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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十九章 教導者アマルトと歯車仕掛けの碩学姫
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698.魔女の弟子と前を向いて歩くか


『ウィナーテイクオール!勝者総取り!それが世の摂理だろう?』


クルシフィクスはただただセラヴィの語る正義…勝者こそ全てであると言う理論を信じて歩いてきた。


勝った者が決定権を持つ、勝った者が前へ進み、勝った者が次を作る。世界はそうやって回る、知識を得て他の動植物と異なり理性を獲得してなお人類は獣と同じ生存競争を行なっているのだ。


だから、勝ってきた。一介の平社員から始まり自分の一つ上にいる人間の襟を掴み振り落とし、煩わしい奴の金玉握って言うこと聞かせ、弱みに漬け込み失態を挙げ列ね徹底して勝ってきた。


そうして手に入れたのが専務取締役という地位である。そしていつかはセラヴィそのものさえも叩き落とし…この会社の頂点に立とうと考えていた。


そう、あの時までは。


『なぁ、お前もそう思うだろう?ウィナーテイクオール…いい言葉だ』


「ッあ…う……は、はい…」


足元に広がる血の海、硝煙を上げる銃口、けたたましく泣き喚く子供、そしてそれを見て一仕事やり遂げた顔をしているセラヴィの顔を見て…クルシフィクスは認識を改めた。


セラヴィ・セステルティウスという男はただの会社員じゃない…この男は立派なマフィアであり、自分の属している会社は暴力的な組織なのだと。


今目の前で行われたあまりにも非道な行いに絶句しながらもクルシフィクスは感じた、自分の認識は甘かった。セラヴィという男を見誤った。


何より……勝利するとはどういうことなのか…それを受けたクルシフィクスは。


(この人に永遠についていこう…!)


心酔した、セラヴィという男の容赦のなさと勝利に貪欲な姿勢は人のあるべき姿であることを。社会構造が獣の生存競争と同じならばセラヴィの在り方は正しいものだ、セラヴィの行いは人が人である限り正しさが担保されるものだ…なら、私は正しくありたい。


絶対不文律の正義…私はそれに憧れた、だから彼への恭順をこの日示した。


それからずっと、私は誰にも振り落とされないよう…ひたすらにセラヴィを支え、彼の正義の遂行のために生きていくことを選んだんだ。


「うわぁああああああああああ!!」


「…………」


ふと、血に沈む女の方に目を向ければ、子供が泣いていた。セラヴィが見る先にいるのは…その子供だけだ。この時私はこの子供が誰で…この女がなぜ殺されたかの理解していなかった。


でも…。


「ゔぅ…あぁあ…ぐぅ…お前らァッ…!!」


「ッ……」


まだ年端もいかない子供が、女の亡骸の手を握りながら…こちらに向けた狂気の視線を受けた時、私は…。


「お前らァッ!!!お前らは死んでも許さんッ!!お前らだけは絶対許さんッッ!!覚えとけやお前らッ!いつか必ず…オレがお前らのことぶっ殺したるからなァッッ!!!」


恐怖した、子供がこんな目をするのかと…恐怖した。そして同時に…セラヴィが何故、ここまで嬉しそうな顔をしているのかも、わからなかった。


あの時の子供は結局…誰だったんだろう。


…………………………………………………………………


「フンッッ!」


「危ねぇッ!」


一閃、横薙ぎに振り払われた蛇腹剣の斬撃をスライディングで回避しながら俺は落とした黒剣を握りしめ体を回し転がりながら受け身を取る。


危ねぇ〜真っ二つにされるところだったぜ。しかし恐ろしい話だよ…こいつ全然容赦ねぇんだもん。


「随分な剣の腕前だな、最近の商会は剣術習得の有無も履歴書に書くのかよ…専務さんよ」


「己の身は己で守る、我が社は弱い者には福利厚生は発生しないので」


「それ福利厚生の意味ないだろ」


メガネをクイっと整える美麗な女商人…白スーツの女クルシフィクスは蛇腹剣を片手に俺を逃すまいと立ち回る。そいつを相手に…俺は一人、黒剣を握る。


俺は囚われた仲間を助けるためエリスと一緒にこのパラベラムの本拠地に乗り込みセラヴィに手出しをしないと言う盟約を取り付ける事に成功した…がしかし、喜ぶ暇もなく現れたのは専務取締役のクルシフィクス。ラセツ曰く自分の次に強いと言う強者のクルシフィクスが襲いかかり俺とエリスは逃げたんだが…トロいアマルト君は一人この部屋に取り残されてしまったわけだ。


エリスもエリスでさっきから向こうで誰かと戦ってるし、この場は俺一人で切り抜けるしかないな。全く…助けに来てこのザマとは情けないぜ。


(なんて余裕ぶってる暇はなさそうだな…こいつクソ強いぜおい)


俺は今まで数多くの敵と戦ってきた、そしてその大体が格上だった。そんな俺から見てもクルシフィクスは別格の強さだ、ラセツ曰くエアリエルやガウリイルと同格だってんだから…泣きたくもなる。


エアリエルと言えばエリスが死に物狂いでなんか倒した怪物、ガウリイルはラグナがズタボロになりながらなんとか勝った達人。対する俺は…まだ完全に覚醒出来ていない半端者、それが勝てる相手か?いや勝つしかねぇんだけどさ。


