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孤独の魔女と独りの少女【書籍版!8月29日発売中!】  作者: 徒然ナルモ
十八章 ナリア・ザ・ハード 〜サイディリアルより愛をこめて〜
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外伝・大冒険王の大冒険 その1


冒険者とは、人知を超えた怪物たる魔獣を狩る者達の事を指す。時に剣を使い、時に魔術を使い。浅い知恵と安い命を使って世の為人の為死んでいく者である。


誰よりも自由で、誰よりも責任が伴うこの仕事に魅入られた男が…女が、今日もカストリア大陸西部に存在する大国マレウスにて、冒険者協会の門を叩く。剣に覚えがある奴、魔術の心得がある奴、色んな技を携えて…魔獣達に挑んでいくんだ。


……全ては、人の世の安寧のために。戦えない全ての人達の為に、代わりに命を張るんだよ。


………………………………………………………………



それは、今から半世紀以上も前の事。マレウスという国がまだ平穏だった頃の話、マレフィカルムも活動を本格化させず、レナトゥスも生まれておらず、弟子達も未だ影さえ存在せぬ…昔話。


ソイツは…突如として発生した。


ライデン火山の中腹を突き破り出現した災厄の魔獣…後に冒険者協会よりオーバーAランク『灼炎の焉龍』の名を戴くキングフレイムドラゴンは、唐突にマレウスの大地に降り立った。


全長150メートルを超える巨躯、人類の想像を絶する域にある炎熱魔術を扱い、虱潰しにするが如く人類文明に敵意を向ける巨大な魔獣の到来によりマレウスは未曾有の大災害に見舞われる事となった。


キングフレイムドラゴンは人類に常軌を逸する程の敵意を見せ、街から街へと渡り歩き、人の集落を見つけると徹底的に破壊し尽くした。どんな小さな街も丸一日かけて徹底的に焼き壊し、逃げ惑う人々も焼き殺し、抵抗する者すら許す事なく消し焦がし、そしてまた別の街へ…。数日ごとに一つの街が消えていく最悪の日々がマレウスに訪れたのだ。


当然人類も抵抗した。王国軍、冒険者協会、裏では魔女排斥組織すらもキングフレイムドラゴンに抵抗したが…いや、それは抵抗とすら呼べる物ではなかった。


「も、もうダメだ!撤退だ!撤退ーッ!!」


「敵うわけない…こんな、こんなの!」


「ひぃいい!熱い!熱いぃい!助けてくれぇええ!」


キングフレイムドラゴンは今、南部のとある街を襲っていた。そこで待ち受け迎撃の姿勢をとっていた冒険者協会だったが、半日と持たず壊滅。南部の街は既に空を覆い尽くす程の黒煙に見下ろされ…焦土と化し、冒険者達は抵抗すら出来ず逃げ出すしかなかった。


『ゴゴゴゴゴゴ……』


そして、そんな冒険者達を見下すのは、破壊の権化にして終焉の象徴…巨龍キングフレイムドラゴン。二本の両足で立ち、黒煙に覆われた雲の中で輝く真っ赤な双眸を大地に向け、逃げる人々を見逃す事なく壊していく。


『ゴァッ!!』


刹那、口を開いたキングフレイムドラゴンから発せられたのは…光。炎を超え純粋な熱のみによって構成された現象は槍のように大地に向け突き放たれ、大地を抉り融かし…山の向こうでキノコ型の爆雲を生み出す。


その一撃で、数千人が死ぬ。その余波でまた数千人死ぬ、生き残った人間も次の一撃で死ぬ。死を撒き散らしながらキングフレイムドラゴンは闊歩する。


「もうダメだー!世界は終わりだー!」


「ひぃいい!お袋〜ッ!」


「誰か!誰か助けてください!お母さんが!お母さんが家の下敷きに!誰か助けて!」


燃え盛る家屋の瓦礫の前で少女が叫ぶ。されどそれを助ける者はいない、誰も彼も…自分の命を守るので精一杯なのだ、勇んで駆けつけた冒険者達は皆武器を捨てて次々と逃げていく。


「誰か…誰か助けて…」


燃え盛る街、消えていく命達、それを前に少女は煤だらけになった服をギュッと掴み…。


「え?……あ」


見上げる、…そこには自分を見下ろす…竜の金眼が。


『…………』


「ヒッ…い、いや…誰か…誰か…』


腰を抜かし、後ずさる少女…しかし龍は無慈悲にも口を開き。


「誰か…誰か助けてェッ!!」


『ゴァアアアアア!!!』


─────この日、また一つ街が消えた。住民は残らず消し炭となり、迎え撃った冒険者の九割も死に絶え、人類はまたも…龍に敗北した。


最早慣れ切った敗北、終焉が日常となった国。マレウスの終わりを…誰もが予感していた。


……………………………………………………


「南部遠征に出掛けた冒険者七千五百人、うち…帰って来たのはたったの十五人…か」


王都サイディリアルに存在する冒険者協会本部にもたらされた報告は、人々を絶望させるには十分過ぎた。死んだ目で報告しに来た冒険者は、その報告の後に崩れ落ち…生存者は十五人から十四人になった。


この作戦は冒険者協会に残された最後の戦力を用いて行われた決死の作戦だった。既に協会の会長は国外へと逃げた。王国最強の騎士も死んだ、マレウス国軍は既に壊滅状態で戦える人間は冒険者協会にしかいなかったが…それもまた過去の話になった。


もう終わり…そんな言葉が協会内に充満する。抵抗できる手段は無いし…最早しようとも思えない。ただただゆっくりと時間をかけてキングフレイムドラゴンに殺されていくのを待つしか無いのだ。


「もうだめだ…やっぱり会長みたいに、俺達も国外に逃げようかな…」


「遠目から見たよ、あんな怪物…勝てるわけない」


「終わりだ。…もう、終わりなんだ」



「何諦めてんだよ!みんな!」


しかしそんなみんなを一喝するのは、銀髪を束ねた姉御肌の女…冒険者協会専属技術者のシャナだった、彼女は幹部も会長も消えた冒険者協会のまとめ役として誰よりも働いて来た冒険者協会最後の柱だ。


そんな彼女が、諦めムード漂う協会の冒険者達に向け声を荒げる。しかし冒険者達は力無く首を振るばかりで…。


「シャナ姐…、もうやめにしようぜ。俺達も立派に戦った、結果として…ダメだったってだけだ」


「アタシ達が逃げたら…誰がこの国を守るんだい!?アタシ達は魔獣退治の専門家の冒険者だろ!?それが…諦めたら」


「諦めるしかないんだよ!もう…協会には殆ど人も残って無いし、あんただってもう何日も寝てないんだろ!?」


「それでも…」


シャナは必死に戦っていた、前線に立てない代わりに何日も寝ずに働き、時として拠点設営に一人で出向き、会長不在でガタガタになった協会を一人で支え冒険者達のバックアップをして来た。


だがそんな生活ももうすぐ半年。彼女の体だって限界に近い状態にあった、だというのに未だ暗雲は立ち込め終わりが見えない…いや、もしかしたらもう終わっていたかのかもしれないと思える程、状況は最悪になる一方だった。


