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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十九章 教導者アマルトと歯車仕掛けの碩学姫
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680.星魔剣と種と木の輪廻


「よいしょーっ!」


「うわぁぁああ!」


森の街フォーレにて、突如として反権力主義団体である『プラクシス』に囲まれたステュクスだったが、今更武装しただけの連中に負けるはずもなく…。


右手に持ったヴェルトの剣で目の前の構成員の足を引っ掛け持ち上げることですっ転ばせ、バランスを崩したそこに星魔剣の腹を頭に叩きつけ気絶させる。


「このぉーっ!」


「なんだお前ら、構えや剣の振り方は上手くても戦いそのものはてんで素人じゃないか」


ステュクスの背後を狙って飛んでくる構成員の斬撃をヒョイと避けると共に踏み込んだその足を蹴り払いすっ転ばせ、頭を蹴り上げ気絶させる…こいつらそんなに強くない。構えは上等だし剣の振り方も悪くないが全体的に粗雑と言うか…動きがぎこちない。


俺が強いと言うよりこいつらが弱い、これくらいならなんとかなる…とは言え相手の数は百以上、普通ならこんな風に余裕ではないのだが…。


今の俺は、一人じゃないんだなぁ。


「未熟、されど刃を抜いた以上相手に加減を求めるな。痛みや苦しみを嫌うのであれば今は引け…若人よ、引かぬならその覚悟に責任を求めよう!」


「ぐふぅっ!?」


突如俺の援軍として現れた謎の白騎士カルウェナン、こいつがまたバカ強い。これと言って何か特別な魔術とか武器を扱うわけじゃないんだが、体捌きが尋常じゃないくらい上手いんだ。こいつの魔法を見たロアが思わず。


『ほう!ようここまで磨き抜いたもんじゃ!余程暇か真面目なんじゃのう!』


と褒めた?くらいだ。いや実際とんでもないくらい強い、そんな奴が次々とプラクシス殴り飛ばしてくれるもんだから俺の方には全然敵が来ない。


「ひぃい!レボルシオンさん!こいつ普通じゃないって!」


「ダメだ!勝てない!勝てないよぉ!」


「ぐっ…クソぉ…!仕方ない!ここは引くぞ!」


「退却ー!退却ー!!!」


そして、俺とカルウェナン(八割くらいカルウェナン)を恐れ大慌てで逃げていくプラクシスを前に、俺は鼻で笑いながら剣を鞘に差し…一息つく。


いやぁなんとかなった…。


「ふむ……荒れ狂う熱に突き動かされるのもまた若さだが。あれは良くない動かし方だな…感心せん」


「あの、えっと…カルウェナンさんでしたっけ?助かりました」


そう俺が声をかけるとカルウェナンはガチャリと音を立てて鎧を動かしながら俺の方を見て…静かに頷き。


「いい、小生も勝手に割り込んですまなかった」


「いやいや援軍が来なきゃ俺袋叩きでしたよ」


「さて、どうだろうな。だが小生としても割り込まざるを得なかったと言うのもある」


「は?どう言う意味?」


「君の技を間近で見たかった。君の顔が…小生を負かした女によく似ていたのでな」


フッとクールに笑うカルウェナンさんを見て…俺を考える。よくあるんだ、こう言うパターン、出先で出会って俺によく似た女を見たと言う人間と出会うパターン、これってもしかして。


「それってもしかしてエリスって名前だったりします?」


「む?知っているのか?」


「知ってる何もエリスは俺の姉です…」


「ほう……」


カルウェナンはそれを聞いて興味深そうに俺を見て頷くんだ。しかし姉貴の奴…こんな人まで倒したのか?この人どう見ても強いとかそう言うレベルじゃないぞ…どうやって倒したんだ?


「それはいいことを聞いた、ステュクスと言ったな」


「え?ええ、はい…」


「改めて名乗ろう、小生はカルウェナン・ユルティム。今は流れの旅人として彷徨う武人だ、よろしく頼む」


「え?あ、はい…よろしく」


そう言って求められた握手に応じる、この人姉貴の敵…なのかな。昔戦ったとか言ってたけど変に友好的だ…どう言うことなんだ?


『と言うかお前迂闊すぎじゃろう、エリスの敵の可能性が思いつくならエリスの弟と名乗るな』


(そ、それはそうなんだけど…なーんかこの人からは悪意を感じないと言うか…)


『カルウェナンさぁ〜ん!もう先に行かないでくださいよぅ!置いて行かれたら私く…く、くく…狂うぅ〜〜〜!!』


『なんかさっき負け犬みたいに逃げてく負け犬がいましたけどもしかしてもう戦いとか終わってますぅ?』


「またなんか来た…」


そして、カルウェナンの仲間と思われる男女?がくるんだ。一人はもうボッサボサに髪を伸ばした陰気臭い女、もう一人に至っては頭が金庫だ。何がどうなってんだこれ。


「おおアナフェマ、セーフ。もう戦いは終わったぞ、そして面白いものを見せよう…見てみろ。こいつはエリスの弟だそうだ」


「えぇっ!?あの隕石女の!?単身でアジトに突っ込んできて一頻り暴れて帰った狂人ですよねェッエリスってェッ!!怖いぃ!怖くて狂うぅ!」


「人型台風の暴れ女ですよね…エリスって、大丈夫です?そんなに突いて、いきなり爆発しません?」


(姉貴…どんな暴れ方したんだ…)


