表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十九章 教導者アマルトと歯車仕掛けの碩学姫
757/841

694.魔女の弟子と不穏なる悪鬼


カラカラと森を進む、幹部の一人ポエナを倒しエーニアックへの道行きを進むエリス達はなるべく人目につかないよう視界の悪い森を進むことにしたのだ。


『連中がピンポイントでパスカリヌにだけ人員を置いていたとは思えない。多分ここら一帯はもう完全にあいつらの目があると見ていいだろうな、つーわけでここからはなるべく街道を離れて進む』


そんなラグナの号令によりエリス達魔女の弟子が乗る馬車は現在厳戒態勢。みんなで持ち回りで周辺に睨みを利かせながらゆっくりじっくりエーニアックに向けて北進中です。


既に北部の中には入っている、ここまで来ると東部のような更地ではなく隠れる場所が多いからこうやって進むこともできる。けどそれは敵も同じ…こっそり近づいてくるなんてことは楽勝かもしれない。


なのでエリスは……。


「………………」


現在馬車の屋根に乗って周囲をギッ!と睨んでいます。さっき持ち回りで周囲を警戒しているって言いましたよね、それとはまた別枠。エリスはエリスで個別で警戒を行っているんです、旅の中で培った森の進み方、茂みに潜む敵の見分け方。それらを熟知しているエリスがここにいるのが一番効率が良いですからね。


(にしても…どうしましょうか)


エリス達は今まで幾多の八大同盟と戦ってきたが、実は今回のようなパターンは初めてなのだ。エリス達が八大同盟と戦い勝ってきたのは基本的にこちらがイニシアチブを確保してからである場合が多い、それはそもそもエリス達と八大同盟には如何ともし難い戦力差があるからだ。


故に少数精鋭である利点を活かしたフットワークの軽さで相手の目的を潰しつつ先手を取って戦ってきた、更に八大同盟はエリス達よりも優先する目的がある場合が多くエリス達は敵が目的に対して進むその真横から強襲を仕掛けて戦ってきた。はっきり言って戦いはかなり有利な状態で始まっていた、しかしそれであの苦戦ぶり。


対する今回はどうだ?敵はエリス達を最初から全力で狙ってくる。敵の目的はエリス達が確保しているレーヴァテインさんを奪うこと、敵の矢印は最初からエリス達に向いている、対するエリス達はパラベラムに矢印を向けるわけにはいかない。つまり構図が逆なんだ。


この状態は初めての状態だ、一番近いのはルビカンテだがあいつはそもそも理屈抜きにして動いてくるやつだった。対するパラベラムは理屈と理論で考えてから動いてくる…。


はっきり言おう、エリス…今の状態はかなり無茶な状態だと思っています。もし例えばこの森をパラベラムの大軍勢が囲んでいたら、その時点でエリス達は終わりです。そしてそれがあり得てしまう状態は無茶以外の形容詞がない。


(エリス達の行動では現状を変えられるだけの影響力を発揮できない、……これはもう何かしらの奇跡に頼るしかない。上手く事が運べばいいが)


そんなに甘い相手でもないよ、八大同盟は。そもそも今まで勝ててこれたのは風の巡りがよかっただけなのだから……。


「よう、エリス」


「ん?」


ふと、エリスが目を開くと…そこには馬車から顔を出し、屋根に登ってくるアマルトさんがいた。どうしたのだろうか、まだ彼の見張りの時間じゃないはずだが。


「お前…屋根の上で胡座かくの、様になりすぎだろ」


「どういう意味ですか」


「変な意味じゃねぇよっと」


クルリと体を持ち上げ屋根の上に乗るとそのままコロコロ転がりエリスの隣に寝転ぶアマルトさん。…さて、何の用だろうか。彼は無意味にここに来る人間じゃない、ましてや態々外に出てきてこういう風に寝転ぶ人じゃない。


「どうしました?」


「別に、話がしたかった」


「浮気をするつもりですか?」


「しねぇしお前もする気ねぇだろ」


「しません、エリスはラグナに操を捧げてます」


「結構な事で。……いや、相談に来たんだよ」


「相談ですか」


エリスは胡座を解いてアマルトさんの方を向く。彼が相談に来たのなら真摯に対応しないと、彼はいつもエリス達の為に動いてくれてる。エリスもたまには彼のために動きたい。でも彼は自分の悩みをいつまでも心の中に残しておく人でもないんだな。


悩みってのはつまり答えの書かれていない答案用紙のようなもの、悶々としながらも筆が動かかない…そういう状態を悩みという。彼は取り敢えず空欄は適当にでも埋めて自分を納得させる答えをその場凌ぎにでも用意できる人、つまりこれは彼の悩みではなく。


