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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
二十章 天を裂く魔王、死を穿つ星魔剣
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730.星魔剣と魔王と二人きり


「ぜぇ…ぜぇ、俺すげぇ…登りきったよ俺…」


ヘベルの大穴、その岩壁にしがみついて登り始めること暫く。俺はバシレウスと共に岩壁を登り切ることに成功した。登りきったそこは森の中であり、空を見ればもう夜明けだ…。

つまり、オフィーリアを探す二日目の旅が始まったわけだが…。


「ちょっとタイム、休憩させて」


「情けないなお前」


俺は登り切ると共にゴローンと地面に寝転び、そのまま休憩する。でもこれくらいいいだろ、大したもんだぜあの距離を登ったのは。

チラリと崖下を見ればどうだ、底が見えない。途中から霧がかかって底が見えず、何処まで続いているのか分からない。それがヘベルの大穴だ。


ここ登ったって話、一生自慢話に出来るな。


「オラ行くぞ」


「待てよ…」


しかし、同行者のバシレウスは待ってくれない。というかあの崖を登ったのはこいつも同じなのに全然ピンピンしてやがるな。


「そんなに急ぐなよ、山場は超えたんだから」


「アホかお前」


すると、歩き始めたバシレウスはチラリとこちらを見ながらも歩みを止めず。


「アイツは計画を達成する為に幾つかのアイテムが必要だ、うち一つが俺の血かお前の持ってるペンダント…四つあるうちの三つを確保してる状態なんだぞ。なら俺達の確保に全力を傾けるに決まってるだろ」


「う……」


「壁を見つける直前にサンライトに見つかってたからな。大方俺達が穴の外に出た事はアイツらに割れてる。直ぐに離れた方がいいんじゃねぇのか?それともお前も一緒に戦うか?」


流石にあのレベルの連中と真っ向切っては戦いたくないな…。仕方ない!


「分かった!行くよ……」


「それでいい、じゃあタロスに行く……で、いいんだよな?」


チラリとバシレウスはこちらを見て、そう言うんだ。タロスに行く、それが目的でいいんだなと。一応今のところ現状の目的地としてはタロスだな。


「ああ、そうだ」


「なんでタロスに態々帰らなきゃいけないんだか」


とは言うが、現状俺達は二人きりだ。みんなを置いてきてしまったし一旦合流したい。バシレウスと二人きりってのは今後不安もあるしな。


そう言ってバシレウスは森の奥へ歩いて行こうとして……。


「いや、お前何処行こうとしてんだよ」


「は?だからタロスに……」


「タロスはそっちじゃねぇよ。あっちだ」


「は?」


タロスは逆だ、バシレウスは真逆の方向に進もうとしてる。だから俺はヘベルの大穴の向こうを指差す…それに対してバシレウスはイラっとした表情を見せて。


「なんで分かるんだよ」


「ヘベルの大穴は北部の中でも西寄りの地点で、タロスは中心寄りだろ?なら俺達は北に向かうべきだ」


「北とか西とか言うな、右左で言え」


「太陽を見れば方角はある程度分かる。丁度登り始めた頃だから…あっちが東でこっちが西で、だとすると南があっちで…うん、やっぱり北はこっちだ」


冒険者時代の知恵って奴だな、太陽の方角を見ればある程度の方角は分かる。星空が見えたらある程度座標も分かるんだが…まぁ言っても仕方ない。

取り敢えずタロスに戻ろう、そこでタヴさん達と合流する。勝手に消えて心配してるかもだし、謝らないと。


「タヴさん達がいたら、きっとコルロ達にも勝てる。そうすりゃお前もコルロへの借りが返せるだろ?」


「あ?」


俺は穴の外縁を周りながらバシレウスに話しかける。するとバシレウスは小さく首を傾げ。


「別にアイツらいなくても勝てる」


「ああはいはい」


「別に俺は誰の助けも借りねえ、最強だからな」


そう言う割には俺お前のこと二回助けたんだけどと言うとこいつは怒るので言わない。にしても強情というか意固地というか。なんでそんなに一人で戦うのに固執するかね。


「なぁバシレウス、別にそんな意地にならなくても味方してくれるならタヴさん達と一緒に戦えばいいじゃん、実際そのつもりでついてきたてたんだろ?」


「アイツらが勝手についてきただけだ、俺は最初から一人で戦うつもりだった」


「別に全員でコルロを囲んで袋叩きにしようぜって言ってんじゃない。サメ人間とか鎧男とかコルロの下にはバラエティ豊かな部下がいるだろ?そっちはタヴさん達に任せてさ、お前はコルロとタイマンすればいいじゃんか」


「そうしたら俺が最強だって証明出来ないだろ」


「最強最強って、なんでそんなに最強にこだわるんだ?もうお前…十分強いだろ」


バシレウスは強い、めちゃくちゃ強い。正直羨ましいと思うくらい強い。なのにそれでも…強さを求めるのか?いやこいつの場合強さすら求めてない。ただ…自分が強いことを誰かに証明したいみたいだ。

