないか!セフィラよりも強い奴を相手にこの間セフィラにボコボコにされた俺が戦ってどうなる!!


「ステュクス!」


「バシレウス…?」


すると、バシレウスは俺の椅子にしがみつきながら前に出てきて…。


「俺達も行くぞ、準備しろ」


「は!?」


そう言うんだ、俺達も戦うぞと。こいつの中で俺はどう言う存在に見えてるんだ!?クレプシドラと戦って生きられる程俺は強そうに見えるのか!?行ったって足止めにすらならない!一瞥ももらえずに殺されるのがオチだ!


「無理だ!俺じゃ勝てない!」


「いいや、この中でクレプシドラに一杯食わせられるのはお前だけだ、ステュクス」


「いやどう考えたらそう言う答えになるんだ!お前でさえ壊せない防壁!それと同程度の硬度を持つ精霊!こんなの俺の手に負えるわけが……」


「言ってただろ、ラセツが。クレプシドラの使ってるのは…精霊魔術だってな」


そう言いながらバシレウスは俺の星魔剣をコツコツと指で叩く…。クレプシドラの使っているのは…精霊魔術……あ!!


「ッ!そうか!ラセツさん!俺も出ます!」


「は!?なんでや!あんま言いたくないけどお前クソの役にも立たんで!?」


「いや!俺の剣…魔術を吸い取ることができるんです!もしかしたらあの精霊もいけるかも!」


「マジか!!」


そうだ、星魔剣は対魔術戦最強の兵器。クレプシドラの使う魔術がどれだけ強力でも…この剣なら切り裂ける!!バシレウスが言いたかったのはそれだ!確かに俺しかいない!あの精霊をなんとか出来るのは!


「へっ、ようやく気がついたかよ、間抜け」


「ああ間抜けだった!けど俺だけじゃ精霊に辿り着けない!お前もついてきてくれバシレウス!」


「違う!お前がついてくるんだ!遅れるなよ!」


その瞬間バシレウスは扉を開ける。俺もまた扉を開けて、風に流れる世界の中へ飛び出し…星魔剣を掲げる。


「魔力覚醒!『却剣アシェーレ・クルヌギア』」


「魔力覚醒『エザフォス・アウトクラトール』!」


覚醒を行う、俺はアシェーレ・クヌルギアの力で髪が伸び、白く染まり。この目が赤色に光り輝く。バシレウスは全身から血のようにドス黒い魔力を放ち、瞳の赤が更に濃くなり紅蓮の光芒を残すようになる…覚醒の力で、流れていく大地を蹴って俺とバシレウスは共にクレプシドラに向かう。


「あの偉ぶってる女に一泡吹かせるぞ!ステュク──は?誰お前」


「俺だよステュクス!覚醒すると見た目変わるの!今それどころじゃないだろ!」


「……よりにもよってな見た目になりやがって。いいか!お前は馬車を狙え!あれさえ消えりゃクレプシドラの足はなくなる!」


「言われなくても分かってる!」


「なら上等だ!」


駆け抜ける俺とバシレウス、そんな俺たちをクレプシドラは横目で捕捉する。見つかるのが早い、攻撃は全て精霊に任せているからアイツ自身の手は空いている状態なんだ…。


「ナメクジが二匹、鈍く…脆く、そして儚い敵対者。妾に刃向かうには些か足りていない物が多すぎるのではなくて?『一時のシンブック』」


クレプシドラが指先をピクリと動かすと、それに伴い一匹の精霊が消え、入れ替わるように俺達の前に現れたのは…不思議な精霊だ。


あるのは胴体と頭だけ、それが宙に浮いている…そんな不思議な鎧型の精霊。かと思いきやその背後には同じく宙に浮かぶ無数の剣。なるほど、数十の剣を同時に操る精霊か!


「消えなさい、王自ら処断してあげましょう」


その言葉と共に繰り出されるのは、筆舌に尽くし難い程の速さ、名状し難い程の質量による斬撃。無数の剣がその場で回転し、回転鋸のように円形を描くと同時に縦横無尽に空間を飛び回る。


さながら剣が消えるように、斬撃だけが世界に表出するように、俺とバシレウスの目の前に斬撃がばら撒かれる。


それを見て、一言述べるなら…『対処不可能』だ。


「ゔっ…速ッ…!」


速すぎて手に負えない、俺じゃ一秒だって持ち堪えられない──。


「洒落臭い!!」


しかし、咄嗟に俺の前に飛び出し駆け抜けたバシレウスが、手を振るい、足を振るい、向かってくる精霊の斬撃を弾く。火花が散り、金属音が轟き、次々と俺を守るように剣を叩き飛ばしていく。


「こんなもんで俺が殺せるか!クレプシドラ!」


「腐ってもセフィラですね、ならこれはどうですか、シンブック!足しなさい」


増える、一時のシンブックなる精霊が生み出す剣の数が増える。音速を超える斬撃が十や二十じゃ効かない数増えて、バシレウスに押し寄せる。


「ぐっ…ステュクス。俺がやる、お前は馬車を目指せ」


「あ、ああ!」


しかしそれでもバシレウスは俺の前を駆け抜け、剣を弾いていく。それ以降俺に対して何も言わなくなったあたり、バシレウスも手一杯なんだ。


それこそ雨みたいに一撃必殺の斬撃が降り注いているんだ、例えるなら豪雨の水滴を手で一つ一つ払っているような物。荒唐無稽な話を実現させている以上…余裕がないのは当然、ならあとは俺が!


