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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十九章 教導者アマルトと歯車仕掛けの碩学姫
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692.魔女の弟子とレーヴァテイン争奪戦


北部と東部をつなぐ街パスカリヌにて響き渡る轟音に爆音、ダカダカと軍靴が石畳を叩き影の群れがただ一人を追い掛ける。

今この街に無関係な人間はいない、いるのは二種類。魔女の弟子とパラベラム、そして両陣営が狙うのは……。


「あっちだ!追えッ!」


「死んでも逃すな!」


「他は殺しても構わない!レーヴァテインを確保しろ!」


碩学姫レーヴァテインただ一人。このパスカリヌという街で行われるレーヴァテイン争奪戦は熾烈を極めていた。


「チッ、追ってくるぜエリス!」


「分かってます!馬車まで走りますよ!」


コレッジョを吹き飛ばし大時計から降り立ったエリスは糸でグルグル巻にされたレーヴァテインを抱えたままアマルトと合流する。既に他の仲間も控えている、襲撃は予想外だがこういう事態そのものは予測していなかったわけでは無い、離脱は可能だ。


「にしてもなんですかその糸!全然千切れないしベトベトする!」


「んんー!」


レーヴァテインを助けるため糸を引きちぎろうとするが、弾性と粘性が凄まじく剥がれる気配がしない。というか掴んだらエリスの手もべっとりくっつく。こんな糸見た事ない…帝国にも似たようなものがあるが、はっきり言ってこれは帝国のものより厄介だ。


「おいエリス!グズグズすんなって!」


「あ!すみませ───」


「もらったァッ!」


瞬間、走り出したエリスの手元に遥か彼方から白い糸が飛んでくる。それは的確にレーヴァテインさんを捕まえて引き寄せて…ってこれは!


「また!」


「グッフッフッフッ!悪事三戒!ナメてもらっては困ります!」


「んんーーー!!」


引き寄せたレーヴァテインさんを抱き止めたのはエリスがさっき殴り飛ばした巨漢…人攫いのコレッジョだ。奴は吹き飛ばされた地点から手だけを動かし糸を放ちレーヴァテインさんをエリスの手から奪還したのだ。


アイツ想定してたよりもタフだ…その上あの糸、面倒だな!


「チッ!あそこから奪い返すかよ!」


「仕方ありません行きますよアマルトさん!」


「ぬぬー!お前ら!足止めをしろ!」


奪い返されては仕方ない、またコレッジョをぶっ飛ばして取り返すしかない。だが今度は周囲のパラベラム戦闘員が邪魔をするように壁となりエリス達に向かってくる。


「ここは通さん!」


「邪魔ァッ!!!」


「げぶふぅッ!」


パラベラム戦闘員の装備は重厚だ、黒い鎧を全身に身に纏い手には電流を放つ棒、チクシュルーブで見た逢魔ヶ時旅団並みの…それでいて全く毛色の違う装備だ。しかしそれさえ無視してエリスは拳を振るいフルフェイスとヘルメットごと顔面をぶち抜くように殴り吹き飛ばせば、ヘルメットは粉々に粉砕されゴロゴロと地面を転がっていく。


「う、嘘だろ!パラベラム製防護鎧が一撃で粉々って!?しかも素手!?」


「邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔ですッ!!!」


「ひぃいい!!ごぼほぉ!?」


叩き込む、一歩進んでは胴に一閃。鎧が砕けて戦闘員が吹き飛んでいく。二歩進んでは蹴りを上げ兜ごと頭を粉砕、三歩進んでは右拳を振り抜き四歩進んでは左拳を振り抜き、五歩進んでは頭突きで兜を叩き砕き糸の切れた人形のように戦闘員が崩れ落ちる。


「レーヴァテインさんは!!お前らの所有物なんかじゃないッ!人間を物扱いする奴はエリスがすり潰します!!」


「しゅ、修羅だ……!」


「鬼だ…」


「悪魔だぁーっ!」


「エリスはエリスですッ!!」


蹴りが乱れ飛び次々と戦闘員が宙を舞う、ただ舞うだけではない、錐揉みながら口や鼻から血を吹き出し民家の窓や側溝に突っ込んで動かなくなるのだ。これには流石の戦闘員もビビるが…引かない。


「ぐぅぅ〜!ここで退いたら減給だぁ〜!」


「くそぉ!この間家建て替えばっかりなんだよぉ!こんなところでヘマしてられるかぁ!」


「ひぃいい!怖いぃい!けど始末書減給の方がもっと怖いいい!」


「ちょっ…!」


泣きながら、小便漏らしながら、恐怖に震えながら向かってくるんだ。普通ビビったやつは逃げていく、それは例え八大同盟の戦闘員であっても同じだ…だがパラベラムは違う。


(金と責任か…!)


パラベラムは魔女排斥組織の中で数少ない『構成員と正式な雇用契約を結んでいる組織』だ。魔女排斥組織は基本富は分配し皆で使うがパラベラムは給料という形で毎月安定した額を支払う事を約束している。手柄を挙げれば昇進し給料も増える、同時にヘマをすればそれが減らされることもある。


それがこいつらを突き動かしている。給料とは即ちその人物に対する報酬だ、だが仕事そのものに対する支払いとは実に微々たる物、会社が構成員に支払う金とはその殆どが責任に対する物だ。仕事に対する責任、自分の行動に対する責任、言動に対する責任。その全てを金額という形で明示するのが給料なのだとかつてメルクさんは語っていた。


責任が重ければどれだけ体を動かしていなくとも支払われる額は大きくなるし、どれだけ体を動かしても無責任な仕事には金は払われない。故に彼らはその責任を果たす為に怖くても苦しくても戦わなければならない、なぜならそれだけの額を貰っているから。


ただ魔女を殺したい、この世界を壊したいという理念だけで集まった組織よりもよっぽど強固で強烈な関係、それが雇用形態。人類が生み出した最も強く他者の動きを強制する手段である雇用関係こそがパラベラムの武器なのだと再認識する。


「この!退きなさい!死ぬより怖い目に遭わせますよ!地獄の玄関口くらいまでは見せますからね!」


「ひぃぃ!!」


なんて怯えながらも戦闘員は立ち塞がる…こいつら面倒だ!魔術で吹っ飛ばすか!?いや下手に爆煙を生んだらコレッジョを見逃す…!