「レーヴァテインさんですね」


「ご明察、その通りだ…」


「随分気にかけてますもんね」


「そりゃ気にかけるだろ…一応面倒見てる相手なんだし、何より…あんな顔してるわけだしさ」


「まぁ……」


レーヴァテインさん…彼女の顔はここ最近ずっと曇ってる、いやもっと言うなら…最初からどこか引っかかる何かがあった。落ち込むとはまた違う、エリスが見たことのない何かをレーヴァテインさんは抱えている。なんとかしてあげたいがなんとかするにはエリス達の人生経験が足りない…そんな感じだ。


「レーヴァテインがなんであんな顔してるか、お前わかるか?」


「なんとなくですが、理由はわかりません」


「……あいつよく言うんだよ、『生き残ってしまった』ってな、生き抜いたでも生き残ったでもなくな」


「……………」


「アイツ、アイテールを見てからずっとそのこと考えてるみたいでさ、みんな死んだのに自分だけ生き残ったことを責めてるみたいなんだ」


「サバイバーズ・ギルトですか」


「かもな」


エリスは目を瞑り、考えを改める。やはりレーヴァテインさんとエリス達の間では圧倒的な認識の齟齬がある。エリス達はどうあれ八千年前のことを知らない、だからレーヴァテインさんに理解を及ぼす事ができない。


……けど、言ってみればレーヴァテインさんは戦場帰りの兵士そのもの。戦場の高揚感は人の意識を歪め麻痺させる、だがそれは人を強くさせたのではなく飽くまで麻痺しているだけ…麻酔と同じだ。


麻酔が切れれば痛みは蘇る、時が経てば経つほどに麻酔は薄れ痛みは濃くなる。レーヴァテインさんはこの平和な世界にあって戦場の高揚という麻酔が切れ始めている。


その後に残るのは死者の残影、その手で奪った命の残滓、そして偶然生き残った事実。それは彼女に罪悪感を与え自罰意識を与える。即ちサバイバーズ・ギルト…自分だけが生き残ってしまったという罪罰の意識。


「メルクに相談したら、戦地帰りの兵士によくある奴らしい。PTSDを発症するかもしれないってよ」


「レグルス師匠も…大いなる厄災が終わった直後は精神的に衰弱していたそうです、他の魔女様も。あの魔女様でさえ…今も心の傷を抱えている」


「ああ、けど師匠達はそれに向き合う時間があった…だが」


「レーヴァテインさんにはない…それに加えてこの事態。腹が立ちますよパラベラムに…」


体は機械だ、在り方は英傑だ、されどレーヴァテインは人だ。人は脆い、容易く崩れる。だが人は持ち直す事ができる生き物だ…時間があるならだけど。


時間はない、パラベラムが攻めてきている以上レーヴァテインさんに安息の時間はない。ゆっくり落ち着いて己を見返す時間はない。全てはパラベラムのせいだ、うーん許せん!


「なぁ、エリス」


すると、アマルトさんはチラリとエリスを見て。


「どうしたらいいと思う?」


「え?」


そう言われるんだ、どうしたらって…パラベラムぶっ潰すしかないのでは?いやそうじゃないか、パラベラムのせいで時間がないだけで別にパラベラムが消し飛んだところでレーヴァテインさんの悩みは解決されない。


彼女の心の傷をどうしたらいいか?うーん…そんなこと言われても分からないよ。だってエリスは戦場に言ったけどもなければ人を殺したこともないんだから、何も経験してない人間が偉そうにその場の思いつきで言って解決する問題か?


「分かりません」


はっきり言う、エリスに聞くよりもっと分かる人に聞いた方がいい。戦争ならラグナ…ってアルクカース人はそう言う事考えないか。


「……………」


「な、なんですか」


するとアマルトさんはエリスがわからないと言うと何やら意外そうな顔でこちらを見るんだ。なんでそんな顔するんだ…。


「い、いや…お前は……」


「エリスは?」


「……んーにゃ、やっぱなんでもねぇや」


「ちょっ!そりゃないでしょう!」


「じゃ!」


そう言ってアマルトさんはでんぐり返しで立ち上がり再び馬車に戻って行く。にしても…。


「アマルトさん、ちょっとレーヴァテインさんに入れ込みすぎじゃ無いですか?」


「あ?」


ふと、エリスがそう聞くとアマルトさんは立ち止まり、こちらを見る。彼が責任を感じているのは分かる、自分が目覚めさせてしまったからレーヴァテインさん苦しんでいると…そう考えているんですよね。でも…ちょっと入れ込みすぎです。


「アマルトさん、最近ずっとレーヴァテインさんにつきっきりですよね」


「なんか悪いかよ?」


「レーヴァテインさんはアマルトさんに惚れてます、これ以上近づくのはかわいそうです…レーヴァテインさんの想いに応える気はないんですよね」


「じゃあ口効かずに離れてたほうがいいか?」


「そうは言ってませんけど!」


「……俺が入れ込むのは問題か?」


するとアマルトさんは馬車の上に立ち、ポケットに手を入れたまま…前を見る。前を見るんだ。顔で風を受け、髪を揺らしながら…彼は小さく、表情を見せず呟く。


「レーヴァテインを見てるとな…思うところがあんのさ」


「え?起こしちゃった責任は?」


「それもある、だがそれ以上に……ってお前マジで分かってねぇの?」


「だから何がですか!」


「…………言わない」


「なんですかそれ!いい加減にしなさいよアマルトさん貴方!匂わせるような言葉ばっか言ってクサイんですよセリフが!」


「ちょっ!掴みかかるな!お前!落ちる!ちょい!タンマ!せめて下でやろうや!」


結局、その日は掴もうが投げようがアマルトさんは何故かエリスには『レーヴァテインさんに入れ込む理由』を言わなかった、ただ一つ言えることがあるとするならアマルトさんはエリスに何かを期待していた。