「そうだ、私達も魔女大国に逃げましょう!マレウス国民の内の何割かも魔女大国に逃げ延びたって話だし、マレウスの状況を聞いてデルセクトが緊急の避難先として動いてくれているみたいだし…」


「それは…、なんでアタシ達があんなトカゲ風情のせいで祖国を捨てなきゃいけないんだ!」


「シャナ…あんたには感謝してるよ、寝ないで俺たちのサポートをしてくれたあんたには感謝が尽きない!けどあんたはキングフレイムドラゴンをその目で見てないだろ!」


「う…」


「キングフレイムドラゴンはな、下しか見ないんだ。なんでか分かるか?それは人間は地面にしかいないからだ!アイツは人間を殺す事しか考えてない!意志を持って襲いかかってくる大火災を相手に人間に何が出来る!」


「そうだそうだ!アイツにゃ剣も弓も魔術も効かねぇ…炎がある限りアイツは無敵だ。そしてその炎をアイツ自身が生み出している。つまりアイツは絶対に倒せないッ!」


「もう逃げるしか無いんだ!魔女大国に…!」


「でも…そりゃ、…わかるけど…」


シャナは迷った、これ以上戦えといえなかった。彼女がそう言ってかき集めた冒険者はみんな死んだ、守ろうとした民間人も含めてみんな死んだ。これ以上戦って死ねとは言えなかった、だが戦わなくてはやっぱりみんな死ぬ。


デルセクトがある程度民間人を受け入れてくれているとは言えマレウスの国民全員が移住するなんてのは現実的じゃ無いし、何より誰も祖国を捨てたくなんかない。


マレウスは祖国を失い難民となった人達によって構成された国。そんな人達に今一度祖国を失う悲しみを背負えとは言えない。けど…もうマレウスに住まうこともできない。


「どうすればいいんだ…」


この半年でキングフレイムドラゴンの生態は徐々に分かり始めた、けれどそれで光明が見えるどころか…益々絶望のどん底へ叩き落とされる。


キングフレイムドラゴン…全長150メートル。ドラゴンでありながら二本足で立ち前足を腕のように扱う巨人のような姿をしている。外皮は硬い赤鱗で覆われ高い防御力を持ち、膂力は一撃で城塞を破壊する程に強力。なによりも恐ろしいのは扱う炎熱魔術の高等さ。


奴は常に超高温の熱波を身に纏っている、歩くだけで大地が焼け、触れただけで金属が溶ける。剰え口から放たれる炎熱咆哮は一撃で山一つ消し炭に出来る威力と来た。その上奴は周囲の炎を吸収して負った手傷を瞬時に癒す力を持つ、故に炎が周囲にある限り奴を殺すことは出来ない。


そんな高密度のエネルギーを扱うせいか奴は一度街を破壊し暴れると一日休眠状態に入る。じゃあここを狙えばいいかと言えばそうでもない。


休眠中のキングフレイムドラゴンは『炙炎状態』と呼ばれる状態に移行する。この状態になると周辺温度が急激に上昇しあらゆる生命体を焼き焦がす状態に入る、謂わば見えない炎で周辺を焼き続ける状態に入るのだ。これが厄介で下手に近づくとそれだけで消し炭になってしまう。


そして一日経つと起き上がり、再び歩き出し別の街を襲う…大体サイクルとしては一週間に一度のペースで街が消されている。東部から北部に移り、北部から中部を横断し、今は南部にいる。そしてキングフレイムドラゴンに襲われた地区はどこも壊滅状態…なんとかサイディリアルは無事だが、いつ目をつけられるか分からない。


北部と東部と南部の難民を受け入れ、野戦病院状態となったサイディリアルが襲われれば…その被害は過去最も凄惨な物になる。


(そうなる前にみんなで魔女大国に?…無理だ、現実的じゃ無い。移動できない人もいるし拒否する人もいる、凄まじい数の人々を見殺しにすることになる…!)


シャナは頭を抱える、なんとかしてマレウスを助けたい。けれど…それでもなんとかする方法なんてのは何処にもない。


「シャナ…あんたには感謝してると、再三言わせてもらう。けれどもう無理だ、南部での作戦が失敗した以上俺たちに出来ることは何も無い」


「ちょっ!あんた達!」


「悪いな…もう逃げさせてもらう、まだ西部の方は安全だし、そのままデルセクトに行かせてもらう」


「ま、待って!」


それでも立ち去ろうとする者を止めようと動いてしまうのは、彼女の中にまだ諦めきれない何かがあるからだろう。縋れる希望なんてのはどこにも無いのかもしれない…それでもまだこの国を諦めて欲しくないと、彼女は入り口に向け先回りするように走る…すると。


「キャッ!?」


何かにぶつかり尻餅をついてしまう、入り口の扉は開いているというのに彼女の体は何かに跳ね飛ばされバランスを崩す。ぶつかったんだ、冒険者協会に入って来た誰かに。


「いてて、ごめんよ。ちょっと慌てて走っちまって…あんた、怪我はないか……え」


慌てて立ち上がり、ぶつかった相手に謝罪するシャナ、しかし…謝罪のため開いた口は、閉ざされることなく呆然と更に開かれる。


なんせ、シャナがぶつかったのは人間ではなく…人型の炭だったから、あ…いや違う。人だ、全身炭に覆われた人、…これは。


「あんた…ガンダーマンッ!?」


「シャナか…」


ヌッと大きな体を動かし、炭の足跡を残しながら歩くのはガンダーマン。…シャナとも付き合いの長い男であり、今冒険者協会に残っている数少ない四ツ字冒険者『大暴剣断』のガンダーマンがそこにいた。


トレードマークとも言える腰まで伸びる赤茶の髪を真っ黒に染め、オオカミのように鋭い眼光を下に向け、ガンダーマンはトボトボ歩く。彼は今病院にいるはずなのに…とそこまで考えたシャナは顔を青くし。


「ガンダーマン…あんたまさか、またキングフレイムドラゴンに一人で挑んだのかい!?あんた病院で療養中の筈だろ!?」


「南部にヤツが居るって聞いたからな。寝てられん」


「アンタ…マジで死ぬよ!?」


「生きて帰ったろうが…」


ガンダーマンはキングフレイムドラゴンが現れてより、全ての戦いに一人で参加しヤツに挑み続けていた。そしてその都度信じられないくらいの重傷を負って戻ってきて、治ったと思ったらまた即座に戦いに出て、そしてまた負けて…また挑んで、それをこの半年間繰り広げ続けていた。


そして遂に、その病院からも抜け出して南部の戦いに参加したと言うのだ。もうロクな医薬品も残ってないしポーションだって残ってない。真っ当な治療だって受けてない筈なのに…。


よく見ればガンダーマンの体の殆どは炭化しており、出血すら出来ずに黒く固まっている。こんな状態でなんで生きているのかさえわからない…それでもガンダーマンは歩き続け、冒険者達に何かを差し出す。


「誰か、治癒術師はいるか…」


「え?…いや、そんな傷…流石に治せないぜ…」


「俺のじゃねぇ…この子の傷を…」


「この子…?ってそれ…」


よく見れば、ガンダーマンの手の中には炭に塗れ酷い火傷を負った子供が抱き抱えられていた。が…既にその体からは熱が失せており、呼吸も感じられない。死んでいるんだ、そして今のガンダーマンにはそれを知覚するだけの感覚さえも…残っていない事を意味している。