「『三時のエイルネウス』」


「うぉっ!?」


瞬間、俺が一歩分クレプシドラに向かった瞬間、突然目の前に現れたのは胴長の鎧、その身に無数の目をつけた異形の精霊が俺の前に立ち塞がり、無数の瞳が光り輝く。


『ステュクス!飛べ!』


「いっ!!」


ロアの言葉に反射的に軽くジャンプした瞬間、目の前に立ち塞がるエイルネウスの瞳から、大量の光線が放たれたのだ。黄金の光線…いや熱線は大地に触れるなり即座に融解させ貫通していく。そんな光線をひとみのかずだけか、つまり数十は一気に乱射するんだ。


ロアの言うこと聞いてなければ、今頃死んでだぞ!!


「ほう、避けますか。まぁでも…そのうち死ぬでしょう」


しかしエイルネウスは光線を止めない、継続して光線を放ち続け、その角度をそれぞれ変えてまるで俺を追いかけるように狙い続ける。避けるのにも限界がある…ダメかも、持ち堪えられないかもーーーっっ!!


「何やってんだステュクス!!そいつも精霊だ!斬っちまえ!!」


(バカ言え!出来るかそんなこと!!)


シンブックの剣を押さえるバシレウスがそう叫ぶ、星魔剣であの精霊を吸収しろってんだろ?無理だ、出来ない。


そりゃ目の前にいるからやろうとも思えば出来る。出来るが…一度でもそれをクレプシドラに見せてみろ、不意打ちは成立しない!


トランプで例えるならクレプシドラはキングだ、13カードに勝てる手札を俺は持っていない。唯一対抗出来るのは『星魔剣が魔術を吸収出来る事、それをクレプシドラが知らない事』なのだ。唯一にして最大の切りジョーカーをここで切ればもう対抗策はなくなる!だから使えない!このカードは!


「ステュクス!!死ぬぞ!!」


「分かっ…てる!」


けどそれでもエイルネウスは強い、全く隙がない、突破どころか持ち堪えることすら不可能。全力で飛び回り高速で動くこの戦場の中で俺は最大限の回避を見せるが、追い詰められる。


「さて、誰が一番最初に落ちますか」


「くっ…!」


ここまでの事をやっておいて、クレプシドラは余裕だ。そりゃそうだ…己の移動に精霊を一体使い、俺とバシレウスに二体使い、残りの七体をタヴさんに使っているだけで当人は一歩たりとも動いていないのだから。


圧倒的物量と質量、破壊不可能な防壁と精霊の合わせ技。実力が隔絶していると称されるだけはある…!これ、どうやって突破すりゃいいんだ!!


(手が足りない…!)


今目の前に立ち塞がる鎧の精霊エイルネウスが巨大な壁に見える。このままじゃジリ貧…じゃあ、一か八か…使うか!星魔剣を。


(ままよ!)


このまま全滅するくらいなら、せめてと俺は星魔剣に手をかけ、一気に振るい────。


「『喰ら……」


「『イフタム・ヤー・シムシム』ッッ!!」


「え!」


しかし、その瞬間。俺の背後から飛んできた影が、俺に先んじてエイルネウスに飛びがかかり…魔力覚醒の光と共にその拳を叩きつける。それは…。


「セーフ!!」


「ステュクス君にだけ戦わせられません!私たち友達ですからー!」


セーフだ、魔力覚醒をしながらエイルネウスの光線を掻い潜りその拳を奴に叩きつけたんだ。だがバシレウスでも壊せない硬度の精霊だ…いくらセーフでも。


「私の覚醒は『開く』覚醒!硬度は関係ありません!!」


違う、壊したんじゃない。まるでエイルネウスの体が扉のように開かれ真っ二つに裂けたのだ。防御力無視の攻撃か!めちゃくちゃえげつない覚醒だな!!


でも、道が出来た!


「ありがとうセーフ!!」


「いえいえ!!」


「チッ、硬度無視系の覚醒か…ですが、所詮覚醒により発生する事象、そこに頼る小虫の勝手など握り潰してあげましょう!『四時のパルクス』!」


引き裂かれたエイルネウスは光の粒子となって消える、が直ぐにまた新しい精霊が出現する。黄金の鎧を着込み、ギロチンのように巨大な処刑剣を手に持った巨人だ。精霊を倒しても倒してもクレプシドラが健在な限り直ぐに補充されるのか…けど。


「セーフ!任せた!」


「はい!」


俺はセーフの手に乗り、投げ飛ばしてもらうことで鎧の精霊を飛び越え、クレプシドラに迫る。バシレウスがシンブックを一時の抑え、セーフが四時のパルクスを抑えている以上、俺がフリーになる!突破出来た!!