どうやらここにいる二人も姉貴と戦ったらしく、評価が軒並み普通に生きていたら手に入らないものばかりだ。それでもカルウェナンさんはまるで久しぶりに会った親戚のおじさんみたいに朗らかに笑い。


「ははは、問題ない。どうやら弟の方にはエリスのような気質は受け継がれていないようだしな」


「まぁ、あんな風になる人間ってそうそういないと思いますけど」


「それよりステュクス、どうだ?少しそこで話でもしないか。小生は君に興味がある」


「興味?」


「ああ、君の外套の下に着ているのはマレウス王国軍のインナーだろう?しかし剣技はアジメク王国軍式を元にした我流もだった、エリスの弟という点を抜いても興味深い」


「あ…はは」


あの短い戦いで俺の剣の正体にも気づくとは…でもなんか、面白そうだし応じてみるか、何より…もしかしたらこの人達も知っているかもしれない、オフィーリアの話を。


………………………………………


そうして俺は、プラクシスをボコボコにした後近くのカフェで休憩を取ることにした。カフェの店主は『よくうちの街を守ってくれた!助かったよ!美味いやつ出すよ!』と言ってくれたので俺はコーヒーにミルクと砂糖を入れながらカルウェナンと共に席に着く。


カルウェナンはコーヒーを頼まず水を、アナフェマは冬時で寒いと言うのにアイスコーヒーを、金庫頭のセーフはお酒を頼んだがプラクシスが村の酒を全て持って行っているらしく出てこなかった。


「ふむ、師匠を殺され…敵討を、か」


「はい…」


俺の身の上をカルウェナンさんに話すと彼は腕を組み何度か頷き。


「かつての小生ならば、他者の生死に己の道を惑わされるなと一喝するところだったが…生憎小生も今復讐の旅路にあるが故にな、強くは言えん」


「え?カルウェナンさんも?」


「ああ、主君の仇をな、ここにいるセーフもアナフェマも同じだ…北部にいる可能性が高いと見込んで旅をしていたのだが、未だ手がかりは無しだ」


カルウェナンさん達も俺と同じ復讐の旅路にあるらしく静かに頷き、こちらを見ると…。


「仇の名は、分かっているのか?」


「オフィーリア・ファムファタール…セフィラと呼ばれる存在です」


「何ッ!?オフィーリアだと!?『美麗』のティファレトか!」


「え!?知ってるんですか!?」


俺は思わず席から立ち上がりカルウェナンさんに掴みかかってしまう。まさか本当に知っているなんて、まさかいきなり手がかりを見つけられるなんて!


「教えてください!オフィーリアは!?今何処にいるんですか!アイツは何処に向かったんですか!」


「落ち着け」


「いぃっ!?」


しかし掴み掛かった俺の手をキュッと捻りあげるカルウェナンさんにより俺はすぐに引き剥がされ…。


「まずオフィーリアの居場所だが…小生達は知らん。アレは元よりレナトゥスの命令を聞いて世界各地を巡る密偵であり処刑人だ、レナトゥスが言えばこの星の裏側にも行く女故…詳しい場所はレナトゥスしか知り得ないだろう」