「クソッ!雑魚に構ってる暇ねぇのに!」


「アマルトさん…こいつら厄介ですよ!」


足が止まる、倒しても倒しても湧いてくる構成員の壁にエリスとアマルトさんの足が止まる…仕方ない、こうなったら冥王乱舞でこと街ごとぶっ壊して────。


「では!私にお任せを!」


「ッ…!」


しかし、その時…天から現れたのは。


「メグさん!」


「塵芥の清掃はメイドの仕事ですので」


メグさんだ、天から現れた彼女は両手に帝国製の機関銃を持ちながらガチャンとリロードし…。


「参ります!冥土奉仕術外伝!」


「あ!アイツ機関銃を持ってるぞ!?」


「バカな!旅人風情がなんであんな物!!」


引き金を引き金を引きながら全身を回転させ、この狭い路地全体に銃弾をばら撒くようにメグさんは回転する。的確にエリスとアマルトさんを避け目の前の構成員達だけを狙い、その鎧の隙間に弾丸を通して……。


「『籠目蜘蛛張り』ッ!!」


「が…ふ……!?」


「麻酔弾ですのでご安心を、私はジズと違って人は殺しませんので」


乱れ飛ぶ弾丸の軌跡が蜘蛛の巣のように展開され次々と構成員が倒れていく。流石メグさんだ…スマートです!しかもこれでか道ができた!よし!


「アマルトさん行きましょう!」


「ええ、追いかけましょう!」


「正直に一丸になって追いかける必要ねぇな!メグは回り道してコレッジョの道を塞げ!エリスは空から!俺はこのまま追う!」


「確かに!」


「畏まりました!」


三方に分かれる魔女の弟子達。アマルトさんはそのまま残った構成員を薙ぎ倒しながらコレッジョを追いかける、エリスは空に飛び上がりメグさんは路地裏の影に消える。


「待てや!コレッジョ!」


「オホホホホホ!捕まえられますかな!


コレッジョは太った体からは想像もつかない機敏な動きを見せる。後ろから追いかけるアマルトさんを嘲笑いながら全身をバネのように動かしゴムボールのように跳ね回りながら逃げ回る。


「クソッ!?速え!つーかそれ以上に動きが読めねー!」


「これでも人攫いのプロ!悪魔の見えざる手が消えてからこの私が人攫い業界のトップとなったのです!業界随一の身のこなしをご覧くださいな!いや?もうここまでですかな?」


ピョンピョン飛び回り華麗に近くの家屋に飛び乗り一礼して逃げようとクルリと踵を返すコレッジョ。そのあまりにも華麗な動きはアマルトさんを完全に翻弄している、そこに勝ち誇ったコレッジョはニヤリと笑い…。


「では失礼!お暇させて────」


「今度こそ死ねぇーッッ!!!」


「げぶふぅっ!?」


が、しかし屋根の上に登ったってことはエリスの領域に来たってことだ。空を飛んだエリスはコレッジョを蹴り飛ばし近くの家屋に吹っ飛ばしレーヴァテインさんをキャッチ…と同時に。


「『火雷招』!!」


「ぢょっ!?容赦な────!!」


さらに家屋にぶち込んだコレッジョにダメ押しの火雷招を叩き込む。どうせまた蹴り一発じゃ倒れてくれないんだ、なら死ぬ思いさせてでも寝ていてもらうに限る!


「エリス!よくやった!」


「フンッ!エリスを甘く見たからです!」


黒煙を上げる家屋を見て鼻を鳴らしそのままエリスはレーヴァテインさんを抱えて馬車まで飛ぼうと駆け出し……。


「え……!?」


「んん!?」


しかし、その瞬間…エリスの体から力が抜ける。何が起きたか分からず混乱していると…エリスの脇腹に鈍痛が響き渡り……そしてその後響く、銃声が。


「グッ……!?」


「エリス!?」


レーヴァテインさんを取り落とし屋根の上を転がる、全身が痺れる…撃たれた、銃で撃たれたけど…まずい。


(射手が見えない…!狙撃か!!)


周囲に目を走らせるがエリスを撃った奴が見当たらない、何より撃たれてから暫くして銃声が聞こえた、ってことはかなり距離がある地点から狙撃されたか!まずい狙撃手までいるか!このまま寝転んでたら撃たれる!


「チッ!」


咄嗟に足を動かし屋根の上を走り動くと…先程までエリスが寝ていた地点の瓦が割れて弾丸が転がる。と同時に再び銃声が聞こえる、やばいぞ…弾丸が飛んできたであろう方向を見たが、その先には殆ど家屋がない、つまり…。


(これ街の外から狙撃してるのか!?)