「クレプシドラ!!」


「羽虫が、消えなさい。『三時のマスカルン』」


クレプシドラに迫る…が、直ぐに俺の目の前に更に精霊が追加される。ローブを着込み、その下に鎧を着た首無しの精霊。その手には二本の巨大な黒鎌を握っており、俺を見据え…鎌を振りかぶる。


分かる、相対しただけで俺はこいつに勝てないことがわかる…けど。


「クレプシドラ、俺の相手はしてくれないのか?」


「なッ!」


突如、降り注いだ流星が…三時のマスカルンの胴体を蹴り抜き、吹き飛ばす。タヴさんだ、彼が光のような速度で降り注ぎ精霊を蹴り飛ばしたんだ。

そう、俺に一体割いたということは…必然的にタヴさんを狙う精霊が一体外れることになる。精霊七体で抑えていたタヴさんが自由に動けるようになり、俺の援護に飛んできてくれたんだ。


「チッ、革命者が…!貴様らはいつだって、我ら為政者の最大の敵よ!」


「ああそうだ、為政ある限り革命は影として付き纏う。民の監視者たる王を監視する者こそが!革命者だ!目を逸らすなよ暴君!」


「チィッ!!!」


精霊は完全に抑えられた。あとは俺が馬車を切り裂くだけ。剣を振るいクレプシドラの乗る馬車に刃を突き立てる…が、まだ問題がある。


それは……。


「よもや、妾が出ることになるか」


「ッッ……!!」


一歩、クレプシドラが前に出る。ただそれだけで空気が震え、心臓を掴まれるような感覚を味わう。こういう他者に戦わせて、自分は後方で待機しているタイプってのは…術者当人は弱いケースが殆どだ。


だが、クレプシドラは違う、操っている精霊よりなお強い。あの精霊十体合わせたそれよりも…なお巨大なクレプシドラの実力。将軍に匹敵すると言われる世界最強の力。


それが俺に向けて指を立て。


「死になさい」


「ヴッ!?」


何かが飛んできた、多分魔力だ。丸く固めた爪先程の魔力を射出したんだ。そう考える事しかできない、視認出来ない速度で飛翔した弾丸は俺の腹を貫通し背後に突き抜け、勢いは死に…俺はフラリと落ちていく。


「王は絶対、肝に命じなさい…でなければ、次はその肝にこれを打ち込みます」


「ぅ……」


落ちていく体、切り開いてもらった道が閉ざされるのが見える。届かない、未来が見えない。代わりに見えるのは百の死、百の敗北、百の絶望。


クレプシドラを前に俺はくじかれ、地面に向けて落ちる中、今度は目の前に迫る。奴の乗る巨大な馬車の車輪。それ一つだけで木々よりも巨大な車輪が俺を潰そうと迫ってくる。これは死ぬ…マジで死ぬ。


ここで終わる、終わるのか………。


『ここまでか?割と呆気ないのう』


そんなロアの言葉が冷たく響く…呆気ない、呆気ないと来たもんか…いや呆気ないか。


ここで、終わったらな…!


「ッッ!!」


俺は力を振り絞り体を空中で起こし、剣を握る。ここで俺が死ねば、何もかもが終わる、姉貴が死ぬ、師匠の尊厳は踏み躙られ、バシレウスとレギナは再会できない。何より最悪クレプシドラにみんなが殺されるかもしれない。


嫌だ、それはもう嫌だ!俺はもう誰も死なせたくない!!死なせない為なら!死ぬ気でだって戦ってやるッッ!!


「ッッがぁぁああああああ!!」


目の前に迫る高速回転する車輪。それ目掛け俺は剣を突き立て一気に突き刺す。どう考えても止められる速度じゃない、抑えられる質量じゃない、分かってる…分かってるけど!


「『喰らえ』!!ロアッッ!!!」


『ほう、根性見せたのうッッ!!』


車輪に振り回され、地面に叩きつけられ、回転によって全身がバラバラに吹き飛びそうになりながら、俺は叫び…一気に魔力を吸い込む。本来は傷一つつかないはずの精霊が…まるで火をつけられた紙のように崩れていく。


「なッ!妾の精霊が…消える、いや食われている!?貴様!」


「ぎゃっ!」


車輪が消え、俺はその勢いのまま吹き飛ばされる。同時にクレプシドラを運んでいた馬車が消え、奴はその場で止まることになる。他の精霊は健在だがもうラセツさん達を追えない…ザマァみろ。


「妾の道程を邪魔するとは、万死に値する…!」


「あ、やべ……」


しかし、逆を言えば俺だけが取り残され、クレプシドラと共にここにいるということになる。吹き飛ばされ木に叩きつけられクラクラする視界に怒りの形相のクレプシドラがこちらに向かって歩いてくるのが見える。


これはまずい、マジで助かるビジョンが見えない…!


「そんなに死にたいというのなら、殺してあげましょう!!」


「ッ………!」


クレプシドラが、拳を握る。その瞬間まるでクレプシドラの手に火が灯るように光が溢れる、魔力を集中させているんだ。膨れ上がる光は大地を圧迫し粉砕し、ただクレプシドラが敵意を見せただけで大地が揺れる。


指一本の攻撃でこっちは死にかけてる、次はあのグーパンチが来る、受けたら死ぬ、確実に死ぬ…そう、覚悟を決めた瞬間。


「いやさせないよ!!」


「お前は──────」


クレプシドラが何かをする前に…駆け抜ける風が、アナスタシアが俺を掴み、そのまま一気に駆け出し全力で離脱する。凄まじい速さだ、馬車を失ったクレプシドラじゃ到底追いつけない速度だ。伊達じゃない、世界最速の傭兵は。


「はい!連れてきたよ!!」


「うぅ、助かりました…!」


そして俺はアナスタシアさんに抱えられ、全力疾走を続ける駆動車の中に突っ込まれ、座椅子の上に転がり、脱力する。どうやら…なんとかなったようだ。


「ステュクス!!お前ホンマにやるやんか!!凄かったでマジで!!」


「ああ、よくぞ根性を見せた!若人よ!」


「いい革命だった、久しく腹の底から笑ったよ」


いつのまにか車の中に戻っていたタヴさんが笑い、ラセツさんが俺の肩を叩き、俺の根性を讃えてくれるカルウェナンさんの声が後ろから聞こえる。どうやらクレプシドラは追ってこないらしく、俺は本当にみんなの危機を救えたみたいだ。