「ふむ、さっきから色々考えているようですが…当てて見せましょうか」


「え?」


「私の実力はエアリエルとガウリイルと同格、その二人は貴方達魔女の弟子の主力級の戦力で倒せた強者。それと同じレベルの奴を相手に果たして自分は勝てるのか、いや勝つしかない…ですね」


「え…いや……違うけど」


「正解のようですね、全て…貴方の顔に出てますよ」


マジかよ…こいつ思考が読めるのか…!?いや、多分違う。予測だ、予測してるんだ。


こいつは俺達がエーニアックに向かうことをなんのヒントもなしに導き出した天才だ。相手の顔見て考えを読むくらい朝飯前か…いや、いやいや。


(やばすぎだろ……)


「ええ、やばいですよ…貴方はここで死ぬのですから!」


瞬間、振るわれる斬撃が線を引くように地面を切り裂き壁を断ち天井にまで及ぶ…そんな一撃を前に必死に足を動かす、止まれば捕捉される。足も頭も…常に動かし続けるんだ。


「私は効率というものを愛しています。経理や経営、人事に輸送…万事万象には効率という概念が存在する」


クルシフィクスはその場から一歩も動かない、ただ右へ左へ手を動かして斬撃を飛ばすだけ、ただそれだけで追い詰められているような錯覚を味わう。


「ならば今貴方のように無駄に足を動かして体力を消耗するのは効率が悪い。そういう意味では…この蛇腹剣は非常に良い。私好みです」


「割とニッチな武器だと思うけど…?そんなに効率がいいならみんな使ってるだろ」


「銃の名手に剣を持たせるバカがどこにいます?剣の達人に魔術を使わせて何が得られます?世の中には適性というものがありそれを考慮しない人材配置や業務改善は無駄の極みです…即ち、私のスタイルに最も適しているのがこの武器なんです」


「スタイル…?」


ギラリとクルシフィクスのメガネが輝き、俺の方を向く…やばい、何か来る。そう感じた瞬間のことだった。


「貴方の動き方は理解しました、そろそろ処理を始めましょう…『エペルヴィエ・オンデュラシオン』」


手首にスナップを効かせ再び蛇腹剣が振るわれ俺に向けて飛んでくる、けど…今までと同じだ。これもまた横に飛んで回避を────。


「えッ……!?ぐぅっっ!?」


飛んだ、俺は確かに飛んだ、飛んで射線から外れた…はずなのに、今振るわれた蛇腹剣は俺の左太腿に突き刺さっているんだ。


舞い散る鮮血を前に頭がグルグル回る、回避したはずの攻撃が何故当たる、何をした…アイツは!


「クソッ!」


「無駄ですよ」


咄嗟に蛇腹剣を引き抜きステップを刻んで逃げるが…再びクルシフィクスは剣を振るう、また同じ軌道、だが今度は刃から目を離さない。


振るわれた蛇腹剣は法則に従って真っ直ぐ飛ぶ、俺の横をすり抜け真っ直ぐと…しかし。ある一定の段階まで伸びた瞬間…ガキン、と音を立てて蛇腹剣が虚空で弾かれ俺の方に飛んできたのだ。


蛇腹剣が途中で方向転換しやがった……!!


「そういうことかよ!!」


剣で蛇腹剣を弾くが、明後日の方向に飛んだ刃が再び金属音を鳴らしこちらに向けて飛んでくる、それを切り払ってもまた追いかけてくる、追尾してくる。


間違いない…これは。


(魔力闘法か!)


恐らくクルシフィクスは空中に無数のシャボンのような小さな魔力球を配置してるんだ。それに蛇腹剣が当たると魔力が弾けて刃を弾き別の方向に飛ばす、それにより再び加速し方向転換する。


途中で方向転換する理由はそれだ、問題があるとするならこれは予め奴が剣を振るう前にセットしていなければならない事。つまり俺の動きを読んでなきゃ出来ない芸当。


「ご明察、貴方が無駄に動き回ってくれたおかげで回避パターンは読めました。どこにどのように魔力球を配置すればいいのか…私にはもう手に取るように分かる」


「ふざけんな…そう簡単に読まれてたまるかよ!」


追いかけてくる蛇腹剣を前に、逃げる。


「右に避ける」


ステップを刻んで右に飛べば、蛇腹剣は魔力球に弾かれ俺の方に飛んでくる。


「また右、次に左」


咄嗟に右に飛んで、また追いかけてくる。ならばと次は左に飛ぶが…再び弾ける魔力球が刃を弾き…俺の方に。


「上、下、後ろ、左左右剣で迎撃上天井を掴んで跳躍そして右…そこで捕まる」


必死に動いても、何をしても、全て読み切られている。飛んでも走っても剣で斬り払っても奇抜な動きを見せても全て読まれ…そして最後、右に飛んだところで再び刃は俺の左腕を切りつけ、吹き飛ばす。


「ぅぐぅうぅ!!」


「言ったでしょう?私に最適は武器はこれだと。パラベラムの特別製の蛇腹剣、通常の三倍の硬度に五倍の飛距離、そして刃も一瞬で戻る。刃についた汚れはハンカチで拭けばサッと落ちる、しかも今だけデナリウス戦争キャンペーンで通常の三割引き、お買い求めは最寄りのデナリウス武器商会にて」