「やっぱり…そうなりますよね…」


「しかし…君はオフィーリアに戦いを挑むのか?」


「無論です」


「……やめておけ、とは言えんが。生半可ではないぞ?セフィラは世界最強の使い手の集団だ、グループ単位での戦闘能力の高さは世界で二番目だ」


「一番は?」


「魔女だ」


つまりそのレベルの連中ってことか。いや師匠も勝てるか分からんって言ってたからそりゃそうだよな…姉貴達もボコされてるし、けど…。


「心配してくれてありがとうございます、けど俺やるって決めたんです。相手が強いからって諦める理由にはならないっす」


「………」


「えっと、カルウェナンさん?」


決意表明したところ、カルウェナンさんが急に黙ってしまった。え?何?と顔を覗き込むとカルウェナンさんは(兜で見えないけど多分)破顔する。


「いやすまないすまない、エリスと戦った時も…彼女は似たような事を言ったのでな。やはり君はエリスの弟らしい」


「え?姉貴が?」


「うむ、ならば止めまい。その決意の固さは如何なる方法でも曲げられないとエリスに散々理解させられたからな、寧ろ応援し協力しよう、若人よ」


「いいんすか!?」


「他でもない、小生達の仇もセフィラの一角…『理解』のビナーだからな、目的は通ずるところがある、よし…いいものを見せてやる」


そう言って立ち上がったカルウェナンさんは軽く首を動かしついてこいと示しながら店の外に出ていく…って。


「……え?支払いは?」


あの人勝手に出て行ったけど支払いとかする気ないのかな…と思っていると。


「す、すみませんカルウェナンさんちょっと浮世離れしてるところがあって…」


「あの人パンイチで歩いても特に恥とか感じないんで…」


とアナフェマさんとセーフさんが謝ってくる。なるほど、カルウェナンさんって意外に変な人なんだな…。


…………………………………


その後アナフェマさん達と割り勘で支払いを済ませ外に出ると、カルウェナンさんが腕を組んで待っており…。


「支払いは済ませてくれたか?」


「カルウェナンさん!貴方強盗するのは自分の道に反するとか言ってたじゃないですか!狂いますよ!」


「財布はお前達に預けてあるからな、任せたんだ」


「カルウェナンさんに財布持たせると落とすからでしょ!あーもー!狂うぅうううう!!」


「それよりカルウェナンさん、いいものを見せるってなんですか?」


「む、これだ」


そう言ってカルウェナンさんは足元で倒れている男に目を向ける…ってこれ、プラクシスのメンバー…俺達が倒したやつだな。


「まず、前提から言おう。プラクシスの背後にはマレフィカルムがいる」


「ええ!?」


マジかよ、こいつら人類の自由の為とか言ってマレフィカルムと関わってたのかよ…信じられない……ってこともないな、この反魔女思想の総本山である北部では寧ろスタンダードか。


「こいつら自体は善意で動いているが…その善意を都合良く扱い、操っている組織がいる。それが八大同盟のヴァニタス・ヴァニタートゥムだ」


「八大同盟!?いや…なんかそんな感じの話聞いたことがあるな…」


俺は顎に指を当てて必死に記憶を手繰る。末端構成員はその思想や善意を利用されて八大同盟に都合良く使われる…うん、確かに聞いたことがある。


「確か魔術解放団体メサイア・アルカンシエルも表じゃ魔術否定派の民間組織だけど、裏じゃ八大同盟が糸を引いてる…的な噂話を聞いたことがあるんで、多分それと似た感じですね」


城にいた時に聞いた噂話だ、民間組織のメサイア・アルカンシエル…表じゃ魔術を否定し使う事を許さないって主張をする団体だが、裏では八大同盟が糸を引いてそいつらを都合良く使ってるって話だ。多分それと同じ感じだろうと俺が言うと…。


「…………」


「…………」


「…アレ?」


なんかセーフさんとアナフェマさんが目を逸らしたんだけど…なんで?メサイア・アルカンシエルが八大同盟に操られてるって話…間違ってたのかな。


「まぁそんな感じだ、表で民間人が騒げば裏側を探られない。いいスケープゴートになるんだろうな、全く胸糞の悪い話だ」


とカルウェナンさんはウンウンと頷きながら腕を組む、そして…。


「そしてさらに重要なのが、ヴァニタートゥムを操るコルロ・ウタレフソン…こいつは裏でレナトゥスと関わっている可能性が高い」


「レナトゥス!」


ようやく繋がりが見えてきた、そう言うことか…つまりこいつら辿っていけばレナトゥスに、そしてレナトゥスが動かすオフィーリアに辿り着けるわけか!


「なら今すぐ…!」


「待て、レナトゥスが簡単にオフィーリアの居場所を吐くとは思えんし、更にコルロもレナトゥスの居場所は吐かん、レナトゥスとコルロと言う二大強者を経由するルートは危険だし時間がかかるぞ」


「ま、まぁ…じゃあどうすれば」


「真っ直ぐ道を進むだけが生き方ではないと言う事だな。我々はこいつらを締め上げコルロ達の情報を抜く…その上でこの北部の裏側を暴く。そこにはセフィラ達の居場所に通じる情報もある…コルロやレナトゥスの周りを探り情報を探っていくんだ」


そう言って軽く蹴ってプラクシスを起こし、見下ろすカルウェナンさん。なるほど…プラクシスがコルロに通じているなら馬鹿正直にコルロの話を聞くのではなく関連施設とかの情報をとればいいのか。


(でもそれじゃあ時間がかかり過ぎる…)


つまるところそれは虱潰しだ、プラクシス達からの情報をもとに話を整理して怪しい場所をピックしてまた情報を取って、コルロ達を避けながら嗅ぎ回るってことだろ?ダメだそれは、時間がかかったらレギナ達のところに戻れない。