けどそんなの…不毛じゃないか?強さを認めさせるなんて、それで命落としてちゃそれこそが本末転倒だろ。


「俺はそもそも最強だ、けど…最強である事と、最強の証明は違う」


「そっか、じゃあその証明って何をもって証明出来たってことになるんだ?別にコルロぶっ潰して手に入るのはコルロをぶっ潰したって実績と称号だけだろ?」


ふと、俺は振り返りながら聞いてみる。何気ない会話だ、特に気にしてなかった一言だ…けど。


「え?」


バシレウスはどうやら、そうじゃなかったらしく。目を見開いてこっちを見て……。


「強い奴を倒したら、強いって証になるだろ?」


「え?そ、そうかな…俺は違うと思うけど…」


「なんでだ!」


「なんだって……」


どうやらバシレウスは特に考えず最強の証明を行おうとしていたようだ。いやまぁ確かにコルロも強いしそれに勝てたら凄いけどさ、でもやっぱりそれでも手に入るのはコルロに勝った、コルロより強いって事だけで、最強には繋がりないんじゃないかな。

例え、それがどれだけ強い相手に対して行おうとも、変わらない気がする。


「コルロ倒したら最強に近づくだろ!」


「い、いやぁ…だってお前は元々最強なんだろ?」


「そうだ!それを証明する!」


「って事はお前はコルロより強いし、コルロはお前より弱いんだろ?」


「そう言ってるだろさっきから」


「じゃあお前、自分より弱い奴倒して最強の証明しようとしてるってことにならん?」


「む……」


ぎゅっとバシレウスの口がへの字に変わる、完全に反論出来ないって感じだな……。


「じゃあどうすりゃいいんだよ!」


「それは俺に聞かれても…やっぱ最強の証明って言うなら、みんなに認められてこそじゃないか?」


「認められる?どうやって」


「し、知りませんが…」


「なんだそりゃ!テメェだって答え持ってねぇじゃねぇか!大人しく話聞いて損した!」


そう言ってバシレウスはプンスカ怒りながら先の方に歩いて行ってしまう。いや…だって最強とかなんとか考えたこともないし、そもそも俺はなんでも知ってる賢者とかでもないし……。


ん?


「…………」


ふと前を見ると俺の数歩分先に行っていたバシレウスが立ち止まり、チラリとこちらを見ている。なに見てんだアイツ…なんで俺のこと見てんだ?


『アホ、ありゃお前のこと待っておるんじゃ』


(え?俺のこと?)


ロアに指摘されびっくりする、え?待ってくれてるの?


『アイツの魔力を見てみい、崖を登ってる間にアイツの魔力はある程度回復しておる、全快ではないがな。やろうと思えば一人でタロスの街まで飛んで帰ることくらいできるじゃろう、それをせんという事は…お前を置いていく気がないという事じゃ』


(なんで?アイツそんなことしないだろ)


『いやぁ別にアイツはただ他人に思いやりがない男じゃないのではないかのう。ありゃあただ自己ルールで動いとるだけじゃ、でその自己ルール的にここでお前を置いていくのは嫌なんじゃろう』


自己ルールで動くって言い方を変えたら自分勝手って言うんじゃないかな。それにバシレウスはあれだろ、単に飯係がいなくなるのが嫌なんだろ…。


(つーかなんでお前がそんなバシレウスの事を語れるんだよ)


『なんじゃろうなぁ!めちゃくちゃ親近感あるんじゃよな、アイツは性根がワシに極めて似ている気がするのう!』


(なんか分かる)


「おいステュクス、なにボーッとしてんだよ。ヴァニタス・ヴァニタートゥムの追っ手の顔でも拝みたいのかよ」


「ああ、悪い悪い。直ぐ行く」


まぁ、なににしたってもホラ。立ち止まる理由はないわけだし、とっとと行くかね。


「つーかステュクス、腹減った」


「えぇ?今言われても困るよ。そうだな…ちょっと待てよ。はいこれ食え」


「きのこ?」


俺は足元のキノコを毟る、茶色で傘の大きなキノコだ。俺は傘の裏をしっかり見てからバシレウスに渡す。


「ポルチーニ、食えるキノコだ」


「食えるのか」


「似たようなキノコがあるから、俺が取ったもの以外は食う前に俺に確認してくれ」


「分かった」


冒険者生活してるとキノコを食べなきゃいけない場面ってのもある。ポルチーニは割と食える、似たような見た目で毒のあるキノコもあるから注意が必要だが…この手の判別は冒険者なら誰でも出来る。多分ストゥルティでも出来る。


ま、何にしても野生のキノコなんか食わないに越した事はないんだが…ああ、それと。


「それと食う前にキノコの頭を叩いてから食えよ。野生のキノコは傘の中に虫の幼虫がいっぱいいるから」


「ふーん、通りでプチプチするわけだ」


「………」


こ、こいつもしゃもしゃ食ってやがる。注意するの遅れた俺もあれだがこいつ全然躊躇しないな…毒キノコ食わせても死なないんじゃねぇのかなこいつ。


「ステュクス、おかわり」


「なら歩きながら探すぞ」


「ん」


ともかく、街を目指そう…確か俺の記憶が正しければタロスとヘベルの大穴の間に街があったはずだから、まずはそこを目指して歩く。ヴァニタートゥムの追っ手が来なければいいが…。