「ガンダーマン…その子は…」


「………そうか、なら…何処か涼しいところで、埋葬してやってくれないか…、炎に巻かれてたんだ、せめて…涼を取れるところで、寝かせてやってくれ…」


「あ…ああ、けどお前は…」


「俺のは後でいい、他にも…怪我人がいるんだろ。まずはそっちの治療だ、俺のは…唾つけときゃ…治る、グッ…ゲホッ…ゴホッ…!」


「ガンダーマン…アンタ…」


椅子に座り込み、苦しそうに口の隙間から血を吐くガンダーマンを見て、シャナは思わず引っ叩いてやりそうになった。けれど我慢する…それをすれば今度こそガンダーマンが死んでしまいそうだったから。


けれど、…なんでこんな無茶をするんだと言いたい。みんな私は無茶をしているという、何日も寝ないでいたらいつか死ぬと。でも私からすれば一度も引かず、休まず、怪我を負っても折れる事なく戦うガンダーマンの方が…何百倍も無茶をしているように思えた。


「…シャナ、新しい剣を頼む。前のやつは…あの野郎を一発斬っただけでへし折れやがった、次はもっと頑丈なの用意しとけ」


「あんた…剣なしでどうやって戦ったんだい…」


「素手に決まってんだろ…」


「馬鹿じゃないかい!アイツは剣さえ溶かす熱を持ってるんだよ!そんなの素手で触ったら…」


「だったら早く、武器を用意しろ。アイツが起きて…次の街を襲い始める前に、また戦いに行かなきゃならねぇんだ」


「もうやめなよ!今度こそ…本当に死ぬよ。もう治癒術師もいない、ポーションもないんだよ!?その傷だって癒せない!」


「ならこのまま行く」


「馬鹿!馬鹿だよ…アンタ」


彼がもう少し、自分の命を大切にしてくれたなら…アタシはどれだけ楽だったか。彼がもう少し俗物的であってくれたなら、アタシはどれだけ良かったか。


ガンダーマンは意固地な男だった。キングフレイムドラゴンが現れる前から誰ともパーティを組まずたった一人で魔獣を狩って、時偶にアタシが見かけて身の回りの世話をしてやらねば生活さえままならない程この男は魔獣退治に明け暮れていた。


そんな魔獣討伐大好き人間がキングフレイムドラゴンなんて言う大物を相手にしても変わらず同じ姿勢を保ち続けるのは…ある意味では分かりきっていた事だが、それでも度が過ぎている。


「ガンダーマン…アタシ達、さっきまでみんなで魔女大国に避難しようって話をしてたんだ…、アンタもそこに行けば…」


思わず、話をしてしまう。さっきまで自分が反対していた言葉を彼に投げかけてしまう。どんな返答を期待していたのか、どんな反応を期待していたのか、その心は自分にさえ分からない。だが意固地になる彼に対して…少し意地悪な心が出てしまったシャナは彼に魔女大国の話をする。


魔女大国…このカストリア大陸、いやディオスクロア文明圏に於ける絶対の象徴。八千年前から不老を貫く魔術を使い地上に君臨せし生きる神『魔女達』が統治する七つの大国。マレウスはそのうちの『デルセクト国家同盟群』と『コルスコルピ王国』と面している。


どちらも魔女が統べる国であり、このマレウスよりもずっと強力な軍事力と文明力を持つ大国だ。ここに避難すれば…或いは助かるかもしれない。


そう、彼に提案するが…。


「行きたきゃ勝手に行け、戦う気のない奴は居なくてもいい」


彼は、ある意味想像通りの反応を示す。マレウスにとって魔女大国は仮想敵国と言ってもいいくらい険悪な間柄だ、そんな魔女大国でさえ避難民を受け入れている今の状況がどれだけ悪い物なのか…彼だってわかる筈なのに。


「アンタは、行かないの?」


「行かん、どうせ魔女は助けてくれない」


「なんで、そう言い切れるの?彼女達は人類と守護者で…」


「ならなんでここに来ない。魔女は世界を救う存在だと魔女大国の連中は言う…けど今この世の終わりのような事態が起こってるのに、なんで来ないんだよ…!」


「それは…知らないよ…けど」


「何が人類の守護者だちゃんちゃらおかしいッ!奴らにとって俺らは人間じゃねぇってかッ!俺が今まで見てきた奴らは!死んで行った奴らは!魔女サマにとっては人ですらねぇってか!!……そんな連中の、力なんぞ借りんッ!!」


「でもさ!もうこうなった以上…そんな事も言ってられないんじゃ…」


「俺は!魔女大国なんぞの助けなんか借りたくない!テメェの国は…テメェで守る…ッ!」


「…………」


ガンダーマンは、意固地な男だ。だが同時に…筋は通す男だとシャナは思っている。故に嫌いなのだ、筋の通らぬ理屈を捏ねる魔女と言う存在が…。


「もういい、俺は寝る…次にキングフレイムドラゴンが動き出すまでに、体…休めねぇと」


「アンタまだそんな事…」


すると、その瞬間。協会内部が一気に騒めく、突如…協会の入り口に、新たな影が現れたからだ。それは…ある意味、私達にとって残された、唯一の希望とも呼べる存在。


「あ…ソフィアフィレインだ」


冒険者協会史上最強のチームと名高いチーム『ソフィアフィレイン』。五人のメンバーからなるそのチームの影が、協会に踏み行って来たからだ。


「…………」


黒髪の長髪、麗しい目鼻立ちをした剣士…『勇者』エース・ザ・ブレイブを筆頭に背後には『魔術師』ケイト・バルベーロウ、『戦士』アレス・フォルティトゥド、『商人』ロレンツォ・リュディア、『僧侶』ヒンメルフェルト・ケントニス…。誰も彼も皆伝説と呼ぶに相応しい力を持った冒険者達。


四ツ字冒険者と殆どが死に、マレウス最強の騎士が死んだ今。間違いなくマレウス最強の存在と言っても過言ではない彼らが…涼しい顔をして協会を歩き、カウンターに向かっている。


誰もが呆気に取られる。だって彼等は…今この場に於いて、誰もが傷を負い絶望する状況において、傷も負わず…悠然と歩いているからだ。


「え、エース…」


「…………」


シャナが思わず声をかけるもエースはそれを無視して協会の依頼受付カウンターに向かい、一枚の紙を差し出し。


「西部農村にて出されていた依頼ロックバード5頭の討伐、完了した。依頼達成報酬をもらいたい」


「え………?」


エースの言葉に、皆唖然とする。シャナも受付嬢も他の冒険者も全員唖然とする。ロックバードって…協会指定危険度Eランクの魔獣?それもキングフレイムドラゴンの被害がない西部で…依頼?