「かっこよかったですぅ!」


「いやぁステュクス君カッコ良かったですねぇ」


「どれ、私が治癒してやろう。少し待て」


そしてアナフェマさんが涙目で俺を褒めてくれる、タヴさんと同じく戻っていたセーフがウンウンと頷き、そしてムスクルスが俺を治癒し……。


「ヘッ……」


最後方の席に座るバシレウスが、まるで『それくらいやって当然』とばかりにニタリと笑い、満足そうな顔をしたまま再び座椅子に寝転び目を閉じる。


……よかった、生きてて、誰も死ななくて…マジで。


「しかしラセツ、クレプシドラはあれで諦めるだろうか」


「んー、そうとは思えんなぁ。あいつマジで頭イカれとるからな、リューズが北部におる限りあっちこっちで暴れ回るやろな」


(歩く災害かよ…)


コーディリアとラセツさんの話を聞くに、クレプシドラはまだ諦めないという。そりゃそうだ、別に倒したわけじゃないし馬車を出せなくしたわけじゃない。あくまで今ある馬車を崩しただけ、奴の馬車は精霊だ…クレプシドラが健在な限り何度でも復活する。


大人しくしてたら、また直ぐに追いついてくるだろう。


「う…ありがとう、ムスクルス。死ぬかと思った」


「いや、クレプシドラが相手でその程度で済んだなら僥倖と言える。大体の相手は死ぬかと思う前に死んでいる」


「だろうな……」


ムスクルスに腹の穴を塞いでもらう。こいつの治癒の腕はマジで超一級だ、デティさん程とは言えないが…逆を言えば人類最強ヒーラーであるデティさんくらいしか比較対象がいないレベルだ。


「はぁ、あの…ラセツさん。色々落ち着いてからになるんですが…クレプシドラはなんで鏡の中から現れたんですか?もしかしてまた鏡の前に立ったら出てくるんですか?」


「ああ、出てくるやろな。なんせアイツが普段おるのはクロノスタシス王国……クロノスタシス王国ってのはな、鏡の中…つまり鏡の世界にあるねん」


「え!?鏡の中の世界!?」


鏡の中に世界なんかあるわけ……い、いやあるか、あるわ。だって俺は見てるから、絵画の中の世界や夢の中の世界を。絵画や夢の中に世界があるなら、そりゃあるよ…鏡の中にだって世界が。


つまりクレプシドラは常に鏡の中で待機して、現実世界でリューズの話が聞こえた瞬間…鏡の中から現実世界に飛び出してくるってことか。


「鏡がある限り、アイツはどこにでも現れる。やからお前らこの中で鏡っぽいもんは今のうちに全部捨てとけ!」


そういうなりラセツさんは車の中にあった空のガラス瓶を捨てる。後ろのみんなも鏡になり得る物を捨てる、例えば手鏡はそうだし、ガラス製の物は大体そうだ。


そんな中、俺は座席の前に取り付けられているタンブラーを見る。さっき移動中にもらった水が中に入ってる…俺はそれを静かに指差し。


「あの、水は……」


「それ、もう飲んだれ。それも鏡判定や」


「マジか……」


水もダメなのかよ、迂闊に水場にも近づけないな。なんて考えていると…ロアが。


『安心せえ、水を飲んでも腹の中からお前を食い破ってクレプシドラが出てくることはない』


(おっかないことを言うなよ、けど飲んだら大丈夫なのか?)


『いや、鏡の世界というのはな、誰かが鏡の世界を認識しない限り向こうには繋がらん。つまり光を反射する物を見て、鏡写しの世界を目視或いは認識しない限りは大丈夫じゃ。鏡の世界はあくまで識確により構成されておるからのう、認識されない限りはただの反射現象でしかないわ』


よく分からんが、光を反射する物を見ない限りは大丈夫らしい。ともあれこれからの旅路では鏡には気をつけないとな……。


「ほなもうこのまま行くで、ホンマはあの村で休みたかったけどああなったらしゃあないわ」


「そうだな、と向かう先はエクレシア・ステスだったな」


ふと、タヴさんがそう言うんだ。次の目的地はエクレシア・ステスだと…しかし場所が分からない。オフィーリアがいるらしい研究所の名前で、この近辺にあるらしいが…さて、どこにあるのか。


「エクレシア・ステスとは元々コルロが使っていた研究所だ。ヘベルの大穴に本拠地を移す前はこのエクレシア・ステス研究所を本拠地として使っていた…と聞いたことはある」


カルウェナンさんが腕を組みながらそう語る。どうやらその存在を先程の敵から聞き出していたようだ。つまりここにオフィーリアは隠れている可能性が高い。故に今の目的地はそこだ。


「じゃあこのままエクレシア・ステスに?」


「せやな、寄り道してる暇はないしこのまま一気に突っ込んでオフィーリアの首根っこ捕まえるで」


「だが情報がないな、闇雲に走って見つけるのもいいが…そろそろ夜だ、どこかの街で休みつつ情報を集めたいところだな」


タヴさんがそう語る、しかし…その言葉に異を唱えるようにバシレウスがガッと起き上がり。


「もう街だのなんだのには寄りたくねぇ!そう言う場所に立ち寄る度に面倒ごとに巻き込まれてんだ、どうせまた面倒なことになるに決まってる!」


「そうは言うが、食料はどうする」


「ステュクスが全部用意する!」


「無茶言うなよ!」


二人きりの時ならまだしも、十人いるんだぞ!それを森から調達してこいってか!狩人か俺は!