…………………………………………


で、二時間くらいかな。歩き続けてさ。


俺達は特に何事もなく近隣の街である平原の街モイラへと到着したわけだ。ヘベルの大穴を覆う森を超えて文字通り平原のど真ん中にある街であるモイラ。ここは西部側から物を運ぶ際に使われる路の上にあり、そのおかげもありかなり栄えている。


昔はシュランゲって街が交易の拠点に使われてたらしいが、そこが曰く付きの街になって滅んで以降、こっちにお株が回ってきた感じだな。


で…そこについた俺達が一番最初にしたのは。


「んん〜、やっぱまともな飯って美味いなぁ」


カフェでお食事だ、木組のテラス席に座った俺は熱々のグラタンを頬張り舌鼓を打つ。タロスを飛び出してからまともな飯を食ってなかったからさ、サバイバル飯よりこう言う飯のが好きだよ俺は。


因みに俺が食ってるのはミートグラタン、バシレウスはなんでも良いと言うので……。


「おいステュクス」


「ん?嫌いか?パスタ」


キノコのパスタだ、なんでもこのカフェの名物らしく、名物だってんならハズレはないと思ったから頼んだんだが…バシレウスはフォークに手をつけず、素手でパスタの中に手を突っ込み中に入っているキノコを取り出し。


「これは食っていいヤツか」


「い、いやいいだろ、流石に森のとは違うわけだし」


「ん」


そう言うなりバシレウスはもしゃもしゃとフォークを使わずキノコのパスタを食べ始める。もう今更何も言わんよ。慣れたよこいつの感じは。


さて、それはそれとして。


(ここからタロスへの道がちょっと長いな…一応道具は揃えたから問題はないけど)


俺はヘベルの大穴に行くのに魔力の全力噴出で加速して向かった。オフィーリアやマルス・プルミラ達との戦いで溜めに溜めた魔力の全力噴出だ…それは俺が想像していた以上に凄まじかったらしく、徒歩で向かうと少し時間のかかる距離を一瞬で移動出来た。


が、逆に言えば帰るのが大変だ。時間がかかると言っても馬車を使えば明日中には着けるが…。


(どうすっかなぁ、丁度交易のルート上にあるし、行商の馬車に乗せてもらうか…)


俺は地図を広げ考える。なるべく時間はかけずに戻りたい、そして出来れば…魔力も使わずに帰りたい。と言うのもヴァニタートゥムの追っ手が怖いんだ。


ヘベルの穴を抜けたとは言え、まだここは奴らの縄張りの中だし、下手に魔力を使えば感知される…そして感知された場合、切り抜ける為の体力と魔力が必要だ。


今あるルートは二つ、やや金がかかるが直通でタロスに行ける行商随伴ルート。

もう一つは街の街を繋ぐ郵便馬車に乗るルート、こっちはタロス直通がないから一度別の街を経由する必要がある。


行商は探す必要があるから見つかるか不確定ってのもネックだな……うーん。


「なぁ…聞きたいことがあるんだけど」


ふと、俺は口を開き前を見ると…。


「ん?」


そこにはパスタを頬張るバシレウスがいる。しまったいつもの癖で仲間に意見を聞いてしまった、いつもならここにはウォルターさんやカリナがいた、二人の意見を聞いて決めてたんだが…今回はちょっと意見を聞けそうにないな。


「なんだ」


「なんでもない。……ん、そうだお前の上着も買わないとな」


ふと俺はバシレウスが肌着だった事を思い出す。こいつの上着は俺が捨ててきてしまったからな。まだ秋口とは言えやや肌寒いだろう。流石にそれで長旅させるわけにはいかない。


「上着?別に買わなくてもいい」


「買うよ普通に。ってかお前…あの上着もしかして大切なヤツだったりしないよな」


「大切なモンじゃねぇ、そもそも衣服を大切にする必要なんかあるかよ」


「まぁそうだけど、なんかいつも着てたし」


「うるせぇな、どうでもいいって言ってんだろ、買うなら勝手に買え」


バシレウスは心底ウザそうに顔を歪めつつパスタを頬張る。こいつ俺に奢ってもらってるのにすげー態度だな。


「じゃあ取り敢えず上着を買ったら行動しよう。多分明日の朝か昼頃には着くと思う」


「そうかい」


「魔力は大丈夫そうか?戻ったか?」


「かなりな、別にお前に心配されるようなことでもない」


ドライだなぁ…なんて思っていると、バシレウスはパスタを食い終わり、袖で口を拭いズボンで手を拭き…って。


「おいおいズボンで拭くなよ、布巾があるだろ」


「うるせぇ」


「お前なぁ」


ふと、まるで髪先をいじられるような変な違和感を感じ、バシレウスから目を離し、俺はテラス席から外の様子を見る。


(なんかいる)


怪しい雰囲気を持つ奴らが数人、カフェの前に立っている。服装は黒いコートに黒い帽子、体格はかなり良い…コートの上からでも分かる筋肉、右腰の辺りに膨らみがある…ってことは帯剣してるな。


(追っ手かよ…)


十中八九追っ手だ。けど見た感じ幹部じゃないな…強行突破も可能な人数だ。


「バシレウス」


「あ?んだよ…」


バシレウスに視線を戻すと、こいつは眠そうに椅子の上でぐだーんとくつろいでる。いや…まさかこいつ、追っ手に気が付いてないのか!?あんだけ追っ手の事を警戒してきた癖に!肝心なところで無警戒になりやがって!