ラグナでもメルクさんでもなく、エリスに。それが分からないのが悔しい…エリスは彼の友達なのに、分からない事があるのは嫌だった。


………………………………………………………


『タウルス方面にてアミー・オルノトクラサイ出現!無人機構兵団壊滅!』


『スバル・サクラによってディオスクロア・ピスケス連合軍敗走!』


『イナミによりピスケス北東の街が陥落!その後レグルス様が対応して撃退したものの北東の街は壊滅状態の模様!』


「………………」


『レーヴァテイン様!早くご判断を!』


『命令を!』


『人が…人が死んでいます!レーヴァテイン様!』


「……………」


あまりの雑音に耳を塞ぐ、耳を塞ぐが幻聴は止まらない。機械の体になっても聞こえないはずの声が聞こえるなんて不思議だとレーヴァテインは小さく笑う。


ここ最近幻聴が酷い、しかもこの声はかつて聞いた声…と言うわけでもない。アミーに無人機構兵団を壊滅させられたことはないしスバルによって連合軍は敗走してない、けど似たようなことは何度もあった…つまりこれはボクが記憶から勝手に捏造した、所謂良くない想像という奴だ。


酷い物だ、聞くに耐えない。けど耳を裂き続ける…過去が、ボクを責め続ける。いや、ボクにとっては今も現在か。


「大丈夫?レーヴァテイン」


「あ……」


すると、ボクの肩を叩いて心配してくれるのは…シスター服の大きな女性ネレイドさんだ。馬車の隅で蹲るボクを心配してくれたんだ。


「ごめん、ちょっと…」


「戦場の影を見たの?」


「影?」


「戦地帰りの兵士がよく見る、貴方も戦地帰り。特に凄惨な影を見てもおかしくない」


……その通りだ、所謂フラッシュバックやトラウマによる幻覚を今ではそう呼ぶんだろう。嗚呼、まさしくそうなんだ…戦場の影が今もボクを責めるんだ。情けない話だ、世紀の天才と呼ばれたボクがこのザマなんて…。


「よかったら、話聞く」


「ありがとう…優しいね、キミその格好的にアストロラーべ星教の人間だろう?アストロラーべの人間なのにキミは優しいんだね」


「違うよ、私はテシュタル教の信徒…アストロラーべを前身として生まれた、リゲル様の作った宗教」


「え?アストロラーべは?」


「無くなった」


まさか…二千年前からあるあの大宗教が無くなるなんて、いやあれから更に八千年経ってるんだ。どんな宗教も一万年の時は越えられないか。しかし同じく二千年前から…今で言う一万年前からあるとされる魔法は今も使われている辺り、人は争いを捨てられないと見える。


「それより、大丈夫」


「大丈夫ではないかな、情けない。過去の残影に惑わされるなんて…」


「なんで?」


「え?いやそんな事ボクには分からな──」


「違う、過去の残影に惑わされるの。なんでそれが情けないの?」


「え?」


ネレイドはキョトンと首を傾げる。なんでそれが情けないのかと…いやだってボクは天才で…いやそれは理由にはならない、そうだボクは王だから…ってもう国はないじゃないか、それなら…なんで、なんでボクはこんなに自分を責めてるんだ。


(………なんでだ…)


「レーヴァテインさんはさ」


すると、目前でお菓子を食べているデティフローア君が呑気に口を開き…。


「もっと私達に色々話してもいいと思うよ」


「え?」


「えっえっえっって聞きすぎ、レーヴァテインさんここ最近落ち着いてないし話せば楽になるよ」


「それは……」


そうしていると、馬車の外からサラリと優雅に現れたのは……。


「よっと、危うく殺されるところだったぜ」


「アマルト君!」


アマルト君だ、相変わらずカッコいいなぁクソぅ……。


「やっぱアマルトのほうが反応がいいか。よしアマルト…パス」


「ん?パス?よしもらったパスもらった!へーいメルク!パース!」


「え?え?なんだ!私は何を受け取ったんだ!?」


「さぁ」


するとアマルト君はボクを見て、ニッと歯を見せて笑うと手をちょいちょいとこまねいて…。


「レーヴァテイン、こっち来てみろ」


「な、何?」


するとアマルト君は手を引き馬車の御者席に導く、そこにはラグナ君が手綱を引き、エリス君が屋根の上で見張りをしている。そしてその景色は…。


「見えるか、あの街」


「……見える」


アマルト君はボクの手を握りながら馬車の外に見える景色を指さす。森の中、木々の間、向こうに見えるのは大きな街だ、ここはどうやら丘の上にある地点らしく見下ろす形で見える街には人が行き交い物が行き交い、生きている。街が生きている。