完全に手が届かないところから飛んでくる弾丸に肝が冷えた、その瞬間…。


「ぐぅっっ!?!?」


音もなく飛んでくる弾丸がエリスの体を射抜き、屋根にエリスの血が滴り…、屋根の下に落ちていく─────。


……………………………………………………


「着弾確認だよ、間違いなく心臓に当たった、素晴らしい腕だよシンナ」


「モーガン、いい援護です」


ガチリと音を立てて巨大な狙撃銃をリロードする黒衣の女狙撃銃シンナと超遠方を見つめる片眼鏡の貴族モーガン。二人がいるのはパスカリヌではない…その街の外、一等小高い山の上だ。


「んん〜…コレッジョのやつ。まだ確保できてないようだねぇ」


クルリと回るヒゲを指で伸ばしながら片眼鏡を動かすモーガン。彼は遠視の魔眼達人であり、着用する片眼鏡はパラベラムが出土したピスケス製の超望遠スコープ。この二つを掛け合わせ山の上から遥か彼方の対象を視認することが出来る。


「他の敵はいるか」


そしてそんな彼の援護を受け再び巨大な黒銃を構えるシンナ、彼女の持つ銃もまたピスケス製の千里狙撃銃。街の外から街の中の相手を撃ち抜くことが出来る超射程の狙撃武器である。


モーガンが視認しシンナが撃つ。この二人のコンビネーションにより今まで数多の敵と役立たずの社員を消してきた特別人事通達部隊…そして悪事三戒の一員でもある二人は再びパスカリヌに意識を向ける。


「まだまだ敵はいるよぉ、コレッジョ達の援護を続けようかぁ」


「了解」


そして、銃口が再び狙う。ここまで届く魔術も武装も存在しない、絶対安全圏から確実に攻撃を当てることが出来る二人が今、パスカリヌの攻防に変数をもたらす。


………………………………………


「エリス!大丈夫か!」


エリスが撃たれた、血を撒き散らしながら屋根から落ちた。やばい、狙撃手がいる…けどあのエリスが迎撃できない距離となると今の俺たちじゃ絶対に手出しが出来ない。面倒なことになった。


恐らくエリスは生きている、アイツのコートは銃弾なんか通さない。だが衝撃波までは防げない、恐らくだが内臓がいくつかやられたんだろう、口から血を吐いてる…まずい。


「ッエリス!レーヴァテイン!」


落ちるエリスとレーヴァテインをキャッチしようと走る…がその時。


「きぇえええええ!業界随一の私をナメるなぁぁあああ!!」


「嘘だろ!?テメェまだ動くのかよ!」


家屋に大穴を開けて現れたのはさっきエリスに吹っ飛ばされたコレッジョだ、どんな耐久力してんだよと思ったが焼け焦げた衣服の下に見えるのは鉄の素肌…いや違う。こいつの馬鹿でかい体。太ってんじゃなくてめちゃくちゃ巨大な鎧着込んでんのか!それであの跳躍力とかバカかよこいつ!


「しゃああああ!!」


「チッ!クソが!させねーっ!」


再びコレッジョがレーヴァテインに糸を放つ、またアレに捕まったら面倒だ。させてたまるかと剣を振り抜き糸を切り裂きレーヴァテインを守る…。


「ぬぅ!このガキァ!だがだとしてもレーヴァテインは今フリー!手数で勝る我々が確保するのは自明の理なり!」


屋根から落ちていくレーヴァテインは今誰も確保出来ていない状態、なら数多くの構成員を持つパラベラム側が手早く確保するはず…と、コレッジョは考えたが。


「ユニゾンコーラス!人間トランポリン!」


「え!?何それ!?」


一瞬で路地裏から集結した謎の集団がエリスとレーヴァテインを胴上げしてキャッチする…いやあれは!


「ナリア!」


「すみません!分身の集合に手間取りました!」


ナリアだ、ナリアが数百人の分身を連れて戻ってきてくれたのだ。そのままレーヴァテインをキャッチし確保する。最高のタイミングだ。


「いやいい!それより馬車に戻れ!それと開けた場所には出るな!狙撃手がいる!」


「わかりました!それいけ僕達!馬車に向け撤退〜!」


『アイアイサー!』


そのままナリアは分身達に乗ってレーヴァテインを運んで街を駆け抜ける。しかしその道行を塞ぐように大量の構成員が壁となり…。


「へへへここは通さね…ってなんじゃあの集団!?」


「同じ顔が大量に!?気持ち悪ッ!」


「けどこっちは武装してんだ!蹴散らして取り返せ!」


手には電流の警棒、ガラスのように透明な盾を手に無数の構成員が数百人のナリアを前に立ち塞がり襲い掛かる……が!


「むむむ!邪魔しないでください!『劇目・テルモピュライの剣戟』!」


筆を指揮棒のように振るえば分身達の姿が変わり、鎧を着込み剣や槍で武装したナリアの姿に変わる…と、どうだ。勇者に変わった分身達は剣を手に雄叫びをあげ。


『退け退ケー!』


「ぉごぅっ!?つ…強え!?」


剣で盾を叩き砕き、槍で構成員を薙ぎ倒していくのだ。勇者の設定を追加された分身達は生半可な兵士では止められないくらいの勢いを発揮し構成員の壁を切り崩す。


「ちぃっ!なんだあのガキ…この!返せ!レーヴァテインを!」


「だからさせねーって言ってんだろッ!」


そして動き出そうとするコレッジョを殴り飛ばし手を払う、正直この中で一番厄介なのはこいつだ。何処にいても確実に確保に動けるこいつがフリーになるのが一番まずい、狙撃手も気になるがあれから狙撃してこないあたり恐らく奴らから見てここは死角。ならこのまま馬車まで走れば…!