「なぁバシレウス…おいってば」


「うるせぇなぁさっきから」


「外見ろって、なぁ…」


大声で追っ手がいるとは言えない、だから俺はテーブルから身を乗り出し外を見ろと促すがバシレウスはウザそうに唇を尖らせ…。


「なぁ、これずっと気になってたんだが何に使うんだ?」


剰え気もそぞろにテーブルの上のフォークを今更掴み、鋒を指で弾いているんだ。そんなところ気にしてる場合かよ!


「そんな事してる場合じゃなくて…」


「何に使うんだ」


「ふ、フォークだよ。肉を刺したりパスタを巻いたりする為に使うんだって、それより…」


「ふーん…」


するとバシレウスは鋒を指で数回弄った後、そのままフォークを振りかぶり。


「よっと」


「は?」


投げた、目の前に…それはそのまま料理を運んでいるてウェイトレスの女の人の肩に命中し…。


「キャぁッ!?」


「ああ!?おいバシレウス!?お前なんて事してんだよ!!」


「うるせぇって言ってんだろ…黙って見てろ」


するとそのままバシレウスは立ち上がり、肩にフォークが突き刺さったウェイトレスを睨みつけながら歩き出したんだ。い、いやいやいやいや!何してんだよアイツ!まさか関係ない人間殺すつもりじゃ……。


そう警戒したのも束の間、次の瞬間…カフェの様子が一変する。


「テメェ!何しやがる!」


「いつから気がついてやがった!!」


「え?え?え?」


次々と客と思われた人間が立ち上がり、中から武装したウェイトレスが出てきたり、隠れていたいかつい奴らが出てきて、カフェがあっという間に怪しい連中で満たされる…え?何が起こって。


「テメェらコルロんところの連中…いや見た感じヴァニタートゥムの下部組織の連中か。俺達を殺すよう命じられでもしたか?…だったらとっととかかってこい、ありもしねぇ隙伺ってジロジロ見てるだけ時間の無駄だぜ」


「チッ、流石はセフィラの一角を任された男…我々の隠密程度見破って当然か」


こ、この店の人間全員コルロの差し向けた追っ手だったのかよ!?じゃあ外にいる連中は…囮?或いは俺達の死体を回収する係か!全然気が付かなかった…ってか。


バシレウスはそれに気がついてあんなに寛いでたのか…いや。


(あの時キノコを食っていいか聞いてきたのは、毒が入ってないかの確認だったのか!?いや言えよ!あの時点で気がついてるなら!)


『どうやら料理に毒は入っていなかったようじゃのう。必要ないと見ていたのか、あるいは突発的で用意できなかったか、運が良かったのうステュクス』


「う……」


バシレウスはカフェを囲む武装集団を相手に拳を鳴らしており…。


「組織名、名乗れや…裏切りモンだろ?」


「フンッ、我等『大喰のモンストロ』はこれよりマレフィカルムと決別し、コルロ様が作り上げる新たなる組織に従属する…これはその足掛かりだ」


「それは足掛かりとは言わねぇ、足切りだ…テメェらみたいな雑魚のな」


「吐かせェッ!!!」


一人の男が…モンストロの構成員が腰の剣を抜きながらバシレウスに迫る、だが…バシレウスは。


「雑魚だろ…普通に」


「がばはぁっ!?」


一閃、弾丸のような拳が構成員の頭を叩き抜き、轟音と共に男の体は目の前の人混みに衝突し爆散するような衝撃を生み出し、一撃で十数人を蹴散らす。


「な、なんてパワーだ…」


「魔力を使わず、腕力だけで…!?」


「へっ、命懸けの使いっ走りご苦労、消耗品諸君」


獰猛に笑う、ある種ブチギレてる時の姉貴より余程怖えし強え。こんなめちゃくちゃな強さなのかよバシレウスの奴…!


「く…くそっ!かかれ!奴の血か!或いはペンダントを手に入れればこちらの勝ちだ!」


「ギャハハハハ!出来るかよお前らに!因みにッ!!」


瞬間、バシレウスは俺の方を指差し…え?


「ペンダントはアイツが持ってる!」


「おい!!」


言うなよ!?バカかアイツは!!


「ペンダントを寄越せぇっっ!!」


「ゲッ!」


しかも、奴らの反応は早く。即座に大柄なモンストロ構成員が槍を片手にこっちに突っ込み…鋭い刺突を放つ。


「いや危ねぇ!」


「避けられた!?」


即座に椅子の背もたれを掴みそのまま体を持ち上げ、槍を回避する。危ない…マジで殺す気の一撃だったぞ今の!