「いい景色だろ」


「…うん」


「アレが今だ、レーヴァテイン」


「……今」


「お前はお前の両手が血で汚れていると言ったな、それは誰かの血でありお前自身の血だろう。血って流れない方が基本いいよな、血が流れるシチュエーションって大体痛いし苦しいし」


そう言いながら彼はボクの手をギュッと強く握りしめて…。


「けど、それでも血を流すことを厭わず突き進んだ誰かがかつていたから、今が作られる。今…人が歩む道が作られた。その血はこの道の手向となる…決して恥じることも、罰せられるものでもないんだよ」


「……アマルト君」


敵が、味方が、ボクが、誰かが流した血が今を作った。ボク達も敵達も争いはしたがみんなにはみんなの見ていた未来があった、その為に駆け抜け戦った。滅びを望んでいたのはシリウスだけで…あの日あの時生きていた人類が今のような世界を望んだことに変わりはない。


そこに罰はない、罪はない…か。


「……ありがとう。アマルト君」


「いや別に、それだけ覚えとけって話よ」


アマルト君は歯を見せて笑う、彼の言う言葉に今は救われながら…ボクはボク達が作り魔女が紡いだ世界を見て、あの日散っていった全てに伝える。無駄はなかったと…無限の子らが、お前達の死に祝福を述べていると。





(今の言葉……)


そして、そんな二人の話を聞いていたエリスはチラリとアマルトとレーヴァテインに目を向ける。


アマルトの言葉に引っかかる部分を覚えた、と言うより…聞いたことのある言葉だった。それを聞いた時のことを思い出し、同時に今の状況と当てはめると、見えてくる。


(なるほど、アマルトさんがやりたいのは…レーヴァテインさんを憐んでいるからでも、彼女を不憫に思ってるからでもない)


アマルトさんがやりたい事、それはある意味自己満足的であり、自己中心的な事、でも…。


(むぅ……そう言うことでしたか、恥ずかしいことしますね貴方…)


恥ずかしくてエリスのほっぺは赤くなる。さっきエリスに相談したのはそう言うことか、恥ずかしいことをする。と言うかそれなら…エリスに相談を求めるべきじゃない。アマルトさんがやりたいなら、アマルトさんの考えで、アマルトさんの言葉で、アマルトさんの行動で示すべきなんだから。




エーニアックに続く道は伸び続ける。この短くも長い旅路は…レーヴァテインさんに何を与えるのか。エリス達に何を与えるのかを、考え続ける。


……………………………………………………



「では繰り返します。今回の損害はアイテール一機、輸送流通部の戦闘駆動車十三両…結果はレーヴァテインの行き先不明…これは私の所感であり、間違っているなら訂正をお願いしたいのですが、ポエナ…私はこれを貴方の大敗であり失態であると感じていますが、異論は」


「ち、違ッ…わ…ない……」


マレウス北部の一角に隠されたパラベラムの本拠地『黒の工廠』の最奥、執務室にて報告を行うポエナは手足をピンと伸ばし…目の前で報告書を読む専務取締役クルシフィクスの言葉にワナワナと震える。


クルシフィクスがメガネを掛け直せば、ポエナの蒼白の顔が映る。失態だ、言い訳の効かない失態を演じた。アイテールを使って魔女の弟子を取り逃した…これは許されない。


「アイテールは未だ量産が出来ていません、一品物です…あれを作る為に一体どれだけの期間と金額を投じたか」


「あ、あれの投入を…」


「なんです?」


「あれの投入を命じたのはお前だろ…!アタシはあんたの命令を受けて出たんだ!あんたの決定責任は!?アタシに責任求める前にお前も取れよ!」


「ああ、その件の責任なら既に取りました」


「は?……いィッ!?」


そう言いながらクルシフィクスは机の下に隠していた左手を机の上に出す。がしかしポエナはそれを見て青ざめる。


「ひ、左手…切り落としたのか!?」


「ええ、責任をとって社長に専務取締役からの降格を申し出ましたが私が専務から降りるとその方が損害が出るという事でしたので、半年間の減給とこれで手打ちにしました…」


「社長が…そう言ったのか…!?」


「いえ、自主的にです」


「…………」


ポエナは自分を狂人だと思っている、揚々と戦場に出て相手を捻り潰す事に快感を覚える自分を他人は狂人だと呼んでいる。狂ってなければこんな仕事出来ないと思っているから。


けど……。


「まぁ後日義手を作りますがね、幸い…そういう技術はピスケスから出土していますから」


クルシフィクスは…別次元のところにいる。こいつは狂っているわけじゃない、狂っていったわけでも狂ってしまったわけでもない。


ただ、『当たり前』が自分達とは違うだけ。認識が違う、思考が違う、行動が違う、自分達が狂人ならクルシフィクスは『異常者』だ。誰に言われるまでもなく左腕を切り落とし平気な顔をしているとは…いや、待て。