何より、オフィーリアが北部から居なくなってしまうかもしれない。北部から出られたら本格的追いかける手段を無くす、そうなったらもう…師匠の仇は。


「イェッ!?俺は……」


「さて、話を聞かせてもらおうか…プラクシス」


「ひっ!お前ら…」


そして、俺とカルウェナンさんはプラクシスの残党を叩き起こし、見下ろす。取り敢えずこいつから情報を抜くのが先決か…。


………………………………………………………………………


「おい親父、レモネード」


「え?あ…はい、銀貨一枚で…」


「は?金とんの?」


「い、いや…今この街には酒がなくてさ、街のみんなが酒の代わりに飲んでるレモネードで…、金もらわないと原料の仕入れが……」


「…………」


「なんでもありません」


出店の親父からレモネードを受け取り俺は一気に煽ぐ、ん…中々に美味いな。と受け取ったグラスを眺めているとソロソロと出店のレモネード屋の親父が俺の顔を伺い。


「しかし、あんたら強いんだな…プラクシスの大群が、あんな有様とは」


「あんな雑魚倒して褒められても、不快なだけだ」


風の街アネモースにて、プラクシスに絡まれたバシレウスとタヴ。二人は迫り来るプラクシスの軍勢を前に戦った─────いや。


「い、いてぇええ!」


「いてぇよ…助けてくれぇぇ!」


「誰かぁ…!この傷を塞いでくれぇえ…!」


「ひでぇやあれ、いくらプラクシスとは言えあんな有様はなぁ…」


「それより、レモネードもう一つ」


行ったのは戦闘ではなく『駆除』だ。足を這う虫を紙を束ねて叩くように…一方的に、抗う手段など一切用意させず、ただ一方通行の暴力にてプラクシスを潰した。


今プラクシス達は両腕を折られ芋虫のように這いずったり、全ての歯をおられ横に曲がった鼻でフガフガと泣き、口から血を流し、皺くちゃの顔で戦いを挑んだことと生まれてきた事を後悔していた。その全てをバシレウスとタヴが行ったのだ。


「くだらねぇ、雑魚以下だった。時間の無駄」


「ああ!あんたうちのグラス…」


「あ?」


「いえ……」


更にもう一杯貰ったレモネードを飲み干しバシレウスはグラスを地面に叩き捨て首をコキコキと鳴らす。正直に言おう、期待外れどころの騒ぎじゃない…こいつらは剣を持って戦っても自分が痛い目に遭う事はないと思っているタイプのガキだった。

反吐が出る、今までロクに痛みを知らず生きてきたガキのお遊びに付き合わされたかと思うとな。


「チッ、おいタヴ。なんかわかったか」


「お前がやりすぎたんでな。まともに口が利ける奴いない」


「いてぇよぉ…だれかぁ…!」


「ぁあぁぁああ!いてぇよぉお袋ぉぉ…!」


「知らねー、つーかテメェの聞き方が甘いんじゃねぇのかよ」


一方プラクシスからコルロの情報を抜こうと色々聞き回っていたが…どうやら成果はないようだ。やりすぎとは言っていたがタヴもそれなりにやってたろ、魔法でぶっ飛ばして『お?タヴ殺したか?なら俺も殺すか?』と殺しを解禁しそうになるくらいにはやってた…まぁ誰も死んでなかったか。


「聞き方が甘いか、ならお前の聞き方とやらを見せてもらおう」


「はぁ?面倒クセェしウゼェ…けど」


首に手を当て回しながら足元でピーピー喚く甘ったれに視線を向けて、取り敢えず一つ突きつけてみる…前提条件を。お前達は聞かれる側じゃねぇって事を教えてやる。


「何も答えないなら殺せばいい、生かしておいたのはどの道聞くためだしな。ああそれと答える奴は一人でいい…それ以外は殺そう、全員生かしておく価値はない」


「えッ……!?」


プラクシス達が痛みを忘れてギョッと目を見開き、バシレウスを見た後…そろぉ〜っとプラクシス達はお互いを見合い…。


「じゃあ聞く、プラクシスのアジト、先生とやらの名前、それとコルロについて知ってる事───」


「アジトは森の中の黄金の館!」


「先生の名前はし、知りません!マジです!先生としか呼んでません!」


「コルロってコルロリズムのですか…!?わ、分かんないです由来とかは!」


「黄金の館は!えっと!あっちです!」


「ぁああああ!先生は女の人です!殺さないで殺さないで!」


「そ、それと先生は赤髪…黒髪?です!赤黒髪の女性です!」


失禁しながらペラペラと喋るプラクシスを前にドヤ顔でタヴを見る。な?甘いんだよお前のやり方は。

こっちが聞く側あっちが答える側…それじゃあ向こうに答えるかどうかの主導権が行く、だから正しいのはこっちは殺す側、向こうは死ぬ側の構図。そこに情報提供を理由に生かす道を提示するだけでいいんだ、これなら主導権はこっちに来るからな。


「ほう、見事な手際だ…お前ただのバカじゃないな?」


「そもそもバカじゃねぇよ…!しかし」


受け取った情報を聞くにこいつらの先生がコルロかどうか識別が出来ない。一応黒髪の先生らしいが別人臭いと感じるのは気のせいか?だがどの道コルロを知ってそうだし…まぁ。


「じゃあ潰しに行くか?黄金の館」


「そうだな、森の中ならここから行けば十数分で到着出来る。軽く蹴散らしてコルロを探すか?稚拙な革命の提案者…如何なるか」


ムスクルスが街で金を稼ぎ終えるまで暇だ、暇つぶしがてら一つ潰してやるのはいいかもしれないな。しかし気乗りしない…これでクリサンセマムみたいにボコボコになりながらも向かってくるならまだしても叩いたら『痛い痛い』蹴ったら『やめてやめて』…気が滅入るわ、痛めつけるのは好きだが反応が予想通り過ぎて面白くないんだよな、こいつらの相手…。