「おいバシレウス!巻き込むなよ!俺を守ってくれるんじゃねぇの!?」


「誰が守るって言ったよ!巻き込むも何もお前から首突っ込んだんだろうが!死にたくなきゃ足掻け!」


「クソが!」


そのまま地面に着地すると共に椅子を持ち上げ目の前にいる槍使いの構成員目掛け、一気に振り抜き叩きつける。


「やってやるよ!死ぬつもりは毛頭ない!」


「ぎゃぶ!」


師匠の剣と星魔剣、両方か抜き放ちながら叩き倒した構成員の上に立ち構えを取る。どうせいつかはあらごとになるって分かってたんだ。ならやってやる!俺だって逃げ回るだけしか出来ないくらい…弱いわけじゃねぇ!


「へっ、さぁ雑魚共!取りたいもんがあるなら好きに持ってけ!ただし!…やるなら死ぬ気で来いよ」


バシレウスの目が紅に光り、凄まじい威圧が場を包む。さぁて…どうやってこの場を切り抜けるか!!


「かかれーっ!!」


「ちったぁ耐えてみろやッッ!!」


一撃、モンストロ構成員達が次々と迫るその人の波を、拳の一撃で割ってしまう。まるで紙が風に飛ばされるように、バシレウスが生み出す拳風が人を弾き飛ばす。


「血を寄越せー!!」


「嫌だ」


背後から斬りかかる構成員、しかしバシレウスは振り向き様に軽く足を動かし構成員の膝を蹴り砕き。


「ァガッ!?」


「脆いなぁお前ら」


そして膝をついた構成員の顔面を裏拳で薙ぎ払い、構成員は錐揉みながら飛んでいく。


「雑魚に出来ることは一つだけ。より強い人間に従属し頭を垂れること、強者が二人いるのならどちらにつくかを見極めること…ただそれだけだろう」


バシレウスはまるで軽く運動するように動く。拳を突き出せば男が吹き飛び、その後ろにいる連中を巻き込みカフェの外まで消えていく。足を薙ぎ払い数人纏めてぶっ潰し、右手で投げ飛ばし左手で叩き砕く。


全ての動きが連動しており、一度の行動で数人をぶっ飛ばす…その様はまさしく絶対強者。


「コルロと俺、どっちが強いかを見極められなかった時点で…テメェらはつく方を間違え負けたのさ…生存競争に。故に諦めましょう!潔く死にましょうってな!」


「ぐっ…ダメだ!セフィラ相手には敵わない!」


無敵…そんな気配すら漂うバシレウスの戦いぶり、それに恐れをなしたモンストロ達の視線が…一斉に俺に向く。


「あっちの弱そうな方を狙え!」


「げぇーっ!こっち来るなよッッ!!」


狙ってんのはバシレウスだろ!?くそっ…仕方ない!やってやる!


「死ねェッ!!」


「甘い!」


構成員の振り下ろした斧、それを前に剣を動かし円を描く。さながら斬撃を押し除けるように打点をずらし斧を地面に目掛け振り下ろさせると共に。


「そして遅い!」


「ぐべぇっ!?」


蹴り抜く、その胴体を。だが構成員は次々やってくる。


「抵抗するな!苦しんで死ぬだけだぞ!」


「死ねだの死ぬだのと!お前らの親御さんはどんな道徳叩き込んだんだ!」


迫る刃は無数。白刃の波が押し寄せる、それらを捌く。槍を弾いて剣の腹で顔を叩き抜き、相手の剣を挟んで断ち切り、そのまま柄で脳天を叩き抜く。


右へ、左へ、体を揺らすようにステップを踏み全身の勢いを利用し二本の剣を操り、次々とやってくるおかわりをぶった斬る。


「く、なんだこいつ!こいつも強いじゃないか!」


そして、十人くらい斬ったくらいかな。人混みの向こうで銃を構えるのは髭面の男…そいつがこっちを狙いながら引き金に指を当て。


「ッ…!」


即座に俺は机の上からフォークを取って、そのまま剣を振るう要領で投擲…。


「ぐぅっ!?」


銃を男の肩にフォークが突き刺さり、のけぞった男は銃を天井に向けてぶっ放してしまい、そのまま衝撃で後ろに転がり倒れる…よしよし、危ない危ない。


「やっぱそう使うんだな、フォーク」


「違う!断じて!」


今のは緊急事態であって…なんて説明してる暇ないか!


「バシレウス!ここにいたらやりづらい!外行こう外に!」


「そうだな!」


そのままバシレウスは窓を突き破り外に出てしまい…って出入り口が近くにあるんだからそこから行けばいいのに!ああもういいや!


「で!こっからどうするよ!ステュクス!」


「え!?」


俺もまた窓から外に飛び出すと、既に外で待機していた黒服をバシレウスが片付けており、その上でこう聞くんだ…どうするって。


(え?考えなんかあるわけないだろ、俺が始めた喧嘩じゃねぇぞこれ)


じゃあバシレウスが考えているかと言うとそうじゃない、こいつは大方俺がなんとかすると思って勝手に喧嘩始めたんだろう。やってくれるよ本当に…しかしどうする?まずそもそも敵の規模感がわからない。


(街全体が敵の追っ手…ってわけじゃなさそうだ)


周囲を見回すと俺達の戦闘を見て逃げ出す民間人が見て取れる、つまりこの街は敵に占領されてて住人全員敵です!ってとんでもないことではなさそうだ。だが……。


『こっちだ!いたぞ!』


(次々来るな…)


大通りの奥から新たな増援がやってくる。全滅させるまで戦おうと思ったら結構時間がかかりそうだ、そして時間をかけたらコルロ達が来るかもしれない…!