「え?…あの、エースさん…貴方…今その依頼を?」


「……報酬を」


「あ、はい…依頼達成報酬銀貨二十枚になります……」


「ん、これで路銀は手に入った。暫くソフィアフィレインは休養期間に入る、皆次の依頼に備えて体を休めて…」


「おい待てやエース…ッ!」


思わずガンダーマンが立ち上がる、マレウス最強にしてキングフレイムドラゴンに匹敵する存在であるソフィアフィレインが、安全な西部で初心者が受けるような依頼を受けて金を稼いでいた事実に憤慨したからだ。


ズタボロの体を引きずり立ち上がった彼はエースの前に立つが、エースは涼しい顔でチラリと視線を向け。


「なにか?」


「何かじゃねぇよ…お前、見かけねぇと思ったら…西部でそんなカスみたいな依頼受けてやがったのか!」


「冒険者には依頼を自由に受ける権利がある、咎められる謂れはない」


「お前…状況が分かってんのか!?キングフレイムドラゴンが暴れまわってるんだぞ!?お前らがサボってる間に!何人死んだかわかってんのか!」


「私達が居ないから死んだのではない、魔獣に殺されただけだ」


「昨日!南部でキングフレイムドラゴンが現れて!七千人近い冒険者が死んだ!」


「そうか」


「街も一つ消えた!住民は残らず死んだ!」


「そうか」


「お前らなら…止められたんじゃねぇのか…!お前らが戦ってりゃ!死人が少しでも減ったんじゃないのか!?」


「さぁな、依頼を受けていないから分からない」


「ッッ……テメェ…このクソ野郎ォッ!!」


「待ってガンダーマンッ!」


咄嗟に殴りかかろうとするガンダーマンの体に抱きついて彼を止める。彼の怒りは最もだ、力ある存在が危機を前にして無視を決め込み、剰え悪びれる様子もなく無表情を貫いているんだ。怒りたくもなる…彼らのせいでが死んだわけではないにせよ、それでも思う…彼らならと、だからこそ怒るのだ。


「あー…ガンダーマン君?君の怒りは最もだけど…私達の事情も汲んでくれないかなぁ」


「ケイト先輩…あんた今マレウスで一番強い魔術師って呼ばれてんだろ!?そんなアンタが!何好き勝手やってんだよ!」


「とは言いますけど私も一応ソフィアフィレインのメンバーとしてエースさんに従う義務があるわけですし…」


「お為ごかしが聞きたいんじゃねぇんだよ俺は!」


「ひぃん、怖い」


「お前らがなッ、お前らが戦ってりゃ…死なずに済んだ奴らが…どれだけ…ッ!ぐふッ!」


ボタボタとガンダーマンの口から血が垂れ、彼の体が崩れる。まずい、元々死にかけの体が余計死に近づいた!今ここで彼を失うわけには…ッ!


「落ち着いてくれ、ガンダーマン…怒るのは分かる。だが今は落ち着け」


「あんた…ヒンメルフェルト先輩」


「シャナ、彼を椅子に座らせて。私が彼を治癒する」


「は、はい!」


すると、僧侶服を着た金髪の男性が…『僧侶』ヒンメルフェルトがガンダーマンの体を抑え、治癒魔術を行使し始める。


「『セイントカデンツァ』…ガンダーマン君、エースもケイトも悪気があるわけじゃないんだ」


「悪気がなけりゃ…何千人だって見殺しにしていいのかよ…。俺達は…冒険者だろ…」


「君の言う通りだ、だが許してくれ…エースもケイトも、もう衰えが見え始めている。私にもだ、君が思うより…私達はもう強くない」


「関係あるか、そんなの…テメェらよりずっと老齢の冒険者やヒョロヒョロの新米だって戦って、死んでんだぞ…!臆病になるなとは言わない!けど…汲んでやれよ、強者として…弱者の願いを…!」


「そうだね…」


ヒンメルフェルトは冒険者の中でも屈指の治癒魔術の使い手だ。最上位現代治癒魔術『セイントカデンツァ』にて炭化した彼の腕や体、ズタボロの臓器を次々と治していく。その腕前に感嘆している間に…彼の体は元通りに回復して…。


「私達は手伝えない、だがこうして君の命を繋ぎ止めることはできる…だから」


「お前らも魔女と同じだ、力を持ってる奴が力を持ってない奴の前に立って戦わなきゃいけないのに…その役目に殉じない奴は、強くなる資格戦う資格もねぇ。とっとと失せやがれ…ッ!」


「ちょっと!ガンダーマン!あんたねぇ!仮にも治してもらったんだから礼くらい言いな!」


「いてっ…シャナ!」


体が治ったのを確認した後、シャナはガンダーマンの頭を引っ叩く、こいつは本当に…。


「ははは、いいんだよシャナ。ガンダーマンは私達を罵る資格がある」


「すみません…ヒンメルフェルトさん」


「……ヒンメルフェルト、そろそろ行くぞ。休養を終えたらまた依頼に出る…準備をしておけ」


「…分かったよ、エース」


そういうなりエースさんはケイトさんやヒンメルフェルトさんを連れて協会を出て行ってしまう。まるで今この惨状が目に見えていないかのようだ…。それを前に最早ガンダーマンは何も言わず…。


ただただ、力無く…項垂れる。


「……………なんでだよ、エース…ケイト先輩、あんたら…なんで冒険者なんかやってんだよ」


「ガンダーマン……」


「シャナ、俺達は冒険者だ。冒険者は戦えない人達を魔獣の脅威から守る為にいる、それが唯一の存在意義であり、そうすることで金をもらって生きている…。なのにアイツらは」


「気にしないで、エースさんは元々変な人だし…最初からキングフレイムドラゴンになんか、関わるつもりがないんだよ」


「……そのせいで、人が大勢死んだ。けど…」


すると彼は立ち上がり、火傷によって死んだ子供を悲しそうな目で見つめ、自分の目元を、手で覆う。


「それは俺も同じだ…俺がもっと強けりゃ、誰も死なせずに済んだってのに…」


彼の頬に涙が伝う。…ガンダーマンはキングフレイムドラゴン出現時からずっとずっと、戦い続けている。街に現れたと言う知らせを聞けば直ぐに向かってキングフレイムドラゴンに飛びかかり戦いを挑み、いつも半死半生になるまで戦い続ける。


それは彼がキングフレイムドラゴンを倒したいからではない。守りたいからなんだ、戦えない人を戦える自分が守らなきゃいけないと考えているからだ。それが出来ていない時点で…彼はもう自分で自分を許せないんだ。


「…あんたはよくやってるよ、ガンダーマン」


「シャナ…ありがとうな、ずっと俺の手伝いをしてくれてよ…」


「感傷的にならないで…。あんたが湿っぽいこと言ってるのきもいよ」


「酷いだろそりゃ…」


「にひひ、調子戻ってきた?ならやるよ…まだキングフレイムドラゴンとやるんでしょ?なら私はあんたに付き合うよ。例えこの国から誰も居なくなっても」


「そうかい、好きにしな…。おう、お前ら」


ふと、ガンダーマンは周りの冒険者達を一瞥する。ここにいる冒険者達は南部の作戦に参加しなかった人達だ、剰え先程まで逃げようとしていた臆病者だ。そいつらを前にガンダーマンは…フッと軽く笑い。


「また明日、会おうぜ」


「お…おう」


「じゃあな、帰って寝るよ」


微笑み、手を振り、言葉をかけるんだ。戦わなかったことや逃げようとすることを責めるのではなく、まるで生きていてくれることに感謝する様に。そうして立ち去る彼の背中を見て…冒険者達は。


「……戦える奴が、戦えない奴を…か」


「そう言えば俺達冒険者は、そのためにいるんだったな」


「…………」


皆、手元の酒を見て…打ちひしがれたように、項垂れる。ガンダーマンの在り方は、みんなにとってはあまりにも…眩しすぎるんだ。けど、悪く思う必要はないと…シャナは思う。