だがこの近辺の街は敵に抑えられてそうだし、実際無警戒で入るとまた面倒ごとに巻き込まれそうだ…これは悩ましいところだな。


「でしたら一つ、私にアイデアがありますぞ」


そんな中、口を開くのは筋肉法師のムスクルスだ。彼は白い髭を撫でながら深く頷き…。


「滞在するならこの街が良いでしょう。馬車では些か遠くて向かえませんでしたが…ここにいけばゆっくり休めるかと」


「あん?タヴやん代わりに地図見てや、オレ前見とらなあかんねん」


「どれどれ……これは」


ムスクルスは地図の一点を指差す。それはヘベルの大穴を囲むように作られている森の外側。そこにポツンと作られている一つの街を指差すのだ、それを見たタヴさんは目を見開き。


「フッ…銅の街ラダマンテスか。考えたな」


「ラダマンテス、その発想はなかった。相変わらず俯瞰した視点を持っているな、法師」


「いえいえ、最近のマレフィカルムの様子は分かりかねますが、古い話であれば私にも口出しできる余地があるかと思いましてね」


「え?え?」


タヴさんもカルウェナンさんも大絶賛、青銅の街ラダマンテス?そー言えば北部にはそんな街もあると聞いたことがあるが…なんでその街ならゆっくり休めるんだ。


「あの、コーディリア?」


「なんだ」


「ラダマンテスってなに?」


「ああ、お前はマレフィカルムじゃないから分からないのか」


すると俺の後ろに座るコーディリアはチラリと窓の外に目を向けると……。


「ラダマンテスって言うのはな、表向きには普通の街だが…その正体はガオケレナ総帥がマレフィカルムの為に作り上げた街。つまりマレフィカルムの街なんだ」


「えッ!?マレフィカルムの街…!?」


「そして、そこの管理を行なっているのはゴルゴネイオン…つまり裏にはイノケンティウスがいる。イノケンティウスとコルロが繋がっていない以上、コルロの手勢は絶対にラダマンテスには攻めてこない…勿論クレプシドラもな」


ま、マレフィカルムの為にある街?そんな場所に行って大丈夫なのか?またマルス・プルミラみたいなことにならないか?


「そこ、行っても大丈夫なんですか?またマルス・プルミラが出てくるんじゃ…」


「暴れへんかったら大丈夫や、それにタロスはマレフィカルム本部に通じる街やからあんなに警備がやばかっただけで、ラダマンテスはそーでもないで?寧ろ今の状況なら大正解や、よっしゃ!ならラダマンテスに直行や!この距離なら夜には着くやろ!!」


マレフィカルムの街、そう聞いて俺は心持ち穏やかではない。だって俺にとってマレフィカルムは敵だし、恐ろしいやつらだ。それが跋扈する街とかどう考えてもやばいだろ……と思っているのは俺だけらしく。


「フッ、ラダマンテスか。アルカナがあった時以来か、行くのは」


「小生はあまりあそこの空気感は好かんが、ある意味熟睡出来る唯一の街かもしれんな」


「私は好きだよ?ザ・アウトローの街って感じでさ。オウマ団長とよく遊びに行ったよ」


「無法が罷り通るなら、このメンツで押し通すこともできる」


「ラダマンテスですってセーフさん、タロスよりも安心できそうですね」


「会長が好きじゃなかったので、あんまりいけませんでしたからねぇ。楽しみですよぉ」


元マレフィカルムメンツは寧ろ楽しみって感じだ。なーんか疎外感。


(そろそろ二日目が終わるな)


空を見れば、もう直ぐ夜がやってくる夕暮れ時。もう直ぐ二日目が終わる…明日になったら姉貴の余命は五日になる。俺はまだオフィーリアに指先すらかかっていない…間に合うのかな、このペースで。


…………………………………………………………


「つまり、ステュクスとバシレウスを見逃したと」


「はい、コルロ様」


「フゥー……」


コヘレトの塔、最上階…その玉座に座り帰還したペトロクロス達の報告を聞いて、彼女は感情をかき乱されていた。


なら、心をかき乱すのは何か。むざむざ見逃して逃げ帰ったペトロクロス達への苛立ち?バシレウス達を取り逃した事への怒り?あと一歩のところで遅々として進まない計画への焦り?どれも違う、今…私の心をかき乱すのは。


(おかしい、なぜ上手くいかない?なぜ計画が狂い始めている?私は天に選ばれた存在のはずなのに)


それは困惑、ただただ困惑していた。私は天に選ばれ、天からこの世界の漂白を任された者。唯一にして無二、選ばれたただ一人の人間。その私が建てて進めてきた計画は絶対のはず。


事実、二十年前から今日に至るまで一度として止まる事のなかった進捗が止まった、それどころか後退してすらいる。何故だ、何が起こっている?