「ぐっ…いてぇ……ん?痛くない?」


ふと、左腕を見る。さっきは勢いでぶっ飛ばされて頭打ったから痛いと思ってたけどよくよく見てみると…さっき切られた左腕、何にも傷がない。


「あれ?当たってなかったか…のか?」


「いいえ、きちんと当たっています。ただ…今の一撃分は『貸した』だけです」


「貸した……?」


そのまま起き上がりつつ左腕の調子を確かめるが、何もない。傷もなければダメージもない、だが感じる。


呪術を扱うからこそ分かる、体内に残る異様な魔力を。自分の物とは違う何かが…俺の体内に残っている。今の一撃でそれが俺の中に刻み込まれたんだ。


何かされた…間違いなく。


「これは私の主義ですので、ご説明いたします」


するとクルシフィクスが蛇腹剣をクルリと自分の手に絡めながら鞭のように伸ばし…俺を見遣る。


「私、これでも古代魔術を嗜む物でして。現代では失伝している契約魔術『ケッテフェアトラーク』の使い手です」


「契約魔術だあ?なんか…嫌な予感がするんですが」


古代魔術ってのはあれだよな、現代魔術と古式魔術の境目。より一層古式魔術に近い…今の現代魔術より一層魔術的な、言ってみれば現代魔術以上になんでもありの魔術。そもそも古式魔術そのものが矢鱈滅鱈なんでもありな物なんだ…それに近しいってだけで強力な効果になるってデティが言ってた。


「私は私の攻撃に『代償』と『代価』を纏わせる事ができる。私は代償として…今の一撃分のダメージをなかった事にします…代わりに、貴方には利息を払ってもらうのです」


「利息……ッ!?」


ふと、傷がつかなった左腕を中心に、鈍い痛みが全身に回り始める…これは、まさか利息って。


「ええそうです、十秒で一割…一分と四十秒で十割、三分と二十秒で二十割、分割されたダメージが貴方に発生します。つまり貴方はこれから私が何もしなくとも利息に押し潰されて死ぬのです」


「ま、マジかよ…」


「今の一撃は左腕を貫通していました、その失血量と身体にかかる負荷、そこから導き出される無効化分のダメージから考えるに。恐らく貴方は五時間後には死に至るでしょう。


なんじゃそりゃあ!ってかまるっきり呪術じゃねぇか!相手に魔力を叩き込み、体内で魔術を成立させ続ける。呪術のようだが、俺に効いてるってことは根本の術系統は別か?だとするとヤベェな…これ自力で解く方法がないぞ…ってことは。


「ええそうです、私を倒す以外にこれは解除されません」


……これか、これがラセツの言ってた『相手がなんか死んだ』って奴の正体か。面倒なもん貰っちまった…!


「……ん?なんですその表情は、まさか貴方私の魔術を事前に誰かから聞いていた?……ポエナが吐いたとは思えない、とすると…まさか貴方をここに導いたのは…おっと!」


「ッテメェ倒すしか、生き残る道がねぇんなら、やるしかねぇよな!」


瞬間、刃で空を撫でるように一閃。クルシフィクスに斬撃を加えるが、奴は蛇腹剣を正剣に戻し軽々と斬撃を受け止める。


「貴方は何か勘違いをしているようですが、私は何も遠距離からチマチマするだけの技しか持たないわけではありませんよ…貴方程度の斬撃なら、容易に受け止められます。そして」


クルシフィクスが手に力を込める、全身から魔力が溢れる、魔力遍在だ。魔力を肉体に行き渡らせ頑健にして強靭なる力を得る方法。それにより剛力無双の力を得たクルシフィクスは逆に俺を弾き飛ばし…。


「私の契約による貸しは乗算式、ダメージを与えれば与えるほどに貸し分がどんどん増えて利息が増加する。死のタイムリミットがどんどん近づいていきますよ!」


「ちょっ!?」


弾き飛ばされた瞬間空間に藁を敷き詰めたように無数の斬撃が飛翔する。その間を飛び回りながら回避…するけど、こりゃダメだ。このまま行ったらまたすぐ捕まる!奥の手とかなんとか言ってる場合じゃねぇ!


「ビーストブレンド…!」


「おや…?」


ベルトから血液のアンプルを取り出し口に含みながら…使うのは変身呪術。扱うのは魔獣の血、全身が黒く染まり筋肉が隆起し黒血剣が紅に染まる…これで。


「一気に突破する!」


「なんと!変身を!これは想定外です」


魔獣の動体視力なら飛び交う蛇腹剣の斬撃も回避出来る。見える、隙間が…クルシフィクスに通じる一直線の道、それを見切ると同時に足に力を込め大地を踏み込み踏み割り粉砕し、一気に加速し拳を握る。