「あんた達は、ガンダーマンにとって…帰ってくる場所なんだよ」


「え?」


ガンダーマンは、死にそうな体を引きずってここまで帰ってきた。それはここに行けば助かると考えたからではなく、ここが彼の居場所だからだ…。


「ここにみんながいるから、ガンダーマンはここに帰ってくる。みんなは…ガンダーマンにとって、帰る場所なんだ…だからせめて、最後まで彼を…見捨てないであげてくれるかな」


「……でも俺達、何も出来ないし」


「いいんだよ…それは、私もきっと同じだから」


それだけ言い残すと、シャナは大きく手を振ってガンダーマンを追いかける。そしてそれを見送る冒険者達は…静かに、項垂れることしか出来なかった…。


ただ、己が今生きていることだけを噛み締めて。


………………………………………………………………………


「シャナ、飯」


「あんたねぇ、勝手に人ん家上がり込んで勝手に散らかして、剰え飯要求出来るなんてどんな神経してんのさ」


そして二人が帰ったのはシャナの自宅だ。というより臨時で間借りしているだけの家でここの持ち主は遠の昔に国外へ逃げたらしい。多忙を極めるシャナにとって寝に帰ってくるだけのこの家に…何故かいつもガンダーマンは上がり込む。


彼にも彼の家があるのだが彼は一度もそこに帰っていない、いつもシャナの家に来る。そしてシャナもまた…それを拒絶しない。


「はい、キャベツのスープとパンね」


「…肉はないのか?」


「今はどこも食料が足りてないの。みんな避難して食糧の自給自足が出来てない、少ない食糧を分け合うしかないの」


「ん…なら早くキングフレイムドラゴンを倒さないとな」


そう言って彼はパンをむしゃむしゃと食べ始める。本当なら彼が一番のご馳走を食べるべきなのだが…現状はそうもいかない。


そして、ガンダーマンもまた文句を言わずに無言で食事を続ける。まぁ元々貧相な食事しかしてこなかった彼にとってはあまり関係ない事か。お金が入っても一晩で使い切って私の家に転がり込んでくるんだから…。


「ん、美味かった」


「そりゃどうも。で?これからどうする?」


「鍛錬」


「あんたさっきまで死にかけてたでしょ!?」


「今はもう違う、ちょっとでも強くならねぇとキングフレイムドラゴンを倒せないからな」


そういうなりガンダーマンは食事を終えた後、そのまま空の食器を台所まで持っていきつつ上着を脱いで外へと向かう。


それに対してシャナもまた続くように手身近なタオルや水を持って彼の後を追う。


「……ねぇ、ガンダーマン」


「なんだよ」


「ほんとに、人類はキングフレイムドラゴンを倒せると思う?」


「知らん、考えた事もない。居るから殺す、それだけだろ」


家の外に私が作った鍛錬場。木組の人形や動きやすいよう整地した庭先に立った彼は軽く拳をポキポキ鳴らしながら…。


「ふんっ!」


軽く気合を入れ、魔力を滲み出させると共にそれを体外で固める。魔力防壁を人の形に変えて目の前に顕現させたのだ。しかもその魔力体を動かし…自分に向けて殴りかからせた。


これがガンダーマンの鍛錬法だ。魔力防壁を人の形に変えそれを動かし、組み手の相手にする。それって両手でジャンケンするようなものじゃないかとも思うが…彼曰く二倍の鍛錬成果が出るらしい、詳しくは知らないが。


「ッ!はぁっ!セイッ!」


「……あんたは十分化け物の領域にいると思うよ、ガンダーマン。死んだマレウス最強の騎士よりも。ひょっとしたらエース・ザ・ブレイヴよりも…今のあんたは強いかもしれない」


「フンッ!だぁッ!」


「けど、そんなあんたでも手も足も出ないんだよ。あんたより強い奴なんて私は見た事もない…なのにここまで差があるなら、キングフレイムドラゴンはそもそも…倒す事もできないんじゃ…」


「だぁぁああああああ!!」


…ガンダーマンは私の見てきた中で最強の男だ。少なくとも私の見てきた世界の中では最強だ、彼よりも強い奴はいないと信じられるくらいにはガンダーマンは強い。


しかし、それでも勝てない。キングフレイムドラゴンは倒せない。ガンダーマンでも敵わないなら…そもそも倒す事はできないんじゃないか。彼と一緒にいるとそんな弱音ばかり出てきてしまう。


……かき集めた冒険者もみんな死んだし、物資もほとんど残ってない。もう何をやっても無駄じゃないのかな。


「どうしてアンタは、絶望しないの?」


「知らん、俺が俺である限り、俺は俺の仕事をする。絶望が横入りする隙間はねぇよ」


「……そっか」


「お前もくだらねぇこと言ってねぇで早く武器を用意しろ、次はキングフレイムドラゴン熱にも耐えられる物を」


「…ははは、そんなのあるのかな」


前回の作戦では、王国に頼み込んで物資を援助してもらっていたがそれももう期待出来そうにない。もうマレウスをひっくり返して全部出した後なんだ、もう武器どころか医薬品も残ってない。


後はもう魔女大国に頼るしか…でも。


「……もしかしたら、アルクカースにならあるかも」


「アルクカースね、フンッ…くだらねぇ。周りの小国にばっか戦争ふっかける弱いもの虐め大好き集団だろ。あんな奴らの作った武器なんぞ信用出来ん」


「だよねぇ…あんたならそう言うようねぇ」


実際、アルクカースに援助を求め、アジメクに助けを求めれば或いはなんとかなるかしれない。そこで援助を求めたところアジメクはなんとかポーションを届けてくれてはいるが…アルクカースに関しては無反応だ。


曰く最近魔女アルクトゥルスの様子がおかしいらしく、他国に対して援助をしてる場合ではないのだとか。つまり言ってはみたものアルクカースに助けなんて望めない。


いや、魔女の様子がおかしいのはどこもそうか。フォーマルハウトは引きこもりプロキオンは虚言を呟くようになり、まるで見えない何かに耳元で囁かれているように…徐々に狂い始めている。そこにキングフレイムドラゴンだ…まるで末世だ。


「はぁ…どうすればいいの」


武器がいる、ガンダーマンを戦わせるには武器と物資がいる。けれどそのどちらも無い…もう使えるものは粗方使い尽くした。あと使えるものと言えば…なんだ、何がある。


「魔女大国の力は借りねぇ…これは俺達、人間の手で終わらせるべき戦いなんだ!」


決意に燃えるガンダーマン。しかし…それを叶える方法は……。


『素晴らしい…ッ!』


「は?」


「素晴らしい…素晴らしいよガンダーマン君!君の決意と咆哮は…私の胸に届いたッ!」


その時、突如私達の家の庭に踏み込む影が現れる。そいつは白の髪と赤の瞳を持った豪勢な服を着た優男だった。このマレウスにおいて未だ贅沢な格好が出来る人間がいたことに驚きだが…それ以上に。


(あの見た目、白い髪に赤い瞳って…ネビュラマキュラ王家の!?)