「チィィ!!仕方ない!ラットキングッ!出番だ!」


「ってまだ居んのかよ!!」


コレッジョが叫ぶ、同時に何処からか甲高い足音が響き渡り…襲来する。家屋の屋根を伝って飛んで、路地に向けて降りてくるのは…。


「ヒョヒョヒョ〜〜!」


「何あいつ…!」


現れたのはハゲ散らかした歯抜けのジジイだ、目は左右で別の方向を見ており明らかにイッてる感じのやつだ。服装もその辺のジジイみたいな格好をして…いるが、その手には無骨に剣が握られている。やばい、直感でわかる、あいつ強え!!


「ナリア!危ない!」


「え?」


「窮鼠猫噛みでごじゃる…」


タンッ!と音を立ててジジイが着地したかと思えば一瞬でその姿が消え、風の如く飛翔しナリアに向け剣を振るい…。


「ぅグッ!?」


「ほう防いだでぉじゃるか」


ナリアが吹き飛ばされる。咄嗟に間に分身を挟んで防いだが刃を防ぎきれなかった、地面をゴロゴロと転がり落ちるナリアをギョロギョロと別の動きをする相貌で睨むラットキングはひょろひょろと笑う。


『ああ〜!本物ガ〜!』


「今だ押し返せーッ!」


まずい、ナリア本体が吹っ飛ばされたせいで分身の指揮が乱れてる。……ってレーヴァテインがいない!?分身達が確保してたはずなのに。


「ほれコレッジョ、こいつ抱えて逃げぇ」


「あ!」


いつの間にかラットキングがレーヴァテインを抱えている。それをコレッジョに投げ渡し…させるか!


「ッ…なんだ!?」


がしかし動かない、足が。咄嗟に動かなくなった右足を見ればそこには白く糸を引く何かがくっついていて、ってこれコレッジョの糸!?いつの間に…!


「オホホホホホ!形成逆転ですなぁ…!」


「チッ!メグッ!」


「はいッ!アストラセレクション…『ヴィーヤヴァヤストラ』ッ!」


「しゃしぇぬでごじゃる」


瞬間、風の太刀を手にコレッジョを追いかけようとするメグにラッドキングが立ち塞がり切り結ぶ。風の力を得て加速したメグの動きにラッドキングは機敏に反応し的確に斬撃を撃ち落としていく。


「くっ!強い…!」


「ヒョヒョヒョ〜……すぅ〜〜」


すると、無数の斬撃と隙間を縫ってラッドキングは大きく息を吸い込み…。


「むハァー!!」


吐き出す、茶色のガスのようなそれを吹き出しメグに振りかけるのだ、その瞬間メグの顔が青く染まり…。


「く、くさーっ!!」


瞬間めちゃくちゃ臭い吐息にメグは一瞬動きが止まってしまう、その隙を見逃さないラッドキングはメグの腹を蹴り抜き吹き飛ばしクルリと剣を回す。


「ぅぐぅぅ!」


「ヒョヒョヒョ〜甘い甘い」


「オホホホホホ!流石ラッドキングですねぇ!」


そしてコレッジョはその間に飛び跳ねながら屋根の上に登ってしまう。そうか、あいつがさっきから屋根の上に行こうとしてたのは狙撃の援護があるからか!クソが…。


靴にへばり付いた糸を剣で切り裂きながら屋根に登ったコレッジョを追いかけようと走るが…。


「ぬにょにょ…!」


「クソッ!やっぱ来るか!」


やはり立ち塞がるのはラッドキング、クルリと剣を逆手に持ち凄まじい速さで切り掛かってくる、辛うじて斬撃を防ぐが…ダメだ、こいつめちゃくちゃ強い。腰据えて戦わないと勝てない!そんなことしてる暇なんかねぇのに…!


やばい…コレッジョが離れていく、連れて行かれる…俺が、俺が起こしたばかりに!


「余所見でごじゃるかぁ…?」


「ヤバッ……!」


その瞬間、ラッドキングが俺の懐に入り込んで─────。


「俺のッッ!!」


が……それでも、コレッジョに援軍が来たように…俺達にもまた、来る。


陽光を引き裂き影を作り、ラッドキングを覆うそれはまるで落雷のように飛来し…。


「にょ?」


瞬間、ラッドキングが上を向いた…その時。


「俺の嫁に何してんだテメェらァァッッッ!!」


「ぬぐふふぉ!?」


一撃、天から飛来した赤い影がラッドキングを蹴り抜きながら地面に着地し瓦礫が舞い上がる。そいつの足の下に潰されたラットキングは頭を地面に陥没させながらヒクヒクと動かなくなる…。


そしてそいつは…ギロリと周囲を睨み。


「誰だッ!俺の妻を傷つけた奴はッッ!!」


「ラグナ!」


ラグナだ、全身から燃え上がるようなオーラを滾らせて吠えるラグナにより周囲の家屋の窓が一斉に割れる。やべ〜!めっちゃキレてる!


「ラグナ!レーヴァテインが連れてかれた!」


「なんだと…!上等だ!ネレイド!アマルトの援護!アマルト!レーヴァテインを追ってくれ!」


「お前は…!?」


「邪魔者蹴散らして退路を作るッ!!」


一歩、石畳を踏み抜いてラグナは一気に加速しナリア軍団と戦う構成員の壁に突っ込み…。


「退けボケ共がァッ!!!」


「ッぐげぇぇえ!?、」


……あれだ、あれ。一回見たことあるこれ、ボーリングだよ。玉転がしてピン倒す奴、あれみたいにラグナは構成員の群れをすっ飛ばして全員蹴散らして真っ直ぐ進んでいきやがった。俺とエリスがあんだけ苦労したのをあんな楽々と…。


ってそうじゃない!レーヴァテインだ!