「そうだ、全てアイツが現れてからだ…」


そう、あの時までは上手くいっていた…ステュクスが私の前に現れるまでは。まさか、アイツなのか?私の計画が止まった原因は…私が生み出した大流を掻き乱した者。ステュクスが流れを止める者だとでも言うのか。


あり得ん、あんな凡百、凡千、凡億のただの人間に私の生み出した流れが止められることなどあっては────。


「いや、違うな」


「コルロ様?」


項垂れ、落ち着く。何を考えていた私は、傲慢になってなんの苦難もなく成功を収められると思っていたのか?そうだ、私は天に選ばれたとしてもただの人であることに変わりはない…まだ。


そう言う意味では私もステュクスも同じ土台に立っていると言える。なら侮れる理由などどこにあろうか。


これはきっと、天が私に課した最後の試練なのだ。私が真に大願を果たせる者かどうかを確かめる為作り出した試練。ならば真摯に襟を正して向かい合おう。


「如何されますか、コルロ様」


「………」


私は頭を上げて、見遣るのは己の座る玉座。石作りの玉座はまさしく王が座るに相応しい程に荘厳で、壮麗で…そしてあまりに重い。


「フンッッッ!!」


「コルロ様!?」


立ち上がり、拳で砕く。石の玉座を……そうだ、これだ。


「この世に王は必要ない。ただ天に神がいれば良い、ならばこそ王を僭称し玉座に己を預ける者になど神は微笑まない。私は間違えていた……こんなものに座る必要などなかったのだ」


ガラガラと崩れる玉座を見届けた私は、そのまま振り返り…手を掲げ。


「私も出る、総力を用いてステュクスとバシレウス、そしてそれに与する者を殺し尽くす。決戦だ!」


「ハッ!!」


玉座は王の為にある、私は王ではなく神使だ、ならばこそ私もまた矢面に立つべきだ。共に神の試練に抗い、そして…目的を果たす。なら玉座は私に必要はない。


「オフィーリアとクユーサーも呼び戻せ、アイツらも使う」


「ですが奴らは、今もタロスから戻っておらず……今は何やらエクレシア・ステスにいるようで」


「ふむ」


エクレシア・ステス…私がシモンに預けた研究所にして、私の目的が動き出した始まりの地か。そこでオフィーリア達は何をしている?レナトゥスから命じられたのは私の監視のはず……いや、まさか。


「まさかオフィーリア達はお前達よりも前にバシレウスに接触していたのでは?」


「……ええ、確かに。我々が到着する前に離脱したようですが」


ペンダントを確保したな、アイツら。バシレウスとステュクスの二人で致命の術を持つオフィーリアと不死の体を持つクユーサーのコンビを崩せるわけがない。私でも対応を間違えれば崩されるかもしれないコンビだ。


だがステュクス達はペトロクロス達が到着した時点で生きていた。つまり見逃されている、ならなんで見逃した?大方私の目的であるペンダントをステュクスがチラつかせて交渉したんだ。


そして確保したまま…エクレシア・ステスに隠れ、なんの事情も知らない私達とバシレウス達が潰し合うよう誘導しようとした。アイツらは協力者であって仲間ではない、レナトゥスが私を警戒している以上…私達の弱体化はオフィーリア達にとっても望むところだろうからな。


「フッ、面白い。なら…オフィーリア達に会いに行くぞ。どんな言い訳をするか見ものだ。何より私が出向けば奴らも表立っては逆らえなまい、逆にアイツらをバシレウス達にぶつけてやる」


「御意に」


「出立の準備をせよ!」


オフィーリア達を使いバシレウス達を全滅させ、そしてペンダントを奪い返す。試練を乗り越え…私は真の目的を果たすことになるだろう。


そう……私の目的、真の目的…それは。


「…………」


出撃の準備を進める為、退室した部下達…そして私は部屋に一人取り残される。


そんな中、再び私は目的を再確認する為…それを見る。


「シリウス様」


崩れた玉座の向こうに見える戸棚、そこに飾られているのは…天狼のオブジェ。あの日、一介の研究者でしかなかった私が…ガオケレナに憧れ、彼女と同じ魔術研究者の道を歩んでいた私を導いてくれた彼女がくれたもの。


即ち…ウルキ・ヤルダバオト。私の前に現れこの世の全てを教え、そして私の才覚を認めてくれたあのお方が提示した魔女シリウスの復活。その為に私は半生を費やした。


私の目的は魔女シリウスの復活。この肉体を魔女シリウスの器とすること、完成された肉体を作り上げること───────。



では、ない。


「シリウス様が復活すれば、世界が滅びる…でも他に方法があるなら」


私は失敗するわけにはいかない、シリウス様にこの世界を滅ぼさせない為…復活の先、完全なる大願を果たす為にも、止まれないんだ。


……………………………………………


「い、いきなり尋ねられても困りますよ、ティファレト様…ゲブラー様」


「えぇー、別にいいじゃん。昔馴染みなんだから」


「昔馴染みと言われても……」


ヘベルの大穴を超え、更に西に向かった先にある北部内における最西端。そこには巨大な研究施設がある。複数のブロックを束ねたような、幼児が積み木で作ったような、そんな歪な形をした白い大研究所…その名もエクレシア・ステス。


かつて、ヴァニタス・ヴァニタートゥムが八大同盟入りする前、マヤとコルロの二人が出会い…そしてヴァニタートゥムを結成した地でもあるこの大研究所。その内部には大量の『肉体実験装置』で満たされており、それを動かす魔力が発する緑色の光で仄かに照らされた暗い室内にて、実験器具を押し除け机に座るのは…バシレウス達を見逃したオフィーリアだ。