この国の王家ネビュラマキュラ家の人間は大々白い髪と赤い瞳を持って生まれてくると言う。その血を一滴でも受け継げばその兆候が現れると言われるほどに確かな特徴を持った男が、今ここにこうしている。


しかし彼は…違う。以前謁見した国王ラワー・ネビュラマキュラとは顔が違う。なら誰だ?


「誰だよテメェ…国王か?」


「いや、ラワー・ネビュラマキュラは私の兄だ。私は国王の弟フィロラオス・ネビュラマキュラ…一応マレウスの秘密部隊の長官をやっている身なんだ」


「はあ?」


フィロラオスと名乗った彼はガンダーマンに近寄ってくるなり目を輝かせ鍛錬中のガンダーマンの手を取り。


「魔女大国の力を借りず人の力だけでこの難局を乗り越えようと言う気概を持った男を…私は探していたんだ!」


「俺はテメェなんぞお呼びじゃねぇ、鍛錬の邪魔だ、どっか行って──」


と、ガンダーマンがフィロラオスの手を払い除け突き飛ばそうときた瞬間のことだった。フィロラオスに手が触れる…その一瞬前に、外から飛んで来た影がガンダーマンの手を捻り上げ…投げ飛ばしたのだ。


「なッ!?」


「言っただろう、彼は国王の弟…要人だよ?君のような粗野な人間が乱暴していい相手じゃ無いのさ」


「ッ…テメェ!誰だ!」


現れた青年は、これまた貴族風の格好をした黒髪の男だ。彼は片眼鏡を掛け直しながらフィロラオスを守るように立つ。


しかし…アイツ、ガンダーマンを投げ飛ばすなんて…。


「おいおい、ジズ。やめてくれ、彼に乱暴しないでくれ」


「申し訳ありません、フィロラオス様。しかし貴方の身辺警護を任されている身としては…看過できませんよ」


「ジズ…?」


黒髪の青年はジズ…と呼ばれている。ジズって確か…裏社会でも有名な殺し屋?最近『空魔』…なんて呼ばれ方をしてるとか言う、アイツ?いやいやこんなところに空魔ジズがいるわけないか。多分単に名前が同じなだけ…。


「ジズ…ジズ、…聞かない名前だな、まだそんな奴が生き残ってたとはな」


「お、おや?私の名前を知らない…。これでも結構有名なつもりだったんだけど…」


「知らん、と言うかよくも投げ飛ばしてくれたな…ッ!テメェッッ!!」


「ちょっ!?喧嘩しに来たんじゃ無いんですがねぇ!」


ブンブンと剛腕を振り回してジズに殴りかかるガンダーマン、それをユラユラと揺らめきながらもなんとか避けるジズ。なんか急に喧嘩が始まってしまった。


「テメェ中々強いじゃねぇか!ならなんでキングフレイムドラゴンに挑まなかった!」


「冗談じゃない、私は人専門なんですよ」


「じゃあ死ね!」


「ははは、倫理観私以下」


「やめたまえジズ!ガンダーマン君も!私はキングフレイムドラゴン討伐の件について話に来たんだ!」


その瞬間、フィロラオスの一喝を受け…二人とも止まる。ガンダーマンの拳がジズの鼻先で止まり、ジズの手にいつのまにか握られていた短剣がジズの腹の先で止まり…二人の目がフィロラオスを向く。


「失礼、ガンダーマン君。ジズは私の謂わばビジネスパートナーのようなものでね、国の憲兵が機能していない以上彼を身辺警護につけるしかなかったんだが…彼もこの手の仕事は門外漢でね。少々やりすぎた」


「そう言うこと、お分かりいただけましたか?ガンダーマンさん」


「テメェは好かん…だが、フィロラオスとか言ったな。お前の話には興味がある…キングフレイムドラゴン討伐の件だと?」


ジズに対して厳しい視線を向けながらも、ガンダーマンは意識をフィロラオスへ移し私から受け取った手拭いで汗を拭き始め。


「国の人間だったな、俺を止めに来たか?それとも王国軍へのスカウトか?最初に言っておくがどちらも受けねぇよ」


「違うさ、君の話は常々よく聞いている。キングフレイムドラゴンに何度も挑みそれでも折れぬ不屈の闘士だとね、君の精神力は得難いもの…そしてその精神性を支えるのが現状の立ち位置だと言うのなら、これは無理に動かさない方がいい」


「ならなんだ」


「無論、援護に来た」


「援護…?」


するとフィロラオスは指を鳴らしジズに書簡を取り出させ、それを手に…目を伏せる。


「私もマレウスと言う国を案ずる者の一人だ、マレウスと言う国を愛する愛国者だ。愛する祖国が悍ましい怪物に蹂躙されるのを…黙って見てられない」


「ならなんでもっと早くに動かなかった」


「動いていたさ、だが私は君程に強くは無い…そりゃあ魔術と武術の心得もあるが兄ラワーには及ばない。きっと私が戦地に出てもすぐに死ぬ…それが分かっていたから、私はずっと秘密裏に物資を集めていた」


「物資…?」


「言ったろ?とある秘密部隊の出身だと。その権限を使って世界中から役に立つものを集めていた、アルクカース製の武器…帝国製の魔力機構、食糧も医薬品もね…ただ、私一人で集められる範囲には限界があった、継続して君達の支援をする事は無理だ」


「そんなに少ないのか?」


「ああ、はっきり言って一度の戦闘で使い切ってしまうくらい少ない、そして私の持つ物資が今マレウスに残された最後の力とも呼べるくらい…今マレウスは弱り切っている。これを使い切ればもう人類に勝ちの目はなくなる。だからこそ待ち続け、探し続けたんだ…どれだけ祖国が破壊されようとも、キングフレイムドラゴンに勝ち得る存在の到来を…そして、ようやく見つけた」


「それが…俺ってか?」


「その通りだ、もう王国には物資はない。冒険者協会にもない。これ以上キングフレイムドラゴンに抗う力はどこにも無い。…だからこそ、言わせてくれ!ガンダーマン君!」


書簡を手にフィロラオスは吠える、ようやく見つけた『マレウスの英雄』を前に。


「私と共に!戦ってくれ!いや私も一緒に戦わせてくれ!これから起こる…キングフレイムドラゴンとの最終決戦の、主軸を担ってほしい!」


「………………」


そしてその咆哮を前に、ガンダーマンは…。


「…やるなら、最後まで付き合ってもらうぞ。途中で逃げるのはナシだ」


手を取る、寧ろ待ってましたとばかりにフィロラオスの手を取り強く握る。最終決戦に望むなら…この悲劇の連鎖を終わらせられるなら、なんでもするとばかりに。


そんな固く握られる握手を前に私は…シャナは、何かを感じる。


風向きの…変化を。


………………………………………………………


「ここが私達の秘密基地さ、かっこいいだろ?」


「フンッ…」


そして、フィロラオスと手を組むことになったガンダーマンはそのままフィロラオスに連れられ馬車に乗り、街の外に出て…平原のど真ん中に打ち立てられたとある砦に招かれていた。


地図にも載っていない秘密の砦。ひっそりと立つ古城を秘密の基地として利用していたフィロラオスの元には、多くの部下たちが忙しなく動き回っていた。


そこへ連れてこられたガンダーマンとなんとなく同行したシャナは、こうして動き回る人を見てまだキングフレイムドラゴンに抗う人々がこんなにいた事に驚きつつ、古城のエントランスに置かれた臨時作戦室にて立ち尽くす。