「よし!退却しよう!」


「はぁ!?なんで!折角戦い始めたのに!」


「キリがない!このままこいつら振り切って…どっかで馬を手に入れて一気にこの街から離れる!」


「馬?俺のが早いぜ」


「じゃあお前俺のこと抱えて走ってくれんのか!?くれないだろ!いいから行くぞ!」


俺が走り出せばバシレウスも一緒に走り出す。さて…馬を手に入れてと言ったが何処で手に入れる。行商から盗むか?出来れば犯罪したくねー…あ!そうだ!


こいつら!モンストロ!多分コルロから命令を受けてそんなに時間が空いてないはず。なのにこれだけいるってことは何かしら移動手段があるはず…それを奪うか!こいつらからならいいだろ!だって敵だし!


「モンストロから馬を奪おう」


「あ?そんなもん行商から奪えば……おい」


瞬間バシレウスの低い声が響き、その手が俺を掴み。


「周り見ろ」


「ぅげっ!?」


そのまま俺の頭をぐいっと下げる。何すんだと言いたいところだが…次の瞬間俺の頭があった地点を何かが通り過ぎ……。


「チッ、避けられたか…!」


「ッなんだ!?」


刃だ、通り過ぎたのは刃。そして俺達の頭上を飛び越え目の前に立ち塞がるのは巨漢…黒い外套の下に青い鎧を着込んだ髭面の巨漢がその手にこれまた巨大な戦斧を背負い、道を阻む。


「我が名は大喰のモンストロが頭領!鋼斧のオグロ!コルロ殿の命により貴様らの素っ首跳ね飛ばす!」


「へっ、ようやく強そうなのが来たじゃねぇか!」


「問答……」


そしてオグロと名乗った巨漢は頭上で大戦斧を振り回し…。


「無用!『大怪巌斬』!!」


「よッと!」


一撃、凄まじい速さの斬撃が薙ぎ払われる、魔力衝撃を併用した爆発により加速し、着弾と共に再び衝撃を放つ二段構えの魔力闘法。それをバシレウスは腕をクロスさせ防壁で受け止め…。


「おらお返しだッ!」


「ぐぬぅっ!」


返しの一撃は蹴りにて放たれた。バシレウスの蹴りがオグロの腹目掛け放たれるが…。


「なんと重い一撃!セフィラの名は伊達ではないな!だが!ここは譲らん!」


「部下が雑魚の割にはやるじゃねぇか!」


持ち堪える、オグロもまた分厚い防壁を構築し蹴りを防ぐ…が、その防壁すら叩き砕かれ、口から血を吐く。それでもまだ倒れないオグロは斧を振り回しながらバシレウスに迫る。


強えなこいつ!結構やる!バシレウスじゃないが部下が雑魚なだけでこいつは結構なもんだ!


助けに入った方が……ッ!?


「うぉっっ!?」


即座に飛び出す。地面を蹴って前に飛び出せばさっきまで俺が居た地点に無数の弾丸が降り注ぎ…。


同時に、近くの民家の壁が穴だらけになり…中から影が現れる。


「『銃火砲のアイゼン』が総指揮官!シメール参上!お命頂戴!」


「新手!?」


現れたのは黒い軍服もどき着込んだロン毛の男。サングラスをかけまるで海藻みたいにダルダルのロン毛を首の振りで避けつつ、右肘から先に改造して取り付けられたと思われる巨大なガトリングガンをこちらに向ける。


新手が来やがった!いや…アイツだけじゃない!


「ヴォォオ!!!ペンダントを寄越せぇぃっ!」


「チッ!!」

 

再び飛び上がり、突如上から降り注いだ巨大な拳を回避する。見ればそこには上裸のムキムキマッチョの大男がいた。スキンヘッドにチクチクなヒゲ、まるでワイングラスみたいに上半身だけが野太い男は胸に刻まれた髑髏の刺青を誇るように胸を張り。


「手柄はこの『悪逆跋扈會』の会長!クラニオ様の物だ!邪魔する奴も逆らう奴も皆殺しにしてやる!!」


「また来やがった!」


腕が銃になってるシメールに、筋肉巨漢のクラニオ…どっちも魔女排斥組織のボス貼ってる奴だ。見た感じ冒険者協会の三ツ字…その上位レベルの強さか、或いは四ツ字に踏み込むかもしれないレベルだ。


つまり弱くない!それが二人も…。


『二人どころではないぞ!ドンドン集まってくる!気をつけえい!ステュクス!』


(分かってる!あちこちからでかい魔力が寄ってくる!)


クラニオとシメールだけじゃない、同じレベルのやつがこっち目掛けてドンドンやってくる。どんだけ来てんだこの街に!