「覚悟しろよ…黄金の館には、俺達とは比べ物にならない強者がいる…」


「あ?」


そんな中両腕の骨を折られたこいつらのリーダーレコンがくつくつと笑う。


「何より先生はな!マレウス王国軍すら蹴散らすくらい強いんだ!お前ら程度捻り潰して公開処刑されるだろうよ!」


と言うんだ…へぇ、その先生とやらはそんなに強いのか。そうかそうか…。


「面白そうじゃねぇか」


「へ?」


「その先生とやらは強いんだろ?負けないんだろ?ならそいつの首をここに転がしたらお前らどんな反応するんだ?」


「え…いや…先生は強くて…!」


「だからどうした、俺は最強だ」


面白くなってきやがった、その先生とやらがコルロであろうがそうでなかろうが殺してプラクシスの前に晒せばいい顔が見られそうだ…腕の次は心を折ってやろうと舌舐めずりをしながらバシレウスはポケットに手を入れ歩き出す。


「バカな事を言ったな、レコン」


「え?」


「貴様、あの男に火をつけたぞ。黙っていれば途中でバシレウスの興味が失せたものを…最早お前達の先生を殺さねば事の終息は見込めんな」


「いや…俺はただ…」


「まぁ任せろ、…必要以上にに殺させはしない。必要以上はな」


そしてタヴもまたバシレウスに追従する。狙うは先生…さてどうやって殺すかな。


………………………………………………


「で、この先に黄金の館がある……ってわけですかい」


「のようだな、ステュクス。お前森は歩けるか?」


「地面が繋がってるなら大体どこへでも歩いていけます」


森の茂みを払いながら歩くステュクスはカルウェナンの先導を前に見ながら呟く。結果から言うとプラクシスの兵士は面白いようにホイホイ吐いた、黄金の館が本拠地なのは知ってたがどうやらこいつらに入れ知恵してる先生とやらがそこにいるらしい。


そして、カルウェナンさんはそいつこそコルロ…或いはコルロに直接繋がる何者かと疑っている。その辺の事情には詳しくないから俺はもうついていくことしかできない。


それにしてもだが…。


「あ!カルウェナンさん!魔獣が出ました!」


「自分で対処をしろアナフェマ」


「いぃぃいい!冷たく突き放されると狂うぅううう!会長助けてぇええ〜〜!」


「仕方あるまい」


ガサガサと茂みが揺れ、奥から現れたのは通称『龍兎』のドラゴンラビット…3メートル近い体躯に鋭い牙と発達した足で歩く龍みたいな兎。協会指定危険度はCランク、そこらの冒険者なら複数人で討伐するべき大物を前にしたカルウェナンさんは…。


「九字切魔纏…!」


「キシャァアアアアア!」


拳に淡く輝く光を纏わせ、迫る龍兎を狙い────。


「『闘』ッ!!」


「ぐぶぎゃぁあ!?」


一撃、拳が龍兎の額を叩き頭部が体に陥没した龍兎は木々を薙ぎ倒しながら吹き飛び視界から消える。


……それにしてもだがカルウェナンさん、強すぎやしないか。


『物好きな奴じゃのう、いや不器用と言うべきか。あそこまで魔法を実直に極めるとは古風な男よ』


ロアは言う、カルウェナンさんは魔法の技量だけで見るなら魔女にも匹敵する達人であると。実際俺の目から見ても俺が今まで見てきたどんな強者よりも強く見える。


そうだ、師匠や姉貴…ジズやマラコーダと言った怪物達を含めてもだ。こんなのがホイホイその辺歩いてていいのかってレベルだ。


「片付いたぞ」


「いやぁこの森魔獣出るんですねぇ〜!南部の密林ほどじゃあないですけども」


「自分でチマチマ倒さないといけないって面倒ですよねぇ〜」


「お前達は戦ってないだろ」


さっきからカルウェナンさんは一人で戦っている、セーフさんが『でっかい蜂が出たぁ〜ッ!?』と騒げば蹴りで撃ち落としアナフェマさんが『ひぃいいい!キモい蛇が出たぁ!』と言えば腕を弾いた衝撃波で吹き飛ばし、その上で一切の消耗が見えない。


……強い、あまりにも。


「さぁ進むぞ…」


「カルウェナンさん!」


そうして茂みを切り裂き進むカルウェナンさんの隣に立つ。こんなにも強いなら…聞いてみたい。どうやってそんなに強くなったか。


「カルウェナンさん、俺…聞きたいんです。カルウェナンさんってめちゃくちゃ強いっすよね」


「強い事は自覚している、だがめちゃくちゃかは分からん」


「どうやって…そんなに強くなったんですか」


「質問の意図が分からんな。どうやってと言われても朝起きて鍛錬をし昼飯を食って鍛錬をし夜寝るまで鍛錬をしただけだ」


「…っすよね……」


しかし、返ってくるのは聞き慣れたセリフ。鍛錬をしただけだ…と、そうだ聞き慣れたセリフだ。この世で強者と呼ばれる人間はみんな同じ事を言う、師匠に聞いても姉貴に聞いても『鍛錬して強くなった、一足跳びで手に入れた力は脆い』と。


そんな事、分かってるよ…けどさ。


「俺、強くなりたいんです」


「もう強いはずだが」


「でもオフィーリアはもっと強いんですよね」


「ああ、強いな。比較にならん」


「俺…オフィーリアを倒したいんです!今のままチマチマ修行してたら倒せるのはいつになるか分からない!だから一気に強くなりたいんです!カルウェナンさん…出来るなら貴方の奥義を俺に────」