「こいつで貸し借りナシだッッ!!」


振るわれる拳が紅の血を纏いクルシフィクスの顔面に迫り、そのムカつくニヤケ面を殴って飛ばして押し出して──────。



「ですが……」


「え…ッ!?」


否、止まる。拳が止まる、クルシフィクスの目の前で拳が止まる…何かに阻まれて止まる。何かってなんだ、考えるまでもない…防壁、いやでも感触がおかしい。


魔視眼で見ればそれが分かる、…魔力弾だ、細々とした魔力の塊がクルシフィクスの周囲に浮いている。そいつで俺の拳を防いていたんだ。


「貴方の行動は予測範囲内です、所詮…貴方は迂闊な行動しかしない」


「ッこいつは……」


「ええ、特殊防壁…私の泡沫防壁は防御能力は低いですが、代わりに…」


泡の膜が薄くなる、そしてやがて薄くなった膜は虚空に消えるようにパッと弾け───。


「…爆発します」


……鳴り響く轟音。泡の中に詰められた魔力が爆発し衝撃波を発生させる、それが一つ二つではなくダース単位で発生するんだ。いくら魔獣の膂力でも受け止めきれず…吹き飛ばされる。


「ガッ…ぐぅ……」


「その分も貸しです。利息分も増加したので…そうですね、貴方の寿命は残り二十分程度にまで減少しました」


壁に叩きつけられ、ぐったりと項垂れるが…ない、体に傷が…。さっきの爆発分のダメージも貸し扱いにされたようだ。ヤベェ…十秒ごとに今までのダメージの一割分が体の中で暴れ始めてる…マジで死ぬ。


けど……。


「ッ…けど、まだまだ動けるぜ…ダメージ自体はないからな…」


今の分のダメージがなかったことになっているなら、まだ動ける。壁から体を引き抜きクルシフィクスに剣を向けるが…。


「そうですか、では余生を楽しんで」


「え?おい!」


俺が剣を向けた時には既にクルシフィクスは俺に背を向けてその場から立ち去り始めており、壁に手を当てると…壁に穴が開き、その中に入り込んでいた。


「お前どこにいくんだよ!」


「レーヴァテインの殺害です」


「は?はッ!?なに言ってんだお前…!」


殺す?なんで殺すんだよ、お前らはあいつが必要なはずじゃないか…なのになんで。そう聞いているのにクルシフィクスはなにも答えず首を振り。


「問答する気はありません、ああ勿論…この専務専用エレベーターは私にしか使えません。貴方はここで…一人で死んでいてください」


逃走だ。俺に貸すだけ貸して…後は俺が破産するのを待って、自分は別の場所で別の仕事をする。効率という二文字が浮かぶ程に残酷で冷淡な判断。咄嗟に俺が追いかけるも時既に遅く……。


「ま、待ッ……」


「では、楽しんで?」


扉が閉まる、クルシフィクスの気配が凄まじい勢いで遠ざかっていく…逃げられた。逃げられたのに、体の中で巻き起こり始める痛みはどんどん増幅していく。


こ…これ……。


「どうすりゃいいんだ……」


俺が死ぬまで、残り二十分。そんな中唯一助かる方法であるクルシフィクスの撃破が…事実上困難になった。その事実を前に俺はただただ愕然とするのだった。


……………………………………………………………………


「ハハハハァーッ!どうしたどうした!その程度かな魔女の弟子ィッ!」


「チィッ!厄介な奴だなお前!」


空中を何度も行き来きする蒼光の刃を前に攻めあぐねるラグナは舌打ちと共に身を翻す。全てを見通すデキマティオの放つ蒼光の刃は防ぐことは出来ない、物理的な影響を持たず直接相手に痛みを与える性質を持つ…故に避けるしかないが。


「そら見えているぞッ!」


「ガッ!?グッ……!」


飛んだ瞬間を狙われ足先に刃が通過する。ただそれだけで全身に痺れるような痛みが走り頭に釘を刺されたような感触が迸る。たとえどんなに素早く避けても見切られる、攻撃に出ることが出来ない。


(やべぇ…みんな思ったより苦戦してる)


チラリとラグナは痛みを振り払いながら周囲を見る。既に皆幹部と戦闘しているが、戦況は芳しくない、ここから逆転するには相当なきっかけがないと無理だ。


「オラァッ!!!」


「ぐぅっっ!!」


ネレイドは師範の猿真似をするクルレイによって痛めつけられながらも膝を突かず戦い続けている。


『全部全部踏み潰してやるぅううううう!!』


「ナリア!」


「くっ!こいつ強いですよ…!」


ナリアは巨大な工場と化したベスティアス相手に攻め時を見つけられず覚醒すらさせてもらえない状態で戦い、メルクの援護でなんとかなっている状況。


このままじゃジリ貧だ…一旦体勢を整えたい、だが一体どうすれば……!


「フハハハハハ!見える見える!未来が見える!私の目は全てを捉えているぞ!演算結果から見るにお前達はあと十数分で全滅する!」


「フンッ、ウルセェな…テメェが見た通りの未来になんかなるわけねぇだろ」


「なるさ、この目は凡ゆるを識るのだから…我が見識は絶対だ!この未来は絶対に変えられない!」


「チッ!」


振るわれる蒼光の刃を回避し飛び退く…と同時に刃が急激に伸び俺の右肩を貫き、再び全身に鋭い針が突き刺さるような痛みが渦巻き、激痛に足が止まる。読まれてる…動きが、マジで未来が見えてんのかよ。


「無駄だ、例え視界外であって私は未来を感じて動くことができる。私を倒す事は不可能、勿論…逃げることもな」


「ッ……」


「フフフ、この力があれば無敵だ!私は無敵だ!誰にも負けない!!私こそが最強になったのだ!アハハハハハハハッ!!」


攻撃が…動きが、全部読まれるんじゃやりようがない。どうすりゃいいんだこれ……ん?