「大丈夫!?アマルト!」


「ああ!それよりネレイド!レーヴァテインが連れてかれた!上に狙撃手がいる!幻惑で援護!」


「分かった!」


そのまま俺は迷いなく家屋を駆け上がり屋根に飛び乗る、それと同時にネレイドは天に手を掲げ……。


「移ろう一色、象る十元、陽を背に伸びろ『百影混明』!」


俺の周囲に無数の俺の幻影が現れる。そして俺が駆け出せばまるで万華鏡のように幻影も連動し動き俺の場所を悟らせない。ネレイドの幻惑は気配すらも偽装する上認識すら歪ませる、だから遠方から見てるだけの狙撃手は……。


「ビンゴ…!」


目の前を走る俺の幻影が銃弾に撃たれ倒れて屋根の下に落ちていく…やはりだ、やはり騙されている。つーかネレイドすげぇーぜ、態々落ちる幻影まで見せて相手に正解かどうかも悟らせないなんて…ラグナ級の戦略眼の持ち主は伊達じゃねぇな!


これなら後はコレッジョを追うだけだ!!


「待てや!コレッジョ!!」


「くぅぅ!まさかラッドキングが敗れシンナ達さえ欺かれるとはッ!!かくなる上は!」


するとコレッジョはピョンピョン跳ねながら振り向き速度を維持したまま肩にレーヴァテインを背負ったまま両手をこちらに向け。


「喰らえぃ!『スパイダーラッシュ』!」


放つ、無数の糸の雨を…だがそもそも今の俺は幻影を纏っている状態、あいつの狙いも甘い、何より!


「ぅオラァッ!!」


「あ!」


逆に掴む、糸を。そのままコレッジョの手から放たれる糸を握りしめたまま一気に引き寄せ…逆にこっちに来てもらう。


「し、しまったぁぁあ!!」


跳んでいたこともあり踏ん張りが効かず一気に俺に向けて飛んでくるコレッジョ。掴んだ糸を切り払いそのまま正眼で構えながら、ベルトから一本のアンプルを取り出し…。


「返せやッ!そいつをッッ!!」


血を口に含み発動させるのはビーストブレンド。全身に魔獣の膂力を滾らせ赤く燃える黒血剣に力を込め…一気に瓦を粉砕し飛翔し、剣を振るう。


「あぁっ!?」


一閃、コレッジョの体が真っ二つに引き裂ける…否、着込んでいた円形の鎧が両断され中から内蔵されたバネやら仕込んでいた糸、そして青瓢箪みたいに細い本体が露出し…。


「寝てろッッ!!」


「ぐぎぃっ!?」


叩き込む踵落としでコレッジョを屋根の下に叩き落とす。エリスの攻撃から守ってきた鎧はもうない…もう起きてこれねぇだろう。


そしてそのままレーヴァテインを抱き止め…。


「大丈夫か?ってそのままじゃ喋れねぇな…ほらよ」


抱き止め口を塞いでいた糸を剣で切り裂くとレーヴァテインは目にいっぱい涙を溜めて…いるわけではなく、溜めてそうな顔でこちらを見て。


「あ、ありがとうアマルト君…ボク、何もできなくて…それにボクがここに来ようって言ったからこんな…」


「いいさいいさ、それより逃げるぜ。まだ追っ手がいる!」


チラリと背後を見ればドンドン追加の構成員が路地を通って向かってくる。何よりまだ狙撃手がいるんだ、油断出来ない。


「みんな!逃げるぜ!」


そう俺がみんなに言うと…既にナリアは分身達に倒れたメグを回収させており、ラグナは道を塞ぐ構成員を山積みにして蹴散らしている。


「はい!アマルトさん!」


「取り返したか!流石アマルト!」


「臭い〜!」


「幻惑は維持したままにする!みんな走って!」


するとそんなみんなの背後を走るように飛んでくるのは…。


「行こ行こ!早く行こ!」


「デティ!エリスは大丈夫か!」


デティだ、覚醒し大人の姿になったデティがエリスを背負って走っている。そういえばエリスの奴大丈夫か!?撃たれた上に屋根から落ちてたが…死んでるとは思えないが…。


「大丈夫!急所は外れてる!けどこうやってないと敵に向かって飛んできそうだから…!」


「ぐぎぎ!エリスは負けてません!」


「それ運んでんじゃなくて抑えてんのかよ!」


エリスは口の端から血を流しながらギリギリと歯軋りをしていた、あの調子なら大丈夫だな、何よりデティがいるんだからもう治癒済みだろう。よし!逃げるか!


ラッドキングもコレッジョも倒れた!後は離脱するだけ、未だにバンバン狙撃が飛んでくるが幻惑がある限り怖くねぇ…!後は全員で馬車に走るだけって。


「皆!大丈夫か!」


「メルクか!」


既にメルクが馬車を動かして街中まで突っ込んできてやがった。見かけねぇと思ったら退却の為に馬車を持ってきてくれていたか!流石だ!