「ステュクス」


その瞬間、カルウェナンさんは目の前の木を掴み…バキリと音を立てて握り潰しながら横に退ける。その厳しい言葉が俺を穿ち…。


「お前はお前の師匠の意志を通す為にオフィーリアと戦うんだろう。なのに…他の人間の師事を受けるのか」


「うッ……」


「少なくとも魔女の弟子達はそこを通していたぞ。そこを捨てでも小生の教えを受けたいなら…オフィーリアを狙うのをやめろ」


「………ッ…」


何も言い返せない、その通りだから。むしろ俺は何を言っていたんだ、師匠が死んだからって別の人間に教えてもらおうなんて、そんな軽薄な奴が…意地通すなんてカッコつけてバカじゃねぇのか。


「すん…ません…」


「…………」


深く落ち込む俺の姿を見たカルウェナンさんは一つ何か考え込むような素振りを見せた後…。


「む、見えたぞ…ステュクス」


「え?あれが…ってぇッ!?」


茂みを一つ避けるとそこには館が見えた、黄金の館だ…あれがプラクシスのアジトだ、すぐに分かったよ。なんでかって?…だってマジでそのまんまだったから。


「金色の館ァッ!?」


「静かにしろステュクス」


そこには陽光を浴びてキラキラと光豪華絢爛な館があったんだ。あんな館をアジトにしといて『権力はくだらない』『みんな平等』とか言ってたのかよプラクシスの奴ら!つくづく人のことバカにしてんな!


「まさかマジで金色とは…で、どうするんですかカルウェナンさん」


「…………」


カルウェナンさんさんは静かに館を見据えた後、カチャリと音を立てて兜を動かしこちらを見ると。


「コソコソ隠れて、潜入すると思うか?」


まるで、同意を求めるようにカルウェナンさんが笑ったように思えた。


………………………………………………………………


「権力とは、魔女が生み出した悪習です。かつて大国が十三に別れていた頃は人々は皆対等でありました。人とは元来上も下も作らぬ物なのです、天は…人の上に人を作らぬのです」


『おおおお〜〜……!』


黄金の館の最奥…経典の間にで若者達が集まり『授業』を聞く。その中央に立つ女は黄金の本を手に若者達に世の中の真理を問う。人とは如何なるかを知らぬ若者に年長者として解を与える。


「若者よ、戦いなさい。人は人らしく、貴方は貴方らしく生きるのです。世界が予め決めた身分や押し込めた型に収まるな、ここにいる皆には名前があり、一人一人が英雄なのですから…!」


「教導者様!俺たちやりますよ!」


「そうだ!教導者様の言う事は正しいんだ!」


「ネビュラマキュラ王家から自由の拡散を!魔女の支配を打ち倒し平等なる世界を!」


『平等なる世界を!』『平等なる世界を!』

『平等なる世界を!』『平等なる世界を!』


雨のように響く歓声を受けた女性は立ち上がり両手を広げる、それは教え導く者の姿、教導者としてのあり方。彼女はニヤリと笑いながらローブを脱いで顔を晒し…目の前の従僕たちを見つめる。


北部の子供達は不幸だ。無関心な領主により魔女排斥組織達による『反魔女啓蒙活動』が跋扈し魔女への悪感情が民間にも広まった結果…『魔女の支配が悪である』と言う感情以上に『啓蒙活動は正義である』と言う認識が広まってしまった。


人の言葉を簡単に信じる、出所の知れない情報を前に知識ではなく感情で善悪を判断する。それが蔓延り頂点に達した世代こそがこの世代だ。彼らは魔女以上に支配が悪であると語る『教導者』を心酔していた。


そんな支配の容易さを利用し、先生は人類自由理論を唱え…彼らに自由を得る為の闘争をさせている。そんな裏側にも気が付かず興奮する連中を見ていたら楽しくなってしまうんだ…だから。