なんか聞こえる…。この耳が何かを捉え俺は周囲を見回す、何か聞こえる、風を切るような音が…これって。


「フハハハハハハハ!アハハハハハハハッ!このまま切り刻んで殺して─────」


……その時だった。ゲタゲタと笑うデキマティオの真横から…風を切って、音を裂いて、凡ゆるを置き去りにする飛翔を行い、何かが突っ込んで来たのは。


それは、矢のように鋭く飛びながら足を突き出し、デキマティオの横顔に突っ込み……。


「──やるわァッぶげぉぇっ!?!?!?」


変形するデキマティオの顔面。錐揉みながら吹き飛び壁に激突し上半身が埋もれ、舞い上がる土煙の中露出した足がヒクヒクと揺れている…そんな中、デキマティオを吹き飛ばしたそいつは拳を握りながら牙を剥き……。


「テメェッッ!エリスの旦那様に何やってんだゴルァッッ!!」


「エリス!」


「ラグナ!助けに来ました!」


エリスだ、やはりと言うなんと言うか…来てくれた!エリス!助かった…と思うと同時に情けねぇぜ、嫁を死地に赴かせるなんて旦那失格だ。


「っグッ!?なんだ!何が起こった!?」


デキマティオは体を壁から引き抜きながらキョロキョロと周りを見る、そしてエリスをその蒼い機械の目で捉えるとギョッとして。


「な…なんだ!?奴の動きが見えん!と言うか未来演算が効かなくなった!?壊れたのか!?そんなバカな…いや、あいつが現れた瞬間未来が完全に不確定になった!?なんだそれ!くそッ!何者だお前は───」


「黙らんかいッッ!!」


「ぐぼばぁっ!?」


デキマティオがなんかギャーギャー騒いでいたがそれを態々聞いてくれるほどエリスは優しくない。近くの瓦礫を手に取り全力で投擲しデキマティオの顔面に叩きつけ…気絶させる。すげぇ…あんだけ全部読み切っていたデキマティオがまるで動けてなかった。


「ラグナ動けますか」


「体に傷はねぇよ、けど他にも幹部がいる」


「むぅ」


エリスは戦っているみんなとクルレイとベスティアスを見るなり激怒の表情を見せ睨みつけると…腕まくりをして殴りかかろうとする。が、一歩踏み出してから首を振って。


「今それどころじゃありません、一旦離脱しましょう…ラグナ、あれをやりましょう」


「あれ?な…何かな」


「何期待してるんですか!合体技です!」


「合体技?ああ…あれか、面白い。やろうか」


昔エリスと気まぐれで作った大技がある、あれを使えば離脱に使えそうだ…ってわけで俺はエリスの背後に回り、エリスを後ろから抱きしめるような形で構えを取る。


「行くぞ」


「はいッ!『鳴雷招』!」


「『付与魔術・凝固属性付与』!」


エリスが手元で音と光を放つ雷を作り、それを俺が防壁と付与魔術を組み合わせた魔力の膜で覆い隠し、光と音を閉じ込め更に凝縮させた魔力弾を作り上げる。そのままエリスは雷から手を離し俺の肩を掴んでぐるりと俺を飛び越し後ろに周り…。


「任せました!」


「あいよ!全員目と耳を塞げッッ!!」


そしてそのまま魔力弾から手を離し、足を振り上げる。エリスが音と光を用意し、俺がそれを弾にする。そしてそれを俺が蹴り付け射出する一点突破型の合体技。結婚する前は後ろから抱きつくような構えが小っ恥ずかしくて出来なかったが、今ならいける!


これが俺とエリスの合体技!名付けて!


「『雷光弩羅威武』ッッ!!」


エリスは昔、強烈な音と光で怯ませる技を相手の目の前で放つ『びっくりキャット・スタンショック』と言う技を使っていた。されど最近これを使わなくなった理由を聞いてみたところ相手の目の前に近づかなければならず一定の強者を相手にしてはそれも難しい。


なら、これをそのまま射出出来たら強いんじゃないか…と考え作られたのがこれ。俺がエリスの鳴雷招を付与魔術で覆う。球体に変えてそれを蹴り付け敵目掛け蹴り飛ばし…炸裂させる。その爆発力は凝固付与により圧縮された影響で更に強烈に、更に煌々と、更に轟々と響くことになる。


一直線にクルレイとベスティアスに向けて飛んだ雷光弩羅威武は二人の間で一瞬、凄まじい光を放つと共に耳を劈くような雷鳴を拠点中に響かせた。


「ぐぎゃぁああああああああ!」


「なんだこれぇぇええええ!?!?」


「これは…エリス様!」


「エリス!来てくれたか!」


クルレイとベスティアスは音により耳をやられ、光によって目を焼かれ、悶え苦しむ。対する弟子達は俺の事前の呼びかけに反応し目と耳を守っていたこともあり無事…これで動ける!