これ、もしかして。


「この一件、責任の取り方が重要です…私は貴方に任命した責任を負いました。ですので現場でミスをした貴方はもまた…自主的な責任の取り方、そして誠意ある対応を私は求めます」


そう言ってクルシフィクスは懐から一丁の拳銃を取り出し、机に置く。音もなく静かにそれを机の上で滑らせ…ポエナの前で静止する。


「え……?」


「責任と誠意を」


「あ、アタシは…何をしたら」


「自分で考えなさい」


「ッ…ァ……」


震える、瞳孔が、口元が、体が、指先が。クルシフィクスは動かない、ただこちらを見て…責任の取り方を見ている。逃げることはできない、逃げれば責任を無理矢理にでも負わせる…いやそれ以上のことがあり得る。


つまるところ、自主的に責任を…取るしかない。そう感じたポエナは右手で銃を掴み…クルシフィクスが失った左手と同じ左手を机につけて、その上に銃口を乗せる。


「ハァ…ハァ…ハァ…ッ!」


これでいいのか、そうクルシフィクスに視線を向けながらトリガーに指をかけると…。


「『それ』で…いいんですね?」


「えッ……!?」


クルシフィクスは何も言わない、だが言っている。そうじゃないと…左手じゃ、ダメだと。


「ッ……」


ならばと左肩に銃口を当てると…。


「『それ』が…貴方のミスに相応しい責任、なんですね?」


「ッ……」


違う、これじゃない。そしてポエナは恐る恐る左肩から銃口を外し…もっと上に、もっと上に銃口を向ける。


「こ、これで……!?」


銃口が向いたのは己のこめかみ、震えながらクルシフィクスを見ると……。


「……………」


何も、言わない。その顔に全てが書いてあった。


「ァ…アァ……ッ!!」


求めている責任は、これ?


全身が震え上がる、ミスした己に求められる責任は即ちこれか。恐怖する、同時に絶望する、クルシフィクスがこれを求めている以上…最早逃げ場はない。


「さぁ、ポエナ。責任を」


「ウッ…グッ……ギィィィ……!」


歯を食い縛り涙を流しながら脂汗を流しながら、目を閉じて、呼吸を整え、静かに指に力を込め────。





『やめろッ!!』


「いッ……!?」


しかし、そんな責任を静止したのは…クルシフィクスの背後から響いた声、それは重厚な扉が開く音と共に執務室に鳴り響き…、ついで靴音が響く。


「これはこれは、社長」


クルシフィクスの背後の扉を開けたのは…パラベラムを取り仕切る代表取締役社長にして、裏社会を統べる帝王。ただの一代でパラベラムを世界に轟く大企業に育て上げた天才…セラヴィ・セステルティウスその人であった。


黒いスーツに赤いシャツ、手足はやや短く太いシルエットにそれでいて筋肉質、加齢によりやや曲がった腰と重い足取り、白い髭とオールバックの髪がもみあげで繋がるようなそれはライオンのような、或いはもっと獰猛な肉食獣を思わせる。


金色の瞳に濃い眉毛、そして口元に葉巻を咥え…不機嫌そうに眉をひそめ、セラヴィは煙を吐き出しながら執務室に入ってきた。


「どうぞ、社長」


するとクルシフィクスは椅子をセラヴィに譲り、ポエナの隣に立つと。セラヴィはそれを当たり前のように受け椅子にドカリと座ると…。


「で、何してんだ」


「ポエナの一件に、責任を取らせようと」


「責任ねぇ」


するとセラヴィはポエナの手に握られた責任を見ると、軽く吹き出し。


「『それ』は必要ない、責任は俺が用意する。ポエナ…お前は今回の一件で始末書を、それで暫く輸送本部長の任を解き謹慎だ」


「え……?」


それでいいのかと、思わず返しそうになる。たったさっきまで命を取られそうになっていたのにそれで許してくれるのかと…体が別の意味で震えてしまう。するとクルシフィクスは…。


「ですが社長、彼女はアイテールを……」


「ああ知っている、でポエナはミスをした。そこに命の責任を求めるお前の気持ちも分かる…あれは高いからな、正直痛手なんてレベルじゃあない、だが。なぁクルシフィクス…完璧な仕事を『する』為に一番必要なのはなんだ?」


「完璧な仕事を心がけ、それを実行する事です」


「そうだ、その通りだ。これは全社員に課せられた義務であり使命だな」


くつくつと肩を震わせ笑う社長は、同時に続ける。


「なら、完璧な仕事を『させる』為に必要なのは、なんだ?」


「………完璧な仕事を、求めることですか?」


「違う逆だ、『完璧さを求めない事』…これが完璧な仕事をさせる上で必要な事だと俺は思ってる」


フゥーっと大きく煙を吐いたセラヴィは再び葉巻を咥え、ニヤリと笑いながらポエナとクルシフィクスを見遣る。


「人はどうやったってミスをする。行動でミスをする、判断でミスをする、記憶でミスをする、やり取りでミスをする、時に…誰かを思い遣る気持ちでミスをする、それは組織が大きくなればなるほどに確率は上がりどうやったって人はミスから逃げられない。それに対して一々完璧さを求めても疲れるだけだ」