やばいか、この人数差は──。


「ぐはぁっっ!?」


「うぉっ!?」


その瞬間、目の前に転がるのは全身の鎧をベコベコに凹まされ、顔が原型がなくなるまで殴られたオグロと…。


「食後の運動にゃ丁度よかったぜ」


その上に座り込むバシレウスだ、しかも無傷…こいつ全然余裕だな。相変わらず戦闘能力はエゲつないくらいあるな…これならいけるか!


「バシレウス!突破しよう!」


「ハッ、置いていかれんなよ」


そのままバシレウスは両拳を握りしめ────」


「グッ!?」


「あ?」


瞬間、衝撃が走る。バシレウスじゃない、俺だ。バシレウスの方に注目しすぎて後ろから迫る攻撃に気が付かなかったんだ。まるで後ろから突き飛ばされるように転がる俺が見たのは……。


「隙あり!やった!見た見た?みんな見た?私がやったよ!アイツ撃ったの!『千人弓』のセントーがやったよ!」


セントーと名乗る女がいる。金髪を後ろで束ね獣の皮を服に仕立てたような無骨なドレス。そして巨大な弓を携えたセントーという女が俺を撃って来やがったんだ…けどおかしいな。矢なら普通突き刺さるだろ…なのに俺の背中にゃそんなもん刺さって。


『ステュクス!上を見ろ!』


「え!?」


ふと、上を見ると…そこには。黄金の翼を広げる巨大な矢が旋回しており…ってまさか!これか!今俺を吹っ飛ばしたヤツ!セントーが撃ったのって…あの矢か!


「うふふふ!私の『イーグルアロー』はどんな物でも穿ち抜く!」


『なるほど、弓使いなんぞ珍しいモンが湧いて出たと思ったら。どうやらヤツは魔術杖を矢の代わりとして打ち出し、それを魔力でコーティングする事で自由に操っておるようじゃ』


(つまりどう言う事だ)


『距離制限なし、どこまでも飛んでいく魔力の塊がお前を狙っとると言う事じゃ!』


(なんじゃそりゃ……ん?)


ふと俺は懐に違和感を感じて手で探る。すると…ない、やはりない。ないぞ!ない!


「ペンダントがない!まさか…!」


頭上を再び見上げる、すると空を飛ぶ光の矢、その先端に引っかかっているのは…間違いない!バシレウスから預けられたペンダントだ!


「言ったでしょ、私の矢は何をも穿つ。君のペンダントもーらいっ!これでコルロ様に褒めてもらえるぞ〜!」


「て、てめぇ!バシレウス!ペンダントを奪われた!」


「チッ、迂闊なことしてんな!」


その瞬間バシレウスは転身し、空高く飛び上がり光の矢を奪おうと手を伸ばす。


「そいつを返せ!!」


「あはは!無駄無駄!」


しかし如何にバシレウスとは言え、足場のない空中では空を自在に飛び回る矢を相手には何も出来ない。矢は翼を動かし急加速し、伸ばした手は空ぶって、逆に空中で翻弄されたバシレウスは矢の突撃を受けて吹き飛ばされる。


「ぐっ!速え…!だが!」


バシレウスは突撃を受けてもなお空中に押し止まる。足から魔力を放ち同じく加速し矢を追いかける。それでも矢は止まらない、セントーが矢を自由自在に動かしてバシレウスを巧みに振り払う。


「あははははっ!空で私に勝とうなんて百年早いよ!そーれそれ!そのまま撃ち落としてやる!」


セントーがいる限り矢は止まらない、バシレウスさえも出し抜く巧みな操作を見せ矢を動かし……って!


「俺を忘れんなッッ!!」


「ぎゃぶーっ!?」


突っ込む、蹴り飛ばす。セントーを、バシレウスに集中していたこのアマは俺に気がつくこともなく容易く蹴り飛ばされていく。


「バーカ!弓師が矢を番えないでどう戦うんだよ!」


「きゅう……」


セントーの弱点は一つ。矢が一発だけってことだ、そんでもって動かす矢を凝視する為に上を見続ける必要がある……そんなの狙ってくださいと言ってるようなもんだ。


「おお!?」


しかし、セントーの制御のなくなった光の矢はクルクルと回転し暴走を始め、突如地面に向けて飛び始めた。そしてペンダントを引っ掛けたまま地面に激突し炸裂。その勢いでペンダントが跳ねて……。


「ステュクス!!それ!取れ!」


「ッ無茶言うよ!!」


空中に跳ね上がるペンダントを確保しろと空から叫ばれ、俺は一も二もなく走り出す。しかし、俺よりペンダントの近くにいたのは…。


「取ったァァッッ!!」


「げッ!」


筋肉巨漢のクラニオだ、ペンダントを巨大な手でキャッチし勝ち誇る…けど。


「馬鹿野郎ッッ!それ取らなきゃ俺が殺されるだろうがッッ!」


「ガハッ!?」


星魔剣から魔力を噴射し加速すると同時に石突でクラニオの鳩尾を打ち抜き、クラニオの手からペンダントが落ちて地面を転がる。

よし、あれをそのまま確保すれば…!