「みんな!一旦引くぞ!ここでこいつらを倒す必要はない!」


「助かった!デティ!ネレイドを治癒して動かせ!」


「うん!!ネレイドさん動ける!?」


「大丈夫……」


このままここでコイツらと戦って…下手に時間をかけるとラセツが来るかもしれない。ラセツまで戦いに加わったら現状勝てる気がしねぇ。それより今は離脱だ…と言うことで俺はみんなを引き連れ走り出し…。


「メグ!時界門を!」


「畏まりました!では────」


「待って!その前にアマルトさんを呼んでください!彼今敵の幹部と…クルシフィクスと戦ってるんです!」


「クルシフィクス…?誰だそれ」


「めちゃくちゃ強い奴です!今一人で相手してるんです!」


「マジか!メグ!」


「はい!アマルト様ですね!『時界門』!」


どうやらアマルトも助けに来てくれていたようだ。その上戦闘中と来た、ならアマルトを助けてからにしようと俺はメグに頼んで走りながら時界門を作ってもらい、アマルトを呼び寄せる。


空間に開いた穴はみるみるうちに広がり、穴の向こうからアマルトが落ちてきて……。


「ッこれはッ…!メグか!助かっ…ゲハァッッ!!」


「アマルト!?」


穴から落ちてきたアマルトは俺達を見るなり安堵した表情を見せた…かと思えば口から血を吹き出すんだ、滝のように血を吐くアマルトを空中でキャッチし俺は慌てて足を止め…。


「デティ!」


「うん!『ヒーリングオラトリオ』!」


「グッ…くそッ…やべぇ…こんなことしてる、時間ねぇ…!」


口から夥しい量の血を吐くアマルトにデティは慌てて治癒魔術をかけるが…アマルトの顔色が一向に良くならない。と言うかデティも顔色が悪くなっていく…。


「何これ…体の中でダメージが増幅してる!治癒が追いつかない!何されたの!アマルト!」


「ゔっ…グッ…」


「こんちくしょー!私の友達に何したんだ!誰が何を!ッ癒せ!我が手の中の小さな楽園を 、癒せ…我が眼下の王国を、治し!結び!直し!紡ぎ!冷たき傷害を、悪しき苦しみを、全てを遠ざけ永遠の安寧を施そう『命療平癒之極光』!!」


デティの放つ光がより強くなる、アマルトの顔色もかなり良くなるが…それでも苦しそうだ。なんだこれ、毒でも仕込まれてんのか…!?


「これもしかして…クルシフィクスの魔術!?」


「なんか知ってんのかエリス!」


そんな中エリスが青い顔でアマルトの体を触り…悔しそうに歯を食い縛り…。


「クルシフィクスの魔術は、必殺の魔術だって言っていました…ただダメージを受けただけで、時間経過と共に相手が死んだって…」


「聞いた?誰に…いやそんな事は後でいい!デティなんとか出来ないか!?」


「……我、ここに集いたる人々の前に厳かに神に誓わん。一切の傷病を取り除き、遍く未来を守り抜き、歩む力と紡ぐ意志を守護せしめ、光を及ぼす希望とならん事を。癒し、繋ぎ、生かし、活かす。我が魔道は全ての害意を消し去り、ただ我が手に託されたる人々の為に身を捧げん!『救神廻癒之明光』ッッ!!」


そのままデティは杖を大きく掲げ、杖の先端に魔力を集めアマルトの中に叩き込む…するとアマルトの呼吸が落ち着き始める。恐らく継続して治癒する魔力をアマルトの中に入れたんだろう。それで膨れ上がるダメージを緩和したんだ…流石だデティ、と思っているとデティはバッとこちらを見て。


「ごめん!時間稼ぎの対処療法!これなんともならない!」


「デティでもダメなのか!?」


「かなり強く魔力がアマルトの魂に絡みついてる。今も時間経過と共にアマルトの体を破壊しようとする魔力が膨れ上がってる…こんなの聞いたこともないよ」


ごめんと首を振るうデティに事態の重さを感じ取る。デティがなんとも出来ないって事は現代魔術じゃない、アマルトに効いてるってことは呪術でもない…なんなんだこれ。


「む、無理もねぇ…ヤロウ、古代魔術って言ってたからな…」


「アマルト!大丈夫…?ごめん、私の力が足りなくて……」


「別にいい…解決法は聞いてる……、助かったぜデティ」


デティの治癒を受けてフラフラと立ち上がるアマルトは…幽鬼のように立ち上がり、踵を返しどこかに行こうとして…って!