「……………」


「個々人は完璧を求めるべきだが、上に立つ人間は逆に不完全さに寛容になるべきだ。そしてその視座が高ければ高いほどに…ミスとの付き合い方は上手くやらなきゃいけない。それをお前、一々厳罰を課してたらますます人が萎縮してミスが増える。故に俺は…ミスに対して寛容さを見せる、この会社で誰よりもな」


「思い至りませんでした、申し訳ありません」


「ポエナは今まで上手くやってくれた、一度のミスで手放すのは惜しい。だがポエナ、ミスはミスだ、損害は出た。その損害分…また仕事に励んでもらう。お前なら取り返せるだろう」


「は、はい!」


「よし、ならこの一件は終わりだ。今はビジネスの最中、儲けに繋がる話以外は控えろ」


「ハッ!」


セラヴィは手を払いポエナにもう行ってもいい事を伝え、ポエナは助かった事、そして助けられた事に感謝しながら笑顔で執務室を立ち去っていく……しかし。


(バカな女……)


クルシフィクスは視線でポエナを追い、その認識の甘さを罵倒する。


(ポエナ、お前はここで死んでいた方が良かったぞ…)


セラヴィは決して温情をかけたわけじゃない。寧ろ逆…更に恐ろしい罰を課したのだ。


社長の語る理念『完璧さを求めない』…それは部下のミスに対して穏健な態度をとる、という意味ではない。翻って言えば社長は『誰も信じていない』という事なのだ。


だから決して社長は責任を求めない、罰もくださない。社長は決して代替えの効かない部下を持たない、ポエナの穴はいつだって埋められるし事実今ポエナの穴を埋める算段をしている。


ポエナはここで助けられたと思っているだろうが、彼女にくだされた一時の謹慎…それが解かれたら彼女はまた本部長に戻れる気でいる。だが彼女は二度と本部長には戻れない。寧ろドンドン端役に追いやられる、その命が擦り潰されるまで使い尽くされる。


最前線で地獄のような思いをしながらもいつか必ず本部長に戻してくれると信じながら必死に働く。この大きなミスがあるからもう二度とミスは出来ないと彼女は莫大な心的ストレスを抱えながら命を削って働き続けなければならない。


だが本部長には戻されない、やがて塵になって消えるまで。ポエナはその運命が確定した…『ミスの責任』という首輪を自ら嵌めてしまった。もう奴はセラヴィから逃げられない、魂から奴隷に成り下がった。


つまりルートから外されたんだ。


(ポエナは自分で責任を取るべきだった、責任の取り方を上に求めればこうなるのは自明だ)


クルシフィクスは失った左手を見てそう考える。クルシフィクスも責任を求められなかった時社長が自分を使い潰そうとしていると感じた、だから自ら減給と左手を失うという誠意を見せ社長の追求から逃れたのだ。


(私はこの地位に居続ける、一時の痛みなど安い物だ)


これが労働だ、これが社会だ、これが会社だ、これがパラベラムだ。それを理解している人間が始めて会社の一員となり、それが理解出来ない人間は歯車となる。


「フッ…クルシフィクス、お前の左手が効いたな。いいスパイスになった」


「お褒めに与り光栄です」


そう言って笑う社長にゾッとしつつも、気は抜かない。すると社長は執務室の書類を手に取り…。


「で、レーヴァテインは?」


「今は北東部の森に居るとのことです」


「エーニアックに向かってるんだったな」


「はい、そう予測されます」


「しかし、連中も強い。八大同盟を四つも潰してんだ…実際ウチも事を構えて損害を被った、それにアイテール以上の兵器となるともううちに在庫がない。となると人的な資源を使わなきゃいけなくなるな」


すると社長は書類を机の上に捨て、大きく息を吸いため息と共煙を吐き出し、椅子の背もたれに体重を預けると。


「まぁ、取引で手打ちにしてもいいな」


「え?」


「レーヴァテイン遺跡の諸々の権利はうちが所有してる、当然碩学姫自身の所有権もうちにある。だがその所有権を魔女の弟子が買うっていうなら売っていいって言ってるんだ」


「それは…黒衣姫を諦めると?」


「黒衣姫は惜しい、出来るなら欲しい。だが黒衣姫以外にも魅力的な技術は多くあるし、その設計図自体や技術自体は遺跡から取れる、わざわざ血眼になってレーヴァテインを追いかけて損害を被る必要はない…と考えている」