そんな彼女の前で困ったように眉を下げるのは、かつてメサイア・アルカンシエルにて参謀を務めたシモン。アルカンシエル会長が『理解』のビナー…即ちファウスト・アルマゲストだった頃からの古参である。


現在彼はこの研究所の主任を任されている。アルカンシエル崩壊を機に完全にヴァニタートゥムに鞍替えし、コルロの行っていた研究を引き継いでいた彼は…かつての上司ビナーと関係のあるオフィーリアを前に、ほとほと困り果てていた。


「大丈夫〜キミがビナーを裏切ってヴァニタートゥムに入ったなんてこと、ビナーには言わないから」


「う、い…いや私はファウスト様を裏切ったわけではなく…」


「ビナーは言わなくても分かってるだろうしね。その上で傍観してるの、つまりビナーはキミに興味がないの、だから何してもオッケー!よかったねぇ」


「……………」


「アハハ、でさ。暫くここにいてもいいよね?私ちゃんは今コルロの味方でキミもコルロの部下、そして私ちゃんとキミは昔からの知り合い。置いてくれてもいいよねぇ」


「それは…まぁ、断る理由もないですが」


「やりぃ!」


クルリと体を回しながら机から飛び降りたオフィーリアを前に、オフィーリアが何をしでかすか分からないと怯えるシモンはビクビクと震える。


そんなシモンに興味も示さないオフィーリアは研究所をぐるりと見回し…。


「で?ここではなんの研究してるの?あんた昔から気味悪い研究ばっかりやってたし、どうせ碌でもないことやってるんだろうけど」


「こ、ここでは肉体に関する研究をしてるのですよ。最高の肉体とは何か、最強の肉体とは何かを……」


「ほぉ〜ら〜、やっぱりくだらないよ〜。最高の肉体とか最強の肉体とかさぁ〜、くだらない事勉強するよりも前に修練でしょ〜。鍛えないとどんな奴も強くなれないよぉ」


クスクスと笑うオフィーリアは近くの書類を勝手に読んで暇つぶしを始める。対するシモンはひたすらやりづらそうに肩を落とす…そんな中。


「ところで、その。彼は何者ですか?」


「彼?」


チラリとシモンに促されて見る先にいるのは……。


「ああ、リューズ君か」


「リューズ?」


巨大なガラスで覆われた実験室の中で一人で立ち、全身から冷気を放ち続けるリューズがいる。それを見てシモンは首を傾げながら近くの書類やら手紙やらを漁り始める。


「リューズ君はね、私ちゃんに惚れてんの。惚れてるから連れてきた」


「そんな、ここを娼館のように扱わないでください。男なら他所のホテルか何かに……」


「違う違うセフレじゃない。戦力として…アイツはあのクレプシドラ・クロノスタシスの従兄弟だよ?それにかなり強いみたいだし」


「リューズ…ああ、思い出した。確かコルロ様の手紙にあった名前だ」


そう言いながらシモンは一つの手紙を選んでその中を熟読し始める。それが気になったオフィーリアはシモンの手紙を覗き見しながら小さく首を傾げ。


「コルロ知ってるんだ」


「ええ、コルロ様曰く彼は特異点…反英雄だそうです」


「反英雄?」


「英雄の対になる存在です」


「英雄ってあれだよね、星の芽。あれの対になるって事?」


「ええそうです」


コルロは軽くながらリューズと出会い、その力の性質を分析していた。その分析結果を取り敢えず送るだけこの研究所に送っていたのだ。その説明を見る限りコルロはリューズを『現行の学説、学論のみでは説明がつかない存在』として挙げている、そして同時に…一つの仮説も立てていた。

「ふむ、英雄のなり損ない…」


「ねぇーねぇー!一人で納得しないで説明してよ」


「ああ、すみません。……リューズ君の力は魔力現象だけでは説明がつかない存在らしく…所謂特異点と言うものですね」


「何それ」


「特異点と言うのは、先ほども言ったように魔力現象のみでは説明のつかない特異体質のことです、英雄を代表として、識確使いや希少魂魄保有者、異界同期体などを纏めて特異点と呼び、現行の学問では説明も分析も出来ない存在です」


「なにそれ、選ぶって言ってるけどつまりただ分からない存在に名前つけて放置してるだけでしょ。分からないものを分からないまま放置するならアンタ達学者は必要ないねぇ」


「分からない存在がいるから我々学者が必要なんです。それでリューズ君もその一員ということですね、ですが彼は反英雄と名付けられているようですが…つまるところ英雄の一人のようです」


「英雄って一人じゃないの?」


オフィーリアは知っていた、英雄がどう言うものか。かつて帝国で魔術学者をしていたガオケレナが皇帝より聞き及んだと言う話。英雄は星の影響を受けず、凡ゆる事象を跳ね除け、そして正解を勝ち取る存在であると。


そんな特別な存在がこの世にいるとは思えないと考えていたが、今目の前にいる以上信じざるを得ない。


「本当の意味での英雄は有史以来一度も誕生していません、いるのは英雄の資格を持つ者。それは本来複数人同時期に生まれ、そして英雄の力を高めていくものらしいのですが…どうやら英雄の力は有限のようでして」


「どう言う意味?」


「同時にこの世に表出できる量に限りがあるのです。天秤のように誰かが多く保有すれば他は必然的に空になる…何処かの誰かが英雄として強くなると、同時に別の英雄が弱くなるのです」