「おいアマルト!どこ行くんだよ!」


「クルシフィクスんところ…ヤロウ倒さなきゃこの厄介な契約が解けない」


「倒さないとって…戦うつもりか!その体で!」


「まぁな、生憎…この体しかないもんで」


「おい!アマルト!」


俺はクルシフィクスの所へ行こうとするアマルトの肩を掴み、…止める。時間がないのは百も承知だ、けど…違うだろそれは。


「お前、いつか俺に言ったよな!一人で抱え込むな、一人で戦おうとするな、みんなを頼れって。なんでお前が一人で抱え込もうとするんだよ!俺を頼れよ…そいつ、行けって言うなら俺…今からそいつぶっ殺してくるぜ」


「いいよ、俺がやりたい」


「なんでだよ!そんなこだわる相手か!」


「いや、別に…ここにくる前に初めて名前聞いたし、ここにきて初めて顔見たよ」


「ならなんで!」


なんで…そんな無茶しようとするんだよ、言っとくけどお前…かなりやばいぞ、あのデティが対処療法だって言うくらいなんだ。時間だってそんなにない…だから早く折れてくれよ。お前の代わりに俺たちが行って倒せばいいだろ。なんでそんな意固地になるんだよ。


お前はここにいろ…そう言いたげな俺を前にアマルトはチラリと肩越しにこちらを見て。


「そいつはな、俺が俺だからさ」


「余るてが…アマルトだから?」


「ああ、俺はさ…捻くれ者でいじけ癖が染み付いてて、誰かに寄り掛からなきゃ真っ当に歩けもしない…嫌な奴さ」


「そんなことない、お前ほどいい奴を俺は知らない」


「へへへ、まぁ…かもな。けどそんな風に言われる俺に慣れたのは…お前らがいるからさ、あの日…学園でいじけて捻くれてた俺に、前を向け…過去に囚われるな。前を見ろと…言ってくれたお前らがいるから、俺は前を見れてる。コイツは…一生の恩だと思ってる」


「アマルト……」


「だから、前見て…教師になれた今は…前を見れてない奴に、今を生きれてない奴に、今を…未来を、前を見せる人間になりたいと思ってる。そして今…前を見れてない奴がいる、過去に囚われて…心の底から笑えてない奴がいる!それを前に…俺が尻すぼみしたら!俺は俺じゃいられなくなる!」


「ッ……」


「クルシフィクスはレーヴァテインのところに行った、始末するって」


「なんでだよ…」


「知らねぇよ、もしかしたらもう黒衣姫を動かす目処が立ったか…必要なくなったか、何にせよ俺はまだレーヴァテインに未来と前を見てもらえてない、俺は教師としてアイツを…」


「違うッッ!!」


叫ぶ、俺は…理性的にも冷静にもなれない。ただ歯を食い縛り…肩越しにこちらを見て、ただ俺に委ねるように黙っている。それを見て俺は…俺は……。


「なんでだよッッ!!」


「……………」


「なんで…そんなこと言うんだよ。……止められんねぇだろうが…!」


「だろ?お前ならそう言うと思ったから、言った」


コイツは今、いつか俺たちにしてもらったように…誰かに未来を…前を見て欲しいと思っている。今を生きてほしいと…全力で思っている。だからレーヴァテインの事を必死に守ったし、あの子に入れ込んだ。


全ては、自分がしてもらったから…してもらった事を誰かに返したいから。そんな風な事を言われたら、止められないだろ。友達がそんな風なこと言ってたら…俺は、俺には止められない。


「つーわけで行ってくる。十分以内に帰るから…待ってろ、誰もついてこなくていい、こいつは俺の戦いだから」


「待ってアマルト、あんたそんなこと言って…勝機はあんの!?今のあんたの体は十分も持たないよ!勝機もありません行き当たりばったりで行きますってんなら私はあんたに一生恨まれてでも止めるよ!」


カッコつけてんな!と涙ながらに叫ぶデティに…アマルトは静かにベルトから一本のアンプルを取り出す…。


「勝機はある、この旅が始まってからずっと…とっておいたブレンドが一つな。最強にして最高…そして一番希少な血のブレンドさ、こいつを使えば多少なりとも寿命が伸びる」


「それは……?」


「こいつの名前は……」


そう言いながらアマルトは、静かにそのアンプルを飲み干し、空になったそれを投げ捨て…大きく息を整えてから歩み出す。


ブレンド…それはアマルトが自身の変身呪術を基礎として、あらゆる生物から血を貰い、それを混ぜ合わせることで作り上げた変身の基礎となるアイテム。


魔獣の血をブレンドして作った『ビーストブレンド』


アルクカースの戦士達の血をブレンドして作った『ブレイブブレンド』


各国の天才達の血をブレンドして作った『ブレインブレンド』


…そして、切り札として作成した───。


「『ヒーローブレンド』…こいつで、勝ってくる…!」


それは、アマルトが自身の発想で考え得る中で…最強のブレンド。


………………………………


コツコツと廊下を歩みながら被害状況を確認する。虚空に浮かび上がる映像から魔女の弟子達が幹部達を出し抜いて動き出していることが分かる。それを見たクルシフィクスは再度…携行型連絡機構を取り出し、耳に当てる。


「ラセツ、うんこは終わりましたか」


声をかけるはラセツだ、パラベラムの最重要拠点黒の工廠が狙われている、剰え敵の襲撃を受けている。だというのに最高戦力たるラセツが一向に動こうとしないのだ。その事に腹を立てつつ声を上げるが…返ってくるのは。