「乗り込め!走るぞ!」


「ああ!」


「エリスまだ戦いますぅー!」


「落ち着いてエリスちゃん!」


全員揃って馬車に乗り込み一気に逆走、街の路地を抜け街の外に飛び出すと共に一気に走り出す。手綱を握るメルクはチラリとこちらを見て…。


「ラグナ!通行証は!」


「ある!けど街道には行くな!狙撃がある!」


「何…!ッ…!」


瞬間、メルクが手を横に向け防壁を展開する…すると防壁に弾かれ虚空で火花が散る。…弾丸だ、街の外に出た瞬間狙ってきやがった。ってかメルクの奴よく今の分かったな。


「フッ、狙撃か…存外にわかりやすいな!」


あ、そうか!こいつ見識があるから分かるのか!…分かるのか?分からん、見識がどう言うものか俺理解してないから。


「メルクさん!そこの丘の影を進んでいこう!そこなら多分狙撃の死角だ!」


「分かった!ジャーニー頼むぞ!お前は私が守る!故に私をお前が守れ!」


手綱を握り一気に急転換し近くの丘の影を沿うように走る、これで狙撃は防げて…って。


「うう…すみません」


「大丈夫?ナリア君」


「なんとか…って、なんの音ですか?」


「え?」


ふと、デティから治癒を受けているナリアが顔を上げる。なんの音…とは即ち何か、俺たちの耳にも聞こえる。ゴゴゴゴと大地を揺らすような音…これは。


「ッ…なんだあれは!」


外でメルクが目を剥く、慌てて俺たちも確認すると…どうだ。街の家屋の壁を突き破り何かが飛び出してくる。それは…巨大な馬車、いや馬がいない、なんだありゃ。


「ッ…あれはピスケス製の戦闘駆動車!?」


「駆動車だと!?」


レーヴァテインが叫ぶ、飛び出してきた複数の鉄の車は巨大で分厚い四輪で大地を切り裂きながら進み、大量の構成員を乗せたまま一気にこちらに向かって走ってくるのだ。


「あれはボクの父上が開発した戦闘駆動車だ!鉄の外装甲にどんな悪路も駆け抜ける馬力を秘めている!石油を燃料で走るから馬力が洒落にならない!馬で逃げ切るのは無理だよ!」


「マジかよ…!」


「でもそんなバカな、この文明の技術力であれを複数動かせるだけの石油なんて確保できるわけが…」


「魔術だよ!魔術の中には可燃性の高い油を出せる魔術もある!多分パラベラムが設計に手を加えて中に乗り込んだ魔術師が燃料補給を行えるようにしたんだよ!」


デティが叫ぶ、確かに魔術の中には揮発性が強く保存が効かないが代わりにどんな油の代用品にもなる万能の油を出せる魔術がある、つーかそれを使うやつと戦ったことがある。多分それを使って魔術師に直接燃料補給をさせてるんだ。でもそれって…。


「そんなバカな!そんなの長く持つわけない…いや使い潰すつもり!?あまりにも非人道過ぎる!」


「そう言う連中だ!来るぞ!」


中に乗ってる魔術師を使い潰す勢いで燃料にしてるんだ、ソニアとやってることは代わりねぇ。けど…あれだな、こいつらの持ってる技術力、下手したらソニア以上だ。そりゃそうか…ピスケスの技術パクってんだもんな!


「クソ!逃げきれん!」


戦闘駆動車はあっという間に馬車の周りを囲む。ダメだモノが違いすぎる、ジャーニーだけの馬力じゃ逃げきれない。周りを囲む戦闘駆動車の窓が開き中から巨大な銃を抱えた構成員が現れ俺たちに狙いを定める…やべぇ、これ袋のネズミか!


「チッ!撃たせるか!」


しかしその前にメルクが片手で手綱を取りながら軍銃を構え横につけた駆動車に向け弾丸をぶっ放す、しかし…。


「ダメです!我々の時代と同じならその戦闘駆動車は外部からこの攻撃に非常に強い!そんな銃一丁が壊せません!」


レーヴァテインという通りメルクの弾丸は戦闘駆動車の装甲に突き刺さるだけでなんのダメージにもならず……。


「なら、内側からならどうだ?」


「え?」


「『Alchemic・bom』…!」


その瞬間、装甲車に突き刺さった弾丸が赤熱し一気に膨れ上がるように爆裂し装甲車の内側に爆発を発生させ一気に横転させ吹き飛ばすんだ。それにより中に乗ってた構成員達も投げ出され置いていかれる。


「これフォーちゃんの…っていうか自動姿勢制御システムがない?あんな簡単にひっくり返るなんて」


「見たな!お前達!馬車を攻撃させる前にアレをぶっ壊せ!!」


「合点!」


「エリス行きます!」


「私も出るよ!」


そして出撃するのはエリスとラグナとデティの三人だ。三人はそのまま馬車から飛び出すなりそれぞれ駆動車達に向かっていく。


「どっこいしょ!オラ待てや!!」


ラグナはそのまま地面に着地し凄まじい勢いで足を回転させ疾走する駆動車の横を並走するのだ。


「ひぃ!なんだこいつ!」


「撃て!撃て撃て!!」


「なんで駆動車に追いつけるんだこいつ!?」


並走するラグナにビビった駆動車に乗る構成員達は揃って長い軍銃を連射し撃ち殺そうとするが…ラグナは軽く息を吐きながら腕を振るい。


「俺も撃たれたら痛いんだよ」


振り抜き握った拳を開けば中からパラパラと弾丸が落ちる、全てを空中でキャッチした…その絶技を前に構成員達は唖然とし、その間にラグナは一気に駆動車の側面に近づき…。


「よいしょーっ!!」


「え!?うわっ!?こいつ駆動車掴んでッ!」


「うわぁー!ひっくり返るーーっ!」


まるでテーブルでもひっくり返すように軽々と駆動車をひっくり返し流れる大地に押し出されるように横転した駆動車はクルクルと転がり視界外に消えていく。


「あはは!軽い軽い!」


化け物かアイツ…。



一方デティはというと…。


「クソ!銃弾が当たらねー!!!」


無数に飛び交う銃弾の雨を真っ向から突き抜け進む。体を霧のような魔力体に変化させ空中を飛びながら駆動車に迫るのだ。


「銃も魔術も扱いは同じ、誰かに向けた時点でより上位の力に蹂躙される結末を覚悟しておかないといけないよ」


そして、手元に魔力を集めたデティは軽く…駆動車に触れる。するとまるで水を吸ったスポンジのようにジワジワと駆動車が鈍い赤色に変色していく。いやアレは…錆か!?