「ヒャハハハハハハハハ!」


「チッ!」


しかし、横槍が飛んでくる。シメールだ、腕に備え付けたガトリングガンを俺に向けて乱射し撃ち殺そうと暴れ回る。それを星魔剣から展開した防壁で防ぐが…足が止まる。ガトリングガンの勢いが凄まじい。動けな──。


「なにすんだこの野郎…!」


「ゔげっ!もう起き上がって───ぶふっ!?」


背後で立ち上がるのは先程殴り飛ばしたクラニオだ、前面に向けて防壁を展開する俺を背面から殴り飛ばし俺の体が吹き飛び、家屋に叩きつけられ、瓦礫に埋まる。


やばい、手が足りない。


「よくやったステュクス!」


しかし、その隙を突いてバシレウスが地面に降り立ちペンダントを確保する為に走る。クラニオもシメールも俺に集中している。今なら取れるとバシレウスは凄まじい速さで地面を駆け抜け…ペンダントに手を伸ばし。


「っな!?」


が…その前に、ペンダントを取る者がいる。それはゆっくりと歩み出し、白い霜を伸ばし、大地を凍らせながら現れ…足元のペンダントをゆっくりと拾い上げる。


「これ、君の?もらってもいい?」


「ッテメェ!リューズ!?なんでここに……」


「無論、追いかけてきた、勝負しよう」


見知らぬ男だ、白いパーカーを被った謎の人物、飢えた狼のような雰囲気を身に纏う青髪の男が何処からともなく現れ、ペンダントを無造作にポケットの中にしまい込み、そのまま拳を握り。


「今度は負けない!やろうよ!バシレウス!!」


「それ返せやッッ!!」


激突する、バシレウスとリューズとか呼ばれた謎の男の拳が。だが変わらない、どっちも引いてない…互角だ。嘘だろ、あのバシレウスと真っ向から打ち合える奴が敵方にいるのかよ!?ヴァニタートゥムの幹部か!!


「チッ、やべぇ……」


バシレウスがいるならなんとかなると思った。思っていた。けど違う、リューズとか言う奴の存在で完全に目論みが狂った。バシレウスが動けなくなった以上俺がなんとかしなくちゃいけなくなった…けど。


「チッ、なんだあいつ…リューズ?あんな奴俺達の陣容にいたか?」


「さぁね、けど味方みたいだ…なら、こっちはこっちの仕事を終わらせよう」


「だぁな」


「グッ……」


迫るクラニオ、シメール、それだけじゃない。無数の幹部やボスと思われる連中が俺を囲む。出来上がるのは敵意と人の壁。外に逃げる道を完全に閉ざされ、俺は上に乗った瓦礫を押し除ける。

連中の目的は二つ、ペンダント或いはバシレウスの確保、そして多分…俺の抹殺。ペンダントを持たなくなっても俺は引き続き狙われる。


まずいか…!せめて、せめて……。



「せめて、もう少し味方がいたら……今そう考えたかな?」


「は?」


瞬間、背後から声が聞こえた…そう理解し振り向こうとした、その時だった。


突然、後ろから飛び出した二つの影が高速で駆け抜け、クラニオとシメールを吹き飛ばし、俺の前に立ったのだ。


味方?援軍?でも俺に味方なんて……いや、こいつら。


「ふぅ、懐かしい顔ぶれだねぇ…ヴァニタートゥムのところの雑魚軍団だっけ?大したことなさそうじゃん」


片方は、ピンクの髪を後ろに伸ばし、黒光りするジャンパーとジーパンでボディラインを表した女…。


「もう少し持ちこたえて見せろ……」


もう一人はメイドだ、黒髪で長身、野暮ったいメイド服の上からでも分かる鍛え抜かれた体…。


「誰っすか!!」


「アナスタシア!君の愛する陛下の駒使い!」


「コーディリア、お前を守るよう依頼を受けたんだ。勝手に死ぬな」


「レギナから!?」


アナスタシアにコーディリア…?いやそもそもこの人達誰?こんなのマレウス王国軍にいなかったよな…ん?コーディリア?どっかで聞いたことある名前な気が…。


「案ずる必要はありませんぞ」


「え?」


ふと、肩に手を置かれ振り向く。まだ一人いた、俺の後ろにいたのは…でっかい体、ムキムキの筋肉を惜しげもなく晒す上裸の格好、顎から生えた白いヒゲ…そしてつるっぱげの頭。


あ、そいつは知ってる……。


「我々はお前の味方だ」


「お前!悪魔の見えざる手のムスクルスじゃねぇか!!」


ムスクルスだ、筋肉法師のムスクルス!デッドマンと一緒にいた奴!!なんでこいつがここにいるんだよ!?と言うか…どう言う状況だこれ!!

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! ステュクスを待ってくれるバシレウス。バシレウスは気絶していてステュクスの手練手管を見ていなかったですが、ステュクスがヴァニタートゥムから命を狙われているというのは状況から…
バシレウスの教育が進んでいく。 リューズはやばいな。今のところはバシレウスに執着してるから問題ないと思ってだけど、今はバシレウスでも負けそう。 ステュクスお助け隊+α到着‼︎ とはいえ現状の敵のパワー…
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