『すんません専務さんッ!今ヌいてますねん!』


「……………」


やはり、動く気がない…ということか。何処かで理解していた…この男は今回の一件で動く気がない、という事に。


「もういいです、ラセツ。お前は今回の一件を前に敵前から逃げ出した臆病な逃亡者として社長に報告し処罰して頂きます。それが嫌なら今すぐ逃げ回るのをやめなさい」


『逃亡者…ねぇ、クックックッ…』


「何がおかしいんですか?」


『専務サン、逃亡者が逃げるのやめたらそらもうただの亡者ですやん。死ぬよか逃げて生きる方がなんぼかマシですやろ?』


「貴方にしては弱気な発言ですね。奴らと戦ったら死ぬとでも?」


『オレのことやない。お前のことやクルシフィクス…これはオレの経験則から来るアドバイスや。ありがたく受けとけ』


「……貴様…」


連絡機構越しに聞こえるラセツの声は酷く冷淡だ。いつも使っている分かりきったおべっかや猫撫で声ではない。本性が垣間見えるその声を前に…クルシフィクスは確信する。


「ラセツ、貴様やはり…裏切ったな」


『ンフフフ、なんのことでっしゃろ』


「魔女の弟子を引き入れたのはお前だな…!通りで奴等の侵入が鮮やかすぎるわけだ。私の魔術も知っているようだったし…貴様、どういうつもりだ!」


『やっぱお前、メチャクチャ賢いなぁクルシフィクス。セラヴィがお前を捨てられん理由がよく分かる…けどちーっとばかし賢すぎや。セラヴィ落とす前にお前には消えてもらわなあかんかもな』


「貴様、社長まで裏切る気か!今の今まで面倒を見てもらっておいて!どういうつもりだ!何を考えている!」


『言うたやろ、逃亡者が逃げるのをやめたら…それは最早亡者やってな。クルシフィクス…精々お前も過去から逃げろや、自分のしでかした事…その責任に追いつかれんようにな』


「ッ…貴様、やはり貴様はあの時の子供…!だが何故だ!何故お前が生きている!お前は一体なんなんだ!何故社長はお前を────」


『なははは、自分から答え合わせしようとすんなや。それともここで全部教えたらお前は自分で自分のドタマぶち抜くんかいな。せえへんやんか…お前はそう言うこと。それよりお前…オレがホンマにトイレにおると思うか?』


「……何処に…」


『さぁ何処でしょう、まぁすぐに分かる。あとは自分で考えや…折角賢いんやからなぁ』


次の瞬間、激しい轟音が鳴り響き同時に連絡用機構から音が鳴らなくなる…まさかと慌てて次は社長に連絡しようとするが…。


「やられた…ッ!連絡用の中継地点が潰された!」


ラセツがいたのは連絡用機構の電波を中継する為の部屋だ、あそこで機器を全て破壊したんだ。連絡が取れなくなった…社長にラセツの裏切りを伝える手段がなくなった!

まずい…社長は私と同じくらいラセツを信頼している、自分を裏切ることはあり得ないと思つている…今ならなんとなくその理由が分かる気がする。


(セラヴィ・セステルティウスも人の子か…!)


この事を社長に伝えなくて、恐らく私の予測が全て的中しているならラセツが企んでいる事はきっと─────。


「いや、待て……」


慌てて駆け出そうと踵を返した瞬間。一つの違和感を覚える…ラセツはなんて言っていた?『お前には消えてもらわなあかん』…そう言っていた。つまりラセツは私を消すつもり?だとするとどうやって。


嗚呼、そうか…そう言うことか。その為の───。


「クルシフィクスッッッッッ!!!!!」


「ッやはり来るか…手駒がァッ!!!」


壁を粉砕し、雄叫びを上げて現れたのは…聞き覚えのある声。遠にタイムリミットは超えていると言うのに…何故こいつが動けているのか、理由は分からないが。


来たのだ、私を消すために…アマルトが。


「ようっ!また会ったな!」


「……貴様、随分雰囲気が変わったな」


壁を切り崩し、私の前に現れ…瓦礫を踏み越えながら歩み寄って来るアマルトの姿を見て、目を細める。どう見てもさっきまでとは雰囲気が違う。


見た目は先程の変身と違って殆ど変わりはない、強いて言うなれば髪が腰あたりまで伸びているくらいだが…目を見張るのはその魔力。


先程までの数十倍近い魔力に膨れ上がっている。この短時間で何かあった…!


「ああ変わったぜ、今の俺は最強だ」


「何?……何をした」


「使ったのさ、ヒーローブレンド…あんまりにも希少なもんでよ、使い所がわからなくてずっと保存しておいた切り札、お前に使ってやるよ」


「ヒーローブレンド…?」


「ああ…なんたってこいつは『魔女大国最高戦力七人の血』をブレンドして作った英雄の血だ…今の俺は、全魔女大国最強の剣士だぜ?さぁやろうぜ阿婆擦れ…俺も時間がないんだ、効率的にやろうや」


「………フンッ、そうですか。ならさっきとは違って…本気で相手をしてあげましょう」


絶大な魔力を手に入れたアマルトを前に、穏やかに剣を構える。それほどのパワーアップが出来るならもっと早くやっている、恐らくこれにはかなりのデメリットや消耗がつきまとうはず。


単純なパワーアップじゃないなら…対応も可能だ。


ナメるなよ…『世の見る悪夢』パラベラムの頂点に乗り詰めた、最強の叩き上げ…クルシフィクス・ミリアレンセを…ッ!!!

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