「く、駆動車が錆びていく!?」


「ダメだーっ!コントロールが効かない!もう保たない!自壊するーッ!!」


「腐食魔術『レイスデトリタス』…鎧だろうが車だろうが、鉄で体を覆ったって貴方達が強くなるわけじゃないのは変わらない事を自覚する必要があるね」


あっという間に錆に覆われた駆動車は端からボロボロと崩れ自らのスピードに耐えきれず最後にはバラバラに砕け散り構成員達が風圧に耐えきれず吹き飛ばされていく。


すげぇな二人とも…駆動車がまるで相手にならねぇ。


「つ、強い…君達こんなに強かったのかい!?駆動車があんなあっさりと…アレでもボクが生まれる前は世界最高峰の兵器の一つだったのに」


次々と破壊されていく駆動車にレーヴァテインが絶句する。正直俺もびっくりしてる…構成員を薙ぎ倒してる時点で強いのは分かってたがあんな超文明の兵器さえ相手にならないなんて…ん?


「あれ?エリスは?」


ふと、気がつく。エリスがいないことに、一番派手にやりそうな奴がどこにも…いや、まさか!


「上です!」


ナリアが叫び天を指差す。視線が上を向く、見えるのは光…赤い光、天から降り注ぐような炎の球、いやアレは!


「『冥王乱舞』!」


「ッ熱源反応あり!真上!」


「な!なんだあれ!」


一瞬で周囲が赤く照らされる。空から降り注ぐ火球が大地を照らす、何が起こったと慌てる暇もなくそれは天より飛来し音すら置き去りにして駆動車の真上に墜落し──。


「『殲煌』ッッッ!!!」


「ぎゃぁあああああ!!!」


「退避ーーッ!!」


瞬間、構成員達が駆動車を乗り捨てて飛び降りる。同時に天から飛来したエリスが凄まじい勢いで駆動車を真上から踏み潰し一瞬にして駆動車が爆発四散し大地が揺れる。鉄の駆動車がまるでマシュマロみたいに潰れやがった!つーか!


「やりすぎだお前ーっ!」


「エリスさん怖いです!」


「流石エリス…」


明らかにやりすぎ、どう考えてもオーバースペック過ぎる一撃。アイツちょっとカチ切れすぎだろ…!だから方々でイカれてるって言われんだよ!


「エリス達の馬車に手ェ出す奴には地獄見せますッッ!!」


そのまま冥王乱舞を展開したまま周囲の駆動車を襲う。飛び蹴りで装甲を貫通し一撃で爆破、雨のような拳の乱打で駆動車をボコボコに変形させ一瞬で爆破、横から装甲車にしがみつきベリベリと天井を引き剥がし素手で車輪を掴み引き剥がしそのまま巨大なタイヤで剥き出しの構成員を叩き潰し爆破。


災害かアイツ。


「レグルスの再来だ…」


そして何やらトラウマを刺激されたのかレーヴァテインがさっきからプルプルとバイブレーションしてる。


「ダメだ!駆動車でも相手にならねぇェーッ!!」


「大損害だ…これ一両作るのにどんだけかかると思ってんだー!」


「退却退却!これじゃ大赤字だ!」


残った数両の駆動車達は血相変えて逃げるように進路を変えて街の方へと逃げていく。よし…なんとかなったか?これならなんとか逃げられそうだ!


「逃しません」


がしかしどうやら逃げる側だと思っていたのは俺だけらしく、いつの間にか追う側に転身していたエリスはヤバい目で手元に魔力を集め逃げていく駆動車の一団を睨みつけ。


「冥王乱舞・魔道ッッ!!」


両手から放たれた圧倒的な魔力の波は酸素を圧縮し灼熱を生み出しながら紅の閃光となり駆動車達に向け放たれ…そして。


「ひぃいいいいい!!!」


「もうダメだーーー!!」


爆裂四散、一撃で数両の駆動車が吹っ飛び遠方でキノコ型の雲が浮かび上がる。……容赦ねぇ〜〜。


「終わりました!」


「なんか呆気ない連中だったな」


「八千年の歴史を積み重ねた魔術には遠く及ばない技術力だね」


そして戻っている駆動車殲滅部隊、最初見た時はヤバい!と思ったけどこいつらにかかったらそうでもねぇのか。


「い、いやいや…君達めちゃくちゃ強いじゃないか!」


するとレーヴァテインは青い顔で戻ってきたエリス達の顔を指差すが、エリス達はキョトンとしている。強過ぎる!とは言うが…いやけど。


「当たり前じゃないですか、エリス達は魔女の弟子ですよ?」


「魔女と戦ったアンタなら分かるだろ?師範達はこんなもんじゃなかった筈だ」


「いや……まぁボクも戦ったけどさ…けど、あの人達は別カウントだろ…!言っとくけどボクもう一回魔女と戦争しろって言われたら泣いて嫌がるからね…!」


それはそう、つーか魔女達って八千年前もそんな扱いだったんだな。見ただけでトラウマが刺激されるって…大昔師匠達はレーヴァテインに何したんだ…。


「さて、あと残すところ面倒なのは狙撃手だけだが…ぶっちゃけ遠くから飛んでくるのが面倒なだけだし俺たちで持ち回りで防壁展開してりゃなんとかなりそうだよな」


「今我々を狙っている狙撃手の腕はクレシダ並みではございますが、当のクレシダも火力不足に悩まされておりました。ハーシェルの影十番以内の実力…と言えばかなりのものですが今の我々の敵ではないでしょう」