彼女は一部の人間にしか伝えていない己の名前を伝える。


「さぁ、皆の者…共に知識を高めるのです。支配に抗えるのは識だけ…故についてきなさい、この…」


金髪を揺らし、彼女は…教導者は…胸に手を当て、述べる。


「この『エリス』に…コルロリズムの提唱者にして孤独の魔女の弟子であるエリスについてきなさい」


「うぉおおおおお!!」


「魔女の教えを受けながら正義に目覚めた我等が女神よぉおおお!!」


「魔女を裏切る正義の使者!我らが先生エリス様ァーッ!!!」


金髪を流した教導者は…エリスは経典を手にローブを着込み民を導く女神となる。その瞬間……。


「大変です!教導者エリス様!」


「おや?どうしました?レボルシオン」


扉を弾いて息を切らして現れたのは…フォーレの街から撤退したレボルシオンだ、彼はエリスの顔を見ながら…語る。


「実は…街で教導者エリス様そっくりの男を見かけまして。彼もまた自由の戦士かと思い声をかけたところ…とんでもない!魔女の下僕だったのです!」


「魔女の下僕?それはまた…名前はわかりますか?」


「分かります!名前はステュクス!魔女の下僕ステュクスです!」


ドヨドヨと混乱が広がる。まさか北部に魔女の従僕が現れるとは、と。その混乱を見たエリスは…大きなため息を吐き。


「では、私が討伐しましょうか…」


そう言いながらエリスは動き出す、魔女を裏切り魔女の敵対者と呼ばれるエリスが魔女の下僕と呼ばれるステュクスを誅伐する為、動き出す。


それと、殆ど同じタイミングだった……。


『襲撃者だァーッ!人数は四人!正面から攻めてきた!』


『教導者エリス様そっくりな男がいるぞー!!!』


「ッッ…まさか!攻めてきたのか!?」


入り口から守衛の声と共に正面突破を行う者達の騒ぎが聞こえる。攻めてきたのだ…ステュクスが。


「なんて事だ!この黄金の館が攻撃を受けるなんて!」


「戦だ!剣を持つぞみんな!」


「先生に教えてもらった剣術で叩きのめしてやる!」


「へへへようやく実戦だ!素振りばっかりで退屈してたんだ!」


ゾロゾロと動くプラクシス達、部屋の中にいた数百人の若者が剣を手に動き出す…そんな中、エリスは。


「エリスと顔が同じ…?まさか……」


目を細め、歩き出す。エリスと同じ顔を持つ男などこの世に一人しかいない…ならばと経典を抱きしめながら、歩き出し…正面門へ向かう。


…………………………………………………………………


「オラァッ!!」


「フンッ!!!」


「ぐぶぼぉぇっ!?」


「こ、こいつらバカ強え〜!なんだよこいつら!」


攻めるなら正面突破以外あり得ないと語るカルウェナンさんによって黄金の館に乗り込んだ俺達は次々と湧いてくるプラクシスの兵士達を前に…疑問を口にする。


「いや周りを探ってコルロに悟られないように情報を得る作戦でしたよね!俺今ものすごい目立っている気がしますけどカルウェナンさんどう思いますか!」


「ああ…そんな事も言ったな、忘れていた」


「ステュクス君カルウェナンさんの言う事間に受けちゃいけませんよぉ!この人戦闘以外は結構抜けてる人なんですから!人生ノープランで生きてる人です!真面目に相手してると狂いますよ!」


「ホワチャー!しかし全然弱いですねぇこいつら!」


「あ、そうですね。雑魚ばっかりです」


機敏な動きで蹴り飛ばすセーフさんと杖を振るいプラクシスの兵士を薙ぎ倒すアナフェマさん、この二人も中々に強いらしく勿論プラクシスの未熟な兵士では相手にもならないようだ。


そう…未熟だ。


(未熟だ、あまりにも。剣の振り方だけ教わって体捌きも何も教えられてない…というか実戦経験すらない、これなら新人冒険者の方が強いぞ…こんな奴ら集めても戦力になんかならないだろ)


弱いというより未熟、場に出る為に必要な知識を与えられていない。それが俺がプラクシスの兵士に感じた感想だ…『こいつらマジ弱いぜぇ!俺様の相手にもなんねぇーぜ!』的なイキりより先に不穏な何かを感じる。


これを集めて、何かをしようとしている人間がいる事。人を集めるなら普通は戦力にするだろ、剣を与えて振り方を教えてるのに戦い方を教えない…それで何をしようとしているのか。そこに奇妙な何かを感じる。


「カルウェナンさん…」


「ああ、戦場に立つには不適切な練度だ…これはただクーデターを起こす為に人を集めているわけではなさそうだ」


とは言うもののカルウェナンさんは一切手を抜かない。アナフェマさん曰くカルウェナンさんは道という物を定めて生きる男らしく、彼の定める道的に相手が誰でも手は抜かないらしい。そんな人が相手ってのもプラクシスが可哀想だ。


「クソォ…!どうすりゃいいんだぁ!!」


「助けてぇぇえ!」


「このままここで無意味に戦っても気分悪いだけです!カルウェナンさん!やるなら奥まで突っ込みましょう!」


「ああ……いや待て」


「え?」


逃げ惑うプラクシスの兵士達を超えて先に向かおうとすると、カルウェナンさんが手を前に出し俺の歩みを止めて…。


「何か来る」


「何か?」


『むぅ、ステュクスよ。ちょっと気をつけた方がええぞ、どうやら親分のお出ましじゃが…雑魚共とは比べものにならんぞ』


ロアまでそんな風に言うなんて。一体何がと視線を奥に向けると…黄金の館の最奥に通じる廊下、さらにその奥の扉が開き…現れる、その濃密な魔力と気配…これあれか、連中と言っている。


「教導者様だ!」


「教導者様が来てくれた!」


「教導者様ー!」


教導者……先生って奴のことか?こいつらを扇動する指導者。それがローブで顔を隠しながらコツコツと靴音を立てて現れて…ってあれ?あの体格、それにローブの隙間から見える金髪って。