「で、ですがここまでにもうウチの資産の40%を投じています、今更手を引いては……」


「だからその分高額にもなる。だが向こうにはマーキュリーズ・ギルドの元締めのメルクリウスもいるんだろう?払えない額じゃない、そこで手打ちにして…まぁ向こうは向こうの目的を果たしつつ、ウチはウチの商売をする。不可侵条約を結んでこれ以上戦うのはやめましょうって形に持っていくのが一番いい形だと思うな」


「…………」


確かに、相手が簡単に踏み潰せる相手なら単純な話だが…そうではない、事実損害が出た。つまりここは分水嶺、更なるベッドか…レイズか。即ち賭けとなる、ビジネスにおいて不明瞭な賭けほど怖い物はない。


だから、その決定権は社長にある…すると、社長は葉巻の灰を落としながら、静かに。


「だが、それは気に食わねぇな」


そう言って牙を見せて笑う。


「向こうは八人、こっちは企業。それがお前…個人に企業が道を譲るなんて事があったら社会ってもんが成り立たんだろ。損害はあるかもしれない、だが…乗せるぞ、クルシフィクス。俺達は全てを賭け皿に、ウィナーテイクオール!テーブルに乗った全てを取り合ってこそだろ」


「ッ…はい!社長!」


「やるぞ、魔女の弟子を何がなんでも捕まえろ、全戦力を投じても構わん…無論、お前が出てもいい」


やる気になった社長に嬉々としてクルシフィクスは打ち震える。お許しが出た、ならば様子見はやめよう…いや元よりそんな物する必要もないか。


「いえ、社長、奴らが目指すルートの間にはディーメントがあります」


「ディーメント?」


「没落の街ディーメントです、あそこはラセツの活動拠点になっています。ラセツならば必ずや魔女の弟子を捉えるでしょう」


ラセツの実力は唯一クルシフィクスを上回る。ラセツと対等に殴り合おうと思えばタヴやマヤ級の実力者を連れてこなければならない。魔女大国側でそのレベルとなるとグロリアーナか将軍のうちの誰かになるだろう。


つまり魔女の弟子には撃破は不可能、奴らがディーメントに近づけば…その時点で終わりだ。


ラセツの出撃は即ちこちらの勝利…なのだが。


「この場に至って、巡ってくるのが…ラセツか……」


社長の顔は曇るのだ、まるで…任せられない部下に仕事を振ってしまったかのような。そんな反応をする。はじめての事だ、社長はラセツの強さを誰よりも信頼している、八大同盟の会合にさえ連れて行くほど信頼しているしその強さを誰よりも知るはずの社長が…なんでそんな顔をする。


「な、何か……?」


「いやいい、ラセツに任せるなら安心だ」


「ですが…何か、その…」


「上司の顔を伺って仕事をするな、お前はお前の正しいと思える仕事をしろ。それだけの能力を持ちそれだけの立場にいるんだからな…ただ、あり得ない事に関して語る気がないだけだ。気にするな」


(あり得ない事……)


もしや社長はラセツの敗北を予感している……いや違う、敗北を予感しているなら私にも援護に行けというはず、つまり社長が危惧しているのは別の件?


「……………」


「お前も仕事に戻れ、俺も戻る」


そう言って社長は踵を返し社長室に戻って行く。だがそんな背中を見て…クルシフィクスは考える。


(思えば私は、ラセツの正体を知らない)


パラベラムの古参として長くこの組織に従ってきたが…クルシフィクスはラセツの正体を知らない。あの仮面の下はもちろん…奴が何処から来たのかも知らない。


ある日突然社長が連れてきて、今日から渉外部門を任せると言い、それ以来ラセツはパラベラム最強の男として今日まで戦ってきた。ラセツは軽薄でバカな男だが…隙のない男でもあった、決して懐の内に私を入れない。


つまり、私の知らないラセツの秘密を、社長は憂慮している?…だが……。


(……そう言えば社長は…)


ふと、昔社長が言っていた事を思い出す。そう言えばあの人の出身地は……。


「ッ……まさか!」


思い至る、もしやと思える可能性に思い至る。と同時にクルシフィクスは後悔する、これは知るべきではなかったと。もしこれが事実ならとんでもない話だ。


もし本当にラセツがそうだとするなら。ラセツの正体は─────。


「ッ……私だ、全社員に通達しろ。魔女の弟子達がディーメントに到達する前になんとしてでも確保しろ、部隊長に傭兵団、幹部を出してもいい…私も出る、なんとしてでもラセツが待機するディーメントに到達する前に捕まえるんだ」


連絡用コンソールに手をつけ私は連絡係に声を届ける、ラセツは今ディーメントにいる。魔女の弟子がそこに到達したらラセツは魔女の弟子に接触を図る、だがその前に事を終わらせなければならない。