「エリス悔しいので今からその狙撃手のところに飛んで行ってボコしてここに連れてきましょうか?」


「やめとけ…」


ともあれこれで、なんとかなった…でいいのか?けど妙だな、アイツらかなり準備がよかったぜ?駆動車にしてもそうだし狙撃手の配置といいなんとなくのヤマカンでここまで出来るもんか?まるで俺達がどこに向かうか分かってるみたいだ…。


「なぁ、ラグナ…」


「ん、アマルトも気になってたか?」


そうラグナに声をかけるとラグナもなんとなく気がついていたのか腕を組んで静かに頷くんだ。


「だよな、やっぱり敵の準備が良過ぎる…俺達の向かう先がバレてると見ていいかもしれないなこれ」


「ああ、…敵方にゃ相当冴えてる奴がいるみたいだ。八大同盟…やっぱ伊達じゃねぇな…」


もしかしたらエーニアックに向かうことまで読まれている可能性がある、そう考えるとゾッとする。飛んでもなく頭のいい奴が向こうにいる…こりゃ下手に動けないぜ、そう考えていると。ラグナは更に言葉を続け…。


「もっと言うなら、不自然だ」


「え?」


「そんだけ計算ができる奴がいて、戦力があの程度ってのはちょっと違和感がある。俺達の戦力とこの街にいた戦力が釣り合いが取れてない…」


「確かに…え?ってことは」


「『まだ本命来る』…かもな」


そうラグナが口にした、その時だった。バッ!とデティが顔を上げ後方に視線を向ける。


「どうしたデティ…!」


「来る…なんか来るよ」


「え?」


咄嗟に俺は馬車から顔を出して外を見回すが…いない、何も。駆動車もいないし追いかけてくる影もない、ラグナとあんな話をしたばかりだからビビっちまったよ…。


「何にもきてないぜデティ」


「違う空だよ!凄い速さで突っ込んで来てる!ラグナ!エリスちゃん外に出て!攻撃が来る!」


「ッ……!」


そこからラグナとエリスの動きは速かった。即座に馬車から飛び出し屋根の上に乗り巨大な防壁を二人で展開したのだ…その時だった。


「なッ!?」


飛んてきたんだ、デティが見た通り後方から…閃光の如く飛来する飛翔体が馬車目掛け飛んで来て、防壁に当たるなり炸裂し大地を揺らしあたり一面を一気に焼き尽くしたのだ。


「グッ…なんて威力……」


「ッなんだ!?」


爆弾だ、空を駆け抜ける爆弾が突っ込んできたんだ。その爆炎は一気に周囲を焼いて消し飛ばした。古式魔術級の威力だぞこれ…。


「これは……まさか!」


レーヴァテインが動く、馬車の外に顔を出す、同時に凄まじい轟音が鳴り響く、大地が揺れ風が引き裂け何よりも速く駆け抜ける巨大な影が一瞬世界を覆う。上を見ればそれら全ての原因たる犯人がそこにいた。


……鳥だ、凄まじく巨大な黒い鳥。それが雲を割いて白い尾を引き飛んでいた…いや、鳥じゃない。あれ鉄だ…鉄の、鳥…?


「アレは戦闘航空機構『アイテール』!?そんなバカな!あんなものまで再現されてるなんて!!」


「せ、戦闘航空機構…!?なんじゃそりゃ、ってかアレもピスケスの兵器かよ!」


鳥じゃない、兵器だ。風よりも速く鳥よりも自由に空を飛ぶ鉄の黒鳥、それは一度俺達の頭上を通過したあとグルリと縦に大きく回転し再びこちらに狙いを定める。


「アレはボクが設計した空の王者!無数の武装を抱え空を駆け抜け地上を制圧する航空機…!自律で考え如何なる攻撃も無効化し確実に敵拠点を撃滅する無人兵器にして大いなる厄災にも投入したピスケス国軍の主力兵装アイテール!まずいよ、アレは流石に壊せない!」


「無人兵器…あれ、人が乗ってないのか!?」


「うん!いや…でも自律戦闘思考システムはナヴァグラハに全て破壊されて、もう残ってない筈…ボク以外の人間がそれを再現できるわけ…」


そうレーヴァテインが瞳を揺らしたその時、こちらに向かって飛んでくる戦闘航空機構アイテールの上部がパカリと開き、水蒸気を伴いながら現れたのは…女だ。


「ヒャハハハハハハハハ!魔女の弟子とターゲットみっけ〜〜!!」


「人乗ってんじゃん!」


現れたのはピンクの髪をした女だ、ここからじゃよく見えないが人間であることは分かる。そいつは牙を見せながら再び俺達の上を旋回しながら品定めするように飛び回り…。


『よう魔女の弟子達!アタシはパラベラム輸送部門の本部長!『悪疾』ポエナ・テトラドラクマッ!レーヴァテインの回収に来たッ!大人しく出すなら命だけは助けてやるよッ!』


「本部長…幹部級か!」


『出さないんなら……このアイテールですり潰すッ!!』


無数のバルカン砲と砲門を隆起させ天で轟く鉄黒鳥、突如として現れた本部長ポエナ・テトラドラクマの出現により…パスカリヌに於けるレーヴァテイン争奪戦は最終局面を迎えながら、混迷を極めるのであった。


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