オフィーリアは訳がわからない、チンプンカンプンと首を傾げる。だがつまるところ英雄の資格保持者は複数人同時に誕生し、限りある英雄の力を奪い合うように成長を続ける。誰かが強くなると限りある英雄の力はそちらに奪われ他の者が保有する英雄の力は失われる。


つまり、リューズ・クロノスタシスという存在は……。


「どうやら今英雄の資格を持つ者はリューズ君ともう一人別の者の二人しかいないようで、もう片方がかなりの力を持って行っているようです」


「なるほど、だからゼロなのか」


英雄の力は星に影響を与える。本来ならばそれそれで分散して持つ筈の力をただ一人圧倒的な才覚を持つ者によりリューズが本来持ち得る英雄の力が全て奪われていると。

だから反英雄か…と納得するオフィーリアはリューズを凝視する。


「本来なら起こり得ない挙動です、英雄の力を全て取られただけではああはならない。どうやら彼には英雄の力を取られてもなお余る程の才能があったようで…本来持ち得る力を無理矢理星から吸収出来る体に変質したようです」


「それ全部仮説でしょ?」


「まぁそうなんですが……」


だが、言い換えればリューズの力が増加し強くなればもう一人の英雄の資格を持つ者から英雄の力を取り戻せる。つまりリューズは英雄の力を行使出来るようになる。

オフィーリアが見るに、あの才覚は本物。英雄の力とはまた関係ない部分でそもそも常軌を逸する程の才能を持つ。なら強くなるまでそう時間はかからない。


(英雄の力に史上最強の第一段階としての才能、これが合わさればまさしく向かう所敵なしになれる…バシレウスより余程利用する価値がある)


クレプシドラが恐れる理由が分かる。今まで一切戦闘経験を与えず育成もせず、ゼロのままにしていた理由が分かる。これが開花すればクレプシドラの王権は終わる。そこを理解したオフィーリアはクツクツと笑い。


「よーし、じゃあクユたん!遠慮なく育てちゃって」


『ああ?まだやんのかよ』


オフィーリアが声をかけるのはリューズと同じくガラスで覆われた部屋の中にいるクユーサー。今、リューズはこの部屋で修行をしている。


「いいからやれーい!」


『いいけどよ、こいつマジで底無しに強くなってるぜ…?』


リューズはただ経験不足なだけ、ならその経験を与えれば良い。その相手にクユーサーはうってつけだ、奪っても奪えない相手。そして無限に回復を続ける体を持ち永遠に相手が出来る…その上で強い。


故にリューズはここでひたすらにクユーサーと戦闘を繰り返している。


「究極の肉体だの、特別な素質だの、シモンはごちゃごちゃ言うけどさ。結局最強になるのに必要なのは『訓練』『鍛錬』『修練』、それ以外ないんだよぉ〜」


結局強くなるのに必要なのは、英雄の資質とか研究され尽くした最高の肉体とかではなく、ただひたすらに鍛え上げられた技と体と心。それ以外にないのだとオフィーリアは確信している。


オフィーリアも、クユーサーも、ホドもケテルもケセドもマルクトもダアトも…セフィラと呼ばれ、遍く頂点に立った者達は皆そうやって強くなり、そして今も最強の座を維持し続けている。


これを倒し得るのは反英雄だの究極の肉体だのではない。同じくらい鍛え上げた者だけなのだ。だからリューズをそこまで持っていく。


「き、君。意外にカルウェナンのような事を言うんだね」


「カルウェナンの言っていることはある意味真理だよ。小細工、誤魔化し、小手先は努力の積み重ねには絶対に勝てないから……だから、キミ達は危ないかもね。研究で最強の力を作ろうなんて考えているキミ達は…ね」


「ッ……」


ゾッとシモンは寒気を覚える。オフィーリアの語る言葉にはあまりにも説得力があった、自分達はあくまで研究や実験によって人工的に最強の座を獲得しようとしている者達だから。だがそれでもセフィラには敵わない。


セフィラは言い換えれば世界最強の達人集団だ。彼らのやってきたことの正しさは彼ら自身の強さによって担保されている。つまり自分達の研究は…単なる努力のみによって覆される可能性があると言うこと。


しかし、シモンは首を横に振る。


(い、いや今更引けるか。賽は投げられてるんだ…そもそも肉体改造によって強くなったのはコルロ様だけじゃない、ガオケレナ総帥だってそうだろう。なら我々は間違ってない)


人類は技術によって進化してきた、なら正しいのは自分達だと無理矢理確信を作りながら…彼は止まらない。


……だが彼は知らない、今この研究所。エクレシア・ステスが…三勢力の入り乱れる戦場になろうとしている事を。


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― 新着の感想 ―
ステュクスの成長が凄い。そしてバシレウスの後方彼氏面もすごい。 コルロはシリウスを逆に利用しようとしているのか?となると対ウルキへのジョーカーになり得るかも? オフィーリア、やっちまったな。あとでクレ…
俺のステュクスを見ろよと言わんばかりのバシレウス、ステュクスへの信頼が厚い、ある意味リューズより執着しているのでは?窮地に陥っていても意識を逸らせば自分で何とかするだろって援護したり、一緒に打って出る…
更新お疲れ様です! 一応知らなかったとはいえクレプシドラを招く原因を作ったのはステュクスなわけですが、そんなことみんなお構いなく、バシレウスですらそのことを責めてこなかったですね。いいパーティになり…
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