「それで、フィロラオス…キングフレイムドラゴンとの最終決戦って言ったが、つまり倒せる算段があると?」


「いや、まだない。だが一つ分かる事があるとするなら次の一戦で勝負が決まらなければ我々が終わりである事だけがわかっている」


そう言いながらフィロラオスは近くのテーブルに地図を置き、そこに赤いインクで線を書き足し始める。


「こりゃなんだ?」


「キングフレイムドラゴンの移動経路さ、被害にあった街を点で記し、それを線で繋ぐ事である程度キングフレイムドラゴンの移動場所を把握しているんだ、そしてこれをつけていて分かった事が一つある」


「ジグザグだな」


「ああ、彼ら東部ライデン火山から出現後一旦北部に向かって直進した後海岸沿いまで到達後若干方角を変え転身、今度は南部に向かって直進、また海岸沿いに到達後方向転換…を繰り返し、まるで虱潰しにするようにマレウスを横断しているんだ」


「……ッ」


ジグザグと赤い線が引かれるマレウスの地図を見て、シャナは思わず口を手で覆う。吐き気を催したからだ、あれほどの殺意を持った存在が…まるで子供がクレヨンで紙を塗り潰すようにしてマレウスを移動し、街を破壊して行っている事実に言い知れない気持ち悪さを感じた。


まるで一つたりとも漏らす事なく人類を絶滅させようとしているとしか思えない。理性も知性もない怪物と思われていたキングフレイムドラゴンの、知性と…そして言いしれない悪意と害意を感じ、身の毛がよだつ。このまま放置すればマレウスはこの赤い線によって塗り潰される…。


「……概ね俺が行った場所と同じだ。これは間違いないかもな」


「ああ、そしてキングフレイムドラゴンは東部の破壊を終え今ようやく南部に差し掛かりつつある、それが君の前回の戦いだ」


「そうだな」


「そしてそれが意味するのは、これから被害は洒落にならない規模で膨れ上がるという事だ」


こう言ってはなんだが東部に住まう人間は少ない、街の数も少ない、それでもあれだけの被害が出たのはキングフレイムドラゴンが一人たりとも残さず暴れ回ったから。しかしその東部の破壊を終え赤い線は今北部と南部に差し掛かりつつある。


北部と南部は東部と違って人口も多い、街の数も多い、完全なる人の領域だ。もしここにキングフレイムドラゴンの破壊がもたらされれば…。


「私はこのままキングフレイムドラゴンが一往復するだけで、今までの被害の五倍から七倍の被害が出る物と計算している」


「……是が非でも止めないとな」


「それだけじゃない、これがキングフレイムドラゴンに適用されるかはわからないが魔獣には人の集まる街を遠方からでも把握出来る能力があるのは知っているね?」


「冒険者だからな、知ってる」


魔獣はどうやっているかはわからないが人の集まる街を遠方から把握しそちらに向けて進んでくる習性がある。全ての個体がそうではない物の魔獣は確実に人に惹かれる習性がある。


それを前置きとした上で、フィロラオスは地図の一点を指差す。それは今後キングフレイムドラゴンが通るであろう道、今南部から切り返し北部に向かうキングフレイムドラゴンの進行方向の真横にある地点を…指差すのだ。


そこは……。


「もし奴が、このまま北部に向かう最中にこの街を見つけた場合。奴は進行方向を変えてでもこの街を襲う可能性が非常に高いと見られている」


「サイディリアル…」


王都サイディリアルがキングフレイムドラゴンの進行方向の真横にある。それを見たガンダーマンは歴戦の直感とキングフレイムドラゴンとの長い戦闘経験から答えを導き出す。


確実に奴は王都を襲う…。例えこのジグザグとした進行方向を歪めてでも奴は王都を襲いにくる。


「来るぞ、確実に」


「……君はそう思うか、ならそうなるだろう」


「ちょっと!王都には今…マレウス国民の何割もの人が集まってるのよ!?」


王都は元々マレウス屈指の人口を持つ街、それに加え今は東部・北部・南部の難民や負傷した王国兵・冒険者の療養所としても働いている。今王都にいる人の数は歴史上類を見ないほどになっているのだ。


もしここにキングフレイムドラゴンが来たら…。


「だから言ってるんだ、奴は確実に王都を狙い…そしてその全てを一人残らず…誰も逃さず、全員殺すと」


「ッ………」


シャナの脳裏に過るのは、燃え上がる王都サイディリアルと、黒煙に満たされた空と、その向こうで目を紅に輝かせ屹立し…王都の民を一人残らず虐殺するキングフレイムドラゴンの姿。


易々と想像出来る、何せこれは今このまま進めば確実に迎える未来なのだから。


「サイディリアルにいる人だけじゃない、今この状況でもマレウスが持っているのはサイディリアルの王政府が踏ん張っているからだ、各地の街に支援を行い、故郷を失った人たちを奮い立たせ、逃げる者には難民の申請を行い…ギリギリで踏み留めているんだ。これが失われれば…」


「マレウスは今度こそ終わり…か」


「これが実現すれば死者の数は測定も出来ないほどになる。そして…マレウスという国は滅ぶ、世界中の非魔女国家の希望の星が消えて潰える。サイディリアルの死者だけじゃ済まない、マレウスの終わりだけじゃ測れない。確実に…世界が変わる、魔女に従属しない者達にとって生きづらく、希望のない世界が訪れる」


「…………」


流石にガンダーマンも肝が冷える。サイディリアルが襲われればマレウスは終わり、世界中の非魔女国家が希望を失う。魔女に従属せずともやっていけると言う先例が消えて無くなってしまう。その絶望は筆舌に尽くし難いだろう。


終わる…非魔女国家という概念が…。何がなんでも止めなければならない、奴を…ここで。


「だからこそ最終決戦なのだ、勝てるから最終決戦じゃない…負ければ終わるから最終決戦なんだ…!次の敗北は即ちマレウスの終焉と数多の国民の死によって飾られる。絶対に負けちゃいけないんだよ…ガンダーマン君」


「…ぅ………」


「だがここに至るまで、マレウスは戦う力を失った…これを止められる余力は、マレウスには残ってない」


「……………」


「だから、…ここで止める。私が持つ力を全て注ぎ込みここを奴の墓標にする」


トン…と音を立てフィロラオスのペンが地図を突く、そこは南部と中部の国境近くの街、奴が確実に訪れる地点…風街イストリア。ここで奴を迎え撃ち、終わらせるというのだ…この戦いを。


「…そこは俺の次の目的地だ」


「だろうね、私達は既にここに人員を配置している。迎え撃つためのね」


「人員?いるのか?」


「ああ、君は知っているかは知らないが…私はマレフィカルムと言う組織に顔が利いてね。そこから幾らか人員を割いてもらった」


「マレフィカルム…?」


聞いたことのない組織だとガンダーマンは眉をひそめると、フィロラオス背後にいるジズがクスリと笑い。


「どう言う組織か言わないと言うことは君がそれについて把握する必要がないからですよ。まぁマレフィカルム側としてもマレウスに無くなられては困るのです、それが総帥のご判断ですので我々も精一杯戦いますよ」