「皆の者、怯えることはありません。私が…共に戦いましょう」


「ッッ…この声、いや…嘘だろ」


聞き覚えのある声、それを響かせた『そいつ』はローブを外し…こちらを見る、その顔はまさしく……。


「侵入者を、殺しましょう」


「姉貴!?」


まさしく姉貴…俺の姉貴、エリスの物だった。それを見たカルウェナンさん達の動きが止まる────。


「ぎゃあああああああ!いつかのイカれ女!」


「ひぃいいい!今アイツの相手したくないですよカルウェナンさん〜!」


「……………」


怯えるアナフェマさん、戦慄するアナフェマさん…そして黙るカルウェナンさん、全員が姉貴の顔を見て止まる。俺もまだ止まる、ここにいるはずのない存在の、そして唯一の肉親が敵として立ちはだかる事実に。


「いや…いや……」


「ふふふふ、貴方達の相手は私がしましょう…孤独の魔女の弟子エリスが」


「いや………」


口がぱくぱく動く、姉貴は杖を構えながらこちらを見ている…けど、いや…というか。


(いや絶対偽物じゃん!!)


はっきり言おう、顔は同じだ、声も同じだ、多分二人並べて同じ格好をさせて同じセリフを言わせたらどっちがどっちか分かりないレベルだと思う…けど、けど。


「どうしました?黙ってしまって…」


(キャラが違いすぎるだろッッ!?)


どう見てもキャラが違う、姉貴はそんなたおやかに笑わねぇし敵を前にしてウフフとか笑わねーし何より扉を開けてゆっくりやってくる事もしない。本物の姉貴なら『あ!扉が開いた!』と思った瞬間飛び蹴りでエントリーする。


こいつは偽物だ…偽エリスだ、偽エリスなのは分かるが、どういうつもりだこいつ、そもそも誰だこいつ。


「おいテメェ、誰だ…」


「名乗ったでしょう…エリスですよ、孤独の魔女の弟子でありながら魔女を裏切り自由を謳う識者たる私は……」


「姉貴がそんな事を言うはずがねぇ!魔女を裏切る?本物にそんなこと言ってみろ、お前人の形してられないぞ」


「私は本物のエリスですよ、私は…エリスです」


「話になんねー。話にはなんねーけど文句はある、その顔で気味の悪い笑い方すんじゃねぇよ…あの人は、俺にとって唯一の肉親なんだよ…!」


剣を立て、エリスを前に構える。今はコルロとか情報とかどうでもいい…まずはこいつを斬り倒す。話はそれからだ…!


……………………………………………


「あそこが金色の館…だったか?」


「黄金の館だな、こんなところに悪趣味な」


「あれこそザ・権力者のお家って感じじゃねぇかアホらしい」


黄金の館の裏手に迫る二つの影、正面のステュクス達に気を取られているプラクシス達はこの二人の到来に気が付かない。そうしている間に二人は着実に館に近づき……。


「んじゃ、館ごと消し飛ばすか」


木々の影から現れたバシレウスは手の中に魔力を集める。街の連中から聞いた黄金の館、そこにいる先生とやらの首を捩じ切って連中の前に晒してやるため、今俺はここにいるんだ。けど馬鹿正直に目の前から行って勝負してやる義理はない、最初から全開で館ごと消してしまえば……。


「阿保かお前は」


「ああ?」


しかしタヴはそれを制止しながら静かに館を見遣る。


「あそこにコルロがいるにせよ居ないにせよ、館を消し飛ばすのはやめておけ」


「なんでだよ……」


「あれがどう見てもヴァニタートゥムの重要施設だからだ」


タヴは語る、あの館にコルロが居るにせよ居ないにせよヴァニタートゥムにとっては重要な施設だからだ…と、けどそれならなおのことだろ。


「だったら潰すに越したことはないだろ」


そう俺が不満げに言うとタヴはチラリと俺の顔を見た後、胸大きく上下させため息を吐くと。


「はぁ…ありえんな。お前も王の一人であると言うのなら大局を見て物を言え。あれがコルロにとって重要な施設ならコルロに繋がる情報もあそこにあるかもしれないだろう」


「む………」


「せっかく掴みかけた尻尾を自分で引きちぎってどうする。それにプラクシスの存在も気になる…コルロがあれをどう使うつもりで居るのか、俺は気になって仕方ない」


「知らねー、単にああ言うのが趣味なだけじゃねぇか」


「かもしれんが、そうじゃないかもしれん」


「面倒臭え、ならとっとと雑魚皆殺しにして済ませるぞ」


「ああ……」


面倒臭い、そう感じながら俺は黄金の館に向けて歩き出す………そんな中、タヴは。


(しかし気になるな、奴らは『先生』なる人物を赤い黒髪の女と語った…コルロの髪は青に近い黒、コルロじゃないのは間違いない。となるとヴァニタートゥムの赤黒髪となると…)


タヴは考える、そして一人該当する人物がいることを思い浮かべ…静かに首を振る。


(ありえんな、奴がいるわけがない。奴が出てきたらそれこそコルロだプラクシスだと言う話ではなくなる…)


否定する、あり得ないと、先生は別の人間だと…それでも予感は拭えず。


「おいタヴ!テメェ日和ってんのか!?ついてこいよ!」


「ああ、すぐ行く」


そして…向かう、黄金の館へと。


それはこの北部で行われる大戦の序章にして、恐らく…最も大規模な紛争の幕開けとなることを、まだこの時は誰も知らないのであった。

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