何故か?それは私が至った答えの一つ…これは恐らくを積み重ねた先にある最悪の未来の予測、そう…ラセツは。


ラセツは我々を裏切って魔女の弟子に協力する気かもしれない。魔女の弟子達はそれだけの条件を満たしてしまっている。


『ウィナー・テイク・オール』…勝者総取り。それはつまり例え過程がどうあれ最後に勝った者が全てを得られると言う事なのだから。


…………………………………………………………………………


「ひぃーつめてぇー…」


「アマルトさん汚いですよ」


「そう言うなって」


それからしばらく、森の中を移動したエリス達は一旦休憩タイムを取った。常に移動し続けたら旅慣れしてないレーヴァテインさんもバテてしまうし、エリス達もいざって時動けないからね。


と言うわけで森の中で馬車を止めてエリス達は休む事とした。丁度茂みを超えた先に川があったのでエリスはそこに散歩に出かけることにしました、レーヴァテインさんを誘ったんですけど…レーヴァテインさんはなんか馬車酔いしたみたいで横になると言ってました。機械の体でも酔うんですね。


そして代わりについて来たのがこの男。


「綺麗な水だよなぁ」


アマルトさんだ、彼は靴を脱いで裸足になって川にザブザブ入って行ってる。少年かな?キミは。


「変な虫とか魚いたら刺されますよ」


「怖いこと言うなよ…」


「裸足で入るのは危険ってことです」


エリスは石を拾い、水切りをしようとスナップをかけて水面に向けて投げると…石は水面で動かずその場でクルクル回転を続けている。これは何回跳ねたことになるんだろう。


「見たことない挙動してる…」


「それよりアマルトさん」


「レーヴァテインの話か?なら今はやめてくれ、最近ずっとアイツのこと考えっぱなしで疲れてんだ」


「四苦八苦してるみたいですね」


「過去の事を気にしてるみたいだしな、だがエーニアックに辿り着いて黒衣姫の件にケリがついたら、どうあれ俺達が一緒に居続けるわけにはいかない…それまでにアイツには、キチンと生きていけるようにしてやりたいのさ」


「でしょうね、アマルトさん…先生の顔してますもん」


「まぁ感じ的にはレーヴァテインは最近生まれた子供みたいなもんだしな」


結局彼は、誰かを導くのが好きなんだ。そしてれそれと共に、言いたい事、やりたい事があるから彼はレーヴァテインさんを大事にしている。仲間達の中で誰よりも。


「さて、休憩終わったらすぐに行こうぜ?もうすぐこの森も終わるんだろ?」


「はい、ここを出たらすぐそこにディーメントって街があって、それを越えて北部の中心地を分けるノミスマ大峡地を越えたらエーニアックです」


「ディーメント?その街には寄らねーよな」


「あんな事がありましたしね、スルーです。それにそもそもこんな事態じゃなくてもディーメントには寄りませんよ」


「なんで…?」


「治安が悪いからです」


ディーメント…別の名を没落の街。かつては栄華を誇った物の領主がとち狂って『人道政治』なる性善説に基づいた政治を行った、結果街は一気に犯罪者だらけの街になった。親切にすることは良い事だが親切にすることを公言すれば悪い人間が寄ってくる良い例だ。


今ディーメントは酷い有様だと言う、街は荒れほぼ廃墟同然の家屋に密入国者や指名手配犯が住み違法な薬物を賭け皿に乗せ違法な賭博を行ってるらしい。普通なら国から指導が入るが…この北部の運営を国から任されているカレイドスコープ家が領地運営を全く行わない為こう言うことになってるらしい。


「へぇー、それってオライオンのアンダーグラウンドクライムシティみたいなもんか?」


「あれが養殖物だとするなら、ディーメントは天然物です」


「よく分からんが分かった気がするわ、あんま近寄らない方がいいな」


治安が悪い場所に自分から行ってもいいことなんかあるわけがない。変なのに絡まれて厄介ごとをさらに抱え込む…なんてことになったら目も当てられない。だからディーメントはスルーだ。


そのままノミスマ大峡地を越えてそのままエーニアックに行こう。


「そろそろ休憩を終えましょうか?」


「だな、そろそろ昼飯の支度をしないと…」


「エリス、焼き魚が食べたいです」


「川見ながら言うな川見ながら」


なんて言いながら二人で戻ろうと川辺を歩いていると…ふと、目の前から歩いてくる影が見えた。こんなところで人に会うなんて…ってレベルの場所じゃない。ここは深い森の中にある名前もない川だ、そんなところを歩く人がエリス達以外にいるわけが…そう思っていたら…、そいつはエリスを見て声をかけて来た。


「よっす」


「え……?」


「は?」


軽く手を上げて挨拶したそいつを見て、エリスとアマルトさんは青ざめさせる。だってそいつは……。


「何してるん?お二人さん、もしかして不倫やったりしますかぁ?なぁ〜んちゃって!なはは!」


そこに立つのは鉄仮面の大男…『悪鬼』ラセツ。最悪の男が最低の言動と共に現れたのだ。


「ラセツッ!?」


「テメェ何しに来やがったッ!!」


「なははっ!そらぁ勿論お二人さんぶっ殺しに来たに決まってますやんか」


ラセツは静かに拳を鳴らし、エリス達の前に…立ち塞がる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