「お前も戦うのか?」


「だから獣狩りは私の専門外と言ったろう。私達が恵むのは人員だけ、私は出ない。…やってられるか、あんなのと真っ向切って戦うなんて」


「まぁ期待してなかったから別に良いが」


「…………」


ガンダーマンはジズに興味を失ったのかプイッと地図の方を向いて考え込んでしまう。その態度にジズは目元をピクピク動かし怒りを抑え込みつつ、直ぐに作り物の笑顔を貼り付ける。


「と言ってマレフィカルム主戦級は今国外に出てる、唯一主戦力と言えるジズも対人専門で巨大な魔獣との戦いには向いていない」


「……そこで、その穴を俺が埋めるのか」


「ああ、君の強さを見込んだから誘った。勿論…武器も多数用意してある、好きなのを選べ」


そう言って運び込まれて来たのは…どれも超一級の武器達だ。剣も槍も弓もある…そしてその全てが魔石で作られた最高級品。これなら…とシャナが息を呑むと、ガンダーマンはシャナを見て。


「おいシャナ、お前…どれがいいと思う」


「へ?アタシ?」


「お前が選べ」


とか言ってくるのだ、なので私は取り敢えず目についた大剣を手に取り…。


「こ、これなんかいいんじゃないのか?魔力をよく通す材質で作られてるから刃に魔力を通せるし」


「それでいいんだな…俺の武器は」


「……………」


剣を手に持ちながら、私はガンダーマンの目を見る。そこで私はようやくその意図に気がつく。ガンダーマンは…どれを使うか悩んで私に聞いているんじゃない。


私を信頼して、私が選んだ物ならばと思ってくれているから…私に選ばせているんだ。


「ま、待って!ちゃんと選ぶ!」


「ああ、分かった」


「えっと…」


真面目に選ぼう、次の戦いはガンダーマンにとって重要な戦い。ここで負ければ次はない、なら負けてはいけない、前回のように武器が先に限界を迎えて…なんてこと、あってはならないのだ。


私は剣や槍を手に持ち一つ一つ吟味する。どれもいい物だ…だが。


(ダメだ、ここにはない。どれも…ガンダーマンの領域に達してない)


どれもこれもガンダーマンという最強の男に匹敵する物がない。武器とはその性質上誰が持っても強い事が求められ、この武器達もその例に漏れず基本誰が持っても強いように出来ている。


だが残念なことにガンダーマンは特別な男だ、その想定される『誰でも』の中に入らない男だ。だからこそ、彼の膂力に耐えられるか怪しいところがある。


何より、キングフレイムドラゴンにダメージを与えるとなると…普遍的な物ではダメだ、唯一無二のガンダーマンの為の武器が要る。


「フィロラオス様…武器の他に、武器の材料になるものは」


「当然ある、だが…どうするつもりだ」


「私がここにある武器を改造してガンダーマン専用の物に作り替えます」


「君、鍛冶の経験は」


「ありません、けどどの鍛冶屋よりもガンダーマンという男を知っています。私が一週間…いや、三日でガンダーマン専用の武器を作ります!」


「…分かった、君に任せる。それでいいね?ガンダーマン」


「ああ、シャナが用意したもので戦う」


「ありがとう!…絶対、作ってみせるから!」


私は技術屋だ、作れないものはない。そりゃあ剣を打つ事も刃を研ぐ事も出来ないけれど、それでもガンダーマンという男を見続け、支え続け、共に居続けたのは私だけだ。


なら、作れるはずだ…彼のための武器が。


そうして私は一つの武器を手にフィロラオス様が指定した資材室へと走る、キングフレイムドラゴンが次に動き出すまでに…やらないと!




「良い助手をお持ちですね、ガンダーマン君」


「助手じゃねぇ、相棒だ」


そして残されたガンダーマンとフィロラオス、そしてジズはチラリと視線だけでシャナの背中を追い、再び会議に戻る。


「では、キングフレイムドラゴンが次に動き出した時のために休養を。あなたがマレウス最後の希望ですので」


「ああ、分かって────」


しかし…、それはなんの偶然か。或いは計った事だったのか、今となっては分からないことだが。


動いたのだ、事態が…突然に。


「フィロラオス様!大変です!」


突如として扉を跳ね開けて入ってきた部下が、いきなり…こういうのだ。


「キングフレイムドラゴンが風街イストリアに迫っています!襲撃が目の前だと!今しがた報告が!」


「なんだとッ!?」


「ッ…!」


それはキングフレイムドラゴン襲来の報告、だが…。


「バカな!奴はまだ休眠状態の筈!それに移動が速すぎる!何かの間違いじゃないのか!?」


「わ、分かりません!しかし事実そういう報告が…」


「………野郎、寝てないんだ…!」


ガンダーマンは察知した、今の今までキングフレイムドラゴンを見てきたからこそ分かる、奴の思考が。


キングフレイムドラゴンは獣じゃない、立派な知性を持った一人の怪物だ。きちんと計画を立て、人間達が嫌がる事を進んでやるタイプの奴だ。そんな奴だからこそ理解したのだ…人類が最後の反撃を企てている事を、そして自分が研究され尽くしている事を。


そこを逆手にとった、休眠状態を挟まずいつもよりも数倍早い速度で移動した、人類という生き物が『既知』の物を恐れず『未知』に弱い性質を逆手に取って、奴にとって一度きりしか使えない狸寝入りによる不意打ち攻撃。俺達が作戦を練るように、奴もまた作戦を練っていたのだ。


(そこまでするか…!キングフレイムドラゴン!)


ただでさえ、奴は強力無比な力を持つ。力のままに暴れただけでマレウスなんか三日で滅ぼせる。だというのに奴はチマチマと虱潰しに人間を殺し、剰えその希望を打ち砕き踏み潰す為だけに作戦まで立ててくる。


『徹底』…その二文字がキングフレイムドラゴンの影に重なる。最も容易く人類を潰せる力を持ちながら、確実を欲して頭まで働かせるアイツの徹底ぶりに…ガンダーマンは初めて恐怖を覚えた。


「あ…ああ!ダメだ!ダメだダメだダメだ!まだ迎え撃つ支度が出来てない!ジズ!」


「もう既にマレフィカルムはイストリアに陣取っている、今襲撃を受ければ陣営は壊滅…終わるねこれは…!かなりやばいよ!」


「チッ!」


ガンダーマンはフィロラオスが用意した武器の山を一瞥し…、先程シャナが手に取った剣を手に取り。


「出る!今すぐイストリアに向かう!」


「なっ!?ダメだ!今出ても勝ち目が…」


「ここで出なきゃ次はないんだろ!なら行くしかない!」


「うっ、ジズ!」


「はぁ、だから私は人専門だと…いや、ここまで来たら食い扶持に関わるか。仕方ない!ガンダーマン!私について来い!イストリアに向かう!」


「やる気出すなら早く出してろ!」


「このォ…お前覚えとけよ、いつか殺してやるからな…!」


走り出すガンダーマンとジズ、ここからイストリアまで距離がある。だが…今行かなければ人類が争うために残された最後の手段が消えて無くなってしまう。是が非でも…守らなきゃいけない。


最後の芽を、キングフレイムドラゴンに抗うための人類最後の芽を!絶対に!


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